2015年11月16日月曜日

底が抜けた中国経済(11):中国の限界 「共産党独裁・自由主義経済」が破綻の危機

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ロイター 2015年 11月 16日 15:24 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/11/16/china-economy-officials-idJPKCN0T50ES20151116?sp=true

焦点:中国の汚職撲滅運動、国内経済に影 地方幹部ら「職務怠慢」

[香港 15日 ロイター] -
  中国指導部が進める汚職撲滅運動が国内経済に影を落としている。
 自身が標的にならないよう目立った行動を避けるため、プロジェクトの承認や企業との契約に及び腰になる地方政府幹部らの「職務怠慢」が背景。
 中国経済が減速するなか、中央政府によるインフラ整備計画への影響が懸念されている。

 国家発展改革委員会(発改委)は今年1─10月に総額1兆9000億元(3000億ドル)の投資プロジェクトを承認した。
 ただ、会計検査当局の推計によると、雲南省の鉄道計画が当局者の怠慢で5年遅れていることも含め、総額450億ドルのプロジェクトが予定通り進んでいないという。

 もともと地方当局者は仕事を進めるうえで、常にルールに則って調達活動を行ったり、土地使用権を認めたりしていたわけではない。
 ただ、習近平国家主席が就任以来、「(地位の高低に関わりなく)『トラ』も『ハエ』もたたく」との反腐敗キャンペーンを展開しているなかで、自身の過去の行状に目を向けられるのを恐れている。

 江西省のある当局者は匿名を条件に
 「多くの幹部は仕事をやればやるほど、面倒に巻き込まれやすくなると考えている」
と指摘。
 「地方の当局者は中央政府の政策措置を完全に実行しているわけではない」
と話す。

 3月に全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で行われた報告によると、検察当局は2014年、県級以上の公務員4040人を摘発。
 1日あたり平均で11人となる計算だ。

 しかし、恐れから職務怠慢に走っても先にあるのはいばらの道だ。

 国営メディアは9月、公金を適切に支出せず、プロジェクトに遅れを生じさせたなどとして、約250人の当局者が処罰されたと報道。
 李克強首相もこれまでに幾度となく、当局者の職務怠慢を非難している。

■<アメとムチ>

 李克強首相は10月、省級幹部を前に
 「地方に一段の決定権を与え、仕事を積極的に進める意欲と能力がある地方当局者をさらに支援すべきだ」
と発言。
 アメとムチで地方のやる気を引き出す意向を示した。

 中国の1─10月固定資産投資は前年比10.2%増と、2000年以来の低い伸びにとどまった。
 中国はインフラプロジェクトに民間投資を呼び込もうとしているが、リターンの低さや法的保護の欠如が敬遠され、思うような成果が得られていない。

 発改委の研究員は
 「地方の支援なくして経済成長率を安定させることは非常に難しい。
 民衆は汚職撲滅を歓迎しているが、一部幹部の職務怠慢という副作用ももたらしている」
と述べた。

 汚職撲滅運動では経済成長至上主義の幹部も多くが摘発された。

 世界最長の高速鉄道網の建設を推し進め、「大躍進の劉」と呼ばれた劉志軍・元鉄道相は、汚職と権力乱用の罪で2013年に執行猶予付きの死刑判決を受けた。

 習近平国家主席は反腐敗キャンペーンを進めつつ、「汚職を手掛けられないような」機構改革とシステム構築を目指しているもようだ。

 浙江省のある当局者は匿名を条件に
 「汚職撲滅運動は続くだろうが、汚職問題を一夜で解決することはできない。
 景気を押し上げることができなければ、全てが無駄になるため、中央政府は一定の路線修正を迫られる可能性もある」
と語った。

(Kevin Yao記者 翻訳:川上健一 編集:加藤京子)



Business Journal 2015/11/15 22:31 文=渡邉哲也/経済評論家
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151115-00010003-biz_bj-nb

中国の限界 「共産党独裁・自由主義経済」が破綻の危機

 不動産や株式のバブル崩壊が伝えられる中国では、国際競争力が失われる中で、企業が財テクにいそしんでいたのも事実である。

 日本企業も、バブル末期には不動産や株式をはじめ、さまざまな商品に投資を重ね、財テクにうつつを抜かしていた。
 中国もまったく同様で、資源をはじめとしたさまざまな商品取引において、非常に大きな買いポジションを保持していた。
 簡単にいえば、資源などを利用して投機行為を行っていたわけだ。

 しかし、そういった中国の投機行為が減少したことが、世界的な資源バブル崩壊の大きな要因ともいわれている。
 中国では、深刻な実体経済の悪化に加え、不動産価格の下落や銀行の貸し渋り、貸し剥がしが短期間で一気に進む可能性が高い。

 また、根本的な問題として、中国の経済構造も大きな課題をはらんでいる。
 中国の経済構造は「共産党独裁・自由主義経済」ともいうべき、非常にゆがんだものであり、自由経済と計画経済の“いいとこ取り”をしている状態だ。

 しかし、バブル崩壊を受けて、いよいよ「計画経済か、自由経済か」という選択を迫られることになるだろう。
 例えば、
★.自由経済化を進めた場合、中国政府はバブル崩壊を食い止めるすべを持っていない。
★.計画経済に進んだ場合、国際ルールを無視した一方的な運用が可能になるため、
 企業の大量倒産を免れるなど、バブル崩壊のショックは緩やかなものになる。

★.「自由経済化=バブル崩壊の助長」
  「計画経済化=バブル崩壊の抑制」
という基本構造になっているわけだ。
 しかし、中国経済が自由化されるということは、あり得るのだろうか。
 自由化というのは、金融面だけの問題ではない。経済の自由化とは「ヒト・モノ・カネ」の3つの要素が自由に移動できることであり、それらは市場原理に委ねるというのが原則である。

 「ヒト・モノ・カネ」が自由に動けば、それに伴って情報など有形無形のさまざまな要素も動く。
 必然的に、政治も自由化せざるを得なくなる
だろう。
 8月に、中国・天津市で発生した大規模爆発事故のニュースが世界を駆け巡った。
 あのニュースが大々的に報じられた背景には、天津が経済技術開発区であり、自由貿易試験区であったという要素がある。

■天津の大爆発が大々的に報じられたワケ

 中国では、何か事故が起きると、責任回避のために証拠を隠滅したり、情報を隠蔽するのが常である。
 しかし、天津には日本人をはじめとした外国人が多数存在していたため、情報隠蔽ができなかった。
 こういったことを鑑みると、自由化は中国共産党の現行体制を脅かすものであるともいえるだろう。

 中国の大企業の多くはいまだに国有であり、そうでなくても、中国共産党の幹部が実質的なトップやナンバー2に座っているのが実態だ。
 本当に自由化を進めるのであれば、この中国共産党の独裁体制を崩壊させる必要がある。
 すべてを民営化して、市場原理に任せることになるため、当然といえば当然だ。

 しかし、その方向に進むということは中国共産党の崩壊につながるという、ジレンマを抱えている。
 つまり、中国において、これ以上の自由化は事実上不可能ともいえるわけだ。

 また、中国は人民元の国際化を進めているが、「国際化=自由化」ということも理解する必要がある。
 当たり前だが、国際化するということは、国際的なルールに従うということだ。
 中国の“マイルール”を国際金融市場に持ち込むことは許されない。

 確かに、世界の国々は、これまで中国の自己中心的な振る舞いを、ある程度は許容してきた。
 しかし、それは中国が自由化や民主化を進めるという前提の下であり、あくまで段階措置として認めてきただけである。
 最終的に中国のルールを国際市場のルールにすることなど、許されるわけもない。

 このような事情や背景を考慮すると、中国経済はあらゆる面で限界を迎えているといえるだろう。



YAHOOニュース 2015年11月15日 19時58分配信 団藤保晴  | ネットジャーナリスト、元新聞記者
http://bylines.news.yahoo.co.jp/dandoyasuharu/20151115-00051489/

中国変調、政治ばかりか経済の民主化も遠のく

 中国が中進国の罠に陥らずに経済発展するには政治の民主化が必要と見られているのに、経済の民主化まで遠のく事態が進行しています。

 株式信用取引の証拠金率を100%に引き上げ、巨大国有企業の寡占強化などです。
 ネットでの言論の自由、大学での教育の自由まで奪ってきた中国共産党・習近平指導部は、あらゆる自由化・民主化を押しつぶす時代錯誤に突き進むようです。
 国土全体に広がる深刻な大気汚染が改善されない点に象徴されるように、国民の下からの批判を封印して官僚組織が真っ当に機能するはずがありません。

 信用取引の証拠金率は50%ですから、現在は証拠金の2倍の売買ができていますが、23日から100%にすればもう信用取引とは呼べない事態です。
 融資残高は22兆円の規模でした。

 ウォールストリートジャーナルの《上海・深セン取引所、信用取引の証拠金率引き上げ》はこう伝えました。
 《上海証券取引所は声明で「相場の回復に伴い、信用取引の規模や売買代金が再び急増している」と指摘。
 今回の措置は「投資家の正当な権利を保護するとともに、システミックリスクを回避する」ことが狙いだと説明した。
 また、市場の健全な動きを促すだろうと述べた》。
 何が健全か当局の見解は以下のようです。

 《中国の株式取り締まり強化は「みせしめ」-萎縮する証券業界》が報じる通りなら、海外で見られる普通の売りも買いも出来ません。
 《ファンドマネジャーらによれば、規制当局者は、株式取引所からブローカーへの警告書簡を通じて、当局が何を好み何を好まないかを告げている。
 例えば株価が上昇しているときに買い注文を積み上げるのは悪いことだ。
 市場が下落している時に、株を投げ売りすることも警告対象になるという》

 7月の株式市場暴落の際に書いた第490回「中国の無謀な株式市場介入に海外批判止まず」の市場に任せる方向とまるで反対に進んでいます。
 株の売りも買いも当局の顔色を見ながらしなさいと、市場関係者を縛っています。
 信用取引も機能しなくなっては一般投資家の足は遠のくでしょう。

 10月に開いた共産党中央委第5回全体会議(5中全会)には民主化へ期待がありましたが、出てきたのは一人っ子政策の見直しだけでした。
 巨大国有企業を改革して民間企業の活力に任せるどころか、さらに寡占化を進める方向になっています。
 計画経済への逆行です。

 中国現地の声を拾っている
 《実名!中国経済「30人の証言」 日系企業が次々撤退、大失速の真相~こんなに異変が起きていた》
には注目される証言があります。

 《「中国の景気は悪いなんてもんじゃない。
 以前は政府が、石橋を叩いて渡るような慎重かつ的確な経済政策を取っていたが、いまの政府が進めているのは、石橋を叩いて割る政策だ」(南楠・食品卸会社社長)》
 《「3年前まで国有企業には手厚い福利厚生があったが、習近平時代になってすべて消え、初任給も毎年1000元ずつ減っている。
 それで優秀な若者から辞めていく」(胡麗芳・別の大型国有企業社員)》

 南シナ海でゴリ押ししている習近平指導部は、国内的にも奇怪なゴリ押しをしているように見えます。
 北京も含む中国の東北部はこの数日、重篤なスモッグに覆われています。
 『虚飾の青空剥がれ北京に重篤な大気汚染が戻る』で人為的に作った青空が剥げ落ちたと指摘しました。
 暖房に石炭を使うシーズンに入って一気に深刻化したのです。
 環境対策への投資で経済成長が拡大するとか楽観的な意見など消し飛んでいます。



朝日新聞デジタル 11月11日(水)21時26分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151111-00000053-asahi-int

中国、11・11ネットで爆買い 
わずか半日で1兆円超

 1ならびの「11月11日」は、中国のネット通販で最も「爆買い」が起きる1日だ。
 今年も主要サイトの売り上げは最高記録を塗り替え、値引き攻勢を仕掛ける日本企業の姿もめだった。

 「12分28秒で100億元(約1920億円)!中国のスピードだ!」

 11日午前0時。日付が変わってすぐに、ネット通販最大手のアリババ・グループの微博(中国版ツイッター)が、毎年恒例となった売り上げ状況の「実況つぶやき」を始めた。

 正午前には、「昨年の売上高の571億元(約1・1兆円)を超えた」と発表。
 日本のネット通販最大手の楽天で1年間に取引される額の約半分が、わずか半日で動いた計算だ。
 12日午前0時には912億元(約1・8兆円)まで伸びた。

 11日は業界2位の「京東」や3位の「蘇寧易購」も、売り上げが去年の3~4倍に達した模様だ。

 1が並ぶ「ひとり者の日」として若者に流行していた「双(ショワン)11(11・11)」に2009年、アリババがネット上で割引する商戦をしかけたのが始まりだ。
 年40%前後の成長を見せる、中国のネット消費の勢いを象徴する日となっている。



現代ビジネス  2015年11月16日(月) 近藤 大介
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46360

中国経済の「底」が完全に抜けた! 
官製「爆買い」の裏で、
外資は逃げ出し、貿易額は減るばかり
社会主義の重圧に市民はもう耐えられない

■11月11日の官製「爆買い」キャンペーン

 「カウントダウン、3、2、1、開始!」
 「中国の楽天」こと阿里巴巴(アリババ)が行った11月11日のネット通販大セールイベントは、24時間で912億1,700万元を売り上げた。
 邦貨にして、1兆7,600億円! 阿里巴巴創業者の馬雲総裁は、「中国経済の誇りを世界に示した」と胸を張った。
 この中国国内の「爆買い」は、日本のテレビニュースでも、中国人の消費の凄まじさを物語る現象として、繰り返し紹介された。 

 11月11日は、今年の中国では「双11」(二つの11)と呼ばれたが、昨年までは「光棍節」(お一人様の日)と言った。
 文字通り、「(一という)棍棒が光る節句」で、家族や恋人のいない寂しい人にスポットライトを当てる日だ。

 思えば、「光棍節」が一番盛り上がったのは、「1」の数字が6つ並んだ2011年だった。
 当時、私は北京に暮らしていたが、「和諧社会」(あらゆる人々が調和をもって暮らす社会)をキャッチフレーズにしていた胡錦濤政権は、この2011年11月11日を、官製メディアを総動員して、「お一人様の日」として大いに盛り上げた。
 例えば、この日に一人でレストランへ行くと、食後のアイスクリームをサービスされたり、普通盛りが大盛りに変わったりした。
 私がこの日の晩に食事した東城区にあるスペインレストランでは、一人で来た客を、誕生日でもないのに、「ハッピーバースデートゥユー♪」と店員たちが盛り上げていた。

 その晩、私と会食していた中国人は、こう説明したものだ。
 「折からのユーロ危機によって、輸出に頼っていた全国の中小製造業が大打撃を受けた。
 それで
 第一に、政府は何とか輸出中心から消費中心に経済構造を変えたい。
 そこで、眠っている消費を煽るイベントの日にしたわけだ。

第二に、若年失業者が急増していて、このままでは全国各地で若者の暴動が起こるリスクがある。
 それで、寂しい青年たちを慰めるキャンペーンを行ったのだ」

■胡錦濤政権による「アリババ叩き」の真意とは

 2011年当時、中国国民の消費意欲は、いまよりずっと旺盛で、政府主導のキャンペーンなど必要ないだろうと思われた。
 それでも中国政府の目標は、そこはかとなく達成されたように見受けられた。

 例えば、インターネット規制が厳しい中国において、この一時期だけ、海外のエロサイト閲覧の規制が緩和された。
 それで一気に人気に火がついたのが、日本のAV女優・蒼井そらだった。
 中国の青少年たちは、蒼井そらの「肢体」に夢中になった。

 当時は、中国各地へ出張に行くと、決まって「もしかして碧井そらの知り合いですか?」と聞かれたものだ。
 「会ったこともありません」と正直に答えると、ガックリされる。
 北京のセブンイレブンの店員にさえ、「今度日本に帰国したら、蒼井そらのDVDを買ってきてほしい」とせがまれたことがあった。

 この2011年の「光棍節」の1ヵ月前に、「胡錦濤政権vsアリババ戦争」が勃発した。
 同年9月下旬、浙江省温州市最大のメガネ工場、信泰グループの社員1000人以上が、6車線の目抜き通り類東大街で大規模な街頭デモ行進を行った。
 彼らがデモを起こした理由は、輸出不振に陥った同社の胡福林社長が、8億元の負債を抱えたまま夜逃げしたことだった。
 この事件は、直ちに中南海の「政局」となった。
 製造業が密集している浙江省は、中小企業の倒産が相次ぎ、信泰グループ社員を皮切りに、デモが続発した。

 そんな中、浙江省の企業で「一人勝ち」していたのが、アリババだった。
 アリババの背後には、浙江省党委書記(省トップ)を2002年から2007年まで務めた習近平副主席がいた。
 胡錦濤政権にとって、アリババを叩くことは、1年後に迫った「習近平後継」を阻止し、子飼いの李克強筆頭副首相に首をすげ替えることにつながったのだ。

 10月初旬の国慶節の大型連休中に、胡錦濤政権ナンバー2の温家宝首相が温州入りし、浙江省の共産党幹部らを叱咤した。
 しかし本当は、彼らの背後にいる習近平副主席に矛先が向いていたのだ。
 大型連休が明けるや、商務部が急先鋒に立って、「タオバオ(アリババのネット通販サイト)は中小企業を差別するブラック企業である」というアリババ叩きキャンペーンが始まった。
 アリババからすれば、短期間で急成長した最大の理由が、「信用ある会社」と「信用ない会社」を選別してネット上に載せたことだった。
 それによって、そもそも他者に対して信用がない中国社会において、利用者の信用を勝ち取ったのである。

 ところが胡錦濤政権は、この制度を逆手に取り、「中小企業を不当に差別している」として、「選別」を禁じようとしたのだった。というのは表向きの理由で、真の狙いは「習近平企業」潰しにあった。
 ともあれアリババは最大の危機に陥った。
 この時、アメリカ出張中だった馬雲総裁は、急遽帰国し
 、生涯ただ一度の「謝罪会見」を開いた。
 馬雲総裁は、手のひらに「忍」の字をマジックで書いて、その手のひらを握り締めながら会見に臨んだ。
 胡錦濤政権に、降伏したのだった。

 そこからアリババは、「B to B」(企業から企業)中心のビジネスを脱却し、「B to C」(企業から消費者)へと急速に軸足を移していった。
 その起爆剤にしたのが、2011年の「光棍節」だったのだ。
 この日に大安売りのキャンペーンを行うことで、一般の中国人に、大いに名を売ったのだった。

■「双11」のイベントが物語る中国経済の現状

 習近平時代に入ると、アリババはにわかに「国策企業」と化した。
 2010年の秋に、私は馬雲総裁にお目にかかる機会があり、
 「今後のアリババ発展のポイントは何ですか?」
と質問した。
 すると馬雲総裁は即座に、こう答えたものだ。
 「それは中国政府が何もしないでいてくれることだ。
 私は中国政府に助けてほしいとは言わない。
 ただ放っておいてほしいだけだ」

 その懸念は前述のように、一年後に現実のものとなってしまったわけだ。
 一時は「引退宣言」までした馬雲総裁だったが、習近平政権になると完全復活した。
 習近平主席にしてみれば、アリババは自分が浙江省党委書記だった時代に手塩にかけて育てた企業だという自負がある。
 そのため習近平主席は、馬雲総裁を、まるで年の離れた弟のように扱った。

 馬雲総裁が、「韓国でビジネスがしたい」と言うと、昨年7月に訪韓した際に横に侍らせ、朴槿恵大統領に直接、紹介した。
 その後、インドのモディ首相に引き合わせたり、この9月の訪米にも同行させている。

 その代わり、昨年7月に習近平政権が、新たなインターネット検閲を開始すると、
 アリババは「われわれは中国企業として政府の方針に従うべきだ」と模範を垂れて、自社内にわざわざネット警察部門を拡充させたりした。
 まさに習&馬は、「持ちつ持たれつの関係」なのだ。

 そんな二人が「演出」したのが、今年11月11日の「双11」のイベントだったというわけだ。
 習近平主席は、中国経済がいかに「夢」に満ちているかを内外にアピールしたかったし、馬雲総裁はそれに便乗してさらに儲けたかった。
 では実際、中国の消費者たちは、どんな思いだったのか。
 北京にいる知人に聞くと、次のように答えた。

 「私はこの日に備えて3ヵ月以上も、服を買うのを我慢したし、周囲も年に一度の大きな買い物と思って、1,000元(約1万9,000円)分くらいは買っていた。
 多くの商品が、一日だけ何割引にもなるので、それは買うでしょう」(20代女性、国有企業勤務)

 「私の周囲が一番買っていたのは、この冬のPM2.5地獄に備えた空気清浄機だった。
 3,000元(約5万7,000円)くらいで、普段より1割から2割安かった。
 日本製も少し高いが人気だ」(30代男性、公務員)

 こうした声を聞いていると、あの「爆買い」は、普段買い控えている消費者たちが、一日だけ格安だったため、一気呵成にショッピングしたものなのである。
 換言すれば、中国で普段、いかにものが売れていないかということを如実に物語っていると言えるのである。

 その証拠に、市場は冷静だった。
 アリババはNY証券取引所に上場しているが、
 11月11日にアリババ株は額にして79ドル85セント、率にして1.94%も値を下げたのである。

■「短期的に外部の需要が大きく改善される見込みはない」

 一方、アリババイベントで盛り上がっている北京市内の会場から、さほど遠くない場所に建つ中国国家統計局は同日、「爆買い」とは程遠い統計を発表した。

 今年1月から10月までの不動産開発会社の土地購入面積は1億7847万㎡で、前年同期比33.8%減。
 金額は5,794億元で、同25.2%減だった。
 気になるのは、そのうち外資の金額が50.6%も減少していて、
 外資が完全に中国の不動産投資市場から「逃げ」の状態に入っていることだ。

 全国固定資産投資も、2014年1月~10月は前年同期比で15.9%伸びていたが、今年の1月~10月は10.2%まで落ちた。
 金額にして、44兆7,425億元だ。
 これは、全国的にもはや投資の需要がそれほどないことを示している。

 また、10月の工業生産者工場出荷価格は、前年同期比で5.9%も下降した。
 これは、工業製品の生産過剰が相変わらず深刻だということを物語っている。
 他にも、10月の購買担当者指数(PMI)は49.8%と、3ヵ月連続で50%を割り込んだ。

 さらに目を覆うばかりなのが、貿易額の減少である。

 11月8日に中国税関総署が発表した最新の統計によれば、
 10月の輸出額は1兆2,263億元で、前年同期比9.0%減。
 輸入額は8,331億元で、同16.0%減である。
 1月~10月では、輸出が11兆4,622億元で2.0%減、
 輸入が8兆4,647億元で15.2%減だ。
 言うまでもなく、輸入は消費に直結し、輸出は経済成長に直結する。
 それがまさに、「双降」(ダブルダウン)なのである。

 ちなみに貿易額として見れば、10月が前年同期比9.0%減で、1月~10月が8.1%減だ
 会見に臨んだ税関総署の黄頌平報道官は、
 「短期的に外部の需要が大きく改善される見込みはなく、輸出の下振れ圧力は依然として大きい」
と、ぶっきらぼうにコメントした。

 中国で伝統的に、半年から一年先くらいの景気見通しを、一番如実に示すと言われているのが、毎年春と秋に開かれる広州交易会である。
 今年秋の広州交易会は、11月4日に閉幕したが、契約金額は前年同期比7.4%減の270億1,000万ドルだった。
 これはリーマンショック後の2009年春と同水準で、300億ドルをあっさり切ってしまったことに、中国政府は大きなショックを受けた。

■習近平政権の中国が抱える大いなる矛盾点

 こうした中国経済の「底抜け状態」を改善しようと、習近平主席はたびたび発破をかけている。
 例えば、11月9日に招集した「党中央の全面的な改革深化指導小グループ第18回会議」では、次のように力説した。

 「加工貿易を促進し、イノベーションを発展させなければならない。
 経済発展の『新常態』(新たな正常な状態)に主導的に適応させていくのだ。
 イノベーションの駆動と開放の拡大を動力として、伝統的な有利な点を確固として堅持し、競争力の育成を加速して新たな優勢を築く。
 加工貿易の政策の連続性と安定性を保持し、企業の主体的作用を発揮し、産業ごとの提携を強め、加工貿易の全世界における地位を上げるのだ。
 沿海地区の転換をうまく促進し、内陸部と沿岸部の産業の転換をうまく連携させ、国際的な産業の提携を秩序立てて展開するのだ。
 加工貿易の体制機構改革を深化させ、健全で開放型の経済と管理体系とのマッチングを確立し、だんだんとよくなるようにしていき、貿易大国から貿易強国への転換を推進するのだ」

 おそらく、手を膝に当てて黙って聞いていた李克強首相以下、幹部たちは、「そんなの当たり前だろう!」と思いながら、ジッと耐えていたに違いない。
 まさに「言之易而行之難」(言うは易く、行うは難し)なのである。

 「双11」の翌11月12日、中国共産党中央機関紙『人民日報』は、「9天打5虎」(9日間で5人の幹部を打倒した)と題した記事を掲載した。
 そこには、以下のように記されている。

〈 今年の「双11」は、各家電販売店の他に、党中央紀律検査委員会もまた、記録を打ち立てた。
 昨日、艾宝俊上海市副市長が「落馬」したのに続き、今日は呂錫文北京市党委副書記が調査を受けた。
 北京と上海の「トップ級」が相次いで落馬したのだ。
 11月6日には、寧夏のトップ級、白雪山寧夏回族自治区副主席が調査対象となった。
 これで全国31の省区すべてで、部級以上の「老虎」が落馬したことになる。

 さらに、11月4日には、(国有企業の)中国南方航空の司献民会長が、11月2日には、(国有企業の)東風自動車の朱福寿社長が落馬した。
 これで9日間で党中央紀律検査委員会は、迅速に5人の虎を捕獲したことになる。(中略)

 (2012年11月の)第18回中国共産党大会以後、党中央紀律検査委員会は、これまで7ラウンドの巡視を展開してきた。
 巡視したのは、計118地区・部門・機関に及び、全国31の省区及び新疆生産建設兵団、中央政府統轄のすべての国有企業、16の中央政府部門、12の事業機関、一つの中央金融機構と二つの中央政府統轄の大学で巡視を実施してきた。(2013年11月の)「3中全会」で提出されたように、今後もすべてをカバーして巡視を行っていく…… 〉 

 私は今回、捕まった北京市の呂錫文党委副書記に、一度間近で接したことがある。
 2009年の夏に北京西部の高級ホテルである会合が開かれ、彼女は来賓代表で、私は来賓の末席だったのだ。

 会合が終わって、5階の宴会場から1階へ降りるためエレベータに乗ろうとしたら、たまたま呂副書記が先に乗っていた。
 彼女は私を認めると、自ら「開」のボタンを押して、閉まりかけたエレベータを開けてくれたのだ。
 私が礼を言ったら、彼女は微笑んで、エレベータを閉めた。

 さらに1階に着くと、彼女は再び「開」のボタンを押して、私に先に降りるよう促した。
 同じエレベータには、彼女の部下たちも乗っていたのに、すべて自分でやったのだ。
 その物腰を見る限り、『人民日報』が叩くような「厳重な腐敗分子」には思えなかった。
 もちろん、ただ一時のことで彼女の人となりを判断することなどできないことは承知しているが。

 ともあれ習近平主席は、「開放の拡大」を説く一方で、(意に沿わない)幹部を次々と捕らえていく方針を示しているのである。
 これでは中央、地方を問わず、公務員たちは萎縮していくのも当然だろう。

 つまり、一方で市場主義を唱え、他方で社会主義を信奉することは不可能なのである。
 習近平政権の中国が抱えるあらゆる矛盾点は、ここに起因していると言っても過言ではない。

■社会主義というシステムはここまで大変なのか

 中国のある地方で公務員をしている知人に、このあたりの話を聞いてみたところ、
 「正直言って、もう社会主義の重圧に、市民が耐えられないよ」
と回答してきた。

 その理由は、彼が勤務している県(中国で県は市よりも小さく、日本にたとえれば市町村の「町」くらいの感覚)を例に取ると、計194もの公的機関を、「県民」が支えて行かねばならないからだそうだ。

彼がせっかく送ってくれたので、以下に市民が支えている公的機関の内訳を列挙してみよう。

【1.県議会、政協、裁判所、検察院】
県人民代表大会常務委員会、中国人民政治協商会議県委員会、県中級人民法院、県人民検察院
【2.県自治体直轄の委員会、弁公室、部局】
県人民政府弁公室、県発展改革委員会、県経済委員会、県教育局、県科学技術局、県民族宗教事務局、県公安局、県監察局、県民政局、県司法局、県財政局、県人事局、県労働社会保障局、県国土資源局、県規画局、県建設局、県市政管理委員会、県交通局、県食糧局、県商務局、県文化局、県衛生局、県人口・一人っ子政策局、県審査局、県国有資産監督管理委員会、県地方税務局、県国家税務局、県工商行政管理局、県品質技術監督局、県環境保護局、県水利局、県工業促進局、県農業局、県ラジオテレビ局、県新聞出版局、県文物局、県体育局、県統計局、県物価局、県食品薬品監督管理局、県安全生産監督管理局、県人民政府法制弁公室、県信訪局、県人民政府研究室、県人民防空弁公室、県林業局、県情報産業局、県老齢委員会、県行政サービスセンター、県招商局、県家屋不動産管理局、県外事華僑服務観光局、県水産局、県知的財産局
【3.県共産党委員会の部、委員会、弁公室、部局】
県党委員会部委弁局、県党紀律委員会監察局、県党委員会組織部、県党委員会宣伝部、県委員会政法委員会、県党委員会政治研究室、県党委員会台湾工作弁公室、県党精神文明建設委員会弁公室、県党委員会国家秘密保持局、県党委員会統一戦線部、県党委員会党校
【4.県自治体のその他の委員会、弁公室、部局】
県地震局、県中国医学管理局、県道路政局、県郷鎮企業局、県運輸管理局、県出入境検験検疫局、県労働教養工作管理局、県公安局公安交通管理局、県城県管理総合行政執法局、県老幹部局、県自治体採取購入弁公室、県監獄管理局、県自治体新聞弁公室(外宣弁)、県人民政府参事室、県档案局(館)、県版権局、県地質鉱産勘査開発局、県機構編制委員会、県自治体港湾弁公室、県農業機械管理局、県公安消防局、県機関行政事務管理局
【5.人民団体(公務員編制)】
県婦人連盟、中国貿易促進会分会、県障害者連合会、県外聯誼会、県帰国華僑連合会、県科学協会、共産主義青年団市委員会、県総労働組合、県消費者委員会、県撮影家協会、県愛国衛生運動委員会、県文学芸術界連合会、県工商業連合会、県人民対外友好協会、県ボランティア協会
【6.県事業機関】
県地方誌編纂委員会弁公室、県貧困者扶養開発弁公室、県党委員会県政府招待弁公室、県壁材料革新弁公室、県住居公的積立金管理センター、県招投標センター、県経済情報センター、県投資管理センター、県建設工程造価管理ステーション、県電信分公司、県移動分公司、県聯動分公司、県鉄通分公司、県電力供給公司、県郵政局、県国有資産管理局、県気象局、県水文水資源勘測局、県通信監理局、県投資促進局、県事業機関登記管理局、県医療保険局、県無線電管理局、県科学技術研究院、県勘察設計研究院、県人材市場、県図書館、県公路総段、県中心血ステーション、県疾病予防コントロールセンター、県人民病院、県中病院、県婦幼保健院、県高級中学、県高度新技術開発管理委員会
【7.県のその他の弁公室】
県教学儀器供応管理ステーション、県医療衛生用品供応管理弁公室、県採用購買弁公室、県機関事務管理局、県台湾弁公室、県招商局、県郵政通信管理局、県監察室、県体育局、県体育委員会、県普通教室、県編纂委員会、県史研究室、県教職員センター、県道徳弁公室、県未保健弁公室、県電教センター、県初等教育募集弁公室、県中等教育募集弁公室、県高等教育募集弁公室、県自考弁公室、県防雷弁公室、県園林局、県文学連盟、県退安弁公室、県婦人連盟、県障害者連盟、県精神文明弁公室、県撤去移転弁公室、県民委員会、県工商連盟、県共産党青年団委員会、県民主革命党委員会、県農工党委員会、県民主連盟党委員会、県致公党委員会、県民建党委員会、県民進党委員会、県水産局、県牧畜局、県水利局、県水電管理局、県科学技術局、県科学委員会、県外商サービスセンター、県国際交流センター、県教科所、県成教処、県交通局、県路政センター、県交通局、県農業局、県農林局、県車輌管理所

 中国では地方の小さな町でさえ、町民がこれだけの種類の公務員を背負っているのである。
 彼は、書き疲れてしまったようで、「他にも、幹部公務員の愛人たちだって、税金使って囲ってるんだよね~」と締めくくっていた。

 私も、計194もの公的機関を書き連ねながら、社会主義というシステムを維持するのがいかに大変か、再認識した次第である。

 一つ思い出したことがあった。
 2012年3月の全国人民代表大会で、前党中央紀律検査委員会副書記の劉錫栄・全国人民代表大会常務委員(法律委員会副主任)が発言した次の言葉だ。

 「中華人民共和国が建国して60数年が過ぎたが、いまだに大量の機構が跋扈していて、幹部と公務員があまりに多すぎる。
 この『二つの超過』のために、不正腐敗が無限に蔓延っていて、億万の人民の負担は天井知らずだ」

 結局、中国は極力小さな政府を目指し、かつ国有企業を民営化するしか、不正腐敗を断絶し、経済発展していく道はないということである。
 そしていまの中国にそれができないため、その将来を悲観視せざるを得ないのである。
 習近平主席は、ミャンマーのテインセイン大統領にはなれないということだ。



ニューズウィーク日本版 2015/11/25 17:00 加茂具樹
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151125-00160206-newsweek-nb

習近平、生き残りを懸けた2つの政治ゲーム
 - 加茂具樹 リエンジニアリングCHINA

  「リエンジニアリングCHINA」と題する本コラムは、中国政治を理解すること、すなわち政治権力を中心としてみた現代中国を描いてゆく。

 中国政治を理解しようとするとき、私たちは有力な二つの分析の視点のいずれかを選択することになる。
 いや、選択をする必要はないかもしれない。
 少なくとも私たちがしておくべき事は、両者の相違を明確にしておくことだろう。

 ここでいう二つの分析の視点とは、
★.一つは中央レベルの政治、政治権力を中心に中国政治を理解するということである。
 中央とは、中国共産党であり、中国共産党とそれが包摂している国家機関による統治の体制、つまり党国体制のことである。
★.いま一つの分析の視点とは、
 そうした一握りの権力者のサークル内の政治よりも、権力の外側にある民衆の方に焦点をあてて理解すること
である。

 もちろん、いずれもが現代中国政治を理解するうえで有効な分析の視点である。
 しかし現代の中国政治の特徴を考えたとき、それを理解するうえでより有力な視点は中央レベルの政治を中心としたものではないか、と私は考える。

■中国共産党が圧倒的な力を持ち続けられたのはなぜか

 なぜなら、中国共産党は国家の構成員に対して圧倒的な力を独占しているからである。
 例えば中国共産党は、これまで一貫して「党の指導」が現代中国における最も根本的な政治原則であることを繰り返し確認し、それだけでなく、現実にそれを徹底させることに成功してきた。
 もちろん中国共産党による統治は、これまでいくつかの危機を経験してきた。
 その近年における最大のものは1989年6月の天安門事件であった。
 中国共産党は、この危機を力で克服し、それ以来、四半世紀にわたって、社会からの「政治原則」に対する挑戦を未然に押さえ込み、その政治的な支配を持続させてきたのである。

 これまでのところ、私たちは中国社会に中国共産党に挑戦する能力を有する政治的集団の存在を見出すことはできない。
 中国共産党はあらゆる手段を講じて、自らにチャレンジする勢力の萌芽を摘むことに成功しているからである。
 もちろん、支配を持続させるために中国共産党は膨大なコストを払い続けていること、またそのコストは年々高まっていることは、現在の支配体制の行方に様々な懸念材料を提起する。
 しかし、その支配の実態を理解しようとする際に重要であるのは、
 「払い続けることができている」という実績である。
 持続力は中国共産党が圧倒的に強大な力を掌握していなければ発揮し得ない。
 中国共産党に取って代わることができるような支配の能力を持ち、支配の経験がある政治的集団は、いまの中国社会には見当たらない。

 その一方で中国共産党による統治は、国民の声を全くに無視しているわけではない。
 民主的な国家であろうと権威主義的な国家であろうと、その政治権力が国民の要求を無視した政策決定を下すことは容易ではない。
 適切で、効果的な政策決定のためには、社会の要求を把握するための制度を備えておく必要がある。
 例えば、民主的な国家に限らず、権威主義的な国家であっても、選挙や議会、政党といった民主的な制度を統治者は設けている。
 権威主義的な国家の統治者が、わざわざそうした制度を設けるのは、「民主的な統治」を実施していることを、国内外にカモフラージュするためではない。
 政策決定のために必要な社会の要求を収集するために役に立つ制度だからである。
 中国共産党による一党支配においてもそうである。

 いま私たちが目にしている中国政治を描いてゆくということは、こうした力強さと脆弱さが相互に影響しあっている政治権力について、その形成と発展の過程、とくに、これまで支配が持続してきた要因を明らかにし、その行方を論じてゆくことである。
 では、政治権力は、その形成と発展の過程で、どの様な政治的課題に直面しているのだろうか。

■政治指導者には支配のための同盟者が必要

 一般論として、権威主義体制において政治権力の頂点にたつ政治指導者は二つの政治的課題に直面しているといわる。

★.一つには、彼と共に政権運営を担う政権内部の他のエリートからの挑戦を克服しなければならないという、
 「権力共有(power-sharing)」をめぐる問題である。
 政治指導者は、たった一人で政権を担当することはできない。
 支配のための同盟者が必要である。
 政治指導者は彼らの協力(忠誠)を得るために利益(安心)を提供しなければならず、同時に彼らの離反や挑戦を防止しなければならない。

★.いま一つには、権力の外にある大衆との関係の調整という「社会的コントロール」をめぐる問題である。
 政治指導者は、常に大衆に包囲されているという脅威認識に苛まされている。
 政治指導者は、体制を持続させるために、この二つの課題をともに克服しなければならない。

 体制が持続しているということは、この二つの課題の克服に成功し続けていることである。
 もちろん習近平も、この二つの課題を克服するためのゲームをプレーしている。

 習近平はこのゲームに勝ち続けることができるのだろうか。
 本コラムが「リエンジニアリング(Reenginnering)」という言葉を用いるのは、現代中国の政治権力の中心にいる習近平中国共産党総書記が、現代中国というシステム、すなわち中国共産党による一党支配体制を生き続けさせるために、どの様な新たな取り組みをしようとしているのかを論じようとしているからである。



2015.12.25(金) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45642

中国企業と国家:一段と厳しくなる締め付け
(英エコノミスト誌 2015年12月19/26日合併号)

 習近平国家主席が監督する、汚職その他、中国共産党指導部にとっての脅威に対する3年間の取り締まりは、多くの標的を狙ってきた。
 党幹部や政府高官、国営企業のトップ、人権活動家、労働組合の組織者、人権派弁護士などだ。

 北京では12月下旬、言論の自由を擁護する活動家、浦志強氏の公判が行われている法廷の外で、外交官や外国人ジャーナリストなどが組織化された暴漢たちによって手荒に扱われた。
 だが、これまでは、中国市民の1つのグループはこのような嫌がらせを免れているように見えた。
 自力で大成した中国民間部門の億万長者たちだ。

■世界を揺るがした復星集団会長の「失踪」

 しかし先日、中国で最も成功し、最もグローバル化した民間複合企業の1つ、復星集団の会長で支配株主でもある郭広昌氏が突然姿を消し、その後、同じくらい謎めいて再び姿を現した。
 その間、司法当局による取り調べのために拘留されていた模様だ。
 同氏の拘留について正式な説明は行われていない。
 このようなことが今、中国で最も著名な産業界の大物――最近の習氏の訪英や訪米にも同行していた人物――に起こり得るということは、
 今や政権の取り締まりが民間企業の脅威になり始めている
かもしれないという、投資家に対する警告となるはずだ。

 12月10日の地元紙の報道では、郭氏は上海で飛行機から降りた時に治安当局者によって連行され行方不明になったとされていた。
 復星集団は、行方不明の会長は単に当局の調査に「協力」していただけだと主張したが、それでも同社株の取引を一時停止するよう要請した。
 売買停止は全世界に波紋を広げた。
 というのも、復星集団は今、欧米の名だたる企業やビルに何十億ドルも投資しているからだ。
 はらはらさせる週末を経て、郭氏は12月14日の社内会議に再び姿を現したが、自身の不在に関する説明はなかった。
 復星集団は、取締役の意見として、会長が手助けしている調査が同社の財務や業務に「重大な悪影響」を及ぼす危険はないと述べた。
 だが、同社が何らかの腐敗捜査の焦点となった場合には、その打撃は壊滅的なものとなる恐れがある。


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