2015年11月20日金曜日

明暗分かれる中国事業:日本のスマホ関連企業は中国で今も絶好調、海外勢を寄せ付けない圧倒的な技術力

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ダイヤモンドオンライン 2015年11月20日 姫田小夏 [ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/82012

日本のスマホ関連企業が中国で今も絶好調な理由

  「中国で人員削減」
 「中国減速直撃」
 ――新聞では連日そんな記事が掲載される。
 中国に進出した日本の製造業の中には、業績低迷で四苦八苦の企業や、会社清算を進める企業が目立つ。
 だが、中にはそうでない企業もある。
 明暗分かれる中国事業だが、「わが社は絶好調」という企業を紹介しよう。

■ 「中国事業は今、受注が旺盛です――」

 上海の現地法人で董事を務める営業推進部国際室の杉本希世志氏は明かす。
 「低迷」一色に染まる中国で旺盛な引き合いにうれしい悲鳴を上げるのは、横浜に本社を置く(株)アルプス技研である。

 同社は3000名の技術者を擁する技術者派遣の大手企業だが、中国では液晶・半導体製造装置の設置やメンテナンスなど、エンジニアリング事業の比重が高い。
 今、同社現地法人ではこの設備の据え付けに引き合いが殺到しているという。

 発注主は日系メーカーだが、エンドユーザーとなるのが台湾、韓国、中国メーカーである。
 テレビ、スマホやタブレットなどに使われる液晶・半導体といえば、埃や塵のないクリーンルームでの無塵作業が前提となるだけに、製造装置の設置にも精度の高さが求められ、「実績ある日本企業でなければ」と同社に受注が集中しているのだ。

液晶・半導体の製造といえば、すでに主役は台湾、韓国に交代してしまったが、
 製造装置やその据え付けとなると俄然、日本が強い。
 台湾、韓国が生産の拠点を中国に集中させる今、中国法人を持つ同社には強い追い風が吹く。

  「人員は2年前に比べ約2倍になりました。
 目下、中国での需要増を見込んで、引き続き現場責任者やリーダーの人員増強を行っているところです」
と杉本氏は語る。

■海外勢を寄せ付けない専門分野での圧倒的な技術力

 一方、大阪に本社を置く(株)ダイフクも、今期の決算は「絶好調」だった。
 同社はモノを動かす技術を持つ企業であり、生産・流通、サービスにおけるさまざまな産業分野で保管、搬送、仕分け・ピッキングシステムといったマテリアルハンドリング(通称「マテハン」)に実績を重ねてきた。
 中国では、自動車メーカーをはじめとする製造業や流通業だけでなく、台湾や韓国企業の中国工場や中国企業に対し、液晶パネルに使われるガラス基板の搬送・保管システムも手掛けている。

 ガラス基板はテレビやタブレット・スマートフォンなどの液晶パネルに使われるが、薄くて大きな部材なだけに、たわみや割れを発生させずに搬送・保管する高度な技術が要求される。
 だが、「マテハン」で抜きんでた技術を持つ同社はコンペティターを寄せ付けない。

 同社CSR本部広報部の大岩明彦氏は「強み」についてこう語っている。
  「単に機械を作るのではなく、顧客ニーズに合わせてシステムを構築する、いわばインテグレーターとしての仕事が求められます。
 また、24時間365日稼働する液晶工場においては、生産を止めないマテハンシステムの信頼性が重要。
 メンテナンス対応も大切な要素です。
 私たちはこれらに強みを発揮できる日本企業の1つだといえます」

 同社の「絶好調」は中国事業だけではない。確かに中国での事業は伸びているが、中国だけ突出しているわけでもないのだ。これは、同社が取引先の多国籍化を早くから進めてきたことに起因する。

 同社の今期第2四半期の海外売上高比率は68%。
 その構成比においては北米(38.3%)とアジア(47.8%)が大きく、
 アジアでは韓国(17.1%)、中国(14.5%)、台湾(10.7%)が大きな市場となっている。

 北米では「デトロイトスリー」にも生産ラインの搬送システムを納入するダイフクは、過去、日本初の乗用車専門工場へのチェンコンベヤシステム納入(1959年)や、日本初の自動倉庫の開発(1966年)など、国内のマテハン業界をリードしてきたが、いまや技術力で世界の受注を獲得するグローバル企業に成長した。

 ちなみに、米業界誌「Modern Material Handling Magazine」が毎年発表する世界ランキングにおいて、同社はドイツ企業を僅差で抜き2014年度売上高で首位に輝いている。

 この2社の中国事業が好調だった背景には、中国における液晶パネルの急速な生産拡大がある。
 日本・台湾・韓国が「液晶パネル三強」を形成したのも今は昔、現在は後発の中国が存在感を増すようになってきているのだ。
 液晶パネルの中国最大手である京東方科技集団(BOE)をはじめとする大手4社が巨大工場を新設するほか、TCL集団(大手電気機器メーカー)傘下の華星光電(CSOT、パネルメーカー)も2018年までに12工場を新設する計画だ。

 前出の杉本氏も次のように指摘する。
  「中国は液晶パネルの国内自給を目指す政策を進めており、台湾、韓国勢を凌駕しようとしているのは明らかです。
 中国は来年に向け、さらにここへの投資を増強するでしょう」

■スマホ用カメラレンズでぶっちぎりの中小メーカー

 飽和といわれる中国のスマホ市場で、今年、日本の部品メーカーの明暗はくっきりと分かれた。
 そんな中で、栃木県に本社を持つカンタツ(株)は「ぶっちぎり」の状態だ。
 同社はスマートフォンのマイクロレンズユニットの設計・製造を手掛けており、中国では2001年から量産体制を築いてきた。
 同社事業戦略室の大泉雅裕氏が「今、絶好調です」と熱く語るように、スマートフォンの内蔵カメラが高画素化するのに伴い、同社製レンズに勢いが出てきた。

 電子メディアによれば、昨年米アップル「iPhone6」用カメラレンズのうち、カンタツは受注比率が3割となり、続く「6S」でも同社が受注したといわれている。
 もともと、同社はビデオ用メカユニットの生産を手掛けていたが、現会長の岩濱重夫氏が掲げた「今後はミクロと光だ」という戦略で大転換を果たし、新たなオプトメカトロニクス技術を構築した。

 このマイクロレンズについてはコニカミノルタなど大手企業も手掛けていたが、2014年に同事業から撤退し、唯一、中小企業のカンタツが生き残っている。
 しかも、人件費高騰が直撃する中国において自社開発の省力化自動機器を導入し、中国工場で低コスト体制を打ち出した。

 技術だけではない。
 中国での生産体制を確固たるものにしたのは、岩濱氏が幹部クラスを育てたからだ。
 社員のひとりは語る。
  「今年77歳になる会長は、過去14年間、そして今もなお月1回のペースで従業員をねぎらうために中国の工場を訪れています」

 カンタツの中国事業は積極的だ。
 中国のファーウェイ(華為技術)などのセットメーカーが伸びてきていることから、今後はここを市場に投資を拡大するという。

■今の絶好調は「プチバブル」と見る慎重な姿勢も

 一方で、気になるのが今後の見通しである。
 中国で顕在化する液晶工場の新設ラッシュについて
 「需要を無視したやみくもな拡大」
 「2年以内に供給過剰に陥る」
と警戒する声が出始めている。

  “国を挙げての産業政策”を危ぶむためだ。
 中国の地方政府は液晶事業に経済成長を期待するあまり、競うようにして液晶工場に補助金を与え、新設を急いでいるのだ。
 太陽光パネル生産がそうだったように、
 政府主導の産業政策によって過剰生産を引き起こし、市場を狂わせるのは、中国の製造業の宿命でもある。

 杉本氏は、目下の中国事業の好調を「プチバブル」と表現する。
 「中国市場の先行きは不透明。
 この好調もいずれ弾けるときが来るでしょう」
と、慎重な姿勢を崩さない。
 絶好調も「一炊の夢」だということか。

 確かに中国国内はスマホ市場にブレーキがかかっているが、世界のスマホトップ10のうち7社を中国企業が占める今、その市場は「成長鈍化」といわれる中国国内だけにはとどまらない。

 たとえば、ファーウェイのスマホはミャンマーでは市場の過半を占め、カリブ海の国々ではジャマイカやドミニカなどで販路を拡大し、次はトリニダードトバコの市場開拓を狙うという。
 トリニダードトバコで無線ネットワーク構築を手がけた経験がファーウェイの進出を有利に導く。
 このように、今後、中国の「一帯一路」でインフラ整備を中国が受注すれば、(皮肉なことではあるが)自ずと中国のメーカーに道が開かれることになる。

 2000年代、日本企業の間で「中国を征する企業が世界を征する」という言葉が流行った。
 その後時を経て、中国から世界を見据えるグローバル企業が出現するようになった。
 「成長鈍化で退却」だけが日本企業の姿ではない。
 製造拠点中国をどう取り込むか。
 新たなステージに入った中国ビジネスに注目したい。