2015年10月10日土曜日

環太平洋連携協定 TPP(2):「対中国包囲網」、AIIBや一帯一路という「実需」戦略で対抗する中国

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TPP陣営 西側の価値観を共有する12カ国による「対中包囲網」 USTR Press Office-Reuters


ニューズウイーク 2015年10月8日(木)17時30分 遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/10/tpp-7.php

TPPに「実需」戦略で対抗する中国
AIIBや一帯一路という「実需」、
および二国間FTA等のカードが中国にはある

 TPP大筋合意に対して、中国はAIIBや一帯一路という「実需」および二国間の自由貿易協定FTA等で対抗しようとしている。
 「あれは部長級の合意に過ぎないと」と、TPPの最終的実現性にも疑問を呈している。

■中国は「TPPは対中国の経済包囲網」と認識している

 中国はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を中国に対する経済包囲網だと位置づけ、早くからAIIB(アジアインフラ投資銀行)や一帯一路(21世紀の陸と海の新シルクロード経済ベルトと経済ロード)を用意して、日米などによる経済包囲網形成を阻止しようとした。

 このたびのTPP参加12カ国による大筋合意を、中国の商務部(部:中央行政省庁。
 日本の「省」に当たる)関係者は、
 「あれは、たかだか部長級の合意に過ぎず、
 それぞれの参加国が自国に持ち帰って国の決議機関で賛同を取り付けなければならない」
と言い放った。

 その例として、アメリカでは来年、大統領選挙があり、共和党としてはオバマ叩きと民主党下しにTPPの難点を強調して攻撃を始めるだろうから、米議会を通らない可能性があるとしている。

 またカナダでも10月19日に総選挙が行われることになっており、現政権のハーパー首相(親米保守党)が落選した場合、野党の新民主党が乳製品の市場開放に反対していることから、議会での賛同は得られないだろうと見ている。

 いずれも、TPP交渉が長引き大統領選まで持ち込んでしまったことが、痛手になるだろうと踏んでいるのだ。

 またTPP参加国のうち、オーストラリアとニュージーランドとは、二国間のFTA(自由貿易協定)をすでに結んでいるので、あとは少しずつFTAを増やしていこうと、TPPの完全成立までに切り崩していこうという考えも持っている。

 AIIBに関しては、今さら言うまでもなく西側諸国(特にG7)の切り崩しに成功しているので、習近平国家主席は10月20日にエリザベス女王の招聘を受けて訪英することを決めている。
 イギリスは2015年3月18日の本コラムでも詳述したように、中国に弱みを握られていて、少なくとも経済に関してはほぼ中国の言いなりだ。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20150318-00043960/

 ヨーロッパを押さえておけば、「陸のシルクロード」と一帯一路に関しては、アメリカに圧力を与えることができると考えている。
 海のシルクロードの拠点としては、10月5日の本コラム
 「インドネシア高速鉄道、中国の計算」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20151005-00050138/
で考察したように、何としてもインドネシアを押さえておけば、南シナ海からインド洋へ抜けていく海路を掌握することができる。

 日本は、たかだか一つの新幹線プロジェクトを逃しただけだと思っているかもしれないが、中国が高速鉄道事業を通してインドネシアに楔(くさび)を打ったことは、TPPに対抗するための「AIIBと一帯一路」構想としては、欠かせないコアだったのである。
 これを見逃してはいけない。

 ギリシャのピレウス港運営権に関しても、7月2日の本コラム「ギリシャ危機と一帯一路」で書いたように、TPPにより形成される経済包囲網に対して、きちんと碇(いかり)を下ろしてある。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20150702-00047164/


■「実需」戦略により勝負する中国

 オバマ大統領は「中国のような国に、世界経済のルールを書かせない」と言っているようだが、
 中国は「ルールの統一」を図るTPPに対して、「実需」を取る政策を動かしている。
 AIIBに対して、融資の基準の低さや不透明性を理由として参加しなかったアメリカだが、
 中国は「自分たちは発展途上国のニーズを緊急に満たす」という「実需」を優先して関係国を助けていくのだとしている(中国の言い分)。

 それがインドネシアの高速鉄道に象徴されている。

 TPP12カ国のうち、AIIBにも参加している国は
 「オーストラリア、
 ニュージーランド、
 シンガポール、
 ブルネイ、
 マレーシア、
 ベトナム」
の6カ国だ。
 このうちオーストラリアとニュージーランドとは、すでにFTAを結んでいる。
 残りの4カ国と結べば、TPP参加国の半数を落せる。
 これらは「実需」によって動く可能性のある国だ。
(なお、シンガポールとはすでに交渉が煮詰まっている。)

 さらにAIIBには参加してないが、中国の「実需」戦略に乗り得るTPP参加国としては、
 「チリ、メキシコ、ペルー」などがある。
 この3カ国は一帯一路の線上にはないが、しかしFTAの対象にはなる可能性を持っている。
(このうち、チリとは交渉が煮詰まっている。)

■中国は「普遍的価値観」を共有する気はない

 日本の一部のメディアや研究者の間には、中国をTPP的価値観の中に入れていくことが望ましいと期待する向きもあるが、それは考えない方がいいだろう。

 中国には巨大な独占企業のような国有企業がある。

 この国有企業を民営化の方向に持っていって、何とか構造改革をしようとしてはいるが、大きな困難を伴うだろう。
 WTOに加盟して「国際ルール」に沿うのが精いっぱいで、オバマ大統領が主張するような「統一的ルール」には乗らない「国情」があるのである。

 それに、中国が最も嫌うのは「普遍的価値観」だ。
 西側諸国の価値観を中国内に持ち込めば、たちまち「民主化」が起こり、中国共産党による一党支配は崩壊する。
 だから、絶対に西側の価値観を持ち込ませないために、あらゆる手段を考えては言論統制をしているのである。

 中国は普遍的価値観の代わりに
 「特色ある社会主義の核心的価値観」
必死になって植え付けようとしている。
 これがうまく行くはずもないのだが、ともかくこの「価値観」というファクターを、日本は頭に入れておいた方がいいだろう。

 中韓のFTAは締結され、今は日中韓のFTAに関する交渉を日本は進めているようだが、TPP的精神で進める限り、妥協点を見い出すのは困難なのではないだろうか。

■東アジア地域包括的経済連携の展望

 もっとも、日中韓とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国およびインド、オーストラリア、ニュージーランドなどの16カ国の自由貿易をめざす東アジア地域包括的経済連携(RCEP、アールセップ)というのがあるが、ここにTPP的ルールを導入する限り、やはりうまくはいかないだろう。
(中国とASEANのサービス貿易協定や投資協定などは締結されている。)

 国際社会に二重三重のオーバーラップした連携を形成するより、中国は「社会主義的価値観」を崩さずにAIIBや一帯一路で「実需」を中心として動き、TPP参加国とも二国間FTAをできるだけ多く結んで中国の構想を推し進めていくだろう。

 特に90年代半ばから陸の新シルクロードのコアとなっている中央アジア諸国の政治情勢は安定しているのに対し、アメリカがチョッカイを出し始めた中東は混乱を極めている。
 その間に中国はロシアを含めた中央アジア諸国との上海協力機構の枠組みで「陸」を安定させておき、「海路」にシフトしながら、「実需」に向けてまい進するものと推測される。

 以上、特に「価値観」というファクターが横たわっていることを肝に命じつつ、中国の「実需」戦略が、どこまでTPPを食い止めることができるか、あるいは「共存」することができるか、注目したいところである。



ニューズウイーク 2015年10月8日(木)12時26分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/10/post-3976.php

クリントン氏
「TPP支持しない」発言は民主党支持者へのリップサービス?

 国務長官時代に支持していたTPPに反対するのは、
 選挙戦での劣勢を挽回するため?

 米国の次期大統領選挙で民主党の有力候補と目されるヒラリー・クリントン前国務長官は7日、今週参加12カ国が大筋合意に達した環太平洋連携協定(TPP)について、支持しない立場を表明した。
 米公共放送(PBS)「ニュースアワー」とのインタビューで述べた。

 クリントン氏は国務長官時代、TPPを基本的に支持する姿勢を示していたが、
 7日のインタビューでは「現時点で把握している内容は望ましくない」と反対を表明。

 「私は最初から、米国民の雇用創出、賃金上昇、国家安全保障の強化につながる貿易協定を結ぶ必要があると語ってきた。
 他にも多くの疑問が解消されていないと思うが、私にとってはこの3点に尽きる
とした上で、TPPは「私が設定した高い基準を満たすとは思わない」と述べた。

 同氏はこの日、遊説先のアイオワ州で、
 為替操作への対策がTPP合意に含まれていないことを懸念している
と語った。

 民主党支持者を対象とした世論調査で支持率首位を保ってきたクリントン氏だが、国務長官時代に私用メールアドレスを公務に使っていた問題をめぐる論争が続く中、他候補に対するリードは縮まっている。

 クリントン氏が支持基盤に取り込みたい労働組合を含めた多くの民主党支持者は、TPPによって国内製造業の雇用が打撃を受け、環境規制が弱体化することを懸念し、合意に反対している。

[ワシントン/ニューヨーク 7日 ロイター]



ダイヤモンドオンライン 2015年10月13日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/79800

中国はTPPの大筋合意をどれくらい警戒しているのか?

■TPP大筋合意のオバマ表明で予感した中国世論の荒れ模様

 10月5日(米東部時間)、日本や米国が主導し、他の10ヵ国とともに厳しい交渉を進めてきた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が大筋合意に達した。
 米アトランタで行われていたその最終交渉の模様を、私はワシントンDCでウォッチしていた。

 同日、オバマ大統領がTPP協定交渉基本合意を受けて声明を発表した。
 「我が国の経済を成長させ、中産階級を強くするために、大統領としての毎日の時間を費やし、闘ってきた」
と冒頭で切り出した同大統領は、
 「米国の95%以上の潜在的な顧客が海外に居る状況下において、
 中国のような国家にグローバル経済のルールを決めさせてはならない。
 我々こそがそれらのルールを書くのだ。
 労働者と生態環境を守るためのハイスタンダードを設定しつつ、米国の製品にマーケットを開かせるのだ」
と米国のTPPへの意思とスタンスを表明した(米ホワイトハウス公式サイト参照)。

 この声明を読みながら、咄嗟に
 「ああ、中国の対米世論は荒れるだろうなあ」
という想像が、私の脳裏をよぎった。

 「TPPって何? どなたか詳しい人はいる? 
 中国はどうすればいいのか?」
 「これは米国が中国を封じ込め、アジア太平洋地域から締め出すための陰謀だ」
 「習近平主席が米国訪問を終えた直後の合意。
 中国への見せかけであり、挑発だ」

 同日、最近中国国内で流行しているソーシャルネットワークサービス“微信”(We Chat)で私が属しているいくつかの“群”(グループ)を覗き込むと、この手のコメントが氾濫していた。
 匿名の掲示板ではない。
 大学教授やジャーナリストをはじめとした知識人がクローズドな空間で、実名で発している言葉である。

 フォローさえすれば、対象である言論が誰でも閲覧できる中国版ツイッター“微博”
とは異なり、
 微信では互いに承認したユーザー同士しかその言論に触れることができない
 最近の中国におけるソーシャルコミュニケーションにおいて、人々の関心とコミットメントはあからさまに、
 微博から微信にシフト
している。

  「地上の言論空間が統制されている中国において、
 現在、微信の“群”こそが一種の議会であり、
 最も自由で活発な議論を交わすことができる舞台だ」
 知り合いの中国人投資家はこう語る。
 この人物が属している群には、約30名が“在籍”しており、そこには、中国を代表するジャーナリスト、学者、企業家、そして政府のスポークスマンや閣僚級高官などが含まれる。
 「私はこの群での交流に1日4~5時間費やしている。
 頻繁に発言しないと、群の責任者からキックアウトされるルールになっている」(同投資家)
のだと言う。

■陰謀論に楽観論と様々、中国知識人たちの第一印象

 群における中国知識人のTPPに対する“第一印象”をゆるく色分けすると、
★.「米国が中国を封じ込めるための新たな陰謀」という、警戒心に満ちた陰謀説と、
★.「気にする必要はない。
 中国は自らの道を行き、自分たちの秩序をつくればいい」という、
 突き放すような楽観論に割れていた。

 10月7日、中国の政府系シンクタンクで国際関係を研究する学者が、群のなかで比較的長めのコメントを披露した。

  「この2日間のTPPに関する文章を俯瞰してみると、その多くが感情的であり、オバマの“中国のような国家にルールを決められてはならない”の一言に憤慨を示している傾向が強いように思われる。
 オバマ声明は、米国が中国の発展を米国のグローバル経済主導権に対する脅威だと認識していることの裏返しだと言える。
 TPPがピンポイントに対中政策の一環であることは明らかだ」

  「一方で、TPPの内容において、中国が目指す改革の方向性と合致する部分が多いことも確かであり、参考になる。
 今回の交渉では、米国が制度建設とルールセッティングの分野で自らのソフトパワーを発揮した。
 これは中国に欠けている能力であり、特に“一帯一路”(One Belt One Road)建設などの過程で米国に学ぶ必要がある」

 また、私が所属する2つのシンクタンク群のなかで引用された見解として、中国知識人の戦略観を象徴していると感じたのは、馮〓・上海復旦大学教授(日本研究専門、〓の文字は王へんに韋)による
 「TPPは米国がアジア回帰する過程で、
 経済貿易の分野で中国を封じ込めるための重要な仕掛けであり、
 TPPが中国に挑戦することは免れない。
 だとすれば、我々に残された選択は参戦しかない」
というコメントと、龐中英・中国人民大学教授(米国研究専門)による
 「中国が非創始国としてTPPへの加入を申請した場合、
 それは重大な地政学のシグナルとなる。
 すなわち、中国が引き続き米国が主導するグローバルリーダーシップと国際秩序を受け入れることを表明することになる。
 そう考えると、仮にTPPが間接的に中国の改革と開放を促すことができるのだとしても、
 そこへの加入は我々の選択肢ではない」
というコメントであった。

  “TPP大筋合意”でスタートした先週、私はワシントンDCで、対米外交の政策評価を担当する中国政府の幹部と話をする機会があった。
 当然、TPPが話題の中心であったが、中国政府としてどう見ているかをうかがうと、開口一番、次のような答えが返ってきた。

  「合意の直後に商務部報道官が出した声明がすべてだ」

 10月6日(北京時間)、商務部報道官は次のような声明を端的に発表している。
  「中国はWTOのルールに符合し、アジア太平洋地域における経済一体化を促すことに寄与する制度建設に対して、一律に開放的な態度を保持している」
  「TPPは昨今のアジア太平洋地域における重要な自由貿易協定の1つであり、中国はTPPが同地域における、他の自由貿易協定と相互に促進的な関係を形成し、共にアジア太平洋地域の貿易投資と経済発展に貢献していくことを希望する」

 この幹部は続ける。

  「中国政府として、TPP交渉が米国主導の下で本格的に開始された当初は、相当警戒していたが、徐々にシフトし、現在の立場に至っている。
 自らが設定したルールのなかで中国の存在や行動を“規制”することが米国の目的だとすれば、中国が加入しないTPPが不完全であることは明らかだ。
 米国がTPPという枠組みをめぐって中国を排除することはない。
 巻き込むことこそが目的だ」

■今後TPPに中国が加入する 可能性はあるのだろうか?

 私は、最も聞き出したかった質問を口にした。

  「そんなTPPに、時期やタイミングは別にして、中国は加入するのですか?」

  比較的長い付き合いであり、信頼関係もあるこの人物からなら、ホンネが聞けると思っていた私に、先方は言葉を選ぶように返答してきた。

  「TPPそのものの展望、中国の改革開放双方に変数がある。
 情勢を見極めながら、そのときのベストな判断をしていくだけだ。
 ただ、中国としては、TPPはWTOや他の自由貿易協定と相互補完的な関係にあるものだと考えている。
 従って、開放的な態度を保持していると言っている」

 将来的に加入するか否かに関しては明言しなかったが、はぐらかされたというよりは、中国政府内でも本当に決まっていないのだと私は考えている。
 大きな方向性とスタンスは設定・堅持・公表しつつも、状況や情勢の変化に応じて柔軟な意思決定ができるように、進路・退路を含めた選択の幅を残しておく。
 内政・外交を問わず、中国の政策立案・決定・執行プロセスにしばしば見られる現象であるように思う。

 現在に至るまで、中国共産党指導部から漏れてくるTPPへの現状認識と立場表明として、最も権威のある公言は、10月8日、高虎城・商務相が北京の主流メディアからのインタビューで答えた内容であろう。
 前出の報道官の主張を踏襲しつつ、より具体的な発言をしている。
 3つのセンテンスを抽出してみたい。

 「米政府やTPP参加国はTPPが中国を封じ込めたり、排斥するものではないと表明してきた。
 実際に、中米など21のアジア太平洋経済協力会議(APEC)参加国は昨年北京で開かれた会議において、APECがアジア太平洋で自由貿易区の実現を促進するためのロードマップを採択している。
 中国は米国と手を携え、マルチ貿易体制の枠組みで、世界貿易ルールの制定を巡って協力を強化したいと思っている」

 「国際貿易構造の変遷は、結局は国際産業構造の調整と各国商品の国際競争力によって左右されるものだ。
 中国は終始対外開放という基本的国策を顕示し、グローバル経済の一体化とマルチ貿易体制を一貫して支持し、グローバルバリュー・チェーンの改善と発展を奨励していきたい」

  「“グローバル規模におけるハイスタンダードな自由貿易区ネットワークの形成”は党の三中全会が決定した重要な政策である。
 中国はすでにASEAN諸国、チリ、スイス、ニュージーランド、韓国、オーストラリアなど22の国家・地域と14の自由貿易協定を締結しており、また関連諸国と東アジア包括的経済連携(RCEP)や中日韓自由貿易区、および中国・ASEAN諸国間の自由貿易区のアップグレードなどの交渉を展開している」

■TPPを見据えて中国政府がやろうとしていること

 ここから導き出せる“中国政府がやろうとしていること”が3つある。

 (1): 国際貿易システムのルール設定を巡って米国と対立するつもりはないこと
 (2): TPPを国策である改革開放を促進する一環と見なし、取り組んでいくこと
 (3): TPP基本合意を受けて、進行中の自由貿易協定交渉を加速させていくこと

 特に、ASEAN10ヵ国+日本、韓国、中国、ニュージーランド、インド、オーストラリアが交渉に参加するRCEPの合意・促進に中国は一層の力を入れていく空気を、ワシントンDCと北京の地で私は感じている(筆者注:RCEPの概要に関しては、日本外務省が作成した資料を参照)。

  「RCEPを例にすれば、交渉が合意に漕ぎ着けた場合、それは世界最大の人口をカバーし、参加国が最も多元的で、経済発展レベルのギャップが最も大きく、最も活力に富んだ自由貿易区となるだろう。
 RCEP交渉にはTPPに参加する7ヵ国も含まれており、透明性、開放性、包容性が鮮明な特色になる」(高虎城商務相)

 高商務相のこの発言から、中国がRCEPを以てTPPの“対抗馬”にする意思が多かれ少なかれあること、一方で、TPPとRCEPが、枠組み・参加国・地域性という3つの観点から、相互関連性の深い関係にあると認識していることが読み取れる。

 中国政府や知識人たちのTPP基本合意への反応やスタンスをレビューしてきた。
 ここからは、本連載の核心的テーマである中国民主化研究という観点から、私が現段階で押さえておくべきだと考えるインプリケーションを3つ提起してみたい。

■中国民主化研究という観点から押さえておくべき「3つのインプリケーション」

 1つ目に、TPPが掲げる内容と中国の改革開放・構造改革が掲げる目標は相当程度において同じ方向を向いており、かつ中国がTPPに対して“開放的な態度”を保持する限り、TPPという存在と進展は中国の健全な発展を促すであろうことである。

 TPPは、ハイスタンダード、市場開放、関税の漸進的撤廃、知的財産の保護、国有企業優遇の制限あるいは禁止、生態環境や労働環境を巡る条件改善といった内容を重要視するが、これらはまさに昨今の中国が“ニューノーマル”(新常態)や構造改革といった観点から推し進めようとしているアジェンダである。
 「中国政府としては、まずは上海自由貿易試験区においてTPPが掲げる目標の実践に取り組むべく、現在協議を進めている」(上海市人民政府幹部)
という。

 2つ目に、米国と日本がハイスタンダードを掲げて主導するTPPが中国を戦略的に“取り込む”プロセスは、経済貿易や安全保障を含めた対外関係において、中国の拡張・膨張的姿勢を牽制するだけでなく、対内的にも市場化、法治化、そして民主化への道を切り開く契機になるであろうことである。

 その意味で、日本にとってTPPという枠組みあるいは視角を通じての中国との付き合い方は、極めてストラテジックであると言える。
 10月6日、基本合意を受けて、日本の安倍首相は、
 「基本的価値を共有する国々と相互依存関係を深め、将来的に中国もTPPに参加すれば、わが国の安全保障にとっても、アジア太平洋地域の安定にも大きく寄与し、戦略的にも非常に大きな意義がある」
と述べたが、全く同感である。

 3つ目に、TPPと中国の相互発展という観点から懸念されるのが、中国国内で高まる排外的なナショナリズムである。
 前述においても、知識人たちの、特に米国に対する対抗心や警戒心を伴った一種のナショナリズムを紹介したが、大衆世論に至っては、
 「これは米国が中国に仕掛けた新しい戦争だ」、
 「日本は安保法案だけでなくTPPを利用して中国を侵攻しようとしている」
といった極端な言論が蔓延している。

 この状況に関して、前出のワシントンDCで向き合った中国政府の幹部は、
 「最近は外交交渉が大衆世論に縛られるケースが増えている。
 TPPもその1つになり得る」
と、自国の排他的なナショナリズムを懸念していた。

 仮にTPPを巡る対外関係や交渉がきっかけで狭隘なナショナリズムが蔓延り、中国社会がTPPや日米が主導するルール・システム・価値観への対抗心からより内向きになり、その過程で政策決定者が大衆世論に“ハイジャック”され、中国が本来持つイデオロギーの独自性や政治経済体制の異質性をこれまで以上に強調し、追求していくような状況になれば、TPPという産物が結果的に、中国民主化への道を遅延・停滞させてしまうジレンマ、そしてリスクをはらんでいると見るべきであろう。



現代ビジネス  2015年10月12日(月) 近藤 大介
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45761

「対中国包囲網」がついに完成!
四面楚歌に追いこまれた習近平の「次の一手」とは?

■「弱り目に祟り目」の習近平主席

 国家、あるいは国家を背負う政治家には、「流れ」というものがある。
 ある時には、「勝ち将棋鬼のごとし」と言うように、何をやっても面白いようにうまくいく。
 まるで世界中の「運」という磁力を、掌中に収めているような錯覚を覚えるほどだ。

 ところが逆に、「弱り目に祟り目」と言うように、打つ手打つ手がうまくいかないこともある。
 まるで水流に逆行するサケのように、このような時の周囲からの「抵抗感」は半端ではない。
 まさに四面楚歌となりがちだ。

 2015年後半の中国及び習近平主席を見ていると、どうも後者の「流れ」に入ったように思えてならないのである。

 中国経済は、株価暴落、過剰投資、債務過多、消費低迷などの影響で、減速感が強まっている。
 そこで状況を打開すべく、習近平主席は9月下旬に訪米したが、国賓待遇のはずなのに、まるで「国賊待遇」のような扱いを受けた。

 その結果、期待していたBIT(米中投資協定)を締結できなかった。
 それどころか習近平主席は、南シナ海とサイバーテロ問題で轟々たる非難を浴び、オバマ大統領との米中首脳会談を終えた後、共同声明すら出せなかったのだ。

 散々たる思いで帰国すると、今度はVWの排ガス規制偽装問題が火を噴いた。
 中国の最大の貿易相手はEUで、中でもその中心がドイツで、ドイツの中でも中心がVWである。

 VWは2014年の全世界での販売台数1016万台中、中国で368万台も販売していた。
 実に全体の3分の1を超える量だ。
 中国はアメリカに右の頬を引っぱたかれた上に、EUから左の頬を引っぱたかれたようなものだ。

■日米による経済的な「中国包囲網」が完成

 そして先週、アジア太平洋地域から「次なる津波」が押し寄せた。
 10月5日に、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が大筋合意に達したのである。
 オバマ大統領は同日、
 「中国ではなく、われわれが世界経済のルールを作るのだ」
と、語気を強めて語った。

 安倍首相も10月6日、こう力説した。

 「TPPは、日本とアメリカがリードして、アジア太平洋に自由と繁栄の海を築き上げるものです。
 経済面での地域の『法の支配』を抜本的に強化するものであり、戦略的にも非常に大きな意義があります」

 TPPとは、日米が中心になった経済的な「中国包囲網」に他ならない
ことを、図らずも日米両首脳が吐露したようなものだった。

 今回の大筋合意へ至るTPPの交渉過程を振り返ると、主に「三つの流れ」があったことが分かる。

1].「第一の流れ」は、単純な多国間貿易交渉としてのTPPである。
 TPPはもともと、2002年のメキシコAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、シンガポール、ニュージーランド、チリの3ヵ国で始めたEPA(経済連携協定)交渉が源流である。
 2005年に、シンガポールと並ぶ「ASEANの先進国」ブルネイも加わり、2006年5月に4ヵ国で発効した。
 これによって4ヵ国の貿易において、関税の9割が撤廃された。
 この段階までは、いわば小国同士がまとめて締結した「共同EPA」に過ぎなかったのだ。

2].続いて「第二の流れ」は、アメリカが、ブレトンウッズ体制の存続のために利用したことだった。
 2008年9月のリーマン・ショックで、金融危機に陥ったアメリカは、すぐにTPPへの参加を表明した。
 TPPを利用して、アメリカが中心となった21世紀の自由貿易体制を再構築しようとしたのである。

 アメリカの呼びかけに、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシアが応じた。
 2010年11月の横浜APECでは、オバマ米大統領が9ヵ国の議長を務め、早期の交渉妥結を図ることを決議したのだった。

 2012年11月に、アメリカとNAFTA(北米自由貿易協定)を結んでいるカナダとメキシコも合流。
 同年末の時点で、交渉参加国は11ヵ国となった。
 ここまでが、「第二の流れ」である。

3].そして「第三の流れ」は、2013年7月に、安倍晋三政権下の日本が参加表明したことだ。
 安倍政権の目的はズバリ、「アメリカと組んで経済分野で中国包囲網を築く」ことだった。
 安倍政権は中国とどう向き合うのか

 安倍首相は第1次政権の2006年末、「自由と繁栄の弧」という外交戦略を打ち出した。
 これは、自由と民主主義という同じ理念を持つ国々が、そうでない国(=中国)を海上から包囲することによって繁栄を築こうというものだった。

 具体的には、日本、韓国、フィリピン、オーストラリア、タイ、インド、トルコなどを結ぶ「中国包囲網」を、日本が主導権を取って築く構想だ。
 もちろん、そのバックに控えるのはアメリカである。

 だが、この「自由と繁栄の弧」構想は、未完に終わる。
 その最大の理由は、中国の周辺国の多くは、すでに中国が最大の貿易相手国か、もしくは近未来に最大の貿易相手国となることが見込まれていたからだ。

 この頃からアジアの国々では、国防はアメリカに依存し、経済は中国に依存するという傾向が顕著になってきた。
 そのため中国の周辺国は、中国を怒らせるような戦略に与することは望まなかったのだ。

 かつ2007年9月に、安倍首相の持病である潰瘍性大腸炎が悪化し、第1次安倍政権自体が崩壊してしまった。
 そのことで、「自由と繁栄の弧」は幻に終わった。

 だが安倍首相は、諦めたわけではなかった。
 2012年12月に第2次安倍政権を発足させると、今度はTPPを中国包囲網に利用しようと考えたのだった。

 私は安倍政権の政策に詳しい政府関係者から聞いたことがあるが、第2次安倍政権が発足した時、外交問題に関して政府内部で一番議論になったのは、「中国とどう向き合うか」という問題だったという。
 中国では同時期の2012年11月に、強硬派の習近平が、中国共産党トップの党中央委員会総書記に就任していたからだ。

その政府関係者は、次のように述べた。

 「大まかに言えば、安倍政権には3つの選択肢があった。
 第一は、中国に従属する。これは古代アジアの冊封体制のように、中国に朝貢するものだ。
 メリットは、習近平政権と友好関係が築け、中国ビジネスの恩恵を受けられる。
 デメリットは、アジアにおける中国の覇権を認めてしまうことだ。
 第二は、中国に対抗していく。
 この場合のメリットは、過去150年間にわたってアジアを牽引してきた日本の自負が保たれること。
 デメリットは、中国との対立による経済的損失と、軍事的緊張だ。
 そして何より、この選択肢の成立は、過去よりもさらに強固な日米同盟が築けるか否かにかかっていた。
 第三の選択肢は、中国を無視する
 これは、江戸幕府が取っていたような中国に対する鎖国政策だ。

 まず第三の選択肢は、21世紀にはふさわしくない。
 次に第一の選択肢は、安倍首相を始め、『悪夢の選択』と呼んでいた。
 そこで第二の選択に舵を切っていくことにした。
 そのためには、アメリカを中心としたアジア太平洋地域の経済の新秩序であるTPPに、一刻も早く加わる必要があった」

 そこで安倍首相は、2013年2月22日にホワイトハウスで開かれたオバマ大統領との初の日米首脳会談で、
 「7月の参院選が終わったら、すぐにTPPに参加する」
と約束したのだった。
 参院選を5ヵ月後に控えていたため、自民党の支持層が多い農家に気を遣ったのである。
 日本国内にとってTPPへの参加とは、一言で言えば、
 農業を犠牲にして工業の発展を選択するものだったからだ。

 2013年当時のアジアの国々は、前述のように軍事的にはアメリカに依存し、経済的には中国に依存していた。
 そのため日本は東アジア地域を、軍事面だけでなく、経済的にもアメリカと日本に依存させていくようなTPP体制を構築しようとしたのだった。

■アメリカに「新たな大国関係」を提案した習近平主席

 こうした日本のTPP参加表明は、2013年3月に国家主席に就任し、正式に政権を発足させた習近平主席にとって、大きな脅威と映った。
 そこで習近平政権は、経済面でますます周辺諸国を中国に依存させていくことに腐心したのだった。

 具体的に習近平政権は、主に3つの対抗策を取った。

1].第一は、RCEP(包括的経済連携構想)の早期締結を目指したことである。
 RCEPは、東アジア共同体構想に入っている16ヵ国、すなわちASEAN10ヵ国と、日本、韓国、中国、インド、オーストラリア、ニュージーランドによる自由貿易協定である。
 この協定が実現すれば、人口で世界の半数、GDPと貿易額で世界の3割を占める広域経済圏が、アジアに出現することになる。
 RCEPの最大のポイントは、アメリカが参加していないことだ。
 RCEPは2011年11月に、ASEANが提唱して始まった。
 習近平政権は、アジア最大の経済大国として、このRCEP交渉の主導権を握り、2013年5月にブルネイで交渉の第1回会合を開いたのだった。

 ところが、この初会合は、前途多難を予想させるものだったという。 
 当時担当していた日本の経済産業省関係者が、次のように述懐する。
 「この時は、ハイレベルの実務者による貿易交渉委員会に加えて、物品貿易、サービス貿易、投資に関する作業部会を開催し、交渉の段取りや分野といった大枠を話し合った。
 だが、議論を仕切ろうとする中国は、中国の基幹産業を独占している国有企業の民営化や自由化については、絶対にノーだと突っぱねた。
 日本も、非参加国のアメリカに気兼ねして積極的ではなかった。
 そもそも経済産業省では、TPPの交渉グループとRCEPの交渉グループが同じメンバーで、安倍首相官邸や茂木敏充大臣からは、TPPを優先するよう指示が出ていたのだ」

 世界第2の経済大国と第3の経済大国がこのような調子では、交渉が順調に進んでいくはずもなかった。
 習近平政権が当初期待していたRCEPは、とてもTPPより先に締結される見込みがなくなってきたのである。

2].習近平政権が、TPPへの対抗策として取った二つ目の措置は、オバマ政権との直接交渉だった。
 政権発足から3ヵ月近くを経た6月7日、8日に、カリフォルニア州のアンナバーグ農園で、オバマ大統領と習近平主席の初めての米中首脳会談が開かれた。

習近平主席は、次のように述べた。

 「ここは太平洋から近く、太平洋の向こう側は中国だ。
 太平洋には、中国とアメリカという両大国を包み込む広大な空間がある。
 今日、オバマ大統領と会談を行う主要目的は、『太平洋を跨ぐ提携』の青写真を作ることだ。
 中米双方は、『新たな大国関係』の構築に向けて、共に進んでいこうではないか」

 この時、習近平主席は満を持して、「新たな大国関係」という新概念を提起した。
 習近平主席はオバマ大統領に対して、随分と柔らかい言い回しをしたが、要は言いたいのは次のようなことだった。

 「世界は、中国とアメリカの2大国が牽引していく時代(G2時代)を迎えた。
 これからは、太平洋の東側、すなわちアメリカ大陸とヨーロッパは、アメリカが責任を持って管理する。
 そして太平洋の西側、すなわち東アジアは、中国が責任を持って管理する。
 そのような『新たな大国関係』を築こうではないか」

 習近平主席は、この「新たな大国関係」という概念を、オバマ大統領に認めさせようとしたのだった。
 それに対し、オバマ大統領は即答を避けた。

 アメリカの外交関係者が語る。

 「この時のわれわれの最優先事項は、習近平新政権と何かを決めることではなくて、習近平という新指導者について見極めることだった」

アメリカとの直接交渉でも思い通りに行かなかった習近平政権は、第三の手段に出た。
3].それは、『一帯一路』(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)の構築と、これを推進するためにAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立することだった。
 2013年の9月から10月にかけて、習近平主席は立て続けに、これらの構想を外遊先で発表した。

 シルクロード経済ベルトは、中国を起点にして、ヨーロッパへ至るユーラシア大陸のインフラ整備を進めるという構想で、その中心は北京とモスクワを結ぶ高速鉄道の敷設である。
 また、21世紀海上シルクロードは、2015年末に6億人の経済統合を果たすASEANを取り込むことに、主軸が置かれていた。 
 そしてこれらを推進するために、日本とアメリカが中心になって1966年に設立したADB(アジア開発銀行)に対抗するAIIBを、2015年末に北京に設立することにしたのである。

 つまりこれら一連の構想は、アメリカも日本も頼りにならないなら、自分の道は自分で切り拓いていくという、アジア最大の経済大国としての中国の自負だった。
 実際、2015年12月には、57ヵ国が参加して、AIIBが設立される予定だ。

 中国は「マイナスの流れ」を払拭できるのか

 このようにTPP交渉は、
 「単純な多国間貿易交渉 
 → ブレトンウッズ体制維持のための交渉 
 → 中国の台頭を阻止するための交渉」
と、漂流を続けた。
 前出の日本政府関係者によれば、
 12ヵ国全体のGDPの81%を占める日米の結束と、
 残り10ヵ国が日米にうまく乗っかってくれたことが、大筋合意につながった勝因
だという。

 「決定的だったのが、
★.中国軍が南シナ海を埋め立てて軍用飛行場を作り始めたことと、
★.アメリカに対してサイバーテロを起こしたことだった。
 南シナ海の埋立地に関しては、かつてアメリカと戦争したベトナムまでもが、必死にアメリカ軍を頼った。
 日本は、4月末に安倍首相が8日間も訪米して、中国の脅威を訴えた。

 サイバーテロに関しては、7月9日に、アメリカ連邦政府の職員ら2000万人もの個人情報が、サイバーテロに遭って流出した。
 米国防総省はこれを中国人民解放軍の仕業と断定して、
 すぐさま中国政府のITシステムに対して報復のサイバー攻撃を行った
と聞いている」

 このような状況下で、TPP参加12ヵ国を牽引するアメリカと日本は、何とか妥結させようと、互いに譲歩する姿勢を見せた。
 9月26日から米アトランタのウエスティンホテルで始まった交渉の最終ラウンドは、延長、再延長、再々延長し、10月5日、ついに12ヵ国が大筋合意に達したのだった。

 これまで書いてきたように、安倍政権はTPPを、単なる貿易協定とは見ていない。
 前出の政府関係者は、改めて語った。

 「日本政府はこれまで再三、アメリカ政府に、TPP交渉の首席代表を、フロマン米通商代表から、国防長官かCIA(米中央情報局)長官に換えてほしいと要請してきた。
 それはTPPが、今後日本が東アジアで中国に対抗していく『武器』だという認識を持っているからだ。

 日本は9月に安保法制を整備して、軍事的に中国に対抗していく法整備を行った。
 続いて10月に、経済的に中国に対抗していくTPPというシステムを整えた。
 これからはこの『二つの武器』を駆使して、アジアにおける中国の覇権取りを阻止していく」

 これに対して中国では、大筋合意が発表された10月5日以降、TPPに関して様々な見解が発表されている。
 それらを整理すると、「TPPを恐れるなかれ」と鼓舞するものが多い。
 なぜ恐れる必要がないかという根拠になっているのは、主に次の5点だ。

1):TPPが発効しても中国の貿易への影響は少ない
 中国には世界最大14億人の巨大市場がある。
 また、多くの熟練工、先端的設備、豊富な部品供給体制があり、世界の工場としての地位も揺るがない。

2):TPPが大筋合意したからといって、アメリカで批准されるとは限らない
 大筋合意が発表されたとたん、アメリカでは与党・民主党も野党・共和党も一斉に反対論が噴出している。
 来年は大統領選イヤーであり、反対論はますます強くなることが予想される。

3):TPPが発効したからといって、直ちには貿易システムは変わらない
 例えば、アメリカは25年以内に日本製自動車の関税2.5%を撤廃するとした。
 だが25年も先の世界など、誰にも想像できない。

4):中国は個別に各国と自由貿易協定を結んでいる
 TPP加盟国で言えば、2008年にニュージーランドをFTAを結んだのを皮切りに、ペルー、シンガポール、オーストラリアとFTAを結んでおり、他の国とも個別交渉を進めている。

5):中国には「一帯一路」とAIIB、自由貿易区がある
 習近平主席は2013年秋に「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)と、これらを推進するためのAIIB(アジアインフラ投資銀行)構想を発表しており、AIIBは今年末に、57ヵ国が参加して北京で設立される。
 また、2年前に始めた上海自由貿易区や、今年発表した天津、福建などの自由貿易区もある。

***

習近平主席は、10月20日から、ドイツと並ぶ「EUの盟友」と位置づけているイギリスを、国賓として訪問する。冒頭述べた自身と中国に吹く「マイナスの流れ」をどこまで払拭できるのか、お手並み拝見である。




【輝ける時のあと】


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