2015年10月31日土曜日

南シナ海波高し(9):南シナ海への米艦船派遣、EUが支持表明、国際法の原則に基づく海洋秩序を重視

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ロイター 2015年 10月 31日 03:32 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/10/30/eu-southchinasea-us-idJPKCN0SO2GR20151030

南シナ海への米艦船派遣、EUが支持表明

[ブリュッセル 30日 ロイター] -
 南シナ海の中国「領海」内に、米国が艦船を派遣した件で、欧州連合(EU)高官は30日、米国の行動を支持する立場を表明した。

 来週にアジア欧州会議(ASEM)の外相会合を控え、EUと中国の協議に影響が及ぶ可能性もある。

 高官は記者会見で「米国は航行の自由を行使している」と指摘。
 領有権争いが起きている海域で、人工島を造成する中国側の計画に、EUは懸念を持つと説明した。

 また、EUの外交担当報道官は声明で
 「EUが領有権問題で特定の立場を取ることはないが、
★.特に国連海洋法条約に反映される、国際法の原則に基づく海洋秩序を重視している」
と述べた。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年10月30日(Fri) 
 辰巳由紀 (スティムソン・センター主任研究員)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5553

米国の「航行の自由作戦」
日本の対応、日米同盟のリトマス試験に?

 10月26日、米海軍駆逐艦が南シナ海のスプラットリー諸島地域で、中国が建築を進めている人口島から12カイリ以内の海域を航行した。
 中国政府はこれを「不法行為だ」と批判しているが、米国は、「国際法が許す限り、世界中のいつでもどこでも、飛行し、航行し、作戦活動を行う」(アシュトン・カーター国防長官、2015年5月28日シャングリラ会議での演説にて)という従来の立場を崩しておらず、両国の立場は平行線をたどっている。

■南シナ海での米国の対応をめぐる米国内の議論は

 この米海軍駆逐艦の航行は、目新しいものではない。
 今回実施された「航行の自由プログラム(Freedom of Navigation Program, FON)」は、
 米国務省のホームページによると、1979年から実施されており、
 その目的は
 「米国は国際社会が持つ公海上の航行および飛行の自由に対する権利を抑制するような一方的行為を受け入れない」
という意思を表明すること
にある。

 南シナ海で中国が建造を続ける人工島から12カイリ以内の海域を航行することで米国は、中国のこの地域での活動を黙認しているわけではないというメッセージを発するべきだ、という議論は、この数カ月、米国内で活発になってきた。
 9月18日に連邦議会の上院軍事委員会で「アジア太平洋の海洋安全保障」をテーマに公聴会が行われた際に、冒頭でジョン・マケイン上院軍事委員長が行った
 「(海洋の自由という原則に対する)米国のコミットメントを最も明確に示すのは、
 南シナ海で中国が領有権を主張するエリアから12カイリ以内を航行して見せること」
という発言は、アメリカが今後もアジア太平洋で指導力を発揮し続けるべきだと考える人の多くの気持ちを代弁したものだ。

 特に、共和党議員や保守系論客の間では本稿冒頭で引用した
 「(米国は)「国際法が許す限り、世界中のいつでもどこでも、飛行し、航行し、作戦活動を行う」
という発言をカーター国防長官が今年5月に行ってから、
★.航行の自由作戦がこの海域で行われるまで実に5カ月を有したことに対する
 オバマ政権の対応の遅さを批判する声
がこの1、2カ月強くなってきている。

 前述の9月18日の公聴会では、公聴会が開催された時点で、米海軍が、中国が領有権を主張する海域、特に人工島から12カイリ以内での航行を2012年以降行っていなかったことに対して、マケイン上院議員が「12カイリ以内に入らなければ、実質的に中国の領有権を認めていることと同じではないか」と主張し、公証人として出席したデイビッド・シアー国防次官補やハリー・ハリス米太平洋軍司令官と厳しいやり取りを交わした。

 このように南シナ海における中国の行動により強い姿勢で臨むことを米政府に求める国内の雰囲気は、
 現在の米国の対中認識が厳しさを増していることの証左
でもある。
 そもそも、上院軍事委員会のアジア太平洋小委員会ではなく、
 本委員会でアジア太平洋の海洋安全保障をテーマにした公聴会が開催されること自体、めったにあることではない。

 9月下旬、習近平国家主席の訪米が国賓待遇だったことについても、ドナルド・トランプ氏、ジェブ・ブッシュ元知事やマルコ・ルビオ上院議員をはじめとする複数の共和党大統領候補から強い批判が出た。
 また、10月26日の米海軍駆逐艦の人工島12カイリ以内の海域の航行についても、CNNをはじめとする主要メディアでかなり大きく取り上げられているが、これも、2016年大統領選挙や中東情勢がメディアの関心の大勢を占めている現在では珍しい現象だ。
 米国内で
 「厳しい対中認識が定着しつつある」
ことを示唆するもの
だろう。

■今後の焦点は何か

 それでは、南シナ海の人工島をめぐる米中の対立についてこれから見ていくとき、注目すべき点はどこにあるのだろうか。

★.第一に、米国の今後の動きである。
 国防省はすでに、今回の航行がこの地域での航行としては最後のものにならない旨を明らかにしている。
 今後は、中国が領有権を主張する他の地域や、フィリピンやベトナムなど、中国以外の国が領有権を主張する地域でも、今回のように航行の自由作戦の一環として航行することになるだろう。
 これがどのくらいの頻度で行われるか、行われる場合、どのようなアセットを用いて行うのか、などに注目すべきだろう。

★.第二に、中国の反応である。
 今回の航行については、習近平主席の訪米の前後の時期から、ジョン・リチャードソン海軍作戦部長をはじめとする国防省・米軍の幹部が様々なところで「南シナ海での航行の自由作戦実施の可能性」に時間をかけて言及を続けた。
 これは、そうすることで実際に航行したときの対応について考える時間を中国政府に与え、現場の部隊の過剰反応を防いだ、という見方もある。

 しかし、今後、米軍が南シナ海における航行の自由作戦を継続する場合、中国が例えば、現在、抑えている7カ所以外にも、さらに建造物を構築する場所を見つける、あるいは、まだ終わっていない建築活動のペースを上げる、などの対抗措置に出てくることは十分に考えられる。
 また、南シナ海での米軍の行動に対抗して、例えば、東シナ海や、より米国本土に近いアラスカ付近に再び現れるといった行動に出てくるかもしれない。

 いずれの場合も、米軍と人民解放軍の正面衝突には発生しないまでも、緊張が高まる可能性は十分にある。

 またに、米国が今後、航行の自由作戦に、地域の同盟国やパートナー国への参加を求める可能性が出てくることも当然、考えられる。
 米海軍だけが航行の自由作戦をしていると、中国との緊張が高まる一方だ。
 むしろ、多国籍の有志でこの活動を行い、中国の行動に不満を持つ国がいかに多いことを示すことで、地域での中国の外交的孤立化を目指す方が現時点での政策としては合理的だ。

 米軍との共同行動、同盟国同士やパートナー国同士での行動など、組み合わせはいろいろ考えられるが、今回の米国の行動に支持を表明した国を中心に、そのような打診が来る可能性は高いだろう(今、すでに内々に打診されている可能性もあるだろう)。

 日本はすでにオーストラリアやフィリピンと共に、「米国の行動を支持する」という立場を政府として表明している。
 明確な発言を避けている韓国と比較すれば、米国の目には頼もしく映る。
 しかも、米国では、先般の海上自衛隊の観艦式で安倍総理が、戦後、日本の総理としては初めて、米空母に降り立ったことや、観閲式の様子などが報じられたばかり。

 米政府の幹部クラスでは、4月の総理の議会での演説、直前の日米防衛協力の指針の改定、安全保障法制の制定などを通じて日本がこれまで一貫して打ち出してきている「積極的平和主義」「国際秩序の維持のために努力する国」によって、日本も南シナ海での「航行の自由作戦」のような活動に、躊躇なく参加できるようになったというイメージを持っている人が圧倒的に多いだろう。
 米海軍が海上自衛隊と南シナ海で共同演習を行うことが最近、報じられたばかりだが、このような対応を取ればとるほど、米側の期待値は上がっていく。

 しかし、現時点では、実際に共同パトロールを米国から求められた場合にすぐに対応できるかは、南シナ海情勢が今般成立した安保法制で定められた「重要影響事態」や「存立危機事態」に該当するという認定を国会がするかどうかにかかっている部分が出てくるため、どういう形でなら自衛隊が参加できるのかは不透明だ。
 しかし、日本のこの事情を実際に理解している人は米政府の中でも少ない。

 「支援の表明は口だけだったのか」と言われるようなことがないよう、日本は、これまで以上に、東南アジア諸国の海上保安庁や海軍の能力構築など、自衛隊や海上保安庁による訓練の提供など、今すでにできることにより一層、力を入れるべきだろう。
 少なくとも、南シナ海情勢における対応が、日本のアジア太平洋地域の安全保障でどのような役割を果たす覚悟があるのかを問うリトマス試験になってしまうような事態だけは避けなければならない。



ダイヤモンドオンライン 2015年11月2日 田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/80874

南シナ海の米中対立は「出来レース」だ!

 横須賀を母港としている米海軍のイージス対空ミサイル搭載駆逐艦「ラッセン」(9425t)は10月26日夜、南シナ海の南沙諸島で中国が埋め立て、滑走路を造っているスビ礁付近の12海里(22km)以内を航行した。
   この行動は米国がこれらの人工島を中国領と認めず、その周囲12海里は中国領海ではないことを示すためだ。

 米海軍が今後あまりに頻繁にこうした行動を取り、もし中国側と武力衝突になれば、がんじがらめの相互依存が成立している米中の経済関係は断絶し、双方の経済は多分麻痺する。
 昨年の
★.日本の輸出の23.8%は中国向け(香港を含む)、
★.18.7%は米国向け
だから、日本にとって2大市場の混乱は致命的な打撃だ。
 しかもそれは欧州、アジア地域、そして全世界に波及するだろう。

 だが、実際には武力衝突に発展する公算は低い。
 中国は米国がこのような行動に出ても武力行使をしないことを事前に示唆しており、暗黙の了解があった、と考えられるのだ。

■「領土問題でも武力行使を軽々しく言わない」
 と中国上将が表明

 北京西部の紅葉の名所、香山で10月16日から18日にかけて開かれたアジア・太平洋地域の安全保障協力を目指す討論会「第6回香山フォーラム」には、南沙諸島問題で中国と対立するベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイや、インド、インドネシア、シンガポールなど16ヵ国の国防大臣が出席し、米、英、仏、独なども公式代表を参加させた。

 昨年招待されたが断った日本も今年は防衛研究所の大西裕文副所長を派遣した。
 参加国は計49ヵ国と5国際機関、出席者は約500人に達した。
  このフォーラムが2006年に始まった当時は「中国軍事科学学会」など、研究機関の主催で、参加者も研究者がほとんどだったが、いまでは中国政府の「軍事科学院」が後援する半官半民の国際会議になっている。

 今回基調講演を行った中国の中央軍事委員会副主席(委員会の主席は習近平氏)範長龍・陸軍上将はその中で
 「たとえ領土主権に関る問題であっても、中国は決して武力行使を軽言(軽々しく言う)しない」
と述べた。
 こうした発言は中国国内のタカ派の反発も招きかねないから範長龍上将の一存で言えることではなく、習近平主席の意を受けた発言だろう。

  習主席は9月25日、ワシントンでオバマ米大統領と会談し、南シナ海での埋め立て問題は主要議題の一つだった。
 オバマ大統領は、それまで米海軍やタカ派議員達が主張していた「12海里以内での艦艇、航空機の航行」に対し、中国との関係の悪化を案じて慎重だったが、この会談後その実施を許可した。
 おそらく習近平主席から、間接的表現ではあっても、中国は武力行使はしない、との感触を得たと考えられる。

 現に「ラッセン」が人工島周辺を航行した際、中国海軍は「中国版イージス艦」とも言われるミサイル駆逐艦「蘭州」(7112t)と、フリゲート艦「台州」(1729t)を出したが、相当距離を置いて後方から「追跡、警告をした」だけで並走はせず「ラッセン」の航行を妨害しなかった。

 一方米国も「中国敵視」と言われないよう「ベトナム、フィリピンなどが領有を主張している岩礁から12海里以内を航行した」とも発表して、公平さを示そうとした。
 また米国務省のカービー報道官は27日の記者会見で米中関係への影響を問われ「世界のいかなる国との関係にも悪影響を与える理由はない」と答えた。
 これも事前に中国と暗黙の了解があったことをうかがわせる。

 中国が埋め立て、飛行場建設を行っているスビ礁、ミスチーフ礁は満潮時には水面下に没する「干出岩」だから海底の一部とみなされる。
 その上に構造物を造ったり、周囲を埋め立てても、海底油田の櫓と同様の「人工物」で領土ではなく、その周囲は領海にはならない。

★.沖ノ鳥島のように満潮時にも一部がなんとか水面上に出ている場合には、それを補強して保存すれば周囲は領海になりうるが、スビ礁などはそうではない。

★.南沙諸島には島と言えそうなものは12あるが、
 ベトナム、フィリピンが5島ずつ、マレーシア、台湾が1島ずつを抑え、それぞれ飛行場一ヵ所を造った。
 出遅れた中国は他国が目を向けなかった岩礁しか確保できず、飛行場を造るには大規模な埋め立てをするしかなかったのだ。

 中国の弾道ミサイル原潜は、かつては対立したソ連に近い黄海の最奥部の遼東湾を基地にしていたが、遼東湾の水深は25m程度、黄海北部も浅いから、船底から司令塔の上端まで20m余ある大型の原潜は延々と浮上航走しないと出動できず、丸見えになる。
 このため中国海軍は深い南シナ海に面した海南島の三亜付近に潜水艦基地を造り、潜水艦が隠れるトンネルも掘っている。

米海軍は中国海軍との交流にも熱心で、中国との戦争が迫っているとは考えていないが、
 将来の万が一の事態に備え、
 原潜や哨戒機で中国潜水艦を追尾し、
 プロペラ音や原子力機関のタービン音、減速ギア音、ポンプ類の音など「音紋」を採取して貯え、識別の資料としたり、
 季節、時間ごとの水温、潮流など、水中の音波伝播状況のデータを収集して潜水艦探知に役立てようとしている。

 中国海軍は当然それを嫌がり、哨戒機や海洋調査船の行動を妨害しようとする。
 2001年4月には米海軍の電子偵察機EP3が中国海軍のF8IIと海南島沖で空中衝突し、戦闘機が墜落、EP3は海南島の中国軍航空基地に不時着する事故も起きた。

■米国が唱える「航海の自由」は実は「情報収集の自由」だ

 米国は今回の「ラッセン」等の行動を「航海の自由の確保」のため、と言うが、領海を外国商船が通過したり、漁船が操業せずに通る「無害通航」は自由で、中国もそれを妨げようとはしていない。
 世界最大の貿易国、漁業国、造船国である中国にとって世界的な「航海の自由」の確保はまさに「中核的利益」だろう。
 軍艦にも無害通航権はあるが、沿岸国の防衛、安全を害するような情報収集は許されない。
 米国などの商船が南シナ海を通ることには何の支障もないことを考えれば、米国の言う「航海の自由」はもっぱら「情報収集の自由」を意味する。

 公海とその上空ならば哨戒・情報活動は自由に行えるが、中国が南沙諸島海域に人工島を築き、それを領土だと主張して、その周辺での米軍艦や哨戒機の行動を規制すると米海軍の情報収集が妨げられる。
 国連海洋法条約でも人工島は領土とは認められないのは明らかだから、米海軍としてはその周辺海域を航行し、情報収集を行う実績を作っておこうとする。

 中国も人工島自体を「領土」とし、領海の根拠にするのは難しいことを承知しているから、南シナ海のほぼ全域を囲む9本の断続的な線、牛の舌のような形の「九段線」を示し、「それが歴史的な中国領海だ」と主張している。
 だが、その明確な根拠は示していない。

 中国は宋の時代(960~1279年)に磁石が発明されるなど、造船、航海術が著しく発達して巨大海洋国となり、南シナ海を多数の中国の大型帆船が往来し南海貿易が盛えたが、中国がその海域を「領海」として支配していた訳ではない。
 仮にその当時南シナ海で支配的地位にあったとしても、故に今日も中国の領海だ、との論は「ローマ帝国が地中海を支配していたから、今日も地中海はイタリアの領海だ」と主張するような無理な説だろう。

 ただ、「九段線」は中華人民共和国が唱え出したのではなく、蒋介石の中華民国政府が1947年に南シナ海に11本の線を引いた地図を発行し、それが中国の権威が及ぶ範囲、としたのが始まり、とされる。
 1953年に中国はそのうち2本を削除した地図を発行し「九段線」となった。

 蒋介石が残した負の遺産とも言える「九段線」を中国が撤回すれば良いのだが、一度「自国領だ」と主張すると、その根拠が不明確であり、主張を続けるのは対外政策上不得策であっても、それを取り下げるのはどの国でも国内で非難の的になるから、難しい。

 南沙諸島の岩礁の大規模な埋め立て、飛行場建設は相当な準備期間を要するから、おそらく習近平氏が2013年3月に国家主席に就任する以前に計画が決定していたと考えられる。
 前任の胡錦濤主席といえども、軍が「自国領の防衛を固めるため」と言えば、それを抑えにくかったのではないだろうか。

 中国としてはこの問題で米国との関係を悪化させたくはない一方、中国が主張してきた領有権を否定する米国の行動を座視していれば国内の“愛国者”達が騒ぎ立て、それに乗じて習氏の失脚を狙う者が出かねない。
 だから一応米国に抗議し、軍艦2隻で「ラッセン」を追尾させ「追跡、警告を行った」と発表し、実際には妨害はしない、という手緩い対応を取るしかなかったのだろう。

 また中国は
 「建造中の飛行場に軍用機は常駐させない。
 海難救助の拠点にもなる」
と表明して米国、近隣諸国の非難をかわそうと努めている。
 幸い、中国では今回の米艦の行動に対して反米感情が高まった様子はなく、デモなども起きていない。

■経済的に依存しあう米中は衝突をなんとか避けたい

★.尖閣諸島については2014年11月、日中首脳会談を前に、双方が「異なる見解を有している」ことを認め「不測の事態の発生を回避する」ことで合意した。
 両者は従来どおりの主張は続けるが、現状は変えず、衝突は避ける、という事実上の棚上げで当面はおさまった。
 南沙の岩礁問題でもこれに似た玉虫色の状況になる可能性が高いのではないか。

 以前にも本欄で述べたが、米国にとり中国は、

(1).米国債1兆2000億円ドル余を保有し、危機にある米国財政を支えている。

(2).3兆7000億ドル(ドイツのGDPに匹敵)の外貨準備の大半をウォール街で運用し、米国の金融、証券の最大の海外顧客

(3).米国製旅客機を毎年約150機輸入し、米国の航空・軍需産業の最大の海外顧客(今後20年間の中国の旅客機需要は6300機以上)

(4).GMの車が年間約200万台(中国全体では2300万台)売れ、中産階層が爆発的に増加する巨大市場で米企業2万社が進出

 などの要素から、中国への依存は決定的に大きい。

 中国にとっても米国は最大の輸出市場であり、最大の融資・投資先だから、米国との友好関係と米国経済の成功を願わざるをえない。

★.中国海軍の増強、海洋進出が喧伝されるが、中国の空母は1隻、その搭載戦闘機は約20機であるのに対し、米海軍は戦闘・攻撃機55機を搭載可能な原子力空母10隻(近く11隻に戻る)を保有し、搭載戦闘機数は550対20だし、技術の差は極めて大きい。

★.実用になる中国の原潜は5隻、米原潜は71隻で、中国の対潜水艦能力(探知技術など)は無きに等しい、などを考えれば、中国海軍が米海軍に対抗して、全世界に伸びた長大な海上通商路を守ることは将来も不可能に近い。

 中国は海外市場、輸入資源への依存度が高まれば高まる程、世界的制海権を握る米国との対立を避けざるをえない立場にある。

 また中国は今日の世界秩序、経済システムの第一の受益者であり、それを覆すことは経団連が体制転覆をはかるに等しく、世界の体制護持のために大局的には米国と協調せざるをない。

 もちろん日本にとっても、米中の武力衝突による経済関係の断絶、両国経済の破綻は致命的だ。
 反中国感情を抱く日本人の中には、米中が岩礁埋め立て問題で対立することを喜ぶ気配も感じられるが、それは大津波の襲来を期待する程の浅慮と言うしかない。



ロイター  2015年 11月 2日 16:20 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/11/02/analysis-south-china-sea-idJPKCN0SR0JO20151102?sp=true

焦点:南シナ海で高まる中国のプレゼンス、
米軍を「量」で凌駕

[香港 30日 ロイター] -
 米国は、海軍のミサイル駆逐艦を南シナ海で中国が造成した人工島付近に派遣したが、それは中国の艦隊が周囲で監視・追跡する中で行われた。

 米海軍は今後も長い間、アジアで技術的優位を維持すると思われるが、それに対し中国は数で勝負していると言えるかもしれない。
 南シナ海では、多くの中国の海軍艦艇や巡視船が定期的に配備されている。

 アジアや米国の海軍当局者は、中国が領有権を主張する、
 南シナ海の約90%が対象となる「九段線」の周縁部でさえ、中国船との遭遇が頻繁に起きていると語る。
 以前は、そのような遭遇は比較的まれだったという。

 米ミサイル駆逐艦「ラッセン」が26日に派遣され、南沙(英語名スプラトリー)諸島の渚碧(同スビ)礁から12カイリ内を航行したのと同じような「航行の自由」作戦を定期的に行うと米当局者らが明らかにしたのを受け、そのような遭遇は増える一方となるだろう。

 「彼ら(中国の海軍と巡視船)はどこにでもいる。
 そして、自分たちの存在を示したがっている。
 南シナ海にいたら、追跡されていると考えた方がいい」
と、アジアにいる米海軍将校は匿名で語った。

 実戦では米国の技術的優位が決定的となるだろうが、中国の数的優位は、とりわけ海上で対峙した場合は考慮に入れるべき事柄だと、安全保障の専門家らは指摘する。

 米艦ラッセンがスプラトリー諸島を航行中、中国の艦船は同艦を追跡していた。
 中国の艦船は距離を保ちながらラッセンを追跡したとはいえ、自国が領有を主張し、造成した7つの人工島から12カイリ内を米国が繰り返し航行すれば、同国の忍耐を試すことになると、専門家らはみている。

 中国の張業遂・筆頭外務次官は、米国のボーカス駐中国大使を呼び出し、米艦派遣は「極めて無責任」だと抗議した。
 一方、米当局者らは、国際法が許す限り、米国はどこでも飛行や航行を行うと繰り返し述べている。

 緊張が高まる中、両国の海軍は29日にテレビ会議を開催。
 米政府高官は、双方が対話の継続と「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」を順守する必要性で一致したと明らかにした。

 中国は人工島にすでに1本の滑走路を完成し、さらに2本を建設中。
 人工島は中国にとって、東南アジアやそれを超えた海域への海洋進出の足掛かりとなるだろう。
 スプラトリー諸島では、ベトナム、フィリピン、台湾、マレーシアも実効支配している。

■<地元の利>

 米国防総省が4月に発表した調査によると、
★.南シナ海に配備されている中国の艦隊は、同国が保有する3艦隊のうち最大となる「116隻」で構成
されている。

  同調査はまた、中国が500トン型以上の巡視船200隻以上を保有しており、その多くが1000トン型以上だとしている。
 同国の巡視船隊だけで、他のアジア諸国の合計数をしのぐという。

 一方、日本の横須賀を拠点とし、原子力空母ロナルド・レーガンが所属する
★.米海軍の第7艦隊は「55隻」で構成され、
西太平洋とインド洋の大半を管轄下に置く。

 「中国には地元の利がある」と、オーストラリアの元海軍将校で、ラジャラトナム国際研究院(シンガポール)のアドバイザーを務めるサム・ベイトマン氏は指摘。
 侵入者とみなされる相手と対峙する場合など
 「いくつかの状況では、質よりも量が重要となり得る」
と語った。
 ベイトマン氏や他の同地域の安全保障専門家らは、航行の自由を掲げて哨戒活動を行う米艦船は今後、それを阻止しようとする中国の艦船に包囲されることになる可能性を指摘する。

 中国国営メディアの報道によると、一部の中国人専門家は、中国が米艦船を阻止するための作戦を行うと警告している。

 行動基準によって、米国の艦船は攻撃の口火を切ったり、事態をエスカレートさせたりすることには消極的となり、撤退を余儀なくさせられる可能性があると、ベイトマン氏は述べた。

 米海軍はコメントを差し控えている。

 だが、メイバス米海軍長官は近年、艦船数増加を優先事項としており、多くの場で「量は質を兼ねる」と語っている。

■<プレゼンス拡大>

 艦隊の増強や巡視船への取り締まりの一本化などから、南シナ海における中国のプレゼンスが着実に拡大していると、同海域で活動する海軍将校らは口をそろえる。

 また、巡視船が同海域で従来は海軍が行ってきた哨戒活動の多くを担う一方、中国の探知能力が進歩したことで海軍も近くにいることが可能となったと将校らは指摘する。

 過去2年間の南シナ海の衛星画像を見た専門家と海軍将校らは、
★.中国の艦船は領有を争う複数の場所で半永久的なプレゼンスを維持している
との見方を示した。

 その中には、
 フィリピン沖の黄岩島(同スカボロー礁)や
 仁愛礁(同セカンド・トーマス礁)、
 西沙諸島(同パラセル諸島)からスプラトリー諸島の北部にかけて存在するいくつかの礁、
 マレーシアのサラワク沿岸沖にある南康暗沙(南ルコニア礁)
が含まれる。

 中国海軍はまた、マレーシアに近い曾母暗沙(同ジェームズ礁)付近でも哨戒活動を行っている。

 中国は2013年1月以降、ほぼ常にプレゼンスを維持できるように巡視船を巡回させていると、オーストラリア国防大学で南ルコニア礁での状況を研究するスコット・ベントレー氏は指摘。

 「中国は初めて、九段線全体を明確に主張するだけでなく、
 その域内の海域で領有権の主張を積極的に拡大しようとしている」
と同氏は語った。

(Greg Torode記者、翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)



TBS系(JNN) 11月4日(水)22時38分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20151104-00000065-jnn-pol

首相が米制服組トップと会談、
南シナ海での行動支持伝える



 安倍総理は、日本を訪れているアメリカのダンフォード統合参謀本部議長と会談し、アメリカ軍が南シナ海に艦船を派遣し、今後も作戦を継続する方針を示していることについて、支持する考えを伝えました。

 安倍総理は総理官邸で、アメリカ軍の制服組のトップで、今年10月に就任したダンフォード統合参謀本部議長と会談しました。

 南シナ海では先月、中国が領海と主張する人工島の12カイリ内をアメリカ海軍の駆逐艦が航行したことで対立が深まっていますが、安倍総理は、「アメリカの取り組みは国際法にのっとり、開かれた自由で平和な海を守るための国際社会の取り組みの先頭に立つもの」だとして、支持する考えを伝えました。

 また、安倍総理は、安全保障関連法が成立したことに関連し、「日米同盟の絆を強め、抑止力を高め、アジア太平洋地域の平和と安定をより確かなものにしていきたい」と述べたのに対し、ダンフォード氏は、「自衛隊とアメリカ軍の関係強化を含め、日米間の協力を今後もさらに進めていきたい」と応じました。









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