2015年11月28日土曜日

英国大異変(2):中国マネーにひざまずく落日の大英帝国、英国は「もはや大国ではない」

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 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年11月28日(Sat)  加藤隆俊 (国際金融情報センター理事長、元IMF副専務理事)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5638

中国マネー取り込みに躍起になる
「金融立国」英国の算段
中国マネーにひざまずく落日の大英帝国(3)

 つい数年前まで英国のキャメロン首相は、中国に厳しい態度を取っていた。

 2012年には、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世と面会し、英中の関係はこじれた。
 今の英国の態度は、そのときのマイナスを取り戻そうと他国以上に必死になっているように見える。

 その結果が、今回の習近平国家主席訪英時の王室まで巻き込んだ一連の歓待であり、先進国でもっとも早かった中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加表明であり、人民元建ての英国債発行である。
 加えて今回の訪英時に、英国内で人民元建ての中国国債を発行することまで決まった。
 こちらも先進国で初めての取り組みである。

 また、英国は人民元のSDR(IMFが創設した国際準備資産)構成通貨入りも支持、金融面以外においても中国製原子炉の導入を決定するなど、何から何まで支持・歓迎といった状況で、彼らが言うところの「英中黄金時代の幕開け」を感じさせる。

■譲れない「世界ナンバーワン」の座

 英国にとってロンドンの金融市場、いわゆる「シティ」は世界ナンバーワンの金融センターだという自負があり、事実その通りである。
 だからこそ、市場を支える投資家、アナリスト、弁護士といった人材やインフラがロンドンに集積している。
 シティがナンバーワン金融センターの座を保ち続けるには、何としても人民元関連のビジネスを取り込む必要があった。

 また、英国の足元の経済状況は悪くないが、政権を握る保守党は緊縮財政を強引なまでに進めており、中国マネーは「喉から手が出るほど欲しい」状況にある。

 今や世界中が中国マネーを欲している。
 アジアやアフリカでは既に多くの国が中国マネー取り込みに躍起になっているが、英国の一連の中国に対する対応は、その流れがいよいよ先進国にまで本格的に押し寄せた、ということを感じさせる。
 やや乱暴な言い方をすれば、
 中国マネーに本格的になびいていないのは、日米だけ
ともいえる。

 10月末には、訪中したドイツのメルケル首相が李克強首相との間で、ドイツに人民元建て金融商品を扱う国際取引所を開設することで正式合意したが、英国のみならず、ドイツもフランスもルクセンブルクも、中国マネー取り込みに躍起になっている。

 中国経済の減速は、日本でも報道されている通りだが、それでもなお、世界経済において中国の存在感は圧倒的である。
 IMF(国際通貨基金)が10月に発表したレポートによると、中国の15年の経済成長率は6.8%、16年は6.3%と一時期よりは落ち込んでいるものの、7%台のインドと並び突出した成長率を誇る。

 14年の1人当たりGDPはインドの1608ドルに比べ、中国は7572ドルあることから、やはり中国の存在感は抜きん出ていることがわかる。
 鉄道輸送量や電力消費量などの投資関係の数値は弱まっているが、個人消費関連の数値は底堅く、不動産関連の数値も底打ちの兆しがみえる。

 なお、15年の日本の成長率は0.6%で、円安ということもあるが、GDPの規模では既に中国と倍以上の開きがある。
 マラソンでいえば、抜かれただけでなく、その後も圧倒的な差をつけられている状況にある。

 人民元の国際化を進めたい中国にとってみても英国の「利用価値」は大きい。
 本稿執筆時点ではまだ確定していないが、秒読み段階であり、英国が支持しているSDR構成通貨入りが決定すると、人民元を外貨準備資産として保有する国が増える。
 すると、人民元のオフショア取引が盛んになり、人民元建ての債券も増える。

 いわゆる「基軸通貨」ドルの地位を脅かす存在になることは容易ではないが、国際化に伴う人民元の重要性は高まっていくだろう。

 ただし、人民元が国際通貨となるには制約がありすぎる。
 金利は完全には自由化されていない、為替ヘッジにも制約が課されている、資金の海外移転には種々の制約があるなど「使い勝手の悪さ」は多岐にわたる。
 中国国内の改革派はSDR入りをきっかけに、自由化を進めたい考えなので、今後こうした「制約」が徐々に取り払われ、使いやすい国際通貨になっていくことは間違いないだろう。

■英国が背負う金融立国の宿命

 英国の中国に対する「ご執心」ぶりに世間は驚いているが、歴史を紐解くと、実は英国は似たようなことばかりしていることがわかる。
 かつてはオイルマネーを取り込むために産油国をもてなし、ソ連崩壊後は旧ソ連圏の国のマネー取り込みを図り、我が日本もバブルのときには大層な歓待を受けた。
 そうした関心が今は中国に向かっているだけともいえる。

 もっとも、こうした活動あってこその現在のシティのポジションであり、世界屈指の金融センターに成長したシンガポールも同様の戦略をとっている。
 「金融立国になる」というのは、資金力のある国になびくということと同義である。
 かつて円も国際化を目指していたが、日本にはこうした観点・活動が欠けていた。

 外交面・安全保障面よりも、経済面での実利を優先し、中国の人権問題について言及しない英国の姿勢をみると、「もはや大国ではない」という意見にも納得がいく。



現代ビジネス  2015年10月30日(金) 川口マーン惠美
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46108

太っ腹中国にお金のためにひざまずいたイギリスの「原発プロジェクト」がスリル満点すぎる!
英中黄金時代の到来

■ドイツメディアの豹変ぶりがもの凄い!

  「専門家は警告している。
 よりによって中国、あの常にハッカー攻撃とサイバースパイの嫌疑がかけられている国が、ヨーロッパでこれほど繊細で重要なハイテクノロジーのインフラプロジェクトに参加する?」

 「もちろん目下のところ、イギリスと中国の関係は良好だ。
 しかし、今日の同盟者は必ずしも明日の同盟者であるとは限らない」(サイバー安全保障の専門家)

 「中国が英国での原発に投資することによって得る繊細な情報は、ごく一部でしかない。
 それでも北京のハッカーたちは、将来、何かが起こった時に、攻撃のために使用可能なインサイダー情報を手にする可能性はある」

 産經新聞の記事ではない。
 ドイツのZDF(第二放送)のオンライン・ニュースの記事だ。
 これを読んだ私は心底ビックリ!

 そもそも、これまでメルケル首相に「アジアで一番重要な国」と言わしめ、毎年、首相が大勢の財界のボスを伴って北京を訪問し、たくさんの自動車を売り、エアバスを売り、ヨーロッパではとっくにお払い箱になったハイテク超高速鉄道トランスラピッドも売って、
★.ドイツが蜜月を謳歌していた相手は中国だった。

 そして、その関係を自慢げに報道し、ついでに、中国と仲良くできない日本を見下していた筆頭メディアが、何を隠そう、このZDFだったではないか。

 10月9日付のコラムで、ドイツの中国報道はこれから変わっていくだろうという予測を書いたが、これほど早く、しかもここまで手のひらを返したように激変するとは思わなかった(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45745)。

 今日の同盟者は明日の同盟者であるとは限らない??? 
 これはドイツ自身のこととも思うが、しかし、
 このまじめくさった豹変ぶりには感服した。
 ドイツメディアは凄い!

■中国と英国の「歴史的合意」が実現

 さて、前述の原発プロジェクトだが、10月21日、中国とイギリスの首脳は、イギリスにおける原発建設において、
 建設費180億ポンド(約3.3兆円)のうちの3分の1を中国が出資する
ことで合意した。
 建設と運用は中国とフランスが共同で行う。

 イギリスは、もう20年以上も原発を作っておらず、技術の枯渇と資金不足という二重苦に苛まれており、原発建設を資金調達も含めて外国に丸投げしたようだ。
★.原発が完成した暁には、フランスと中国から電気を買う。
★.1基目の建設地は、イングランド南西部のヒンクリーポイントというところだ。

 今回のイギリスと中国の商談はこれだけでなく、エネルギー大手のBP社との契約120億ポンド、ロールスロイスとの14億ポンド、そして、豪華客船会社カーニバルとの26億ポンドなど盛りだくさん。

 原発建設もこのヒンクリーポイントに加えて、東部のサイズウェル、南東部のブラッドウェルが続く。
 しかも、
★.ブラッドウェルにおいては、中国の国産ブランド「華龍1号(加圧水型軽水炉)」が採用され、出資率も入れ替わって、フランスが3分の1、中国が3分の2となる
という。

★.その「華龍1号」は、先進国への輸出はもちろん初めて。
 それどころか、
 実はまだ中国でも運転が始まっていな
いというから、
 スリル満点だ。

 しかし、キャメロン首相いわく、今回の契約は「歴史的合意」。
 それだけに、習近平国家主席のもてなされ方も凄かった。
 エリザベス女王とともに王宮の馬車でロンドンの街を駆ったり、バッキンガム宮殿に泊まったり、さらにそこで、ハイソサエティー170名を集めて大晩餐会が催されたり・・・。

 ドイツでももちろん、このニュースは大きく報道されたが、一番の話題は、晩餐会で真っ赤なイブニングドレスをまとって習近平主席の隣に座ったキャサリン妃のティアラだった。

 ダイヤモンドがたくさん付いたこのティアラは、エリザベス女王から譲られたものだとか、王女がティアラを付けたのは3度目だとか、大衆紙だけでなく、主要新聞にもそんな記事が載った。

 ドイツ人は、第一次世界大戦の終結時、戦に負けた腹いせに自らのカイザーを追放してしまったため、無い物ねだりなのか、王室の話が大好きなのだ。

■切羽詰まったイギリス、渡りに船の金満中国

 イギリスのエネルギー政策は、どうしようもないほど迷走している。
 太陽光と風力は、買取りのおかげで増えに増えた。
 しかもイギリス政府は、2020年までに再エネ電気の割合を、さらに全電気供給量の3分の1まで引き上げる計画だ。

 これでは当然、火力は出番が減り、儲けが出せない。
 特に、石炭火力は多くが老朽化しており、そのうえ、温暖化防止の見地からも将来性はない。
 そこで現在、石炭火力がどんどん撤退しているのだが、徐々に撤退ならよいが、今年だけで9基も閉鎖されてしまうため、困ったことになっている。

 再エネは容量がいくらたくさんあっても、風のない日、太陽の照らない日は発電できない。
 だから、去年の冬は10~15%あった余剰電力が、今年は2%以下になりそうで、その危うさは今年の夏の関西電力に匹敵する。
 ロンドンで停電など起きれば、産業への打撃は計り知れない。

 そこでイギリス政府は、至急、クリーンな原発、あるいは天然ガスの発電所を建てる必要に迫られているのだが、再エネになされている補助が市場を破壊してしまっている現在、このような不利な条件でガス、あるいは原発の事業に参入しようという投資家はなかなか現れない。

 イギリス政府としては、「国庫は空っぽだし、この際、投資してくれるなら誰でも良い」というほどまでに切羽詰まっていた。
 そこで折しも、お金持ち中国の出番となったわけだ。

 つまり今回のプロジェクトはいわば、
★.お金がなく、技術がなく、そのうち電気も足りなくなるはずのイギリスと、
★.経営状態が悪くて原発産業が停滞しているが、ぜひリベンジを試みたいものの、やはり資金繰りに自信がないフランス、
★.そして、お金があり、しかも原発技術大国になりたい中国
の三者の利害が見事に一致した、世紀のビッグビジネスなのである。

 ヒンクリーポイントの新原発の完成は2025年の予定だ。

■英中黄金時代の到来

 ただ、イギリス国内では、お金のために中国に跪いたとして赤面している人たちも少なくないらしい。
 そういえば、晴れ舞台でのキャメロン首相の笑顔が、心なしか不自然に見えたのは私のやっかみか?

 ドイツの報道では、
 中国が本当に加圧水型軽水炉を作れるかどうかは疑問だと書いてあったが、ひょっとするとこれもドイツのやっかみ
かもしれない。

 ちなみに、ドイツ最大の電力大手RWEは、海外の原子力事業からも一切手を引いてしまった。
 これからは再エネ事業に専念するのだそうだが、せっかくの原発技術が埋もれてしまうのは、ちょっと惜しい気がする。

 一方、習近平主席は大満足の体で、英中関係がますます良好かつ堅固になったと得意満面で強調していた。
 過去のことは水に流したのか、イギリスにアヘン戦争の謝罪を要求したという話も聞かない。

 今や英中黄金時代の到来! 
 太っ腹の中国である。



ニュースソクラ 11月5日(木)10時10分配信 棚橋 啓 (ジャーナリスト)

中国はババをつかまされたのか?

■欧州企業が逃げた3つの「くず案件」

 10月の習近平国家主席の訪問で中国製原発の英国での採用が正式に決まった。
 技術力もモラルも怪しげな中国企業が関与するプロジェクトの先行きを危ぶむ声は高まり、原発建設予定地周辺では住民の反対運動が早くも盛り上がっている。
 おまけに「2030年までに8基の新炉建設」という英政府の計画は「撤退」の歴史で彩られており、
 エネルギー業界では中国企業が「ババをつかまされた」との見方も広がっている。

 中国企業の関与が決まった英国の原発プロジェクトは3つ

1].最初は南西部サマセット州の「ヒンクリー・ポイント原発C計画」。
 出力170万kw級の仏アレバ製EPR(欧州加圧水型原子炉)2基を2025年稼働予定で建設する。
 総建設費は245億ポンド(約4兆5600億円)で、第1期分の投資額として180億ポンド(約3兆3500億円)を見込んでおり、このうち33.5%に相当する60億ドル(約1兆1200億円)を中国広核集団(CGN)が出資する。

2].2つめは東部サフォーク州の「サイズウェルC原発計画」。
 やはり出力170万kw級のEPR2基を建設する。
 当初1号機は2020年、2号機は22年の運転開始予定だったが、現在は建設コストなどを含め「白紙」で、関係者の間では「スケジュールは7~8年遅れる見通し」といわれている。
 このサイズウェルにCGNが20%出資することが今回決まった。

 そして、
3].3つめが南東部エセックス州の「ブラッドウェル原発B計画」。
 ここでは「華龍1号(HPR1000)」と呼ばれる中国製の最新型原子炉の採用が決まった。
 「華龍1号」は旧仏フラマトム(現アレバNP)の技術をベースにCGNと中国核工業集団(CNNC)が共同開発した中小型PWR(加圧水型原子炉)で出力は100万kw級。
 今年4月にパキスタンでの5基建設を決めるなど、中国政府は原発輸出の主力製品とする考え。
 1基あたりの建設費は30億ドル(約3600億円)と最低でも50億ドル(約6000億円)とされるEPRなど欧米製新型炉より低コストに抑えている。
 この「華龍1号」を納めるブラッドウェル原発B計画ではCGNが66.5%出資する。

 10月21日、習近平とともに3つの原発プロジェクトに対する中国の巨額の投資計画を発表したキャメロン英首相は「歴史的な契約だ」と自画自賛したが、それも無理はない。
★.3つとも自国はじめ欧州企業がこぞって逃げ出した「ジャンク(くず)・プロジェクト」
だったからだ。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年12月01日(Tue)  山本隆三 (常葉大学経営学部教授)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5640?page=1

中国原発の技術とカネにすがる
英国のお寒いエネルギー事情
中国マネーにひざまずく落日の大英帝国(4)

 10月下旬の習近平主席の訪英時、英国政府は原子力発電所の新設に中国資本の受け入れを決め、さらに中国製の原発設備を将来採用する計画を明らかにした。
 翌日の「ガーディアン紙」は、基幹技術である原子力分野に中国を受け入れたことを、
 「中国との原子力取引は、今まででもっとも馬鹿げた合意の一つ」
との記事を掲げ強く非難した。

 一方、中国が参加するヒンクリーポイントC原発において2万5000人の雇用が創出されるとの英国政府発表を歓迎するビジネス界の声もある。
 また、中国の参加により、
 「原子力技術が流出する」、
あるいは
 「いざという時に発電所が停止する恐れがある」
との指摘に対しては、
 「巨額の投資を行った中国が、投資額を捨てる行動を取ることはない」
との反論がある。

 習近平主席と英キャメロン首相との会談で中国との原発取引が発表されたため注目されているが、英国原発への中国の参加は既定路線であり、何も目新しい話ではない。
 ヒンクリーポイントに中国企業が参加することは、2013年10月に英国政府により発表されている。
 正式発表前には、英国地元紙が、「ヒンクリーポイントの設備は中国製になる」と報道し、地元で
 「原発は歓迎だが中国製は困る」
と反対運動が起こった。

 その時期に、たまたま英国政府関係者と面談する機会があり、
 「中国製設備を英国政府は受け入れるのか」
と尋ねたことがある。
 数秒間沈黙があった後、中国製設備が導入されるかどうかの是非を明らかにせず、
 「資金を提供してくれるのであれば、中国でも、どの国の設備でもいい」
と答えてくれた。
 首脳会談では、中国製原子炉華龍1号機がブラッドウエルに建設される予定と発表されたが、今年になり、中国広核集団は、
 「ブラッドウエルでの建設を前提に115万kWの華龍1号の包括設計審査(型式認定)を16年に英国政府に申請する」
と発表している。
 既定路線に沿い英中両国政府は粛々と協力関係を具体化しているだけだが、英国政府が原発建設の資金と技術を中国に依存するには当然理由がある。

■世界を牽引した英国原発
消えたのは何故か

 福島第一原発1号機の事故の後、英国政府関係者から
 「福島事故の際に日本から退避する必要があるか、ロンドンの施設で解析した。
 仮に1号機から4号機まで炉心が全て溶融しても日本から退避する必要はないとの結果だった」
と聞いた。
 話は、
 「遠く離れたロンドンですら解析ができるのに、日本はドタバタしていた。
 危機管理能力がない内閣だったのが、日本の不幸だった」
と続き、
 「世界で最初に商業原子炉を完成させた英国は、この程度の解析はできる」
と自慢で終わった。
 しかし、英国の原子力業界の実態は、自国の原発建設さえも自力でできないほどに衰退している。

 英国では1995年運転開始のサイズウエルBを最後に原発の新設が止まるが、その遠因は90年に行われた電力市場の自由化だった。 
 電力供給を行っていた中央電力庁は分割され、原子力部門は96年に民営化される。
 自由化した市場では将来の電気料金は誰も予測できない。
 巨額な投資を必要とし、減価償却のため40年以上に亘り常に運転を行う必要がある原発の建設には収益面のリスクがあると投資家は考え、自由化市場での原発の建設はなくなっていった。


●民営化で激減した英国の原子力研究開発予算

 民営化後、新会社は石炭火力の買収、米国への進出など積極経営を進めるが、英政府保有の核燃料会社BNFLに支払う米国の6倍もする再処理費用額と、低炭素電源にもかかわらず課せられた気候変動税の負担がやがて重荷になってくる。
 しかも、北海からの安価な天然ガスを燃料とする火力発電により卸電力価格も下落し、新会社は青息吐息になる。
 財務的に行き詰まった新会社を買ったのは、フランス政府が84.5%の株式を保有する仏電力公社(EDF)だった。
 英国の原発は2009年にEDF保有となる。

 自国設計の原発から加圧水型軽水炉型の導入に切り替えた英国BNFLは、99年に技術を持つウエスティングハウスを買収する。
 しかし、北海の石油・ガス生産量が輸出をするほどに増え、02年に政府は原発の新設見送りを決める。
 ウエスティングハウスは東芝に売却され、英国は原子力技術を失った。

 英国政府は、06年になり地球温暖化対策、エネルギー安全保障上、原発の新設が必要との方針を打ち出す。
 第1号案件となったヒンクリーポイントでの新設のために、英政府とEDFが合意したのが、1MW時当たり92.5(1kW時18円)の固定価格での発電した電気の買い取りだった。

 発電した電気を買ってもらってもリスクは残る。
 工事の遅れと工費の増大だ。
 フィンランドで出力172万kWのオルキルオト原発工事を手掛けたアレバを見ればリスクが分かる。
 03年に32億ユーロ(4300億円)の予算で09年の運転開始を目指した工事は遅れ、運開予定が18年に後ろ倒しとなり、工費も85億ユーロ(1兆1500億円)に膨らんだ。
 アレバはEDFの支援を受け、三菱重工業にも資本参加を要請する事態に陥った。

 欧州のエネルギー政策の研究者は、
 「複雑で大規模工事の原発新設には、何よりも継続した工事の経験が必要」
と指摘する。
 福島第一原発の事故以降、世界では原発新設の動きが一時中断した。
 そんな中で短期間の中断後すぐに工事を再開した中国だけが、継続的な工事実績を着実に積んでいる。

 中国で稼働中の原発は29基、建設中は22基ある。
 16年に運開予定の世界の原発16基のうち8基は中国で建設され、17年運開予定では15基中8基だ。
 いま、世界の原発工事の半分は中国が行っている。
 工事を予定通り進められるのは、今や経験を積んでいる中国なのだ。
 20年には発電設備量は5000万kWを超え、日本を抜き、米国、フランスに次ぐ原発保有国になり、30年には設備量は1億5000万kWと世界一になると予想されている。

 中国の原発設備は、東芝が87%の株式を保有するウエスティングハウスとアレバの技術が基になっている。
 10年に国際原子力機関が15カ国のメンバーからなる査察チームを中国に送り、中国の原子力安全のシステムの効果と将来の安全性に、問題なしとお墨付きを与えている。


●世界で建設中の原子力発電所(2015年11月現在)

■中国1強時代の到来か、日本の原発輸出にも脅威

 アレバの原発の建設コストはkW当たり6000米ドル(72万円)と言われている。
 100万kWの原発だと、7200億円だ。
 一方、ウエスティングハウスの原発を改良した中国CAP1400のコストはkW当たり3000ドル、発電コストは1kW時当たり7米セント(8.5円)と中国政府関係者は述べている。
 工期が予定通り、工費もアレバの半分。
 安全性も問題なしとなれば、英国政府が中国製を受け入れるのも無理はない。
 市場自由化の結果、発電設備の建設が進まない英国では、中国製でなければ、電力の安定供給が実現しないのかもしれない。

 英国は自国の電力安定供給強化に、工期と工費を確約できる中国を利用しているようにも見えるが、中国も英国をショーケースにした輸出拡大を考えている。
 中国はパキスタンには原発輸出実績があり、アルゼンチンなどでの建設も合意しているが、さらに中国製を検討する国も出てくると期待している。
 「鉄道車両」と「原発設備」輸出に力を入れる中国政府は、今回の英国との合意を梃子に輸出に一層力を入れる筈だ。

 日本では、原発の再稼働は遅々として進まず、新設はいつになるのか全く見えない。
 政府は30年に電源の20%から22%を原子力で賄うとしているが、その道筋は不透明だ。
 原発の工事を長々と中断すれば、いざ建て替えや新設工事を再開することになっても、アレバのように工費と工期で問題を起こすようになる可能性も高い。
 そうならないようにするには、継続的な工事で着実に力を付けるしかない。

 停電が発生する可能性を避けるため中国企業に工事を依頼するしかないとなれば、英国と同じだ。
 原子力技術が衰退した英国を他山の石として、中国企業との競争をどう勝ち抜くのか、いまから考えなければ、気がつけば、海外市場どころか国内市場も中国に席巻されていることになりかねない。



サーチナニュース 2015-12-04 15:04
http://biz.searchina.net/id/1596159?page=1

政治主導でインフラを売り込む中国
英国の原発事業で日本に焦り=中国報道

 高速鉄道市場で激しく火花を散らしている中国と日本の受注競争は「英国の原子炉」にまで戦線が拡大している。
  中国メディアの参考消息はこのほど英メディアの報道を引用し、日中の英国の原子炉建設をめぐる一連の競争について紹介する記事を掲載した。

 英国内原子炉建設の認可を得るために、日本企業はどれほどの努力を払っているのだろうか。
 例えば日立は2012年、英国の原発事業会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を買収した。

 当時、日本では日立が「賭けに出た」とする報道も見られたが、これはどれほどの利益がでるか見通しが立ちづらいなかでの投資だったからだ。
 当時は東日本大震災の影響により、日本国内で新規原発建設のめどが立たなかったため、日立は英国に原発建設の希望を見出したのだ。

 現在、ホライズン・ニュークリア・パワーは改良型沸騰水型軽水炉を建設する計画を進めており、同プロジェクトに対する英国の原子炉包括設計審査はすでに第3段階をクリアし、最終段階に進んでいる。

 一方、中国も英国での原子炉建設計画を「政治主導」の形で進めており、英国での原子炉建設を世界市場に参入するための踏み台と見ている。
 中国はすでに英国と中国製原子炉「華竜1号」を輸出することで合意しており、記事は「日本は政治主導の中国に英国市場を奪われないか懸念している」と論じた。

 どのような製品についても言えることだが、結局のところ製品を選ぶのはユーザーであり、ユーザーは自身にどのような利益があるかという点に立脚して製品を選ぶ。
 ユーザーである英国が日本と中国のどちらを選んでいくかは原発の安全性や性能だけではなく、英国の経済的メリットや政治的要素も大きく関係してくる。
 この点において「政治主導」で物事を進める中国は、日本企業にとって技術だけでは勝負できない手強い競争相手となるだろう。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年12月25日(Fri)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5763

国際社会からの退場思い留まった英国
同盟国の信頼回復なるか

 フィナンシャル・タイムズ紙が、11月23日に公表されたキャメロン首相の2回目の「戦略防衛・安全保障レヴュー(SDSR)」について社説を書き、概ねこれを評価しています。

■伝統的保守党の立場に回帰

 すなわち、今回の「レヴュー」は国防費の実質8%の削減を打ち出した2010年の「レヴュー」とは大きく異なり、ジハード主義者のテロや予測不能のロシアなど多数の脅威に当面して、キャメロンは伝統的な保守党の立場に回帰した。
 パリのテロ事件から間もない時期にあって、キャメロンのこれまでよりも力強いアプローチは世間のムードとも一致するものである。

 軍を無視するかのような5年の後、是正が必要とされていた。
 賢明にもキャメロンは国家の脅威に対する通常型の防衛とテロに対抗する手段のいずれかを選ぶことは許されず、両方が必要と結論付けた。
 今後10年間の120億ポンドの予算増にはロシアの潜水艦の脅威に対抗するための9機の海上哨戒機が含まれると同時に、ISISなどへの対処のためにテロ対策費の30%増が盛り込まれている。

 「レヴュー」は、思慮を欠き拙速であった5年前の予算削減の結果生じたギャップを幾らか埋めるものである。
 例えば、新しい2隻の空母に搭載するF-35 戦闘機の調達の加速化によって空母による攻撃能力を回復する。
 陸軍の海外遠征部隊は2025年までに3万から5万に増強される。

 これらはいずれも歓迎されるべきことであるが、国防能力の急激な向上を意味しない。
 「レヴュー」は「針路を保て」という類の文書である。
 2010年においても5年間の緊縮の後には国防予算の増加は見込まれていたという意味で殆ど変化はない。
 政府は国防費をNATO基準であるGDPの2%を維持するとしているが、これは大方計算の手法によっており新たな支出によるわけではない。
 また、軍の空洞化という心配を解消するものでもない。
 例えば、新たな空母の運用のため450の新たな水兵の徴用が認められているが、必要な4000からは程遠い。
 陸軍の攻撃部隊の野心的な増強も全体の兵力が8万2500に据え置かれることを考えると不可解である。

 「レヴュー」の重要なテストはそれが英国の同盟国の信頼を回復するか否かにある。
 「レヴュー」は英国は世界の舞台から退場しつつあり、フランスの方が信頼に足るパートナーであるという米国のパーセプションを逆転する端緒となろう。
 しかし、多くは英国がシリアでのISISに対する軍事行動に参加することについて、キャメロンが説得的な議論を行い、議会の支持を取り付けられるか否かにかかっている。
 キャメロンが多様な脅威に対応出来る手段を維持すべきだと主張したことは正しいが、引き籠りと怠慢の5年間による損害を逆転させるには時間を要する、と指摘しています。

出典:‘A partial fix for Britain’s hollowed-out military’(Financial Times, November 23, 2015)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/f0f31704-91d7-11e5-bd82-c1fb87bef7af.html#axzz3sUJMmDBp

■世界の舞台からの退場は思い留まるも…

 社説は、「レヴュー」が伝統的な保守党の国防政策に立ち戻ったことを歓迎しています。
 同時に5年間の怠慢が害をなしたと慨嘆していますが、このことに対するキャメロンの弁明と思われるものが「レヴュー」の序言に書かれており、5年間の財政と経済再建の努力の結果、国防に更なる投資をすることが可能になった、としています。

 もう一つ、キャメロンが「レヴュー」の背景として挙げているのは、言うまでもなく、ISISの台頭、中東の不安定化、ウクライナの危機、サイバー攻撃、パンデミック(中国には全く言及がない!)によって世界は5年前よりも危険で不確実になったということです。
 ともかく、空母の2隻体制の維持、トライデント潜水艦4隻の更新、海外遠征部隊の増強など、英国がどうやら世界の舞台から完全に降りることは取り敢えず思い止まったらしいことは歓迎すべきことです。

 「米国が今やフランスの方が頼りになる」と思っているかどうかは分かりませんが、社説が言うように、重要なことは米国がパートナーとして英国に信頼を寄せ得るかどうかです。
 シリアにおけるISISに対する空爆作戦に参加しない決定をするようなことがあれば、米英関係の先行きは相当暗いものにならざるを得ないところで







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