『
ロイター 2015年 10月 2日 17:42 JST John Kemp
http://jp.reuters.com/article/2015/10/02/column-commodity-supercycle-idJPKCN0RW0OR20151002?sp=true
コラム:商品相場の「スーパーサイクル」終焉か、途上国に暗雲
[ロンドン 29日 ロイター] -
商品(コモディティ)価格の下落は、中南米、アフリカ、中東、アジアの発展途上国の経済的・政治的安定に深刻な難題を突き付けている。
国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、
途上国の94カ国は2012─13年に輸出収入の60%以上を一次産品に依存
していた。
そのような国々の大半は、経済生産全体の20%以上を原材料の輸出に頼っている。
中には、半分以上という国もある。
途上国のコモディティ輸出額は、2009─10年の2兆ドルから2012─13年には3.2兆ドルに増加。
その主因はコモディティ価格の上昇にあるが、このことは現在、危機的状況にある輸出収入がどの程度の大きさになるかのヒントを与えてくれるだろう。
例を挙げると、石油輸出国機構(OPEC)加盟国の石油輸出収入は
1994年の1230億ドルから
2004年には3750億ドル、そして
2012年には1.2兆ドル
のピークまで増加。
しかしそれも
昨年には9650億ドルに減少し、
今年は原油安の影響がさらに浸透することから一段の急落が見込まれている。
■<商品相場の「スーパーサイクル」>
途上国は常に、自国の輸出収入と経済生産をコモディティ価格の極めて高い変動性に大きく左右されてきた。
カナダのサイモンフレイザー大学経済学教授であるデービッド・ジャックス氏は著書「From boom to bust: a typology of real commodity prices in the long run」の中で、1900年以降に発生した商品相場上昇の
4つの「スーパーサイクル」を確認している。
★.典型的なスーパーサイクルは、
10─20年間で価格が前回のトレンドから20─50%上昇した後に下落し始める。
サイクル全体は通常、40年未満で完了するという。
ジャックス氏は、4つのスーパーサイクルのピークはそれぞれ、
1910年代、50年代、70年代、そしてごく最近では2010年代
だとしている。
★.ピークに続くバブル崩壊は1930年代、60年代、80─90年代に発生し、
コモディティへの依存度の高い国々を政治的・経済的不安に陥らせたばかりか、中には債務不履行(デフォルト)する国も出現した。
過去のスーパーサイクルは、
1].19世紀後半の米国の工業化と都市化、
2].2つの世界大戦、
3].そして20世紀半ばの欧州と日本の復興と関連
している。
★.4].直近のスーパーサイクルは、
1980年代の改革開放を経た中国の急速な工業化と都市化に大きく由来
している。
■<終わりの始まりか>
ジャックス氏は、20世紀初めにさかのぼり調査している一次産品30品目のうち15品目が、1994年から99年の間にトレンドを上回る価格になり始めたと、2013年3月に記している。
「スーパーサイクルに関する蓄積された歴史的証拠は、
★.現在のスーパーサイクルが恐らくピークを迎えており、
終わりの始まりに近づいていること
を示唆している」と同氏は予測する。
商品相場のサイクルは大きな政治的・経済的・外交的変化と関連している。
★.1960年代に始まったスーパーサイクルは、
70年代にピークを迎えて
80年代にバブルがはじけ、
80─90年代にはコモディティ産出国にひどい経済悪化と政治不安
をもたらす一因となった。
ロシアの元第1副首相で経済学者のエゴール・ガイダル氏は、論文「The Soviet collapse: grain and oil」(2007年)の中で、1980年代に中南米諸国を襲ったデフォルトの波や、91年のソ連崩壊、80─90年代に中東石油産出国の多くが経験した強い財政的・政治的圧力はすべて、コモディティ輸出収入の減少が原因だと指摘した。
1980年代との類似点は慎重に検討されるべきだ。
しかし、長年にわたり年間輸出収入が1兆ドル超も減ることになれば、10年以上もコモディティ輸出国の多くが経験したことのない打撃を経済的・社会的・政治的システムに与えることになるだろう。
コモディティへの依存度の高い途上国は2008年まで、増加した輸出収入を予算収支と公共財政の改善に充てていたが、以降は収支が悪化し、公的債務も増加したと途上国のための政府間組織である「南センター」のチーフエコノミストは4月に開催されたUNCTADのフォーラムで指摘。
そのような国の大半は、財政策がほとんど効く余地もないまま下降期に突入していると警告した。
上昇時にばく大な富を蓄えたサウジアラビアやクウェートなどごく一部の湾岸君主国が下降サイクルの直撃を免れる可能性がある
一方、多くのコモディティ産出国は価格が回復しない限り、調整の必要に迫られる。
■<コモディティ価格下落の影響>
コモディティ価格の下落は昨年以降に加速しているが、このことは輸出国・輸入国間や家庭・企業間において大きな変化をもたらしている。
カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどを除いた経済協力開発機構(OECD)加盟国のほとんどは食料や燃料の純輸入国であるため、大きな恩恵を受けている。
一方、OECD以外では複雑な様相を呈している。
一部のコモディティ輸入国、特に、都市部の家庭が食料や燃料の価格下落で恩恵を受ける中国が「勝ち組」であることは明らかだが、
コモディティ価格の下落が多くの途上国の歳入や雇用、所得に与える影響は厳しいものになるだろう。
相対価格や所得の再分配における大きな変化は、経済的に、そして時に政治的にも摩擦をもたらすのが常である。
★.1970年代に途上国がコモディティブームに沸いていたころ、欧米や日本ではエネルギー危機が起きていた。
エネルギーや他のコモディティ価格の高騰によって余儀なくされた痛みを伴う調整は、苦い思い出として多くの先進国に焼き付いている。
2012年以降のコモディティ価格の急落は、食料と燃料の消費者にとって、とりわけ先進国においては歓迎されることかもしれない。
だが生産者にとっては、その多くは途上国だが、1973─74年と2008年の価格高騰と同じくらいの危機的状況を意味する。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
』
『
ロイター 2015年 10月 6日 17:10 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/10/06/column-ryutarokono-idJPKCN0S004320151006?sp=true
コラム:新興国バブル崩壊後の世界経済=河野龍太郎氏
[東京 6日] -
国際金融市場の不安定な状況が解消されない。
これまでも基軸通貨国である米国が金融政策の方向性を大きく転換する際には、少なからぬ混乱が新興国経済を中心に生じ、それに伴って国際金融市場でも一時的な動揺が観測されてきた。
米国の金融緩和期に新興国に流れ込んでいた資金がブームの膨張を助長、米国の利上げ時期が近づくと、資金流出が始まり新興国ブームの崩壊がもたらされる。
大きな流れで捉えれば、今回も基本的には同様の現象が生じていると言える。
では、今回も市場が動揺しているだけで、過去の米利上げ局面と同様、世界経済全体で見れば、悪影響は大きくないと言ってよいのだろうか。
残念ながら、そうとも言い切れない。
各国の状況を考えると、世界経済や国際金融市場がソフトランディングに向かうというのは、相当なナローパスであるように思われる。
世界的な不況に向かうとは予想しないものの、一方で成長率が高まっていく環境では到底ないだろう。
新興国バブルの調整プロセスが続くことを考えれば、世界経済の回復モメンタムは低下する可能性が高い。
国際金融市場に関しても、このまま安定に向かうと見るのは、あまりに楽観的なように思われる。
各国の政策当局が、いかにさじ加減に注力しても、政策変更のたびに市場に動揺が訪れるのではないか。
筆者の想定に反し、動揺が避けられる場合、それは恐らく問題の解決を意味しない。
我々は新たなバブル醸成(バブル代替)を警戒した方がよい。
■<破綻した世界経済の回復メカニズム>
まず、今回の国際金融市場の動揺は、2009年以降の世界経済の回復メカニズムが破綻したことを反映しているというのが、筆者の仮説だ。
では、その回復メカニズムとは一体どのようなものだったか。
大規模な住宅クレジットバブルが崩壊した後、米連邦準備理事会(FRB)はアグレッシブな金融緩和に踏み切った。
日本の経験を踏まえるまでもなく、大型バブルが崩壊すると、流動性危機に対し流動性の大量供給は大きな意味を持つが、内需を刺激するという点からは、アグレッシブな金融緩和の効果は乏しい。
もし回復をもたらすメカニズムが存在するとすれば、それはアグレッシブな金融緩和が大幅な通貨の減価をもたらし外需を刺激すると同時に、株高による資産効果をもたらすことである。
ただ、基軸通貨国、あるいはそれに準ずる大国や地域の中央銀行は、他国経済への影響が余りに大きいため、大幅な通貨減価をもたらすようなアグレッシブな金融緩和は実行しないというある種の紳士協定がそれまでは存在していた。
しかし、「100年に一度の危機」なら何でもありが許されるのだろうか。
FRBは崩壊したクレジット市場の補完を意図した信用緩和(credit easing)だけでなく、外需刺激のために、大幅な長期金利引き下げとそれに伴うドル安を狙った大規模資産購入(large scale asset purchases)を実行した。
それが思った以上の効果を上げたのは、単にドル安が輸出を刺激したからだけではない。
FRBは公式には認めていないが、主たる効果はむしろ次のようなものだった。
ドルペッグ制ではないにしても、ドルに対して固定的な為替レート制、昔の言葉で言えば「ダーティーフロート制」を取る新興国は少なくない。
そうした国々が、減価するドルに対して自国通貨が大幅に上昇するのを避けるため、実体経済に比して極端に緩和的な金融環境を甘受したのである。
もともとリーマンショック後、拡張的な財政・金融政策を採用する新興国が多かったが、その効果がFRBのアグレッシブな金融緩和のスピルオーバー(波及)によって、増幅された。
これらの結果、2009年半ばから、ブームに沸く新興国をけん引役に、世界経済は回復を始めたのである。
いわば、米国はアグレッシブな金融緩和によって新興国バブルを作り出すことで外需を刺激し、住宅・クレジットバブル崩壊で低迷する内需を補い、立ち直っていったということである。
こうしたバブル代替のメカニズムによって世界経済に回復がもたらされた。
その後、膨張を続けた新興国バブルは2011年半ばにピークを打ち、崩壊過程に入るが、FRBが一連の量的緩和(QE)を続けていたため、急激な崩壊が避けられていた。
それどころか、一連のQEはさらなるバブルを膨らませた。
それがシェールバブルなどの資源バブルである。
本来なら、新興国バブルが崩壊過程に入ると同時に、原油価格は急落しても不思議ではなかったが、一連のQEが生み出した過剰流動性がコモディティー市場に流入、高水準の原油価格が維持されたため、「コモディティー高の新時代」に入ったと幻想を抱いた人々が、世界各地で資源開発に精を出してしまったのである。
現在の原油安は、単に中国をはじめとする新興国経済の悪化で需要が低迷しているだけではなく、資源バブルを背景に、過大な供給能力が生み出されたことも大きく影響している。
しかし、今や内需も回復し、米国はゼロ金利解除が可能な状況になってきた。
FRBの利上げ観測の台頭で、資本流出圧力が強まり、それが急激な新興国バブルや資源バブルの崩壊に拍車をかけている。
新興国バブルと資源バブルの残骸が世界中にあふれており、現段階ではすべてが露(あらわ)になっているわけではない。
■<新興国の固定的な為替レート制も問題>
もちろん、FRBが現在検討しているゼロ金利政策解除そのものが問題だと言うのではない。
問題は、他国に及ぼす副作用を考慮すれば、基軸通貨国、あるいはそれに準じる大国の中央銀行は、アグレッシブな金融緩和に対して本来抑制的になるべきなのに、そうはなっていなかったことだ。
また、新興国側にも非が無いわけではない。
それは、前述した通り、少なからぬ新興国が、ペッグ制とは行かないまでも、ダーティーフロート制を含めドルに対して固定的な為替レート制を取っていたことである。
経済規模が大きくなっても、重商主義的発想が抜け切れず、米国の金融緩和局面では、自国の輸出企業に悪影響の及ぶ通貨高を回避するような金融政策・通貨政策を新興国は採用してきた。
基軸通貨国がアグレッシブな金融緩和を控えるのと同様に、規模の大きくなった新興国は、ドルに対する固定的な為替レートへのこだわりを捨てなければ、こうした問題は今後も繰り返される。
ただ、今回の国際金融市場、新興国・資源国の混乱は、この2つの問題だけでは説明できない。
世界で2番目の経済大国になった中国の構造問題も大きく影響している。
★.1つは、中国の高度成長が終焉し、潜在成長率が大きく下方屈折したことである。
★.そしてもう1つは、中国がいまだに事実上のドルペッグ制を続けていることである。
このことが、新興国や資源国の今回の調整プロセスを複雑かつ困難にしている。
中国経済の低迷を受けて、輸出数量が低迷し、コモディティー価格も低迷、さらに米国のゼロ金利解除観測によって資金流出圧力が高まると同時に、人民元切り下げリスクが高まるという「4重苦」に新興国、資源国はさらされる。
ちなみに、今回のコモディティーバブル崩壊と中国経済の急減速の悪影響を最も受けたのは誰か。
当然にして資源国であり、地域で言えば中南米諸国である。
メキシコ以上に、ブラジルやアルゼンチンは相当に大きなダメージを受けている。
この他、インドネシアやマレーシアなど東南アジアの資源国も、中国向け輸出が減っただけでなく、交易条件も大きく悪化しており、相当に苦しい。
東南アジアが日本企業の生産拠点のグローバル分散の対象先であることは今後も変わらないが、ピークの頃に、チャイナ・プラス・ワンなどといって東南アジア投資を囃(はや)し立てた人の責任は相当に重い。
■<人民元問題の本質と中国にとって望ましい政策>
最後に、人民元のドルペッグ問題について言い添えておきたい。
結局、人民元問題の本質は、世界で2番目の経済大国になった中国が、資本規制を徐々に緩める中で、米国の最適通貨圏ではないにもかかわらず、最適通貨圏のごとく事実上のドルペッグ制を続けていたことにある。
FRBが金融緩和を続けている間は、大きな問題は見えなかったが、景気の方向性に違いが出てきたことから、深刻な矛盾が明らかになってきた。
潜在成長率が低下するもとで、過剰ストック問題を抱え内需が低迷する中国にとって、本来なら金融緩和に伴う人民元安が最適なマクロ安定化政策になる。
しかし、現実には、FRBのゼロ金利解除観測が広がり始めたため、ドル高に連動し人民元の実質実効レートが上昇、それが中国経済の回復の足を引っ張るようになっていたのだ。
今後、米国が利上げを進めれば、ドル高とともに人民元の実質実効レートが上昇するため、中国経済が疲弊し、人民元切り下げ観測が再び強まる。
人民元切り下げは減速する中国経済にとっては望ましいが、疲弊する多くの新興国にとっては、実質実効為替レートの上昇を意味し、回復の足かせになる。
もちろん、中国が他の新興国への配慮から、人民元切り下げを見送るという選択肢もあり得る。
ただ、中国経済が一段と疲弊すれば、結局、新興国の中国向け輸出は低迷が続き、中国需要の低迷からコモディティー価格への下落圧力も続くため、人民元切り下げの有無にかかわらず、世界経済にデフレ圧力が及ぶのは避けられないという結論になる。
では、今後どうなるのか。
将来予測は大変に難しいが、望ましいと思われる政策はあり得る。
まず、中国にとって望ましい政策は、方向性としては、
★.人民元のフロート制移行であり、経済実勢を鑑みれば、現水準からの切り下げである。
しかし、一気に経済実勢に合致した水準まで切り下げると(経済実勢に見合った水準の1つの目安は、過去3年間の実質実効レート上昇を相殺する30%程度の切り下げ)、他の新興国に大きな悪影響を及ぼす。
このため、フロート制への移行を目指すとしても、切り下げは相当緩やかに進める必要がある。
その間の悪影響を吸収するのは、財政投融資政策の発動だ。
ただ、前述した通り、すでに潜在成長率が大きく低下しているため、過大な財政投融資政策を続けることは過剰ストック問題をこじらせたり、新たなバブルを生み出す恐れがある。
米国については、経済が自然失業率に到達している以上、ゼロ金利解除を含め利上げを進めざるを得ない。
ただ、中国と同様で、国内均衡の達成のためだけに動くと大きな問題を引き起こす。つ
まり、利上げを急ぎすぎると、それが人民元の切り下げ観測や新興国からの資金流出圧力を強め、国際金融市場の動揺の引き金となりかねない。
この結果、利上げペースはかなり緩やかなものにならざるを得ない(今後のゼロ金利解除の実施が国際金融市場の動揺を招き、その結果、しばらく利上げが中断されるというケースも十分考えられる)。
一方で、インフレが落ち着いているからといって、あまりにゆっくりとした利上げとなれば、新たな金融的不均衡を作り出すことにもなりかねない。
その可能性も大いにあり得る。
*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
』
『
2015.10.7(水) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44938?page=2
世界経済に影落とすアジア新興国のデフレ
東から吹き付ける不吉な風、世界デフレに突入する恐れも
(2015年10月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
物価の変動は多くの場合、世界的な変化を早々に知らせる前兆となる。
例えば、13世紀のモンゴルの欧州侵攻の場合、英国人が感じ取った最初の兆候は、東海岸のハリッジ港での魚の価格の急騰だった。
侵略者と戦うために乗組員が方向転換を命じられた後、バルト海の漁船団が航海をやめ、その結果、イングランド最大級の市場への魚の供給が断たれたのだ。
東方で生じた現在の経済的激変は大きく異なるが、それは確かに世界の運勢を危うくする変化が起きていることを示唆している。
デフレ(製品価格の長期的な下落)はアジア新興経済国からの寒気のように吹き荒れ、日本と欧州に水を差す一方で、景気回復を維持しようとする米国の努力も危険にさらしている。
全般的な物価下落は、消費者にとっては無害に思えるかもしれないが、実際には経済政策の立案者に恐れられている。
というのも、物価下落は企業収益を蝕み、企業に人員削減を強い、需要全般を徐々に奪っていくからだ。
■深まるデフレスパイラルの脅威
デフレは1929年の米国の株価暴落を大恐慌に発展させた原因とされている。
2008~09年の金融危機の後に物価の下方スパイラルが生じかねないという不安は、量的緩和に乗り出すことにした米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長(当時)の決断の裏にある大きな動機だった。
QEと呼ばれるこの金融政策は、それ以来ずっと、世界の経済サイクルを支配してきた。
こうした理由から、
深まるアジアのデフレスパイラル
――製造業の過剰生産設備や
貿易需要の消滅、
生産性の停滞によって引き起こされたもの――
の兆候は大きな懸念材料だ。
この問題の構造的な性質のために、その不安が増幅されている。
折しも欧州連合(EU)と日本が再びデフレに陥る一方、米国が弱い企業収益に苦しんでいる時にアジアのデフレが起きているということは、アジアの物価下落を極めて重要な問題にしている。
「我々は世界デフレに向かっている可能性がある」。
大手銀行ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の欧州マクロクレジット調査責任者、アルベルト・ガロ氏はこう言う。
「我々はあらゆる場所で過剰な借り入れを行い、
生産能力を削減するどころか、
物価を押し下げている長期的な過剰設備状態を生み出している。
中国がその最たる例だ」
資産運用会社インベステックのストラテジスト、マイケル・パワー氏も、世界規模のデフレ転落の脅威について心配している。
同氏は物価下落を、アジアの供給過多と西側の需要不足の間の根本的な不均衡の結果と見なしている。
「経済的な観点から言えば、物価が下落しているのは、アジアから来る協調的な供給がQEなどの措置を通じて需要を喚起しようとする西側の最善の努力を圧倒してしまっているからだ」
と同氏は言う。
悪夢のデフレシナリオは、
1].アジアの物価下落が企業の利益を減らし続け、
2].大量の余剰人員解雇を促し、
3].消費需要を減退させる
ことだ。
その後、これが世界の需要に課す足かせが一段と大きくなり、欧州と日本の弱々しい経済成長を落ち込ませ、米国のダイナミズムをそぐ可能性がある。
このシナリオのいくつかの側面はすでに現実となっている。
■積み上がる問題
アジアの問題のカギを握るのは、地域が患っている特殊なタイプのデフレだ。
問題は消費者物価ではない。
アジア地域の店舗の大半では、消費者物価はまだ上昇傾向にある。
むしろ問題は、生産者物価にある。
つまり、工場や鉱山、農家、その他の生産者が販売するコモディティー(商品)や工業製品、部品に課すことのできる金額だ。
モルガン・スタンレーによると、アジアの10大経済国・地域(日本を除く)では、生産者物価指数の平均値が6年ぶりの低水準にある。
10カ国・地域のうちインドネシアだけが多少なりとも生産者物価の上昇を経験しており、韓国、台湾、シンガポールは3年前後、デフレの憂鬱に陥っている。
中国は42カ月連続の生産者物価の下落を記録しており、モルガン・スタンレーのアジア担当チーフエコノミスト、チェタン・アーヤ氏によると、1990年代の日本を除くと、これほどしぶといデフレ傾向を見せている唯一の経済大国となっている。
全体的に見ると、中国の生産者物価は2011年の直近のピークから累計で10.8%下落している。
物価が下落しているスピードは警戒すべき要因だ。
昨年8月までは、コモディティーの生産者物価は1.1%の下落を見せている程度だった。
それが今年8月には12.8%に達した。
それ以外の点では経済が好調なインドのような国でさえ、過去1年間で生産者物価のデフレに陥った。
また、アジアのデフレはひとえにコモディティー価格の世界的下落がもたらした結果なわけでもない。
悪影響は工業製品と部品の価格下落からも明白だ。
アジアの10大経済国・地域(日本を除く)では、こうした製品の価格が8月に平均して前年比4.4%下落した。
■苦痛で悲鳴を上げる企業
中国の工業会社は8月に前年比で8.8%の減益に見舞われ、統計が始まった2011年以来、最大の減益幅を記録した。
モルガン・スタンレーによると、アジアのその他地域でも同じ傾向が繰り返されており、地域の一流上場企業の売上高と利益が今年第2四半期に減少したという。
企業の悪影響には目を引くものもある。
中国の大手石炭会社の黒竜江龍煤鉱業は先日、悲惨なバランスシートを救うための「生死をかけた」戦いで、10万人の従業員を解雇すると発表した。
同社のワン・ジークイ会長は、龍煤は今年1~8月期に巨額赤字を計上し、債務を返済するために、原料炭の炭鉱を複数閉鎖し、資産を売却していると語った。
米国の重機メーカーのキャタピラーは
税引き前の利益の6割を、新興国を中心とする米国外で稼いでいる。
だが、2012年以降、20カ所の生産拠点の閉鎖と3万1000人の人員削減を余儀なくされた。
同社は9月、2016年は前代未聞の4年連続の減収となる可能性が高いと述べた。
やはり機械メーカーで精錬・精錬装置を生産している国営の中国第二重型機械集団は先月、地元の裁判所が同社の債権者からの債務再編要求を受理した後、利払いでデフォルト(債務不履行)した。
こうした出来事は将来の予兆のように見え始めている。
今年は新興国の借り手による外貨建て債券でのデフォルトが、少ないながらも、それなりの数で発生している。
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によれば、今年1~8月期に16件のデフォルトがあり、2014年通年の実績を上回っているという。
企業の莫大な過剰債務が「バランスシート不況」のリスクを高めていることから、アジア全土での利益の減少は特に深刻だ。
バランスシート不況では、高い債務返済コストが企業に支出や投資よりも貯蓄に集中することを強い、ひいては成長を鈍らせる。
コンファレンス・ボードのシニアエコノミストのアンドリュー・ポルク氏(北京在勤)は、中国でそのような不況が現に起きていると見ている。
特に小規模な生産者の間でその傾向があるという。
業界団体の国際金融協会(IIF)は、新興国では過去10年間で非金融会社の債務が5倍に増加しており、アジア――そして特に中国――が増加分の最大のシェアを占めたと指摘する。
こうした企業の債務総額は現在、23兆7000億ドルに上っており、新興国の国内総生産(GDP)合計の9割に相当するとIIFは試算している。
■憂慮すべき債務増加のスピード
「債務増大のスピードは驚くべきものだった」。
IIFのフン・トラン専務理事はこう話す。
「すべての調査研究が、債務を積み上げたスピードが当該債務の質とその後の危機に重大な役割を果たすことを示している」。
さらに、
「企業の借り手の間で、その債務を返済する負担が増している様子が確かに見える」
と同氏は付け加える。
企業の投資収益を低下させるデフレスパイラルと結びついたこの債務負担の影響は、新興国からの資本純流出に拍車をかけた。
IIFは新興国からの資本純流出が今年5400億ドルに達する可能性があると試算している。
資本の流出入が差し引きでマイナスになるのは、1980年代後半に新興国が1つの概念として発展して以来、初めてのことだ。
要するに、問題は、工場と機械に直接投資を行う人も株式と債券にポートフォリオ投資する人も新興国――そして、その区分内でアジア――のことを、現時点でお金を置いておく魅力的な場所と見なしていないということだ。
生産者物価の下落が企業のリターンを低下させる一方、債務返済が利益を減殺するからだ。
国際通貨基金(IMF)は先月、FRBや他の中央銀行が金融政策を引き締めたら、債務を負った企業にかかるストレスが増すと警告した。
FRBは年内か2016年初めに10年ぶりの利上げを行う見込みだ。
IMFは年に2度発行される国際金融安定性報告書の最新版で
「新興国市場は企業の破綻の増加に備えるべきだ」
と述べている。
デフレの古典的理論は、いわゆるバーナンキ・ドクトリンで支持されているものも含め、
生産者物価の下落は総需要の急減の結果生じる
と定めている。
バーナンキ氏が2002年に述べたように、これが
「買い手を見つけるために生産者が継続的に値下げしなければならないほど厳しい支出の落ち込み」
につながるという。
この分析がデフレの脅威に対する主な米国の対応に直接つながった。
QEを通じて経済に流動性をつぎ込むことによる需要の喚起がそれだ。
だが、少なくともアジアのデフレの場合は、生産者物価を押し下げている最大の要因は、
需要不足ではなく供給過剰である可能性が高い
ように見える。
もしそうだとすれば、果てしないQE――ガロ氏の表現を借りるなら、「QEインフィニティ」――は企業への低利融資の提供を通じて過剰供給を長引かせる役目を果たすことで、デフレの問題を緩和するどころか、むしろ悪化させる可能性がある。
「『QEインフィニティ』はそれだけで長期的にデフレを招く可能性がある。
過剰設備の問題が解決されずに、先延ばしされることを意味するからだ」
とガロ氏は言う。
「それが今度は、長引くデフレと資産価格のバブルを同時に引き起こす可能性がある」
■崩れる参入障壁
パワー氏は、いつまでも続く製品の過剰供給の理由として、アジアの製造業における参入障壁の崩壊を挙げる。
地域全体で製造業の投資を呼び込むことを狙った各国政府のインセンティブ――優遇税制や土地購入の値引き、その他の国家政策など――も、その原動力になっている。
「ベトナムはサムスンの新しい巨大携帯電話工場を誘致した。
バングラデシュは、ローエンドの紡績業が移転している先だ。
カンボジアとインドネシアも、ここで勝ち始めている」。
パワー氏はこう言う。
「一方、インドは独自の『メーク・イン・インディア』キャンペーンに乗り出しており、すでにスクーターとオートバイのリーダーになっている」
パワー氏の言うところのこの「供給のツナミ」はアジアの貿易不況にぶち当たっている。
アジア地域の輸出は2008~09年の危機以来最悪となる成績を残しており、調査会社キャピタル・エコノミクスがまとめたデータによると、輸出は7月に前年比で7.7%減少し、ドル建てで9カ月連続の減少を記録した。
しかし、アジアの貿易の伸びの消滅というトレンド自体よりも、その理由の方が大きな心配の種だ。
ドルに対する各国通貨の下落は、通常予想される輸出の増加をもたらしていないが、それでも通貨安は輸入品に対する需要を押し下げており、その結果、デフレ傾向を悪化させている。
本紙(英フィナンシャル・タイムズ)の調査では、通貨が対ドルで1%下落するごとに、輸入量が平均0.5%減少することが分かった。
過剰生産能力がまだ慢性的で、貿易需要が減退しており、生産性が停滞し、世界経済がお粗末な状態にある今、アジアのデフレ期のこの段階で明るい兆候を見つけるのは難しい。
■デフレはまだ始まったばかり?
IIFのトラン氏は歴史的な複数年サイクルで物事をとらえている。
1890年代以降、4度あったというコモディティーのスーパーサイクルの上昇局面は概して20年前後続き、下落局面は15~26年間続いたと同氏は言う。
「我々は下方サイクルの4年目にいる」。
トラン氏はこう付け加える。「これは速やかに反転させられる問題ではない」
By James Kynge and Jonathan Wheatley
© The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web.
』
『
Business Journal 2015/10/8 06:04 文=渡邉哲也/経済評論家
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151008-00010005-biz_bj-nb
空がグレー
…中国、深刻な環境破壊が経済にも悪影響
産業の海外流出も
10月6日付当サイト記事
『中国経済崩壊で訪れる未曾有の事態、疑惑まみれの経済統計、世界中が「見放し」か』
では、そのゆがんだ経済構造や統計の不確実性から、中国の発展が限界に達していることについて解説した。
では、今回はその具体的な要因について見てみよう。
まず、環境面での限界を挙げることができる。
中国といえば、環境問題の悪化が話題になることが多いが、特に大気の状態が劣悪で、首都・北京の空は「1年365日のうち、360日はグレーに染まっている」といわれる。
光化学スモッグや微小粒子状物質(PM2.5)に代表される大気汚染がひどすぎて、もはや都市部に人が快適に住むのは難しい状況である。
北京の交通警察官の平均寿命48歳という数字が、すべてを物語っているだろう。
そして、その弊害は至るところに表れている。
例えば、9月3日に北京で「抗日戦争勝利70周年」記念行事が開かれ、天安門広場で軍事パレードが行われた。
その際、青空を“つくる”ために、周辺の工業の操業停止などの措置を取ったことは、記憶に新しい。
しかし、この「パレードブルー」を演出するために、約3,800億円の損失が発生したともいわれている。
これは直接的な損失だけで、波及効果を考えれば、実質的な損失額は1兆円クラスにまで膨れ上がるだろう。
ちなみに、北京では2014年11月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が開催され、今年8月には世界陸上競技選手権大会も開かれた。
国際的行事のたびに同様の施策が採られており、
それぞれ「APECブルー」「世陸ブルー」などと揶揄されている。
それに付随して、同じように膨大な額の損失が発生していることは、いうまでもないだろう。
また、中国は水不足にも悩まされている。
世界3位の全長を誇る長江の枯渇が、大きな問題になっているのだ。
この原因は、09年に完成した三峡ダムである。
三峡ダムは、世界最大の水力発電所としても知られており、中国の総発電量の約10%を占めている。
つまり、三峡ダムでの発電を止めれば水不足は解消されるが、同時に電力供給が減少することによって、さまざまな工場も止まるという構造になっているわけだ。
中国としては、さらなる工業発展を進めたいが、そのためには環境を犠牲にせざるを得ないというジレンマに陥っている。
●一人っ子政策のツケが回ってきた中国
2つ目の問題として、人口ボーナスから人口オーナスへの変化がある。
人口ボーナスというのは全人口に占める若年層が多い状態であり、低賃金の労働力が多いために国家は発展しやすい。
逆に、中高年層が多くなると、国家の発展にとってはマイナスであり、その状態を人口オーナスと呼ぶ。
中国では、1979年に一人っ子政策という人口規制政策が開始された。
その第1世代に当たる層は現在30代中盤になっており、その下の若い世代は著しく少ない。
中国は、一人っ子政策の代償を今になって払わざるを得なくなっており、人口においても非常にゆがんだ構造を持っているのだ。
中国の人口ボーナスから人口オーナスへの変化は、13年から14年にかけて顕著化しているといわれており、人口の面から見ても、発展の限界に達しているといえる。
さらに、「中進国の罠」というものがある。
中進国とは中所得国とも呼ばれ、1人当たりの国内総生産(GDP)が3000~1万ドルの国を指す。
そして、1人当たりGDPが1万ドルを超えると、国家の発展は著しく遅くなり、
なかなか2万ドルの壁を越えられない。
これは、産業がほかの低賃金国に逃げてしまうからだ。
中国の1人当たりGDPは約6000ドルで、すでに軽工業を中心に産業の国外流出が始まっている。
まさに、中進国の罠にはまっているわけだ。
この中進国の罠を抜け出せるかどうかが、新興国であり続けるか、先進国の一員になるかの分水嶺といわれているが、すでに発展の限界を迎えている中国が後者になる可能性は極めて低いだろう。
』
『
Business Journal 2015/10/6 文=渡邉哲也/経済評論家
http://biz-journal.jp/2015/10/post_11824.html
中国経済崩壊で訪れる未曾有の事態
疑惑まみれの経済統計、
世界中が「見放し」か
バブルというのは、その名の通りいつか必ずはじけるものだ。
そして、いわゆるバブル景気の場合、そのはじけ方が問題になる。
ハードランディングになるか、ソフトランディングになるかで、その後の経済状況が変わってくるからだ。
最近、世界的な話題になっている中国経済のバブル崩壊に関しては、
「どうやら、ハードランディングになりそうだ」
ということで、問題視されている。
そもそも、中国とはどのような国家だろうか。
この国は、「共産党独裁自由主義経済」ともいうべき、非常にゆがんだ経済構造を持っている。
中国共産党のための自由主義経済であり、資本主義と計画経済の“いいとこ取り”をしてきたのが実態だ。
資本主義と計画経済というのは、正反対の経済思想であり、本来は並立することはあり得ない。
しかし、中国において、このような経済システムが許されてきたのは、なぜだろうか。
それは、世界各国が中国を利用して儲けることができたからである。
しかしながら、いよいよそれも許されなくなってきた。
そういった背景が、中国のバブル崩壊の根底にあるといえる。
「金の切れ目が縁の切れ目」ということわざがあるが、
中国の場合はまさに「金の切れ目が国際社会との縁の切れ目」になりつつあるわけだ。
また、中国経済を語る際、その構造から、よく「張子の虎」にたとえられるが、巨大な張子の虎もついに壊れようとしている。
世界には、実体経済の60倍近い架空資金(フェイクマネー)が生まれている。
これは、金融の世界における信用創造の過程でつくられる。
例えば、土地を担保にお金を借りて、そのお金を株式に投資して、それが証券化されて……といったかたちで、リアルマネーが何倍にも膨れ上がっているのだ。
そして、その膨れ上がった部分が「バブル」と呼ばれるものであり、それが一気にはじけるのが「バブル崩壊」である。
中国の場合、このバブルの膨れ方が異常だったという指摘もできる。
■中国の成長率7%はウソ?
中国の国内総生産(GDP)の成長率について、見てみよう。
中国は長らく「保八」という政策目標を達成してきた。
これは「成長率8%以上を維持する」というものであり、中国の経済成長を象徴するものである。
逆にいえば、
★.毎年8%以上の成長率を維持しないと、失業者の大量発生などにより、社会の安定が保てないという事情もあった。
しかし、ここ数年の中国は保八を割り込んでいる。
中国国家統計局の発表によると、2014年の成長率は7.3%であった。
15年の目標成長率は7.0%で、4~6月期の成長率は7.0%である。
しかし、昨年の成長率が本当に7.3%だったのか、今年4~6月期の成長率が本当に7.0%だったのかについて、鵜呑みにしないほうがいいだろう。
なぜなら、中国においては政府発表の公式な数字であっても、その真偽が危ぶまれているからだ。
いわば、中国の統計は、あてにならないのである。
そんな中国経済を測る上で、最も大切な指数といわれているのが「李克強指数」と呼ばれるものだ。
李克強とは、現在の国務院総理(首相)だが、遼寧省の党委書記を務めていた際に「鉄道輸送量」「電力消費量」「銀行融資」の3つを、比較的信頼できる数字として挙げたことがある。以来、この3つは李克強指数として、中国経済の内情を測るためのツールとして使われている。
この李克強指数を見れば、どのくらいエネルギーが消費され、モノが輸送されているかがわかるわけだが、近年はいずれも下落基調にある。
それを鑑みると、実質的な中国の成長率は良くて3%程度、悪ければマイナスという試算まで出始めている。
あらゆる面で、中国の発展は、すでに限界に達しているといえるだろう。
その具体的な中身については、次回以降に見ていきたい。
(文=渡邉哲也/経済評論家)
』
2015.10.7(水) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44938?page=2
世界経済に影落とすアジア新興国のデフレ
東から吹き付ける不吉な風、世界デフレに突入する恐れも
(2015年10月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
物価の変動は多くの場合、世界的な変化を早々に知らせる前兆となる。
例えば、13世紀のモンゴルの欧州侵攻の場合、英国人が感じ取った最初の兆候は、東海岸のハリッジ港での魚の価格の急騰だった。
侵略者と戦うために乗組員が方向転換を命じられた後、バルト海の漁船団が航海をやめ、その結果、イングランド最大級の市場への魚の供給が断たれたのだ。
東方で生じた現在の経済的激変は大きく異なるが、それは確かに世界の運勢を危うくする変化が起きていることを示唆している。
デフレ(製品価格の長期的な下落)はアジア新興経済国からの寒気のように吹き荒れ、日本と欧州に水を差す一方で、景気回復を維持しようとする米国の努力も危険にさらしている。
全般的な物価下落は、消費者にとっては無害に思えるかもしれないが、実際には経済政策の立案者に恐れられている。
というのも、物価下落は企業収益を蝕み、企業に人員削減を強い、需要全般を徐々に奪っていくからだ。
■深まるデフレスパイラルの脅威
デフレは1929年の米国の株価暴落を大恐慌に発展させた原因とされている。
2008~09年の金融危機の後に物価の下方スパイラルが生じかねないという不安は、量的緩和に乗り出すことにした米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長(当時)の決断の裏にある大きな動機だった。
QEと呼ばれるこの金融政策は、それ以来ずっと、世界の経済サイクルを支配してきた。
こうした理由から、
深まるアジアのデフレスパイラル
――製造業の過剰生産設備や
貿易需要の消滅、
生産性の停滞によって引き起こされたもの――
の兆候は大きな懸念材料だ。
この問題の構造的な性質のために、その不安が増幅されている。
折しも欧州連合(EU)と日本が再びデフレに陥る一方、米国が弱い企業収益に苦しんでいる時にアジアのデフレが起きているということは、アジアの物価下落を極めて重要な問題にしている。
「我々は世界デフレに向かっている可能性がある」。
大手銀行ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の欧州マクロクレジット調査責任者、アルベルト・ガロ氏はこう言う。
「我々はあらゆる場所で過剰な借り入れを行い、
生産能力を削減するどころか、
物価を押し下げている長期的な過剰設備状態を生み出している。
中国がその最たる例だ」
資産運用会社インベステックのストラテジスト、マイケル・パワー氏も、世界規模のデフレ転落の脅威について心配している。
同氏は物価下落を、アジアの供給過多と西側の需要不足の間の根本的な不均衡の結果と見なしている。
「経済的な観点から言えば、物価が下落しているのは、アジアから来る協調的な供給がQEなどの措置を通じて需要を喚起しようとする西側の最善の努力を圧倒してしまっているからだ」
と同氏は言う。
悪夢のデフレシナリオは、
1].アジアの物価下落が企業の利益を減らし続け、
2].大量の余剰人員解雇を促し、
3].消費需要を減退させる
ことだ。
その後、これが世界の需要に課す足かせが一段と大きくなり、欧州と日本の弱々しい経済成長を落ち込ませ、米国のダイナミズムをそぐ可能性がある。
このシナリオのいくつかの側面はすでに現実となっている。
■積み上がる問題
アジアの問題のカギを握るのは、地域が患っている特殊なタイプのデフレだ。
問題は消費者物価ではない。
アジア地域の店舗の大半では、消費者物価はまだ上昇傾向にある。
むしろ問題は、生産者物価にある。
つまり、工場や鉱山、農家、その他の生産者が販売するコモディティー(商品)や工業製品、部品に課すことのできる金額だ。
モルガン・スタンレーによると、アジアの10大経済国・地域(日本を除く)では、生産者物価指数の平均値が6年ぶりの低水準にある。
10カ国・地域のうちインドネシアだけが多少なりとも生産者物価の上昇を経験しており、韓国、台湾、シンガポールは3年前後、デフレの憂鬱に陥っている。
中国は42カ月連続の生産者物価の下落を記録しており、モルガン・スタンレーのアジア担当チーフエコノミスト、チェタン・アーヤ氏によると、1990年代の日本を除くと、これほどしぶといデフレ傾向を見せている唯一の経済大国となっている。
全体的に見ると、中国の生産者物価は2011年の直近のピークから累計で10.8%下落している。
物価が下落しているスピードは警戒すべき要因だ。
昨年8月までは、コモディティーの生産者物価は1.1%の下落を見せている程度だった。
それが今年8月には12.8%に達した。
それ以外の点では経済が好調なインドのような国でさえ、過去1年間で生産者物価のデフレに陥った。
また、アジアのデフレはひとえにコモディティー価格の世界的下落がもたらした結果なわけでもない。
悪影響は工業製品と部品の価格下落からも明白だ。
アジアの10大経済国・地域(日本を除く)では、こうした製品の価格が8月に平均して前年比4.4%下落した。
■苦痛で悲鳴を上げる企業
中国の工業会社は8月に前年比で8.8%の減益に見舞われ、統計が始まった2011年以来、最大の減益幅を記録した。
モルガン・スタンレーによると、アジアのその他地域でも同じ傾向が繰り返されており、地域の一流上場企業の売上高と利益が今年第2四半期に減少したという。
企業の悪影響には目を引くものもある。
中国の大手石炭会社の黒竜江龍煤鉱業は先日、悲惨なバランスシートを救うための「生死をかけた」戦いで、10万人の従業員を解雇すると発表した。
同社のワン・ジークイ会長は、龍煤は今年1~8月期に巨額赤字を計上し、債務を返済するために、原料炭の炭鉱を複数閉鎖し、資産を売却していると語った。
米国の重機メーカーのキャタピラーは
税引き前の利益の6割を、新興国を中心とする米国外で稼いでいる。
だが、2012年以降、20カ所の生産拠点の閉鎖と3万1000人の人員削減を余儀なくされた。
同社は9月、2016年は前代未聞の4年連続の減収となる可能性が高いと述べた。
やはり機械メーカーで精錬・精錬装置を生産している国営の中国第二重型機械集団は先月、地元の裁判所が同社の債権者からの債務再編要求を受理した後、利払いでデフォルト(債務不履行)した。
こうした出来事は将来の予兆のように見え始めている。
今年は新興国の借り手による外貨建て債券でのデフォルトが、少ないながらも、それなりの数で発生している。
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によれば、今年1~8月期に16件のデフォルトがあり、2014年通年の実績を上回っているという。
企業の莫大な過剰債務が「バランスシート不況」のリスクを高めていることから、アジア全土での利益の減少は特に深刻だ。
バランスシート不況では、高い債務返済コストが企業に支出や投資よりも貯蓄に集中することを強い、ひいては成長を鈍らせる。
コンファレンス・ボードのシニアエコノミストのアンドリュー・ポルク氏(北京在勤)は、中国でそのような不況が現に起きていると見ている。
特に小規模な生産者の間でその傾向があるという。
業界団体の国際金融協会(IIF)は、新興国では過去10年間で非金融会社の債務が5倍に増加しており、アジア――そして特に中国――が増加分の最大のシェアを占めたと指摘する。
こうした企業の債務総額は現在、23兆7000億ドルに上っており、新興国の国内総生産(GDP)合計の9割に相当するとIIFは試算している。
■憂慮すべき債務増加のスピード
「債務増大のスピードは驚くべきものだった」。
IIFのフン・トラン専務理事はこう話す。
「すべての調査研究が、債務を積み上げたスピードが当該債務の質とその後の危機に重大な役割を果たすことを示している」。
さらに、
「企業の借り手の間で、その債務を返済する負担が増している様子が確かに見える」
と同氏は付け加える。
企業の投資収益を低下させるデフレスパイラルと結びついたこの債務負担の影響は、新興国からの資本純流出に拍車をかけた。
IIFは新興国からの資本純流出が今年5400億ドルに達する可能性があると試算している。
資本の流出入が差し引きでマイナスになるのは、1980年代後半に新興国が1つの概念として発展して以来、初めてのことだ。
要するに、問題は、工場と機械に直接投資を行う人も株式と債券にポートフォリオ投資する人も新興国――そして、その区分内でアジア――のことを、現時点でお金を置いておく魅力的な場所と見なしていないということだ。
生産者物価の下落が企業のリターンを低下させる一方、債務返済が利益を減殺するからだ。
国際通貨基金(IMF)は先月、FRBや他の中央銀行が金融政策を引き締めたら、債務を負った企業にかかるストレスが増すと警告した。
FRBは年内か2016年初めに10年ぶりの利上げを行う見込みだ。
IMFは年に2度発行される国際金融安定性報告書の最新版で
「新興国市場は企業の破綻の増加に備えるべきだ」
と述べている。
デフレの古典的理論は、いわゆるバーナンキ・ドクトリンで支持されているものも含め、
生産者物価の下落は総需要の急減の結果生じる
と定めている。
バーナンキ氏が2002年に述べたように、これが
「買い手を見つけるために生産者が継続的に値下げしなければならないほど厳しい支出の落ち込み」
につながるという。
この分析がデフレの脅威に対する主な米国の対応に直接つながった。
QEを通じて経済に流動性をつぎ込むことによる需要の喚起がそれだ。
だが、少なくともアジアのデフレの場合は、生産者物価を押し下げている最大の要因は、
需要不足ではなく供給過剰である可能性が高い
ように見える。
もしそうだとすれば、果てしないQE――ガロ氏の表現を借りるなら、「QEインフィニティ」――は企業への低利融資の提供を通じて過剰供給を長引かせる役目を果たすことで、デフレの問題を緩和するどころか、むしろ悪化させる可能性がある。
「『QEインフィニティ』はそれだけで長期的にデフレを招く可能性がある。
過剰設備の問題が解決されずに、先延ばしされることを意味するからだ」
とガロ氏は言う。
「それが今度は、長引くデフレと資産価格のバブルを同時に引き起こす可能性がある」
■崩れる参入障壁
パワー氏は、いつまでも続く製品の過剰供給の理由として、アジアの製造業における参入障壁の崩壊を挙げる。
地域全体で製造業の投資を呼び込むことを狙った各国政府のインセンティブ――優遇税制や土地購入の値引き、その他の国家政策など――も、その原動力になっている。
「ベトナムはサムスンの新しい巨大携帯電話工場を誘致した。
バングラデシュは、ローエンドの紡績業が移転している先だ。
カンボジアとインドネシアも、ここで勝ち始めている」。
パワー氏はこう言う。
「一方、インドは独自の『メーク・イン・インディア』キャンペーンに乗り出しており、すでにスクーターとオートバイのリーダーになっている」
パワー氏の言うところのこの「供給のツナミ」はアジアの貿易不況にぶち当たっている。
アジア地域の輸出は2008~09年の危機以来最悪となる成績を残しており、調査会社キャピタル・エコノミクスがまとめたデータによると、輸出は7月に前年比で7.7%減少し、ドル建てで9カ月連続の減少を記録した。
しかし、アジアの貿易の伸びの消滅というトレンド自体よりも、その理由の方が大きな心配の種だ。
ドルに対する各国通貨の下落は、通常予想される輸出の増加をもたらしていないが、それでも通貨安は輸入品に対する需要を押し下げており、その結果、デフレ傾向を悪化させている。
本紙(英フィナンシャル・タイムズ)の調査では、通貨が対ドルで1%下落するごとに、輸入量が平均0.5%減少することが分かった。
過剰生産能力がまだ慢性的で、貿易需要が減退しており、生産性が停滞し、世界経済がお粗末な状態にある今、アジアのデフレ期のこの段階で明るい兆候を見つけるのは難しい。
■デフレはまだ始まったばかり?
IIFのトラン氏は歴史的な複数年サイクルで物事をとらえている。
1890年代以降、4度あったというコモディティーのスーパーサイクルの上昇局面は概して20年前後続き、下落局面は15~26年間続いたと同氏は言う。
「我々は下方サイクルの4年目にいる」。
トラン氏はこう付け加える。「これは速やかに反転させられる問題ではない」
By James Kynge and Jonathan Wheatley
© The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web.
』
『
Business Journal 2015/10/8 06:04 文=渡邉哲也/経済評論家
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151008-00010005-biz_bj-nb
空がグレー
…中国、深刻な環境破壊が経済にも悪影響
産業の海外流出も
10月6日付当サイト記事
『中国経済崩壊で訪れる未曾有の事態、疑惑まみれの経済統計、世界中が「見放し」か』
では、そのゆがんだ経済構造や統計の不確実性から、中国の発展が限界に達していることについて解説した。
では、今回はその具体的な要因について見てみよう。
まず、環境面での限界を挙げることができる。
中国といえば、環境問題の悪化が話題になることが多いが、特に大気の状態が劣悪で、首都・北京の空は「1年365日のうち、360日はグレーに染まっている」といわれる。
光化学スモッグや微小粒子状物質(PM2.5)に代表される大気汚染がひどすぎて、もはや都市部に人が快適に住むのは難しい状況である。
北京の交通警察官の平均寿命48歳という数字が、すべてを物語っているだろう。
そして、その弊害は至るところに表れている。
例えば、9月3日に北京で「抗日戦争勝利70周年」記念行事が開かれ、天安門広場で軍事パレードが行われた。
その際、青空を“つくる”ために、周辺の工業の操業停止などの措置を取ったことは、記憶に新しい。
しかし、この「パレードブルー」を演出するために、約3,800億円の損失が発生したともいわれている。
これは直接的な損失だけで、波及効果を考えれば、実質的な損失額は1兆円クラスにまで膨れ上がるだろう。
ちなみに、北京では2014年11月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が開催され、今年8月には世界陸上競技選手権大会も開かれた。
国際的行事のたびに同様の施策が採られており、
それぞれ「APECブルー」「世陸ブルー」などと揶揄されている。
それに付随して、同じように膨大な額の損失が発生していることは、いうまでもないだろう。
また、中国は水不足にも悩まされている。
世界3位の全長を誇る長江の枯渇が、大きな問題になっているのだ。
この原因は、09年に完成した三峡ダムである。
三峡ダムは、世界最大の水力発電所としても知られており、中国の総発電量の約10%を占めている。
つまり、三峡ダムでの発電を止めれば水不足は解消されるが、同時に電力供給が減少することによって、さまざまな工場も止まるという構造になっているわけだ。
中国としては、さらなる工業発展を進めたいが、そのためには環境を犠牲にせざるを得ないというジレンマに陥っている。
●一人っ子政策のツケが回ってきた中国
2つ目の問題として、人口ボーナスから人口オーナスへの変化がある。
人口ボーナスというのは全人口に占める若年層が多い状態であり、低賃金の労働力が多いために国家は発展しやすい。
逆に、中高年層が多くなると、国家の発展にとってはマイナスであり、その状態を人口オーナスと呼ぶ。
中国では、1979年に一人っ子政策という人口規制政策が開始された。
その第1世代に当たる層は現在30代中盤になっており、その下の若い世代は著しく少ない。
中国は、一人っ子政策の代償を今になって払わざるを得なくなっており、人口においても非常にゆがんだ構造を持っているのだ。
中国の人口ボーナスから人口オーナスへの変化は、13年から14年にかけて顕著化しているといわれており、人口の面から見ても、発展の限界に達しているといえる。
さらに、「中進国の罠」というものがある。
中進国とは中所得国とも呼ばれ、1人当たりの国内総生産(GDP)が3000~1万ドルの国を指す。
そして、1人当たりGDPが1万ドルを超えると、国家の発展は著しく遅くなり、
なかなか2万ドルの壁を越えられない。
これは、産業がほかの低賃金国に逃げてしまうからだ。
中国の1人当たりGDPは約6000ドルで、すでに軽工業を中心に産業の国外流出が始まっている。
まさに、中進国の罠にはまっているわけだ。
この中進国の罠を抜け出せるかどうかが、新興国であり続けるか、先進国の一員になるかの分水嶺といわれているが、すでに発展の限界を迎えている中国が後者になる可能性は極めて低いだろう。
』
Business Journal 2015/10/6 文=渡邉哲也/経済評論家
http://biz-journal.jp/2015/10/post_11824.html
中国経済崩壊で訪れる未曾有の事態
疑惑まみれの経済統計、
世界中が「見放し」か
バブルというのは、その名の通りいつか必ずはじけるものだ。
そして、いわゆるバブル景気の場合、そのはじけ方が問題になる。
ハードランディングになるか、ソフトランディングになるかで、その後の経済状況が変わってくるからだ。
最近、世界的な話題になっている中国経済のバブル崩壊に関しては、
「どうやら、ハードランディングになりそうだ」
ということで、問題視されている。
そもそも、中国とはどのような国家だろうか。
この国は、「共産党独裁自由主義経済」ともいうべき、非常にゆがんだ経済構造を持っている。
中国共産党のための自由主義経済であり、資本主義と計画経済の“いいとこ取り”をしてきたのが実態だ。
資本主義と計画経済というのは、正反対の経済思想であり、本来は並立することはあり得ない。
しかし、中国において、このような経済システムが許されてきたのは、なぜだろうか。
それは、世界各国が中国を利用して儲けることができたからである。
しかしながら、いよいよそれも許されなくなってきた。
そういった背景が、中国のバブル崩壊の根底にあるといえる。
「金の切れ目が縁の切れ目」ということわざがあるが、
中国の場合はまさに「金の切れ目が国際社会との縁の切れ目」になりつつあるわけだ。
また、中国経済を語る際、その構造から、よく「張子の虎」にたとえられるが、巨大な張子の虎もついに壊れようとしている。
世界には、実体経済の60倍近い架空資金(フェイクマネー)が生まれている。
これは、金融の世界における信用創造の過程でつくられる。
例えば、土地を担保にお金を借りて、そのお金を株式に投資して、それが証券化されて……といったかたちで、リアルマネーが何倍にも膨れ上がっているのだ。
そして、その膨れ上がった部分が「バブル」と呼ばれるものであり、それが一気にはじけるのが「バブル崩壊」である。
中国の場合、このバブルの膨れ方が異常だったという指摘もできる。
■中国の成長率7%はウソ?
中国の国内総生産(GDP)の成長率について、見てみよう。
中国は長らく「保八」という政策目標を達成してきた。
これは「成長率8%以上を維持する」というものであり、中国の経済成長を象徴するものである。
逆にいえば、
★.毎年8%以上の成長率を維持しないと、失業者の大量発生などにより、社会の安定が保てないという事情もあった。
しかし、ここ数年の中国は保八を割り込んでいる。
中国国家統計局の発表によると、2014年の成長率は7.3%であった。
15年の目標成長率は7.0%で、4~6月期の成長率は7.0%である。
しかし、昨年の成長率が本当に7.3%だったのか、今年4~6月期の成長率が本当に7.0%だったのかについて、鵜呑みにしないほうがいいだろう。
なぜなら、中国においては政府発表の公式な数字であっても、その真偽が危ぶまれているからだ。
いわば、中国の統計は、あてにならないのである。
そんな中国経済を測る上で、最も大切な指数といわれているのが「李克強指数」と呼ばれるものだ。
李克強とは、現在の国務院総理(首相)だが、遼寧省の党委書記を務めていた際に「鉄道輸送量」「電力消費量」「銀行融資」の3つを、比較的信頼できる数字として挙げたことがある。以来、この3つは李克強指数として、中国経済の内情を測るためのツールとして使われている。
この李克強指数を見れば、どのくらいエネルギーが消費され、モノが輸送されているかがわかるわけだが、近年はいずれも下落基調にある。
それを鑑みると、実質的な中国の成長率は良くて3%程度、悪ければマイナスという試算まで出始めている。
あらゆる面で、中国の発展は、すでに限界に達しているといえるだろう。
その具体的な中身については、次回以降に見ていきたい。
(文=渡邉哲也/経済評論家)
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