2015年11月20日金曜日

中台トップ会談(3):時代は安定を欲していない、歴史は突然進路を変えるものだ

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 目先の発想なら国民党が共産党に擦り寄った形に見える。
 しかし、少しスコープを離せば別の形が見えてくる。
 中国が今の状態をどこまで続けることができるかということである。
 本当に中国は永遠に盤石なのか、ということである。
 中国はあらゆる矛盾を含んでいる。
 今の状態を維持するにはひたすら経済成長に邁進しないといけない。
 経済が低落したら、またひたすらそれを阻止するために邁進しないといけない。
 これまで稼いだお金があるかぎりはそれもできる。
 GDPを維持するために無駄金をばらmき続けないといけない。
 しかし、それを使い切ったときはどうなるか。
 中所得国の罠にはまったら、どうなるのか。
 社会不満が充満して、沸点まで上昇するようなことがあったらどうなるのか。
 歴史は突然進路を変える。
 ソビエトの崩壊を見ている者にとって、中国が分裂しないとは断言しにくい。
 この2/3世紀は安定の世紀であった。
 経済的な安定の世紀であった。
 しかし、いまの時代は安定を欲していない。
 中国しかり、イスラムしかりである。
 何が起こっても不思議はない。
 そのとき、国民党の綱領が中国の次の時代の光にならないとも限らない。
 何が起きてもおかしくない時代が今である。


ニューズウイーク  2015年11月19日(木)16時00分 楊海英(本誌コラムニスト
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/11/-2_1.php

台湾が中国の不沈空母に?
 2つの中国が尖閣を狙う

真の友人なき両国がすがる「1つの家族」幻想、
空想上の中華帝国が日米同盟と衝突する日

 中華民国(台湾)と中華人民共和国の首脳が11月7日にシンガポールで会談する──たまたま沖縄に出張していた私はすぐに台湾に飛んで、一部始終を現地観察することにした。

 台北では、対中国貿易自由化に反対して昨年立ち上がった「ひまわり学生運動(太陽花革命)」のメンバーらによって、「馬習会(マーシーホイ)」開催に抗議するデモが発生。代表者4人が抗議のためにシンガポールに派遣された。

 突如発表された「2つの中国」を代表する馬英九(マー・インチウ)総統と習近平(シー・チンピン)国家主席の会談。
 共に手柄を立てたいとの思惑で一致したのでは、との分析が多い。
 馬の中華民国が外交関係を結んでいるのはわずか22カ国。
 経済的に対中一辺倒が進んだ結果、中国大陸への資本流出が著しく、産業の空洞化をもたらした。
 雇用も悪化し、就職の見込みのない大学生たちは昨年から嫌中デモを組織して政府に是正を求めている。
 来年1月の次期総統選挙では野党・民進党候補の当選が確実視されるようになってきた。

 習も多くの難題を抱えている。9月下旬に訪米したものの、外交的な成果は皆無に近い。
 アメリカから帰って程なくしてイギリスを訪問。
 バッキンガム宮殿に泊まるなど派手な動きを見せたものの、
 人民元を欲しがるキャメロン英首相の術中にはまった感は否めない。
 日本や東南アジア諸国との対立も解決の見通しは立っていない。

 中国国内では株価が続落し、
 何ら実態を伴わない「一帯一路(陸と海のシルクロード経済圏)」構想
も経済的な効果をもたらしていない。
 強硬な対外膨張路線は外資の引き揚げを招き、
 輸出業も凋落が目立つ。

■南シナ海領有権の隠し玉

 かつて毛沢東は「われわれの友は世界中にいる」と豪語して、非同盟外交を謳歌した。
 それに対して習は、世界第2位の経済大国にふさわしい覇権の実現を追求してきた今、
 世界中に真の友人がいないのに気付いた
のかもしれない。
 馬と習という、2つの中国の2人のプレジデントは外交と経済、政治的な苦境を打破するために、1949年の中台分断後初めて握手したのである。

 2人を一気に引き付けた最大の要因はアメリカのアジアへのリバランス(再均衡)政策の実施だろう。
 習政権が核心的利益と位置付ける南シナ海の領有をオバマ米大統領は認めなかったどころか、逆に先月下旬に駆逐艦を派遣して中国が建設する人工島の12カイリ(約22キロ)内を航行させた。
 オランダのハーグにある国際仲裁裁判所もフィリピンの提訴による仲裁手続きを進めることを決め、人工島の建設は領土・領海の主張につながらない可能性が示された。

 中国は国際裁判所の仲裁は認めないと強硬論を唱えながらも、実は
 台湾に眠る資料をひそかに狙っている。
 第二次大戦後に日本が南方から撤退した際、中華民国が南シナ海の領有権を主張したことがある。
 古くからの権利を示すという資料は国共内戦で台湾に持ち去られた。
 来年の総統選挙で台湾独立派の民進党政権に代わる前に何とか同じ「中華」同士で情報共有できないかと、習は馬の国民党政権にウインクを送っている。

 アメリカにとって、台湾は中国をにらむ「不沈空母」であり続けたが、馬総統在任7年間の対中傾斜政策を見ていると、いつ中国側に寝返るかも不安材料だった。
 馬も「統一された大中華」の夢を思い描き、その版図には日本の尖閣諸島も含まれている。 
 尖閣諸島の領有権については誰よりも法的に詳しいと自任する馬の主張は日米同盟にも影響を及ぼしかねないと、アメリカは不信感を抱く。
 不安が的中したのが今回の中台会談だ。
 馬は国際社会が主張する南シナ海の自由航行よりも、「中華の内海」化を選んだ

 「中台は1つの家族」と習が一方的に親縁関係を強調しても、台湾の民衆は冷めた視線で会談を見ている。
 ただ、
 「2つの中国」が「空想上の中華」の利益を優先しようとして実際に動きだすと、
 国際社会も戦略を練り直さなければならなくなる。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年11月20日(Fri)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5597

予断を許さぬ中台関係
国民党混乱でどうなる

 ハモンド=チャンバース米台商業協会会長が、10月18日ウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説にて、台湾国民党の総統候補差し替えは、今後の中台関係、米中関係の緊張を高めることになるのではないかとの懸念を引き起こすかもしれない、と述べています。

■人気低迷の与党 候補差し替えで巻き返しなるか

 すなわち、10月17日に、台湾の与党国民党は、臨時党大会で、来年1月16日の総統選挙公認候補の洪秀柱を撤回し、朱立倫を新たな候補にすることを正式に決めた。
 洪秀柱については支持率が低迷、民進党の蔡英文との差は開くばかりとなっていた(9月には30%の差)。
 洪秀柱の中国寄りの政策は、多くの有権者の不評を買い、立法院で国民党が過去10年以上維持してきた過半数を失う可能性も出ていた。

 中道の朱立倫(54歳、台湾北部、新北市長)は、国民党の人気を改善するだろう。
 しかし、公認候補差し替えを巡る国民党内のゴタゴタは党の内部対立をさらけ出すことになった。
 朱立倫が国民党の選挙体制を再構築できるどうかはわからない。

 朱立倫の擁立は立法院選挙でも勝つことを目指す民進党に圧力をかけることにはなるだろう。
 しかし同氏は立法院での議席を三分の一まで減らすかもしれないと述べている。
 同氏は、国民党だけが中国との平和的な関係を築いていけることを強調していくだろう。
 経済については、現在の馬総統の対中経済協力政策を踏襲するものと思われる。
 TPP等の地域取り決めに参加することも求めていくだろう。
 5月の習近平との会談では、AIIB、一帯一路構想、RCEPへの参加も示唆した。

 洪候補の撤回は今後の両岸関係に影響を与える。
 同氏は、「一つの中国、同じ解釈」政策(中国は台湾政府を認めるが、国としての中華民国の存在は認めない)を支持するとしてきたが、台湾の過半数の人々がこれを拒否している。
 世論調査では一貫して8割以上が現状維持、事実上の独立を支持している。
 洪秀柱の立場を支持する者は2割以下にすぎなかった。
 国民党が洪秀柱の対中政策を拒否したことは、北京に対して、双方の関係緊密化の政治的限界を伝えるものとなった。

 国民党内の今回の反乱は、中国の民進党政府に対する態度を硬化させ、両岸関係、更には対米関係の緊張を高めることになるのではないかとの懸念を増やす可能性がある。
 7年間に亘って穏やかだった両岸情勢は急速に終わりに近づいている
と述べています。

出典:Rupert Hammond-Chambers,‘Taiwan’s Election Drama Is a Message to Beijing’(Wall Street Journal, October 18, 2015)
http://www.wsj.com/articles/taiwans-election-drama-is-a-message-to-beijing-1445190293

*   *   *

■民進党政権成立で中台関係振り出しに

 台湾の与党国民党は公認候補を洪秀柱から朱立倫に挿げ替えましたが、国民党の巻き返しは難しいと見られています。
 総統選挙では、民進党の女性候補蔡英文が20%程度リードしており、同氏が勝つと見られています。
 なお、今回の候補挿げ替えで、女性候補同士の対決という構図はなくなりましたが、蔡英文が勝てば初めての女性総統になります。

 他方、立法院の選挙で国民党が10年以上維持してきた過半数を確保できるかどうかが注目されています(総議席は113、国民党現有議席は65、57になれば過半数を割る)が、朱立倫になっても国民党は厳しい状況にあるようです。

 民進党の蔡英文が勝てば、中台対話も仕切り直しになるでしょう。
 同候補は、現状維持を基本的立場とし、国民党に比べ中台関係により慎重である。
 また、それとは反対の意味で、蔡英文は民進党のかつての陳水扁総統に比べより中道寄りです。
 このことは、中台間の摩擦増大を望まない米国との関係で重要です。
 台湾では、現在、対中ムードが変化しているようです。
 国民党候補の挿げ替えも洪秀柱の中国寄りの姿勢や発言が党内で拒否されたことが背景にあります。
 対中関係への不安は、両岸サービス貿易協定に反対する学生が立法院の建物を占拠した、昨年春のひまわり学生運動の背景でもありました。

 ハモンド=チャンバースは、中国にも今回国民党候補の挿げ替えの意味合いはシグナルとして伝わることになったとし、そのために今後の中台関係が緊張する可能性があると指摘しています。
 今までのような穏やかな中台関係は終わることになりそうです。
 台湾情勢はアジア太平洋の安全保障に直結します。
 中国は、必要とあらば統一に武力も使用することを公式の政策としています。
 両岸関係には今後とも注目していく必要があります。



JB Press 2015.11.27(金) 阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45358

「歴史的」中台首脳会談が失敗だった理由
「死に体」直前の馬英九総統と会談した中国の狙いとは    

 去る11月7日、シンガポールのシャングリラ ホテルで、1949年の中台分裂後初めてとなる首脳会談が開催された。
 会談の開催が台湾で報じられたのが直前とも言える11月3日の夜であり、中国でも4日であった。
 そのことから、中台の当局者間で隠密裡に話を進めていたことは間違いない。

 一種のサプライズであったことは事実だが、台湾にとってこの首脳談がもたらす影響は短期的には小さいだろう。
 長期的にみても、中台関係の「現状維持」に変更を加えることにはなりそうにない。

■第三国での会談の機会を探っていた中国、台湾

 台湾の馬英九総統は、2014年秋に北京で開催されたAPEC首脳会議の機会に、中国の習近平主席との首脳会談を希望していた。
 だが、中国側が国際会議の場を利用するのは台湾を「国家」として扱っているように誤解されるとして相応しくないと難色を示し、実現しなかった経緯がある。

 今回の首脳会談がいつ頃具体的に開催の合意に至ったのかは分からない。
 結論的に言えば、中国は決して台湾との首脳会談を実現させる意思がなかったわけではない。
 中台は双方が受け入れられる第三国での会談の機会を探っていた。
 それが、習近平主席のシンガポールと中国との国交樹立25周年を祝うための訪問に合わせてセッティングされたというわけだ。

 シンガポールは、言わずと知れた華人都市国家であり、中台ともに関係が深い。
 中国が習近平主席のベトナム、シンガポール歴訪をアナウンスしたのは10月末だったから、その時にはすでにシンガポールでの中台首脳会談が織り込まれていたのだろう。

■なぜ「死に体」の馬英九総統と会談したのか

 しかし、今回の中台首脳会談は、習近平主席の外交日程に合わせて実現したという単純な話ではない。
 これは実に微妙なタイミングのなかでセッティングされたといえる。
 中国側の事情を推測すると、2016年1月16日に投票が行われる台湾総統・立法院同時選挙の後で馬英九総統と会談しても意味がない。

 総統選は、野党・民進党の蔡英文候補の勝利が確実視され、立法院選挙でも民進党が過半数の議席を取る勢いであると予想されている。
 そうであれば、2016年5月の総統交代を待たず完全に「死に体」となった馬英九総統に会う必然性がないのは説明するまでもない。
 だとすれば、総統選前に首脳会談を実現させる必要がある。
 しかし、それが総統選直前の12月であれば、台湾住民の強い反発が予想される。
 中国による総統選への露骨な干渉だと受け止められるからだ。
 その意味で11月初旬という時期はギリギリのセーフであった。

 では、総統選挙、立法院選挙で敗色濃厚な国民党に肩入れするように見える中台首脳会談を、なぜ中国が受け入れたのか? 
 もっと言えば、任期切れが近いうえに支持率も低迷を続け、政治的求心力に欠ける馬英九総統と、なぜいまさら首脳会談を行う必要があったのか、ということである。
 これは単純に解釈すれば、史上初の中台首脳会談を成功させて「歴史に名を残したい」馬英九総統の願望に応えることで、馬英九総統が推進してきた中台接近政策を評価して見せ、その政策が実績として積み上げた中台関係の現状を固定化させる狙いが中国側にあったということだ。
 そのことはまた、来年誕生するであろう民進党の蔡英文政権を牽制することにもなる。
 中台関係を後退させないための仕掛けと言ってもよいだろう。

■歴史に名を残したかった馬総統

 一方、台湾総統府は中台首脳会談の実施を発表するに当たり、「中台の融和を強固にし、現状を維持するため」と説明しただけで、馬英九総統の個人的な願望や、総統・立法院選挙で劣勢にある国民党勢いを盛り返すテコ入れなどという「下世話な」ことはおくびにも出さなかった。
 しかし、現時点での首脳会談の実施が選挙における形勢逆転に資するかといえば、「大局に影響なし」である。
 裏目に出れば蔡英文や民進党への支持がさらに高まることさえ考えられた。
 厳しい見方をすれば、中台首脳会談は馬英九総統の「歴史に名を残したい」という個人的動機が、総統選挙や立法院選挙よりも優先されたといえるだろう。

 実際、中台首脳会談が実施された後の世論調査で、国民党の総統候補である朱立倫の支持率は概ね横ばいであり、蔡英文の支持率は上昇傾向である。
 つまり、差は広がってしまっているのである。
 民進党に近い台湾紙「自由時報」のウェブサイトに台湾の各メディアの総統候補者の支持率調査のデータが出ている。
 例えば香港資本のテレビ局であるTVBSの調査では、蔡英文の支持率は11月9日の時点で43%だったが、11月20日には46%に上昇した。
 同じく国民党の朱立倫は27%から28%へと微増に過ぎず、支持率の差は拡大している。
 台湾のテレビ局である三立電視の調査では、10月19日の時点で蔡英文41.6%、朱立倫20.7% であったのが、11月8日には蔡英文46.7%、朱立倫19%と、差が大きく拡大している。

 しかし、馬英九総統の個人的動機についても弁護の余地がないわけではない。
 2期8年近くにわたる中台融和路線の集大成として首脳会談を実施することで有終の美を飾りたいと考えたとしても、なんら不自然ではないからである。

■「92年コンセンサス」を維持したい中国

 だが、たとえ有終の美を飾ったとしても、問題は残る。
 馬英九総統の推進した中台融和路線が中台で「一つの中国」を共有したことによって可能になったという現実があるからだ。
 少し詳しく言えば、中台融和を推進するにあたって、馬英九政権が中国と折り合いを付けるために用いたのが「92年コンセンサス」であった。
 これは中国の共産党政権と台湾の国民党政権が「一つの中国」という共通認識を「両岸関係の平和的発展の政治的基礎」に位置づけようとするものであった。
 ただし、より正確に言えば、
 台湾側の主張は「一つの中国、各自表述(一中各表)」であり、「中国は一つであるが、それは中華民国を意味する」ということになるが、
 一方、中国側は「一つの中国」に力点を置き、「各自表述」部分はあいまいにしてきた。
 あいまいにしなければ、中華民国を強調することになり、中国の嫌う「二つの中国」になってしまうからだ。

 中国にとっての「一つの中国」が中華人民共和国を意味することは言うまでもない。
 結果として、あいまいな「一つの中国」だけが強調され、中台の接近が図られてきたのである。

 そうしたところで、台湾で「92年コンセンサス」の存在を否定する民進党政権が誕生すれば、中国側にとってこれまでの中台融和路線を継続させる政治的基礎が失われることになる。
 そうなる前に馬英九総統との首脳会談を実現させることで、「両岸関係の安定の政治的基礎は『一つの中国』認識の共有にある」ことを台湾住民にアピールする必要があった。

 馬英九政権時代に達成された台湾海峡両岸の協調・安定・繁栄の枠組みとは、すなわち「三通(通商、通航、通郵)」の実現である。
 それによって、例えば中台直行便が急増し、通商枠組みとしてのECFA(両岸経済枠組協定)が結ばれ、両岸の観光客を含めた人的交流の拡大にもつながり、中台の緊張を過去のものにすることができた。
 中国にとって、両岸の交流の拡大こそが、安定した両岸関係の実現を可能にしたという事実を台湾住民に再確認させる意味があった。

■台湾住民から見ると中台融和は「売国」路線

 しかし、台湾でなぜ馬英九政権の支持率が低迷してきたのかを考えれば、中国の言う「一つの中国」の強調が台湾住民の反発を呼ぶことは明らかだ。
 たしかに馬英九政権の8年間で経済的に中台が接近したことは疑いない。
 だがその反作用として台湾住民の心が中国大陸から離れてしまった現実を無視することはできない。
 馬英九政権が誇示する中台の接近は一面的なものに過ぎず、例えば台湾を訪れる大量の中国人観光客と接した台湾の人々は、「我々は大陸の中国人とは違う」ということを確信するようになっていったのである。
 台湾の国立政治大学選挙研究センターが定期的に実施しているアイデンティティーに関する調査(2015年7月)によれば、アイデンティティーは「台湾人」との回答は59%、「台湾人であり、かつ中国人」との回答は33.7%であった。
 「中国人」との回答はわずか3.3%にすぎなかった。
 台湾人意識が確実に高まっていることが分かる。

 中台の経済的接近も、換言すれば台湾経済の中国への依存を強めただけであり、いまや台湾の全貿易額の約25%を中国が占めている。
 台湾の対外投資も圧倒的に中国向けになってしまっている。
 昨年2月、台湾の大学生が立法院を占拠し、中台のサービス貿易協定交渉に歯止めをかけた「ヒマワリ学運」は、馬英九政権の加速する対中傾斜に危機感を持った結果であった。

 厳しい表現を承知で言えば、台湾住民にとって馬英九政権の中台融和路線は、台湾を中国に売り渡す「売国路線」と認識するにいたっていたからこそ、馬英九総統の支持率が10%あるかないかという極端に低い数字になって現れていたのである。
 そうだとすれば、習近平主席が首脳会談で語った
 「(台湾海峡)両岸はいまなお統一されていないが、中国の主権と領土保全はいまだかつて分離されたことはない。
 両岸が同じ1つの国に属し、両岸同胞が同じ1つの民族に属するという歴史的事実と法理的基礎はいまだかつて変わっておらず、また変えられない」
という言葉に、どれほどの台湾住民が同意するだろうか。
 この言葉は、中国が繰り返してきた「台湾は中国の不可分の一部だ」という主張を言い換えたに過ぎない。

■領土問題で中台の「共闘」はありえない

 中国の習近平政権にとって、民進党政権に移行した後の台湾に付け込む余地があるとすれば、海洋における領土主権の共通性だろう。
 中国は、南シナ海問題でも台湾を取り込みたいことは疑いないだろう。
 というのも、中国が南シナ海の領有の根拠としている、いわゆる「九段線」というU字型の海上に引かれた線は、もともと1947年に当時の国民党政権によって設定されたものだからである。
 南シナ海問題で関係諸国との対立を深める中国にとって、台湾と連携できれば中国包囲網の一角を崩すことになるし、南シナ海で「航行の自由」作戦を強行する米国と台湾との戦略的連携に楔を打ち込むことができる。

 だが、そうした中国の意図を読んでいたのかどうかは分からないが、馬英九総統は習近平主席との首脳会談で南シナ海問題を議題にしなかった。
 親中の馬英九政権といえども、尖閣諸島の領有をめぐっては中国側からの「共闘」の提案を拒絶している。
 南シナ海でも同様だろう。
 蔡英文政権のもとで中台の「共闘」はありえない。

■蔡英文候補の「現状維持」路線とは?

 馬英九総統と習近平主席が、ともに中台関係の政治的基礎が「92年コンセンサス」である点で一致したことは、果たして次期総統が確実視される民進党の蔡英文候補を縛ることになるのかどうか。
 蔡英文候補は、これまでも中台関係は「現状維持」が基本的な政策だと主張している。
 ただし、彼女の言う「現状維持」は「92年コンセンサス」に拘束されるものではない。

 では、蔡英文候補の言う「現状維持」とは何か。

 蔡英文候補は「台湾海峡の平和を維持し、両岸関係の安定発展の現状を持続させることが両岸関係の核心だ」と述べている。
 これは中台の経済関係や人的往来を後退させない意思表示と受け止めることができる。
 これを馬英九時代の「92年コンセンサス」に代わる路線で行うとすれば、それは何なのだろうか。

 1つのヒントは、蔡英文候補が今年の「双十節」(中華民国独立記念日の10月10日)のイベントに参加した事実だ。
 中華民国は中国国民党とほぼイコールの存在である。
 中華民国国旗は「青天白日満地紅旗」と呼ばれるが、「青天白日」の部分はそのまま中国国民党のシンボルマークである。
 その、いわば国民党のイベントとも言える「双十節」に参加した蔡英文候補の思うところは、民進党の党是にある台湾は「すでに独立した国家」であることに立脚し、台湾の現状そのものである「中華民国」を正面に押し出し、中国と対峙しようとしているのかもしれない。
 これは「92年コンセンサス」を逆手に取った戦略といえる。

 これは、将来的に中国と決別する「台湾独立」とも違うし、米国や日本とも折り合いがつく。
 米国の「one China policy」は厳密に言えば「one China, but not now」であり、米国の「台湾関係法」はその趣旨に沿うものだ。
 日本も、中国の「一つの中国」に理解と尊重を示しただけで受け入れているわけではない。
 台湾に「中華民国」が存在しているのは、まさに「現状」なのであり、その現状を維持しつつ大陸との関係を構築していこうとするのが蔡英文候補の「現状維持」路線なのだろう。

■「リバランス」しようとしている台湾外交

 実は11月19~20日、台北を訪ね、民進党幹部の話を聞く機会があった。
 彼は、
 「台湾にとって重要な国際関係は米国、日本、中国だが、馬英九政権は中国に傾斜しすぎて反発を受けた。
 台湾にとって、政治制度や価値観が共有できるのは米国であり、日本だ。
 民進党政権ができた暁には、対米関係、対日関係の修復に尽力するつもりだ」
と述べた。
 まさに台湾外交の「リバランス」である。

 馬英九総統にとって、中台首脳会談は願望の実現だったのだろう。
 その政治資産は、今後馬英九自ら大陸との架け橋として、これまで連戦・国民党名誉主席が果たしてきた役割を担うことになるかもしれない。

 しかし、台湾人に何らアピールしない首脳会談はやはり失敗だったと言っていいだろう。
 蔡英文総統の誕生が待たれる。



サーチナニュース 2015-12-09 07:33
http://news.searchina.net/id/1596467?page=1

中国軍中将「台湾が中国の決意を試すなら、何万発ものミサイルが台湾全域に」  
総統選・独立問題で強硬論

 中国メディアの環球時報は7日付で、台湾問題についての人民解放軍の王洪光中将による署名原稿を掲載した。
  王中将は台湾が(独立を許さないとの)中国の決意を試すことがあれば、
 「後には引かない。徹底的にやる」
と、武力に訴えれば台湾を徹底的に破壊できると主張した。

 文章の背景には台湾で来年(2016年)1月に実施される総統選がある。
 これまでのところ、民進党主席(党首)の蔡英文候補(写真)が優勢とされている。
 民進党は「台湾共和国の建設」を基本綱領の筆頭に掲げている(独立綱領)。1999年には現状を変更するには住民投票を必要とする「台湾前途決議文」を採択したが、中国は「台湾独立を目指す勢力」として警戒している。

 王中将は文章の冒頭で、「新台湾加油(新しい台湾頑張れ)」のタイトルで放送された台湾のテレビ番組に注目。
 蔡候補が当選しても
 「中国共産党は(選挙結果の)現実を受け入れるだろう。
 台湾人が恐れる必要はない」
との発言に注目。

 発言者は中国が戦争に踏み切らない理由として、イラン・イラク戦争や朝鮮戦争を例に、「戦争は双方に惨状を引き起こす」などとしたという。

 王中将はイラン・イラク戦争を例としたことはは発言者の「無知」を示すものと主張。
 同戦争では双方の実力が匹敵しており、宗教や民族の矛盾や領土問題が発端になって勃発したと説明し「大陸と台湾の関係とイランとイラクの関係は全くことなる」と主張。
 その上で
 「大陸と台湾の間にある台湾海峡だが、この浅い海峡ひとつが台湾のついたてになるか?」
と論じた。

 さらに現在における台湾と大陸の軍事力について
 「もはや同じレベルではない。
 (大陸は)第4世代戦闘機の機数ならば台湾の6倍。
 台湾の旧式のF-16A/B型戦闘機で、台湾西部ないし台湾全島に遠距離ミサイルが何万発も降り注ぐのをどうやって止めるのか?」
などと威嚇。

 台湾独立勢力が
 「それでも、どうしても大陸の決心を試すというなら、我々は後に引かない。
 徹底的にやる」
と論じた。

 王中将は続けて
 「台湾で独立問題について大いに議論することは歓迎だ。
 われわれは本当に、そう思っている。
 真理というものがますます明らかになる」
と主張。
 蔡候補は国民党主席の朱立倫候補による議論の申し出から「逃げ回ってばかりいる」と論じた上で
 「この選挙の機会に、独立問題をよくよく討論してほしい。
 台湾人民にとって有利なのは統一か、それとも分裂なのか?」
として文章を締めくくった。


  中国が強く出るというのは中国が台湾独立に怯えているということだろう。
 もし、台湾が独立を宣言すれば、国内は雪ナダレ式に混乱へ突入する。
 それを避けるためにはどうしても台湾に対する恫喝となる。
 中国の脅しは台湾にどう反映されるか。
 作用があれば反作用を生む。
 その形がどうなるかだろう。
 台湾は中国が零落して行ったときの弱点を握っているといってもよい。
 なら、中国が弱くなったとき、台湾は独立するのかというと、おそらくしない。
 そのとき、台湾は中国への侵攻を実行する可能性が高い。


Wedge 12月13日(日)9時0分配信
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5692

中台首脳会談に臨んだ中国の思惑

 米アトランティック・カウンシル上席研究員で元米国務次官補のロバート・マニングが、11月11日付National Interest誌ウェブサイト掲載の論説で、習近平が馬英九に会うことにした主要な理由は両岸関係の緊張と対立への逆戻りを避けることだった、と述べています。

■台湾の独自路線恐れる中国

 すなわち、中台首脳会談を72年のニクソン訪中に匹敵するとする者もいる。
 しかし会談にどれ程の意義があったのかは来年1月の総統選挙後を待たねばならない。
 今回の会談は、
 中国が単なる一つの省とみなす台湾を対等の存在として扱う異例の先例を作った。

 中国軍の近代化は台湾を念頭に始まった。
 馬英九が対岸に展開するミサイルの削減を求めたのに対し、習近平は台湾を目標としたものではないと空々しい主張をした。

 習近平は総統選挙での民進党の優勢を念頭に、両岸関係の現状を強化し、国民党を支援しようとした。
 台湾が独自路線を歩むことへの恐怖は明らかだ。

 馬英九政権下での関係発展により、台湾にとって中国は貿易の25%を占める最大の貿易相手国となった。
 台湾の対中投資は公的統計では600億ドルとなっているが実際は2~3000億ドルになる
のではないかとする推算もある。

 民進党綱領は台湾の独立を標榜しているが、蔡英文候補は総統になっても現状を変えることはしないと述べている。
 「92年コンセンサス(一つの中国・それぞれの解釈)」について民進党は立場を明確にしていない。
 蔡主席は今年の訪米の際、両岸の現状は受け入れるとして、オバマ政権を安心させた。

 中国経済圏に組み込むことによって政治関係と統一を加速化しようという中国の目論見は未だ結果が出ていない。
 却って台湾では中国との経済統合への反感が強まっている(14年のひまわり運動)。

 首脳会談で習近平は一国二制度が中台統一のモデルだということは述べなかった。
 台湾の大多数の人は「一国1.5制度」になることを恐れている。

 台湾は、中国が台湾の国際機関加盟(WHOなど)を強圧的に阻止していることを懸念している。
  台湾にとり国際空間の拡大は重要課題であり民進党政権はこれを一層重視するだろう。
 習近平はAIIBへの台湾加盟を認める旨を述べたがそれは先例になりうる。
 台湾はTPP参加に強い関心を有している。
 台湾のTPP等への参加を中国が許すかどうかは、両岸安定が今後も続くかどうかのひとつの指標になる。

 習近平が馬英九に会うことにした主要な理由は両岸関係の緊張と対立への逆戻りを避けることだったようだ。
 他方、共産党がコントロールできない程に台湾統一圧力を求めるポピュリスト・ナショナリズムが高まる可能性もある。
 今回の会談が新しいダイナミズムをもたらすのかどうか、それは民進党総統との次期首脳会談があるかどうかで分かるだろう、と述べています。

 出典:Robert A. Manning,‘Deciphering the Big China-Taiwan Meeting’(National Interest, November 11, 2015)
 http://nationalinterest.org/feature/deciphering-the-big-china-taiwan-meeting-14311

■台湾との面倒事避けたい中国

 今回の首脳会談に、馬英九は政治レガシー作りと選挙での国民党テコ入れに利益を見出したかもしれませんが、習近平にはもっと大きな戦略があったように見えます。
 習近平は硬軟両様のメッセージを出しました。
 両岸地域に配備されたミサイルの削減を求めた馬英九に習近平は台湾に向けられたものではないと空々しい主張をしましたが、台湾統一についてはきついことは言わず、AIIBについては
 「台湾が適切な手法で参加することを歓迎する」
と前向きな反応を示しました。
 年初には台湾のAIIB加盟を拒否していました。
 これらのメッセージを次期総統に向けて送りたいと考えたのでしょう。
 今回の会談は、「習馬会談」というよりも「習蔡間接会談」だったと言えるでしょう。

 習近平にとっては、当面は東シナ海や南シナ海に集中すべく、
 台湾との間で問題を起こしたくないとの戦略がある
のではないでしょうか。
 中国は優先順位が明確な国です。

 マニングは、中国が台湾のTPP参加を認めるかどうかに注目し、台湾が国際社会からますます疎外化されていることを懸念しています。
 しかし、中国を差し置いて台湾がTPPに参加することには、中国の強い反発が予想されます。

 マニングは、民進党総統との首脳会談が行われるかどうかにも注目しています。
 民進党は、台湾は既に事実上の主権独立国家になっていることを基本的立場としています。
 11月7日に発した談話で、蔡英文主席は、中台首脳が「一つの中国」の原則を確認したことは「両岸関係における台湾人の選択を制限した」と述べています。
 蔡英文は両岸関係の現状を元に戻すことはしないと明らかにしているので、その点で中台は一致できます。
 しかし、中国が統一問題を出せば両者は原則論でぶつかるでしょう。
 蔡英文は国際機関やFTA等への参加を強く主張するでしょう。
 新総統の下で中台関係がうまくいくかどうかは習近平の出方次第ということになるのでしょう。
 なお、最新の世論調査によれば、民進党のリードは微増しており、首脳会談は国民党の支持増大には繋がっていません。

 引退間際の政治家がこういう大きな外交行事をすることには、デモクラシーにもう少し謙虚であるべき、との感想を禁じ得ません。
 中台関係については本来台湾人の民意が重要であり、それは選挙によって分かることです。









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