2015年11月4日水曜日

底が抜けた中国経済(8):「中国の”悪”夢」の始まり 

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現代ビジネス  2015年10月26日(月) 近藤 大介
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46029

中国の「GDP6.9%成長」は真っ赤なウソ!
国家統計局の発表ではっきりした「経済失速」の真実

■中国でいま起こっていること

 このたび『中国経済「1100兆円破綻」の衝撃』(講談社プラスアルファ新書)という新著を上梓しました。私にとって、これがちょうど20冊目の著作となります。

●近藤大介著『中国経済「1100兆円破綻」の衝撃』(講談社+α新書、税込み821円)

 この本では、われわれ日本人も決して他人事では済まされない、
 中国経済の昨今の減速ぶりを、4つの側面から分析しました。

第一は、6月以来の「中国株暴落」が意味するものです。
 いまから4ヵ月前に突然始まった中国株の暴落によって、日本の人口よりも多い1億7000万人もいる「股民」(個人株主)たちが、大損しました。

 日本ではあまり報じられていませんが、中国で台頭しつつあった中間所得者層を直撃した株暴落は、ボクシングのジャブのように、着実に中国経済をダウンさせつつあります。
 このことは、例えば日本に来ている「爆買い」の中国人観光客のショッピング動向にも、今後影響を与えてくると思われます。

第二は、中国経済の大転換が図れない象徴的存在である「国有企業」の問題です。
 中国は、1992年に、社会主義市場経済という世界のどこにもない社会システムを始めました。
 折からの社会主義国の友好国の崩壊を受けて、政治は社会主義を堅持するけれども、経済は市場経済に移行していくという方針です。

 この鄧小平の「大発明」のおかげで、中国はその後、20年にわたって驚異的な経済成長を果たしました。
 しかし、いまやこの社会主義市場経済の弊害と矛盾が、抜き差しならないところまで来てしまっているのです。

 その象徴が、中国に1100社余りある国有企業です。
 市場経済ならば企業は市場(社会)と株主に対して責任を負いますが、中国の国有企業が責任を負うのは、中国共産党に対してです。
 なぜなら中国は社会主義国家のため、共産党が企業経営者の人事と経営方針を握っているからです。
 日本では企業経営者が安倍首相をバカにしても一向に構いませんが、中国では習近平総書記の意向に逆らえる企業経営者は一人もいません。

 こうした社会主義と市場経済の矛盾を解決するには、究極的には社会主義を捨てるか市場経済を捨てるかしかないのですが、習近平政権はどちらも捨てることなく、いまの矛盾に満ちた中国経済を「新常態」(新たな正常な状態)と呼んで正当化しようとしています。
 それで経済減速は、ますます加速していっているのです。

第三は、「人民元国際化」の問題です。
 習近平主席は10月19日から23日まで、国賓としてイギリスを訪問しました。
 これには、南シナ海危機が近づく中、米英同盟に釘を刺すという軍事政治面での目的と、人民元の国際化を促進させるという金融面での目的がありました。

 今年年末までに、IMFにおいてSDR(特別引き出し権)を得るというのが、2008年からの中国の悲願です。
 なぜなら、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドに続くSDRを得る5番目の通貨になることによって、人民元は晴れて国際通貨の仲間入りを果たせるからです。
 人民元が国際通貨になれば輸出入がスムーズになり、いまの中国経済の閉塞感を払拭する起爆剤になると、習近平政権は睨んでいるのです。

 中国人民銀行は10月23日、翌24日から銀行金利を自由化すると電撃発表しました。

 中国は市場経済国家を標榜している手前、金利の自由化は当然です。
 しかしこれまでは、預金者(国民)の利益よりも国有銀行の利益を優先する立場から、預金金利を低く抑えてきました。
 それによって、怪しげな高利回りの理財商品などが蔓延って、中国の金融業界は、まるでシロアリに巣食われた家のようになってしまった。

 そこで、金融の健全化とSDR取得の一挙両得を目指して、ようやく金利の自由化に踏み切ったわけです。
 この措置によって、銀行の金利競争が始まり、かつての日本のように、銀行再編につながる可能性があります。

第四は、民主的な選挙がない中国特有の政治システムが生む仁義なき「権力闘争」が、中国経済に与える影響について論じました。
 8月12日に天津で起こった大爆発事故によって、日本でも改めて中国リスクが取り沙汰されたのは、まだ記憶に新しいところです。しかし一皮剥けば、あの大事故の背景には中南海の権力闘争が絡んでいて、共産党内部の権力闘争は中国経済に大きなブレーキをかけているのです。

習近平主席は権力を維持するために、9月3日に北京で大々的な軍事パレードを挙行しましたが、あの軍事パレードにも、香港紙の試算によれば4,300億円もの費用がかかっています。
 この額は、日本が総選挙を行う費用のザッと6倍にあたります。
 習近平主席は「八項規定」(贅沢禁止令)を全国に指令して、万事倹約を唱えていますが、自分の権力維持には、莫大な費用をかけているのです。

 以上4つの側面から中国経済について分析するとともに、近未来の予測も行いました。
 すべては、今年4回、中国へ行った時の最新の取材に基づいたものです。

 担当編集者からの「なるべく平易に書いてほしい」という要望に耳を傾け、最新のエピソードを散りばめて、中国でいま起こっていることが、ビビッドかつ包括的に理解できるようにしてあります。
 ぜひお目通しいただければ幸甚です。

 さて、すっかり前置きが長くなりましたが、以下今週のコラムでは、新著のテーマでもある最新の中国経済について記します。

■「5中全会」の開催が遅れた理由

 10月26日から29日まで、年に一度の中国共産党の重要会議「5中全会」(中国共産党第18期中央委員会第5回全体会議)が開かれる。
 今回のテーマは、2016年から2020年までの「第13次5ヵ年計画」を策定することである。

 聞くところによれば、当初は国慶節の大型連休明けの10月15日から18日の開催を予定していた。
 それが10日以上も開催を遅らせることになった。

 それには内的原因と、外的原因があったという。
 まず内的原因とは、来年からの5ヵ年計画の策定に関する意見の不一致である。

 ごくごく大雑把に言えば、李克強首相率いる国務院(中央官庁)の経済テクノクラートたちは、あえて現実の惨憺たる経済状況を国民に開示することで、国民に危機感を持たせると同時に、今後の大胆な改革開放政策につなげようと考えている。
 ちょうど90年代後半に、朱鎔基首相が国有企業改革で取った手法だ。

 これに対して、習近平総書記率いる中国共産党中央は、「中国の夢」という習近平政権のキャッチフレーズに合わせた、夢と希望に満ち溢れた(悪く言えば虚飾に満ち溢れた)5ヵ年計画にしたいと考えている。
 悲観論を漂わせれば、政権の求心力を失うと考えているのである。

 もっと踏み込んで言えば、悲観論は李克強首相ら「団派」(中国共産主義青年団出身者)の、2年後の第19回共産党大会で自分を追い落とすための陰謀ではないかと、猜疑心を抱いている。
 そのため、あくまでも最高権力者である習近平総書記の意向を組んだものに「作り上げる」時間が必要だったのだ。

 一方、外的要因とは、9月22日から25日までの習近平主席訪米の「失敗」を指す。

 オバマ大統領との米中首脳会談では、共同声明さえ出せなかった。
 期待していたBIT(米中投資協定)は結べず、IMFのSDR(特別引き出し権)の確約はもらえず、おまけに南シナ海の埋め立てとサイバーテロの件で、散々批判された。

 アメリカはこれ見よがしに、習近平主席の帰国直後の10月5日に、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の基本合意を演出。
 経済的な中国包囲網構築に、大きく前進した。

 こうした負の連鎖の中、習近平主席としては、10月19日から22日の訪英に活路を見出し、成果を引っ提げて「5中全会」に臨みたかったのである。

■「国民経済運行総体平穏」だって?

 そのような、開催前から水面下で「暗闘」があった「5中全会」直前の10月19日に、第3四半期(7月~9月)の経済統計が発表された。

 この日、中国国家統計局の会見に訪れた記者たちに配られた資料には、「前三季度国民経済運行総体平穏」というタイトルがつけられていた。
 「今年1月から9月までの中国経済は、全体として見れば平穏に運行している」という意味だ。

 そのペーパーの最初に書かれた「要旨」は、以下の通りだった。

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  今年1月から9月まで、世界経済復活の不透明感と経済の下振れ圧力が増す困難な局面に直面しながら、党中央と国務院は、国内及び国際の両大局に立脚しながら、穏やかな成長、改革の促進、システムの調整、民生への恩恵、リスク回避を図り、効果のある調整を行い、さらに改革開放を深化させ、国民の創業を後押しし、全体的に経済を平穏に運行させ、穏やかな中にも進展させてきた。

 初期の概算によれば、今年1月から9月までの国内総生産は48兆7,774億元で、前年同期比で6.9%の成長を果たした。
 3ヵ月毎に見れば、第1四半期が7.0%、第2四半期も7.0%、第3四半期が6.9%である。
 産業別に見れば、第一次産業が3兆9,195億元で3.8%増、第二次産業が19兆7,799億元で6.0%増、第三次産業が25兆779億元で8.4%増である。
 全体としては、第2四半期に較べて1.8%増だった。 
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 要は、必死に取り繕っているのである。

 だが、その下に羅列された多くの経済統計に目を通すと、深刻な状況が透けて見える。

■「投資」がいよいよ限界に達している!

 まず、全国の中規模以上の工業企業の利潤は3兆7,663億元で、前年同期比で1.9%減である。
 固定資産投資は39兆4,531億元で、名目で10.3%、実質で12.0%増加したものの、上半期に較べて1.1%落ちた。
 これは、「経済発展の一本足打法」のようになってしまっている投資も、いよいよ限界にきていることを示している。

 今年1月から9月の不動産の開発投資は、7兆535億元で、名目で2.6%増、実質で4.2%増だが、今年上半期に較べて2.0%減っている。
 そのうち住宅の新規工事開始面積は、13.5%も減っている。
 また、企業の不動産開発用土地購入面積は、1億5890万㎡で、前年同期比で33.8%も減少している。

 こうしたことは、不動産バブルが完全に崩壊したことを意味する。
 そもそも中国の投資は、
インフラ整備が25%、
不動産が25%、
製造業向けが35%、
その他が15%
 という内訳なので、投資と不動産は密接に連動している。

 貿易も相変わらず、減速傾向が顕著だ。
 今年1月から9月までの貿易額は、17兆8,698億元で、前年同期比で7.9%も減少している。
 うち輸出が10兆2,365億元で1.8%減、輸入が7兆6,334億元で15.1%減である。

 最新の9月の統計に至っては、貿易額が2兆2,241億元で8.8%減、うち輸出が1兆3,001億元で1.1%減、輸入が9,240億元で17.7%減である。
 特に、国内消費と直結している
 輸入の落ち込みが激しいことは、「輸出主体から消費主体へ」という経済発展モデルの転換が、うまくいっていないことを示している。

 その消費は、統計上は一応、堅調だ。
 今年1月から9月までの高利消費額は21兆6,080億元で、名目・実質共に10.5%増で、今年上半期に較べて0.1%増加した。
 また、今年1月から9月までのインターネット通販の売り上げは2兆5,914億元で、前年同期比で36.2%増加した。

 私が今年4回、訪中した時の実感では、インターネット通販の急速な伸びに関してはこの統計の通りだと思うが、国民の消費が10%以上も伸びているとは、到底思えなかった。
 もし本当にそうなら、輸入額が15%も減るだろうか?

■外資が逃げの態勢に入っている!

 次に、今年1月から9月までの平均国民所得は1万6,367元で、名目で9.2%、実質で7.7%増加した。 
 これは今年上半期に較べて、0.1%の増加だ。
 国民所得のこれほどの伸びは、単純労働者の不足から来る賃金上昇が大きいのではというのが、私が中国で見てきた実感である。

 産業別には、今年1月から9月までの第三次産業がGDPに占める割合は、前年同期比2.3%増の51.4%となり、今年通年で、初めて全体の過半数を超えることが、ほぼ確実となった。
  また、人民元の貸出総額は92兆1,300億元、預金総額は133兆7,300億元である。

 他には、2007年に李克強首相が「真のGDP」と言った、いわゆる「克強指数」(発電量、鉄道貨物輸送量、銀行貸し出し残高)のうち二つは、惨憺たるものだった。
  発電量は1月から9月で見ると0.1%増だが、最新の9月だけの統計を見ると3.1%減となっている。
  鉄道運送業の伸びも、1.8%増にすぎない。

 今回の統計を見ていてもう一つ気になったのは、外資が逃げの態勢に入っていることだ。
 例えば、固定資産投資のうち外資は2,229億元で、26.2%も減っている。
 企業の不動産開発資金における外資も、229億元で46.8%も減っている。

 このことは、年末に中国が鳴り物入りで発足させるAIIB(アジアインフラ投資銀行)の債権の格付けにも、影響が出てくる可能性がある。
 ムーディーズやS&Pが、中国経済リスクを見込んで高い評価を与えないということだ。
  習近平主席は、おそらくこのことにも非常に気を揉んでいるはずで、そのために先週のイギリス訪問では、必死に両国の金融協調を演出して見せた。 

 総じて言えば、国家統計局が発表した統計を見る限り、「中国経済の運行は全体として平穏無事」などとは、とても言えない状態なのである。
 むしろ、「経済減速が改めてはっきりした」と判断すべきだろう。

■「GDP6.9%成長」など信じられるか!

 世界は今、中国経済に根本的な疑念を突きつけている。
 それは、中国国家統計局が発表する経済統計は、そもそも正しいのかという疑念だ。

 中国の経済成長は、輸出、投資、消費という3本柱から成っている。
 それらを計算していくと、GDP6.9%成長など、ウソではないかというのだ(このGDP問題に関しては、冒頭で紹介した拙著で詳述したので、興味のある方は、ご高覧いただければ幸いである)。

 8月以降、こうした声は、中国国内からも上がり始めている。
 ここでは最近、知人の中国人から送られてきた二つの「微信」(WeChat)の内容を紹介しよう。

 一つ目は、9月25日に、習近平主席がホワイトハウスでオバマ大統領と米中首脳会談を行い、終了後に共同記者会見に臨んだ。
 この米中首脳会談について問い合わせたところ、ある北京在住の中国人は、次のように返信してきた。

 「共同記者会見で、中国経済の減速について質問された習近平主席は、『今年も7%程度の成長は大丈夫だ』と胸を張った。
 この発言を聞いて、われわれは、『あ~あ、主席が言っちゃったよ』と頭を抱えた。
 習主席がアメリカと世界に向かって『7%成長』と宣言したからには、何としてもそこへ持っていかないといけないからだ」

 もう一つは、この10月19日の国家統計局の発表を受けて、中国国内でにわかに流行しているというアネクドート(政治小咄)だ。

 「10月19日、中国人は誰もがホッと胸を撫で下ろした。
 この先、いくら中国経済が真っ逆さまに落ちて行っても、中国人民銀行でもなく、財政部でも国家発展改革委員会でもなく、
 最後は国家統計局が国民を守ってくれることがはっきりしたからだ」

■「万事、開放をもって改革を促すべきだ」

 おしまいに、中国で最も著名な経済学者である呉敬琏・国務院発展研究センター研究員の最近の講演録を紹介しよう。

 呉教授は、「鄧小平路線」と言われる改革開放政策の理論づけを行った経済学者で、前述の「社会主義市場経済」も、呉教授が理論づけしたものを鄧小平が実行に移した。

 呉教授は、85歳になる現在も矍鑠としていて、10月11日に、母校の上海復旦大学で20分間のミニ講演を行った。
 その要旨は、次のようなものだ。

>>>>>
 「昨今の大変複雑な中国経済を見る時、重要なキーワードは、
 危機、転換、原動力、創新(創造と刷新)、改革
の5つだ

 中国は世界的な金融危機を受けて、2009年に強力な経済刺激策を取ったが、もはやそれによる高度経済成長の時代は終わりを告げた。
 そしてここ数年は、いかに連鎖的なリスクを回避するかに話題が移っている。

 この議論は、需要の側から考える方式と、供給の側から考える方式がある。

★.まず需要側から見れば
いわゆる『3頭の馬車』と呼ばれる消費、投資、輸出入だ。
 消費は伸びるか? 
 答えはノーだ。
 輸出は伸びるか? 
 やはり答えはノーだ。
 それなら投資しか頼るものはないから、投資を増やそうとなる。

 だが投資を増やすということは、政府の負債、企業の負債、個人の負債を増やすことでもある。
 負債総額はすでに、GDPの250%から300%の間に達している。
 つまり投資を増やせば、それだけ連鎖的なリスクも増すのだ。

★.次に供給の側から見ると、
 「資本、労働、効率」
の3要素によって生産力が決まる。

☆..資本は本来、投資効果を上げるものだが、2009年来の現実を見ると、投資効果はさほど上がっていない。
 それどころか、副作用によるリスクの方が顕著になっている。

☆.労働は、もはや安価な若年層が溢れるという時代は過ぎ去りつつある。
 つまり、効率を高める転換をしていくしか成長の道はないということだ。

☆.効率を高めるための原動力は、創新以外にない。
 つまり不断の改革だ。
 こんなことは20年前の1995年にわれわれが提起したことなのに、いまだに実現できていない。

 それどころか、最近の官僚たちの不作為(事なかれ主義)は、目に余るものがある。
 この原因はいろいろあるが、一つには目標が明確に定まっていないからだ。
 例えば、金融改革については、目標を利率の市場化と兌換の市場化とはっきり定めれば、官僚たちは何をすべきかが見えてきて、改革が進むというものだ。

 個人的な所感を述べれば、改革が最も重要なのに最も緩慢なのが、国有企業改革だ。
 国有企業改革については9月に指針が示されたが、いくつかの点について曖昧にされたままだ。

 それから、自由貿易区についてだが、現在4ヵ所(上海、広東、福建、天津)が指定されたが、中央政府と地方政府の理解に齟齬がある。
 自由貿易区の目的は、貿易と投資を利便化するために、その区域内を市場化、国際化、法治化してビジネス環境を整えることだ。

 また、昨今のTPPの基本合意も、中国にとってはチャレンジだけでなく、チャンスでもある。
 われわれも万事、開放をもって改革を促すべきだ」
<<<<<<

 講演の全文を精読すると、習近平政権に対する憤懣が、行間に滲み出ている。
 この85歳の老経済学者の言葉を読んでいて、いまもしも鄧小平が存命なら、危機がヒタヒタと忍び寄る中国経済の舵取りを、どのようにしていくものかと、想像力を膨らませてしまった。


現代ビジネス  2015年11月04日(水) 近藤大介

中国経済「1100兆円破綻」の衝撃! 
崖っぷちの「実態」を描いた話題の一冊を特別公開

■中国政府が発表した「悲観的な未来」

>>>>>
25年間にわたり中国を取材してきた近藤大介氏の新著『中国経済「1100兆円破綻」の衝撃』が話題だ。
中国経済は崩壊に向かっているのか。
その答えがここにある。
<<<<<

「中国経済は、いったいどうなってしまうのか?」
「中国経済は、内部でいま何が起きているのか?」

 最近、こんな質問をよく寄せられる。

 実はこうした質問に対する「回答」を、2015年の「国慶節」(10月1日の建国記念日)の直前に、中国政府自身が作っている。
 中国国務院(中央官庁)で財政分野と投資分野をそれぞれ統括する、財政部と国家発展改革委員会の官僚たちが、共同でまとめたとされる〈中国経済の近未来予測〉なるものの内容が漏れ伝わってきている。

 それは一言で言えば、悲観的な未来予測だった。

 まず短期的には、
 生産過剰、
 (不動産や株式などの)資産価格バブルの崩壊、
 地方政府債務の増大
という「三大要因」によって、中国経済がかなり深刻な状態に陥るだろうと予測している。

 この危機的状況から脱却する最も望ましい方策は、中国経済を牽引する「三頭馬車」と言われる輸出、投資、消費のうち、消費を伸ばすことである。
★.実際、2014年のGDPにおける消費が占める割合は、51・9%と過半数を超えた。

 だが経済の悪化に伴い、国民の消費は、今後頭打ちになると見込まれる。
 また輸出も、世界同時不況の様相を呈してきているため、急回復は望めない。
 そうなると
★.中国経済は結局、政府主導の投資に頼らざるを得ない。

 しかしながら、経済は下降傾向にあり、資産価格バブルは崩壊し、利率は高く、政府が全国に下達する各種通達は矛盾に満ちている。
 これらがすべて、投資を抑制する要素として働くため、投資を増大させることもまた、困難だとしている。

 実際、2015年上半期の固定資産投資は、前年同期比で11・4%増加しているものの、その前年の15・7%増に比べて増加の幅は後退している。
 つまり、これまで中国経済を牽引してきた馬車は、いまや三頭とも息切れ状態なのである。
 その結果、中国経済はこの先、かなりのレベルまで下降していくだろうというのが、中国政府の見立てなのだ。

■悪循環がとまらない

 そうなってくると、銀行は自己防衛本能を働かせ、貸し渋りに走る。
 そして銀行の貸し渋りによって、さらに景気は悪化する。
 だがもしも中国政府が、強制的に銀行の貸し渋りを方向転換させるならば、今度は銀行が大量の不良債権を抱え、破綻リスクが高まっていく。

 さらに、経済の悪化が雇用の悪化を招く。
★.2015年7月には、中国全土で749万人もの大学生が卒業したため、いまでさえ雇用は大変厳しい状況だ。

 そのため、2016年~2020年の「国民経済と社会発展の第13次5ヵ年計画」では、GDPの目標については言及しないだろうとする見方が、中国政府内部で広がっている。
 高い目標を掲げても、単なる絵に描いた餅になる可能性が高いからだ。
 換言すれば、中国のGDPはこの先、大幅に下降していくということに他ならない。

 そのような状況下で、2017年秋の第19回中国共産党大会を迎える。「習近平政権10年の折り返し地点」にあたる第19回共産党大会に向けて、激しい権力闘争が予想される。
 本来なら経済分野は、国務院総理であるナンバー2の李克強首相の責任だ。
 だが、習近平国家主席は李克強首相の権限を事実上、剥奪しているに等しいので、習近平主席の経済運営責任が問われることになる。

 そしてそうした党大会へ向けた仁義なき権力闘争が、さらに経済停滞を加速させることになる――。

■習近平の「ブラック・バースデー」

 2015年6月15日――この日は、習近平国家主席の62回目の誕生日だった。

 中国人なら誰もが知っている習主席の誕生日なのに、中国のネットや、5億人以上が利用している中国版LINEの「微信」(WeChat)には、祝福のメッセージどころか、怨嗟の声に満ちあふれていた。

「『中国の夢』は、一体どうなったんだ」
「今日は年に一度の晴れの日ではなかったのか?」

 習主席の誕生日の朝から、中国ではほとんどの株価が、まるで底が抜けたように落ち始めた。
 前日終値で5178ポイントと、実に8年ぶりの高値に沸いていた上海総合指数(中国株の主要指標)は、たちまち5048ポイントまで下落。
 その後、やや値を戻して、この日は5062ポイントで終えた。
 一日で2%も暴落したのだ。

 6月末に、全国の銀行は、中国銀行業監督管理委員会に対して、上半期の会計報告を義務づけられていた。
 そのため、銀行が証券業界に貸し付けている資金の回収に走った。
 その結果、経済実態と大きくかけ離れていたバブル状態の株価を、支えきれなくなったのである。

 習近平主席の誕生日は、まさにケチのつき始めだった。
 この日以降、6月16日が3・47%の下落、17日にやや持ち直したものの、18日に3・67%下落。
 19日には、何と6・42%も下落した。
 まるで坂道を転げ落ちるように下落が続いたのだった。

■「中国の悪夢」の始まり

 「中国の夢」――これは習近平主席が、2012年11月15日に、第18回中国共産党大会で、中国を実質的に支配する共産党のトップ(党中央委員会総書記)に就いた時から唱え始めた、習近平政権のキャッチフレーズだ。
 正確には、「中華民族の偉大なる復興という中国の夢を実現する」だが、中国の一般庶民は、誰もそんな長い文句は覚えておらず、ただ「中国の夢」と思っている。

 暴落直前の週末は多くの中国人が「中国の夢」に酔いしれた。
 だが週明けの月曜日、中国人の言う「断崖式跳水」(断崖からの跳び込み)が幕を開けた。
 「中国の夢」どころか、「中国の悪夢」の始まりである。

 深証券取引所がある広東省で一番人気の夕刊紙『羊城晩報』(2015年7月3日付)によれば、2015年5月末時点で、上海と深の両証券取引所に登録している「股民」(個人投資家)は、2億1578万6700人。

 そのうち、休眠状態にある口座が4050万4500人分あるので、実際に日々、株取引をしている「股民」は、1億7528万2200人だという。
 5月には、一日あたり平均59万4000人が新たに取引口座を開設していた。

 また、中国株の保有時価総額の実に82%が、「股民」によるものだ。
 外国からの投資は厳しく制限していて、全体の2%にも満たない。
 この点は、7割以上を外国の機関投資家が占めている東京市場などとは、大きく異なっている。

 1億7528万人ということは、一人っ子政策が約35年間も続いた中国では、一家3人が標準家庭なので、4億から5億人の家庭が株に関係していた可能性がある。
★.2014年末の中国の人口は13億6782万人と発表
されているから、国民の3分の1くらいが、家族の誰かが株に興じていたとも見られる。

 ちなみに中国株が急上昇を始めたのは、2014年秋からだった。
 そして誰もがハッピーな顔をするようになったのは、2015年に入ってからだ。

 8月に入っても、株価の下落は止まらなかった。
 8月18日には、再び6・1%も暴落し、中国はまたもや大打撃を受けた。

 そこで8月23日の日曜日、国務院は、株価上昇のための「奥の手」とも言える手段を出してきて、「火消し」に走った。
  正式に、「基本養老保険基金投資管理弁法」を公布したのである。

■「中国版GPIF」で火消し

 日本には、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)があるが、これはいわば「中国版GPIF」による株式投資だった。
 「養老保険」とは、年金のことである。

 そもそもは、6月後半の株価大暴落を受けて、6月29日に国務院が、「基本養老保険基金投資管理弁法に対する意見を各界から聴取する」と発表したのが始まりだった。
 中国国務院は、日本のアベノミクスなどを研究する過程で、「中国版GPIFによる株式投資」を思いついたものと推察される。

 だが通常は、こうした新制度の「意見聴取」を発表してから正式公布するまで、半年近くはかかる。
 それをわずか2ヵ月足らずで正式公布したということは、いよいよ追い詰められ、背に腹は変えられないと判断したのだろう。

  国内の個人株主が8割以上を占める中国市場では、いったん株価が下がり始めると、まるで底が抜けたように誰もが「売り」に走り、暴落に拍車をかけるという現象が起こってきた。
 そうかといって中国の株式市場は、海外の機関投資家からの投資を警戒し、極端に制限している。
 そこで今後は、「中国版GPIF」という強力な中国政府系の機関投資家を投入することによって、高値安定した株式市場を形成しようとしたのだ。

 これだけ株式市場に投入すれば、日本のアベノミクスと同様、株価の上昇が期待できるというシナリオである。
 実際、わざわざ日曜日に発表したところに、翌月曜日からの株価急上昇という国務院の期待が感じ取れた。

■リーマンショックに似てきた

 だが、8月24日月曜日の上海総合指数は、惨憺たる結果となった。
 終値は8・49%の下落という8年ぶりの大暴落となったのである。
 中国の株式市場は、2015年内に徐々に始めていくであろう「中国版GPIF」の株式投資など、待っていられなかったのである。

 まさに中国語で言う「遠水救不了近火」(遠くの水は近くの火事を救えない)だ。

 さらに8月31日には衝撃的な統計が発表された。
★.8月上旬の時点で中国の銀行の不良債権総額が、1兆8000億元(約36兆円)
に達しているというのだ。

 そのうち5大国有商業銀行の不良債権は、
 中国工商銀行が1643億元(約3兆3000億円)、
 中国農業銀行が1595億元(約3兆2000億円)、
 中国銀行が1250億元(約2兆5000億円)、
 中国建設銀行が1443億元(約2兆9000億円)、
 交通銀行が501億元(約1兆円)
である。

 そのため、例えば
★.「世界最大規模の銀行」を自負している中国工商銀行の上半期の利益率は、前年同期の7・05%から0・7%へと、急降下
してしまった。

優良企業が突然リスク銘柄に

 前出の金融関係者は、ため息交じりに次のように語った。

「こんな惨状は、中国の銀行がいまの形態を取るようになって30年間で、初めてのことだ。
 1997年のアジア通貨危機の時も、2008年のリーマンショックの時も、これほど崖っ縁には立たされなかった。

 3兆2000億元もの地方債の発行は、中国にとって最後の賭けだ。
 2015年の年末までに、1兆8600億元分の返済が来るので、まさに自転車操業だ。

 もはや中国の銀行業界は、地方政府とともに、いつ破綻するか知れない状況に陥っている。

 積み立てている損失引当金をあてることはできるが、最近は証券業界の負担まで増え、本当にがけっ縁を歩いているようなものだ」

 この金融関係者によれば、中国の銀行破綻の発火点になりそうな「指標」があるという。

 「それは上海総合指数が、再び3000ポイントを割った時だ。 
 そこが分水嶺となるだろう。
 今後もし3000ポイントを割る局面が1ヵ月も続けば、不良債務を抱え込みすぎたいくつかの中小の銀行が、破綻する可能性がある」

 海外の専門家の見方も悲観的だ。ジョージ・ソロス、ウォーレン・バフェット両氏と並んで「アメリカの3大投資家」と言われるジム・ロジャーズ氏は、8月26日に南京を訪問。
 そこで中国の経済誌『価値線』のインタビューを受け、中国株の近未来について、次のように警告を発したのだった。

 「中国株は、これからも落ち続けるよ。
 そうすると、中国人民銀行が支えに入るだろう。
 それによって市場は一度、上昇に転じる。
 だがその後、再び急降下していく。
 しかも落ち幅は、それまでよりもさらに激しいものになるだろう」

 中国の一連の株価暴落は、日本にとっても「対岸の火事」では済まされなかった。
 日経平均株価は8月25日、733円安の1万7806円で終え、ついに1万8000円台を割ってしまった。

 この時は、それまでの2年半、苦労して日本の株価を吊り上げてきたアベノミクスは、一体何だったのだろうと思えてきた。
 日本の2倍以上のGDPを誇る隣国の経済大国が傾けば、アベノミクスなど吹っ飛んでしまうということを、われわれ日本人が思い知らされた瞬間だった。

 そのような中国リスクを回避しようと、日本企業はいま、中国市場からの「撤退ブーム」である。

■「爆買い」が「並買い」になる日

 日本から中国への直接投資は、2015年上半期に16・3%減の20・1億ドルとなった。
 ちなみにアメリカから中国への投資も10・9億ドルと、37・6%も減らしている。

 中国日本商会の幹部が語る。

 「2015年4月時点の北京での会員数は713社で、2年前に比べて17社の減少にすぎないので、撤退より縮小の傾向にあるというのが実情と思います。
 象徴的だったのが、6月16日に長富宮飯店(旧ホテルニューオータニ北京)の大宴会場で開いた黒竜江省主催の日本ビジネス交流会でした。

 親日派の陸昊省長以下、省幹部たちが必死に日系企業に誘致をアピールしましたが、会場はガラガラで、まさに笛吹けど踊らずという状況でした」

 このように日本企業は、経済が急下降する中国から身を引き始めている。
 国慶節前日の9月30日には、3人の日本人が「反スパイ法」違反容疑で3ヵ月以上も中国当局に拘束されていることが判明し、現地の日本人社会に大きな衝撃が走った。

 だが、撤退や縮小したからといって、日本の2倍以上の規模の経済大国となった中国と無関係ではいられない。

 今後も、「巨竜」がくしゃみをすれば、日本もカゼを引くという状況は続いていく。
 そして、株で損失した中国人が、日本での「爆買い」をやめて、「並買い」に変わる日も近いだろう。

レコードチャイナ 配信日時:2015年12月10日(木) 14時40分

中国の1~11月貿易総額7.8%縮小、
最大の貿易パートナーはEU、
日本は米国やASEANに追い越され―中国メディア

 2015年12月8日、中国海関(税関)総署が発表した貿易統計によると、
★.今年1~11月の中国の貿易総額は前年同期比7.8%減の22兆800億元(約423兆6000億円)で、
★.輸出は同2.2%減の12兆7100億元(約243兆8400億円)、
★.輸入は同14.4%減の9兆3700億元(約179兆7600億円)
となった。
 中国新聞網が伝えた。

 11月単月の貿易総額は前年同月比4.5%減の2兆1600億元(約41兆4400億円)。
 輸出は同3.7%減の1兆2500億元(約23兆9800億円)、
 輸入は同5.6%減の9100億元(約17兆4600億円)
だった。

 1~11月で最大の貿易パートナーとなったのは欧州連合(EU)で、
1].対EU貿易は全体の14.3%を占めた。
2].2番目は米国、
3].3番目は東南アジア諸国連合(ASEAN)の順。
4].---
5].日本は5番目の相手国となり、
★.日中間の貿易総額は前年同期比10.4%減の1兆5700億元(約30兆1200億円)
★.中国から日本への輸出は7666億元(約14兆7100億円)
★.日本からの輸入は8024億元(約15兆3900億円)
と、前年同期に比べそれぞれ8.9%、11.9%縮
小している。





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