2015年11月26日木曜日

過剰人口の日本(4):ロボットが「ヒトという馬力」を奪う日がくる、当然「ヒト余り」はさらに進行する

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Bloomberg 2015/12/8 09:14
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NYZXHXSYF01S01.html

【コラム】日本の人口減少を解決するのはロボットではない

    (ブルームバーグ):日本経済にとって長期的に大きな問題は人口動態だ。
 人口減少は生産性と1人当たり国内総生産(GDP)がまずまずのペースで伸びても、全体の成長率は低下、あるいはマイナスに落ち込むことを意味する。
 日本の債務は対GDP比率が先進国で最も高いので、返済はますます困難になる。
 高齢化社会はまた、年金生活者1人を少ない人数で支えることも意味する。

 この問題解決のためのアイデアがこれまで数多く浮上した。
 例えばワーク・ライフ・バランス。
 女性が仕事か家庭かの二者択一を迫られなくなれば、出生率が上がると期待されてのことだ。
 企業統治改革は生産性向上につながるとされ、減少する労働者はロボットが取って代わると多くの人が信じている。
 それでも私は時折、どうして日本は移民の大量受け入れという選択肢を試さないのかと質問される。

 米国やカナダ、オーストラリアにはこれが労働力不足を解決する自然な方法だろう。
 実際、米国の出生率は辛うじて人口維持できる水準なので、ここ数十年にわたって人口が毎年0.5-1%伸び続けている理由は移民が全てだ。
 ということは、人口が高齢化し減少する日本にもこれが自明の解決策にはならないのか?

 これがそう単純ではない。
 日本の人口は向こう数十年に毎年50万人前後が減少すると予想され、これを補うには年に人口の0.5%近い移民が必要になる。
 しかも高齢化する人口に対応するには大胆な移民受け入れが必要で、これは日本が米国と同程度に移民に対してオープンになることを意味する。

 伝統的に移民を受け入れてこなかった日本には極めて困難なことだ。
 日本は米国と異なり、出生地主義を採らない。
 このため、就労ビザで来日した外国人同士の子供が日本で生まれても、その子供は帰化の長いプロセスを踏まない限りは外国籍のままだ。
 在日韓国・朝鮮人や1980-90年代のブラジルからの「出稼ぎ」日系人労働者の問題から分かるように、日本語を話したり、日本文化になじんでいても日本国籍がないことで差別の対象になる。

 日本が移民に消極的なのは、少なくとも人種差別の結果ではない。
 日本での差別の根本にあるのは国籍だ。

 出生地主義の採用抜きに、人口減少に対応できる移民ブームが日本で起きることはないだろう。
 政権中枢を常に保守的な政治家が握っているとあって、この国の政策がすぐに大きく変わる確率は非常に低い。

■法改正

 ということは、移民が日本を苦境から救う可能性は忘れた方がいいのだろうか。
 そうでもなさそうだ。
 高い技能を持つ労働者が減っていくことから、政府が高度人材としての外国人の受け入れに前向きであるからだ。
 昨年の法改正によって、高度専門職は日本での就労3年後に無期限の在留資格を得られるようになった。

 こうした人材は大量に入ってくるわけではなく、個人ベースで入国するため、日本人と仲良くなったり結婚しやすいかもしれない。
 日本語も流暢(りゅうちょう)で、帰化のプロセスも容易になる可能性が高くなるだろう。
 日本企業で高いポジションに就いて仕事をするこうした人材の存在感が高まれば、日本社会は真の移民という考え方にゆっくりとではあるが順応していくかもしれない。
 ひいては、日本企業での差別的な雇用慣行が減り国民の移民政策への支持が高まることを期待したい。
 数十年すれば、日本はもっと移民の受け入れにオープンになっているかもしれない。
(ノア・スミス)

(コラム の内容は必ずしもブルームバーグ・エル・ピー編集部の意見を反映するものではありません)

原題:Immigration Is a Tough One for Japan to Swallow: Noah
Smith(抜粋)



プレジデント 2015/12/8 08:45 神戸大学名誉教授 松田卓也=文 平良 徹=図版作成
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151208-00016795-president-nb

人工知能の発達で“消える”職業

■人間よりはるかに高い知能の誕生は2045年? 

 2015年初頭、NHKが「NEXT WORLD 私たちの未来」と題して放映した番組に大きな反響があったという。
 番組の一部は30年後の45年を扱った近未来ドラマだが、米国の未来学者レイ・カーツワイルによれば、この
 2045年という年に、世界は技術的特異点(シンギュラリティ)に達する
という。

 技術的特異点(以下、特異点)とは、いう人によって多少のニュアンスの差があるが、人間よりはるかに知能の高い超知能が誕生する時点である。
 超知能は機械に補助された人間かもしれないし、あるいは機械知能かもしれない。
 前者の場合は超人類(トランスヒューマン)と呼び、後者なら機械超知能である。
 超人類は生身の人間ではなく、地頭を人工知能で補強したサイボーグである。

 1人の普通の人間の知的能力を1H(ヒューマン)と定義すると、カーツワイルによれば、
 人工知能の能力は29年には1Hを突破し、45年には10億~100億Hになるという。
 この数字は全人類の人口に匹敵する。
 したがって、特異点では人工知能の能力が、全人類の知的能力の総和に匹敵するということもできる。

 ここで、人工知能を狭い(弱い)人工知能と汎用(強い)人工知能の2種類に分類してみよう。
 狭い人工知能とは特定目的の人工知能であり、
 汎用人工知能とは人間のように常識を持ち、なんでも一応はこなせる広い知的能力を持った人工知能である。

 現在、世界に普及している人工知能はすべて狭い人工知能である。
 たとえばチェスの世界チャンピオンを破ったIBMのディープ・ブルー、ジョパディ!  というクイズで人間のチャンピオンを破ったIBMのワトソン、iPhoneに搭載されているバーチャル・アシスタントのSiriなど。グーグル検索でも、アマゾンでの買い物でも、背後にはこの狭い人工知能が働いている。
 狭い人工知能は人間のような意識を持っておらず、哲学的な観点から弱い人工知能と呼ぶこともあるが、特定分野では人間よりはるかに強力なのだ。

 現在のコンピュータは、ある分野では人間をはるかに凌駕する。
 たとえば計算能力を取ると、10ペタフロップスの能力を持つ京コンピュータは1秒間に1京回の浮動小数点演算(小数点を含む計算)をこなす(1京とは1の後ろに0が16個並んだ数字)。
 人間なら1秒に1回も計算できないだろう。
 つまり計算能力では、コンピュータの能力は人間の1京倍以上あるといえる。

 またビッグデータの解析でも、コンピュータは人間の能力をはるかに上回っている。
 コンピュータは何千万ものデータを解析して、人間には気づかない傾向を見つけたりする。

 ところが二足歩行を考えると、ロボットの歩き方はヨチヨチ歩きであり、子供程度の能力しか持っていない。
 パターン認識の能力を取っても、人工知能は人間に敵わない。
 たとえば、犬と猫の区別は3歳の幼児でも簡単にできるが、コンピュータには難しい。
 12年にグーグルの人工知能が猫を認識したと話題になった。
 グーグルは1000台のコンピュータに、動画投稿サイトYouTubeから取った1000万の静止画像を見せて、3日間学習させた。
 手法は教師なし深層学習(Deep Learning)というものである。

 その結果、コンピュータのモニターに猫の顔が浮かび上がった。
 つまりコンピュータが猫を認識したというわけだ。
 これは確かにすごいことである。が、人間の子供なら3歳の幼児にでもできるし、そもそも人間の子供は1000万もの猫を見て学習するわけでもない。
 つまり人間はパターン認識において、人工知能よりはるかに優れているのである。

 先に述べた汎用人工知能とは、このように人間がコンピュータより優れている特徴、たとえばパターン認識力や一般常識などを備えた人工知能だ。
 現在の人工知能研究は圧倒的に狭い人工知能に集中しているが、一部の研究者は人間並みの知能を持つ人工知能の完成を夢見ている。
 米国のある研究者はあと5年で完成可能といい、日本のある研究者は20年代前半の完成を目指す。
 汎用人工知能研究の大御所によれば、頑張ればあと10年。
 前出のカーツワイルは29年に完成するという。
 14年先だから、十分に可能な気がする。

 この時点、つまり人間並みのパターン認識能力と常識を備えた、1Hの能力の汎用人工知能の完成の時期を前特異点と呼ぶことにする。
 すると、これからの歴史は
1].15年から29年までのほぼ15年間と、
2].30年から45年の特異点までの15年間、さらに
3].特異点以後
という3つの期間に分けることができる。
 当面、我々にとっての関心事は15~29年。
 特定の分野において、人間よりはるかに優れた狭い人工知能が爆発的に発展していくことにより、人間社会に大きな影響が及ぶ期間である。

■家政婦が当面、機械に取って代わられない理由

 その影響とは何かというと、技術的失業である。
 技術的失業とは英国の経済学者ケインズが唱えた概念で、
 技術の進歩により人間が失業することをいう。
 具体的には約250年前から始まった産業革命、1980年代に工場にロボットが広範に導入されたオートメーションの時代、それに人工知能の発達により知的労働が脅かされつつある現代である。

 産業革命の時代には、機械に職を脅かされた労働者たちが、機械打ち壊し運動(ラダイト運動)を行ったが、さほど広がらなかった。
 機械の導入で生産性が向上し、社会がより豊かになり、新しい職が生まれたからだ。

 オートメーション革命は現代まで続いている。
 工場で肉体労働をする労働者の数は減ったが、その分、オフィスにおける知的な労働が増えて、労働者はそこに吸収された。
 実際、現在の労働者といえば、農業、漁業などの肉体労働、工場における肉体労働はむしろ少数で、多くの労働者はオフィスで働く知的労働者である。

 現在進行している人工知能革命は、そのオフィス労働者の地位を危うくする。
 また人工知能を搭載したロボットの発達は、肉体労働者の職域をさらに奪っていく。
 もちろん、人工知能とロボットの発達は、生産性を上げて社会をより豊かにするし、新たな職業も生まれるであろう。
 問題はその変化があまりに急速であるので、労働者がそれについていけないことである。
 今まで事務所で帳面付けをやっていた中高年の労働者が、人工知能にその仕事を奪われて失業し、明日からプログラマーになれといわれても、到底無理だろう。

 ここでの議論は、人工知能とロボットがまだ人間並みには達しない、前特異点以前の時代に話を絞る。
 これから10~15年先の話である。
 そのときに人工知能やロボットにできる仕事とできない仕事とは何だろうか。
 できる仕事は単純な繰り返し作業、定型的な仕事である。

 できない仕事とは何か。
 ロボットの例がわかりやすい。
 ロボットがやりやすい仕事とは、繰り返しの多い単純な作業である。
 逆に単純でない仕事はロボットには難しい。
 たとえば家の掃除を例にあげる。
 ルンバのような人工知能を備えた掃除機がある。
 しかしルンバは平坦な床を掃除するだけで、階段を上ったり、狭い隙間を掃除したり、いわんや机の上は掃除できない。
 そのように家の掃除というのは、実はかなり高度な作業なのである。
 だから家政婦のような職業は、当面、機械に取って代わられることはない。

 実は、ロボットがその仕事をできたとしても、企業家の立場からすれば、機械と人間のどちらが安いかによって、人間を雇うかロボットを導入するかを決定する。
 ロボットの値段が高いうちは、人間の肉体労働はなくならない。
 しかし人間の労働に対する対価、つまり給料を低下させる要因となる。
 人間のほうが安ければ、企業家は人間を雇うのである。

■トップと一番下は“安泰”、中間の職種が“不安定”

 もう1つの要因は、労働問題だ。
 アップルはiPhoneの生産を台湾の企業に委託し、その台湾の企業は中国で100万人もの労働者を雇用している。
 しかし労働環境があまりに劣悪で、労働者による労働争議が起きた。
 それに対する台湾企業の経営者の対応は、
 100万台のロボットを導入して、労働者に置き換える
というものだ。

 一方、人工知能に(当面は)できない知的な仕事とは、企業のトップの意思決定、科学者の科学研究、芸術家の創作活動、知的活動ではないがスポーツ選手などであろう。
 たとえばロボットに相撲を取らせたり、野球をさせたりしても面白くない。
 茶道をロボットがしても味気ない。

 これらの知的な仕事、創造的な仕事は当面は安泰である。

 つまり安泰な仕事とは、高度で知的・創造的な仕事と、それとは逆に低度ではあるが、ロボットや人工知能にできないか、あるいはやってほしくない仕事である。
 安泰でない仕事は定型的な知的・肉体的労働である。
 具体的にはオフィスにおいて、トップでもなく、一番下でもない、つまり中間の職種なのだ。

 このようにトップとボトムが安泰で、中間が不安定であることを、仕事の安定性のU字カーブという。
 英オックスフォード大学の研究者は米国の702の職種についてコンピュータ化による失業の確率を計算した。
 その結果、米国の雇用の47%が危機にあるという
 その失業のU字カーブを図で示す(図参照)。



 図の凡例で上のほうの職種がより安泰、下のほうが不安定である。
 図の右側の高いと記した部分はコンピュータ化される確率が高く、失業しやすい部分であり、ここが米国全体の雇用の47%を占める。
 サービス、セールス関係、事務職とその補助が多い。
 逆にコンピュータ化が困難な仕事は左端であり、全雇用の33%を占める。
 読者の方々の属する業界の先行きに見当をつける際の参考となるのではないか。



THE PAGE 12月9日(水)7時0分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151208-00000004-wordleaf-bus_all

ロボット化で日本の仕事の半分がなくなるとの推計、
その100の職種とは

 野村総合研究所は2日、日本の労働人口の約半数が、人工知能やロボットで置き換えが可能という推計を発表しました。
 果たしてこれは本当なのでしょうか。
 ロボット化で日本の仕事の半分がなくなるとの推計、その100の職種とは


●人工知能やロボット等による代替可能性が高い労働人口の割合(日本、英国、米国の比較)(出所:NRI)

 人工知能による仕事の置き換えについては、2013年にオックスフォード大学が発表した推計がもっとも有名です。
 これによると、米国の労働市場における仕事の47%が人工知能もしくはロボットで置き換えが可能だという結果でした。
 野村総研の推計は、オックスフォード大学との共同研究であり、同大学の研究者からアルゴリズムの提供を受けて行ったものですから、基本的にはまったく同じ手法と考えてよいでしょう。
 違いは日本と英米の職種の分類ということになります。

 人工知能やロボットによって置き換わる可能性が高い職種としては、一般事務員、組立工、タクシー運転手、レジ係などが列挙されています。
 いわゆる単純労働的な仕事がロボットに取って代わられるという解釈のようです。
 一方、置き換わる可能性が低い職種としては、アートディレクター、エコノミスト、教員、介護職員などがあります。
 創造性が必要であったり、他者の理解や説得が必要な職種は置き換え可能性が低いと分析されています。
 ロボット化で日本の仕事の半分がなくなるとの推計、その100の職種とは

 オックスフォード大学の研究は、人工知能による置き換えというテーマにおいては先行的なものでしたので、世界各国で話題となりました。
 同研究では、各職種について、操作面、創造性、社会的相互作用などの各項目で評価し、置き換え可能性を数値化するという手法が使われました。

 ただ、この手法に関してはいくつかの前提条件が付いていることに留意する必要があります。
 例えばロボット化に伴ってそれを管理する仕事が発生するといった部分は除外されていますし、ロボット化のコスト面も考慮に入れられていません。
 いくら便利でも人の方が安かった場合には、人が優先される可能性は高いでしょう。

 どういった項目がロボットに置き換えられるのかという前提条件も、この研究が出た当時と現在では様子が変わっています。
 研究では芸術関係の置き換えは難しいといわれていますが、最近ではむしろ、音楽やデザインなど感性が必要とされる分野ほど、ロボットの置き換えが容易との見解も出てきています。

 また日本では、雇用の流動性が低く、立場が保証される正社員の仕事は維持され、非正規社員の仕事だけがロボットに置き換わってしまう可能性もあります。
 あくまで、先行研究事例を参考に、同じ条件を日本に当てはめたものとして、割り切って解釈した方がよいでしょう。

 ネットではこの結果を受けて、先行研究の条件を変えるだけのレポートを書く仕事こそ、ロボットに置き換わってしまうのではないかとの皮肉な意見も見られました。



ダイヤモンドオンライン 2015年12月17日 マシュー・バロウズ,藤原朝子 [学習院女子大学]
http://diamond.jp/articles/-/83282

テクノロジーの進化は成功する見込みのない底辺層を生み出す

 大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。
 CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月20日に発売された。
 日本でも発売早々に増刷が決定、反響を呼んでいる。
 本連載では、NIC在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど多岐に渡る分析のなかから、そのエッセンスを紹介する。

 第10回では、私たちが今直面しているテクノロジーの進化と、雇用へのインパクトを分析する。 
 かつての「産業革命」は、生産性の上昇と同時にイギリスの手工業者の失業、そして階級の固定化をもたらした。
 21世紀、新たなテクノロジーはどのような世界への「シフト」をもたらすのだろうか。

■自動運転車やドローンよりも雇用にインパクトを与える技術とは?

 グーグルなどが開発を進める自動運転車は、向こう10年以内に実用化されそうだ。
 そうなれば、長期的には車の使い方から交通インフラの設計、さらには都市計画における土地利用法に劇的な変化をもたらすだろう。

 こうして自動運転車の普及は都市設計の見直しを迫るとともに、都市住民のライフスタイルを変える可能性がある。
 車の所有のあり方と使用パターンも変われば、世界経済とりわけ自動車産業は大打撃を受けるおそれがある。
 もちろん恩恵を受けるメーカーもあるだろうが、車をステータスシンボルではなく実用品とみなす人が増えるなど、車の意味そのものが変わる可能性がある。

 自動運転車への移行は、商用車が先行するかもしれない。
 高速道路で自動運転トラックの隊列(先頭または最後尾に人間の運転手が同乗する)を見かけるようになるかもしれない。
 また、自動運転車は途上国の原材料に対する過剰需要を鎮静化し、鉱業と農業の新たな工業化をもたらし、場合によっては子どもが引き受けている重労働を減らすだろう。

 無人飛行機(ドローン)は、軍事分野では日常的に使われているが、向こう10年で民生用が拡大するだろう。
 カメラやセンサを搭載した安い無人機は、精密農業(種子や肥料や水の量や範囲を厳密に調整するカスタマイズ型農業)や、人間がアクセスしにくい場所にある送電線の点検などに使えるだろう。
 交通量の調査や改善にドローンを使うこともできる。

 自動運転車と同じように、ドローンの普及を妨げるのはその用途ではなく、安全性と信頼性に対する懸念だろう。
 とりわけ人口密度の高い地域で運用される場合は懸念が大きい。
 このため世界のほとんどの航空当局は、民間空域でのドローンの使用を大幅に制限している。

 人間の雇用にとって大きな脅威となるのは、
 高熟練労働者よりも「速く正確に仕事ができるソフトウェアの開発」だろう。
 グーグルやマイクロソフトの検索エンジンは、人間の能力をはるかに上回る強力な順位づけアルゴリズムによって、莫大な量のデータをふるいにかけて検索結果を出す。

■この20年で労働者の所得は4%減っている

 人よりも速く、安く、正確に膨大な法律文献を調べられるアルゴリズムもあり、アメリカの訴訟手続きでは弁護士に代わりEディスカバリー(電子証拠開示)の導入が進んでいる
 医療用のX線画像も、放射線技師よりコンピュータのほうが正確に読み取ることができる。

 グーグル翻訳の性能は、莫大なデータマイニングと高度なアルゴリズムによって、日々改善されている。
 こうしたソフトウェアの飛躍的進歩によって、多くの雇用、場合によっては職種がまるまる失われつつある。
 だとすれば、
 今後の雇用は増えるよりも減るペースのほうが速い
のか。

 確実なことは言えないが、いつもは楽観的な見方をするエコノミストも、この点では懸念を示している。
 最近のOECDの報告書は、いくつかの不快な事実を明らかにしている。
 過去20年間に世界のGDPにおける労働者の所得は4%減ったが、その約80%が新しいテクノロジーのせいだというのだ。
 一方、新しいテクノロジー分野で働くひと握りの高熟練労働者(と企業経営者・所有者)の所得は増えている。

 私は破壊のなかからまったく新しい職種が生まれると考える楽観派だが、それが遅れていることと、世界じゅうで格差が拡大していることに不安を感じている。
 第1次産業革命は、とてつもなく広い範囲で豊かさをもたらすプロセスに火をつける一方で、無数の手工業者を貧困に陥れ、19世紀のイギリスの階級を固定した。

 ディケンズは多くの小説で、中間層が拡大する一方で、工場労働者などの肉体労働者が不安定な暮らしを強いられたことを描いた。
 短中期的には状況は見えざる手によって改善されるという楽観論に、歴史は警告を発している。

 新しいテクノロジーから疎外された人々は、新しいスキルを身につける機会を必ずしも持たない。
 アメリカをはじめとする国々は、成功する見込みのない底辺層を生み出すおそれがある。

マシュー・バロウズ(Mathew Burrows)
米国の最高情報機関であるNIC(国家情報会議)の元分析・報告部部長。直近の2号である『グローバルトレンド』(2025/2030)で主筆を担当。ウェズリアン大学(学士号)とケンブリッジ大学(博士号)で歴史学を学ぶ。1986年にCIA入局。2003年にNICに加わる。28年に渡って国家情報アナリストとして活躍。リチャード・ホルブルック国連大使の情報顧問を務めたこともある。2013年に辞任し、現在は「アトランティック・カウンシル」戦略フォーサイト・イニシアチブ部長を務める。ワシントン在住。



Business Journal  2015.12.28
http://biz-journal.jp/2015/12/post_13053.html

税理士や公認会計士は消えてビル清掃員は残る!
高報酬の知的職業ほど人工知能に奪われる


●「野村総合研究所 HP」より

 12月2日、野村総合研究所が
 「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」
という研究結果を発表して話題を呼んだ。

 同研究所では、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授とカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究により、国内601種類の職業について、人工知能(AI)やロボットで代替される確率を試算した。
 その結果、10~20年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業が、AIやロボットで代替される可能性があるという。

 「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」には、「一般事務員」「受付係」「建設作業員」などが並び、逆に「代替可能性が低い100種の職業」には、「アートディレクター」「経営コンサルタント」「俳優」などが挙げられている。

 12月25日付記事『AI=人工知能、甚大な社会的被害を生む危険
 …信じられない単純ミス連発も』では、当サイト連載「ビジネスのホント」および『ビジネスをつくる仕事』(講談社)著者の小林敬幸氏の解説により、AIの強みと弱みを考察したが、今回はAIによって「代替される仕事と、代替されない仕事」「我々の働き方はどう変わるか」について考えたい。

■本当にAIの進化で仕事がなくなるのか?

 小林氏は、
 「技術的にはAIで代替可能でも、経済的に割に合わなければ、人間に取って代わることはない。
 つまり、AIがやるより人間がやったほうがコストパフォーマンスが良ければ、代替されることはないだろう」
と語る。

********
 「例えば、AIやロボットで代替される仕事として『ビル清掃員』や『保管・管理係員』が挙げられるが、これはAIやロボットにとっては難度が高く、膨大な開発費も必要だ。
 一方で、現行の人間に払っているコストがそう高くないのであれば、すぐに代替されることはないだろう。

 また、金融相場や小売の商品売り上げ予測などは、何十年も多額の資金をかけて、コンピュータと人間の知恵を総動員してシステムを開発してきた。
 その分野において、AIがすぐに圧倒的なコストパフォーマンスを出せるかどうかは、まだわからない。

 それらを鑑みると、
 真っ先に代替されそうなのは、
 『開発において多額の追加費用が必要でなく、
 現行の人間には高い報酬を払っている仕事』
となる。
 一番危ないのは、現時点で高報酬を得ることができる
 『言語と論理力を使う知的職業』
だろう。

 つまり、公認会計士、税理士、判例チェックをする法律事務所員、フォーマットに基づいて戦略立案を行う一部の経営コンサルタントや企業内の戦略企画部の仕事などが当てはまる。
 また、言語処理の進化を活用するのであれば、政府発表の経済データの報道やグルメ・旅行など専門的であるが定型的な文章を書く記者・ライターなども、代替される可能性があるだろう」(小林氏)
********

 いわゆるホワイトカラーのビジネスパーソンも、油断はできない。
 小林氏は
 「知的で複雑な作業をしているようでいて、実はフォーマットと前例に基づいた仕事をしている人は、AIに代替される可能性が高い」
と警鐘を鳴らす。
 しかし、続けて
 「一方、AIの弱点である『共感力』と『前例の少ないケース』に対応し、独自の創意工夫ができる人は、かえって価値が高まるだろう」
と語っている。

 「ある職種が丸ごとなくなるというケースはまれで、ひとつの職種の中にAIに代替可能で価値が下がる仕事と、AIが代替できないため価値が上がる仕事が出てくるだろう。
 例えば、コールセンターの場合、通信販売の受注業務は大部分がAIで代替できるが、『共感力』が必要なクレーム対応や、商品を売り込むアウトバウンドコールなどは、人間のオペレーターが必要だ。
 そして、そのオペレーターの士気を高め、束ねることのできるスーパーバイザーは、ますます価値が高まる」(同)

■「仕事がなくなる」のではなく、「働き方が変わる」

 AIに代替される仕事がある半面、かえって人間の価値が高まる仕事もはっきりしてくるようだ。
 AIには、前述したように
 「共感力がない」
 「前例の少ないケースに対応できない(ために単純なミスが生まれる)」
という弱点がある。
 そのため、小林氏は
 「AIが完全に人間の仕事を代替することはないだろう」
と語る。

 「どんな仕事に対しても、人間が最終チェックをする必要があるからだ。
 そうしないと、大きな被害を生む事故が起きたり、企業価値を損なう事態になる可能性がある。

 結局、人間はAIと共存し、協力し、利用しながら仕事をすることになるだろう。
 つまり、AIの進化によって、我々は『仕事がなくなる』というより、『働き方が変わっていく』ことになる。

 そして、そこでは、AIが苦手なことに秀でた人間の価値が高まる。
 つまり、
 『人間に対する共感力』
 『多様な分野の現実を知っている』
 『独自の洞察と創意工夫ができる』
という点だ。
 それらを生かした仕事をすれば、むしろAIを味方につけ、AIの仕事を補完しながら、生産性を上げることができる。

 さらに言えば、AIによる代替以前に、今の仕事の社会的価値がなくならないように気をつけたほうがいい。
 例えば、監査法人が見抜けないような企業の不正会計事件が続けば、社会や株主たちは『監査に多額の費用をかける意味がない』と判断するかもしれない。

 そうなると、AIの活用による安くて中立的な会計チェックで済むように制度が変わり、監査法人の仕事がなくなるかもしれない。
 これは、何も他人事ではない。
 今の仕事の社会的価値がなくなるというのは、ホワイトカラーをはじめ、それぞれの職場で実際に起こり得る出来事なのである」(同)

 「近い将来、今の仕事の約半数がなくなるかもしれない」
と聞くとゾッとするが、現実的には
 「近い将来、我々の働き方が大きく変わる可能性がある」
ということだろう。

 今の我々に求められているのは、「AIの急激な進化」という、まさに「前例の少ないケース」において、人間ならではの知恵を使い、付加価値の高い仕事をすることなのかもしれない。
 そうすれば、AIを逆に利用するようなかたちで共存することができ、かつてないほどの生産性を上げることができるだろう。

(文=編集部)







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