2015年10月7日水曜日

環太平洋連携協定 TPP(1)):大筋合意、世界最大の自由貿易圏誕生へ

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●大筋合意して会見に臨む各国代表(Xinhua/Aflo)


(c)AFP/Paul HANDLEY 2015年10月06日 09:24 発信地:アトランタ/米国
http://www.afpbb.com/articles/-/3062297

世界最大の自由貿易圏誕生へ、TPP大筋合意

【10月6日 AFP】
 環太平洋連携協定(Trans-Pacific Partnership、TPP)交渉の参加12か国は5日、米ジョージア(Georgia)州アトランタ(Atlanta)で開いていた閣僚会合で、大筋合意に達した。
 地球上の経済の40%を占める世界最大の自由貿易圏の誕生に向け、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領にとって政策上の大勝利となる。

 TPP交渉の閣僚会合は当初の期限を延長し、5日間にわたって昼夜を問わず協議を重ねてきたが、5日未明、共同記者会見で交渉妥結を発表した。
 各国の担当閣僚の顔には疲労がにじんでいたが、米政府が主導し5年に及んだ交渉は、難航の末、ついにまとまった。

 TPPでは、21世紀の貿易・投資の枠組みを定めるとともに、TPP基準に沿った商業・投資・事業規制のあり方を導入するよう交渉未参加の中国に強く働き掛けていくことを目指している。

 TPPを任期2期目の優先政策に掲げるオバマ大統領は、合意内容について
 「米国の価値観を反映したもので、米国の労働者に本来得るべき公平な成功の機会を与える」
 「中国などに世界経済のルールを決めさせるわけにはいかない」
などと述べた。

■日本は農産物で大幅市場開放へ

 カナダ、米国、日本は、砂糖やコメ、チーズ、牛肉などの農産物で大幅な市場開放が求められる。

 日本は、国内政治における長年の懸念材料でありオーストラリア、ニュージーランド、米国など輸出大国との慢性的な貿易摩擦をもたらしてきた食品輸入関税について、引き下げや非関税障壁の緩和で大きく譲歩した。

 一方、米国は日本車部品について、中国やタイなどTPP交渉未参加国からの輸入関税引き下げに合意した。

 12か国の合意には、
★.投資家と国家の紛争解決条項や、
★.知的財産権の問題、
★.米国と豪、ペルー、チリの間で焦点となっていたバイオ医薬品の開発データの保護期間
なども盛り込まれている。

■根強い批判

 今回到達した合意は今後、各国で署名・批准される必要があり、多くの国で難航することが予想される。

 TPPをめぐっては、交渉の大部分は極秘に進められてきたため、商業利益のみが重視され、多数の国で公共の利益が二の次にされているという根強い批判がある。

(c)AFP/Paul HANDLEY



ロイター  2015年 10月 6日 10:06 JST Daniel Indiviglio
http://jp.reuters.com/article/2015/10/06/trade-tpp-breakingviews-idJPKCN0S001Q20151006?sp=true

コラム:大筋合意のTPP、経済効果は限定的か

[ワシントン 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] -
  米国を含む12カ国が閣僚交渉で大筋合意した
 環太平洋連携協定(TPP)の経済的な効果はそれほど大きくはない
だろう。

 米議会の反対派を説き伏せて無事批准されたとすれば、TPPによって自動車部品からがん治療薬に至るまであらゆる分野の貿易障壁が緩和される。
 中国不在は重大な問題ではあるが、米国と日本の妥協は成立した。

 それでも、北米自由貿易協定(NAFTA)のケースが参考になるのであれば、TPPがもたらす関係諸国の国内総生産(GDP)押し上げ効果は限られるかもしれない。

 TPPは世界経済の40%前後に影響する。
 一方で米議会に目を向けると、既に左派と保守派の双方が懸念を表明しており、承認を得るのは簡単ではないだろう。

 無所属の社会主義者として来年の大統領選の民主党候補指名争いに名乗りを上げたバーニー・サンダース上院議員は、TPPの勝者は大企業とウォール街だと主張。
 これに対して共和党のオリン・ハッチ上院財政委員長は、合意内容は議会が交渉のたたき台として示した原則を「悲惨なほど満たしていない」と批判した。

 TPP交渉が合意されたことは、いくつかの理由から大きな意義があるだろう。
 だが米国の関係諸国からの財輸入額が昨年8840億ドルあったにもかかわらず、恐らく経済的な意味合いは比較的小さい。

 米議会予算局(CBO)が2003年に行った分析では、1994年発効のNAFTAは01年の米GDPに最大36億ドル、比率で言えばわずか0.041%を付加したにすぎない。
 他の加盟国であるカナダとメキシコへのプラス効果も似たようなものだった。

 これは上記3カ国の間で、NAFTAが実施された時点で既に貿易が拡大していたことが一因だ。
 TPP参加の12カ国についても同様で、差し引きのメリットはわずかしかないだろう。

 もちろん多少でもプラスがあれば何もないよりはましだ。
  例えば日米間では自動車や農業の分野で進展があり、長年の通商分野における懸案解決に向けてある程度道が開けた。
 バイオ医薬品の特許保護期間をめぐる関係国の歩み寄りもまた重要な成果と当然みなされる。

 TPPは国際政治の面で各国の胸算用に変化を与える可能性があるし、欧州連合(EU)と米国の自由貿易協定交渉を前進させる力として働くこともあり得る。

 さらに日米を差し置いてアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立構想を主導した中国は、TPP交渉で蚊帳の外に置かれたことは注目に値する。
 オバマ米大統領は、TPPの大筋合意を称賛した上で、
 「われわれは中国のような国が世界経済のルールを定めるのを許すことはできない」
とまで言い切った。
 そうした点からすれば、少なくともTPPは外交的には一定の成果を示しつつある。

●背景となるニュース

・環太平洋連携協定(TPP)交渉に参加した米国とそのほかの11カ国は5日、なかなか歩み寄れなかった乳製品やバイオ医薬品の分野を含めて閣僚会合で大筋合意したと発表した。今後各国は議会の承認を経て協定に批准する。

・米政府のTPPに関するファクトシート(概要説明)は以下のアドレスをクリックしてご覧ください。1.usa.gov/1M7YDZi

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



レコードチャイナ 配信日時:2015年10月6日(火) 13時4分
http://www.recordchina.co.jp/a120535.html

安倍首相、TPP大筋合意に「アジア太平洋にとって大きな成果」と強調
=中国ネット「AIIBが揺さぶられる!」
「安保にTPP…歴史に名が残る」

 2015年10月5日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の締結交渉が大筋合意に達したことを受け、安倍晋三首相は
 「日本のみならずアジア太平洋の未来にとって大きな成果だ」
 「政権発足以来の大きな課題に結果を出せた」
と強調した。

 TPPに参加するのは日本、米国、オーストラリア、カナダなど12カ国。
 これらの国が世界経済に占める割合は約4割にも上る。
 オバマ米大統領はTPP合意に関する声明で
 「世界経済のルールを中国のような国に書かせるわけにはいかない」
と指摘、安倍首相はアジア太平洋にとっての成果を強調している。

 これについて、経済規模で日米に挟まれる形の中国のネットユーザーからは
 「TPPって結局、何?」
 「日本は交渉に2年半もかけたって言ってる!。
 中国は知っていたのか?」
 「中国の指導者がTPPについて語るのを聞いたことがない」
といったコメントや
 「中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)が揺さぶられる」
 「中国は自らのルールを構築すべきだ」
 「中国けん制はそんなに簡単なことではない」
 「中国はTPP参加を考えない方がいい。
 周辺国と個別の自由貿易協定を結び、ロシアや欧州連合(EU)との関係を作って自分の道を歩むべきだ」
などの声が上がっている。

 また、
 「日本国内の抗議活動の状況を知りたい」
 「TPPって、ざっくりと言うと日本と米国の自由貿易協定だろ」
 「日本車が米国の道路を埋め尽くし、米国の食品が日本の食卓を占拠するというわけか」
 「安全保障関連法案にTPP…安倍首相は歴史に名を残すな」
などの意見も寄せられた。



読売新聞 10月6日(火)11時19分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151006-00050032-yom-bus_all

TPPへ韓国「参加を検討」…出遅れ批判報道も

 【ソウル=宮崎健雄】
 TPPへの関心をかねて表明している韓国政府は5日、「(今後)参加を積極的に検討する」と発表した。

 韓国産業通商資源省が「政府の立場」とする文書を発表したもので、
 「(TPP)協定文が公表されれば、韓国経済に及ぼす影響を分析し、公聴会などの手続きを経て政府の立場を最終確定する」
としている。

 韓国では、TPPが発効すれば、自動車部品の対米輸出などで日本より不利になるとの危機感が強い。
 6日付の主要各紙は「韓国抜きでTPP妥結」(東亜日報)などと1面で報道。
 朝鮮日報は社説で
 「韓国は貿易依存度が高く、どの国よりも開放の先頭に立たなければならない国なのに、ぐずぐずして参加機会を逃してしまった」
と指摘し、政府の「出遅れ」を批判した。



2015.10.9(金) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44962

TPPという名の「中国以外は誰でも歓迎クラブ」
中国不参加ならば、
通商協定の皮をかぶった封じ込め戦略
(2015年10月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 今週合意された環太平洋経済連携協定(TPP)を巡って秘密主義的な交渉を何年も続けてきた参加国は、その間ずっと、TPPの狙いは中国外しにあるとの指摘を受け流してきた。
 TPPの支持者らは、「中国以外は誰でも歓迎クラブ」ではないと大声で言い切ってきた。
 ひょっとしたら、その声は大きすぎたかもしれない。
 支持者たちの主張を信じることは難しかった。
 彼らは気が緩むと、経済ではなく地政学の観点からこの新しい協定について語ることが多かったからだ。

 リアルポリティーク(現実政治)の観点から見たTPPは、米国政府による軍事面での「アジアへのピボット」を経済面から補強するものであり、中国の復活に直面するアジアの同盟国に米国をさらに緊密に結びつける1つの手段だった。

 米国の外交問題評議会(CFR)から過日発表された話題の論文で、著者のロバート・ブラックウィル氏とアシュリー・テリス氏は、TPPは中国の台頭を押し返す「大戦略」の一環として考えるべきだと書いている。
 同盟国と特恵通商協定を結ぶことにより、米国政府は中国による国際貿易システムのただ乗りを阻止することに貢献できるようになり、著者の言う中国政府の「地理経済力」に対抗できるようになるというのだ。

■オバマ大統領の発言に透けて見える真意

 確かに、TPPが自分のレガシー(功績)の見栄えを良くしてくれることに大きな期待をかけてきた米国のバラク・オバマ大統領は今週、
 「世界経済のルールを中国のような国々に書かせるわけにはいかない」
という当てこすりを言わずにはいられなかった。

 まだ批准はこれからとはいえ、TPPの枠組みについて合意がなされた今、参加国は、中国の参加を排除しないというこれまでの発言通りに行動するべきだろう。
 各国は、参加しないかと中国に呼びかけるべきだ。
 中国はさらに一枚上手をいくことができるはずだ。
 まさにそれをやるために、参加国の真意を試し、交渉を始めればいいのだ。

 突飛なアイデアに聞こえるだろうが、実はそうでもない。
 中国政府にしてみれば、TPPに参加する理由は十分にある。
 確かに、TPPは通商協定というよりは投資の保護や規制の標準化における国内措置に重きを置いた取り決めであり、欠点が多い。

 まず、自分たちの利益を損ねたとの理由で外国を訴えることを企業に認めているが、これでは企業の政治的影響力を強くし過ぎてしまう。

 また、確かにTPPには国家の経済権力行使に対抗する条項(ほとんど中国を想定して設計したと思われる)が盛り込まれている。

■中国が目指す経済構造転換の目的と合致

 それでも、TPPの目的と中国悲願の経済構造転換の目的はだいたい重なっている。
 1990年代後半に朱鎔基首相(当時)は、国内改革推進に2001年の世界貿易機関(WTO)加盟を利用することにより大規模な経済改革を主導した。
 今日ではTPPが同様な役目を果たせる可能性がある。

 国有企業の優遇禁止というTPPの規定を例にとって考えよう。
 低利の資金から低価格の電力に至るまで、巨大な国有企業にありとあらゆるものを供与している中国はこの基準を満たさない。
 しかし中国政府は、大部分の非効率な国有企業にこれまでよりも営利本位の運営を義務づけることでそうした慣行をやめたいと明言している。

 同様に、TPPには商標や著作権、特許など知的財産権についての厳しい条項も入っている。
 いずれも中国企業がないがしろにしてきた権利だが、この点も改めなければならないことを中国の指導部は承知している。

■外交的には成功のAIIB、問われる中国の運営能力

 自国の企業(研究開発に多額の資金を投じている中国企業もある)がバリューチェーンの上流にさかのぼるにつれて、中国政府は知的財産権にでたらめな態度を取るよう促すのではなく、自国の技術革新や発明を守りたいと思うようになるだろう。

 TPPには、自国の生態系の破壊によって外国企業の投資を呼び込むことを禁じる条項も入っている。
 中国は工業化の初期段階で生じた環境破壊を修復したがっており、この分野でも同じ方向に慎重に歩みつつある。

 労働問題でも、中国国内の改革項目とTPPの条項は一致している。
 中国は、生産された価値がこれまでよりも多く労働者に配分されるようにしたいと考えている。
 そうなれば、労働者が使えるお金も多くなるだろう。

 もちろん、完全に独立した労働組合が設立されることには中国政府も用心するだろう。

 だが、中国自身の経済的利益になる団体交渉というアイデアには、リップサービスぐらいはできるかもしれない。

 このように、国家主導の製造業から民間主導のサービス業への経済構造転換が進まない中国にとって、TPPはこれを促進してくれる有益なものかもしれないのだ。

 では、中国の参加が許される可能性はあるのだろうか。
 ハードルは意外に低いかもしれない。

■ベトナムが参加できるなら、中国だって合格するはず

 TPPにはベトナムなども参加している。
 ベトナムと言えば一党独裁で、国有企業が優遇されており、知的財産権にも中国並みに無遠慮な態度を取っている国である。
 このベトナムが参加できるのであれば、中国も参加できることは間違いない。

 日本の安倍晋三首相は、TPPを地政学的な組織として描くことにおいて最も率直だった人物の1人である。だが、その安倍氏は今週、中国の参加に扉を開くようにも見えた。
 「中国が参加すれば、(TPPの)戦略的な意味はもっと大きくなる」
だろうと述べたのだ。
 この指摘は正しい。

 中国が参加しないTPPは、通商協定の皮をかぶった封じ込め戦略のように見える。
 だが中国が参加すれば、中国をポストWTOの世界にうまく順応させるのに役立つ可能性もあるだろう。
 そうなって初めてTPPは、賛成論者が「最初からずっとそうだった」と偽っているもの、すなわち、将来を見据えた通商協定に似てくるのかもしれない。

By David Pilling
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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年10月08日(Thu)  土方細秩子 (ジャーナリスト)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5464

TPP、賛意が大勢を占めるも
トランプ氏が猛批判

 10月5日、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が一応の合意に達した。
 およそ1800品目が参加12カ国間で関税撤廃となる、
 まさに太平洋を囲む諸国での一大自由経済エリアの構築だ。
 米国では来年連邦議会下院の承認を受けた後正式の発足となるが、国内ではオバマ政権の「歴史的功績」とする声が高い。

 ただし、TPPにより米国が経済的恩恵を受ける分野は限られている。
★.「勝ち組」とされているのは医薬品メーカー、ハリウッドなど、知的所有権の分野で影響力を増す業界だ。

 一方で自動車、鉄鋼業界などは以前から根強くTPPに反対してきた。
 今回の合意を受け、全米鉄鋼労働者組合のレオ・ジェラルド氏は
 「TPPは米国労働者にとって不利な協定であり、下院は拒絶すべき」
と主張する。
 関税撤廃により安い鉄鋼製品がアジアから輸入されることにより、米国の鉄鋼業界そのものが危機を迎えるという懸念がある。

 自動車業界も同様に、安い自動車部品の輸入増で米国の部品産業が脅かされる、日本や韓国製の車の輸入が増える、との見解を示していたが、フォード自動車は合意に際し
 「本当の意味でのオープンマーケットで公平な競争が確約されるならばTPPをサポートする」
と声明を出した。

 ただし
 「合意内容は、現在我々が直面する最大の貿易障壁、
 すなわち意図的な為替操作に踏み込んでいない」
との批判も忘れていない。
 ドル高の現在、米の輸出産業は不利な立場にあり、特に
★.米自動車業界は以前から「1ドル=100円が適正為替」
と主張している。

 同様に全米農業組合のロジャー・ジョンソン氏も
 「公平な貿易のためには為替問題がもっと議論されるべき」
とTPP合意内容を批判した。

 環境分野では、全米最大の環境保護団体であるシエラ・クラブのマイケル・ブルーン氏が
 石油メジャーが今後輸出拡大を試み、環境面から論争となっているシェールガスのフラッキングがさらに拡大する。
 TPPは地球温暖化を促進させる厄災となる
と激しく非難。

 また医療面では国境なき医師団から
 「発展途上国での医療費が増大し、米医薬品業界が潤う反面で予防できる疾病の蔓延や死亡者増大を招きかねない
との懸念を示した。

 最大の批判者は現在共和党大統領候補としてトップ支持率のドナルド・トランプ氏で、
 「TPPにより小規模ビジネス、農家、生産業者などが不公平な競争にさらされ、
 安価な労働力が米国民の仕事を奪い、経済が混乱する
と舌鋒鋭く批判している。

 米国には1994年に締結された北米自由貿易協定(NAFTA)による苦い経験がある。
 カナダ、米国、メキシコの3カ国間で結ばれた協定により、米の大手企業の多くが安価な労働力が求められるメキシコ国内に工場を建設、結果として米労働市場が損なわれた。
 TPPはNAFTAの失敗を拡大するだけの結果となる、という見方は米国内には根強い。

■「中国によるアジア市場の制圧」を回避

★.それでもTPP合意が評価されるのは、
 「中国によるアジア市場の制圧」を回避した、
という見方があるためだ。

★.米国が現在アジア圏の国々と関わる協定はASEANのみだ。
 TPPに積極的に参入することで、中国が同様の自由貿易圏をアジアに構築し、経済主導権を握る可能性を抑制した結果となる。

 ジョン・ケリー国務長官は
 「TPPは即時性のあるポジティブな影響を米経済に及ぼし、長い目で見ればアジア太平洋圏と米国の経済的、戦略的関係を強化する」
と語り、米国防省アッシュ・カーター長官も
 「TPPは地域的格差を縮小し、世界の中で急速な成長を見せる地域での米国の影響力、指導力を固める存在となる」
と語った。

 米国がTPP参加を表明したことで、それまで参加を渋っていた日本を引き込み、韓国とは二カ国間協定を結ぶ結果になったことも米国にとっては大きい。

 今後来年の下院承認をめぐり、国内ではさらに賛否両論が噴出し、一大議論に発展しそうだ。
★.「環太平洋での主権」という名目を優先するのか、
★.経済面でのデメリットが優勢となるのか、
今後の議論の行方に注目が集まる。



 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年10月09日(Fri)  磯山友幸 (経済ジャーナリスト)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5467

単なる「貿易協定」ではないTPP
”国境”が”県境”になる

 TPP(環太平洋経済連携協定)が、交渉参加12カ国の間で10月5日、大筋合意に達した。
 工業品や農産物をはじめ、知的財産権や環境保護に至るまで幅広い分野でのルールが統一されることになる。
★.工業品の関税は99.9%が撤廃されることになり、
★.世界のGDP(国内総生産)の約4割を占める巨大な経済圏が誕生す
ことになった。

 TPPはTrans‐Pacific Partnershipの略とされるが、当初から様々な日本語訳が当てられてきた。
 環太平洋戦略的経済連携協定というものもあったが、最近は環太平洋経済連携協定や環太平洋パートナーシップ協定といったところで落ち着いている。

■貿易協定ではなく、共同体を目指す

 経済連携というと貿易ルールを定めた協定のように感じるが、
★.この協定の本質は単なる貿易協定ではない。
★.加盟国がパートナーシップを組むこと、つまり共同体になることを目指している

★.「環太平洋共同体構想
と言った方が将来像を示している
かもしれない。

 2013年に安倍晋三内閣がTPP交渉を決めて以降、交渉を担ってきた甘利明・経済再生担当大臣は10月5日の記者会見に臨んで、こう発言している。

 「われわれのルールが世界に広がるに従って、世界がより豊かで相互依存関係が強くなる。
 つまり、これは経済の安全保障であると同時に、間接的に、安全保障にも、地域の連帯と平和にもつながっていく重要な試みだ」

 経済が一体化することで相互依存関係が深まり、安全保障や各国の連帯つまり「政治の統合」へと進んでいく。
 EU(欧州連合)が経済の一体化から入って政治統合へと歩みを進めているのと同じく「共同体」を模索していこうというところに本質があると見るべきだろう。

 2006年5月にシンガポールとブルネイ、チリ、ニュージーランドの間で発効した地域の自由貿易協定だったTPPに、米国が参加を表明して交渉を始めたのは2010年3月のこと。
 日本では2009年に民主党が政権を握り、鳩山由紀夫首相が「東アジア共同体構想」を打ち出していた。
 中国や東南アジア諸国と共に経済圏を構築するというもので、通貨の統一なども含んでいた。

 EUは加盟国を徐々に増やし、共通通貨ユーロの採用国も増加。共同体としての地歩を固めていた。
 そこに「経済成長のエンジン」とみられていたアジアまでが経済圏を築けば、世界最強を誇って来た米国経済の孤立化は免れない。
 2008年のリーマンショックによる米国金融界の凋落で、米国の地盤沈下が深刻さを増していた時期に重なった。

その頃から経済産業省を中心にTPPへの参加が日本の大きな政治課題になった。背後に米国の圧力があったのは間違いない。つまりTPPはもともと経済連携は表看板で、本質は地政学的なヘゲモニー争いだったわけだ。

 それだけにTPPの大筋合意が持つ意味は大きい。
 単に関税を撤廃し外国産品を受け入れるという話ではないのだ。
 ゆくゆくはEUのような国境のない共同体へと進んでいくことになるのはまず間違いない。
 貿易の壁を撤廃するだけでなく、それぞれの国のルールを統合していくことになるだろう。
 これはすでに著作権の保護期間の統一といった交渉に明確に現れている。
 これが今後、経済ルールのすべてについて統一する方向に動き出すとみていいだろう。

■「21世紀の世界のルールになる」という意味

 12カ国だけでなく、アジアの周辺国がこぞって参加し、大経済圏に育っていく。
 甘利大臣が「21世紀の世界のルールになる」という意味はそこにある。

 日本は間違いなく変化を迫られることになる。
 とくにこれまで関税という壁で守り、事実上の鎖国状態を維持することで保護されてきた産業は生き残りをかけて構造転換せざるを得なくなる。
 端的に言えば農業だ。
 コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖などを、政府は「重要5品目」とし、TPP交渉の枠外として守る姿勢を見せたが、
 現実には段階的に関税が引き下げられ、輸入枠が拡大されることになる。
 TPP域内各国との競争にさらされるのは間違いない。

 これまでの関税による保護を前提にした体制は、
 価格競争では絶対に外国産に勝てない、
ということが不動の前提だった。
 だが、それを前提にしている限り、その産業は滅びていくことになる。
 発想を変えて、安全性や品質、ブランド力などで高付加価値品を生み出し、生き残っていくしかない。
 何の努力もしなければ、価格が安い外国産品に消費者が向いていく。
 つまり、経営努力が不可欠になるのだ。

 オレンジの自由化で日本のみかん農家は全滅すると言われたが、現実はどうなったか。
 様々な品種改良が行われ、日本人好みの柑橘類が次々に生まれて新しい市場を作った。海
 外市場にも輸出されている。

 安い外国産米が今以上に入ってくることになるが、それで日本のコメが全滅すると考えるのは早計だ。
 すでに米価の下落などによってコメ作りの競争は一段と厳しくなっているが、一方で食味の良さを求める品種改良が進み、新しいブランド米が生まれている。
 日本のコメは品質では世界一だという自信が、コメを日本の輸出産品に変えていく可能性は十分にある。

 安倍首相は10月7日の内閣改造後の記者会見で「TPPをピンチではなくチャンスに変える」と言い切った。
 価格だけではなく、品質で選ばれる輸出農産品をどんどん生み出していけば、日本の農業の未来が開けて来るというのだ。

■日本と米国の国境が、今の県境と同じになっていく

 そのためにはこれまでの慣行に捕らわれない改革が不可欠になる。
 現在は国家戦略特区だけで認められている農業生産法人の要件緩和などを日本全体で推し進めることが不可欠だ。
 株式会社が本格的に農業に参入する道を開くことも必要になるだろう。
 米国の大農業会社やニュージーランドの大畜産会社と真正面から戦って勝たなければならないからだ。

 同じ野菜でも北海道産と九州産では、当然天候の違いによる収穫量の差があり、それがコストに跳ね返る。
 だからといって、コストが安く価格も低い北海道産に課税しろという話にはならない。
 TPP内の地域が一体化していけば、それと同じ話だ。
 日本と米国の国境が、今の県境と同じになっていく。
 これは現実にEUで起きていることだ。

 そうした流れの中で、経営努力を放棄し、ルールで守られる道を模索し続けたらどうなるか。
 その時こそEU内のギリシャと同じような悲惨な国になるだけだろう。

 これから本格化するそれぞれの分野でのTPP対応では、大きく発想を転換する必要があるだろう。




【輝ける時のあと】



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