2015年10月11日日曜日

高速鉄道輸出合戦(2):中国はなぜ赤字覚悟でインドネシア高速鉄道を受注したのか?

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2015年10月5日 7時0分配信
遠藤誉  | 東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士
http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20151005-00050138/

インドネシア高速鉄道、中国の計算

中国は高速鉄道建設に関してインドネシア政府に財政負担や債務保証を要求しない条件を提案して日本を退けた。
日本政府にとっては理解しがたい条件だが、中国には綿密に計算された長期戦略があった。何が起きていたのか?

◆ジョコ大統領に目をつけた習近平国家主席

  一般に誰が考えても、相手国の財政負担はゼロで債務保証も要求しませんという慈善事業のような形でプロジェクトを請け負うことは理解しがたいことだ。

 しかし、中国はちがう。

 インドネシア政府による支出はなく、債務保証もしなくていいという、考えられないような条件を提示したのだ。
 本当にそんなことが実行されるのなら、飛びつかない国はないだろう。

 日本政府は「理解しがたい」と遺憾の意を表したが、中国流外交戦略は「計算」の仕方が違う。

 まず2014年10月20日、庶民派のジョコ・ウィドドが大統領に就任すると、習近平国家主席はいち早くジョコ大統領に目をつけた。

 ジョコ大統領は就任直後の同年11月4日に、「海洋国家構想」の一環として、「港湾整備や土地整備を優先するためにインフラ整備の優先順位を見直す」と発表。
 これぞまさに習近平政権が掲げているAIIB(アジアインフラ投資銀行)と一帯一路(陸と海のシルクロード)構想とピッタリ合致する。

 そこで2014年11月9日に北京で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会談に出席したジョコ大統領を習近平主席は手厚くもてなし、首脳会談を行なった。
 ジョコ大統領はすぐさまAIIBへの参加を表明した。
 インドネシアにとって中国は最大の貿易相手国だ。
 一帯一路構想に関してもジョコ大統領は協力の意を表した。

 11月10日、ジョコ大統領は日本の安倍首相とも会談して海洋協力を約束し、2015年3月22日に訪日して経済協力と安全保障面の協力について話し合っているが、それに対して習近平主席は、もっと「具体的な」手段に出ている。

◆インドネシア高速鉄道プロジェクト協力に習主席がサイン

 2015年3月末、ジョコ大統を北京に招聘して、中国の国家発展改革委員会とインドネシアの国有企業省に「中国・インドネシア ジャカルタ‐バンドン間高速鉄道合作(協力)備忘録」を交換させた。

 続いて2015年4月22日、習近平国家主席自身がインドネシアを訪問し、ジョコ大統領と会談した。
 この際、習主席は、インドネシアの高速鉄道プロジェクトに関して話しあい、署名までしている。

 双方はまず以下の基本原則で合意した。

●中国側は実力の高い、より多くの中国企業がインドネシアのインフラ建設と運営に参加することを望んでいる。
●インドネシア側は、中国と各領域で協力することを希望し、特に中国の「21世紀、海のシルクロード」構想とインドネシアの新しい発展戦略を結合させることをきっかけとして、中国側がインドネシアのインフラ建設に多くの投資をすることを望んでいる。

 この双方の意向を受けて、中国はインドネシアに「60億ドル」の投資をすることを約束し、サインした。
 合意された内容に関してインドネシアの計画発展部副部長は、翌日のメディア報道で、つぎのように語っている。

 「インドネシア政府は政府の財政融資を用いて、この高速鉄道プロジェクトを推進しようとは思っていない。
 日本の国際協力機構の試算では、このプロジェクトへの投資総額は60億ドルとなっている。
 投資の収益率がマイナスであった場合、民間企業だけで負債を生めることはできない。
  したがって理想的にはインドネシア国有企業が主導する形で、国有企業が74%出資し、政府が16%、民間企業が10%出資するということが望ましい」

 この「60億ドル」に注目していただきたい。

 習主席は、まさにこの「60億ドル」の投資をインドネシアの高速鉄道プロジェクトに投資することを、今年の4月に約束し、サインしているのである。

◆中国の提案――「デキ」レース

 ここまでの準備をした上で、中国政府は
  「インドネシア政府の財政負担なし。
 債務保証をする必要もない」
という条件を、日中の高速鉄道競争の「入札」に提出したのだ。

 それも「中国の複数の鉄道関係の国有企業と、インドネシアの国有企業が合資で新しい企業を創設する」という条件も付けた。

 4月22日の会談における「インドネシアの国有企業が主導する」という形式を、「その国有企業と中国の複数の国営企業が合資により、インドネシアに新しい企業を設立させる」という着地点で実現させたのである。

 だから、日中競争の「入札」においては、予め4月22日の段階でインドネシア政府の要求を中国がすでに実現していた形だ。

 これを入札という形の競争場面においてでなく、習主席の単独訪問で済ませてあったことになる。

 この「順番」と「場」が肝心だ。

 9月になってインドネシア政府が白紙撤回を宣言したのは、日本を振り落すためだったのではないかと推測される。

 そうしておいて、中国から改めて条件が出されたような形を取った。

 これは、いうならば「デキ」レースだ。

 日本政府は4月22日の、習主席によるインドネシア訪問と、その時になされた両政府間の約束を、十分には注目していなかったのだろうか?

 あるいは、これはあくまでも中国の一帯一路構想の中の一つにすぎないと思ってしまったのだろうか?

 中国の精密に計算された戦略は、その後に佳境を迎える。

 今年8月10日、中国政府の発展改革委員会の徐紹史主任はインドネシアを訪れ、ジョコ大統領と会談し、高速鉄道プロジェクトに関して話し合いをした。

 その2日後の8月12日に、ジョコ大統領が就任後初めての内閣改造に踏み切ったのである。

 この内閣改造で解任された閣僚の中に、親日派のラフマット・ゴーベル貿易大臣がいることに注目しなければならない。

 その一方で、徐紹史主任とも会談した親中派のリニ・スマルノ(女性)国営企業省大臣は留任した。

 ここがポイントだ。

 翌8月13日、駐インドネシアの謝鋒中国大使はジャカルタで開催された「急速に発展した中国高速鉄道」展覧会で祝辞を述べたが、同日、リニ・スマルノ国営企業大臣も展覧会に出席し、中国高速鉄道を支持するコメントを出している。

 そして国有企業省の記者会見で「G2G(政府対政府)」ではなく、「B2B(企業対企業)」で高速鉄道プロジェクトを推進していきたいと強調した(と中国メディアが報道した)。

 中国は8月の入札時に
 「中国とインドネシアの企業が連合して合資企業を誕生させ、インドネシア企業の持ち株を60%、中国側企業が40%とする」
という、インドネシア政府に有利な条件を提示している。

 これを「偶然」と解釈するのか、それとも「デキ」レースととらえるのか。
 その後の流れから行けば、「偶然」と解釈するには無理があるだろう。

 デキ過ぎている!

◆損して得獲れ

 中国がこのような条件でプロジェクトを実行することは損失ばかりで、「実行不可能だろう」と日本政府は思って(期待して?)いるかもしれない。

 しかし、数千年におよぶ「策略」の歴史を持つ中国。

 結果的に損するようなことはしない。

 中国の国有企業が儲かるようにきちんと計算してあるのと、何よりも一帯一路の足掛かりをインドネシアにつけておくことは、この後の長期的な海洋戦略で欠かせない。
 どんなに高額なものになっても、投資は惜しまないだろう。

 アメリカのカリフォルニア州の「ロサンゼルス‐サンディエゴ」間の鉄道敷設に関しても、中国はすでにカリフォルニア州と意向書を取り交わしている。
 カリフォルニアは早くから親中的な華人華僑で陣固めをしてあるので、ビジネスは西海岸から始めるのである。

 これまでODA予算などで、ひたすらインドネシアを応援してきた日本としては、裏切られたという思いが強いだろうが、国際社会は「友情」や「温情」では動かない。

 残念ながら、動くのは「戦略」だ。

 日本の劣勢は今後も世界のいたるところで展開される危険性を孕んでいる。
 それを避けるためには、中国の一部始終を洞察する外交戦略の眼が不可欠だろう。

(寄せ集めだらけの中国の高速鉄道技術だが、それはまた観点が異なるので別途論じることとする。)

追記:4月22日、ジョコ大統領と会った習近平主席は、爆買い観光客をインドネシアに行かせることも約束した。



Japan In-depth 10月12日(月)6時47分配信 千野境子(ジャーナリスト)
http://japan-indepth.jp/?p=22349

【インドネシア高速鉄道、受注敗北ショック】~
日・中・ASEANのこれから(その1、その2、その3) 

インドネシア高速鉄道の受注をめぐる日中争奪戦。
インドネシアは伝統的に親日的でODA(政府開発援助)最大の受取国でもあっただけに、敗れた日本のショックは大きかった。
なぜ中国は勝ち、日本は負けたのか。
そして日本にとっての教訓は? 
あらためて「事件」を振り返りながら、日本と中国、インドネシアそしてASEAN(東南アジア諸国連合)関係の今後を展望する

■ジャカルターバンドンは中速鉄道向き

 先行する日本。
 そこへ駆け込み参入する中国。
 インドネシア高速鉄道受注合戦は俄かに熱気を帯び、関係者一同が固唾を呑む中、9月4日、ジョコ・ウィドド大統領が出した決断は日中両案不採用、中速度鉄道への計画見直しだった。

 関係者によればその瞬間、日本側には快哉を叫んだ人もいたという。
 「勝ちますよ」と表向きは平静だったものの、密かに負けを覚悟していた。
 勝てなかったけれど、負けなくて良かったという安堵である。

 私は日中板挟みの中、ジョコ大統領もなかなか賢明な決断をしたと思った。
 いかにも対立・衝突を好まないASEANウェイらしい。
 しかし中国はこのまま引き下がらないだろうなとも思った。
 値引き交渉か、はたまた〝援助圧力〟か、昨今の中国の対外援助のパターンを見れば容易に想像がつく。
 後はインドネシア次第・・・。

 あまりに呆気なく想像が的中してしまったのには少し驚いた。
 中国の行動パターンはホントに分かりやすい。
 9月29日、インドネシアは中国の新提案採用を発表した。
 親日国のこの〝心変わり〟に、
 よけいガックリ、失望した日本人も少なくあるまい。
 事実、インドネシアの対外信頼性が揺らぐと報じた欧米紙もあった。

 私がジョコ大統領の決定を「賢明な判断」と思ったのは、そもそも建設予定の首都ジャカルタと同国第3の都市バンドン間140㌔に当面、高速鉄道は要らないと思うからだ。
 日本提案は時速300㌔、中国提案は時速350㌔だから、日中とも30分もあれば到着する計算だ。

■そんなに急いでどこへ行くの?

 インドネシアは経済の減速が懸念され始めている。
 たった140㌔、30分のために巨費を投じる余裕があるのだろうか。
 贅沢なオモチャ
と言ったら言い過ぎかもしれないけれど。

 それにインドネシアの交通インフラに巨費を投じるなら、もっと必要な対象が他に沢山ある。
 例えばジャカルタ首都圏の交通網の充実は致命的交通混雑解消のため最優先課題だ。
 渋滞は今に始まったことでなく、私がシンガポール特派員としてしばしば訪れていた1990年代末も同様だったが、最近は場所により、さらにひどくなっているという。

 当時から市民が熱望していた
 インドネシア初のMRT(地下鉄)工事はいまようやく進んでいる。
 幸いこちらは日本が手掛けており、日の丸のロゴがあちこちに貼られ、日本をアピールしている。

 工事のため反って渋滞が悪化した道路もあるらしいが、完成の暁にはジャカルタ首都圏の便利な足として人々に日々、利用されるのは間違いないし、日本のインフラの「安全・安心システム」が浸透すれば、市民の日本への信頼感もさらに増すことだろう。

 また進出している外国企業にだって有難いはずだ。
 かねてより交通渋滞や港湾施設などインフラ不備のために失われるGDP(国内総生産)は相当大きいと指摘されてきた。
 もしかしたら走行距離140㌔の高速鉄道で得られるGDPより大きいかもしれない。

 もう一つ、私が中速鉄道という選択に軍配を上げたいと思ったのは、バンドンがジャワ島西部、標高715㍍に位置する緑豊かな歴史ある高原の町だからである。
 19世紀初めに宗主国オランダが開拓し、夏でも涼しいこの町に、母国に帰らず余生を送ったオランダ人も多い。
 またそのオランダとの独立戦争でインドネシア側は町に敢えて火を放ち、退却しながら次の戦いに備えた。
 「バンドン火の海事件」としてインドネシア人なら誰もが知る歴史的事件だ。
 美しい町を一時的に失っても祖国解放に賭けたのである。

 初代大統領スカルノはインドネシア人として初めて著名なバンドン工科大学に学び、独立運動と恋の青春時代を送った。
 そのスカルノが1955年、ネルー印首相ら新興国のリーダーを集めて開いたアジア・アフリカ会議は通称バンドン会議として世界に知られ、今年の60周年記念首脳会議(ジャカルタ)には安倍晋三首相も出席した。

 現在、バンドンへの鉄道ルートは幾つかあるが、どれも老朽化したり高低差で速度制限があったりと再工事が必要なのは確かなようだ。
 私が期待するのはリニューアルされた快適な鉄道で緑美しい自然の風景を楽しむ高原列車の旅だ。
 30分ではもったいないから、1時間~1時間半くらいが良い。

 つまり、こんな風にいろいろ考えると中速鉄道こそ地に足が着いた賢明な判断と思ったのである。
 だが覆水盆に返らず。
 大統領の翻意で反古になってしまい、拍手の手も引っ込めた。

■なぜ中国は勝ち、日本は負けたのか

 それでは中国はなぜ土壇場の逆転に成功したのだろうか。
 逆に言えば日本はなぜ中国を退けられなかったのだろうか。

 独断と偏見とお断りすると、答えは簡単だ。
 いま中国は何をおいても日本に勝ち、
 日本の顔色を失くさせしめることに全力投球だからだ。
 米国との「新型大国関係」を目指す以上、日本の後塵を拝することは出来ない。
 すべてと言わないまでも、衆目の及ぶところ日本には絶対負けられないし、そのためなら少々の無理も厭わない。

 とくに東南アジアでは近年、日本のプレゼンスの痕跡を消すのに躍起のように見える。
 最近出版した拙著『日本はASEANとどう付き合うかー米中攻防時代の新戦略』(草思社)で紹介したのは、
 中国の援助で造る橋や道路が、決まって日本の造った橋や道路の隣で、かつそれより大きな橋や道路を造るというカンボジアのエピソード
だった。
 「日本の跡を消そうと言う魂胆ですよ」
とはカンボジア専門家の解釈である。

 今回の受注争奪戦も同じような狙いから、中国の下した提案は伝えられるようにインドネシアの求めた財政負担や債務保証を伴わない事業実施の受け入れだった。
 数千億円とも言われる事業費の大半を中国が面倒を見ましょうという。

 日本はジョコ大統領が来日した際に、1400億円の円借款(有償資金協力)を約束した。
 いくら低利でも円借款は返すのが条件だから、これでは日中勝負にならない。
 しかも完成予定が2030年の日本に対して中国は2018年と超特急である。

 日本は負けるべくして負けたと言えるが、何もそこまでして獲得する必要はないとも思う。
 菅義偉官房長官が「中国案決定の経緯は理解しがたく、常識では考えられない」と批判した気持ちも分かる。

 しかし恐らく今後も似たような日中争奪戦は起きる。
 日本は同じ過ちを繰り返さないことが肝心だ。
 「安い・早い」で中国と競うのはもはや賢明ではない。
 量より質であり、日本の強みを生かすとの原点に立ち返るべきだ。

 もっとも消息筋によると、
 実は中国の再提案に借款も入っており、しかも利子が円借款より何倍も高いのだと言う。
 従って鉄道計画は頓挫するのではとも囁かれている。
 単なる噂か真か、中国提案の本当の内容は分からない。

 周知のように中国は軍事予算も経済成長も、数字が不透明な上に、先進援助国で構成されるOECD(経済協力開発機構)にも加盟していないため、実態が分かりにくい。
 そこで日本はもとより他の加盟国も様々な数字を突き合わせながら、中国の対外援助の実相を推し量ってきたのである。

 インドネシアは当事者だから当然知っているはずだ。
 金利を見落とすなんてことがあるだろうか。
 それとも見たくないものは見ない?
 マサカ。
 先の話だから何とかなると考えているのだろうか。
 ちょっとコワイ話である。
 「頓挫していずれ日本を頼って来ますよ」
と予言する知人によれば、かつてフィリピンの発電所建設で似たような事が起きたという。

 ただし私は両国の合意に高利の借款が含まれていても少しも驚かない。
 それどころかむしろありそうな話に思える。
 中国は一般に言われるほど大盤振る舞いではない。
 冷戦時代のソ連の対外援助に比べたら、ずっとシブイ。

 1990年代初め、ソ連崩壊で最大の援助国を失ったキューバで流行った秀逸なアネクドートがある。
 「アロー(もしもし)」とカストロ首相が中国に電話をした。
 中国側は答えた。
 「ご飯はありませんよ。
 自転車の代金だってまだなのに」

 スペイン語のご飯はアロス(お米、の意)。
 アローと言ってもアロスに聞こえてしまうほどの食糧事情の悪化と、ガソリン不足で車に替えて輸入した自転車の代金を迫る商売人の中国を皮肉ったものだ。
 この頃、訪れたハバナのハイウェーに車の姿はほとんど見られず、青空の下、自転車がスイスイ走っていた。

 また中国はたとえインドネシアから借款が戻らなくても、「損して得する」作戦かもしれない。
 ジャカルターバンドン間は140キロと短いが、インドネシアは米国大陸がスッポリ入るほど東西に長い。
 東端には第2の都市スラバヤがある。
 インドネシア最大の港を有する商工業都市で、ここまで高速鉄道を通すなら大いに意味がある。
 経済成長次第だが、いずれそうなるだろう。

 鉄道は区間ごとに中国、日本、フランスと異なる方式を勝手に敷くことは出来ないという。中国としてはバンドンまでをまず確保し、将来は全工程を取る。そう考えれば、中国はなかなか長期的戦略に長けている。

新幹線技術を取り(盗り?)入れ、高速鉄道は後発の中国だが、中国が鉄道敷設に国家的威信をかけているように私には思える。
 だからこそ日本には負けられない。
 日中国土面積の違いから当然のこととは言え、世界の高速鉄道の運行距離2万キロの半分は中国と言われ、対する日本はせいぜい数千キロに過ぎない。
 鉄道建設に限れば中国の方が経験豊富なのだ。
 もちろんここで質は問わない。

 鉄道に限らず世界にインフラ輸出する中国の欠点は質の劣ることだと言われてきた。
 台湾との「一つの中国」承認合戦を激しく展開してきた太平洋島嶼国でも、
 中国は道路から橋、体育館、病院、国会に至るまで、ありとあらゆるインフラを現物供与したが、島嶼国に共通する不満は、
 第1に品質の問題、
 第2に故障・修理に時間がかかる、
 第3に資材や機材から労働者まで連れて来て、建設が終わっても帰らない(不法残留)こと
などだという。

 まさか人口大国インドネシアに中国人労働者を連れてくることはあるまいが、ビジネスを牛耳る華人に好感情を持っていないインドネシア人は多い。
 アフリカや太平洋島嶼国でのように我が物顔で振る舞えば必ずや顰蹙を買うだろう。

■日本はASEAN諸国とどう付き合うか

 確かに日本の新幹線は安心・安全・正確・快適・・・すべての点で、ひいき目でなく中国に勝っている。
 しかしそうした高度で複雑なシステムが世界中どこの国でも必要とされ、求められるかと言えば、別問題である。
 どこにもお国の事情がある。

 新幹線システムは素晴らしいが、費用対効果などから我が国にはちょっと…と言う国は少なくないはずだ。
 相手の市場の現実をよく知り、ニーズを知るのはもとより、ニーズを作り出すことにまで挑戦して行かないと、日本は後発国にどんどん追い上げられ、負けるだろう。
★.これがインドネシア受注合戦の第1の教訓である。

 また日本のODA60年の歴史で、その支柱として大きな役割を果たしてきた円借款が必ずしも万能ではなくなり、かつてのような吸引力や魅力を失いつつあるという現実を目の当たりにしたのも教訓である。
 「円借款よりも投資を」が今日の世界の潮流である。

 借りたのは事実だが、返済に追われてなかなか自立できないジレンマを抱える途上国は少なくない。
 開発援助に占めるODAの比率はますます低下し、今や民間企業やNGO(非政府機関)、巨大財団などの資金がODAを凌駕する時代となっている。

 さらにたとえ親日国でも、日本に対して何でもイエスと言うわけではないという、当たり前の事実も噛みしめたい教訓である。
 裏切られたなんていうのはお門違い。
 どの国も最優先すべきは国益である。対日世論調査でも明らかなように、インドネシアはじめ東南アジア諸国には親日的な国が多く、ついつい心地よさに安住したり、勝手な思い込みをしたりしがちだ。
 けれど対外感情というものはちょっとしたことをきっかけに変わるものでもあるから、日ごろから不断の努力で人脈・ネットワークづくりをすることが大切だ。

 陰りを見せるインドネシア経済に、ジョコ大統領は8月初めに内閣改造を行った。
 経済担当調整相など交代した6人には、知日派のゴーベル商業相も含まれていた。
 中央大出身でインドネシア日本友好協会の会長も務め、先の日中受注競争では新幹線派だった同氏の交代は一つのシグナルだったと見る向きもある。
 親中派の閣僚が留任したことも、そうした憶測を加速させた。

 私は拙著『日本はASEANとどう付き合うか』のおわりに、日・ASEAN関係の今後について次のように書いた。
 ちょっと長めに引用して本稿の結びとしたい。

《《《《《《《《《
 「新型大国関係」で仕切ろうとする中国は、いまやアメリカからの挑戦を受けて立つ兆候さえ見せ始め、一方のアメリカはアジア・リバランス政策を掲げつつ、対中政策に一貫性が感じられず迷走しているように思える。
 中国の出方を測っているということもあるのだろう。
 しかしそうであればなおさら、日本とASEAN両者が協力し合う必要性と可能性はかつてなく大きく、増している
 …中略…
 そのための政治力を日本が日本らしく、またより見える形で発揮してもASEAN諸国から反発や拒否反応が出てくるとは思えない。

 フィリピン、ベトナムはとりわけ日本への期待が高い。
 ASEANが全体として中国と事を構えることを望まない空気が支配的な中で、両国が反中で突出して結果的に孤立してしまうことがないよう配慮しつつ、しかし両国との協力・支援は惜しむべきではない。
 このバランスは微妙なところだが、ASEAN戦略の要だ。
 なぜならASEANもまた微妙だからである。

 ASEANは茫洋として分かりにくい。
 本当の姿がどこにあるか、正直掴みにくい。
 こんな声がしばしば聞かれる。
 当たっていなくもない。
 しかしそれこそがASEANウエイなのだろう。
 そのようなASEANと名実ともに身近な隣人同士になるためには、それぞれの加盟国についても、もっと知ること、そして長いスパンで見ることが必要だ。

 ASEAN外交には粘り強さやきめ細かさ、そして対話の継続性が何より大切になるということである。
 日本はもはやアジアの盟主ではないし、必要以上に指導者意識を持つこともあまりプラスにならない。
 しかしASEANとしっかり手を携えていくことの戦略的価値は高まることはあってもなくならないだろう
》》》》》》》




レコードチャイナ 配信日時:2015年10月11日(日) 12時10分
http://www.recordchina.co.jp/a120870.html

中国は赤字覚悟でインドネシア高速鉄道を受注したのか?
ソロバン勘定の中身とは―中国メディア

 2015年10月9日、鳳凰網は記事
 「中国は赤字必至でインドネシア高速鉄道を受注したのか?」
を掲載した。

 日中が受注を争ったインドネシアの高速鉄道プロジェクト。
 日本優位が伝えられていたが、9月末になって情勢は一転し中国の受注が決まった。
 高速鉄道そのものの性能ではなく、融資条件で中国が上回ったことが決定打になったと報じられている。
 受注したはいいが赤字必至だと懸念する人も少なくないようだ。

 だが実際はどうだろうか?
 中国案の建設費は55億ドルと日本案の49億ドルよりも高い。
 路線長1キロあたりの建設費は2億1300万元と中国国内の建設費を大きく上回っている。
 営業速度250キロの中速路線であるにもかかわらず、だ。
 この点から考えれば中国は損をするどころか大もうけは間違いない。

 融資条件でも日本の金利0.1%に対し、中国は2%と高い。
 ただし日本側は建設費の25%はインドネシア政府が拠出し、また損失が生じた際には政府が債務保証をすることを求めているのに、中国は工費全額を融資し損失が生じた場合にも政府の債務保証は必要ないと条件は異なる。
 融資面でみても中国が圧倒的な好条件を出したわけではないことは明らかだ。

 ならばなぜ中国が勝利したのか。
 それは総合的にみて中国案が優れていたからだ。
 営業開始は2018年と日本よりも3年早い。また日本よりも多くの駅を建設するほか、融資の返済期間でも日本より10年長く設定されている。


サーチナニュース 2015/10/14(水) 11:04
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2015&d=1014&f=business_1014_002.shtml

中国が高速鉄道輸出にこだわる理由=中国メディア

 新幹線をはじめとするインフラ輸出を成長戦略の1つに位置づけている日本に対し、中国も高速鉄道や原発の輸出を推進しており、日中両国は世界の高速鉄道市場において受注競争を繰り広げている。

 日中両国が特に激しく受注を競っているのは主に東南アジアの市場だ。
 インドネシア・ジャワ島の高速鉄道計画では、
★.中国がインドネシア政府に財政負担を求めない案が、受注を決定づけさせた1つの要素になった
とみられる。

 中国国営・中国中央電視台(中国中央テレビ、CCTV)が運営するニュースサイトの央視網によれば、中国高速鉄道はインフラ輸出としての重要性だけでなく、中国政府が戦略として掲げる「製造業の高度化」におけるシンボルとして大きな重要性を持つ。
 高速鉄道という高い技術力が求められる製品を通じて、家電やスマートフォンなどほかの製品についても「中国製」のブランド力を高め、中国は製造業全体の力を底上げしていく戦略だ。

 央視網は、インドネシアにおける高速鉄道の受注競争について
 「1度勝利したからと言って、中国高速鉄道が新幹線にすべて優っているとは一概に言えない」
と主張したうえで、日本は東南アジア諸国に莫大な投資や支援を行っているとし、人工衛星分野で協力関係にある国もあると指摘、
 「経済力を強める東南アジア諸国のハイテク市場に日本は先行して参入している」
と論じた。

 中国が高速鉄道の輸出を積極化しているのは、高速鉄道プロジェクトによって得られる金銭的利益だけが目的ではない。
 中国政府は「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海上シルクロード」の構築による「一帯一路」戦略を推進することで、政治・経済の一層の地位拡大を目指しており、高速鉄道で各国を結ぶことは「一帯一路」戦略を推進するうえで大きな意味を持つと考えられる。

 中国はインドやベトナムに対しても高速鉄道の輸出を提案しているが、中国メディアの西陸網の報道によれば、ベトナムでは「中国と高速鉄道で結ばれれば、中国軍が高速鉄道を利用してハノイやホーチミンに攻め入ることも可能」などと安全保障面での影響を懸念する声もあがっている。



レコードチャイナ 配信日時:2015年10月15日(木) 5時8分
http://www.recordchina.co.jp/a121113.html

インドネシア高速鉄道の受注競争、
「日本が敗因を反省」の報道
=中国ネットは「タダで造ってやるようなもの」
「単なる指導者の実績作り」と悲観的

 2015年10月13日、環球網は、
 「日本がインドネシアの高速鉄道建設受注競争で中国に敗れた原因を反省」
と題する記事を掲載した。

 インドネシア・ジャワ島の高速鉄道計画をめぐる日本と中国の受注合戦は、中国に軍配が上がった。
 日本メディアは、中国が破格の融資条件や猛烈な営業攻勢によって受注を手にしたと分析。
 「日本政府と企業にとっては打撃である」
との論調だ。

 日本の菅義偉官房長官は、
★.中国の「140キロの高速鉄道建設を3年で完成する」という案は日本では実現不可能
だとし、
★.中国の)融資条件も日本では出せないもの
だとしている。
 また、
★.インドネシア政府が求めてきた債務保証なしでの融資という条件に合致しなかったことも理由
として指摘されている。

 一方で、中国のネットでは、
「中国が輸出するものは稼げない。
 単なる指導者の実績作りだ」
「実際、この高速鉄道はタダで造ってやるようなもの」
「タダより高い物はないって言うだろう」
「損をする商売はしない方がいい。
 日本の方が正しい」
など、受注したものの赤字になるとの観測が広がっているようだ。



サーチナニュース 2015/10/21(水) 08:40
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2015&d=1021&f=business_1021_003.shtml

中国が「インドネシア高速鉄道計画」を受注したかったワケ=中国メディア

 中国が受注することが決定したインドネシア・ジャワ島の高速鉄道計画は、日本は2008年から事業化調査を行うなど、受注競争においては中国よりも先行していたと考えられていた。

 一方の中国は、莫大な費用がかかる高速鉄道の建設において、
★.インドネシア政府の財政負担や債務保証を伴わない計画を提案して受注
を決めた。
★.中国側の条件はほとんど旨味のない内容
にも見えるが、中国メディアの央視網は17日、中国がインドネシア高速鉄道を受注した目的について論じる記事を掲載している。

 記事は、インドネシア高速鉄道の建設計画について、中国鉄路総公司の関係者の話として
 「政府が計画をアレンジしながらも、実際に事業に当たるのは両国の企業同士」
だと指摘し、こうした事業形式は中国の鉄道輸出にとって「新しい形」だと論じた。

 さらに中国とインドネシアの企業同士による合弁会社という形で建設と運用を行うことで、
★.インドネシア高速鉄道は「インドネシア政府の財政負担がなく、債務保証も不要となった」
と指摘した。

 一方で、インドネシア高速鉄道は中国にとって事業としての旨味が少なく、ビジネスとしての将来性について懸念を示す声があることを伝え、
★.「損をしてでも、中国高速鉄道をアピールしたいだけなのではないか」という疑問
の声まで存在すると指摘。だが記事は、
★.中国がインドネシア高速鉄道を何としても受注したかったのには理由がある
ことを指摘し、
★.「中国高速鉄道のブランド化」と中国政府の「一帯一路」戦略の推進という長期的な視点に基づいての受注である
と主張した。

 特に、中国を中心とした現代版のシルクロード経済圏を構築するという「一帯一路」戦略においては、インドネシア高速鉄道とともに東南アジア各国に高速鉄道を建設し、互いに連結させるという戦略につながるものであると主張。
 また、旅客運輸収入においても、乗客の1人あたり運賃を20万ルピア(約1770円)と見積もれば、年間3兆2000億ルピア(約283億円)は見込めると主張し、事業として利益をあげることも十分可能だと主張した。



ダイヤモンドオンライン 2015年11月6日 姫田小夏 [ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/81199

中国が競争ルールを歪める限り
途上国開発で日本は敗北し続ける

 インドネシアの高速鉄道の建設計画の受注をめぐり、日本の新幹線案が中国に敗退したことは周知のとおりだ。
 その後、計画は着々と進み、先月16日にはインドネシアと中国の企業連合が合弁会社の設立で正式な契約調印に至った。

 中国による受注の背景には、いくつかの要素が存在した。
 その決定的な要素となったのが、中国側からの「インドネシアの財政負担をなくし、債務保証を求めない」という提示だった。

 ことの経緯はこうである。

 この東南アジア初の高速鉄道は首都ジャカルタと西ジャワ州バンドン間150kmを結ぶもので、将来的にインドネシア第二の都市である東ジャワ州スラバヤへ延ばすという計画がある。
 これに、日本と中国が入札を争っていたが、今年9月3日、インドネシア政府はこの計画を白紙に戻すと宣言した。

 もともと日中は「インドネシア政府の支出がある」ことを前提に競り合っていたが、その前提がここで揺らいでしまった。
 そして、インドネシア政府は計画を凍結させると同時に、「高速ではなく低速に」と計画を変更させ、挙句は「政府は建設コストを負担しない」と条件を二転三転させて行ったのである。

 その後、わずか4週の間に、インドネシア政府は中国案の採用を決定してしまう。
 同月29日のことだ。
 「インドネシアの財政負担をなくし、債務保証を求めない」という中国の提案が決定的となった。

 この要求の変化をものともせずに食らいついて行ったのが中国だ。
 国際問題に詳しい専門家は、この間髪入れずしての提案をこう分析する。

  「インドネシア政府の要求に合わせてすかさずカードを切り返したのが中国。
 内容の精度はさておき、中国は(上記の政府支出ありから出資なしまでの)“3枚のカード”を携えていたと見ることができる」

■激しいロビー活動と実績に対する自信も勝因

 また、この専門家は
 「民間企業が主体となることで、政府の支出を低減させるやり方は、途上国のニーズがインフラの質よりも財政的負担の軽減にあることを中国は見抜いていたという証左だ」
と指摘している。

 一方で、インドネシアには公的資金はジャワ島以外の他の島に振り向け、人口や経済が集中するジャワ島の開発は民間投資に委ねようとする政策がある。
 中国案はこの政策とうまく合致したとも言える。

 これに対し、日本案は債務保証に拘泥した。
 これが敗北につながったという説は有力だ。ちなみにこの「債務保証なし」というのは、事業主体への融資に返済リスクが生じた場合、それを相手国政府が返済するのを通例とするが、中国案はそのリスクも中国が負うことを意味するものだ。

 計画が最終的に中国の手に落ちた理由は他にもある。外交的揺さぶりもそのひとつだろう。

 党中央、国務院、国家発展改革委員会、外交部、国家開発銀行、そしてこれに中国鉄路公司が一丸となった激しいロビー活動である。

 また、“揺るぎない自信”もそのひとつだ。
 世界で最大規模にして最速の技術と管理――は彼らが自認する強みである。
 中国には、たった12年間で1万7000キロの高速鉄道を敷設したという成功体験があり、北京-上海を結ぶ1300キロの高速鉄道に至ってはわずか3年ほどで正式運行にこぎつけている。

 こうした経験を背景に、中国はインドネシアのジャカルタ-バンドン間の150キロを結ぶ高速鉄道も「3年でできる」と誇示した
’ 完工は2018年。
 これは日本案の2021年の半分の工期に過ぎない。

■中国の「一帯一路構想」にインドネシアの思惑が合致

 中国にとっては、初の高速鉄道の海外輸出大型プロジェクトとなるだけに高揚気味だ。
 150キロの走行距離とはいえ、これを契機に今後はインドネシアの鉄道市場を独占できると見るからだ。

 中国はジャカルタ-バンドン沿線での「経済回廊」の構想も描く。
 インフラ建設とともに不動産開発や工業団地開発を進めれば、中国国内の産業チェーンの輸出にもつながると期待を深める。

 また、中国の受注をめぐって注目すべきは、中国の掲げる「一帯一路構想」とインドネシアが掲げる「海洋国家構想」のドッキングである。
 「一帯一路構想」が重視するのは「連結」、他国の交通を連結させながら、中国発の複数のルートを作り上げるこの構想に、インドネシアも利点を見出した可能性は否めない。

 ちなみに2013年10月、習近平国家主席は首都ジャカルタで「21世紀海上シルクロード」構想を発表したが、中国は互いに首位の貿易相手国であること、インドネシアがアセアンでも最多の人口を有する国家であることを理由に、2つの経済体が連結することの利点を強調している。
 中国にとってさらに重要なのは、マラッカ海峡、ロンボク海峡、ナトゥナ海峡などを有するインドネシアを、海上戦略上の攻略地点に組み込むことにある。

 他方、日本の経済界からは嘆息が漏れる。
 日本の商社幹部のひとりは失望を隠さない。

  「今回の一件で明らかになったのは、インドネシアの経済発展に最大の貢献国として認知されてきた日本が、中国にとって代わられたということだ。
 今後、インドネシアには中国資本が大きく投下されるのは間違いない」

■ルールを無視する中国の前に健全な競争原理が歪んでいく

 一方、日本政府の内部からも強い危機感が伝えられる。
 インドネシアの高速鉄道の受注に関わる一連の流れをつぶさに見つめてきた政府関係者はこうつぶやく。

  「これはOECD陣営の『透明性を確保したモデル』の敗北だ……」

 これまで途上国のインフラは、先進国を中心とするOECD(経済協力開発機構)による支援という枠組みを中心に整備がなされてきた。
 そこに中国が割り込んでくることの影響は小さいものではない。

 この高速鉄道計画はインドネシアと中国の企業連合により進められるが、これはPPP方式(Public-Private Partnership)による実施であることを意味する。
 鉄道案件をビジネスとしてやろうというわけだ。
 では、その資金調達や返済期間をどう見積もるのか。
 参加する民間企業はそれぞれにソロバンを弾くところだが、中国の場合は違う。
 実質、政府が采配を振るってしまうのだ。
 しかも、中国の民間企業といっても政府と民間の線引きが曖昧で、その実態は純粋な民間企業でないものが多い。

 他方、日本企業にとってPPP方式は、日本政府のサポートを離れたところでの単体での闘いを意味し、リスク増大の懸念からインフラ案件の受注が遠ざかる可能性がある。
 その結果、蓋を開けてみれば中国企業の跋扈――、こうした展開となることは容易に想像がつく。

 また今回の案件に見るアンフェアは、政府組織を総動員しての手練手管の裏工作、「同じ土俵での闘い」がいつの間にか「水面下の交渉」に切り替えられてしまった点にある。
 中国側は「透明性の確保」など歯牙にもかけていないのだ。

  「ビジネスをするなら“ビジネスの掟”があるはずだ。
 だが、“ビジネスの掟”を無視する国がいとも簡単にそれを落札した。
 途上国のインフラ市場は今後ますます競争原理が働かない市場となってしまう」(同)

 透明性を維持すればそこに市場が発生し、よりよい企業が集まることができる。
 企業が集まれば競争原理が働き、質のいい技術が適正な価格で提供されるという好循環を生む。
 しかし、中国が割り込んでくることでこうした当たり前の競争原理ですら維持できなくなる懸念がある。

 そもそも、すべてのインフラ需要を中国が独占して受注できるわけなどない。
 「世界の途上国の需要に対して、各国で協力して整備に当たる」というのが本筋だ。
 当然、そこにはルールが必要であり、そのルールこそがOECDがまとめる行動指針である。
 ところが、中国は「我々はそんなルールに縛られない」と開き直る。
 「それはあくまで先進国を対象としたものであり、中国は関係ない」
という立場だ。

  「一定のルールに基づいて公明正大な競争をすれば、ひいてはみんながハッピーになる、そういう思いで世の中が動いているはずなのだが……」(同)

■中国で短期完工が可能なのは政府による“強制”があるから

 今回の中国による受注、それがインドネシアの未来にとって最善の選択だったかという点についても疑問が残る。

 筆者は、上海の街の変遷を通して「中国式インフラ建設」というものを目の当たりにしてきた。
 それは住民の強制立ち退きに始まり、民衆と政府の対立、環境破壊と多くの矛盾と摩擦をもたらした。
 その本質を一言でいえば“政府による強制”である。
 インフラ建設には莫大な予算がつぎ込まれたが、その恩恵に浴したのは一部の独占企業である。

 今の中国の自信の根底には、「北京-上海の高速鉄道の3年の完工」があるが、不可能を可能にしたのは “強制”が働いたからに他ならない。
 しかもスピード重視となれば、当然アンフェア、不正を招き透明性が失われてしまう。
 果たしてそれは他国において支持されるモデルなのだろうか。

 ちなみに今年3月、スリランカ政府はコロンボ港で進められる「中国城」の建設に中止命令を出した。
 この計画は520万平米にショッピングセンターやホテル、オフィスビルや3戸の住宅を含む不動産開発だが、法律の抵触と環境破壊が顕在化した。
 ミャンマーでも2012年に銅山開発をめぐり、民衆が大規模な抗議運動に乗り出している。

 途上国で日本モデルは「展開が遅い」と不評を買っているのも事実である。
 だが、それには一定の合理性も認められる。
 経済効果の追求のみならず、住民や環境とのバランスを取るにはある程度の時間も必要なのだ。
 しかも、日本モデルの根底には
 「産業を興し、人を育て、それを裾野にまで広げる」
という息の長さがある。

 残されているのは、途上国による「賢い選択」だ。
 そのためには、まず目先の利益を捨ててもらうしかない。
 「国家100年の計」を立てた国づくりにこそ、日本モデルは大きな効果を発揮するだろう。



サーチナニュース 2015-11-17 06:32
http://biz.searchina.net/id/1594356?page=1

日中のインフラ市場をめぐる激しいライバル心、
戦火はインドに飛び火

 中国メディアの参考消息は15日、シンガポールメディアが「日本と中国がアジアのインフラ市場をめぐって激しい競争を展開している」と報じたことを伝え、日中両国のインフラ輸出競争における強烈なライバル心と激しい受注競争について紹介した。

 まず記事は日本側の取り組みについて紹介し、安倍晋三首相が10月、日本企業の関係者と中央アジア5カ国を訪問、同地域のインフラ市場を開拓したい意志を示したと主張。
 安倍首相は2020年までに日本のインフラ輸出を10兆円から30兆円に拡大する目標を明確に示し、日本は今後5年間で1000億ドル(約12兆2518億円)規模の投資を行い、アジアのインフラ建設を支える計画だ。

 一方で、中国側の取り組みについて記事は、中国が14年に資本金1000億ドルのアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を主導したことを紹介。
 さらに資本金400億ドル(約4兆9000億円)のシルクロード基金を創設したほか、また資本金500億(約6兆1259億円)ドルの新開発銀行(BRICS銀行)を新興5カ国と創設したと伝えた。
 さらに、中国がこうした国際開発金融機関を創設する背後には、「新シルクロード構想」実現のための準備であるとの見方を示した。

 では、アジアにおけるインフラ輸出の戦場で、日中両国はどのように「戦火」を交えているのだろうか。
 インドネシア・ジャワ島の高速鉄道計画の受注競争において中国が勝利したことは記憶に新しいが、
 日本とフィリピンは11月下旬、20億ドル(2450億円)の貸し付けをもって鉄道整備事業を行う契約に調印する見込みだと伝えた。

 また、
 15年5月に日本はタイと新幹線導入を前提に共同で事業化調査を行う覚書を交わしたと紹介。
 一方で、タイは中国とも鉄道路線を建設する計画でいること、さらには中国がインドのニューデリー・ムンバイ間の高速鉄道の事業化調査を受注したが、
 日本もムンバイ・アフマダーバード間の高速鉄道の事業化調査を受注していることを伝え、
 日中による「戦火がインドにまで広がっている」ことを報じた。

 アジアの新興国では汚職行為や人的管理の難しさ、複雑な地形と土地所有権問題などの問題が存在する。
 巨大投資プロジェクトを現地で成功できるかどうかは、インフラという製品の競争力だけでなく、現地におけるマネジメント力も非常に重要となってくるだろう。


Global News Asia  配信日時:2015年11月16日 20時49分 [ ID:2771]

【インドネシア】中国高速鉄道、受注成功の後は見直しか? 
ー日本にもまだチャンスが!

 2015年11月16日、白紙から一転して、中国の高速鉄道提案を採用したインドネシア。担当大臣は政府が事業主体になる事を白紙にしただけで、高速鉄道導入を白紙にしたわけではなかったと苦しい言い訳をしているが、日本にとっては、青天の霹靂だ。
 アジアの鉄道に詳しい鉄道ライター、北山くにみさんに、なぜ、中国の高速鉄道が採用されてしまったのか分析してもらった。

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 「インドネシアにおける高速鉄道インフラの受注は、政治的な思惑が交錯して日本にとっては残念な結果に終わってしまいました。
 日本の鉄道技術が依然として世界トップクラスにあるのは間違いありません。
 中国が長期的な国益を度外視してまでインドネシアにインフラや技術を提供し続けるというのは考えにくく、インドネシアの高速鉄道計画は今後も形を変えていくものと思われます。
 場合によっては再度の計画見直しもあり得るのではないでしょうか。

 インドネシアでの高速鉄道の受注においては中国のなりふり構わない戦術に敗れてしまいましたが、悲観するのは早計です。
 まだまだ巻き返しのチャンスはあるでしょう。
 例えば、タイの首都バンコクの都市鉄道・パープルライン2016年開業予定の車両は、日本勢が海外メーカーとの競争を勝ち抜き、受注を果たしています。
 車両は総合車両製作所の「サスティナ」と呼ばれる車両です。
 もともと日本国内の鉄道事業者向けに開発されたもので、製造コストを抑制しつつも、安全性、快適性を確保しています。
 鉄道車両はもともと鉄道会社が輸送状況に応じてオーダーメイドするのが原則でしたが、近年国内では車両メーカーのレディメイドの車両を各社が適宜カスタマイズしたうえで導入する、という流れが顕著です。

 バンコクのケースは日本向けの標準仕様車を海外向けにカスタマイズした点がユニークです。
 この車両の整備には日本政府による円借款(790億円)が行われるなど、資金面でのバックアップも交渉の材料に用いられています。

 さらに、パープルラインでは東芝、丸紅、JR東日本が共同で現地法人を設立して、車両メンテナンスも担当することも決定するなど、今回の受注は日本勢の強みや持ち味がフルに発揮されていると言えるでしょう。
 今後、日本勢が鉄道インフラの輸出を進めていくうえでもモデルケースになりうる事案です。

 とはいえ、海外メーカーも日々技術革新を進めており、日本は必ずしも圧倒的優位な状況にあるという訳でもありません。
 事実、バンコク・パープルラインでも信号システムや自動改札口などの受注を果たすことはできませんでした。

 日本の鉄道は世界でも有数の稠密さを誇る都市鉄道網を有しており、高密度運転、保安(安全)装置、列車の集中管理システムなどにおいて極めて優れたノウハウの蓄積があります。
 世界各地で拡大する鉄道建設の需要に応えていけるよう、各地の輸送事情や経済力に合わせたオーダーメイド的な手法による提案が今後ますます必要になっていくことでしょう」。
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 中国の融資にインドネシア政府の保証を求めない中国提案を信じて採用したのだが、中国の様々な信頼度について、インドネシア政府関係者から、不安の声が出ていることを、ジャカルタのメディアが明らかにした。

 22日に安倍晋三首相が、インドネシアのジョコ大統領と会談し、中国が軍事拠点化を進める南シナ海問題についてインドネシアのスタンスとして「国際的な海洋法を尊重する」と明言したことについて、中国が非公式に不快感を示していること。

 さらに、日本とインドネシアの防衛・外務の担当大臣会議を来月実施することが決まり、地域の平和と安定を目指すためには、南シナ海での中国の行動に批判的な立場になるからだ。

 以前フィリピンでは、海洋問題で中国の主張をフィリピンが受け入れなかったこと(中国に起因する問題)で、中国が鉄道建設を途中で投げ出し、地元業者への支払いをしないまま、放置して逃げた事例もあり、インドネシアで中国が高速鉄道をきちんと完成まで責任をもって請け負ってくれるのか、不安視する見方も出ている。

【編集:高橋大地】


レコードチャイナ 配信日時:2015年11月26日(木) 17時8分
http://www.recordchina.co.jp/a123965.html

インドネシアはなぜ高速鉄道導入で日本を見捨てたか―中国紙

 2015年11月25日、経済参考報によると、マレーシアでASEANの一連のサミットに参加していた安倍晋三首相は22日、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領と会談した。
 日本メディアによると、インドネシアの高速鉄道の問題について、安倍首相はウィドド大統領に対し、
 「日本は実現可能な最良の提案を行ったが(受注できず)、率直に申し上げて結果には失望している」
と語った。

 この報道はさらに、両首脳の会談は20分前後にすぎず、「他の首脳と比べ短かった」と指摘している。
 これはインドネシア側に対する安倍首相の強い不満を示している。
 日本が得意とする高速鉄道プロジェクトで中国に負けたためだ。

 日本はこれまでも自らの提案が最も優れていると主張してきた。
 今年9月になってインドネシア側が日本側に中国の提案を選ぶ予定であることを通知した時にも、菅義偉官房長官は、日本の提案は実現可能な最良のものであり、インドネシアが日本の提案を選ばなかったことは遺憾だとし、さらに
 「経緯が不透明で理解しがたい。信頼関係は損なわれた」
と厳しく批判したとされる。

 インドネシアで建設が予定されている高速鉄道は、首都のジャカルタと第4の都市バンドンを結ぶ総延長150キロメートルの鉄道だ。
 日本側は2011年には、ジャカルタ・バンドン高速鉄道プロジェクトに目をつけ始め、3回にわたる実現可能性研究報告を行ったが、インドネシア政府は一貫して態度の明確化を避けてきた。
 インドネシアの立場から見れば、こうした引き伸ばし策に出るのは理解できる。
 高速鉄道は投資額が巨大な一方、利益の見通しが立ちにくいためだ。
 巨大でリスクを伴う投資であり、インドネシアはより有利な条件がないかを探っていた。

 インドネシア人は最終的に中国の競争者がやって来るのを見た。
 2015年3月、中国の高速鉄道はインドネシア市場へと勢い良く進出を始め、政府上層部の後押しを受け、中国とインドネシアの関係当局と企業はその後、ジャカルタ・バンドン高速鉄道の協力展開に関する了解覚書と枠組み協定にそれぞれ署名した。
 日中間の競争はいっきに白熱化した。

 日本はこの圧力を受け、インドネシアでの説得活動を強化した。
 中国の謝鋒(シエ・フォン)駐インドネシア大使によると、2015年に入ってからインドネシアが最終的に落札相手を選択するまでだけで、日本政府は4回にわたって特使を派遣し、インドネシアでの陳情と説得活動を行った。
 日本政府と企業は実現可能性報告の調整を続け、争奪に全力を尽くした。

 検討を繰り返し、一度は中国と日本の提案を退け、中速鉄道の建設に転換することを宣言したインドネシアだが、9月になってついに、中国の提案を選択するという決定を下した。
 決定的だったのは、中国の建設速度(建設周期3年、2019年に開通可)だけでなく、
 中国企業が全額融資を提供し、
 インドネシアのソブリン債による担保が必要ないことだった。

 日本は「早くから起きていたのに、夜の集まりに間に合わなかった」ようなもので、事前調査報告にも1000万ドル(約12億3000万円)余りを費やしており、憤慨するのもわかる。
 だが日本メディアは経緯を振り返り、中国に負けたのは、中国側の融資の条件が優れていたことのほか、日本が油断していたことも原因となったと分析している。
 日本紙は安倍首相に近い人物の話として、日本政府はインドネシアのプロジェクトに対する中国の本気度を見誤ったとしている。

 中国の高速鉄道がインドネシアの大型受注を取り付けたのには複数の要因がある。
 第一に、中国の高速鉄道技術は確実なもので、その名声は海外でも高い。
 第二に、政府各部門が全力で取り組み、指導層が自ら宣伝役を務めた。
 第三に、中国は十分な外貨準備を保有しており、有利な融資契約を提供することができた。
 中国企業がジャカルタ・バンドン高速鉄道を落札したという成功体験は、中国の高速鉄道による海外市場開拓の成功モデルとなる可能性もある。

 ジャカルタ・バンドン高速鉄道は、日中両国による海外高速鉄道分野での初めての直接的な争奪戦となった。
 日本は失望と憤慨を感じているが、自らに足りなかった点を認識し、教訓を汲みとってもいる。
 タイではすでに高速鉄道の協力意向で覚書を交わしており、米国とはテキサス高速鉄道の建設について交渉を進めている。
 将来の市場競争はますます激しいものとなる見込みだ。
 ジャカルタ・バンドン高速鉄道での契約取り付けは成果ではあるが、巨大な圧力ももたらしている。
 中国は今後も油断してはならない。

(提供/人民網日本語版・翻訳/MA・編集/武藤)


サーチナニュース 2015-12-25 16:46
http://biz.searchina.net/id/1598118?page=1

日本はあくまで経済目的、
中国はなぜ高速鉄道の輸出を推進するのか

 日本と中国がアジアで高速鉄道の受注競争を繰り広げている。
 日本はインフラ輸出を成長戦略の支柱と位置づけており、あくまでも「経済的理由」を前面に押し出しているが、
★.中国は何のために高速鉄道の輸出を推進しているのだろうか。

 中国メディアの和訊網は18日、中国がインドネシア・ジャワ島の高速鉄道計画の受注に向けてなりふり構わぬ姿勢を示したのは、中国政府が推進する「一帯一路」戦略のためであり、米国が米国のアジア・太平洋回帰を進めるなかで手詰まりとなることを防ぐためだったとの文章を掲載した。

 記事は、シンガポールの南洋理工大学の関係者の話として、米国のアジア・太平洋回帰は中国にとっては「包囲網」を形成されるようなものだと紹介。
 なぜなら米国は日本や韓国、フィリピン、オーストラリアなど、アジア・太平洋地域に多くの同盟国を持つためであると指摘した。

 さらに、インドネシア・ジャワ島の高速鉄道計画で日本の提案内容も非常に魅力的だったとしながらも、中国はインドネシア政府が拒絶できない、さらに魅力的な提案によって受注したと指摘。
 中国側からすれば経済面での旨味がない提案だったものの、それでも受注に執着した理由は
 「中国政府が一帯一路の実現を急いでいることを示す」
と論じた。

 また記事は、日本やフィリピン、オーストラリアなどアジア・太平洋地域の国にとって、
 中国の勃興は地域の安定に対する脅威に映る
と指摘。
 日本がアジアのインフラ建設に向けて投資を拡大する方針を示したのも、中国への対抗のためである
と論じた。

 一方、中央アジアでは米国の影響力が弱いことを指摘し、中央アジアの国々も中国の勃興を警戒する一方で、自国の利益につながるならば歓迎する姿勢を示していると紹介。
 中国が太平洋側への地政学的影響力を拡大するのが難しい以上、
 一帯一路を完成させるためにもその起点としてインドネシアの高速鉄道の受注が必要だった
との見方を示している。







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