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ロイター図表
http://jp.reuters.com/news/world/uspolitics?graphicId=oil-production
原油の生産量と埋蔵量の多い国
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JB Pree 2015.11.14(土) 藤 和彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45256
中国と共倒れの道を歩むサウジアラビア
原油安の継続で経済が窮迫、このままで政変も
国際エネルギー機関(IEA)は11月10日発表した「2015年版世界エネルギー見通し」の中で、
「現在1バレル=40ドル台の原油価格の回復ペースは緩やかで、
80ドル程度に達するのは2020年になる」
と予測した。
2020年頃には米国のシェールオイル生産が日量約500万バレルをピークに達する
など、非OPEC諸国の原油生産が同約5500万バレルで頭打ちとなり、石油の需給が再びバランスするというのがその理由だ。
つまり、原油の供給過剰は2020年まで続くという展望である。
IEAは低油価が続いている原因の1つとして、価格維持より市場シェアの確保を優先するOPECの戦略を挙げている。
確かに今年後半に入り世界の原油生産に占めるOPECのシェアが高まりつつある(11月9日付日本経済新聞)。
9月時点でOPECのシェアは4月に比べて0.5ポイント上昇して約40%となった。
一方、米国のシェアは0.5ポイント低下して11.5%となった。
米国はシェールオイルの増産で2011年以降原油の輸入を削減してきたが、第3四半期の原油輸入量は日量平均約750万バレルと前期比約30万バレル増加した。
これは、OPEC加盟国であるナイジェリアとアルジェリアの輸出攻勢の成果である。
イラクも11月に入り米国への原油輸出を加速させている(11月12日付ブルームバーグ)。
米国では国内の精製設備の稼働率の上昇による取り崩し分を上回るペースで輸入が増加しているため、原油在庫の増加が止まらない。
10月末時点の米国の原油在庫は4.8億バレルを超え歴史的高い水準となっている。
OPECも世界的な石油生産の増加により原油在庫が少なくとも10年ぶりの高水準に達したことを認めた。
原油価格はOPECの増産傾向を警戒してブレント価格の下落が顕著になっている(11月12日時点で1バレル=45ドル台)。
ゴールドマン・サックスは「来年にかけて貯蔵能力が不足すれば、原油価格は1バレル=20ドル近くまで下げ余地がある」と懸念している(11月6日付日本経済新聞)。
■あくまでもシェアを確保したいOPEC
10月は若干減産したもの増産傾向が続くOPECは12月4日に総会を開催するが、関係者は「OPECに加盟していない主要産油国の減産協力が得られない場合、OPECは12月の総会で引き続き生産枠を据え置く可能性が高い」としている。
また、インドネシアが加盟国に復帰することを考慮し「生産目標を日量100万バレル引き上げ同3100万バレルにする可能性がある」ことも示唆している(11月11日付ブルームバーグ)。
OPECの実際の生産量が既に日量3100万バレルを超過していることから、この決定はただちに増産を意味するわけではないが、OPECがこれまでの戦略を変更しないことは明らかである。
OPECでは長期戦略に関する内部報告書の作成を進めてきたが、その完成を先送りしたようだ(11月9日付ウォール・ストリート・ジャーナル)。
内部報告書の原案には「OPECの原油需要が今後数年間で引き続き下押し圧力にさらされる」との見通しが示されており、「シェアの確保よりも原油価格の上昇」を求める加盟国の声が総会で高まることを事務局が恐れたからだろう。
石油天然ガス・金属資源機構によれば、
OPECは「原油価格が1バレル=約60ドルであれば、米国のシェア回復をそれほど許さずに自らの収入を増やすことができる」
と考えているようだ。
だが、現在の戦略のままでこれが達成されるのだろうか。
クウェートのOPEC代表は11月9日、「中東での増産で原油市場は5年間にわたって供給過剰の状態が続く」との見通しを示し、現在のOPECの戦略を暗に批判した。
しかし同じ湾岸産油国であるサウジアラビアは全く違った見方をしている。
サウジアラビアの副石油鉱物資源相を務めるアブドラアジズ王子は、「原油の高値が続かないのと同じで、長期にわたる安値も継続することはない」として、開発投資削減の効果により原油価格が再び上昇する可能性を強調した(11月9日付ブルームバーグ)。
世界の原油・天然ガスに関する開発投資額は過去5年間の平均で6300億ドルだが、今年は2000億ドル分の投資が削減された(日量約500万バレル規模のプロジェクトが延期または中止された)。
来年の投資額も減少する見込みである。
2年連続の投資削減は1980年代半ばの「逆オイルショック」後以降で初めてとなる。
しかし、逆オイルショック後に原油価格が21世紀に入るまで低迷したことから、投資の削減がただちに原油価格の上昇に結びつくとは考えにくいのではないだろうか。
■中国の原油輸入量が5カ月ぶりの低水準に
OPECで最も強気の姿勢を保ち続けているのはサウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相である。
国際エネルギーフォーラムに寄稿した記事では、
「石油需要はほどなく現行の原油価格水準の魅力を反映するとともに、アジアが数十年にわたり景気拡大の主要な原動力になる」
と指摘している。
彼がアジアにおける需要国として念頭に置いているのが中国であることは間違いない。
サウジアラビアは9月の中国の原油輸入に占めるシェアをロシアに奪われた
ことから、沖縄を拠点とした原油販売を加速している(10月16日付ブルームバーグ)。
国営企業であるサウジアラムコは、2010年以来、日本政府と共同で沖縄で自国の原油を備蓄している。
これを活用してアジアの石油会社に迅速に原油を供給することにより、他の産油国との販売競争に勝ち抜こうとしているのだ。
11月8日に明らかになった中国の10月の原油輸入量は、前月の
2795万トンから2635万トンまで落ち込み、5カ月ぶりの低水準となった。
筆者が注目しているのは、輸入数量は8月とほぼ同量であるにもかかわらず、輸入金額が8月の113.5億ドルから93.4億ドルに大幅に減少していることである。
8月のWTI価格が10月のWTI価格より高かったことを考慮すれば、熾烈な値引き合戦が行われたことが見てとれる。
■目前に迫る中国経済の「二番底」
中国経済は、石炭・鉄鋼・金属・石油・化学工業などの生産過剰、不動産バブルの崩壊、地方政府の債務増大によって、深刻な状況にある。
10月の中国の輸出は人民元が下落したのにもかかわらず前年比6.9%の減少だった。
生産者物価も44カ月連続でマイナスであり、資金繰りに困った企業が続出している。
しかし、もはや銀行融資を当てにすることはできない。
人民銀行が再三にわたり利下げを行ったにもかかわらず、収益悪化に苦しむ銀行業界の10月の新規融資額は前月に比べて半減した。
中国の銀行の不良債権の対GDP比率は公式ベースでは1.5%だが、これを信じる専門家はいない。
「不良債権比率は20%を超えており、1990年代の日本の水準を上回る危険水域にあるため、早晩ゼロ金利政策が導入される」
とする指摘が出ているという(11月5日付ブルームバーグ)。
株式市場は復調しつつあるとはいえ、株価暴落以降新規株式公開(IPO)は停止されており、資金調達の道は閉ざされている。
企業にとって頼みの綱は社債の発行だが、このところ社債のデフォルトが相次いでおり、暗雲が立ち込めている。
11月4日、石炭生産会社の恒鼎実業は約1.9億ドルの社債の元本と利払いが期日通り履行できなくなり、事実上のデフォルト状態となった。
翌5日には、香港に上場しているセメント会社の中国山水水泥が20億元(約390億円)の債務返済は不確実だということが明らかになっており、専門家の間では「今後大型国有企業を含め連鎖倒産が増加する」との見方が高まっている。
株式市場が復調の気配を見せるなど一時のパニックは収まったかに見える中国経済だが、
投資家が債券から株式に再び資金を戻しているに過ぎなく、
中国経済の「二番底」が目の前に迫っている。
この危機的な状況を脱却するために必要なのは国民の消費を伸ばすことだ。
株式バブルが崩壊してしまった現在、最期の切り札が一人っ子政策の廃止である。
これにより中国政府は「新生児の数が年間300万人増加し、GDP成長率を0.5%押し上げる」としている。
しかし、日本と同様になんらかの優遇措置を講じなければ、新生児の数が増えることはないだろう。
青息吐息の中国だが、ポストチャイナの筆頭格であるインドも不調である。
大手企業は中核利益の伸びが昨年の高水準から大幅に減っているため、アジアで最も高い債務負担率が重荷となって設備投資がしわ寄せを受けている(11月10日付ロイター)。
今後、インドの原油需要が順調に伸びる状況にはない。
ゴールドマン・サックスの資産運用部門が9年にわたって運用してきたブラジル・ロシア・インド・中国に投資するBRICsファンドを運用成績の低迷を理由に解散させた(11月9日付ブルームバーグ)ことも示唆的である。
同社のエコノミストだったオニール氏が
BRICsと命名し、過去に例を見ない投資ブームのきっかけとなって14年が経過したが、
最大の新興市場である4カ国の経済は今や失速しつつある。
■サウジアラビアで政変の危機
このような状況下で、OPECが12月の総会で減産措置などの具体的な対策を打ち出さなければ、今後10年間にわたり原油価格が低迷する可能性が出てきている。
前述のIEA報告書は「原油安が継続すると、中東などの低コスト産油国への供給依存が高まり、特にアジアでエネルギー安全保障に対する懸念が増大する恐れがある」と指摘している。
特にサウジアラビアを巡る状況はますます怪しくなっている。
イランメデイアによれば、11月9日、サウジアラビア主導の連合軍の報道官がイエメンでの軍事作戦の失敗を認めたという。
サウジは昨年の軍事予算(808億ドル)を超える戦費を投じて投じており、政府は厳しい財政事情からやむなく国際市場で資金調達を行う準備を進めている(11月12日付ウォ―ル・ストリート・ジャーナル)。
それにもかかわらず「イエメン前大統領の職務復帰」という初期の目的が達成できなければ、サルマン新体制の威信は地に落ちてしまうだろう。
新体制に不満を有する王族は多いとされている。
最も注目されるのは前国王の息子、ムトイブ・ビン・アブドウーラー国家警備隊司令官だ。
12万人以上の兵員を擁し、クーデター防止などの治安に維持に当たる組織の長である彼が動けば、サウジアラビアで政変が起こりかねない。
米国のシェール企業の動向に目を転じると、シェールオイルの3大生産地の1つであるバッケン地区で過去1年で計19企業が経営破綻した。
米FRBは11月6日「原油安を受けエネルギー関連の問題債権が2014年以降4倍の342億ドルに膨らんだ」との見方を明らかにしており、今後の動向は引き続き要注意である。
以前、筆者は「原油価格の暴落が、シェール企業の大量倒産による金融危機とサウジアラビアの政変を引き起こすと予言した(参照:『原油暴落で変わる世界』日本経済新聞出版社)。
その予言どおり事態が進展しているとするのはうがちすぎだろうか。
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