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CNNニュース 2015.11.05 Thu posted at 11:45 JST
http://www.cnn.co.jp/world/35072996.html
中国潜水艦、日本近海で米原子力空母を追跡
ワシントン(CNN)
米国防当局者は、日本の近海で先月、米空母が中国の潜水艦に追跡されていたことを明らかにした。
太平洋の海域をめぐる両国の戦略的意図が改めて浮き彫りになった。
米当局者によると、中国のキロ級攻撃型潜水艦が10月24日、
少なくとも半日にわたり、日本の南岸沖で米原子力空母「ロナルド・レーガン」を追跡
した。
どの程度の距離まで接近したのかは明言しなかったが、
「一時的な遭遇を超える」事態だった
としている。
南シナ海で中国が建設する人工島から12カイリ(約22キロ)以内の海域を米海軍の駆逐艦が航行したのは、この3日後だった。
日本近海での行動には安全を脅かすような兆候はなく、米中艦の間で通信は交わさなかったという。
米側は対潜哨戒機で中国の潜水艦の監視を続けた。
中国の当局者はこの件についてコメントしていない。
米国防当局者は今回の事態について、安全を脅かすような性質のものではないと強調し、
中国は日米の合同演習が行われるたびに「様子を見にやって来ることがある」と説明している。
だが専門家によれば、こうした近距離での航行には常に不安が付きまとう。
冷戦時代には米国と旧ソ連の艦船や潜水艦が世界中の海で互いを追跡。
1984年には日本海でソ連の潜水艦と米国の空母が衝突し、ソ連艦が損傷する事故も発生した。
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『
JB Press 2015.11.12(木) 北村 淳
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45225
日本周辺海域も「波高し」、
中国潜水艦が再び米軍空母に接近
あの手この手で撹乱作戦を繰り出す中国
10月24日、中国海軍潜水艦が横須賀から釜山沖に向かうアメリカ海軍空母「ロナルド・レーガン」に接近していた事実が、先週、アメリカのメディアによって公表された。
この“接近劇”は、ペンタゴンやアメリカ海軍当局が公式かつ積極的に公表したものではない。
だが、この種の情報に強い保守系メディアの「ワシントン・フリー・ビーコン」の取材に対して、米海軍は遭遇の事実を否定しなかった。
10月27日には、南シナ海でアメリカ駆逐艦「ラッセン」が中国人工島12カイリ内水域を通航するFON作戦(航行自由原則維持のための作戦、以下FONOP)を実施した。
そしてその翌日、今度は2機編隊のロシア爆撃機Tu-142「ベア」が、韓国海軍と合同訓練中の「ロナルド・レーガン」に高度500フィート、距離1マイル以内に接近したため、空母艦載戦闘機が緊急発進する事態も生じた(爆撃機ベアは長距離航続性能のために、しばしば今回のように偵察任務に投入されている)。
中国海洋戦力の強化と、ロシア海洋戦力が復活しつつあることに伴い、日本周辺海域はかつての米ソ冷戦時代よりも“騒がしい海”へと変貌しつつあるようだ。
■接近したのは「改良キロ型」潜水艦?
中国潜水艦は少なくとも半日以上にわたって「ロナルド・レーガン」を近距離で追尾していたという。
この事実そのものをアメリカ軍当局は否定していない。
しかし、潜水艦に関するこの種の情報は、それが自国の潜水艦であれ他国のものであれ通常は発表されないため、今回の事案に関する詳細な情報は確認されていない。
アメリカ海軍関係者たちによれば、少なくとも3つの点が重要である。
第1に、接近してきた中国潜水艦の種類は?
第2に、中国潜水艦は2006年の「宋型潜水艦浮上事件」のように浮上したのか?
そして最も重要なのが、アメリカ空母部隊は中国潜水艦の接近をいつから捕捉していたのか?
中国海軍の潜水艦配置状況から判断すると、今回「ロナルド・レーガン」が遭遇した中国潜水艦は「改良キロ型」と考えられている。
ロシアで建造され中国海軍が10隻輸入した「改良キロ型」潜水艦は、ロシアでは「プロジェクト-636」と呼ばれている通常動力型攻撃潜水艦である。
この潜水艦は極めて静粛性に優れているとともに、やはりロシアが開発した強力な「クラブ」対艦ミサイルを装填している。
●中国海軍キロ636型潜水艦
■中国海軍お得意の政治的デモンストレーション
「孫子」の伝統を尊重する中国共産党、そして人民解放軍は、潜水艦に限らず軍事力を政治的に多用する。
今回の“潜水艦接近劇”も政治的メッセージを発する意図があったと考えられる。
というのは、アメリカ連邦議会などでは9月以降「南沙諸島問題で中国を牽制すべきである」との声が高まり、10月に入ってからはアメリカ海軍によるFONOPの実施が表明されていた。
したがって中国側としても、あらゆる手段を用いてアメリカ海軍を牽制しようとするのは当然といえる。
そこで中国海軍は、かねてより予定されていた米韓海軍合同演習に向かうアメリカ空母の直近に潜水艦を浮上させたのだと考えられる。
これは、以前よりしばしば中国海軍が実施している政治的デモンストレーションの方法である。
この米韓海軍合同演習に続く11月2日から5日にかけて、アメリカ太平洋軍司令官ハリス海軍大将が中国を訪問することになっていた。
このようなアメリカ軍当局の要人による中国訪問に合わせて、“ちょっとした軍事的威嚇”を行うのは人民解放軍の常道である。
極めて似通った前例が、2006年に発生している。「宋型潜水艦浮上事件」である。
この事件は、アメリカ太平洋艦隊司令官ラフヘッド海軍大将(2006年当時)が訪中する直前に起きた。
すなわち、沖縄沖で訓練中の横須賀を母港としていた空母「キティーホーク」の直近5マイルに、中国海軍「宋型」潜水艦が浮上したのだ。
日常生活で5マイル(8キロメートル)といえば“真横”というわけではない。
だが、海軍の常識では5マイルというのは対艦ミサイルどころか魚雷でも攻撃可能な“至近距離”である。
そして、接近距離よりも深刻な問題は、中国潜水艦が浮上するまで「キティーホーク」側は中国潜水艦の接近に気づかなかったという事実であった。
この2006年の事件と今回の“接近”は、アメリカ海軍高官の訪中の直前に、訓練中のアメリカ空母に潜水艦を接近させる、というタイミングと手法が一致している。
したがって、
今回も「おそらくは魚雷攻撃距離内で、これ見よがしに浮上したに違いない」と考えられている
わけである。
また、
もしも浮上しなかった場合には、
「中国潜水艦はアメリカ空母に接近したものの、その行動は逐一把握されており、戦時ならば潜水艦は簡単に沈められていた」とアメリカ海軍側に逆宣伝されてしまう
ことになりかねない。
だから、中国潜水艦はあえて浮上した。
敵軍艦近辺で浮上するという“潜水艦にあるまじき”機動を行うことで、「接近を見せつけた」のだとも考えられる。
■空母戦隊は中国潜水艦の追尾に気づいていたのか?
中国潜水艦が浮上したのか否かは、現在のところ「ロナルド・レーガン」幹部と中国潜水艦以外には一部の米海軍首脳と中国海軍首脳しか知らない事実である。
それ以上に謎なのは、
「ロナルド・レーガン」空母打撃群は「中国潜水艦の追尾にどの時点から気づいていたのか?」
というタイミングである。
おそらくこれは明らかにされないであろう。
今回の“遭遇事件”を起こしたと考えられる「改良キロ型」潜水艦は、2006年の主役であった「宋型」潜水艦に比べると飛躍的に静粛性に優れている。
また、「9.11」以降アメリカ海軍は空母自体の対潜水艦戦能力を強化はしていない。
そのため、今回もまた「中国潜水艦が浮上するまで探知していなかったのではないか?」と考える人々もいる。
一方、反対の意見を唱える者もいる。「ロナルド・レーガン」には合わせて4隻の水上戦闘艦が同行しており、対潜水艦戦能力は十二分に備えていた。
それらの空母打撃群は、中国潜水艦が追尾している状況を長い間承知の上でそのままにしていたのである。
そして、空母を追尾していた中国潜水艦は、ピッタリとアメリカ攻撃原潜が追尾していた。
要するに、米海軍は数時間にわたって中国潜水艦の各種情報を収集していたのであり、中国潜水艦の突然の浮上に驚いたわけではない、との反論も少なくない。
■米国は日本の潜水艦戦力増強に期待
いずれにせよ、中国海軍潜水艦戦力が増強を続けているのに対して、アメリカ海軍潜水艦戦力は足踏みを続けているという現実は事実である。
現在、アメリカ海軍が東シナ海や南シナ海を含むアジア太平洋海域での作戦用として割り当てられる攻撃原子力潜水艦は30隻である。
そのうち、この海域で作戦に投入できるのは、最大で10隻であろう。
ただし、太平洋艦隊の担当水域はインド洋にまで及ぶため、10隻のすべてを東シナ海や南シナ海に投入するわけにはいかない。
これに対して、中国海軍は「宋型」「キロ型」「改良キロ型」、そしてさらに静粛性が高いと言われている「元型」通常動力潜水艦を合わせて40隻ほど保有している。
また、比較的新型の攻撃型原潜と最新鋭の攻撃型原潜も少なくとも6隻は運用していると考えられている。
そして、中国海軍のそれらの潜水艦戦力は、より新型に置き換えられつつ、数も増大している。
2020年には通常動力と原子力双方の攻撃潜水艦は合わせて60隻に達することは確実と見られている。
一方、アメリカ海軍は現行の主たる攻撃原潜である「ロサンゼルス級」を「バージニア級」に更新する作業は遅々として進んでいない。
このような両海軍の潜水艦整備状況から、
「それほど遠くない将来に、中国潜水艦戦力がアメリカのそれを凌駕しかねない」
と危惧している海軍関係者も少なくない。
そして、アメリカ潜水艦戦力の相対的戦力低下を補うのは「日本の通常動力潜水艦戦力増強と対潜水艦戦力増強である」と同盟国日本への期待が寄せられていることも、私たちは知っておくべきであろう。
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JB Press 2015.11.11(水) 川島 博之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45196
アメリカを怒らせ、自滅への道を歩み始めた中国
南シナ海問題は満州国建国と同じ構図
中国が領有を宣言している島の領海に米国の駆逐艦が入った。
このことについては既に多くのことが報道されているが、ここでは少し焦点を引いて、より長い時間スケールから考えてみたい。
■90年前の日本を彷彿とさせる中国
100年後の歴史の教科書は、中国が南シナ海の島を埋め立てたことは大失敗であったと書くことになるだろう。
それは、戦前に日本が満州国を作ったようなものである。
19世紀までは力のある国が海外の島などを勝手に自国の領土に組み入れても誰も文句を言わなかった。
だが、20世紀に入ると国際世論なるものが醸成されて、力を持って勝手に領土を広げることはできなくなった。
満州事変は1931年。
日本はそれが原因で国際連盟を脱退しなければならなくなった。
その後に起きた国際的な孤立とあの戦争については、今ここに書く必要はないだろう。
●「赤い舌」などと称される九段線。中国が南シナ海での領有権を主張するために引いている破線(緑色)。(画像はwikipediaより)
中国による南シナ海の領有宣言は満州国の建国によく似ている。
★.誰がどう見ても「赤い舌」と呼ばれる水域は中国の領海には見えない。
中国は明の時代に鄭和が領土宣言したなどと言っているが、
そのような歴史物語を持ち出すこと自体が国際的な常識とはかけ離れている。
本稿の目的は中国を非難することではない。
★.南シナ海の領有宣言が中国の未来に及ぼす影響を冷静に分析しようとする
ものである。
領有宣言の背景には、過去20年間の中国の奇跡の成長がある。
中国は大国になった。そして、軍事強国にもなった。
その中国はアヘン戦争以来、屈辱の100年を経験している。
強国になれば、過去の屈辱をはらしたいと思うのは歴史の常だろう。
日本はペリーによって無理やり開国させられた。
その屈辱をはらすために「坂の上の雲」を目指して駆け登った。
そして第1次世界大戦の戦勝国になって大国の仲間入りを果たすと、高揚感を押さえることができずに対外膨張策に打って出た。
現在の中国は90年ほど前の日本によく似ている。
■9億人の農民は置き去りのまま
そんな中国には今も多くの農民がいる。
現在でも農村に6億人もの人が住んでいる。
都市に住む人は7億人。その中の3億人は農村からの出稼ぎであり、戸籍も農民のまま。
「農民工」と呼ばれて低賃金労働に甘んじている。
奇跡の成長の恩恵を受けたのは、
都市に住み都市戸籍を持っていた4億人だけである。
今、中国政府が真っ先に行わなければならないことは、成長から取り残された9億人のもなる農民戸籍を有する人を豊かにすることだ。
農民が豊かになれば中国はもっと強い国になれる。
行うべきは国営企業の改革と規制の撤廃である。
その目的は、既得権益層である都市戸籍を持つ人々からお金を奪い取って、農民戸籍の人々に再配分すること。
もちろん、中国共産党も頭ではこのことは理解している。
だが、どの国でも既得権益層の利害に切り込むことは難しい。
掛け声だけに終わることが多い(これについては『中国が民主主義導入を嫌う本当の理由』をご参照いただきたい)。
■「国威発揚」の代償は大きい
中国は改革よりも対外膨張政策に力を注ぎ始めた。
その目的は国威発揚。
それによって、成長から取り残された人々の不満をそらしたいと考えている。
だが、対外膨張政策は高くつく。
南シナ海を領有したところで、そこから得られる利益はたかが知れている。
海底油田があるとされるが、原油価格が低迷している現在、そんな海底を掘っても採算ベースには乗らない。
また、日本などを封じこめようとして船舶の航行を本気で邪魔すれば、それは大戦争の原因になりかねない。
つまり、領有したところでなんのメリットもない。
それは日本が作った満州国によく似ている。
その一方で、領有宣言によって東南アジアやオーストラリアの不信を買い、挙句の果てアメリカまで怒らせてしまった。
その反動で
イギリスを抱き込もうと多額の投資を行ったが、
冷静に考えればあの老大国に成長産業など生まれるはずもない。
投資の大半はムダになるだろう。
習近平がバッキンガム宮殿で飲んだワインは途方もなく高いものに付くはずだ。
また、周辺国を味方に付けるべくAIIB(アジアインフラ投資銀行)を作って資金をばら撒こうとしているが、
いくらお金を撒いたところで「赤い舌」の領有を言い続ければ、周辺国の信頼を勝ち得ることはできない。
■中国経済の低迷は目に見えている
中国はGDP世界第2位の大国になったと言っても、1人当たりのGDPは8000ドルであり、中進国に過ぎない。
大国面してパワーゲームを繰り広げるのはまだまだ早い。
習近平は対外膨張政策に打って出ることにしたが、それは、歴史の法廷において大失敗との判決が下されると思う。
泉下の鄧小平も、まだまだ「養光韜晦」(能ある鷹は爪を隠す)を続けるべきだと思っているはずだ。
習近平はあの世で鄧小平に叱られることになるだろう。
奇跡の成長を成し遂げることができた要因の1つに、
米国が中国の製品をたくさん買ってくれたことがある。
これまで米国は日本を牽制する意味もあって、中国に甘かった。
それが中国の奇跡の成長を可能にした。
だが、強硬路線は経済成長に欠かせない米国の支持を台無しにしてしまった。
米国を怒らせては輸出の拡大など望むべくもない。
次の20年、中国の成長率は大幅に鈍化しよう。
そして成長が鈍化すれば、中国指導部内の権力闘争が激化する。
天安門事件以来、中国の内政が安定していたのは経済が順調に発展していたからに他ならない。
成長が鈍化し、もしマイナス成長に陥るようなことがあれば、共産党内部で深刻な路線対立が起きる。
そして、その対立は経済成長を一層減速させることになろう。
22世紀の教科書は、日本が満州国を打ち立てたことによって自滅の道を歩んだように、南シナ海の領有を宣言することによって中国は長期低迷に陥ったと書くに違いない。
中国は曲がり角を迎えた。
そして、それを決定的にしたのはこの9月に行われた習近平訪米である。
未来の教科書は、ミュンヘン会談や松岡洋右による国連脱退宣言のように、それを歴史のターニングポイントとして大きく扱うことになるだろう。
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JB Press 2015.11.11(水) 川島 博之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45196
アメリカを怒らせ、自滅への道を歩み始めた中国
南シナ海問題は満州国建国と同じ構図
中国が領有を宣言している島の領海に米国の駆逐艦が入った。
このことについては既に多くのことが報道されているが、ここでは少し焦点を引いて、より長い時間スケールから考えてみたい。
■90年前の日本を彷彿とさせる中国
100年後の歴史の教科書は、中国が南シナ海の島を埋め立てたことは大失敗であったと書くことになるだろう。
それは、戦前に日本が満州国を作ったようなものである。
19世紀までは力のある国が海外の島などを勝手に自国の領土に組み入れても誰も文句を言わなかった。
だが、20世紀に入ると国際世論なるものが醸成されて、力を持って勝手に領土を広げることはできなくなった。
満州事変は1931年。
日本はそれが原因で国際連盟を脱退しなければならなくなった。
その後に起きた国際的な孤立とあの戦争については、今ここに書く必要はないだろう。
●「赤い舌」などと称される九段線。中国が南シナ海での領有権を主張するために引いている破線(緑色)。(画像はwikipediaより)
中国による南シナ海の領有宣言は満州国の建国によく似ている。
★.誰がどう見ても「赤い舌」と呼ばれる水域は中国の領海には見えない。
中国は明の時代に鄭和が領土宣言したなどと言っているが、
そのような歴史物語を持ち出すこと自体が国際的な常識とはかけ離れている。
本稿の目的は中国を非難することではない。
★.南シナ海の領有宣言が中国の未来に及ぼす影響を冷静に分析しようとする
ものである。
領有宣言の背景には、過去20年間の中国の奇跡の成長がある。
中国は大国になった。そして、軍事強国にもなった。
その中国はアヘン戦争以来、屈辱の100年を経験している。
強国になれば、過去の屈辱をはらしたいと思うのは歴史の常だろう。
日本はペリーによって無理やり開国させられた。
その屈辱をはらすために「坂の上の雲」を目指して駆け登った。
そして第1次世界大戦の戦勝国になって大国の仲間入りを果たすと、高揚感を押さえることができずに対外膨張策に打って出た。
現在の中国は90年ほど前の日本によく似ている。
■9億人の農民は置き去りのまま
そんな中国には今も多くの農民がいる。
現在でも農村に6億人もの人が住んでいる。
都市に住む人は7億人。その中の3億人は農村からの出稼ぎであり、戸籍も農民のまま。
「農民工」と呼ばれて低賃金労働に甘んじている。
奇跡の成長の恩恵を受けたのは、
都市に住み都市戸籍を持っていた4億人だけである。
今、中国政府が真っ先に行わなければならないことは、成長から取り残された9億人のもなる農民戸籍を有する人を豊かにすることだ。
農民が豊かになれば中国はもっと強い国になれる。
行うべきは国営企業の改革と規制の撤廃である。
その目的は、既得権益層である都市戸籍を持つ人々からお金を奪い取って、農民戸籍の人々に再配分すること。
もちろん、中国共産党も頭ではこのことは理解している。
だが、どの国でも既得権益層の利害に切り込むことは難しい。
掛け声だけに終わることが多い(これについては『中国が民主主義導入を嫌う本当の理由』をご参照いただきたい)。
■「国威発揚」の代償は大きい
中国は改革よりも対外膨張政策に力を注ぎ始めた。
その目的は国威発揚。
それによって、成長から取り残された人々の不満をそらしたいと考えている。
だが、対外膨張政策は高くつく。
南シナ海を領有したところで、そこから得られる利益はたかが知れている。
海底油田があるとされるが、原油価格が低迷している現在、そんな海底を掘っても採算ベースには乗らない。
また、日本などを封じこめようとして船舶の航行を本気で邪魔すれば、それは大戦争の原因になりかねない。
つまり、領有したところでなんのメリットもない。
それは日本が作った満州国によく似ている。
その一方で、領有宣言によって東南アジアやオーストラリアの不信を買い、挙句の果てアメリカまで怒らせてしまった。
その反動で
イギリスを抱き込もうと多額の投資を行ったが、
冷静に考えればあの老大国に成長産業など生まれるはずもない。
投資の大半はムダになるだろう。
習近平がバッキンガム宮殿で飲んだワインは途方もなく高いものに付くはずだ。
また、周辺国を味方に付けるべくAIIB(アジアインフラ投資銀行)を作って資金をばら撒こうとしているが、
いくらお金を撒いたところで「赤い舌」の領有を言い続ければ、周辺国の信頼を勝ち得ることはできない。
■中国経済の低迷は目に見えている
中国はGDP世界第2位の大国になったと言っても、1人当たりのGDPは8000ドルであり、中進国に過ぎない。
大国面してパワーゲームを繰り広げるのはまだまだ早い。
習近平は対外膨張政策に打って出ることにしたが、それは、歴史の法廷において大失敗との判決が下されると思う。
泉下の鄧小平も、まだまだ「養光韜晦」(能ある鷹は爪を隠す)を続けるべきだと思っているはずだ。
習近平はあの世で鄧小平に叱られることになるだろう。
奇跡の成長を成し遂げることができた要因の1つに、
米国が中国の製品をたくさん買ってくれたことがある。
これまで米国は日本を牽制する意味もあって、中国に甘かった。
それが中国の奇跡の成長を可能にした。
だが、強硬路線は経済成長に欠かせない米国の支持を台無しにしてしまった。
米国を怒らせては輸出の拡大など望むべくもない。
次の20年、中国の成長率は大幅に鈍化しよう。
そして成長が鈍化すれば、中国指導部内の権力闘争が激化する。
天安門事件以来、中国の内政が安定していたのは経済が順調に発展していたからに他ならない。
成長が鈍化し、もしマイナス成長に陥るようなことがあれば、共産党内部で深刻な路線対立が起きる。
そして、その対立は経済成長を一層減速させることになろう。
22世紀の教科書は、日本が満州国を打ち立てたことによって自滅の道を歩んだように、南シナ海の領有を宣言することによって中国は長期低迷に陥ったと書くに違いない。
中国は曲がり角を迎えた。
そして、それを決定的にしたのはこの9月に行われた習近平訪米である。
未来の教科書は、ミュンヘン会談や松岡洋右による国連脱退宣言のように、それを歴史のターニングポイントとして大きく扱うことになるだろう。
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