2015年10月15日木曜日

チャイナショック(8):中国発、世界不況への道:世界経済は、借入金を燃料に動く最後の大型需要エンジンを失った

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2015.10.15(木) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44997

着実な経済成長はバブルの生成より難しい
米国だけでなく、中国がくしゃみをしても風邪をひく世界経済
(2015年10月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


●世界経済は今、中国がくしゃみをしても風邪をひくようになった (c) Can Stock Photo

 米国がくしゃみをすれば世界経済が風邪をひく――。
 かつてはそう言われたものだった。
 この言葉は今日でも間違いではない。
 ただ最近は、中国がくしゃみをしても世界経済が風邪をひくようになった。

世界経済は、借入金を燃料に動く最後の大型需要エンジンを失ってしまった。

 そのため、世界的な「過剰貯蓄」にさらに拍車がかかるか、ローレンス・サマーズ氏の言う
★.「長期停滞(潜在的な供給に比べて需要が弱い傾向のこと)」に至るのはほぼ確実だ。

 このことは世界経済のリスクにとって重要な意味を持つ。

 国際通貨基金(IMF)は最新の「世界経済見通し(WEO)」を、憂鬱というよりは用心しているような調子でつづっている。
 これによると、世界経済の今年の成長率は3.1%になる見通しで(購買力平価ベース)、2016年には3.6%になる。
 高所得国の今年の成長率は2%で、
 ユーロ圏ですら1.5%の成長が見込まれるという。

 一方、新興国は今年、4%成長すると予想されており、2013年の5%や2014年の4.6%を大きく下回ることになる。
  中国は6.8%、インドは7.3%の成長がそれぞれ見込まれるが、中南米は0.3%のマイナス成長で、ブラジルは3%のマイナス成長に陥る見通しだという。

■世界経済の下振れリスク

 IMFはまた、どんなに筋金入りの心配性でも納得するほど長い下振れリスクのリストも示している。

 資産価格の破壊的な変動と資産市場の混乱、潜在成長率のさらなる低下(もし実現すれば、投資と総需要が減ってしまう)、中国の国内総生産(GDP)の予想以上の減少、コモディティー価格のさらなる下落、ドル高の進展(実現すればドル建てで借金をしている主体、特にコモディティー生産のために資金を借りた企業などのバランスシートがさらに悪化する)、地政学リスク、そして総需要のさらなる減少といった具合だ。

 では、世界全体が1つの経済だと考えてみよう。
 もしこの経済が上記の予想通りに成長しても、恐らく、潜在成長率と同程度の成長を遂げるのが関の山だろう。

 しかし、もし上記のリストに載ったリスクのいくつかが悪い方向に向かうことになったら、世界経済は過剰生産能力の増大とディスインフレ圧力に苦しむことになる。

 悪いことがまったく起こらなかったとしても(実際は容易に起こり得る)、やはり懸念は残るだろう。なぜなら、現在では政策対応の余地がかなり限られているからだ。

■苦しむ新興国が外需を期待できない理由

 コモディティーを輸出する一方で多額の債務を抱えている新興国は、数年前に危機に見舞われたユーロ圏諸国と同様に、緊縮をしなければならなくなるだろう。
 またユーロ圏の場合とちょうど同じように、これらの国々は景気を浮揚させるために外需を探す。
 しかし、待ってもムダかもしれない。

 高所得国では短期金利がすでに0%という下限かその近辺にある。
 高所得国が大規模な負のショックに効果的に対応できるか、少なくとも対応する心構えがあるのかどうかはかなり疑問だ。
 ひょっとしたら、中国にも同じことが言えるかもしれない。

 過去15年間、信用力の高い証券の長期の実質金利は低水準で推移し、貯蓄に比べて投資が慢性的に弱いことやリスク回避の意識が投資家にあることを示してきた。
 2007年までの期間で見ると、世界で必要とされた需要の大部分は信用(借入金)の拡大と住宅建設で創造されていた。
 特に米国とスペインではその傾向が顕著だった。

 このエンジンは2007~09年の西側諸国の危機と2010~13年のユーロ圏危機の際に燃料切れになり、名目の短期金利が0%で実質の長期金利も0%になるというこの世界が誕生した。
 これらの国々ではそれ以来、需要も潜在GDPも実際のGDPも低迷している。

 幸い、借入金による投資の急増が2009年に中国で始まって余った供給力を吸収し、工業原料や投資財の輸出業者の業績を大いに押し上げた。
 しかし、今ではそれも限界にきている。

 高所得国はショックから立ち直りつつあるが、潜在GDPに比べて支出が大幅に増加する兆し(あるいは、その見込み)はまったく見えない。

ユーロ圏では、好景気などは特にやって来そうにない。

 中国は年7%という実質需要の伸びを維持できるかもしれないが、GDPに占める投資の割合が40%を大きく超えるような経済では、7%の成長を遂げても余剰生産能力がかえって増えるだけだろう。

■世界中で高まるディスインフレ圧力

 また中国については、投資が貯蓄に比して減少すると想像する方が、その逆のパターンを想像するよりもはるかに容易だ。
 つまり、中国が今後数年のうちに需要不足の悪化に苦しむことになるのはほぼ確実だ。

 また、多くの新興国で生産能力が今後拡張されることはまず間違いない。
 そう考えると、世界経済の潜在供給力の過剰は間違いなく悪化すると思われる。
 ディスインフレ圧力が世界中で今後高まりそうだと考えるのはこのためだ。

 では、このような状況にある世界はどのように管理すべきなのだろうか。
 ここでは短期、中期、そして長期に分けて答えを示しておきたい。

 まず短期的には、大幅な景気減速を避けることが肝要である。
 それ以上にひどい事態を避けなければいけないことはもちろんだ。そ
 うした状況に対処する政策手段は簡単には利用できない。
 その理由はいろいろあるが、政治的な理由も重要である。

 これまで以上に非伝統的な金融政策やかなり拡張的な財政政策に対する抵抗は根強い。
 ばかげた話だが、これは現実でもある。
 そうであるからこそ、そのような政策を不要にすることが非常に重要なのだ。

■一段と弱まる世界需要、政策と思考を現実に適応させよ

 だが、中期的には、世界経済が大きな負のショックに見舞われた場合に何をする必要があるのか、議論し始めることが肝心だ。
 これまで以上に非伝統的な政策がどんな形で奏功し得るかを丁寧に説明したら、そうした政策に対する抵抗感が薄れるかもしれない。

 より長期的には、これほど
★.実質金利が低い世界は、
 特に新興国、発展途上国において非常に大きな投資機会を提供してくれる
ことを理解することができるはずだ。

 我々は景気減速ではなく、どうすれば世界的な投資ブームを達成できるかを想像すべきだ。

 中国はこれを理解しているように見える。
 西側諸国にも理解できるだろうか。

 世界は、貸し付けと支出をフル回転させる用意と意思がある経済大国を失ってしまった。
 これは向こう数年間、世界の需要がこれまで以上に弱々しくなる可能性があることを意味している。
 政策と思考はこの現実に適応しなければならない。
 今から始めよう。

By Martin Wolf
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時事通信 (2015/10/18-19:11)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int&k=2015101800125

習主席、中国経済に懸念=「全力で対応急ぐ」

 【北京時事】
 中国の習近平国家主席は18日までに、英国訪問を前にロイター通信の書面インタビューに応じ、減速が進む中国経済に懸念を表明した。
 19日に発表される7~9月期の経済成長率は6年ぶりに7%を割り込んだとの見方が強く、世界経済の先行きに不透明感が高まっている。
 習主席は
 「中国経済に懸念を抱いており、それに対処するため懸命に取り組んでいるところだ」
とし、全力で対応を急いでいることを強調した。
 また、
 「開発途上国を中心に、全ての国に影響をもたらす世界経済の低迷も心配している」
と述べた。



JB Press 2015.10.19(月) 藤 和彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45012

中国に金融危機の兆し、
下支えを失う原油市場
最大輸入国の需要減少で1バレル20ドルへ?

 中国税関総署が10月13日に発表した9月の貿易統計によれば、輸入額が前月比20.4%減の1452億ドルと11カ月連続でマイナスとなった。
 減少幅は事前の予想値(16%減)を上回り、リーマン・ショックの影響が強かった2009年5月と同規模である。
 中国経済の先行きへの懸念がますます高まっている。

 原油市場の関係者が注目する原油の輸入量は2795万トンと前月比5.1%増だった。
 だが、8月の原油輸入量が7月に比べ13.4%と大幅に減少したことを考慮に入れると、増加分は期待外れと言っても過言ではない。

 原油の平均輸入価格は1バレル=50.4ドルと8月の同58.5ドルから大幅に下落した。国際的な原油価格は8月に比べて若干上昇しているので、この価格低下は主要産油国のシェア確保のための値引き競争の結果だろう。

 10月13日付ブルームバーグによれば、
 中国では一部の地上貯蔵施設が満杯になっているため、
 原油を運ぶ200万バレル積みの超大型タンカー(VLCC)の荷下ろしまでの待機期間が延びている。
 通常、VLCCは港湾到着後1日以内に出港するが、ブルームバーグが10月9日に集計したデータによれば、少なくとも19隻のVLCCが中国沖で2週間以上停泊しているという。
 中国国内には膨大な原油在庫が積み上がっている
ということだ。
 鉄鉱石や石炭に加え、
 原油も「1年以上輸入しなくてもやっている状態にある」
との観測が出始めている。

原油価格が下落する状況で中国政府は戦略国家備蓄を積み増し、これが低迷する民間需要を補い、全体の原油輸入量を着実に増加させてきた。
 しかし8月12日の天津港の大爆発事故により、同港に建設された備蓄施設への原油の搬入が停止し、早期復旧は依然として期待薄の状態にある。
 戦略備蓄をテコに原油輸入量を増加させてきた中国の原油輸入量は、今後減少傾向を鮮明にする可能性が高いのではないだろうか。

■危険な兆候を示している中国の債券市場

 金融面からの懸念要素もある。

 8月14日の人民元切り下げ以降、中国からの資本流出が激化しており、中国政府は原油代金の支払いに必要な外貨の確保が日増しに困難になっているという観測がある。
 中国の外貨準備高は減少したとはいえ約3.5兆ドルと巨額だが、
 その中身に対する懸念が強まっている
からだ。

★.日本は外貨準備の9割超を米国債で保有しているのに対し、
★.中国が保有する米国債は外貨準備の3割
に過ぎない。
 残りの7割弱をユーロ国債や金で保有しているという想定は非現実的だ。
 だとすれば、
★.残りの外貨準備はベネズエラやアフリカ諸国などへの政策投資で焦げ付いているか、
★.不明朗な経路で既に国外に流出した
と考えざるを得ない
★.(約1.5兆ドル規模の国有企業のドル債務が計上されているとの説もある)。

★.中国が、人民元の安定に向けてドル売り・元買い介入資金を確保するため、9月に日本国債を大量に売却した可能性も浮上している(10月13日付ロイター)。
 財務省によれば海外投資家が9月下旬に約4.6兆円分の円債を処分しているが、市場関係者の間では「中国の大手投資家が売却した」との噂がもっぱらだ。
★.このような動きからも、
 中国政府は既に外貨不足
に陥っている
と捉えることもできる。

 民間サイドの状況も深刻である。
 中国株の急落で時価総額5兆ドルを失った投資家は社債市場に資金を避難させた。
 しかし、その社債市場もバブル崩壊の寸前にある(10月10日付けサンケイビズ)。

★.42.1兆元(約800兆円)規模の債券市場は、現在割高な相場水準や投資家のレバレッジ急拡大など、4カ月前の株価急落前と同様の危険な兆候を示している。
 独コメルツ銀行は社債市場が年末までに大きく崩れる確率を20%と予想している(6月時点ではほぼゼロと見ていた)。

■年末までに中国で金融危機が発生?

 金融市場以外でも、李首相が推奨していた「保証付き融資」の焦げ付きが懸念されている(10月9日付ブルームバーグ)。

 UBSグループによれば、保証付き融資の焦げ付きは昨年86%増加し、約4000億元(約7兆5600億円)に達した。
 景気減速により企業の借り入れに対する信用保証が裏目に出ており、デフォルトの連鎖を引き起こす危険が出てきている。
 米S&Pによれば、保証専門会社が打撃を受けており、金融リスクを引き受け過ぎた保証業第2位の会社が業務を停止した。

 中国政府は10月14日、9月の卸売物価指数が前年比で5.9%下落したと発表した。
 下落幅は前月と同じでリーマン・ショック直後の2009年9月以来の6年ぶりの大きさが続いている。
 深刻なデフレリスクが金融市場関係者のセンチメントを悪化させている。

 元日銀理事の稲葉延雄氏は、10月9日、中国経済について
 「北京周辺や東北部の成長率はゼロ%との見方があり、減速が激しくなっている。
 現地に進出している日系企業は決済不履行が起こらないか心配している」(10月9日付ロイター)
と述べた。

年末までに中国で金融危機が発生するリスクは高まっている。

 たとえ金融危機が起こらなくても、カネ不足に陥った中国が原油の輸入を減少させることは間違いないだろう。

■原油市場の需給ギャップは解消されるのか?

 世界の原油市場の生産サイドに目を転じると、9月のOPECの原油生産量は日量3157万バレルと予想に反して過去3年で最高の水準に達した。

 OPECのバドリ事務局長は10月11日、
 「非OPEC諸国の原油生産が減少し、原油価格下落により来年の原油需要は堅調であるため、原油市場の需給ギャップは来年第3四半期にほぼ解消される」
という、これまでどおりの見方を示した。

 石油リグ稼働数は10月5日の週に605基と落ち込み(米石油サービス会社ベーカー・ヒューズ)、米エネルギー省は10月13日「11月のシェールオイルの生産は7カ月連続で減少する」との見通しを明らかにした。
 しかし15日に発表された米エネルギー省の統計によれば、在庫が6ヵ月ぶりの大幅増加となった(756万バレル増)。

 また、政策当局者レベルの頻繁な接触から年末に向けてOPECの雄であるサウジアラビアとロシアが減産合意に達するとの期待が生じていたが、最近の「シリア」情勢の変化が両国の協調ムードに水を差している。

 ロシアのプーチン大統領は10月11日にソチでサウジアラビアのムハンマド副皇太子(国防相)と会談し、シリア空爆への理解と過激派組織「イスラム国」に対するアサド政権中心の共同戦線構築への協力を求めた。
 これに対し、米国中心の有志連合の一員であるサウジアラビアはイランと協力したロシアの空爆に懸念を示すなど、両者の立場の違いが鮮明となっている。

 OPECが楽観視している原油需要についても、「価格低下が需要を刺激するのは事実だが、マクロ経済の成長減速でその大部分が相殺されている」(米シティ)という指摘もある(10月13日付ブルームバーグ)。

■中国の原油需要減少のインパクト

 国際エネルギー機関(IEA)は10月13日に発表した月報で、
 「世界的な石油の供給過剰は来年いっぱい続く」
との見通しを示した。
 非OPEC諸国の生産量が来年日量50万バレル減少するにもかかわらず、需要の伸び悩みに加え、OPECの主要産油国が記録的な生産水準を維持していることがその理由だが、OPECの見方よりも現実的である。

 しかしこの見通しに中国の原油需要の減少という要素は織り込まれていない。

 世界の原油需要を眺めると、近年、先進国は一進一退である一方、新興国は総じて増勢基調にある。
 中でも突出していたのが中国の需要の伸びである。
 2015年9月までの輸入量は前年比8.8%増だった。
 中国の原油輸入の増加傾向は、原油価格下落を下支えする最大の要素である。

 しかし、中国の原油輸入が鈍化・減少することになれば、原油価格に対し大きな押し下げとなる。
 ゴールドマン・サックスは9月の調査報告の中で
 「中国の原油輸入量が減少すれば原油価格は1バレル=20ドルに下落するかもしれない」
と指摘し、10月に入っても「原油価格は下落する」との見解を示している。

 最後に、このところ金融市場を騒がせていた大手商品取引会社だが、中国の輸入が予想以上の落ち込みとなり、その株式が再び売られた。

 先月末に暴落したグレンコアは債務削減のために豪州やチリの銅鉱山を売却する動きに出ている(10月12日付ブルームバーグ)。
 1バレル=40ドル台の原油価格がさらに下落すれば、保有しているシェール資産を手放す事態に追い込まれるだろう(米エネルギー調査会社IHSは14日「原油価格下落で世界の石油・ガスのほぼ全資産が売却対象になっている」とコメントした)。

 グレンコアなど大手商品取引会社の後ろ盾を失えば、シェール企業の大量破綻がまた一歩近づくことになる。
 これによる金融市場の大混乱で再び危機を迎えることになる日本経済に、はたして備えはあるのだろうか。


ダイヤモンドオンライン 2015年10月21日 高田創・みずほ総研チーフエコノミスト
http://diamond.jp/articles/-/79880

日本化」する中国経済、全治までには5年か

■日本で20年以上続いたバランスシート調整

 次の図表1は、日米欧と中国の民間債務のGDP比率の推移である。

◆図表1:日米欧と中国の民間債務GDP対比推移

◆図表1:日米欧と中国の民間債務GDP対比推移
(資料)BISよりみずほ総合研究所作成

筆者はこの図表を1990年代後半から約20年近く用いてきた。
 その理由は、実際に日本企業の債務調整に従事してきた実務家の立場から、日本のバブル崩壊後のバランスシート調整の目安を考えることにあった。

 同様に、この図表を用いて2007年から始まる欧米のバランスシート調整の議論も2000年代後半から行ってきた。
 そこでは、2007年から始まる欧米のバランスシート調整を、日本に類似した側面を持つ「日本化」として表現したことも多かった。

 現時点での認識は、
★.日本は1990年から始まった調整は四半世紀を経て債務水準から見て調整の目途が付いているものの、その間にマインドの下方屈折が生じた
というものである。
★.米国も調整に目途を付け、いち早く出口を検討する状況がFRBの利上げ論として議論されだしている。

 今回この図表を久しぶりに用いたのは、新たなバランスシート調整が、今度は中国で生じているのではないかとの問題意識からである。
 中国でもバランスシート調整の状況にあるとすれば、それは中国の「日本化」である。

■欧米で起きた「日本化」 全治までは10年単位を要する

 筆者はこの図表を20年近く用いながら日本のバランスシート調整、「日本化」を議論してきたが、その債務水準は1980年代前半の振り出しに戻っており、債務調整は完了したと言っていい。しかし、過去20年以上のデレバレッジとリストラで日本人のマインドが完全に委縮してしまったのが、「日本化」の特徴の一つと言える。

 その後、2007年以降、サブプライム問題、ユーロ統合ブームの反動を契機としたバランスシート調整が欧米で始まった。米国については、果断な公的資金対応とドル安誘導でいち早く債務調整を行い、2015年には出口の象徴としてFRBの利上げが議論されるまでに至った。

 ただし、そこに依然、「日本化」が残存するとすれば、投資の下方屈折が生じ「長期停滞」(secular stagnation)が語られることにあり、足下もなお、ゼロ金利状態が続いている。欧州の債務は依然高止まりしており、欧州は「日本化」にふさわしい状況とも言える。一度、バランスシート調整の「日本化」が生じると、日本からの教訓を見てきた欧米でも、全治まで10年単位での時間を要することになる。

■中国で急増する民間債務残高 「日本化」からの完治は5年単位か

 ここで問題となるのは中国のバランスシート調整である。
 先の図表1では、2008年以降、中国の民間債務残高が急速に伸びており、現時点でGDP対比水準が高いだけに日米欧の症状に類似したバランスシート調整が生じてもおかしくない。

 ただし、次の図表2に示されるように政府の債務残高水準が低いため、政府の財政余裕が大きく、対応余力があることが大きな危機を回避する抑止力になる。
 また、中国の経済発展段階がまだ若く、成長率の水準が依然、先進国より高いことから、先進国のバランスシート調整よりも早期の対処も可能な点は日本と異なる点だろう。

◆図表2:債務残高の国際比較(2013年末)


 同じバランスシート調整でも、前述の日本の1990年代以降、20年以上かかったこととの類似性よりも、むしろ、高度経済成長が転換した1970年代の石油危機時後のバランスシート調整に近いとも評価される。

 以上から勘案すれば、
★.中国のバランスシート調整は、クラッシュには至らないものの世界経済にとって依然テールリスクの一つとして認識せざるをえない。
 また、
★.一度、バランスシート調整に陥れば、通常は10年、中国でも5年近い年数を要することになるのを覚悟する必要があろう。

 世界は、従来のような中国の高成長に過度に依存しない「チャイナ・フリー・経済」を覚悟すべきだろう。

■8年サイクルで押し寄せる逆風 日本経済回復への正念場

 日本のバブル崩壊後の回復期待は、海外要因で挫折を繰り返した。
 1990年バブル崩壊後、日銀が2回も利上げを行ったように、日本でも2回の回復機会が存在した。
 しかし、結果的にどちらも持続的回復につながらなかった。

 最初の回復期待は2000年だが、米国発のITバブル崩壊で回復が途切れた。
 ただ、当時、日本の債務調整は完了していなかっただけに、2000年の利上げはあまりに早計だった。
 2回目は2006年で、同年に利上げも行われた。
 当時、前掲図表1から見ても債務調整に目途が付いたとしてもおかしくない状況だった。
 しかし、2007年から欧米のバランスシート調整が日本に押し寄せ、その影響で円高の逆風になり日本の回復期待は頓挫した。

 今回は、3度目の局面だ。
 ただし、中国発の調整が生じたことが、回復しかけたマインドの改善を再び下方屈折させる不安が生じている。
 2000年以降、およそ8年サイクルで生じた海外発の波が、日本経済の持続的回復を妨げるリスクに再びさらすこととなった。
 米国が震源地ではないだけに極端な円高に襲われる可能性は低いものの、アベノミクスの3年のなかで最大の逆風にさらされるまさに正念場だ。



Business Journal 2015/11/11 22:32 文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151111-00010004-biz_bj-nb

中国経済減速、
日本企業を直撃 売上激減、業績下方修正…

 上場会社の2015年9月中間決算の発表が続いている。
 業績は期初予想を上回った会社も少なくないが、市況の見通しには不透明感が滲み出ている。

 電機業界においては、売上高と利益項目のすべてで過去最高を更新中の日本電産、売上高も利益も期初予想を大きく上回り通期予想を上方修正した村田製作所など、絶好調の会社がある一方で、経営再建が混迷する東芝やシャープの例もある。
 しかし、これらはどちらも例外的な事例だ。

 業界各社の多くは、業績について「足元は悪くはないが、不透明感に包まれている」と感じているのが実態のようだ。
 9月中間決算が好調だった会社の中には、期初予想を上回ったが通期予想は下方修正している、という会社も少なくない。

 また、9月中間の実績にかかわらず、通期予想については「不透明感があまりにも強い」ことを理由に、据え置いているケースも目立つ。

 この不透明感の最大の要因は、「中国経済の減速懸念」である。
 また、9月中間決算においては、為替差益により、収益がいわゆる下駄を履いた状態になっているケースも多かったが、為替レートは通期では逆に振れる可能性もあり、各社が慎重になるのも当然だ。

 では、下期(今年10月から来年3月)の景気はどうなるのだろうか。
 そのひとつの指標として、半導体製造装置大手のアドバンテストの状況を見てみよう。

●中国経済の減速は一過性で収まる?

 アドバンテストは、半導体試験装置をはじめとした半導体製造装置の大手である。半導体製造装置というのは、半導体メーカーの投資によって受注が決まる。

 そして、半導体メーカーがどれだけ半導体をつくるかというのは、スマートフォン(スマホ)やテレビ、自動車などの最終製品が今後どのくらい売れるかの予測と言い換えることができる。
 つまり、半導体製造装置の需要予測は、景気を見通す上で重要な指標と考えていい。

 そのアドバンテストは、16年3月期の通期予想を下方修正している。
 それは、足元の受注が失速していることが理由だ。
 中国市場でのスマホ販売の減少などを背景に、半導体メーカーの非メモリ半導体用テストシステム投資が減速している。
 こうした背景により、16年3月期の下期業績は悪化が見込まれ、通期予想を下方修正したのだ。

 半導体製造装置は、受注から納品までのリードタイムが電子部品などと比べて格段に長いため、足元の受注が悪いと、下期の業績にそのまま影響する。
 アドバンテストの四半期ごとの売上高と受注の推移を見ると、今期も売上高は高水準だが、受注はこの第2四半期(15年7~9月)に大きく減少している。

 4~6月には440億円あった受注が、7~9月には271億円にとどまっているのだ。
 この受注減少が下期の売上高に影響するというのが、通期予想を下方修正した理由である。

 第2四半期の受注急減の中身を見ると、出荷先別では、台湾向けが第1四半期の144億円から38億円に、韓国向けが92億円から36億円に、それぞれ大きく減少している。

 これについて、アドバンテストでは、このように見ている。
 台湾向けでは、中国でのスマホ販売減少からアプリケーションおよびプロセッサ向け、ディスプレイ用ドライバIC向けなどの非メモリテスタ受注が減少、韓国向けではNAND型フラッシュメモリ投資が一巡したことやDRAMの投資計画見直しなどで、メモリテスタ受注が低調だった。

 簡単にいえば、中国市場でスマホが売れなくなり、さらに安いスマホが売れ始めていることが影響している、というわけだ。

 ただ、アドバンテストでは、中国市場のニーズがハイエンド商品に移行することなどを含めて、市況は徐々に改善すると見ている。
 したがって、受注はこの10~12月あたりが底で、第4四半期は上向くという観測のようだ。

 アドバンテストの見立てが正しければ、中国経済の減速懸念は一過性のものということになるのだが、はたしてどうだろうか?



WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年12月04日(Fri)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5664

成長鈍化のアフリカ
中国経済減速で苦境に

 11月1日付フィナンシャルタイムズ紙社説が、中国の経済減速によりアフリカの経済発展が試練に直面している、と論評しています。

◆金融危機以来最低の成長率

 すなわち、過去15年、「アフリカ台頭」礼讃者はアフリカの目覚ましい発展は単に中国への商品輸出によるものではないかとの批判を否定してきたが、今やその熱狂は厳しい試練に立たされている。
 IMFはサブサハラ諸国の今年の成長は金融危機前以来最低になり、来年の回復も限られたものになるとの見通しを出した。

 サブサハラ諸国2000年来の成長の大部分が高い資源価格と安い海外資本によるものだったことを悟りつつある。
 中国はアフリカの最大の貿易相手国になったが、最近の対中資源輸出の減少がアフリカ経済に打撃を与えている。

 ナイジェリアやアンゴラなどの産油国は最も大きな影響を受けている。
 IMFは主要8産油国(サブサハラのGDPの半分を占める)の今年の成長率見通しを7%から3.5%に引き下げた。
 経済の減速は不可避であったが、多くの政府はそれに対処する準備が出来ていない。
 多額の収入を得ていた10年間の好景気の時代に必要な蓄えをしなかったために今財政上の余裕が不十分で、経済は商品危機(コモディティー・クランチ)に入っている。

 中所得国も同様に問題を抱えている。
 ガーナの事例は資源の管理を誤ればブームは悪夢になることを示している。
 同国は2007年に石油を発見、2010年から産油国になったが、石油収入を債務削減、海外での基金設置や生産力強化のための国内投資に回さないで、公務員給与の引き上げ(3倍増)やエネルギー補助金の引き上げに使った。
 また、海外からの借り入れを増やした。

 海外借り入れを増やしたのはガーナだけではない。
 いくつかの国がユーロ債を発行した。投資先を探していた安い資金はアフリカに回った。
 ガーナの海外借り入れ拡大の愚策は、国債残高を増加させ、通貨は急落、今年の夏にはIMF救済を求めざるを得ない結果になった。

 サブサハラ諸国は良い時代に自国経済の多様化、強化を怠った。
 不安定な商品輸出や資本市場を乗り越えて発展するためには経済環境やインフラの改善が必要だ。
 しかし、過度に悲観すべきではない。
 アフリカは大きな可能性を持っており、成長鈍化も他の新興国程ではない。
 サブサハラが貧困を克服して発展を始めたとの考えは当面楽観にすぎた、と指摘しています。

出典:‘Africa’s rise is stalled by the Chinese slowdown’(Financial Times, November 1, 2015)
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/2a4f3cbc-7eff-11e5-98fb-5a6d4728f74e.html#axzz3qJwGq1CJ

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◆日本もODAの強化を

 ここ10~15年、アフリカは、種々の課題を抱えつつも、グローバリゼーション(貿易と投資)の波に乗って発展してきました。
 いくつかの産油国は7、8%の成長を達成していました。
 最近、一次産品価格の低迷が世界経済に深刻な影響を与えていますが、その中で特にアフリカが中国の経済減速と商品価格の低迷から大きな影響を受けています。

 特に中国の資源輸入減少の影響は大きいです。
 中国はアフリカに大きなプレゼンスを築き、2009年に中国は米国を追い越し、アフリカの最大の貿易相手国になったと言われます(2014-15年は約2000億ドル)。
 中国は原油輸入の3分の1をアンゴラやナイジェリアなどから買っています。
 南アフリカ、シエラレオネ、アンゴラなど約10カ国では総貿易の3割以上が対中貿易になっています。
 貿易や投資(サブサハラ向けに1800億ドル以上)の拡大に伴い、今や100万人の中国人がアフリカに居ると言われます。
 中国の貿易や投資によりアフリカは大きな恩恵を受けたことは事実ですが、近年、地場の雇用が少ない、不公正な労働慣行がある、汚職をしているなど、中国批判も出てきています。
 今や中国経済の減速がアフリカを翻弄しています。
 社説が指摘するガーナの事例は示唆的です。
 中国への資源輸出依存が特に高いアンゴラ、ナイジェリア、南アなどがどう対応するか、注目されます。

 しかし、アフリカも引き続きグローバリゼーションを通じて発展していくしかありません。
 従来アフリカの資金需要を満たしたのは主としてODAでしたが、2007年に対アフリカ資金供給で、民間直接投資総額がODA総額を上回りました。
 目下の試練を乗り切るために、今ODAの重要性を改めて認識し、それを強化していくべきではないでしょうか。
 社説が過度に悲観的になることを戒めている点には賛同できます。
 アフリカは大きな可能性を持っており、いずれ調整を経て、また、新しい前向きな展開が起きるのではないでしょうか。

 日本は、アフリカにおいてODAや民間投資等の分野で有益な役割を果たしてきました。
 こういう困難な時だからこそ、日本はインフラ整備等にODAを一層強化していくべきだと思います。

 最近、インドもアフリカとの関係強化に乗り出しています。
 10月26-29日に、第3回インド・アフリカ首脳会議がインドで開催されました。
 この会議は、日本が1993年に始めたアフリカ開発会議(TICAD)方式です。
 中国経済の減速を踏まえて、アフリカ側でインドに対する関心が強まっていると言います。
 同会議でモディ首相は、向こう5年間で100億ドルの対アフリカ譲許信用供与を発表しました。
 多くの国がアフリカに関心を向けることは歓迎すべきでしょう。



日本テレビ系(NNN) 12月5日(土)8時36分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20151205-00000014-nnn-int

 習主席、アフリカ諸国への7兆円協力を発表



 中国の習近平国家主席は、4日、南アフリカで開幕した「中国・アフリカ協力フォーラム」の首脳会合で演説し、アフリカへの協力に3年間で総額7兆円を超える資金提供を発表した。

 南アフリカのヨハネスブルクで4日に開幕したフォーラムで、習主席は「共同発展の新しい時代を切り開こう」と呼びかけた。
 そして、今後3年間にアフリカ諸国とインフラ整備や貿易の促進など10の分野での協力を計画し、総額600億ドル(約7兆3000億円)の資金を提供すると発表した。

 中国はアフリカでの影響力を強めており、来年、TICAD(=アフリカ開発会議)の首脳会合を初めて開催する日本をけん制する狙いもあるとみられる。


朝日新聞デジタル 12月6日(日)0時8分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151206-00000004-asahi-int

対アフリカへ7.4兆円 転機の中国、工業化支援に軸足


●日本と中国の対アフリカ貿易の推移

 南アフリカのヨハネスブルクで開かれた中国アフリカ協力フォーラム首脳会合が5日、閉幕した。
 中国は巨額の支援を打ち出し関係諸国を驚かせたが、アフリカでの根強い反発と転換期を迎えた中国の経済事情を踏まえ、関係の「モデルチェンジ」を図る構えだ。

 習近平(シーチンピン)国家主席が開幕式で表明した600億ドル(約7兆4千億円)の支援は、中国の手厚い支援に慣れてきた各国首脳にも驚きを与えた。
 南アのズマ大統領は
 「中国は自国の経済力や軍事力の強さを戦争ではなく、平和や開発に使おうとしている」
と絶賛した。

 ただ、大量の労働者を自国から送り込む中国式開発への反発も根強い。
 地元の労働者が劣悪な環境で働かされたり、中国製品が大量に流入し地元産業を圧迫したりする問題も各国で指摘されている。
 南ア・ウィットウォーターズランド大学のウィリアム・グメデ准教授(政治経済学)は
 「アフリカの指導者は、中国が自国に利益誘導していることを止めるべきだ。
 多くの労働者が中国人によって仕事を奪われている」
と話す。

 一方、中国経済の鈍化を背景に、中国のアフリカからの輸入額は2012年に775億ドルだったのが14年には740億ドルに減少。今年上半期の中国の対アフリカ直接投資額は前年比で4割以上減るなど経済の先行きに影が見え始めている。

 こうした背景を踏まえ、中国は対アフリカ協力の「モデルチェンジとバージョンアップ」(李克強(リーコーチアン)首相)を唱える。
 その核心がアフリカの工業化支援だ。

 習氏は4日、地元財界人との会合で
 「中国の経験を分かち合い、アフリカの工業化に資金と技術と人材を提供したい」
と述べた。







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