2015年11月27日金曜日

中国解放軍改革が始まる:中国、7軍区を統合4戦区に、人民解放軍を骨抜きにする習近平の軍事制度改革

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 習近平は解放軍の改革に着手する。
 江沢民系に握られている解放軍を掌握するには必要なプロセスだろう。
 気になるのは、習近平が海軍をコントロールできていないのではないだろうかということだ。
 軍には陸軍・海軍・空軍、それにミサイル軍がある。
 基本的に空軍とミサイル軍は陸軍の統制化になる。
 なぜなら、飛行機は陸に戻らねばならないからだ。
 しかし海軍は違う。
 基地は陸地にあっても、出航してしまえば長い間自由になる。
 中央の指令は表面的に守っていれば、十分は自由度は確保される。
 結果として、小さいながらも独立傾向の意識が芽生える。
 このところの海軍の動き、たとえばアラスカ沖の航行、南シナ海の動きは集近平の思惑とは異なっているように見える。
 集近平は海軍に引きずられて、後追いをしている節も見える。
 海軍をどうコントロールできるかが、課題になりそうな気がする。


●フジテレビ系(FNN) 11月27日(金)10時56分配信


朝日新聞デジタル 11月27日(金)5時30分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151126-00000059-asahi-int

中国、7軍区を統合 4戦区に 中央の指揮強化


●中国軍の配置/中国軍の機構図と主な戦力

 中国の習近平(シーチンピン)国家主席は、北京で26日に閉幕した中央軍事委員会改革工作会議で、1949年の新中国成立以来初めてとなる軍の大規模改革に着手すると表明した。
 米軍をモデルに、縦割りの弊害が指摘されていた命令系統を集約する「統合作戦指揮体制」を本格導入する。
 領土や海洋権益などをめぐって他国との摩擦が増すことを見据え、実戦的な軍の体制づくりを目指す。

 国営新華社通信によると、軍トップの党中央軍事委員会主席を兼ねる習氏は24日から開いた会議で「軍の最高指揮権は共産党中央、軍事委員会に集中させる」と強調。
 「統合作戦指揮体制の構築を進め、戦闘力を高めるため部隊の規模・編成を見直し、量から質の重視へ転換する」
と述べた。
 習氏は「革命的な改革だ」とし、2020年までに改革を反映した体制を確立させる方針を示した。



 ニューズウィーク日本版 2015/12/10 17:00 加茂具樹
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151210-00161067-newsweek-nb

人民解放軍を骨抜きにする習近平の軍事制度改革

 「政治権力は銃口から生まれる」。
 毛沢東が語ったこのきわめて明快な権力観は、習近平の中国でも生きている。
 習近平は、2012年11月に中国共産党総書記に就いて以来、歴代の指導者と同様に、繰り返し人民解放軍に対して「党の軍に対する絶対的な指導」を守るよう繰り返し確認してきた。

 これを制度的に保障するために、やはり歴代の指導者と同様に、習近平は中国共産党のトップである中国共産党中央委員会総書記であり、国家のトップである国家主席であり、中国共産党の軍事に関わる意思決定のトップである中国共産党中央軍事委員会主席であり、国家の軍事に関わる意思決定のトップである国家中央軍事委員会主席を兼ねている。

 実は、中国共産党総書記はこれまで、その就任直後から、国家、そして軍の三権を一度に掌握してきたわけではない。
 現代中国政治において政治指導者たちは、権力を継承するとき、軍に関する権力の継承については、極めて慎重におこなってきた。

 天安門事件の責任を負って失脚した趙紫陽の後任として中国共産党総書記に就いた江沢民は、中国共産党中央軍事委員会主席の地位を、総書記就任から五カ月経ってから鄧小平から継いだ。
 江沢民の後継である胡錦濤は2002年11月に総書記に就任したが、中央軍事委員会主席となったのは2年後のことであった。

 中国共産党は、江沢民から胡錦濤への権力継承を、中国共産党の歴史のなかで初めて平和裡に実現したと喧伝した。
 しかし党の権力の継承の時期と軍に関するその時期にズレがあるように、江から胡への権力の継承は不自然なものであった。
 そして習近平の中国になって、ようやく中国共産党と国家と軍の権力の継承がスムーズに実現したといっていいだろう。

◆習近平による統治の安定度を知る手掛かり

 胡錦濤から習近平への権力の継承は、党も国家も軍も、すべて同じタイミングで実現した。
 そうであるとはいえ、やはり党と軍の関係は、中国政治におけるホットイシューだ。
 習近平政権のゆくえ、中国共産党による統治の安定性を評価するときには、習近平の軍に対する掌握の程度が重要な指標の一つになる。

 しかしこの「掌握の程度」を可視化し、客観化する指標はない。
 できることは、習近平が軍を掌握するために、どの様な取り組みをおこなっているのかを説明するだけである。
 今回のコラムも、そうした試みの一つである。

 習近平政権下の大規模な軍事制度改革の青写真が明らかになったのは先月のことだ。
 11月24日から26日まで開催された中央軍事委員会改革工作会議において決定され、発表されたのである。
 今年の9月3日に北京で開催された抗日戦争勝利・世界反ファシズム戦争70周年記念大会で習近平国家主席が提起した30万人の人民解放軍の定員削減も含む軍事制度改革だ。

 なぜ人民解放軍の人員を削減するのか。
 この演説のなかで習近平は、その理由を、
 「祖国の安全と人民の平和的生活を守る神聖な責務を忠実に履行し、世界の平和を守る神聖な使命を忠実に実行」
するためと述べていた。
 もちろん、そうした説明を額面通り受け止める人はいないだろう。

 演説のなかで習近平は、中国は国際社会とともに
 「国連憲章の目的と原則を中心とする国際秩序および国際体系を共に守る」
ことを確認した。
 同時に、習近平は「協力・ウィンウィンを中心とする新型国際関係を前向きに築き、世界の平和と発展の崇高な事業を共に推し進めるべき」と考えていることを明らかにした。

◆米国との「新型国際関係」とは別の国際秩序も追求

 この発言は多くの懸念を喚起した。
 「新型国際関係」とはなにか。
 国連憲章に則った国際秩序、すなわち既存の国際秩序と「新型国際関係」とはどの様な関係になるのか。
 なによりも、この演説の後におこなわれた軍事パレードで公開された新型の兵器が、事実上、既存の国際秩序の安定のために国際公共財を提供している米国を意識したものばかりであったことは、米中の対立の可能性を想起させた。

 もちろん習近平の中国は、米国との間に「新型大国関係」を構築してゆくことを確認しているように、深刻な対立に陥りかねない問題については米国と対話する姿勢を堅持している。
 米中は、引き続き協調を模索し、持続させるだろう。
 しかし中国は、自らの平和と安定、繁栄を持続するため、自らにとって有利な秩序構築のための強制力を強めてゆくことも怠っていない。

 9月の軍事パレードは、そうした習近平の中国の決意を示すものであった。
 この文脈から、私たちは、人民解放軍の人員削減の狙いを、軍の精鋭化を目的としたものと理解する。

 先月明らかになった軍事制度改革が、そうした強制力の強化の一環でもあることは間違いない。
 しかし人民解放軍は、中国の国際秩序の形成能力の強化、あるいは対外行動を保障する力であるのと同時に、「政治権力は銃口から生まれる」という意味での対内的な「力(パワー)でもある。

 「習近平の軍事制度改革は何を狙っているのか」、
という問いに答えるのだとすれば、そうした
★.対内的な「力」、中国共産党、要するに習近平と軍との関係の再構築を目指したもの
だという視点が重要だ。

 この軍事制度改革には、大きく分けて四つのポイントがある。
★.一つには、軍に対する最高指導権と作戦指揮権を中国共産党の中央軍事委員会に集中させ、
 陸軍主体の指導体制と指揮体制を見直して軍種別の指導体制を構築し、
 軍管区制(軍区制)を改めて戦略区制とすることで統合的な作戦指揮体制を造り上げることを目指すことである。

★.いま一つには、法にもとづく軍隊の厳格な統治を目的とした体制の構築である。
 軍内に司法機関等(軍紀律検査委員会、政法委員会)を設置し、中央による軍内紀律を徹底するための制度化である。

★.三つめにはくるのが、先にも触れた30万人の人員の削減であり、
 軍の数的規模を削減し、質の向上(プロフェッショナル化)を目指すものである。

★.第四は軍隊による「有償サービス」の提供の停止である。
 「有償サービス」とは、軍所属の病院への一般市民の患者の受け入れ、歌唱や舞踊、演劇などの文芸、啓発、宣伝活動を担う組織(文芸工作団)や軍施設の対外的な貸し出し、また退役した軍人に対する福利厚生の提供などである。
 これらを禁止するというのである。
 その狙いは、軍が「有償サービス」をつうじて社会(企業)との間に緊密な関係ができあがったことによって生じた腐敗汚職の根絶を目指したものといえる。

◆人民解放軍の特別な政治的地位は失われる

 筆者は、この四つのポイントのうち、
 第四番目の「有償サービス」の提供の停止は
 習近平の軍事制度改革が持つ意義のなかで、また習近平と軍の関係を考える上で極めて重要な意味をもつものだと考える。
 「有償サービス」提供の停止にともない、軍付属の病院は軍の系統から離れ、立地する地方政府の所管となるだろう。
 文工団の廃止、退役軍人に対する福利厚生サービスの見直しによって、削減された人員の再雇用や、退役後の生活をどの様に保障するのかといった問題が生じる。
 いずれも軍という組織にとって極めて重大な問題だ。

 これらの問題を克服するために、軍は、様々な国家機関と「対話」をしなければならなくなる。
 軍籍を離れる人員の再雇用先を探し、退役した人員の生活を保障するための予算を獲ってくるのだ。

 これまで軍は、軍内の様々な資源を活用することで、あるいは自らが対外的なサービスを提供することをつうじて、これらの問題を自らの力だけで解決することができた。
 しかし、今後は、これらの問題を克服するために、行政機関との交渉や議会での要求の表明など、国家機関のなかの一つの機関として「政治」をしなければならない。
 いま中国の地方では、軍の「議会対策」の活動が活発である。
 こうして人民解放軍は中国政治における特別な政治的地位を失い、いくつかある国家機関の中の一つになるのだろう。

 これまで、中国政治において人民解放軍が担ってきた役割は、戦闘部隊としての国防の役割だけではない。
 大衆に中国共産党の政策やイデオロギーを宣伝し、啓発する役割をはじめ、いろいろな政治的な経済的な、そして社会的な役割を担ってきた。
 それが人民解放軍のアイデンティティーであったし、その政治的な地位の高さの来源であった。
 それが切り崩されるのである。

 習近平は、こうしたかたちで、自らの体制の持続に必要な強制力としての軍を、掌握しようとしているのである。
 もちろん軍の政治的機能を奪おうとするこうした試みは、様々な抵抗を受けるだろう。
 軍事制度改革を発表した中央軍事委員会改革工作会議は、議論が紛糾し、会期が予定よりも延びたという報道もある。

 中華民族の偉大な復興を目指す積極的な中国の対外行動の裏側で、習近平と軍との間の駆け引きは続いてゆく。



サーチナニュース 2015-12-13 17:33
http://news.searchina.net/id/1596892?page=1

中国軍幹部、腐敗で47人が失脚 うち5人は中将以上

 中国メディアの法制晩報によると、中国軍の検察機関は10日、同軍総装備部通用装備保障部の李明泉元部長が、違法犯罪問題で事件として取り調べを受けていることを明らかにした。
 2012年秋に習近平政権が発足して以来、腐敗が理由で失脚した中国軍幹部として47人目。
 失脚した幹部で中将以上の階級だったのは、少なくとも5人という。

 解放軍の「ヘッドクオーター」と言える総参謀部、総後勤部、総政治部、総装備部のうち総参謀部では1人、総後勤部部では3人が失脚した。
 総装備部では上記李明元部長が失脚した。

 中国陸軍の実戦配備部隊といえる「七大軍区」では、24人が失脚した。
 最も多いのは広州軍区で6人。
 北京軍区、成都軍区、蘭州軍区ではそれぞれ4人、
 南京軍区と瀋陽軍区ではそれぞれ3人、
 済南軍区では1人
が失脚した。

 戦略核ミサイル部隊である第二砲兵部隊関係者も、少なくとも3人が失脚した。
 海軍では北海艦隊の副参謀長が失脚した。

 さらに、第二砲兵航程大学、国防大学、軍事科学院など、研究・教育機関の幹部も7人が失脚した。

 失脚した軍幹部のうち、階級が最も高かったのが、前胡錦濤政権下で中央軍事委員会の副主席を務めた郭伯雄、徐才厚の両名。法制晩報によると、中将経験者がその他に少なくとも3人いるという。


JB Press 2015.12.28(月) 阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45643

ゴールは5年後、
中国軍がいよいよ大規模改革に着手
「勝利をおさめる軍隊」を目指すも軍内の抵抗は必至

 去る11月24日から26日にかけて、北京で「中央軍事委員会 改革工作会議」が開催され、大規模な軍事改革が提起された。

 習近平による軍事改革は、2013年11月の「党18期3中全会」で打ち上げた“改革の全面深化”の中で予告されていた。
 それから2年が経ち、習近平は今年の抗日戦争勝利記念日(9月3日)の式典でのスピーチで、前触れなく「30万人兵員削減」を打ち出した。
 10月の「党第18期5中全会」が終われば軍事改革が動き出すと言われていたが少し遅れ、11月末になってようやく軍事改革の開始が告げられたというわけだ。

■軍事改革の3つのポイント

 中央軍軍事委員会 改革工作会議における習近平の演説の内容は、以下の3点に要約できる。

(1):軍隊の最高指導権・指揮権を中国共産党中央と中央軍事委員会に集中する。
(2):4総部の見直しと陸軍指導機関の編制によって、陸海空と第二砲兵の軍種別指導機関を健全化する。
  (注:人民解放軍の現在の最高指導機関が「中央軍事委員会」。その下に「総参謀部」「総政治部」「総後勤部」「総装備部」の4総部がある)
(3):現在の「軍区」を作戦に特化した「戦区」に再編するとともに、「統合作戦指揮機関」を編制する。

 統合作戦指揮機関には、作戦指揮の機能を集中させることになる。
 一方で、それ以外の指導管理系統を別の系統に区分するとしている。

 すなわち、
「作戦指揮:中央軍事委員会 → 戦区 → 部隊」
「指導管理:中央軍事委員会 → 軍種 → 部隊」
という2系統に分けることになる。
 「指導管理」系統には、従来の総政治部、総後勤部、総装備部の系統を一本化する
ことになる。

 これらに加え、軍内の司法制度改革として中央軍事委に「紀律検査委員会」「政法委員会」を置く。
 また、経理上の不正防止のため、同じく中央軍事委に「審計署」(会計監査)を設ける。
 さらに、軍の病院など医療期間や、歌謡・演芸などの部門(文芸工作)など民間への有償サービスも廃止することとなった。
 医療は別にして、これらは明らかに軍内の腐敗対策の一環といえる。
 軍の歌舞団は、軍や党の高級幹部への「愛人」の供給源である
とさえ言われていた。

■4総部の見直しに注目

 新たに「戦区」を誕生させるのは、これまでの7大軍区を4大戦区に集約するという単純な話ではない
 (注:人民解放軍には「瀋陽軍区」「済南軍区」「北京軍区」など7つの統合部隊がある)。

 これまでの軍区制は、いわば国に例えれば「連邦制」のようなもので、軍区ごとに軍令部門も軍政部門もあり自己完結する単位組織であった。
 一方、戦区はその名称通り、作戦を遂行するための地域枠組みを示しているだけで、軍区が持っていた多くの機能は付与されていない。

 ここで注目しなければならないのが、4総部の見直しとして、総参謀部が中心となって「統合作戦指揮機関」が設けられることである。
 統合作戦指揮機関は、戦区全体を統括するものと、後述する東西南北に中部を加えた5つの戦区別のものが作られる。

 なお、残りの3つの総部(総政治部、総後勤部、総装備部)は名称を変えて国防部に統合されるとみられる。
★.中央軍事委に指揮権限を集中させる一方で、
 これまで対外的な軍事外交を担ってきた国防部に多様な権限が移植されることになる。

人民解放軍は中国共産党の軍隊だが、
 国防部は政府の機関である。
 その役割が大きくなることは、共産党が忌み嫌う「国軍化」を促進することになりかねない。
 それを予防するために、国防部を党(実際は中央軍事委)と政府の共同管理下に置くことになるのかもしれない。
 いずれにせよ、対外的な軍の「顔」にすぎなかった国防部長の重要性は高まることになるだろう。

■陸軍中心主義が終わる

 統合作戦指揮機関についても補足すれば、これが新設されるということは、言い換えればこれまで人民解放軍においては、多軍種の戦力を統合して作戦を遂行する機関がなかったということになる。
 ちなみに、これは米国の統合参謀本部(JCS)をモデルにしたと言われている。

 その関連で言えば、今回の軍事改革の大きなポイントは、陸軍中心主義を廃し、陸軍も、海軍や空軍、さらに第二砲兵部隊と同列に扱い、軍種別に総部を設けることにある。

 これまで、4総部のトップと国防部長は陸軍出身者で独占してきたが、その時代が終焉することになる。
 2017年末までに完了させるという30万人の兵員削減も、軍の学校の統廃合や歌舞団の整理など非戦闘要員の削減もさることながら、半分以上は陸軍からの削減になると見られ、軍種間の兵員規模のバランスが図られることになる。

 ただし軍事改革はまだ緒についたばかりで、今後の展開に注目しておく必要がある。
 高いレベルの機構改革から手を付けると言われているが、例えば戦区はこれまで東西南北の4つと言われていたのが、最近では首都防衛を兼ねて北京に「中部戦区」を設け、計5つの戦区になると言われている。
 今後もさまざまな計画変更がなされていくことになろう。

■軍内の腐敗撲滅と同時進行

 中国にとって、というよりも、「戦える軍隊、戦って勝利する軍隊」の号令をかけてきた習近平にとって、この軍事改革は中人民解放軍を近代化された軍隊に脱皮させるために欠かせない措置であった。
 だが、習近平政権は、胡錦濤時代の中央軍事委副主席を務め、事実上、軍を牛耳ってきた徐才厚、郭伯雄という2人の実力者を腐敗取り締まりの過程で粛清してしまった。
 そのため、軍事改革そのものが徐才厚、郭伯雄に繋がる軍人をパージすることと連動してしまったのは不幸なことと言えよう。

 だが、これはたまたまそうなってしまったのかといえば、必ずしもそうとは言えない現実がある。
 軍内部の腐敗取り締まりの契機になった事件として誰もが想起するのが、谷俊山のケースである。
 総後勤部副部長だった谷俊山中将が3000億円を超える「軍史上最大の腐敗」で摘発され立件されたのは、習近平政権下の2014年3月末であった。
 しかし、悪事が暴かれ失脚したのは2012年だった。
 つまり、2年以上が調査に費やされたのである。
 立件にそれだけ時間がかかったのは、それだけ腐敗の規模が大きかったこともあるだろうが、内部に捜査を阻む力が働いたからということもある。
 そこにも軍内部の腐敗が広く深く浸透していたことがうかがえる。

 腐敗した軍がまともな軍隊であるはずがない。
 習近平の軍事改革は、軍内の腐敗撲滅と無関係でないのは明らかだ。
 結局、軍事改革と軍内の腐敗撲滅は同時進行で行わざるを得ず、徐才厚、郭伯雄に連なる腐敗分子排除と連動することで、権力闘争的に軍事改革が進められることになってしまった。

■軍人たちの抵抗は避けられない

 指揮命令の機構改革や、30万人の兵員削減は、まさに習近平がかねてより主張している「戦って勝利をおさめる軍隊」を作るためである。
 しかし、こうした機構の近代化と精鋭軍隊の構築が“副作用”を伴うことは間違いない。
 副作用の最たるものは、現在の軍の体制によって利益を確保してきた軍人たちの抵抗であろう。

 習近平の反腐敗政策によって、軍を牛耳ってきた徐才厚、郭伯雄が排除されたが、彼らに近い軍人が軍の中枢にはまだ残っている。
 例えば、中央軍事委副主席の范長龍は瀋陽軍区の第16集団軍で徐才厚の下にいた。
 彼の副主席就任は、徐才厚の推挙によるとされている。
 また、国防部長の常万全は、郭伯雄と同じ第47集団軍出身であり、総参謀長の房峰輝も蘭州軍区に長く、郭伯雄とは同郷である。
 彼の昇進は郭伯雄の「引き」があったと言われる。
 彼らが次なる軍の粛清の対象となるかどうかは分からないが、習近平の軍事改革に積極的に協力するとは思えない。

■今後5年、中国はおとなしくなる?

 最後に、わが国への影響について簡単に述べておこう。
 今回の軍の改革は5年がかりの長期プロジェクトであり、すでに述べたように大胆な機構改革を伴う。

★.2020年を完成年度に設定しているということは、
 楽観のそしりを受けるかもしれないが、あえて言えば
 今後5年間、中国は戦争をしたくないし、
 戦争になりかねない緊張も望まないだろう。

 もちろん、どの国の軍隊も戦争をしたがっているわけではないが、ここで言うのは、
 軍の改革のさなかに戦争をしたくはないということだ。

 戦争になれば、改革が未完成であるがゆえに従来の軍の体制で戦うことになる。
 うまく機能するかどうか分からない新しい軍の体制で戦うのはリスクが高い。
 つまり、戦争に発展しかねない緊張が起これば、改革のプロセスは止めざるを得なくなる。

 そう考えれば、尖閣海域にせよ南シナ海にせよ、中国のほうから緊張をエスカレートさせるような行動を取るのは考えにくい。
 もちろん、新しい指揮命令系統が機能するか確認するための演習は、今後回数を増やしていくだろう。
 それに過剰反応しないことが、わが国を含む周辺諸国に求められよう。

 言い換えれば、今後5年、中国が軍事的冒険主義に出づらいとすれば、その間にわが国の防衛体制の整備、米国との同盟態勢の強化、東南アジア諸国との連携を促進させるチャンスとなることを忘れるべきではないだろう。







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