2015年11月27日金曜日

アジアをめぐる日本と中国の綱引き(2):中国の最も強力な武器は貿易、天秤にかけるアジア諸国の生き様

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2015.11.27(金) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45371

中国の最も強力な武器は貿易
南シナ海問題に隠れた商業的な争い、実はこっちの方が重要?
(2015年11月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 スキャンダルの渦中にあるマレーシアのナジブ・ラザク首相にとって、自由な世界やそれほど自由でない世界の政治指導者たちと顔を合わせるには、今は耐え難いほどきまりの悪い時期だったはずだ。

 ナジブ氏が設立を後押しした開発基金「1MDB」は現在、疑わしい取引に関する複数の国際捜査で名前が取り沙汰されている。
 おまけに110億ドルもの債務を抱え、アップアップの状態だ。

 だが、名前が明らかにされていない中東のある人物から7億ドルの寄付が個人口座に振り込まれたと報じられたばかりのナジブ氏は、クアラルンプールで先週開かれた会議のためにやって来た米国大統領と中国首相をもてなす機会を楽しんだように見えた。

 それはそうだろう。
 バラク・オバマ氏は、テロ対策から自由貿易に至る幅広い分野でナジブ氏の支援を強く必要としており、国家の基金を大々的に不正流用したと批判されている指導者に明らかに寛大に接した。
 1つには、イラク・シリアのイスラム国(ISIS)にイスラム穏健派の情報発信で対抗する際にマレーシアは「特別に助けになる」存在だと称えた。
 オバマ氏はさらに、環太平洋経済連携協定(TPP)加盟国としてのマレーシアの重要性も認めた。
 米国政府は、このTPPが世界で最もダイナミックな地域と米国とをしっかり結びつけ、盛んに議論されている(が、あまり実行には移されていない)軍事力の太平洋へのピボット(旋回)を補強することを期待している。

■バラク・オバマ大統領の上を行った李克強首相

 中国の李克強首相はこれより一枚上手だった。
 李首相はナジブ氏に、7億ドルでは不十分だと言わんばかりに大量の贈り物を浴びせた。
 まず、国有の原子力企業である中国広核集団(CGN)に1MDB保有のエネルギー関連資産を23億ドルで購入させ、1MDBの債務負担を軽減した。
 そしてクアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道の計画など、ほかの案件にも中国が大型投資を行う可能性を熱心に語ってみせた。
 恋人が互いの詩を交換するように、両国は互いの国債を購入し合った。

 中国の台頭はアジア諸国に難しい選択を突きつける、と見るのが普通だ。
 例えば、米国と安全保障の面で深い関係にあるオーストラリアは、群を抜いて最大の貿易相手国である中国との商業的関係とのバランスをどのように取るべきなのだろうか。
 その答えは、バランスを取るのは常に容易なわけではない、となるだろう。
 オーストラリアが24年間も景気後退を経験せずに経済成長を遂げられたのは、これまで旺盛だった中国のコモディティー需要によるところが非常に大きい。
 しかし、このお得意さまとの関係がとげとげしくなるときもある。
 オーストラリア政府は、農場や通信、鉱山などへの中国からの投資に警戒している。

■米国と中国を両天秤にかける国々

 とはいえ、それほど裕福でない国々には別の選択肢があるかもしれない。
 可能な範囲で最も有利な取引を実現するために2つの国を天秤にかけるというやり方である。

 パキスタンがその好例だ。
 米国と断続的に同盟を組むパキスタンは、一貫して中国と近い関係を保ってきた。
 それは脆弱な電力・運輸セクターに巨額の投資を行うとの約束で報われた。
 中国は、パキスタンの深海港グワダルと何かと落ち着かない新疆ウイグル自治区とを結ぶ全長1800マイルの回廊を建設するという壮大な計画を口にしている。
 中国政府がちらつかせた460億ドルの投資のほんの一部でも実現すれば、この地域を大きく変える可能性があるだろう。

 インドネシアも抜け目がない。
 先日は米国ではなく日本と中国とを天秤にかけた。
 新幹線の建設という約50億ドルの計画について日本政府と何年も交渉した末に、土壇場になって中国に乗り換えたのだ。
 あまりに有利なので見逃すわけにはいかない資金供給案を提示されたためだ。
 不意打ちを食らった日本の外交官らは、クアラルンプールとシンガポールを結ぶ鉄道の案件を獲得できるようさらに努力すると約束したが、中国政府はこのプロジェクトも視野に入れている。

 武力の行使を伴わないこの種の商業的な争いは、南シナ海の人口島を巡る対立ほど大きく報道されないものの、実はこちらの方が重要なのかもしれない。
 米国にTPPがあるのなら、中国には東アジア地域包括的経済連携(RCEP)がある。
 米国に世界銀行とアジア開発銀行があるのなら、中国にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)がある。
 AIIBは来年にもいろいろなプロジェクトへの資金供給を始める可能性がある。

 中国政府の切り札は、中央アジア、太平洋、インド洋をまたぐ鉄道、道路、港湾を経由して中国を欧州、中東とつなぐ「一帯一路」計画かもしれない。
 ミャンマー、カザフスタンからインドネシア、スリランカに至るまで、こうしたルート沿いに位置する多くの国にとっては、お金を稼ぎ、コンクリートを得る機会だ。
 そして、お金はモノを言う。
 英国でさえ、中国の赤いドルの魅力の影響されずに済まない。

■お金で買えるものに限界

 お金で買えるものには限度がある。
 ミャンマー、スリランカ、フィリピンは皆、中国の引力に抵抗してきた。

 ミャンマーの政治改革と米政府への歩み寄りは、中国政府に恩義を感じることに対する軍部の不安に駆られたものだった。
 スリランカの有権者は、中国と親密になりすぎたと見られたために、マヒンダ・ラジャパクサ前大統領を追い落とした。
 そしてフィリピンは経済的な懸念よりも安全保障上の懸念を優先し、主権を巡る論争について中国政府を国際裁判所に提訴することで、中国の怒り(およびバナナのボイコット)を招くリスクを冒した。

 しかし、アジアの心を奪い合う戦いは続いている。
 勝利をもたらすのは、軍事ストラテジストと同じくらい技術者なのかもしれない。

By David Pilling
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サーチナニュース 2015-12-02 07:35
http://news.searchina.net/id/1595822?page=1

東南アジアのインフラ開発、
「狩猟型」の中国は「農耕型」の日本に学ぶべき=中国メディア

 中国メディア・光明日報は11月29日、アセアン地域におけるインフラ建設で競う日本と中国について、中国が「狩猟型」であるのに対し日本は長期間の利益が望める「農耕型」であるとする評論記事を掲載した。

 記事は、日本がアセアン地域において参画しているインフラ建設プロジェクトは空港、高速道路、港、橋といったものが多く、鉄道にかんするものは少ないと紹介。
  鉄道のハードプロジェクトが少ない一方で、日本の物流企業は現地の鉄道ネットワークを利用したサービスプロジェクトの開発に取り組んでいるとした。

 そのうえで、ハードプロジェクトを「収益がすぐに消えてしまう『狩猟型』プロジェクト」とするならば、日本が採用するサービスなどのソフト面開発プロジェクトは「田畑で毎年の収穫を見込める『農耕型』だ」と論じた。

 そして、東南アジアの高速鉄道建設に積極的に参加しようとする中国企業に対して
 「『狩猟型』だけではなく、同時に『農耕型』プロジェクトにも着目すること」、
 「相互利益と共生のなかから絶えずイノベーションを生み出す経済モデルを構築すること」、
 「ソフトプロジェクトを利用して、低リスク高収益なハードプロジェクトを誘発させること」
という3つの啓示を示した。

 製造業を主力産業として急発展を遂げた中国経済は現在、そのモデルチェンジを迫られている。
 そこで重要なカギとなるのが、実体のある「モノ」ではなく、サービス貿易の振興だ。
 先日行われた中国共産党18期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で示された、2016年から始まる第13次5カ年計画の方針においても、
 「生産型製造業からサービス型製造業への転換」
が掲げられている。

 現在、圧倒的なスケールと価格面での優位性、潤沢な資金を武器に世界規模で高速鉄道建設への売り込みをかけている中国だが、ややもすればハード面の建設による目先の利益に目が行きがちだ。
 長期的な視点を持って「硬軟」織り交ぜた戦略を取るようになれば、日本にとってはさらに強力なライバルとなることだろう。



サーチナニュース 2015-12-27 06:32
http://biz.searchina.net/id/1598149?page=1

日本は「教訓を得た」、
インドネシア高速鉄道で「転んでもただでは起きない日本」

 日本にとってインドネシアの失敗は素晴らしい授業になった――。
 中国メディアの中国商務新聞網はこのほど、日本政府が11月のASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議で表明した円借款条件の緩和に言及し、その意義について解説するとともに、日本がインドネシアで学んだ教訓を最大限に活用していると論じた。

 インドネシア・ジャワ島の高速鉄道計画で、日本は中国に受注を奪われた形となったが、記事は
 「同計画において日本が中国に敗れた理由は円借款の条件が厳しすぎるものだった
とする日本メディアの報道に言及、日本政府はこの失敗から円借款政策の見直しを余儀なくされたと伝えている。

 この見直しが
 「円借款が1958年に始まって以来の大改革」
と呼ばれるだけに、日本政府がインドネシアでの失敗に真正面から向き合い大改革に踏み切ったことを窺い知ることができる。

 さらに記事は日本の円借款には「最大の強み」があると指摘、それは
 金利が「中国には今のところ真似できないほど」低い
ことだ。
 さらに政府保証を求める割合を引き下げたことや手続きの簡素化も、これまでの円借款政策に欠けていた「機敏さ」をもたらし、インドの高速鉄道計画で大きな成果を上げたとして記事は日本政府の取り組みを高く評価している。

 記事で特に注目すべきは、
 円借款政策の大改革が「アジアインフラ建設全体」に非常に大きな恩恵をもたらす
と言及している点だ。
 アジア太平洋地区が必要とするインフラ投資額は年7300億ドル(約88兆5170億円)と推測されており、記事はアジアの超巨大なインフラ需要を
 「一国あるいは一銀行だけで解決できる問題でない」
と指摘している。

 従って今回の円借款政策の大改革は、アジア太平洋地区のインフラ開発を促進するという点において、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)との競争という日中両国の利益を超えた重要な意義を持つ。
 記事は日本がインドと高速鉄道計画で新幹線導入で合意した点についても非常に好意的に評価している。
 中国と日本のインフラ競争が「世界発展に」どう貢献していくか。
 こうした視点を大切にしたい。









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