2015年10月16日金曜日

ドイツ大異変! (2) :やっぱりドイツが世界をダメにする? ドイツはいったいどこへ向かっているのだろう

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現代ビジネス 2015年10月12日(月) 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45706

緊急インタビュー!
仏学者エマニュエル・トッド「VW事件から見えてくる ドイツ最大の弱点」
~やっぱりドイツが世界をダメにする?

■こうなることは、見えていた

 「フォルクスワーゲンのスキャンダルについて、よく言われているのは、ドイツの技術力の評判が地に墜ちたのが問題だということでしょう。
 しかし、私はあまりそうだとは思いません。
 それよりも重要な問題があるように感じるのです」


●エマニュエル・トッド氏、64歳〔PHOTO〕gettyimages

 『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(文春新書)が日本で10万部を超えるベストセラーになっている、フランス国立人口学研究所研究員のエマニュエル・トッド氏。
 いま世界で最もその発言に影響力がある一人とされるフランス人学者は、本誌の取材にこう語った。

 ドイツ産業界を代表する名門企業であり、自動車業界の世界トップに君臨する「王」、フォルクスワーゲン。年間1000万台以上の自動車を売り、全世界で約60万人の従業員を雇用する巨大企業は、21世紀の成功企業のシンボルであった。

 それが、米国での排ガス規制を逃れるために、同社の主力ディーゼル車に不正なソフトウェアを使用していたことが発覚したのが9月18日のこと。
 以降、次々と新たな問題が噴出し、一向に騒動が収まらない緊急モードに突入。
 世界中から褒めあげられた名声が一夜にして、底まで墜ちた。

 誰もが想像すらしなかった異常事態だが、実はトッド氏はこのことを「予見」していたのだ。

■「米国の陰謀論」を持ち出す

 トッド氏といえば、1976年に発表した著書『最後の転落』で旧ソ連の崩壊を予測したことで有名。
 さらに、2002年には著書『帝国以後』で米国の没落を描くと、6年後に米国経済を根幹から揺るがすリーマン・ショックが勃発した。
 未来をピタリと言い当てる洞察力こそが、世界中の経営者や政治家、アカデミズムが「トッド信者」になる最大の理由である。

 そんなトッド氏が最近警鐘を鳴らしていたのが、ドイツだった。
 近著では次のように「ドイツの危機」を指摘していた。

 「私は悲観的だ。
 ドイツが望ましい方向に推移していく蓋然性は日々低下している。
 すでにきわめて低い水準にまで落ちている」

 「ドイツの指導者たちが支配的立場に立つとき、
 彼らに固有の精神的不安定性を生み出す。

 歴史的に確認できるとおり、支配的状況にあるとき、彼らは非常にしばしば、みんなにとって平和でリーズナブルな未来を構想することができなくなる」

■しばしば「モラル」を忘れるドイツ

 トッド氏はEU(欧州連合)内で経済力と影響力を拡大するドイツの指導者たちを指して、こう批判していた。
 これをそのままフォルクスワーゲンの指導者=経営者にあてはめると、今回の不正事件の深層をそのまま映すように、次のように読み替えられる。

 自動車業界の世界トップという「支配的立場」に立った彼らが、「精神的不安」に陥ったとき、不正に手を染めてしまった—。

 トッド氏は本誌に、続けて言う。

●: 「私はさきほど技術的な評判はあまり問題ではないと言いました。
 なぜかといえば、排ガスをごまかすための装置というものを作れること自体、技術的に妙技であるといえるからです。

 では、私が真に問題と考えるのはなにか。

それは、諸問題を単にテクニカル(技術的)なものとして扱い、モラル(道徳)の面を忘れてしまうという古くからのドイツの傾向です。
 フォルクスワーゲンのスキャンダルが起きて、世界中の人々はそんなドイツの特質を思い出したでしょう。
 知っての通り、この種の『中身のない合理性』は、それ自体が危険なのです」

 いくら優れた技術も、モラルに欠ける人間がそれを手にした時には「凶器」になり得る。
 フォルクスワーゲンは高い技術力を持つ一流メーカーでありながら、その「成果」の使い方を間違えてしまったわけだ。

「もう一点、付け加えて言いましょう」
トッド氏は言う。

●: 「フォルクスワーゲンのスキャンダルは、ドイツ人のアメリカに対する根深い感情について多くのことを教えてくれます。
 ドイツ人は心の底で、かなり反米の気持ちを強く持っています。
 ドイツ人はおそらく、リベラルなアメリカの価値観を受け入れないでしょう」

 フォルクスワーゲンのディーゼル車の不正を発見したのは、米国のウェストバージニア大学の研究者だった。
 その指摘を受けて、米環境保護庁が調査をしたところ、改めて不正が発見されたという経緯がある。

 そのため、一部からは「フォルクスワーゲンを倒すための米国の謀略」という陰謀論が浮上している。
 だが、トッド氏が指摘しているのは、そうした不毛な対立についてではない。

ヒトラーのような経営者が生まれる?

トッド氏は著書でこう書いている。

●: 「数世紀に及ぶ長い期間に注目する歴史家の観点から見て、
 アメリカとドイツは同じ諸価値を共有していない。
 大不況の経済的ストレスに直面したとき、
 リベラルな民主主義の国であるアメリカはルーズベルトを誕生させた。
 ところが、権威主義的で不平等な文化の国であるドイツはヒトラーを生み出したのだ」

 危機に直面した時に、どう立ち振る舞えるか。
 いまフォルクスワーゲンに問われている最大の課題はそこにある。

 果たして創業以来の危機に見舞われたフォルクスワーゲンが、「ヒトラー」のような経営トップをかつぎあげてしまう危険性はないのか。
 幹部たちがモラルを忘れてしまうほどに追い詰められた「精神的不安」とは、一体どういうものだったのか。
 その不安がいかにして、今世紀最大かつ最悪の不正を手招きしてしまったのか。

VW事件は、われわれに多くの課題を突き付けている。

「週刊現代」2015年10月17日号より



現代ビジネス 2015年10月16日(金) 川口マーン惠美
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45832

「EU瓦解」まで見えてきた!
~内紛勃発でメルケルは消沈、
ほくそ笑むのは独産業界!?

■ドイツの難民申請数は100万件を超える

 ハンガリーにいる難民を無制限に受け入れていることで、ドイツは上を下への大騒ぎになっている。
 怒涛のように押し寄せる難民。
 受け入れを義務付けられている各州は、すでにパニックになっている。

 大きなテント村をつくって、とりあえず難民を収容している場所もあるが、ドイツはもう最低気温が0度に近い。
 屋外にディーゼル燃料の巨大な機械がいくつも並び、そこで作った温風を太いパイプで24時間、テントに吹き込んでいるのだが、なにしろ断熱効果のまるでないペラペラのテントだ。

 ほとんど暖かくならない上、機械の故障も相次いでいるという。
 本格的な冬までにはどうにかしなくてはならない。

 ハンブルクでは、いよいよ場所がなくなり、使っていない民間の商業施設を市が没収できるよう、臨時の規則が作られた。
 警察が、倒産したテニスクラブの屋内競技場の入り口をドリルでこじ開けている映像がテレビで流れ、かなりショックだった。
 今、ドイツでは、多くの体育館で難民が寝ている。

 一方、笑いが止まらないのは、簡易ベッドや寝具、コンテナハウス、テント、簡易トイレ、そして、前述のディーゼル暖房装置などを納めている業者だろう。
 一部の人にとっては、棚から牡丹餅のチャンスだ。

 ただ、州政府と自治体は本当に困りきっている。
 どんどんやってくる難民たちだが、衣食住の世話だけでなく、彼らに本当に難民資格があるのかどうかも審査しなくてはならない。
 ところが、あまりの数でとても追いつかない。

 申請者数は、去年は20万で、今年は100万を超えるという予想。
 審査が滞っている書類は、ドイツ全国ですでに何十万件にも上っているという。

 どれぐらいの数の難民が、最終的にドイツで受け入れられるのかはまだわからないが、仮に半分が残るとしてもすごい数だ。
 現在、難民関係の職員が増員されているところだが、子供は就学の義務があるので、教員も増やさなければならない。

 また大人にも、語学コースだけでなく、職業訓練が必要だ。
 心的外傷に悩む人々もいるので、ソーシャルワーカーや心理学者も動員されている。

 難民一人当たりにかかる費用は、医療費や小遣いも含めて、1ヵ月でおよそ1,000ユーロだという。
 これに人数をかければ、恐ろしい金額になるが、それでもメルケル首相は、増税はないと言っている。
 確かに今のところ、ドイツの国家収支はプラスになっているから増税の必要はないのかもしれない。

 ただ、東西ドイツ統一の時も、最初、コール首相は国民に増税はないと約束していた。
 しかし、お金は天から降ってくるわけもなく、結局は足りなくなって、団結賦課金が徴収された。
 税という名こそ付いていなかったが、早い話が税金だ。
 統一から25年、我々は今日もそれを支払っている。

 今回の難民にかかる経費についても、同じようなことが起こるのではないかと思っている人は多いだろう。
 EUレベルでも、なんらかの難民がらみの経費が徴収されるのではないかという話はすでに出ている。

■難民政策をめぐり与党内の亀裂が深刻化

 さて、そのドイツで今、メルケル氏の難民政策をめぐって、与野党間ばかりか、与党内でも大きな対立が起こっている。

 現在の第3期メルケル政権は、
 メルケル氏率いるCDU(キリスト教民主同盟)と、
 その姉妹党CSU(キリスト教社会同盟)、
 そしてSPD(ドイツ社民党)の大連立
からなっている。
 CDUとCSUは同じ保守のコンビだが、
 SPDはそもそもCDUの対極として存在してきた党だ。

 これまでの戦後のドイツ政治は、CDUとSPDが交互に政権を担い、うまくバランスをとりながら進めてきた。
 ただ、ここのところ、右派も左派も言っていることにあまり差がない。

 なのに第2期メルケル政権のときは、この2党が与党と野党に別れたため、決まることも決まらず、弊害ばかりが目立った。
 そこで、現政権は大連立となったという経緯がある。

 大連立はいろいろなことがスムーズに決まるというメリットもあるが、しかし、常にそうなるという保証はない。
 経済政策などでは、商売第一で意見の一致が容易だが、難民政策のように人権が絡むと、この両党の意見は、ときに大きく異なる。

 そのうえ今回は、姉妹党であるCSUが一番声高にCDUおよびメルケル首相を非難しているので状況は複雑だ。
 今、国民は政府の内輪揉めを見せられるばかりで、腹立たしいことこのうえない。

 副首相のガブリエル氏(SPD)は、今年ドイツにやってくる難民は100万人を超えるとし、このままの状態を続けるのは無理であると言っている。
 内務大臣のデ・メジエール氏(CDU)も同意見で、いくら善意があろうとも、受け入れ能力には限りがあると宣言した。

 それなら上限を決めて、秩序だった受け入れを、というわけだ。

 しかし、デ・メジエール氏は、一部難民宿舎での暴力行為や、横柄な態度なども指摘したため、評判を落とした。
 10月2日付のこのコラムでも書いた通り、難民を少しでも非難する言動は、ドイツではタブーなのだ。

 難民は絶対善。
 問題を指摘する人間は反人道的。
 案の定、この発言のあと、難民問題はデ・メジエール内相の手を離れ、首相府が直接担当することになった。
 現在の束ね役は、メルケル氏の一番の参謀、アルトマイヤー氏だ。

 一方、CSUの党首、ゼーホーファー氏は非難などものともせず、最初から一貫して、メルケル首相の人道政策(?)に反対している。
 連邦政府は、難民を無制限に州政府に押し付けており、これは州政府の管轄権の侵害であるというのが彼の主張だ。

 そして、これが続くなら、憲法裁判所(ドイツの最高裁判所)への起訴の可能性までほのめかした。
 与党内の亀裂は深刻だ。

 それに対して、メルケル首相も負けてはいない。
 ことあるごとに、「政治難民の受け入れに上限はない」と言い続け、難民流入を止める手だては取らない方針を貫いている。
 しかし、この政策は必ずしも国民に支持されてはおらず、現在、メルケル氏の人気がガタ落ちになっていることは、やはり前述のコラムで書いた。

■難民の受け入れがさらなる格差社会を生む

 ところがそのCDUが10月の初めに突然、将来は難民を国内に入れず、国境で審査して、資格があるとわかった者だけを入国させ、ない者はすぐに帰ってもらおうと言い出した。
 つまり、オーストリアとの国境付近に大きな収容所を作り、さっさと審査をする。
 ドイツの空港で、すでに長年取られている措置である。

 ただ、空港の場合は人数が限られているし、毎日、亡命希望者が到着するわけではない。
 難民は雲隠れもできない。
 毎日何千人もやってくるオーストリア国境の状況とはまるで違う。

 オーストリアとドイツの国境は長い。
 入ろうと思えばどこからでも入れる。
 国境をすべて見張ることは、壁を作らない限りできない。
 そして、まさにその"壁"に、ドイツ人は悪夢のようなトラウマがある。

 それに、その大量の難民を収容する場所をどうやって作るのか? 
 どうやって、素早く審査していくのか? 
 そのあと、どうやって送り返すのか?

 また、難民以外の人はどうなるのか? 
 難民と難民でない人を、どうやって区別するのか? 
 難民が、難民でないふりをして移動することもできるのだろうか? 
 連立与党のSPDでさえ、この案の実現には非常に懐疑的だ。

 EUの理念は、「人、物、金、サービスの自由な移動」であり、それによってヨーロッパを統合していくというのが最終目標だった。

 しかし、今では、あちこちで入国審査が復活している。
 ハンガリーは押し寄せる難民の波からEUの国境を守りきれず、溜まってしまった国内の難民を、特別列車でオーストリアに送り、オーストリアは、それをドイツに送っている。

 ブルガリアはトルコ国境を監視し、チェコはオーストリア国境を閉じ、ドイツもオーストリア国境での監視を強めている。
 イタリアとフランスの間でも、フランスとイギリスの間でも、難民の押し付け合いは熾烈になっている。
 シェンゲン協定は、すでに壊れてしまっている。

 夏にハンガリーがセルビアとの国境に塀を作ったとき、ドイツ政府はそれを激しく糾弾したが、結局、ドイツ政府がこれからやろうとしていることも、基本的にはあまり変わらない。

 ドイツ政府の公式見解は依然として、「迫害されている者はドイツでの庇護を享受する」であり、産業界は難民の良質な労働力に期待しているという。

 両者とも、難民問題をチャンスに変えるのだと意気込んでいるが、水面下では、難民には最低賃金法を適用しないで済むような例外措置を講じよう、という動きがすでに出始めているらしい。
 産業界が難民に期待しているのは、良質な労働力だけではなく、安価な労働力でもある。

 ドイツでは、産業界の長年の反対を押し切って、ようやく
 今年の1月から時給8.5ユーロという最低賃金法が施行
されている。
 これはフランスの最低賃金よりも低い水準だ。
 しかし実際には、ドイツには、これ以下の賃金でも働く人たちがたくさんいる。

 難民が大量に労働市場に入り、しかも彼らが最低賃金法から除外されるとすれば、下手をすると、ドイツは将来、さらに大きな格差社会への道を歩む危険すらあるように思う。



ロイター 2015年 10月 16日 15:22 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/10/16/angle-vw-scandal-germany-idJPKCN0SA0E220151016?sp=true

アングル:排ガス不正でVW擁護するドイツ、
反米感情も再燃

[ベルリン 15日 ロイター] -
  排ガス不正問題を引き起こした独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)(VOWG_p.DE)に対し、米規制当局の厳しい姿勢とは対照的に、ドイツの政治家や当局者は慎重に接している。

 「メード・イン・ジャーマニー」ブランドの代表格であるVWへのダメージを極力抑えようと、メルケル独首相は先週に行った演説の中で、同国の約7人に1人が働く自動車業界の側に立つと約束した。

 VW本社のあるニーダーザクセン州のバイル州首相は13日、「ドイツ産業の真珠」である同社は共に戦う価値のある企業だと称賛した。

 一方、ドイツ規制当局もこのスキャンダルについて、非常に素っ気ない声明を出すだけで、問題のある対象車をいかに修理するかに注力したいようだ。

 これは、比較的規制が緩やかなドイツの慣習を踏襲している。

 金融危機を受けて英米や欧州連合(EU)の規制当局は銀行に対し、何十億ドルもの制裁金などを課した。
 その中には独銀行最大手のドイツ銀行(DBKGn.DE)も含まれていたが、独連邦金融監督庁(BaFin)はほとんど沈黙を守っていた。

 今回のVWの場合では、連邦金融監督庁は不正発表前後の状況について「いつも通りの調査」を行っているとしている。

 だが、VWが米規制当局との電話会議で9月3日に不正を正式に認めてから公にするまでに2週間以上を要している。

 ドイツでは、新車の承認や、新車の環境基準への適合検査はともに連邦自動車庁(KBA)の管轄となっている。
 一方、米国では、排ガス規制は自動車業界とは離れた環境保護局(EPA)が行う。

■<不正ソフト>

 KBAは15日、VWに対し、国内で対象車240万台のリコール(無償回収・修理)を強制する方針を示したが、VWが不正ソフトを搭載した対象車計1100万台のリコール計画を同庁に提出してからすでに約1週間経っていた。

 KBAの報道官は、自動車メーカーの不正に対してペナルティーを科した前例はないと語った。
 一方、米国のEPAは、VWが最大180億ドル(約2.1兆円)の罰金を科される可能性があるとしている。

 ドイツと米国の対応の違いは、米EPAが2016年のディーゼル車モデルを承認しないとVWを脅したことでも鮮明だ。
 この脅しが、VWに不正を告白させるに至った。

 米司法省は数日のうちに刑事捜査を始め、ニューヨーク州などの州検事総長も合同捜査を開始した。

 先週には米下院公聴会でVW米国法人トップが追及を受け、同英国法人社長も今週、英議会に引きずり出された。

 一方ドイツでは、引責辞任したウィンターコルン前最高経営責任者(CEO)もミュラー現CEOも、今のところ議会で証言するような状況に立たされてはいない。

 また、ドイツ検察当局がVW本社や関連先の家宅捜索を始めたのは、約3週間も経過した後だった。

■<国民の支持>

 VWのスキャンダルは米消費者の激しい怒りを買い、同社は数多くの訴訟に直面している。
 それに比べてドイツ国民の反応は控えめであり、自国の優れたエンジニアリングの代名詞である同社を多くの人は非難したがらない。

 今年出版されたドイツ人に関する書籍「How Germans Tick」によると、ドイツと言えば何を連想するかをドイツ人に聞いたところ、63%がフォルクスワーゲンを挙げたという。

 また、市場調査団体パルスが先週発表した調査では、54%が今でもVW車の購入に興味があると回答し、最も多かった。
 一方、もう二度と買わないと答えた人は11%、当分の間は買わないと答えた人は35%だった。

 愛する自国ブランドに対する米国の取り締まりは、反米感情にも火を付けている。
 一部のドイツ人は米国の厳しい反応について、欧州最大の自動車メーカーであるVWを弱体化しようとする意図的な行為だと考えている。

 米国への疑念はすでに、ドイツに対する米スパイ活動が報じられて以来、拡大していた。
 首都ベルリンでは10日、欧米間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)に反対する25万人規模のデモが行われた。

 フェイスブック上では、
 「VWは米国にとって目の上のたんこぶ」
 「VW、アウディ、シュコダ、セアトは今でもとても良い車。
 米国人は欧州の自動車メーカーをねたんでいるだけ」
といった投稿も見られた。

(Caroline Copley記者、翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)


ニューズウイーク 2015年11月12日(木)16時00分 河東哲夫(本誌コラムニスト)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/11/post-4105.php

世界を滅ぼすドイツ帝国?
いや、今こそ日独同盟の勧め
人民元につられてイギリスの外交漂流が進むなか、
日本は欧州の盟主と再び手を組むしかない

 先月中旬に行われた習近平(シー・チンピン)中国国家主席の訪英は、
 イギリスの「外交漂流」
を印象付けた。
 その前の訪米では議会演説が認められず、不完全燃焼で帰国した習が、イギリスではもろ手を挙げた歓迎を受けた。

 イギリス政府は人権問題を棚に上げ、アメリカへの当て付けのごとく議会演説までさせる念の入れよう。
 訪英直後には南シナ海に中国が築いた人工島の12カイリ(約22キロ)内を米艦が航行。
 シリアでロシアの爆撃が続き、ヨーロッパではウクライナ問題や中東からの難民殺到という情勢のなか、アメリカの最良の同盟国、米欧の懸け橋であるはずのイギリスの姿はかすんでしまった。

 イギリスはロンドンに世界最大の金融市場シティーを抱える。
 ポンドが基軸通貨でなくなった戦後、シティーは海外を循環する米ドルを右から左に動かすことで、90年代には英GDPの20%相当の利益をたたき出した。
 リーマン・ショック後は米ドルから人民元を動かすことで起死回生を狙う。
 習も、中国以外では初となる人民元建て国債の発行をシティーで始めると明らかにして、イギリスの心をくすぐった。
 ここには、オズボーン英財務相の思惑ばかりが前に立ち、外務当局の顔は見えない。

 来年、日本はG7首脳会議の議長国を務める。
 新興国経済は中だるみ、20カ国・地域(G20)は調整能力欠如を露呈するなか、G7の役割は重要になっている。
 イギリスが漂流する今、日本はヨーロッパの軸をどこに求めるか。
 対日関係を重視してきたオランド大統領のフランスと共に、ヨーロッパの盟主になりつつあるドイツとも意思の疎通、連携に努めないといけない。

■フランス人学者の「空想」

 日独が置かれた地政学上の地位は驚くほど似通ってきた。
 かつてはロシアが無力化し、ドイツにとって対米同盟の切実性は低下していた。
 だが、今ではウクライナやシリアでロシアがアメリカとの対抗上、武力行使をためらわない姿勢を見せている。
 ドイツにとってアメリカとの同盟は再び必須となった。

 それは拡張主義に転じている中国の隣に位置するが故に、対米関係強化を必要とする日本とよく似ている。
 筆者は先月ベルリンを訪れたが、ドイツの外交当局は今、アメリカとの関係を再活性化しようと考えている。
 ベルリンの空気に身をさらしてみれば、フランスの人口学者エマニュエル・トッドが『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』で述べるような、ドイツの単騎独行が空想物語であることはよく分かる。

 1922年にドイツは欧米諸国を見限り、共産革命で爪はじきのソ連と手を握る芸当を見せた。
 ただこれは第一次大戦後、敗戦で窮地に陥ったドイツがフランスに対抗して手を結んだ緊急避難にすぎない。
 ドイツが欧州で独り勝ちの経済を持つ今は、そんな必要はない。
 近年も徴兵制を事実上廃止したことが示すように、今のドイツの識者、世論は軍隊の域外派遣にすら後ろ向きで、対米同盟を捨てて自主防衛に移るような冒険は論外だ。

 日本にはドイツに対して、第二次大戦を共に戦ったという思い入れも見られる。
 ドイツ人も、「次回はもっとうまくやろう」などと冗談で言ってくることがあるが、大多数のドイツ人は日本を異質と見ている。
 ドイツ人は個人の権利を重視するヨーロッパ人、日本人はろくに休暇も取らず働きづめ、集団主義で「個」がない、というわけだ。

 しかし、中ロが復讐主義的動きを見せ、新興国経済は中だるみ、アメリカはこれから大統領選というなかで、世界のGDPの3、4位、最も堅実な工業基盤を持つ日独は、アメリカを東西で支え、言うべきことは言う重しとならねばならない。
 民主主義、言論の自由、高水準の社会福祉、自由貿易など、近代の豊かで自由な社会を支えてきた原則が踏みにじられないように、踏ん張るべきときだろう。

 それは日独にとって、国連安全保障理事会常任理事国の席よりよほど現実性・実効性のある、今ここにある課題なのだ。

[2015年11月17日号掲載]


 現代ビジネス 2015年12月18日(金) 川口マーン惠美
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46952

「正義」を振りかざすEUの身勝手
〜搾取の歴史を直視しなければ、テロも難民も永遠に解決しない
利己主義的な本質があらわに

■イギリスの11時間、ドイツの4時間

 12月4日、ARD(ドイツ公共放送連盟)のベルリン支局の記者アーント・ヘンツェ氏の興味深い論評が、同社のオンラインニュースに載った。
 12月の第一週、イギリスとドイツの議会がほぼ同時期にシリア参戦を協議、そして承認したのだが、2日、イギリス下院では11時間をかけて、空爆をするかどうかについて侃々諤々の議論が交わされた。
 キャメロン内閣が速やかな決断の必要を強調したにもかかわらず、議員たちはそれに乗らず、執拗な質問責めで、参戦の意義、目的、危険度についての討議に持ち込んだ。
 100人以上の議員が発言し、キャメロン首相もそれに存分に応じ、最終的な票決では、なんと67人もの労働党議員が賛成組に転じた。
 彼らは、11時間の討論の間に、キャメロン首相の主張に納得したのである。

 それと正反対なのが、ドイツの連邦議会だった。
 やはり4日と6日にシリア参戦が討議されたが、両日合わせても4時間足らず。
 「この軍事行動は国際法上問題がないのか」
という議員の質問に対しても、外務大臣が「ここは学術セミナーではない」と一蹴したという。
 結局、ここで行われたのは、ただの"アリバイ議論"にすぎなかったとヘンツェ氏はいう。

 ドイツ連邦軍の目的は、もちろんISの打倒である。
 トーネードという偵察機を飛ばすことになっている。
 ただ、シリアにおける問題は、ISが敵だということはわかっても、味方が誰だかがよくわからないことだ。

 その話は先々週も書いたが、アサド大統領に対峙する反アサド勢力の中にも、「良い反アサド勢力」と「悪い反アサド勢力」がいるし、クルド族にも「良いクルド族」と「悪いクルド族」がいるし、それどころか、「良いアサド大統領」と「悪いアサド大統領」がいる。
 要するに、「良い」と「悪い」は味方の間でも一致しない。
 普通、こんなものを軍事同盟とは言わない。

 当然、噴出する疑問は多い。
 たとえばドイツの偵察機がいつ、どこへ出動するのかというような情報をサウジアラビアに知らせるべきか否か?
 サウジアラビアがISと戦いながら、それを陰に陽に支援していることは周知の事実だ。
 このままでは、戦闘機同士が空中衝突してしまう可能性も否定できないという声もあるが、これは誰かが大げさに触れ回っているだけかもしれない。

 いずれにしても、ドイツでは大連立の強みでアレヨアレヨという間にシリア参戦が決まってしまった。
 反対したのは左派党だけで、緑の党も反対論陣を張らない。
 票決のときも、議場の真ん中に置かれた投票箱の周りで、どの議員も場違いなほどにこやかだったので、私はひどく違和感を覚えた。
 国防大臣は、軍を増強するため、これから新しく1万人の兵隊をリクルートしたいとも言っている。

■EU設立時の理念は風前の灯

 ドイツ政府は、ここ数ヵ月、その他にもいろいろなことをあっという間に決めた。
 EUでの難民の処遇を定めたダブリン協定を「時代遅れ」といって無効にし、ハンガリーやバルカン半島にいた難民を直接ドイツへ受け入れた。
 しかし、その波のあまりの大きさに驚くと、今度は、EUの大綱であるシェンゲン協定に反して国境検査を始めた。
 そのうえEU加盟国に連帯を求め、非協力と思われる国を諌める辺りは、あたかも自分たちが世界中の人権を守っていると言わんばかりだ。

 90年に東西ドイツが統一した頃、多くのヨーロッパの国が「強いドイツ」が蘇るのではないかと懸念した。
 しかし、あの頃のドイツは健気で、控えめで、「強いドイツ? そんなこと、ありえない」と誰もが思うほど、過去の罪の後ろに隠れていた。行動するにしても、ヨーロッパという名の下でしか立とうとはしなかった。
 ところが今、ドイツは多くのことを一人で決めはじめた。
 『タイム』が言うまでもなくメルケル首相はまさに「時の人」で、EUはすでに、ドイツの望まないことは決められない状況になっている。
 しかも、他のEUの多くの国々があっけにとられたり、怒ったりしていることは、目に入らない。
 あるいは、無視する。

 ドイツはいったいどこへ向かっているのだろう。
 民主主義の模範的な実践者であろうとして70年間歩んできたドイツが、今、じわじわと民主主義を壊しかけているような不気味な感じを、私は最近よく持つ。
 壊れてしまうのは、EUそのものである可能性も捨てきれない。
 「自由と平和と民主主義の実現」という美しい理念と希望の下に生まれたEUは、ギリシャの金融危機や難民問題など、本当に連帯が必要な事件が持ち上がった途端、統合などそっちのけで、各国がそれぞれ自国の利益を死守しようと懸命になっている。
 それは、言い換えれば、ヨーロッパを塀で囲って自分たちだけが豊かになろうとしたEUの利己主義的な本質が、もろに露出しただけなのではないだろうか。
 EUにはあまりにも矛盾が多い。
 私は今、少しEU懐疑派になっている。

 EUの侵食には、今、テロという新たな脅威が加わった。
 テロにはひとかけらの正義もない。
 だからEUが反テロという旗印の下に団結するのは当然のことだが、とはいえ、あたかも自分たちだけに「永遠の正義」があるかのごとく振舞っているヨーロッパの姿には、いつものことながらうんざりする。

 ヨーロッパによる搾取の歴史は長い。
 その建前が、「キリスト教の布教」から「民主主義の布教」に変わっているとはいえ
 ヨーロッパが一方的にアラブとアフリカの既存の秩序を壊し続けている事実は、今も昔も変わらない。
 いくら援助をしようとも、ヨーロッパ人が、その矛盾を自覚しない限り、難民問題もテロ問題も永久に解決しないのではないか。

■民主主義とは何か? EUとは何か?

 毎日、懸命にニュースを追っていると、いろいろな疑問が脳裏を駆け巡る。
 このたび、そんな諸々の考察をまとめたものが一冊の本になった。
 『ヨーロッパから民主主義が消える 難民・テロ・蘇る国境』(PHP新書)。

 民主主義とは何か、
 EUとは何か、
 ユーロとは何か、
 EUを破壊する起爆剤となりうる問題とは何か。
 そもそも、諸国家の統合は可能なのか。
 可能だとしたら、その見返りとして何が犠牲になるのか。
 そして、将来の世界はどのような風景になっていくのか---というようなことを、多くの事例をもとに考えている。

 どの問題も現在進行形で、予断を許さない。
 ただ一つだけ私が確信しているのは、
 欧米は、ヨーロッパの近現代史の総決算をしないままではこれ以上先に進めなくなる、
ということだ。
 それはわれわれ日本人にも当てはまる。
 経済大国である日本は、決して傍観者ではいられない。

拙著は、12月16日から書店に並ぶ予定です。お手にとっていただければ嬉しく存じます。












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