南シナ海にアメリカを呼びこむという失敗
を犯してしまった中国だが、一番まずいことはここにアメリカ空母を常駐させることだろう。
中国が尖閣に手出しできないのは、日本が執拗にスクランブルすることで、この海域の制空権を確保しているからである。
中国は自ら設定した防空識別圏を維持するためのスクランブルができていない。
数量で勝っているはずの戦闘機だが常時スクランブルを掛けられるほどの性能のいい、そして品質を確保できた戦闘機はロシアから直接輸入したものに限られるという。
自国生産のパクリ戦闘機はまだまだ十分な能力を有していないらしい。
「空自のスクランブルは危険だからやめろ」と要求するようでは中国の空軍力は相当に低いと判断できる。
公船がいくら領海侵入しても空が支配できなければ、ただ庭先を横切っただけになる。
同じようなことが南シナ海でも起こる。
空母1隻でこの海域の制空権を握られてしまうようでは中国のメンツは丸つぶれだが、それが実力の差では如何ともし難い。
広い太平洋を二分してアメリカと中国のニ大国で分割支配しようと大提案
するが、こんな塩梅ではまるで空論以前の幻想に近い。
「獲らぬタヌキの皮算用」に近い。
中国は自ら定めた東シナ海の防空識別圏をちゃんと守るためのスクランブルが掛けられるようになるまでは、やはり『カタログ軍事力』にすぎない。
しかし、何時かはスクランブルが掛けられるようになるだろうが、その時の中国は怖い。
それにたいする対策を十分に考えておくべきだろう。
制空権を巡って二国が凌ぎ合えば、事は大きく危険度を増していく。
『
夕刊フジ 11月7日(土)16時56分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151107-00000006-ykf-int
米軍「制空権」獲得
空母展開&航空戦力を誇示
中国は身動き取れず
米国と中国が南シナ海を舞台に緊張状態にあるなか、「制空権」をめぐる両国の攻防からも目が離せない。
習近平国家主席率いる中国は、勝手に埋め立てた岩礁を軍事基地化して同海域を支配しようとしたが、米国は原子力空母「セオドア・ルーズベルト」を同海域にとどまらせて、精強な航空戦力を誇示して徹底対峙しているのだ。
イージス駆逐艦1隻に震え上がった「赤い帝国」は、空の戦いでも身動きが取れない状態にある。
「私の視察は、地域の平和と安定に極めて重要な役割を担っている米国の軍事力を示すものだ」
カーター米国防長官は5日、マレーシア・ボルネオ島北方の南シナ海を航行中の空母セオドア・ルーズベルトに、新型輸送機オスプレイで降り立った。
米軍が誇る戦闘機の着艦を視察した後、記者団にこう語った。
カーター氏は前日、ASEAN(東南アジア諸国連合)拡大国防相会議に出席し、「航行の自由」について、中国側と激突したばかり。
同空母は、艦載機85機、士官・兵員約3950人という「動く要塞」。
自ら乗艦することで、米軍のプレゼンスを示し、覇権を強める中国をけん制した。
軍事ジャーナリストの井上和彦氏は
★.「同空母1隻の総戦力は、ベルギーやオランダなど、ヨーロッパ中堅国の全軍事力に匹敵する」
と語った。
航空自衛隊南西航空混成団司令を務めた佐藤守・元空将(軍事評論家)も
「セオドア・ルーズベルト1隻が南シナ海に展開しているだけで、習政権はまったく身動きが取れない。
『制空権』は米軍が完全に握っている。
中国は手も足も出ないだろう」
と分析した。
「制空権」とは、その空域で敵に妨害されることなく、自由な作戦行動を可能とする軍事的支配権のことだ。
第2次世界大戦以降、一定海域を支配する「制海権」を握るためには制空権の獲得が不可欠となった。
空母は、制空権を担う航空機を前線に進出させるための運搬艦艇といえる。
セオドア・ルーズベルトには、米海軍空母航空団で最も歴史がある第1空母航空団(CVW-1)が艦載されており、
★.3000キロ以上の航続距離を持つ戦闘攻撃機「F/A-18 スーパーホーネット」、
★.最新鋭の早期警戒機「E-2Dアドバンスド・ホークアイ」
など、世界最高レベルの陣容を誇っている。
AFP通信は10月30日、同艦の甲板上で、クルーたちがスーパーホーネットの機体チェックを行っている様子を動画配信した。
米海軍はメディアを通じて、「いつでも出撃できるぞ!」とのメッセージを中国に送ったといえそうだ。
●米空母セオドア・ルーズベルト上のスーパーホーネット US crew members check Super Hornet on USS Theodore Roosevelt
2015/10/29 に公開
これに対し、中国軍は早期警戒機「KJ2000」や、同国唯一の空母「遼寧」に艦載する戦闘機「殲(J)15」などを保有しているが、いずれも、その能力や性能は不明な点が多い。
前出の井上氏は
「公表している通りの性能が出るかどうか、大いに疑問だ。
★.中国の戦闘機などは『カタログ性能』ともいわれている。
しかも、実戦経験もない」
と解説する。
といって、中国軍も指をくわえて眺めるわけではない。
前出の佐藤氏は
「中国が最近、南シナ海・パラセル(中国名・西沙)諸島のウッディー(永興)島で、戦闘機『殲11』の訓練を行ったという情報が入ってきた」
と明かした。
殲11は、ロシアのスホーイ27を輸入したり、ライセンス生産した中国の主力戦闘機。
米国や日本のF15イーグル戦闘機と互角に戦うことができるとされ、200機以上が空軍と海軍に配備されているという。
ただ、米中がにらみ合う南シナ海・スプラトリー(同・南沙)諸島を考えると、佐藤氏は
「戦闘行動半径としてはギリギリだ」
といい、中国の現空軍力では、米軍には太刀打ちできないとの見方を強調する。
「ヒゲの隊長」の愛称で知られ、防衛政策に精通する自民党の佐藤正久参院議員も5月23日、ツイッターで以下のように指摘している
《南沙諸島に一番近い中国の滑走路を持つ基地は西沙諸島だが、それでも600キロメートルはある。
一方、台湾や比(フィリピン)、越(ベトナム)は南沙諸島に滑走路を持つが中国はない。
(中国が南沙諸島で)滑走路建設を急ぐ理由はここにある》
つまり、中国は南シナ海上空の制空権を握るためにも、スプラトリー諸島に「不沈空母」として使用する人工島を造成し、滑走路建設を急いでいるのだ。
オバマ米大統領が承認した「フリーダム・オブ・ナビゲーション(航行の自由)作戦」の発動は、そんな中国の思惑を打ち砕いたといえる。
米中のにらみ合いは今後も続きそうだが、習指導部には今のところ打つ手はなさそうだ。
』
『
TBS系(JNN) 11月8日(日)4時59分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20151108-00000002-jnn-int
習近平国家主席、南シナ海問題で妥協しない姿勢示す
中国の習近平国家主席は訪問先のシンガポールで講演し、領有権を主張する南シナ海の問題について妥協しない姿勢を示しました。
中国の習近平国家主席は7日、シンガポールの大学で講演し、南シナ海の島々が古来から中国の領土だと述べ、「主権と海洋権益を守るのは中国政府が果たさないといけない責任だ」と強調。
領有権問題で妥協しない姿勢を示しました。
その上で、習主席は南シナ海で「いままで航行と飛行の自由が問題になったことはなく、これからも問題は起こりえない」と述べ、「航行の自由」を求めるアメリカの介入をけん制しました。
先月、中国が「領海」と主張する海域をアメリカの艦船が航行して以降、習主席が公の場で南シナ海の問題に言及したのは初めてのことです。
』
『
2015.11.9(月) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45202
カーター米国防長官、
「大きなこん棒」で中国に警告
南シナ海を航行中の米空母訪問、
中国の軍備増強にクギ
(2015年11月6日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
●南シナ海を航行する米空母セオドア・ルーズベルト(写真:US Navy)
1世紀以上前に最初に
「太平洋を米国の革新的利益」
と定義づけたセオドア・ルーズベルト元大統領は、かつて自国民に「大きなこん棒を携え、穏やかに話す」よう促した。
控えめな態度のアシュトン・カーター米国防長官は5日、元大統領にちなんで命名された米空母への訪問を利用し、中国に対して極めて象徴的な警告を発した。
カーター長官は南シナ海を航行する米空母「セオドア・ルーズベルト」――愛称は「ビッグ・スティック」――のデッキに立ち、
「この地域には中国に関する懸念がたくさんある」
と語った。
「地域の多くの国が米国にやって来て、ここで我々が平和を保てるよう、一緒にもっと行動するよう要請している」。
長官はこう述べ、南シナ海での「主に中国による極端な主張と軍事化」について警鐘を鳴らした。
長官が話していた時、セオドア・ルーズベルトはスプラトリー(南沙)諸島の南150~200カイリの場所にいた。
中国が人工島を建設した、南シナ海の中で領有権が争われている海域だ。
■世界的なパワーバランスを決定づける競争
空母訪問は、米国による10日間の利害の大きな軍事、外交活動の集大成だった。
カーター長官はこの活動によって、中国が南シナ海での軍事プレゼンス拡大を思いとどまり、神経を尖らせる同盟国が西太平洋における米国のプレゼンスの永続性について安心感を持つようになることを期待している。
だが、海軍の強さの誇示は、
中国を挑発し、南シナ海における米中両国の強力な軍同士の熾烈な競争に火をつける恐れがある。
シリアとイラクのイスラム過激派のしぶとさからウクライナ紛争に至るまで、米国はより差し迫った軍事的危機に直面しているものの、
★.向こう20年間で、世界的なパワーバランスと米国が国際システムの中心的国家であり続ける力を何にも増して決定づけるのは、
西太平洋で浮上した中国との競争だ。
米国は10月末、中国が南シナ海で建設した人工島の1つ、スービ(渚碧)礁の12カイリ内に駆逐艦「ラッセン」を派遣した。
米国は周辺海域に対する中国の領有権主張を一切認めないということを示す狙いだ。
ラッセンの艦長を務めるロバート・フランシス海軍中佐は、南シナ海で「航行の自由作戦」を実施した日を含め、ラッセンは約2週間、中国の駆逐艦に追尾されたと語った。
フランシス中佐によると、中国艦船はラッセンが中国の領海に入っているという警告を発してきたが、「プロフェッショナル」かつ「丁寧」に振る舞ったという。
中国は南シナ海での米国の作戦行動に怒りを示し、米国政府は中国の主権を侵害したと批判した。
短期的には、大きな問題は、中国が過去18カ月間にスプラトリー諸島で建設した島々にさらに多くの軍装備品と人員を送り込み続けるかどうか、だ。
そのほかにも、米国の政府関係者は、中国が南シナ海に防空識別圏を設定しようとするのではないかと懸念している。
これは地域で制空権を握る試みを意味する。
米政府関係者は、ラッセンをスービ礁近辺に派遣した後、南シナ海で恐らく四半期に2回程度、このような作戦を継続実施することで同じメッセージを送り続けると語っている。
■中国の近隣諸国、米国の軍事プレゼンスを支持
米国政府が中国を抑制することを期待しているもう1つの要因は、中国政府の振る舞いの結果として、
★.中国の近隣諸国の間で地域における強力な米国の軍事プレゼンスに対する支持が高まっていることだ。
過去2年間で、米国は日本、フィリピン、オーストラリアとの間で軍事協力の緊密化について合意した。
アジア諸国で一番最近になって米国に接近したのがマレーシアだ。
マレーシアも南シナ海で中国との領有権争いを抱えており、この1年で中国に対する批判的な姿勢を著しく強めている。
カーター長官はマレーシアのヒシャムディン・フセイン国防相とともに同国の空軍基地からセオドア・ルーズベルトに飛んだ。
11月半ばにかけては、米海兵隊がマレーシア東部で行われる軍事演習に参加する予定で、両国政府はさらなる合同訓練演習について協議している。
「過去2年ほどで、米国との防衛関係構築に対する(マレーシアの)関心が大きく高まった」。
ある米政府高官はこう語る。
「中国は自分たちを怒らせるなという圧力を他国にかけているが、中国自身に害を及ぼしている。
そうした行為は地域全体に対して、中国は用心する必要がある国だという合図を送ることになるからだ」
ワシントンのシンクタンク、新米国安全保障センター(CNAS)のアジア専門家、ミラ・ラップ・フーパー氏は、
中国が南シナ海での軍備増強を続けるようなら、さらに多くの国を米国の方へ追いやることになる
と指摘。
「もしこの傾向が、さらに急速な島の軍事拠点化の方向へ向かったら、
マレーシアやベトナムのような国が動きを活発化させるだろう」
と話している。
カーター長官は、中国の海軍力の増強が、米国が地域の安全保障の錨(いかり)の役割を維持するのを妨げることはないと強調した。
「米国は長年、ここで安定化勢力であり続けてきた。
そのおかげで、過去70年間、すべてのアジアの奇跡が妨げられることなく起きた」
By Geoff Dyer, on board the USS Theodore Roosevelt
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』
『
読売新聞 11月9日(月)11時13分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151109-00050014-yom-int
米巡視「再び実施、私たちは本気だ」…国防長官
【ワシントン=今井隆】
カーター米国防長官は7日、西部カリフォルニア州で演説し、南シナ海に中国が造成した人工島の12カイリ内での米艦艇の巡視活動について、
「再び実施する。
私たちは本気だ。
国際法が認めるあらゆる場所で飛行、航行、活動を続ける」
と述べ、同様の活動を今後も行う意向を改めて強調した。
また、
「南シナ海を『軍事化するつもりはない』とした習近平(シージンピン)国家主席の誓約を、中国は守らなければならない」
と述べ、人工島を軍事拠点化しないよう中国側に重ねて要求した。
カーター氏はロシアにも言及し、
「ウクライナで主権を侵害し、シリアでは(空爆によって)危険な火にガソリンを注いでいる」
と強く批判した。
』
『
JB Press 2015.11.10(火) 矢野 義昭
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45194
米イージス艦1隻に力の差を見せつけられた中国
怯えが軍備増強を促し、地域の緊張を高める危険性も
今年10月に米国艦艇が南シナ海に入り、中国が岩礁を埋め立て一方的に主張している領海内を航行させた。
このため米中間では緊張が高まっている。
その背景にはどのような戦略があり、今後どのように推移するのであろうか。
1]. 米中間の南シナ海海域での核戦力バランスの変化
今回の東シナ海での衝突の背景には同海域での米中間のバランス・オブ・パワーの変化がある。
抑止が機能するには、戦力の各レベルでの優位が確保されているのが望ましい。
戦略核、戦域核、戦術核、通常戦力の各レベルでの戦力比較を戦場の地政学的特色に応じて行えば、国益の対立が生じたときにいずれが譲歩することになるか、その後の米中双方の対応をおおよそ予測することができる。
なぜなら、紛争の危機に直面した段階では、指導者は、万一紛争になった場合の軍事的対応力を何よりも重視して、行動方針を決定せざるを得なくなるからである。
もしも、自らが劣勢と判断すれば、例え死活的国益がかかっていても、譲歩せざるを得なくなる。
あるいは抗戦を決断しても壊滅的敗北をこうむる前に停戦に応ずることを見越して戦うことになる。
★.戦略核のレベルでは約10年前に、米中間で核戦争になり
中国が先制奇襲に成功すれば、都市化の遅れた中国は2600万人の被害で済むが、米国側には4000万人程度の犠牲者が出る、
米側が先制すれば中国側の一方的敗北に終わると、
米国のシンクタンクは予想していた。
しかしその後、中国の戦略核兵器の地下化、移動化、多弾頭化、水中化が進み精度も破壊力も向上した。
いまでは中国側は米国の先制から生き残り報復できるとみられている。
このように戦略核のレベルでは、中国の核戦力の近代化と人口の多さ、都市化の遅れにより、米中はよりパリティに近づいている。
★.射程が5500キロ以下の戦域核兵器については、
米国は中距離核戦力全廃(INF)条約に基づき全廃している。
アジア太平洋正面でも、2013年には攻撃型原潜に搭載していた核弾頭搭載型のトマホーク巡航ミサイルを全廃している。
その替わりとして、グアムに核搭載型のステルス爆撃機が配備された。
他方で中国は、INF条約の制約を受けることなく、グアム、日本、インド、東南アジア諸国などを攻撃できる、戦域向けの核搭載可能な各種の弾道ミサイルと巡航ミサイルの配備を進めており、その数は500発以上に上っているとみられる。
さらに米空母の攻撃も可能とみられている通常弾頭の弾道ミサイル「DF-21D」も配備された。
中国は台湾対岸に短距離弾道ミサイル1200基以上を配備しており、その数は毎年増加している。
移動式で射程も1000キロ以上に伸び、沖縄の一部も攻撃可能になっている。
これらには戦術核弾頭の搭載も可能とみられている。
このようにアジア太平洋における米中間の戦域/戦術核戦力のバランスは、すでに中国側が優位になっている。
この状況は東シナ海でも南シナ海でも同様である。
その結果、いわゆる「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」戦略により、
米空母打撃群が東シナ海や南シナ海の中に入れなくなっており、尖閣諸島や南沙諸島などの域内の離島の防衛警備ができなくなるのではないかと憂慮されている。
2]. 依然優位な米国の海空戦力
しかし通常戦力については、陸海空とも米軍が優位にある。
中国人民解放軍は、いまだにロシア軍の装備水準に追いついていない。
例えば、大型ジェットエンジンはロシアからの輸入に頼っている。
米軍はそのロシア軍の装備水準よりも高く、特に海軍関係では優越している。
中国は改革開放以来、軍事力とりわけ海空軍力の近代化に力を入れてきたが、まだ米軍に挑めるほどの力はない。
したがって米軍としては、ミサイルの発射あるいは核使用にエスカレーションすることなく、優越した通常戦力を使い、中国側に力による現状変更の既成事実化を認めないとのメッセージをいかに的確に伝えるかが、課題となる。
そのための最適の行動を慎重に決定するのに時間を要し、一昨年の春から中国の南沙諸島での岩礁埋め立てなどを知りながら、対応行動を決定するのが遅れたとも伝えられている。
また米国防総省は今年5月頃から対応行動を採るようバラク・オバマ大統領に要請していたが、大統領は米中首脳会談で習近平国家主席の意向を自ら確認してから、対応行動を採ることにしたともみられている。
オバマ政権は、これまでもシリアでの化学兵器使用、ウクライナ問題などで慎重姿勢を見せてきた。
今回の、南シナ海問題は、まかり間違えば米中間の武力衝突になりかねない。
オバマ政権が、このような事態に慎重に対処したのは、当然かもしれない。
しかしそれにしても、偵察衛星などで逐一把握できていたはずの中国側の南沙諸島での活動に対し、なぜもっと早く初期の段階で対応しなかったのかという疑問は残る。
この背景の1つとして、上に述べた
中国の濃密な核と非核のミサイル網が南シナ海を覆っている
という、
力のバランスの劣勢があったことは間違いない。
中国は逆にこの力の優位を背景に、米国側の対応を試そうとした
と言える。
今年9月の習近平国家主席訪米時の米中首脳会談で、習主席は人工島を軍事化する「意図はない」と明言したものの、南沙諸島は中国固有の領土との姿勢を崩さず、南シナ海問題の打開という点では「失敗」に終わった。
他方の米国は、ワールドパワーとしての立場上、常に世界全体を見ながら、そのパワー投射の優先順位を決めなければならない。
一昨年から今年にかけて、欧米世界の注目を集めていたのは、ウクライナ問題や中東のイスラム国のテロ、イランの核疑惑問題であった。
現在でも米国マスコミが注目しているのは、まず、大統領選挙候補者の動向であり、対外的には、ロシアのシリア介入など中東や、移民の流入など欧州正面の問題である。
アジア太平洋重視というオバマ政権の方針も、緊迫する中東、欧州正面への対応に追われ、かけ声倒れに終わっている感がある。
米国の財政事情は厳しく、米軍は既に削減の途上にあり、今後10年間に1兆ドルに近い国防費削減も見込まれている。
米軍には2正面同時展開能力も維持が難しくなってきている
のかもしれない。
そのことを見透かしたうえで、米国の覇権切り崩しを狙う中露さらにイラン、シリアなどの勢力が連携して同時多発の危機を世界的に作為したと取れなくもない。
その中でも、南シナ海の中国の動向は、米国の国益にとり死活的なものではなく、戦力に制限があるなか、対応が後回しにされてきたきらいがある。
3]. 中国にとり死活的に重要な「近海防御」
中国にとっては南シナ海を通過するシーレーンは、マラッカ海峡からインド洋、ペルシャ湾と地中海に抜ける貿易とエネルギーの輸送路として、死活的重要性を持っている。
国益にとっての重要度という点で、南シナ海問題は、海洋の航行の自由を掲げる米国に比べ、中国にとってより切実な課題と言えよう。
この中国の南シナ海、東シナ海、黄海など「近海」の防御は、中国経済の発展に伴い、海洋正面からの脅威に対する沿岸都市部、および沿岸港湾に通ずる上記シーレーンの防衛の観点から、ますます重要になっている。
そのために中国が重視しているのが「近海防御戦略」である。
ただし「防御」とは言っても攻撃的な側面を兼ね備えた「積極防御」であり、濃密なミサイル火網の配備、活発なサイバー攻撃などはその表れである。
この戦略を米側から見れば、「A2/AD」戦略となると言える。
地政学的にも南シナ海は中国の沿岸部に隣接しており、陸上配備の航空機、防空ミサイルの掩護下にある。
軍事戦略上も、南沙諸島に海空基地やレーダサイトを推進できれば、豪のダーウィン、グアムの米軍基地を直接攻撃できるようになる。
また、マラッカ海峡以西や太平洋への潜水艦や水上艦艇の進出も掩護できるなど、中国にとりメリットが大きい。
無理に、岩礁を埋め立てレーダを配備したり、滑走路を拡張しても、維持管理が難しく、有事には巡航ミサイルなどで簡単に破壊されるとの見方もある。
しかし、最前線に配備されたレーダや滑走路はもともと有事には真っ先に破壊されることを予期して推進されているものである。
先制奇襲のための戦闘機の発進基地として使用したり、レーダで敵の奇襲を警告できれば、次の瞬間に破壊されても十分に使命を果たしたと言える。
水深が浅く潜水艦の展開配備には適さない黄海や東シナ海と異なり、南シナ海は水深が深く、九段線内の海域は広さもあり、中国にとり唯一、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を展開できる海域でもある。
潜水艦発射弾道ミサイル「JL-2」の射程は、7300~8000キロ程度と米本土を攻撃するには不十分である。
しかし、マラッカ海峡からベンガル湾、日台韓、ダーウィン、グアムからアラスカまでは攻撃できる。
米本土に対する戦略核抑止力にはならないとしても、日印豪、台湾、韓国、東南アジア諸国と域内の米軍基地に対する戦域核抑止力としては十分に価値を持っており、近海防御戦略を核抑止面で支えていると言えよう。
したがって南シナ海の施設拡張は、海南島に展開している中国の原子力潜水艦の前方掩護基地群として、米軍に比べ海空軍力が劣る中国軍にとり十分価値があるとみるべきであろう。
また中国が南シナ海の基地群を維持できれば、東南アジア諸国に直接軍事的威圧を加え、台湾、日本、韓国の最短のシーレーンを支配し、経済、外交、軍事各方面で影響力を行使できるようになる。
中国から見れば、南沙諸島は死活的国益を守るために支配する必要があり、そのメリットも大きいことから、力を背景にして支配権を確立しようとするのは当然の行動ということになるであろう。
4].動き出した米側の対処戦略
このような中国の動きを封じるには、中国に恐怖感を与えて自制を促す強力な軍事力による抑止行動が不可欠である。
今年10月18日、米政府が東南アジア諸国に米艦艇派遣の方針を伝えたと報じられた。
米国は、あえて艦隊行動をとらず、イージス駆逐艦「ラッセン」1隻を、中国が領海と称する、スービ礁の12カイリ以内で航行させた。
スービ礁は、滑走路が建設中だが小規模なものであり、中国にとり南沙諸島の岩礁の中でも比較的価値の低い岩礁である。
また、「ラッセン」には、ベトナムやフィリピンの島嶼の12カイリ内も航行させている。
中国側を過度に刺激することなく、エスカレーションを回避するために慎重に選択された行動と言える。
半面、イージス駆逐艦は対ミサイル、対空、対潜、対水上のいずれの能力も保有しており、各種の脅威に対処できる。
また、公表されなかったものの、
掩護のために攻撃型原潜が南シナ海に展開され、
万一に備えるとともに抑止のため 、
中国側に分かる形でフィリピン東方の太平洋上には艦隊主力が展開し、
グアムではステルス爆撃機が待機していた
ことであろう。
横須賀、横田では在日米軍の情報、指揮統制通信システムがフル稼働し、日米間でも緊密な情報交換が行われたとみられる。
これらの米側の一連の対応行動は、A2/AD戦略への対抗戦略として米側が打ち出しているエアーシーバトル構想の一端を垣間見させるものであったと言えるかもしれない。
米側の動向を注視していた中国側には、米側の実力が伝わったであろう。
能力と意思を的確に相手に伝えることは、抑止戦略の基本である。
外交的な連帯行動も取られた。日本、フィリピン、マレーシアは米国の行動を支持し、ベトナムも米国の艦艇派遣に間接的な支持を表明している。
韓国の姿勢はあいまいだったが、10月16日の米韓首脳会談では、オバマ大統領が「韓国が世界と同じ声を上げることを期待する」と表明し、韓国に圧力を加えた。
今回は米側の抑止が効果を発揮した。
中国側は反発を強めたものの、ミサイル駆逐艦と巡視艦各1隻が「監視、追尾、警告」したにとどまった。
また今回の南シナ海での動きは、東シナ海、特に尖閣問題にも影響を与えたとみられる。
尖閣問題で「中国は武力衝突を極力避けるべきだ」との、
習主席側近の劉亜洲上将による論評が10月に公表されている。
10月28日ジョン・ケリー国務長官は、「緊張の緩和と沈静化を望む」と表明し、11月に入り、米中間では4日のASEAN拡大国防相会議などの場で緊張緩和のための対話が始まっている。
今後の対応について、米国防当局者は11月2日、南シナ海の中国人工島周辺に米艦を派遣させる「航行の自由作戦」に関し、「3カ月に2回か、やや多い頻度」で実施することになるとの見方を示した。
当局者は「常に目を引くことなく定期的に行うには適切な頻度だ」と指摘。
「一定の間隔で国際法に基づく(航行の自由の)権利を行使し、中国やその他各国に米国の見解を知らせるという意図と一致する」と述べた(『時事ドットコム』2015年11月3日)。
中国が主張する、南沙諸島での埋め立て岩礁周辺海域の領海を認めないという意思を示すための米側の艦艇派遣は、今後もかなりの長期にわたり継続されるとみられる。
フィリピンへの米軍基地の再配置、米比、米越間の共同演習の強化、比越その他のASEAN諸国への米艦隊訪問、これら諸国の海空軍力増強支援、武器輸出、共同警戒監視と情報交換などの、軍事面での域内国との幅広い連携強化策も、今後とられるであろう。
5].今後の推移と日本の対応
これらの一連の米側の動きに対し、中国側として打てる対策は、ここでいったん事態を鎮静化させることしかないであろう。
習近平指導部としては、中国経済の不調が伝えられる中、対外的緊張を高めるよりも、内政の充実に注力せざるを得ない状況にある。
対外的にも、ASEAN諸国を対中警戒の方向で結束させ、外交的に孤立する結果になるとすれば、大きなマイナスになる。
しかし、習近平国家主席は、「中華民族の偉大な復興」と「富強大国」を掲げ、軍に対し、党の指導の下、「強軍の魂」を堅持し、領域の無欠を守り抜くことを要求してきた。
習主席としては、最高指揮統帥権者としての威信維持の点からも、南沙諸島の施設を撤去あるいは放棄することは考えられないであろう。
中国にとっての南シナ海の戦略的な重要性から見ても、米国などが力による施設撤去あるいは破壊を試みれば、中国は武力を行使してでも阻止しようとする可能性が高い。
米側も、中国側との武力衝突のリスクを犯しても、撤去を強行しようとはしないであろう。
その結果、中国の南沙諸島の岩礁支配は続き、
米中両国は長期にわたり洋上で対峙することになる
と予想される。
また習近平指導部は、戦力の劣勢を痛感し、
今後一層軍備の増強近代化に力を入れ、捲土重来を期する可能性が高い。
キューバ危機で屈辱をなめたソ連指導部が、その後軍備の増強近代化に国力を傾けたような事態が再来するかもしれない。
その場合、民生は犠牲にされ、内需は軍需により代替され、軍備が肥大化して膨張主義に走り、対外的な緊張が高まることになる。
習近平指導部が国内経済の再建を優先し、国営企業の民営化などの構造改革、国民所得の向上と福利の増進などに努め、軍備拡大の抑制、対外融和政策をとるならば、近海の地域覇権を巡る対立は緩和され、海洋秩序も維持されるであろう。
しかし、国内での少数民族、民主派等の弾圧強化から明らかなように、共産党独裁体制の維持に至上の価値を置いているとみられる習近平政権に、そのようなシナリオの実現を期待するのは望み薄であろう。
今後中国がさらなる軍備増強に出て、長期にわたり緊張状態が続いた場合、米国から日本に対して、洋上補給、基地での給油整備支援、共同の警戒監視参加、武器輸出など、重要影響事態のもとで可能なぎりぎりの支援が要請されるかもしれない。
緊張が高まり、南シナ海の航行制限といった事態が生ずれば、共同哨戒といった作戦の必要性も生ずるかもしれない。
日本としては、国益を踏まえ、特に尖閣諸島対処への影響を考慮し、最悪の事態も含め、対応策を検討しておかねばならない。
その際、国益にかなう範囲で、できる限り積極的に寄与することを基本方針とすべきであろう。
尖閣、南西諸島防衛と、南シナ海での秩序と安定への貢献は、緊密に関連しているためである。
日本自ら防衛努力を行い、尖閣諸島を含め自国とその周辺の防衛警備態勢をしっかりと固めるべきことは言うまでもない。
また、中国を含めた多国間の、事故防止協定締結、連絡調整メカニズムの構築、緊急時の行動規約と通信規約の制定、中国側との各レベルでの定期協議の開催などの、信頼醸成措置と偶発事故防止のための国際的枠組み構築に積極的に寄与することも不可欠である。
このような枠組み構築に成功すれば、それを東シナ海にも準用できるであろう。
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