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毎日新聞 11月28日(土)15時1分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151128-00000043-mai-int
<露軍機>撃墜前、2回領空侵犯…トルコ計21回警告
●トルコ、ロシアそれぞれが主張する飛行ルートと墜落現場
トルコ・シリア国境付近で24日にトルコ軍機に撃墜されたロシア軍機が、2回連続してトルコ領空を侵犯していたことが分かった。
トルコが加盟する北大西洋条約機構(NATO)の外交筋が、レーダーの航路分析で判明したと毎日新聞に明らかにした。
ロシア側は
「警告はなく、シリア上空で撃墜された」
と主張しているが、根拠が揺らぐことになる。
●【トルコ・シリア国境地帯で墜落する戦闘機】
◆NATO分析
外交筋によると、ロシアの戦闘爆撃機2機は24日午前9時22分(日本時間午後4時22分)ごろ、トルコ南部の領空に侵入。
旋回して同9時24分、再び領空内に2.52~2.13キロ入り込み、17秒間侵犯した。
トルコ軍は1回目の領空侵犯時に11回、2回目に10回、計21回警告した後、これを無視して領空にとどまった1機をミサイルで撃墜した。
この戦闘爆撃機は飛行を続け、シリア領内に墜落した。
同筋によると、ロシア軍機は10月3、4両日にもシリア側からトルコ領空を侵犯。
トルコ政府はロシア側に再三にわたり「次の領空侵犯は容認できない」と警告していた。
10月15日にはロシア空軍幹部がアンカラでトルコ軍幹部と会談し、再発防止を約束していたという。
トルコ軍は2012年6月、地中海上空で偵察機がシリア軍機に撃墜されて以降、領空侵犯があれば撃墜する方針を取っていた。
今回のロシア機の撃墜では「原則に従った」という。
◆トルコ防空強化、NATO合意へ
外交筋は、12月1日から開かれるNATO外相会議が、トルコの防空能力強化やミサイル防衛などを柱にした「支援・保障パッケージ」で合意することも明らかにした。
過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威に対抗するため、今年8月から検討されていたが、ロシアに対する加盟国の防衛もにらんで決定する。
NATOはシリア内戦の脅威に対抗するため、地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC3)を12年からシリア国境沿いのトルコに配備している。
トルコ側は配備に「期限を設けない」よう求めており、来年初めに事実上終了する予定だった配備期間が延長される可能性がある。
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ロイター 2015年 11月 27日 15:40 JST Joshua W. Walker
http://jp.reuters.com/article/2015/11/27/walker-syria-column-idJPKBN0TG0CW20151127?sp=true
コラム:緊迫するロシアとトルコ、「第3次大戦」防ぐ処方箋
●写真はロシアのスホイ24戦闘爆撃機。シリアのラタキア近郊の空軍基地で撮影。
ロシア国防省が7日提供(2015年 ロイター)
[25日 ロイター] -
加盟国のトルコが24日、ロシア軍機を撃墜したことで、北大西洋条約機構(NATO)は未知の領域へと足を踏み入れた。
第3次世界大戦を防ぐために、米国政府が双方を和解させることが急務である。
トルコ政府の「ロシア機は、繰り返し警告を与えたにもかかわらず、シリア国境に近いトルコ領空を侵犯した」という主張の裏付けとなる詳細はこれから明らかになるところだ。
はっきりしているのは、この事件には長い前触れがあるということだ。
シリア政策をめぐって、トルコとロシア両政府のあいだでは対立が急激に高まっていた。
ロシアがアサド政権支援のためにシリア領内での空爆を開始して以来、
ロシア軍機は繰り返しトルコ領空を侵犯してきた。
過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出したアンカラ、シナイ半島、パリでの爆弾攻撃以降、同組織に対する「大連合」への希望が生まれていたというのに、今や中東にほとんど残されていない平和と安定を救うための緊張緩和が急務になってしまった。
ロシア政府がただちに、同国機撃墜は「背信行為」でありイスラム国への支援になるとしてトルコ政府を非難し、プーチン大統領が「重大な影響」をもたらすと警告したことは、シリア情勢がすべての当事者にとっていかに重要であるかを却って浮き彫りにしている。
シリア情勢の波及を食い止められるかもしれないという希望は霧散してしまった。
ロシア機のパイロットはシリア北部地域に脱出降下した可能性が高いが、トルコが同地に暮らすトルクメン人住民を民族的なつながりゆえに支援していることも、現場での状況をさらに複雑にしている。
シリアのアサド大統領及びロシアやイランの支援を受けた政権側部隊と戦っているクルド人部隊、イスラム主義者、反政府グループのあいだには対立があり、地上での勝利は期待できない。
空におけるこれ以上の衝突を避け、ロシアによる何らかの報復措置を防ぐために、NATOはトルコへの支持を再確認するとともに、ただちにシリア上空での一時飛行停止を呼びかけなければならない。
■シリアで何が起こっているか
●シリアで何が起こっているか
米国にとってトルコはNATOの同盟国、ロシアはライバルだが、仲裁役として米国の独自の立場がこれほどふさわしい例は過去に見られない。
先日のパリ同時攻撃と、先週トルコで開催されたG20首脳会議での進捗によって、イスラム国打倒に向けた共同アプローチが発展するのではないかと期待していた米政府関係者は多い。
トルコは、首都アンカラでの爆弾テロの後でさえ、アサド政権排除につながらない形で中東地域に外国が干渉することを懸念している。
地域の混乱の収拾を押しつけられるのは自分たちではないかという恐れがあるからだ。
現時点でさえ、トルコは世界で最も多くの難民を受け入れている。
またシリア内戦は、トルコ政府が数十年にわたり続けているクルド人武装勢力との戦いとも絡んできつつある。
クルド人武装勢力の一部は現在、米国からの支援を受けている。
望みうる最善の状況は、トルコとロシア両政府が、お互いの依存関係と対立激化がもたらす高い代償を現実的に注視し、シリア情勢を契機として両国が直接戦火を交える事態に至るのを避けることだ。
アサド政権の将来を軸とする幅広い地域的・政治的な妥協の一環として、今、ロシアとトルコを同じテーブルにつかせなければならない。
短期的にはアサド政権の存在を含んではいるが、長期的にはその体制を変革していくことを可能とするような出口戦略を考案することは、困難ではあるが不可能ではなかろう。
そのような解決策があれば、ロシア政府もイラン政府もメンツを保ち、さまざまな同盟国を再結集することが可能になる。
トルコが「地域の問題は地域で解決」することを求めていることを踏まえて、NATO諸国はトルコ政府を支え、同国を宗派性のない地域のリーダーにしていくべきである。
その一環として、イラン及びロシアの影響力に対抗すべく、シリア政府にとって必要不可欠な開発援助を提供させるようアラブ諸国及びスンニ派勢力にプレッシャーをかけなければならない。
これと平行して、「アサド後」のシリアがどのようになろうと、シリアの地中海沿岸のラタキアにロシアが持つ拠点は維持されるという安心感をロシアに与えなければならない。
今年前半の激しい選挙戦の影響で、これまでトルコ政府の動きは鈍かった。
だが、プーチン氏はトルコのエルドアン大統領を軽視していた可能性がある。
エルドアン氏率いる与党・公正発展党の政治課題は今や明確になった。
「力による安定」である。
かつてはお互いを友人と認め合っていた双方の首脳の「顔を立てる」ためには、オバマ米大統領とオランド仏大統領から自制を求めることが必要不可欠であり、かつ最も効果が高いだろう。
イスラム国掃討を目指す大連合について協議するためにモスクワとワシントンを行き来するのであれば、そこにトルコを加えなければ今や成功は不可能である。
経済力、軍事力、情報力のいずれをとっても中東地域最大であり、同地域唯一のNATO加盟国であるトルコがロシアと対立したままでは、中東の混乱が加速するばかりだ。
さらなる戦いを避けるには、すべての関係国が状況をエスカレートさせないという共通の関心事に集中する必要がある。
共通の敵であるイスラム国に集中しなければならない。
シリア、イラクを主権国家として政治的に再編するという戦略を促進するためには、イスラム国を軍事的に打倒することだ。
オバマ氏はイラクにおけるジョージ・W・ブッシュ前大統領の行動を繰り返すことを慎重に避けてきたが、今こそ米国は、さらなる戦いを防ぐために持てる力を尽くさなければならない。
中東の真ん中での「権力の空白」は、ほぼ必ずと言っていいほど、より悪い結果につながってきた。
今、地域が主体となる平和を準備することがすべての当事者にとって必須であり、相互の合意を得るべき分野である。
トルコとロシアを含む地域首脳会議の開催をNATOが呼びかければ、両国が今週の事件を意識の隅に追いやることができ、すべての関係者が共通の敵に集中しやすくなるだろう。
トルコのロシア軍機撃墜をめぐり、両国の非難合戦がますます熱を帯びている。
*筆者は米ジャーマン・マーシャル基金のトランスアトランティック・フェロー。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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ロイター 2015年 11月 27日 08:07 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/11/26/insight-is-putin-idJPKBN0TF0ED20151126?sp=true
焦点:対ISで「不可欠な国」に、プーチン流政治の落とし穴
[ブリュッセル 24日 ロイター] -
プーチン大統領は、シリアに介入することで、比較的孤立していた状態からロシアを脱却させることに成功。
そして米国がさらなる関与に二の足を踏むなか、シリアやウクライナ情勢、過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いにおいて、同国を「不可欠な国」にしようとしている。
しかしこのような地政学的なポーカーゲームで、プーチン氏が勝ったままゲームをやめられるかは分からない。
とりわけ、24日に発生したトルコ空軍によるロシア軍機撃墜のような予期せぬ事態が起きた場合はなおさらだ。
空爆などによるロシアのシリア介入は、アサド政権側を再び優位に立たせ、イスラム国に対する空爆作戦を行う米国主導の有志連合は劣勢を強いられていた。
しかし130人が犠牲となったパリ同時多発攻撃と乗客乗員224人全員が死亡したロシア旅客機墜落事件を受け、プーチン氏は狙いの的をイスラム国に移し、フランスに協力を申し出た。
ロシア国防省は、シリア国内の標的に落とされる、「パリのために」と書かれた爆弾の写真を公開した。
「フランスは戦う意思はあっても能力を出し切れず、
米国は能力があるのにやる気に欠けた状態のなか、
ロシアにはISに対して大規模な武力行使を行う意思と能力がある」
と、パリにある戦略研究財団でシニアリサーチフェローを務めるブルーノ・テルトレ氏は指摘する。
ウクライナ情勢をめぐる行動で西側諸国からのけ者扱いされていたプーチン氏だが、ハードパワーと外交力を組み合わせた「レアルポリティーク(現実政治)」のおかげで、同氏は今や国際舞台の場で人気者となっている。
だからと言って、クリミア併合などで受ける西側からの経済制裁をプーチン氏が免れるわけではない。
トルコで先週末開催された20カ国・地域(G20)首脳会議に出席した西側諸国の首脳らは、ロシアに対する経済制裁をさらに半年間延長し、来年7月までとすることで合意した。
シリアへの介入も成功を収める保証はない。
軍事介入は意気揚々と始まっても、失敗に終わることが往々にしてある。
英米はそれをイラクとアフガニスタンで学び、旧ソ連も1980年代にアフガニスタンで経験した。
1990年代後半に当時のオルブライト米国務長官が自国を「不可欠な国」と主張したが、その地位にロシアを押し上げたとプーチン氏は考えている。
だが、プーチン氏は背伸びし過ぎており、国内の武装勢力や中東産油国からもたらされる安全保障上の、そして経済上の危険を蓄積させていると、一部の専門家は指摘する。
他の大国との関係に影響しかねないのは、プーチン氏が「背後から刺された」と表現したトルコによるロシア軍機撃墜だけとは限らない。
西側諸国の部隊が関与する「誤射」や多数の民間人が犠牲となるような攻撃も、プーチン氏の作戦をコースから外れさせる可能性を秘めている。
■<優れた戦術家>
「地政学的に見て、プーチン氏は優れた戦術家だ。
私は嫌いだが、好き嫌いは別にすれば『プーチン流政治』はかなりうまくいっている」
と、かつて駐ロシア欧州連合(EU)大使を務めたマイケル・エマーソン氏は語った。
同氏によれば、プーチン氏がシリアで主導権を握ることで米国に不意打ちを食らわせたのはこれが2度目。
プーチン氏は、軍事的敗北を喫する可能性からアサド政権を救い出し、自身をシリア問題のいかなる解決にも不可避のパートナーとさせた。
1度目は2013年8月、シリアが化学兵器を使用したことを受け、オバマ米大統領が「越えてはならない一線」を越えたとして空爆を検討していた際、プーチン大統領がオバマ大統領に外交的手段を取るよう説得したときだ。
空爆をしないという米国のこの決定は「外交的な大きな過ち」であり、同国の中東疲れを暗示していたと、デ・ホープ・スケッフェル元北大西洋条約機構(NATO)事務総長は指摘する。
ロシアの大国としての地位を取り戻そうとするなか、欧米の弱さを感じ取り、それを利用するというプーチン氏の生まれ持った才能は、同氏の精力的な外交政策の特徴の1つだと言える。
「彼(プーチン氏)は政治的機会だけでなく、権力にも驚くほど鼻が利く」
と、シンクタンク「欧州外交評議会(ECFR)」のディレクター、マーク・レナード氏は指摘。
「ウクライナで身動きできなくなり、そこから抜け出す方法を見つけられないでいた。
ロシアは当初、アサド政権が窮地に陥っているのでシリアへの介入を強化したが、そこへパリで事件が起き、驚くべき方針転換をしてみせた」。
米主導の対イスラム国空爆作戦では小さな役割しか担っていないフランスのオランド大統領は、シリアでの同組織掃討のためロシアを含む1つの連合を形成するよう訴えている。
同大統領は26日、ロシアを訪問し、プーチン大統領と協力に向け会談を行う。
パリ同時攻撃とロシア旅客機墜落事件が起きる以前は、ロシアによる空爆の約90%が、西側の支援するシリア反体制派に対するもので、残りのわずか10%がイスラム国に対するものだったとフランスは考えていたと、前述の戦略研究財団のテルトレ氏は述べた。
だが先週、その比率はほぼ逆転したという。
西側が支援する、特に米国製の対戦車ミサイルTOWを手に入れた反体制派への攻撃をロシアは続けているが、少なくともその半分は現在、シリアのイスラム国拠点を標的にしていると、西側の他の専門家たちも指摘する。
報道によると、ロシアとフランスはイスラム国が資金源とする石油精製施設を攻撃した。
■<下手な戦術家か>
プーチン氏がシリアで政策を転換し、4年にわたる内戦終結に向け交渉の余地をつくる可能性がある一方で、旧ソ連国境を越えての武力行使はロシアにとってリスクを高める結果となっている。
「プーチン氏は優れた戦術家ではない。
イスラム教スンニ派を敵に回している。
彼らは同氏に恨みを抱くだろう」
と、ロシア専門家で米シンクタンク、ブルッキングス研究所所長のストローブ・タルボット氏は指摘。
「国内ではすでに、イスラム過激派との問題を抱えていた。
それがロシア旅客機墜落事件以降、国外でもISという問題に対処しなくてはならなくなった」
同氏によると、プーチン氏はシーア派が多数を占めるイランやレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」と協調することで、西側による制裁でロシア経済が依存する石油の価格を引き下げているサウジアラビアなどスンニ派諸国を敵に回すリスクを負っているという。
欧州の外交官らは、たとえロシアや欧米諸国がイスラム国掃討で団結し、シリア問題の解決に共通の利益を抱くとしても、トルコやサウジ、そして恐らくイランはシリアで内戦が続くことに利益を見いだす可能性があるとみている。
「プーチン氏は、アサド政権を継続させるか、ISを壊滅させるかの選択に直面するという、自身が招いた状況で板挟みにあっている」
とタルボット氏は指摘。
「ISは勢力を拡大しているため、アサド政権退陣の先延ばしはロシアにとって大きな代償となっている」
ロシア国内では、1990年代のチェチェン紛争以来、モスクワや他の都市で攻撃を繰り返すカフカス地方のイスラム武装勢力が急速に台頭する可能性に直面していると、タルボット氏は付け加えた。
(Paul Taylor記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)
』
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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年11月27日(Fri) 佐々木伸 (星槎大学客員教授)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5665
ロシア機撃墜に2つの理由
エルドアンの深謀遠慮
トルコによるロシア軍機撃墜は両国の対立を激化させ、シリアをめぐる軍事的な緊張が高まっている。
撃墜に至った背景には、トルコの”皇帝”と呼ばれるエルドアン大統領の深謀遠慮がある。
しかし過激派組織「イスラム国」(IS)を攻撃する側のこうした分裂で、ISだけが独り、ほくそ笑んでいる。
■アサド退陣棚上げ論つぶし?
エルドアン大統領はシリアのアサド大統領の追放を長らく求め、反体制派を支援してきた。
シリアとの国境管理や物資の補給、石油の不正密売などでISに比較的緩やかな対応を取ってきたのも、ISよりもアサド政権の打倒を優先させていたからだ。
しかし、シリアに軍事介入し、ISよりも反体制派への攻撃を続けていたロシアは10月末のエジプトでのロシア旅客機爆破テロ、パリの同時爆破テロを受けて、方針を修正しIS攻撃を本格化させた。
米国のオバマ大統領やフランスのオランド大統領はロシアを取り込んでIS攻撃を一体化させようという絵を描いた。
米主導の有志連合とロシアとの共闘である。
こうした空気を反映し、シリアの紛争で欧米とロシアの最大の対立点だったアサド大統領の扱いをめぐって、アサド氏の処遇を一時棚上げにして、ISに米欧ロで一致して当たろうという機運が急速に高まった。
これに危機感を深めたのがエルドアン大統領である。
アサド退陣棚上げ論が既定路線になれば、アサド政権を追放し、トルコ寄りの新政権を樹立することを第1に掲げてきたエルドアン氏の戦略は大きく狂ってしまう。
ベイルートの消息筋は
「アサド棚上げ論では、結果的にロシアやイランの要求が通り、アサド氏が移行政権でも生き残ってしまう。
これを恐れて棚上げ論をつぶしにかかったのがロシア機撃墜の理由の一端だ」
と指摘する。
確かに撃墜事件の後、米欧ロの共闘の雰囲気は一変し、冷戦時代の再来を思わせるような対立状況となった。
米国とロシアのISに対する戦果をめぐる応酬も激しくなった。
米国防総省は、ISのタンクローリー1000台を破壊したといったロシア側の発表を誇張しすぎと批判、これにロシアも米国を嘘つき呼ばわりするなどとげとげしいやり取りを繰り広げており、”棚上げ論つぶし”ということであれば、エルドアン氏の狙いはうまくいったことになる。
もう1つ、撃墜の理由はシリアの少数民族の反体制派、トルコ系のトルクメン人をロシアが攻撃したことに対する怒りである。
トルクメン人はトルコ国境に近いシリア北部を居住地区とする少数民族で、エルドアン氏が”親類”と呼び、トルコの庇護下にあると見なす部族だ。
アサド政権の打倒を目指す反体制派として戦闘に加わってきたが、このところ、ロシア軍機によるトルクメン人攻撃が目立っていた。
トルコ政府はロシア大使を呼んで再三注意したが、ロシア側がこれを軽視したような姿勢を示していたため、愛国主義者にして民族主義者のエルドアン氏が激怒し、ロシア機の領空侵犯には撃墜もやむなし、との決定になったようだ。
■NATOの介入を回避
プーチン氏は
「背後から刺された」
「謝罪の一言もない」
などとトルコを非難、最新の地対空ミサイル・システムをシリアに配備する一方で、ロシアからの天然ガスパイプラインの建設の見直しも含め経済制裁を発動する構えだ。
エルドアン氏は
「再び領空侵犯があれば、同じように対応する」
と強気の姿勢を崩していないが、実際のところ、プーチン氏がこれほど強く反発するとは予想していなかったようで、計算違いとの見方も強い。
特にロシアはトルコにとって最大の輸入先。
全輸入量の10%(2014年)を依存、輸出も4%を占めている上、ロシアがトルコ旅行の禁止を打ち出したのが打撃だ。
北大西洋条約機構(NATO)はトルコの要請を受けて緊急理事会を開催し、加盟国であるトルコとの連帯を強調した。
しかし今回の撃墜事件をロシアとNATOの問題にはしたくない、というのが本音で、エルドアン政権に対して自制を強く促している。
オランド仏大統領は26日モスクワでプーチン氏と会談し、ロシア側にもトルコとの対立をエスカレートさせないよう求めた。
トルコとロシアの緊張が高まる中、エジプトやチュニジアではISの分派によると見られるテロが続発するなど、パリの同時多発テロ以降も各地でISの活動が活発化しており、国際的なIS包囲網の亀裂を尻目にISが欧州で新たなテロを画策しているとの懸念も浮上している。
』
『
BBC News 2015.11.26 視聴時間 02:00
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45369
IS空爆はどれほど激しいのか 第2次世界大戦などと比較
パリ連続襲撃事件を受け、犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)に対する掃討戦が激しさを増す構えだ。
ISへの空爆は昨年8月から続いているが、第2次世界大戦など過去の例と比べてどのくらい激しい攻撃なのか、拍で表現し比較した。
結果に驚く読者もいるのではないだろうか。
』
『
現代ビジネス 2015年11月27日(金) 長谷川 幸洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46586
ロシアとトルコは「全面戦争」に突入するのか?
世界の列強が「対テロ戦後」を睨んで動き始めた!
■なぜトルコはロシア軍機を撃墜したのか
シリアとトルコの国境付近でトルコ軍機がロシア軍機を撃墜した。
私は先週のコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/46454)で「世界は『テロと戦争の時代』に完全にモードチェンジした」と書いたが、まさに暴力が瞬く間に加速している。
世界はどこに向かっていくのか。
トルコとロシアはつい最近まで友好的な関係にあった。
トルコの輸入相手国第1位はロシアであり、とりわけ石油や天然ガスの多くはロシアからの輸入に依存している。
ロシアはトルコとロシア産天然ガスを南欧に輸送するパイプライン建設の交渉も進めてきた。
これまでのように、両国が互いを必要とする相互依存関係を重視しているのであれば、たとえ一時的な領空侵犯があったとしても、いきなり相手を撃墜するような乱暴な事態は避けられたはずだ。
北大西洋条約機構(NATO)のメンバー国が、よりによってロシア機を撃墜するような事態は何十年も起きなかった。
しかし撃墜に至ってしまったのは、相互依存の恩恵を忘れてしまうほど頭に血が上って、あっという間に双方で敵対意識が膨れ上がってしまったからだ。
燃え盛る戦火は空軍パイロットからも民衆からも冷静さを奪ってしまう。
代わって激情が支配するようになる。
ロシアがシリアの空爆を始めたのは、つい2カ月前の9月30日である。
イスラム国(IS)掃討が目的と説明していたが、まもなくロシアはIS掃討よりもアサド政権の延命を狙って、政権に抗う反体制派勢力を攻撃している実態があきらかになる。
トルコは、同胞であるシリア内のトルクメン人が反体制派と目され空爆されていると知って、ロシアへの反感を募らせた。
「仲間の敵は自分の敵」というロジックだ。
一方、アサド政権に肩入れするロシアの側も、トルコはトルクメン人を支援してアサド政権に敵対させているとみていた。
こちらも「アサドの敵は自分の敵」である。
「敵・味方関係」に基づく敵意が「相互依存関係」に基づく理性をおしのけ圧倒していった。
その結果が今回の撃墜なのだ。
■プーチンも参っている
いったん敵意に火が点いてしまうと、そう簡単には元に戻らない。
かりに指導者たちが冷静に判断しようとしたところで、怒りをたぎらせた両国の民衆が許さないからだ。
とくに兵士2人の死者を出したロシア側はなおさらだろう。
だからといって、ロシアとトルコの対立がエスカレートするのかといえば、必ずしもそうとは言えない。
肝心かなめのISが勢力を伸ばしているからだ。
ロシアはISに対して当初、中途半端な立場を保っていた。
空爆で狙ったのがISでなくシリアの反体制派だったのは
「アサド政権を支援することがひいてはIS攻撃につながる」
「敵の敵を応援するのが敵への打撃になる」
という理屈である。
だが11月9日、エジプトのシナイ半島上空でロシア旅客機が墜落した事件はISによる爆破テロの可能性があると認めた後、ロシアはIS掃討に本腰を入れるようになった。
墜落原因をめぐって当初、ロシアがいかにも優柔不断に見えたのは、ISによる犯行と認めてしまうと、ロシア国内で「シリア空爆を始めたのが原因じゃないか」とプーチン政権批判が高まる事態を恐れたためだ。
今回のロシア軍機撃墜でも、ロシアは当初「地上から撃墜された」と言っていた。
トルコ軍の関与を認めると、トルコとの関係悪化に加えて、世論が激昂し沈静化が難しくなるのを恐れたからだろう。
プーチン大統領は強気一辺倒に見えて、実は世論を非常に気にしている。
そんな曲折はあったが、いまやロシアがISを敵とはっきり位置づけているのは間違いない。
自国旅客機を爆破されているのに「敵でない」などとはとても言えない。
それはトルコも同じである。
■日本のマスコミは各国の不協和を願っているのか?
トルコはISによる犯行とみられる自爆テロ、次いでトルコ軍兵士がISの攻撃で死亡した事件を受けて7月、初めてシリア内のIS拠点を空爆した。
それまでは米国などの空爆に追随していなかったが、自国民と兵士がISのターゲットになって方針転換に踏み切った(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/44454)。
トルコにとってもロシアにとっても、いまや主要敵はISなのだ。
ここが肝心だ。
トルコにとってのトルクメン人やロシアにとってのアサド政権は同胞、盟友にすぎない。
戦いの渦中にある戦士に向かって
「戦いの目的は友人を助けるためか、それとも自分の敵を倒すためか」
と問えば、多くの戦士は躊躇なく
「自分の敵を倒すため」
と答えるのではないか。
つまり、こういうことだ。
ISをめぐる「敵味方関係」が激化しているからこそ、ロシアとトルコ、さらにはフランスや米国を含む有志国連合は対IS戦線で協調できる可能性が高い。
ISは人質殺害やテロなどで米欧はもとよりロシアを含めてあまりに多くの国を敵に回してしまった。
もちろん日本もその1つである。
日本のマスコミでは、トルコによるロシア軍機の撃墜事件で「米欧とロシアの結束に亀裂が入った」とみる論調が多い。
あたかも、各国がうまく協調できない事態を願っているかのようだ。
そもそもマスコミは失敗やヘマが大好きなのだ。
だが、私の見立ては違う。
プーチン大統領がトルコの行為に憤る国内世論に配慮しなければならない難しさはあるだろう。
だからといって、ロシアが対IS戦線から離脱する事態は考えられない。
自国の旅客機を撃墜されているのだ。
いずれ、IS攻撃を再開するに違いない。
そうでなければ国内世論も収まらない。
■むしろ、真の問題は「ポストIS戦」である。
かつて第2次大戦で米英仏中ソ連の5大国を中心とする連合国側が日本とドイツに勝利した後、同じ勝者側である米国とソ連の間で冷戦がただちに始まったように、ISに勝利した後は今回のロシアとトルコ、さらには米仏などと新たな主導権争いが始まる可能性が高い。
各国はみな冷戦の歴史に学んでいる。
そうだとすれば、IS戦をどう戦うかは、IS戦後の秩序をどう自国有利に作り上げるかに直結していることを理解しているはずだ。
米仏、仏ロなど相次ぐ首脳会談を皮切りに、これから始まる各国の綱引きは「秩序が失われた世界の新しい秩序作り」をめぐる戦いでもある。
』
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