2015年11月12日木曜日

「人民元」の国際通貨化問題(1):中国からお金の吸い上げを狙うIMF?、2016年10月から

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 「人民元」が国際通貨になれば、中国国内に溜まった人民元は利ざやを求めて中国を出ていくことになる。
 この春の株式市場の混乱をみればこの現実は分かるだろう。
 お金はお金を求める。
 人民元は政府が管理しているから価値がある。
 もし自由になったらどうなるのか?
 誰もわからない、といったほうが正解。
 でも、人為的の望みとは別にお金はひとり歩きする。
 それが資本主義の命題。
 そんな資本主義的な色合いの濃い国際市場に管理される人民元が放り込まれたらどうなる。
 人民元はさらなるお金を求めて、管理の枠を越えて中国を出ていく。
 IMFはおそらくそれを狙っている。
 いかに中国からお金を引き出すか、ちょうどイギリス王室が同じ目的で中国を歯の浮くようなヨイショしたのと同じ目的があるのだろう。
 いま、世界は中国のお金をいかにゲットするかで、いろいろな手を考えている。
 この新興成金のお金を誰がうまく鷲掴みにできるかの競争が始まっているようだ。
 インドネシア、イギリスそして次はIMFか。


Business Journal 2015/11/11 22:32 文=真壁昭夫/信州大学経済学部教授
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151111-00010000-biz_bj-nb

日米vs.急速に親中国化する欧州
中国の対立が先鋭化 
なぜ人民元が国際通貨化?

 中国の人民元が、IMF(国際通貨基金)の特別引き出し権(SDR:Special Drawing Rights)に採用される見込みだという。
 人民元の採用については、日米が慎重な姿勢を取る一方、ドイツや英国などが積極的に支持する構図になっている。

 もともとIMF自身は、国際化のさらなる進展のために人民元採用に前向きだった。
 そこに、欧州諸国が中国に歩み寄る姿勢を鮮明化していることが重要な支援材料になっている。
 実際に、11月のIMF会議で採用が決まると、人民元は名実ともに国際通貨としての地位を確立できる。
 中国にとって、人民元が有力な国際通貨としてのお墨付きを受ける意味は大きい。

 IMFは、国際金融や為替の安定性を維持するために創設された国際機関だ。
 それぞれの加盟国は予めIMFに資金を拠出し、その出資比率に応じて必要な時に資金を借りる権利を持つ。
 SDRは借り入れを受ける権利のことであり、また、借り入れを受ける時の資金の単位でもある。
 現在、SDRの価値を算出するときに採用されている通貨は、ドル・ユーロ・ポンド・円の4通貨であり、これらの通貨を加重平均するバスケット方式によってSDRの価値を算定する仕組みになっている。
 今後、通貨バスケットの中に人民元が入ることになりそうだ。

●今でも政府管理通貨である人民元
 
 中国が採用を積極的に働きかけ、ドイツや英国などが積極的に支援するスタンスを示す
バスケット採用通貨については、IMFの明確な基準が存在する。
★.ひとつは、加盟国が発行する通貨の中で過去5年間で財・サービスの輸出額が最も多いこと。
★.もうひとつは、自由に売買が可能な「自由利用可能通貨」であることだ。
 その基準に基づいて、5年毎に見直しされることになっている。
 今年は見直し年に当たる。

 2つの基準に照らして人民元を考えると、まず1つ目の基準については問題ない。
 近年の中国の輸出額をみると、その基準をクリアしていることは明らかだ。

 しかし、2つ目の基準については重大な問題がある。
 人民元は厳格に政府によって管理されており、必ずしも自由に取引が可能とはいえない。
 現在の人民元の取引は、中国本土内の取引=オンショア人民元(CNY)市場と、香港中心の中国本土外の取引=オフショア人民元(CNH)市場とに分かれている。
 中国本土内での取引は、中国人民銀行による強い管理体制の下で行なわれており、実際の為替レートは事実上、人民銀行が決める水準に限られる。
 現在では、人民元のレートは基本的にドルとほぼ連動している。
 そのため、人民元がドルと厳格に固定されているわけではなく、
 緩やかなドル連動制=ソフトドルペッグ制
と呼ばれている。

 一方、香港を中心とした中国本土外での人民元の取引は、中国政府の厳しい規制が及ばない。
 そのため、国境を跨いだクロスボーダーの決済や、為替レートの変動の制限などはなく比較的自由に取引が可能だ。

●人民元の扱いをめぐる国際情勢

 中国人民銀行が取引レートを一方的に決め、しかも中国本土では取引に大きな制限がある人民元について、わが国や米国は人民元のバスケット入りに慎重なスタンスを取ってきた。
 それに対して中国政府は、今後一段と人民元の国際化を促進すると表明しており、今年8月11日に、事実上の人民元切り下げを行ったときにも、当該措置は人民元の国際化への一環と説明していた。

 また、「今後も人民元取引の自由化を積極的に推進する」と明言してきた。
 それと同時に、中国政府は人民元をSDRのバスケットに組み入れて、人民元が主要国際通貨のひとつと認識されることをIMFに積極的に働きかけてきた。
 
 近年、そうした中国政府の要請に対する強力な援軍が現れた。
 英国やドイツなどを中心とする欧州諸国が、中国政府の要請を明確に支持するスタンスを取り始めたのである。
 そうした情勢の変化によって、中国をめぐっては、IMF内部で
 「中国に接近する欧州諸国vs.中国と距離を置く日米」
という構図が鮮明化しつつある。

 一部の欧州諸国が親中国のスタンスを明確にし始めた背景には、人口減少などの問題を抱えて安定成長期にある欧州経済にとって、13億人の人口を抱える中国=巨大消費地としての重要性を増していることがある。
 特に、強力な輸出産業を持つドイツは、中国市場への積極的な進出によって世界市場でのマーケットシェアを拡大しており、今後もそうした展開を進めることが最大課題のひとつになっている。

●親中国の欧州諸国と日本の対応

 スコットランドの独立やEUからの脱退などの問題を抱える英国にとっても、中国の存在は大きい。
 10月の習近平主席の訪英時には最大限の歓待の意図を示し、原子力発電所建設に関するプロジェクトにも中国からの支援を受ける意向を示した。
 また、世界有数の金融都市ロンドンを抱える英国にとって、人民元の決済口座をロンドンに確保し、今後拡大が見込まれる人民元取引を集中させたいとの意図は明確だ。
 そうした英国政府の姿勢について国内から「やりすぎ」との批判が出ているものの、当面英国政府の親中国のスタンスは変わらないだろう。

 世界の覇権国であり、長年にわたって英国など主要欧州諸国と強力な同盟関係を維持してきた米国にとって、英国やドイツなどが露骨に中国にすり寄ることは予想外の展開だったかもしれない。
 特に、南シナ海での強引な人工島建設に伴う問題が顕在化している現在、米国の意図を軽視する欧州諸国の態度にはやや困惑を感じているかもしれない。

 中国との領土問題を抱える日本にとっても、欧州諸国のスタンスはプラス要因ではない。
 ただ、欧州諸国と正面から対立する構図は得策ではない。
 今後の主要国の態度を注視すると同時に、冷静な大人の態度が必要だ。

 足元で中国経済は、過剰供給能力と過剰債務の問題に直面している。
 少子高齢化の人口問題も無視できない。
 そうした課題を抱える中国経済の減速は明確化している。
 中国にかつてのような高成長を望むことはできない。
 中国経済の成長鈍化が一段と鮮明化すると、したたかな欧州諸国は親中国一辺倒の政策運営はできなくなるだろう。
 そうした変化を敏感につかみ、日本は国際情勢の変化をうまく使えばよい。
 そのチャンスはくるはずだ。



時事通信 (2015/11/10-18:59)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201511/2015111000847&g=int

人民元、20年に国際化=中銀総裁

 【上海時事】中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は第13次5カ年計画(2016~20年)の策定方針に関し、人民元の国際化を20年までに達成する目標を掲げた。
 中国のニュースサイト・財新網が9日公表した。

 周総裁は人民元を国際通貨とするため、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨への組み入れや為替市場の規制緩和などを推し進める方針を示した。



毎日新聞 11月14日(土)11時1分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151114-00000026-mai-brf

<IMF>人民元、SDRの構成通貨に

◇30日正式決定 ドル、ユーロ、ポンド、円に次ぐ5通貨目

 【ワシントン清水憲司、北京・井出晋平】
  国際通貨基金(IMF)は13日、外貨不足に陥った加盟国を支援する特別引き出し権(SDR)の構成通貨に、中国の人民元の採用が妥当とする見解をまとめた。30日のIMF理事会で正式決定する。
 構成通貨としては米ドル、ユーロ、英ポンド、円に次ぐ5通貨目で、中国経済の台頭を背景に人民元が主要国際通貨の一角として認められることになる。

 SDRは、加盟国のIMFへの出資比率に応じて各国に割り振られており、金融危機などで外貨不足に陥った場合、SDRと引き換えにドルや円などと交換できる。
 構成通貨は5年に1度、見直しを検討する決まりで、今年が見直しの年にあたっていた。

 構成通貨に採用する条件は、
(1):モノやサービスの輸出額が多い国の通貨
(2):国際取引で広く使われ、外国為替市場で自由に取引されている
--の2点で、人民元は貿易面では基準をクリアしていた。
 IMF事務局は13日、人民元が両方の基準を満たしたとする見解をまとめ、採用の是非を判断するよう理事会に提案。
 ラガルド専務理事は「審査結果を支持する」として、加盟各国に賛同を促す声明を出した。

 中国は今年に入って、SDR入りを目指す方針を公式に示し、人民元の取引活発化に向けた通貨・金融市場改革を実施。IMF事務局が7月、「運用上の課題がある」との報告書をまとめた後、中国が人民元相場を従来より市場実勢に従って変動させるなど一段の改革を約束したことで、今回の「妥当」の判断につながったとみられる。
 中国人民銀行(中央銀行)は14日、「人民元のSDR入りは、現行の国際通貨体制を改善し、中国と世界にともに利益をもたらす」との声明を発表し、理事会での正式決定に向けて各国の支持を求めた。



時事通信 (2015/11/14-10:03)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201511/2015111400107&g=int

人民元、基準通貨入りへ=30日決定-IMF

 【ワシントン時事】国際通貨基金(IMF)は13日、準備資産「特別引き出し権(SDR)」の算定基準となる通貨に中国・人民元を加えるのが妥当との報告を正式発表した。
 IMF加盟国から大きな反対の声は上がっておらず、元は30日の理事会で、ドル、英ポンド、日本円、ユーロに続き、5番目の基準通貨に決定される見通しだ。

 元が基準通貨入りすれば、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を主導する中国が、国際金融で一段と存在感を強めることになる。
 基準通貨への採用は「貿易での利用量」や「取引の自由度」が条件。
 IMFは報告で、中国が取り組む市場改革を評価し、理事会に「元は(量だけではなく)自由度でも条件を満たした」との見解を伝えた。
 ラガルドIMF専務理事は「報告を支持する」と明言。
 加盟国代表で構成する理事会に承認を仰ぐ意向を示した。

 元の基準通貨入りを要求する中国に対し、米国や日本は当初、警戒姿勢を示していた。
 しかし、中国との経済緊密化を狙う欧州諸国が賛成に傾いたため、日米も「基準を満たせば支持する」などと姿勢を軟化させた。
 SDRはIMF加盟国に出資額に応じて配分される仮想通貨で、
 外貨不足に陥った国は、手持ちのSDRを米ドルなどと交換できる。
 今年は5年ごとの構成通貨の見直し作業が行われた。



JB Press 2015.11.21(土) 藤 和彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45313

人民元のSDR採用に潜む落とし穴
中国からの資金流出がさらに加速、
金融システムが窮地に?

 11月13日、国際通貨基金(IMF)は
 外貨不足に陥った加盟国を支援する特別引き出し権(SDR)の構成通貨に「中国の人民元を採用することが妥当である」との見解をまとめた。
 同30日のIMF理事会で正式に決定されることとなる。

SDRとはIMFが加盟国に割り当てる準備通貨のこと。
 1960年代初頭に発生した国際通貨危機の教訓からIMFが1969年に創設した。
 IMFはSDRの一部を出資金に応じて加盟国に配分し、加盟国は国際収支が悪化したときなどにSDRを外貨に交換して対外支払いに充てることができるとしている。

 SDRに採用される要件として、
(1):モノやサービスの輸出額が多い国の通貨であること、
(2):国際取引で広く使われ、外国為替市場で自由に取引されていること、
が挙げられている。
 現在の構成通貨とその比率は、
 米ドル(42%)、ユーロ(37%)、英ポンド(11%)、日本円(9%)
となっており、5年に一度見直しが行われる。

人工的な準備通貨であるSDRの発行残高は約3000億ドルで、
世界の外貨準備高の「2.5%」にとどまる。SDRが対外的な支払いに利用されることはほとんどなく、世界の金融システムの脇役にすぎなかった。
 だが、中国によって、このSDRに一躍スポットライトが当てられることになった。

■中国政府の思い入れは本気だった

 2009年3月の第2回G20サミットが開催される直前に、人民銀行の周小川総裁は「国際通貨体制改革に関する考察」と題する論文を発表した。
 米ドルが基軸通貨(準備通貨)の役割を果たす現在の国際通貨体制の限界を指摘し、
 「米ドルに代わり主権国家の枠を超えた存在であるSDRを準備通貨にすべきである」
と主張する内容だった。

 周総裁はその主張の根拠として、「現在のドルのように特定の国の通貨が準備通貨として使われる場合、それを発行する国は常に自国の利益を優先させるために世界経済が不安定化する恐れがある」ことを挙げていた。
 「リーマン・ショックはその当然の帰結である」と指摘したため、論文は世界中の主要メデイアに大きく取り上げられた。 
 周総裁は論文の中で
 「SDRとその他の通貨との決済の枠組みを確立し、SDRの使い道を国際貿易や金融取引に広げるべき」
と主張しているものの、実現は極めて困難である。
 そのため、論文の意図は「米国を牽制しながら新しい国際金融秩序の構築に向けて自らの発言力を高めていくための中国の手段にすぎない」との見方が当時は一般的であった。

 しかし、中国政府のSDRへの思い入れは本気だった。

 前回の2010年の見直し時に、中国は既に輸出額の基準は満たしていたが、人民元取引の自由度が不足しているという理由で採用が見送られた。
 捲土重来を期す中国は、今年に入ってからSDR入りを目指す方針を公式に示し、人民元の取引活性化に向けた通貨・金融市場改革などを積極的に実施してきた。

 7月にIMF事務局から「運用上の課題がある」と指摘されると、人民銀行は10月にこれまで基準金利の1.5倍としてきた預金金利の規制を撤廃するという思い切った措置を講じた。
 基準金利や窓口指導が残されているとはいえ、2013年に実施した貸出金利の自由化と併せて金利を全面的に自由化したのだ。

 人民元相場を従来より市場実勢に従って変動させるなど一段の改革を約束したこともあいまって、IMF事務局は「人民元は両方の基準を満たしている」とする見解をまとめるに至った。
 これにより人民元は晴れて第5の国際通貨の地位を得ることになった。
 1993年秋の共産党中央委員会全体会合で「人民元の国際兌換通貨化を目指す」との決議を採択してから20年以上をかけての悲願を達成したのである。

■最大の功労者は周総裁

 中国政府が人民元のSDR入りを強く希望する背景には、来年から運用が開始されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金調達の円滑化という思惑もあったようだ。
 中国国内の生産過剰を解消する切り札として期待が高いAIIBだが、
 対外債務が対外資産を2.4兆ドル上回る中国経済の状況(外貨準備を除く)では、人民元が国際通貨にならないと国際金融市場から巨額の外貨は調達できない」(田村秀男産経新聞特別記者)。
 AIIBでは人民元での融資も検討されており、外貨獲得と人民元融資の実施の両面から人民元の国際通貨化は必要不可欠なのである。

 今回の人民元のSDR入りの最大の功労者は、先述した論文の筆者である人民銀行の周総裁である。
 周氏は1986年に共産党入党後、1991年まで国家経済体制改革委員会委員を務めた。
 ソ連崩壊後中国の専門家たちは、国有企業を民営化し価格の自由化を導入したロシア・東欧型の経済モデルを導入すべきかどうか激しい議論を行っていた。
 その中にあって周氏は民営化を拒否し、共産党による支配の下で国有企業の収益性を向上させる中国独自のやり方を主張したと言われている。

 1991年に中国銀行副頭取に抜擢されてからは、金融畑を歩むようになった。
 2003年に人民銀行総裁となると、保守派から改革派に転じた。
 2005年に人民元の事実上のドル・ペッグ制の廃止など人民元改革の担い手としてワシントンから一目も二目も置かれる存在になる。
 周氏は現在も総裁の地位にあり、過去最長の在任期間を誇っている。

 特に2013年に、中国本土と香港など本土以外との間の資金の流れに関する規制を撤廃したことが、人民元のSDR入りに大きく貢献した。
 これにより中国の貿易額に占める人民元決済の比率が5年間でわずか0.02%から約25%に急拡大したからだ。
 人民元のSDR採用で、周氏は「中国の最も偉大な改革者の1人としての同総裁の地位は確かなものになった」(11月16日付ブルームバーグ)ようである。

■中国からの資金流出がさらに加速?

 しかし、人民元に関する規制がさらに緩和されれば「中国からの資金流出がさらに加速する」との懸念も急速に高まっている。
 中国政府の「人民元の国際通貨化」という野望達成と裏腹に、景気の急減速により人民元への信頼が急速に落ち込んでいるからだ。
 米財務省の推計によれば、2015年1~8月の間に中国から5000億ドルの資本が流出したという。

 既に人民元の規制緩和による資金流出拡大の事態が起きている。
 8月11日、人民銀行がIMFの指導に沿って人民元の対ドルレートの決定方式を見直したが、これにより元安観測が高まり、2000億ドルに上る資金流出が発生した。
 中国当局は資金流出に歯止めをかけるために、総額2290億ドルの元買い・ドル売り介入を行う事態に追い込まれた(11月16日付ロイター)。

 関係者の間から「資本規制のおかげで流出を防げた」と溜め息が漏れたが、内需型の安定的な経済への転換を図るためには、人民元取引を含めた金融制度の改革がさらに進展しないと海外からの投資は拡大しない。
 人民元がIMFから「容易に取引ができ、資産の優れた保存手段である」とのお墨付きを得たことから、英スタンダード・チャータード銀行は「今後5年間に1兆ドルが中国の資産に振り向けられる」と試算している。
 しかし、人民元改革をさらに進めていかないと「絵に描いた餅」になりかねない。

 中国政府は市場の動向を注意深く観察しながら段階的に金融改革を進めていくしかない。
 だが、その道は極めて狭いと言わざるを得ない。

■ますます高まっている資金流出の圧力

 以前の本コラムで、反腐敗運動が金融界にも及んだことを紹介した。
 11月に入り、ヘッジファンド業界の著名人がインサイダー取引と株価操作の疑いで取り調べを受けるとともに、証券監督管理委員会のナンバー2も「重大な規律違反の容疑がある」として中央規律検査委員会の調査を受けており、金融関係者の間で衝撃が走っているという(11月18日付ブルームバーグ)。
 人民銀行にまで汚職調査のメスが入り、11月18日同幹部3人が厳重警告などの処分を受けた。

 約1.2兆ドルに及ぶ中国の対外短期債務残高の主な受け皿は金融セクターだろうが、市場への政治の圧力がますます嵩じる中で、中国の金融市場の魅力が著しく減じてしまうのではないだろうか。
 中国の富裕層の間にも「遺産税(相続税)がいよいよ導入されるのではないか」との不安が高まっている。
 遺産税については2004年以降政府内で議論されていたが、格差解消の観点から「政府が来年から深セン市で試験的に導入される」の噂がもっぱらである。
 11月13日には偽造防止のために新100元札が流通し始めたが、「紙幣の大量の投入でインフレが起きるのではないか」との不安も国民の間で高まっている。

 さらに、人民元がSDR入りすれば「中国政府は人民元安を放置するのではないか」との憶測も生じている。
 SDRにおける人民元の比率を日本円より多くするため
 政府は多額の外貨準備を使って人民元の水準を維持し中国経済のGDPをドルベースで大きく見せてきた(IMFはSDR通貨の比重算定に当たり金融取引に重点を置くため、人民元の比率は中国政府の努力にもかかわらず日本円と同等になる可能性が高いようだ [11月19日付ロイター])。
 だが、今後はその必要がなくなるからである。

 このように現在の中国ではますます資金流出の圧力が高まっているが、人民銀行幹部は「為替相場の柔軟性を一段と高めて人民元のさらなる国際化を推進すべきだ」と発言した(11月19日付ブルームバーグ)。
 海外のヘッジファンドなどは人民元の空売りなどで一攫千金を得る機会を手ぐすね引いて待っている状況だと言っても過言ではない。

■金融システムを蝕む不良債権問題

 さらなる資金流出で最も心配されるのは金融システムである。
 中国の広義のマネーサプライは米国を上回り、世界全体の約20%を占めるほど巨大化している(11月20日付ブルームバーグ)。

 中国経済の急減速に伴い、金融機関の不良債権に注目が集まっている。
 9月末の不良債権総額は4兆元(約77兆円)とスウエーデンのGDPの規模を上回ったとされる(11月13日付ブルームバーグ)。

 中国4大国有銀行が10月末に発表した1~9月期の決算報告によれば、景気低迷により同期の利益率は1%を切り、極めて低調であった。
 11月5日の人民銀行の発表によれば、4大銀行の10月末の融資残高は35.7兆元(約685兆円)となり2009年以降で初めて減少した(前月比656億元減)。

 収益が大幅に悪化した金融業にとって、頼みの綱はシャドーバンキングの金融派生商品への投資である(11月1日付ウォール・ストリート・ジャーナル)。
 これらの投資からの収入は金融機関の投資収入全体の4分の3を占めるに至っているが、バランスシートに記載されておらず、大幅な焦げつきが発生するとの懸念が高まっている。

 トルコで開催されたG20サミットで、習近平国家主席は「世界は経済成長の新たな原動力を早急に見い出す必要がある」との認識を示した。
 しかし、中国に代わる世界経済の成長エンジンは当分の間見つかるはずがない。

 悪化する不良債権問題に加えて資金のさらなる海外流出が生じれば、大量の金融機関が倒産し、金融システム全体が麻痺する可能性がある(中国政府は今年5月預金保険制度を導入した)。

人民元がSDRに採用されたことにより、中国は名実ともに超大国の地位に上り詰めた感が強い。
 だが、その代償は極めて大きいのではないだろうか。
 IMF加盟国の金融危機を救うSDRに自国通貨が採用されることが自国の金融危機の引き金になってしまったとしたら、皮肉以外のなにものでもない。
 中国経済がハードランデイングとなるリスクが高まっており、一寸先は闇である。



サーチナニュース 2015-11-26 06:32
http://biz.searchina.net/id/1595230?page=1

中国はなぜIMFのSDR採用を願ったのか、その野望とは=香港メディア

 国際通貨基金(IMF)が11月中にSDR(特別引き出し権)の構成通貨に人民元を採用する見通しが浮上している。
 中国は人民元がSDR構成貨幣に採用されることを願い、働きかけを行ってきたが、中国の目的は一体何なのだろうか。

 IMFによれば、SDRとは「加盟国の準備資産を補完する手段として、IMFが1969年に創設した国際準備資産」で、「SDRの価値は主要4大国・地域の国際通貨バスケットに基づいて決められ、自由利用可能通貨との交換が可能」だ。

 つまり、自国通貨の危機に直面した国は、SDRと引き換えにSDR構成通貨であるドルやユーロ、円と融通してもらえる仕組みで、SDRに採用されるということはそれだけ通貨として高い価値と信頼性があることを示す。

 香港メディアの鳳凰網は18日、中国がSDR採用を目指した理由について、
★.人民元の国際通貨としての地位を世界にアピールすること、
★.国際交易において人民元で支払いをする国の利便性を向上させること、
★.そして人民元改革を推し進めること
が目的だったと報じた。

 通貨がSDRに採用されるには、その通貨での貿易規模が大きいこと、国際的に自由に取引できることの条件がある。
 同条件を満たしているSDR構成通貨はドル、ユーロ、ポンド、円の4種の通貨だけだったが、人民元がSDRに採用されるとすれば、5種目の通貨ということになる。

 鳳凰網は
 「SDRに採用されれば、人民元が世界の5大準備通貨になった」
ことを世界にアピールすることができるとし、国際交易において人民元で支払いをすることが多い国にとっても利益につながると指摘。
 また、
★.SDRの通貨バスケットに人民元が加わるなら、
 人民元の通貨発行はより厳格な監督を受けるようになり
 人民元改革の退路を断つことになるとし、
 「中国の経済発展のための一種の外的保障である」
との認識を示した。

 また、中国は自国の影響力を高めるうえで、人民元を国際通貨とすることが必要不可欠であると認識していた。
 人民元が国際通貨となるうえで、IMFのSDRに採用されることは国際通貨としての保証を得るのと同様の意味を持つ。
 中国国内の報道ではたびたび、中国は世界の大国に返り咲くという主張が見られるが、IMFのSDR採用は大国としての地位に必要不可欠な存在と認識しているのかも知れない。



ブルームバーグ 2015/12/01 03:33 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NYN1T26VDKHS01.html

IMF:人民元のSDR構成通貨採用を承認-国際通貨の仲間入り (1)

   国際通貨基金(IMF)は中国の人民元を特別引き出し権(SDR)の構成通貨に加えることを正式決定した。
  これまで欧米・日本が支配してきた世界の経済システムに中国が仲間入りすることにお墨付きを与えた格好。

 188カ国が加盟するIMFは30日に理事会を開き、人民元は「自由に使用可能である」という基準を満たしていると判断。
 ドルとユーロ、ポンド、円に加わってSDRを構成することを認めると声明で発表した。
 ラガルド専務理事は11月13日、IMFのスタッフが提案したSDR構成通貨への人民元の採用を支持したことを明らかにしていた。

 IMFによれば、SDR通貨に加わるのは2016年10月1日から。
 SDRの人民元の比率は「10.92%」の見通し。
 人民元採用後の構成通貨比率は
 ドルが41.73%、
 ユーロが30.93%、
 円が8.33%、
 英ポンドは8.09%
となる。

 IMFは5年ごとにSDRの構成通貨を見直す。
 前回2010年の見直しでは必要条件を満たしていないとして人民元の採用を見送っていた。  



ロイター 2015/12/1 04:53 ロイター
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151201-00000004-biz_reut-nb

中国人民元をSDR構成通貨に採用、
IMF理事会承認

[ワシントン/トロント 30日 ロイター] -
  国際通貨基金(IMF)は30日開いた理事会で、特別引き出し権(SDR)構成通貨に中国人民元を加えることを承認した。
 世界の経済大国としての地位獲得に向けた中国側の勝利となった。

 今回の通貨追加は、35年ぶりの大掛かりな構成変更となる。
 人民元のSDR通貨バスケット比率は10.92%と、事前予想並みの水準となった。

 IMFが2010年に設定した、直近の比率は
 ドルが41.9%、
 ユーロは37.4%、
 英ポンドが11.3%、
 円が9.4%
となっている。

人民元が構成通貨に加わるのは来年10月以降。新たな比率は、ユーロが30.93%に低下するほか、英ポンドや円も下がる。
 ドルは現行とほぼ同水準だ。

 IMFの評価基準を満たすため、中国は過去数カ月間、国内為替市場への外国人アクセス改善など一連の改革を行ってきた。

 ラガルド専務理事は声明で、改革の継続に期待感を表明。
 「こうした取り組みの継続や深化に伴い、国際通貨・金融システムが強固さを増し、中国・世界経済の成長や安定を下支えする」
と述べた。

 中国人民銀行(中央銀行)はこの日、IMFの承認を歓迎する声明を出し、自国の経済発展や最近の改革についてお墨付きを得たとの認識を示した。

人民銀は「中国は、金融改革や開放促進の動きを加速させる」とした。









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