2015年10月5日月曜日

揺れる日本自動車界:VW自滅の後に来るもの、スズキの動静が目玉に

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ダイヤモンドオンライン 2015年10月5日 週刊ダイヤモンド編集部
http://diamond.jp/articles/-/79372

VW自滅を横目に、トヨタとスズキの提携に現実味

 『週刊ダイヤモンド』10月10日号の第1特集は
 「トヨタvsフォルクスワーゲン最強の自動車メーカー」
です。
 独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正スキャンダルが勃発し、トヨタ自動車に好機が転がり込んでいます。
 一方、VWと“離婚”したばかりのスズキは新たな組手を模索するのでしょうか。
 世界の勢力図が激変する中、最強の自動車メーカーを巡る決戦の行方を追います。

 “孤独死”もあり得るかもしらん──。
 独フォルクスワーゲン(VW)との提携解消を決意し、単独で生き残る道を選んでいたはずの鈴木修・スズキ会長は、近しい人物に思わずそう漏らした。

 今年8月末、スズキとVWの4年にわたる泥仕合に終止符が打たれ、提携解消がついに成立した。
 記者会見の席では、
 「(今後は)提携を考えているというより、自立して生きていくことを前提にやっていきたい」
と、強気な姿勢を示していた修会長。

 しかし胸の内では、単独で生き残れるどころか、新たな提携相手すら見つからない“孤独死シナリオ”も想定するほど、実は強烈な危機感を今、抱いているはずだ。

 スズキがVWに離婚を通告し、国際仲裁裁判所に提携解消を申し立てたのは2011年。
 その後、VWのドイツ本社で交渉のテーブルに着いたマルティン・ヴィンターコーン社長(当時)は提携継続を切望したが、スズキの原山保人・現副会長は声を荒らげ、
 「私たちは別れたいんだ」
との一点張り。
 修会長は、それを黙って聞いていたという。

 亀裂の発端は、VWがアニュアルレポートでスズキを持分法適用会社に位置付けたことにある。
 これに対し、「対等な関係」や「経営の自主独立性」を重視するスズキは「話が違う」と猛反発。
 その後、事態は国際仲裁裁判所での仲裁交渉に発展し、関係修復はもはや不可能となった。

 そもそもスズキがVWと提携した目的は、環境技術の提供を受けることにあった。
 大手メーカーに比べて研究開発費も大きく見劣りするスズキが、今も技術的課題を抱えていることに変わりはない。

 ほかならぬ修会長自身、そう認識しているのだろう。
 9月17日、スズキはVWが保有するスズキ株の買い戻しを終了した。
 総額約4600億円
 元手は自己資金で、自社株を消却する予定は今のところない。
 新たな提携の際に株の持ち合いとなれば手元の自社株を渡すこともできる、いわば戦略的な“余地”を残したといえる。

 新たな相手とはどこか。
 むろん今度こそ慎重に選ぶだろうが、修会長がかつてVWとの提携時に明言したように、今も「1000万台クラブ」を求めるならビッグスリーしかあるまい。

 このうちVWとの「“再婚”はない」(修会長)。
 かつて提携関係にあった米ゼネラル・モーターズ(GM)とよりを戻す可能性はあるが、今のGMはもはや何もかも与えてくれる優しいGMではない。

 となると、最後の選択肢は、日本の自動車業界の盟主・トヨタ自動車しかない。
 国土交通省幹部やスズキの主力銀行筋も、そんな見立てをしている。

 実はスズキはGMやVWと提携する以前、危機に見舞われた際に2度もトヨタに支援を請い、救済された歴史を持つ。

 1度目は1950年、「東の東芝、西の鈴木」といわれた日本最大級の労働争議が前年に勃発し、大赤字を計上したときだ。

 初代・道雄社長は当時のトヨタ3代目社長、石田退三氏に2000万円の融資や役員派遣を請い、石田氏もこれを快諾。
 石田氏はスズキを訪問し、社員を前に「スズキの経営に口を出すつもりはないので、安心して仕事に励んでほしい」と述べたという。

 2度目は1976年、東京で初の光化学スモッグ被害が発生したことを機に排ガス規制が強化されたときだ。
 スズキはクリアのめどが立たず、絶望的な状況に陥る。
 最後はトヨタからエンジンを供給してもらい、九死に一生を得た。

 このとき、当時のトヨタ5代目社長、豊田英二氏に救済を依頼したのが、修会長(当時、専務)その人なのだ。
 「修さんは、英二さんには感謝している」。
 両氏を古くからよく知る自動車ジャーナリストはこう解説する。

 偶然なのか、スズキとトヨタは、共に自動織機メーカーとして産声を上げ、発祥の地も同じ遠州(静岡県西部地方。現・浜松市)と縁が深い。
 修会長が同世代で関係も良好といわれる豊田章一郎・トヨタ名誉会長に3度目の救済を請うとしても意外感はない。

■トヨタが弱いインドと小型車
スズキを得る魅力

 自動車産業の戦いは今、環境・安全規制の強化を背景に国家間競争の性格を強めつつある。

 規模拡大路線を取って赤字転落の憂き目に遭ったトヨタが再びボリュームを追求することはないにしても、国を背負う業界の盟主としての自覚はあるはずだ。
 日本の自動車産業の未来を考えたとき、スズキが救済を請えば断るとは考えにくい。

 トヨタにしてみれば、スズキは提携相手としても魅力的に映るはずだ。
 スズキは世界で戦える小型車と、世界4位の巨大市場に浮上するインドでの圧倒的シェアを持つ。
 VWもそこに目を付けていたほどで、トヨタが自前では苦戦している商品サイズと市場を手中に収めることが可能だ。

 本誌は9月下旬、修会長にトヨタとの新たな提携はあり得るか、単刀直入に真意を尋ねた――。

■アナリスト4人が大胆評価!
「生存確率」が高いのは?



 日本の自動車メーカーは数が多過ぎる──。
 世界を見渡しても、一国に乗用車主体のメーカーだけで8社が乱立しているのは異様な光景だ。
 これまで8社が併存できたのは、旺盛な国内市場があったことはもとより、各社が商品や技術、戦い方で差別化し、独自の進化を遂げたことと無縁ではない。

 今回の特集では、長年、自動車業界をウオッチしてきた有力アナリスト4人に、日系メーカーを五つの物差し(経営者、商品、技術、社交性、将来性)で大胆に評価してもらった。
 “定量分析”にめっぽう強い彼らだが、普段から密接なコミュニケーションを取っているからこそ分かる、各社のカルチャーや特異性、独自性をあぶり出すため、あえて“定性評価”にこだわった。

 最も興味深いのは、「経営者」の評価。
 スズキについては、鈴木修会長・俊宏社長の双方を評価対象とするよう依頼したのだが、それでも、4人そろって『カリスマ的統治』と回答。
 日産自動車のカルロス・ゴーン会長兼社長も同様だが、「カリスマというよりも独裁的」と評する声も。

 意外なことに、「ホンダイズム」「スカイアクティブ」に代表されるように、唯我独尊の企業イメージがあるホンダ、マツダは『民主的統治』となった。
 創業家出身の豊田章男・トヨタ自動車社長や、米国躍進の礎を築いた吉永泰之・富士重工業社長の評価は割れた。

 自動車メーカーの肝である「商品」「技術」については、『芸術性が高い』『イノベーティブ』となったのはマツダや富士重くらい。
 世界的にスモールカーが主流となる中、各社のオリジナリティは埋没しているといえるだろう。

 国内市場の縮小、環境規制の高まり、異業種参入──。
 自動車業界が激動期に入った今、8社体制が終焉を迎えることは間違いない。
 その“生存確率”を予想する上で目安になるのが、「将来性」に対する評価だ。
 ここではトヨタの評価が抜きんでており、「ヒト、モノ、カネ、技術といった豊かな経営資源を持っている」(バークレイズ証券の吉田氏)。
 圧倒的シェアを持つインドでの存在感、節約精神が買われてスズキも好評価だった。

 業績絶好調の富士重に対して、複数のアナリストが「未開領域が減り、伸びしろがない」と、ピリリと辛口評価も相次いだ。
 三菱自動車、ダイハツ工業に至っては、「将来性」のみならず、総合的に見て渋い評価が並び、黄色信号がともる結果になった。

■欧州の王者VWが自滅
米ITも巻き込む国家間戦争

 『週刊ダイヤモンド』10月10日号の第1特集は「トヨタvsフォルクスワーゲン 最強の自動車メーカー」です。

 この半年間を眺めると、自動車業界の勢力図が大きく動き始めていることが分かります。
 円安効果は一巡し、国内軽自動車市場も頭打ちの兆しを見せつつある中、スズキと独フォルクスワーゲン(VW)の離婚調停にも決着がつき、トヨタはマツダと電撃提携。
 さらにトヨタは新設計手法TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)に基づく第一弾、新型「プリウス」を初披露し、着実な足腰固めのフェーズに入りました。

 そして何より、2015年、目標を3年前倒ししてトヨタを追い抜き、初の世界販売台数首位に躍り出ることが濃厚だったVWに、最大の“誤算”が襲いかかりました。
 一連の排ガス不正スキャンダルは深刻化の一途をたどっており、先は全く読めない事態となっています。

 ただでさえ2020~25年にかけて、世界の環境規制のハードルが一気に上がる上、VW問題を受けて燃費・排ガス規制の測定方法や基準が一気に厳格化されそうな方向にあります。
 各自動車メーカーがそれらをクリアするために要するコストは跳ね上がる一方です。

 米Googleや米Appleまで自動車開発に乗り出す中、本特集では、王者不在の大乱戦時代に突入した自動車業界の現場を追いました。
 チーム欧州や現代自動車などの韓国勢、さらには巨大IT企業を相手に、“チームジャパン”は勝利を収めることができるのでしょうか。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)



ダイヤモンドオンライン 2015年10月5日 川橋敦[オートモーティブ部門シニアディレクター]
http://diamond.jp/articles/-/79397

スバル、マツダが商品魅力度評価で大躍進した理由

 2015年9月24日、J.D.パワーは、「2015年日本自動車商品魅力度調査SM(Automotive Performance, Execution and Layout Study,略称APEAL)」を発表しました。
 新車購入後2~9ヵ月を経過したユーザーを対象に実施した本調査では、ユーザーの関心が燃費や価格など「経済性」から、見た目や運転する楽しさといった「車本来の価値」に移りつつある傾向が表れました。

■「安心して乗れる」は当たり前!
魅力度を左右する新たな要素とは

 車は2つの軸で評価することができます。

 1つは「安心して乗れる」という軸。
 これは、壊れた、動かない、使いづらい、使いかたがわからないといった「ネガティブな要素がいかに少ないか」を見る評価軸で、前回紹介したIQS調査によってスコアを測ることができます。

もう1つは「魅力的に感じる」という軸です。
 たとえば、見た目のよさ、乗り心地のよさ、運転しているときの気持ちよさといった「ポジティブな要素がいかに多いか」を見る評価軸です。
 今回紹介するAPEAL(Automotive Performance, Execution and Layout Study・商品魅力調査)は、この部分をユーザーから聞き、1000点満点で表したものです。

 ユーザーとしてはどちらも満足度に影響する重要な評価ですが、
 最近の車は故障や不具合が少なくなり「安心して乗れる」のが当たり前
という感覚が強くなっています。
 そのため、「いかに魅力的か」を表すAPEALスコアが、所有後の満足感を高めるうえで重要なポイントといえます。

 また、安心して乗れる車(IQSスコアがよい)と魅力的に感じる車(APEALスコアがよい)があった場合、当社の調査では魅力的に感じる車のほうが「人に勧めたい」という気持ちが強くなることがわかっています。
 「勧めたい」という気持ちは「買ってよかった」「次も同じ車を買おう」という意識と相関性が高いため、APEALスコアが高いほど、購入者自身の満足度も高くなりやすいといえます。

■レクサスがトップ!
スバルが大躍進のその理由とは?

 では、APEALの調査結果を見ていきましょう。

 調査対象は新車を購入して2~9ヵ月のユーザーで、聞き取り項目は、外装、内装、収納とスペース、燃費など10分野、計77項目。
 それらを集計して、メーカー、車種、車のタイプ(軽、コンパクト、ミッドサイズなど5セグメント)ごとにスコアを出しています。

 平均スコアは、前年より6ポイント上昇し、628ポイントとなりました。
 とくに上昇が大きかったのが、内装とシートで8ポイント上昇。
 外装、燃費も7ポイント上昇しています。

 ブランド別スコアでは、レクサスが前回調査に続いてトップ。
 また、輸入車が上位を占めているのも特徴といえます。

 注目したいのは、スバルが前年から28ポイント上昇して5位に、マツダも23ポイントと大きく上昇し10位となった点です。
 全体平均の上昇率が6ポイントであることを踏まえると、いずれも大きな上昇といえるでしょう。
 これは両ブランドが「走り」や「デザイン」といった点に力を入れ、それがユーザーの評価に結びついていると分析できます。


 APEALのスコアは、外装の満足度のウエイトが大きく、とくにフロント周りのスタイリングと見栄えがよいほど、得点も高くなりやすいという特徴があります。
 たとえばミッドサイズや軽自動車の場合、満足と感じる理由の約20%が外装によるものです。
 ミッドサイズでは「エンジン・トランスミッション」、ミニバンでは「走行性能」のウエイトも大きくなっています。

 ランキングの上位に輸入車が多いということは、それらの点で満足している人が多いことを表しています。
 そして、スバルとマツダの躍進も、このような点が他の国産ブランドより高く評価されていると読み取れるのです。



■「燃費」で選ぶだけじゃない!
車選びの新常識とは

 ところでみなさんは、車を選ぶ際にどんな点を重視するでしょうか。

 調査では「燃費」や「価格・支払条件」を重視する人が多く、燃費を重視する人は42%、価格・支払条件は36%で、上位2つを占めています。
 これは、経済性が車選びの重要なポイントとなっていることを表しています。

 ただし、前年との比較では、それぞれ2ポイントほど下落しました。
 そして、その次に多い「外観」「室内空間」「車のイメージ」を重視する人が前年から増えているのです。

 主な要因は2つ考えられます。

1つは、各メーカーがハイブリッドカーや電気自動車を開発したことにより、ユーザーの選択肢が増えたことです。

 エコカーは、従来のガソリン車より大幅に燃費性能がよい点が注目されてきました。
 しかし、その技術の進化がひと段落し、エコカー同士での比較では、どの車を選んでも大きな差がなくなりました。
 その結果、ユーザーが「燃費がよく、しかもプラスαの魅力がある車」に目を向けるようになり、「外観」「室内空間」「車のイメージ」を重視するようになったと考えることができます。

2つ目は、2012年9月にエコカー補助金が終了したことで、「お得だから買う(買い替える)」というインセンティブが小さくなったことです。
 つまり、経済的なメリットが小さくなったことで、車選びの視点が徐々に変わり、多様化していると見ることができます。
 尚、買い替え等による経済的なメリットとしては現状でもエコカー減税がありますが、その内容も15年4月に見直され、実質的に縮小されました。
 そのため、今後もユーザーの目線が経済性からその他の点に変化する可能性が考えられます。

 車が「走るもの」であり「乗るもの」であると考えると、今回の調査でスコアが上がった外観や走行性能などは、「車の本質的な価値」と言い換えることができるでしょう。
 ユーザーの関心が経済性からそれ以外に向きはじめているということは、燃費や価格で選ぶというトレンドが変わりつつあることを表しているのかもしれません。

 もちろん経済性も重要なポイントですが、エコカー減税などのメリットを実感するのは基本的には購入時のみです。
 日常的に感じる満足度という点から見ても、燃費のよさを実感するのは主に給油(充電)時ですが、外観や室内空間の満足感は乗り降りする度に実感できます。

 これから車を買おうと考えている人にとっては、ここがポイントの1つになるでしょう。
 購入時にはお金のことに意識が向きやすくなります。
 日常的に乗る人にとっては燃費も重要でしょう。
 しかし、購入後の満足感という点から見ると、経済性以外の要素に注目してみることが大切です。
 見た目がいいなあ、乗り心地がいいなあ、運転していて楽しいなあと感じるかどうかがカギといえます。

 一方の自動車業界/メーカー各社にとっても、車の商品性そのものを、自動車業界やメーカー視点ではなく「お客様視点」で見直すことが重要です。
 所有後の満足感アップが、ブランドや車に対するロイヤルティ向上や、昨今言われる「車離れ」の解消にも結びつくでしょう。
 そのためには、お客様が日々、どのようなときに車を保有する喜びを感じているか、「自動車」という製品がお客様の生活にどんな価値や喜びを提供しているかを検証するプロセスの再構築が必要といえます。
 また、お客様による製品評価結果をこれまで以上に活用をする必要があるともいえます。

<調査概要>
J.D. パワー アジア・パシフィック
「2015年日本自動車商品魅力度(APEAL)調査SM」
当調査は、新車購入後2~9ヶ月経過したユーザー1万8649人から回答を得た。調査対象の車両は全16ブランド、121モデルであり、有効サンプル数が100サンプル以上のブランドおよびモデルをランキング対象としている。調査は2015年5月から6月にかけて実施された。