プーチンと習近平を比較して安心していられるのがプーチン。
なぜなら、プーチンは百戦錬磨の外交のプロであり、
欧州とアメリカ相手にその能力を遺憾なく発揮できるトップである。
ロシアの立ち位置からして外交のプロでなければ収まらないのだロシアである。
一方の習近平だが、外交はズブのシロウトとしか言い様がない。
新興ヤクザのトップに君臨する擬似皇帝である。
ここには外交はない。
周辺を恫喝をして、自己利益を拡大するのみに奔走するキンピカの組長である。
『
ダイヤモンドオンライン 2015年10月2日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/79328
■国連総会でプーチンが見事復活!
シリア・IS問題で形勢大逆転
「クリミア併合」で「世界の孤児」になったはずのプーチンが復活している。
一方、AIIB事件以来、米国と対立を深めてきた習近平の訪米は大失敗。
今回は、米中を軸に大きく動き始めた国際政治を解説する。
■ローマ法王とインド首相に“完敗”
米国に冷たくあしらわれた習近平
9月28日からニューヨークで開催された国連総会。オバマ大統領はもちろん、安倍総理や習近平、プーチン大統領など、世界の有力トップが集結し、首脳会談も行われた。
世界の首脳たちの言動から、現在の国際政治の流れを読み解くことができる。
まずは中国。習近平の訪米は、「失敗だった」といえる。
米国メディアは、同時期に訪米したフランシスコ・ローマ法王をトップで報道し、習近平は「主役」になれなかった。
ホワイトハウス前では、「習訪米反対」の大規模デモが行われ、チベット人などが、中国の「人権問題」を訴えた。(太線筆者、以下同じ)
<<<<<
一方、目立ったのは、米国内の習氏への冷ややかな反応だ。
米テレビは、22日から米国を訪問しているローマ法王フランシスコの話題で持ちきりとなっており、習氏のニュースはかすんでいる。
中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「習氏にとって一番の期待外れは、全く歓迎されなかったことだろう」といい、続けた。
「ローマ法王はもちろん、米国を訪問中のインドのモディ首相に対する熱烈歓迎はすごい。
習主席は23日にIT企業と会談したが、モディ首相もシリコンバレーを訪れ、7万人規模の集会を行う。
米国に冷たくあしらわれた習氏の失望感は強いだろう。
中国の国際社会での四面楚歌(そか)ぶりが顕著になった」
>>>>>(夕刊フジ 9月28日)
オバマ・習首脳会談の成果は、
「サイバー攻撃をやめること」
「米中軍の間で不測の事態が起こるのを回避するために対話窓口をつくること」
だという。
<<<<<
今回の合意では、海軍艦船の艦長らに対し、迅速な意思疎通を図りその意図を明確にすることを求めたほか、国家安全保障上の対立に発展しかねない衝突を回避するため、安全な距離を保ち「無礼な言葉づかい」や「非友好的なそぶり」を避けることも定めている。
>>>>>(CNN.co.jp 9月26日)
この合意は、両国関係がいかに悪化しているかを示している。
つまり、
「合意がなければ、軍の『無礼な言葉づかい』『非友好的なそぶり』が原因で、
『武力衝突』が起こる可能性がある」
のだ。
同じく米国と仲が悪いはずのロシアはどうだろう?
プーチンは9月28日、国連総会で演説。「対イスラム国」で、「国際法に基づいた、本物の幅広い反テロ連合を形成する必要がある!」と熱弁した。
同日、プーチンは「対ロシア制裁」を主導するオバマ大統領と首脳会談を行った。
(安倍総理とも会談した)。
約90分続いた会談のテーマは、「シリア、イスラム国問題」と「ウクライナ問題」。
「シリア、イスラム国問題」で、米ロの溝は埋まらなかった。
プーチンは、シリアのアサド政権を強化することでイスラム国と戦いたい。
しかし、オバマは、アサドを政権から追放したいのだ。
とはいえ、2人の大統領が「会って90分話した」という事実だけでも、米ロ関係は改善していることがわかる。
一体、何が米ロ関係を変えたのだろうか?
■「イスラム国」の台頭でウクライナの停戦が実現した
米ロ関係が改善した背景には、実は幾つもの“ラッキー”があった。
「クリミア併合」は、わずか1年半前に起こった。
しかしその後、山ほど事件が起こったので、復習しておこう。
2014年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が崩壊した。
同年3月、ロシアは、ウクライナ領「クリミア共和国」と「セヴァストボリ市」を併合し、世界を驚愕させた。
米国は、日本や欧州を巻き込んで、ロシアへの「経済制裁」を発動。
4月、ロシア系住民の多いウクライナ東部ルガンスク州、ドネツク州が「独立宣言」。
親欧米ウクライナ新政府は、これを許さず軍隊を派遣、内戦が勃発した。
5月、ウクライナで大統領選挙が実施され、ポロシェンコが当選。
7月、「親ロシア派」が支配するドネツク州上空で、マレーシア航空NH17便が墜落し、298人が死亡。
米国は即座に、「親ロシア派が撃墜した」と断定。
親ロシア派を支援するプーチンも、厳しい批判にさらされた。
ところが、プーチンは、「意外な存在」に救われる。
「イスラム国」だ。
米国は14年8月8日、「イスラム国」への空爆を開始した。
イスラム国は8月20日、米国人ジャーナリスト、ジェームス・フォーリー氏の殺害映像をYoutubeに投稿。
これで、米国世論は沸騰し、「敵ナンバー1」はプーチンからイスラム国に移った。
14年9月、ウクライナ政府と親ロシア派は、1回目の「停戦合意書」に署名した。
理由は、米国の目がイスラム国に移った隙に、プーチンが親ロシア派支援を強化したこと。
親ロシア派は快進撃をつづけ、ウクライナ軍は敗北寸前になっていた。
ポロシェンコは、「停戦」するしか選択肢がなかったのだ。
これで一息つけたプーチンだったが、「経済面」はかなり厳しかった。
制裁の影響も、もちろん大きい。
それ以上に、「原油価格とルーブルの暴落」は、ロシア経済に大打撃を与えた。
原油価格は、14年夏時点で1バレル115ドル(北海ブレント)だったのが、同年末には50ドルを割った。
ルーブルは、夏時点で1ドル35ルーブルだったのが、年末には60ルーブルまで下げた。
14年の国内総生産(GDP)成長率は0.62%で、かろうじてプラスだった。
しかし、今年は、09年以来はじめてのマイナス成長になることが確実視されている。
さて、15年2月、2度目の「停戦合意」がなされた(つまり、14年9月の合意は破られていた)。
今回は、ロシアのプーチン、ウクライナ・ポロシェンコ、ドイツ・メルケル首相、フランス・オランド大統領が直接協議して、合意に至った。
この停戦は、一応現在もつづいている。
ロシアとウクライナが停戦したい気持ちはわかる。
しかし、なぜドイツとフランスは、停戦に動いたのか?
答えは、以下の記事である。
<<<<<
〈ウクライナ〉政府軍に武器供与検討 米大統領、独首相に
【ワシントン和田浩明】
オバマ米大統領は9日、ホワイトハウスでドイツのメルケル首相と会談した後に共同記者会見し、ウクライナ東部で支配地域を広げる親ロシア派武装勢力に対する政府軍の防衛力強化を支援するため、殺傷能力のある武器の供与を検討中だと明言した。
>>>>>(毎日新聞 2月10日(火)11時37分配信)
■「AIIB」事件で米国の敵No.1はロシアから中国へシフト
「米国は、ウクライナ軍に武器を大々的に供与することで、戦争を激化させようとしている」――メルケルとオランドは、そう疑ったのだ。
戦争が拡大、激化すれば、戦場になるのは(米国ではなく)欧州である。
独仏は、あわてて停戦に動いた。
米国は当初、この合意をぶち壊したかったようだが、ある「大事件」が起こり、方針を転換する。
「ある大事件」とは、「AIIB事件」のことである。
英国は3月12日、米国の制止を無視し、中国主導の「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)のへの参加を表明する。
他に、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国など、米国と緊密な関係にあるはずの国々も、相次いで参加を決めた。
「親米国家群が、米国の不参加要請を振り切り、AIIBに参加する」
このことは、米国の支配層に大きな衝撃を与えた。
「誰もいうことを聞かない国」(この場合米国)のことを、
「覇権国家」と呼ぶことができるのだろうか?
米国の「リベラル派」は長年、
「中国は米国が作った世界秩序内で影響力を拡大したいだけだ。
それ以上の野心はない」
と主張してきた。
しかし、「AIIB事件」で、その「神話」は崩壊した。
なぜなら、中国は、「米国の体制の『外』」に「新たな国際金融機関(AIIB)をつくる」のだから。
これで、
中国は、米国の「仮想敵ナンバー1」に浮上した。
同盟国、親米国家群が軒並み米国を裏切る中、「AIIB不参加」を表明したのが、わが国日本だった。
安倍総理は4月29日、米議会で「希望の同盟演説」を行い、大成功を収める。
GDP世界3位の日本の力強い支持を得て、米国は「中国バッシング」を開始した。
それが、いわゆる「南シナ海埋め立て問題」である。
中国は埋め立てを13年からはじめていたが、米国は突如これを問題視しはじめたのだ(日本にとってはよいことだが)。
米中関係は、急速に悪化し、「米中軍事衝突」を懸念する声まで出始めた。
<<<<<
米中激突なら1週間で米軍が制圧 中国艦隊は魚雷の餌食 緊迫の南シナ海
南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺の領有権をめぐり、米中両国間で緊張が走っている。
軍事力を背景に覇権拡大を進める習近平国家主席率いる中国を牽制するべく、米国のオバマ政権が同海域への米軍派遣を示唆したが、中国側は対抗措置も辞さない構えで偶発的な軍事衝突も排除できない状況だ。
>>>>>>(夕刊フジ 5月28日(木)16時56分配信)
その後、両国の対立はおさまったように見えるが、「米中対立そのもの」は、「長期化する」と見ていい。
米国が、「南シナ海問題」をネタに「中国バッシング」を開始しはじめたころ、ケリー国務長官は、モスクワを訪問している。
要するに、「中国叩き」をはじめたので、「ロシアとの和解」に動き始めたのだ(中ロと同時に戦うのは愚策なので、ロシアと和解して、中国と戦う)。
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露訪問の米国務長官、ウクライナ停戦履行なら「制裁解除あり得る」
【AFP=時事】
米国のジョン・ケリー(John Kerry)国務長官は12日、ロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領とセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相とそれぞれ4時間、合わせて8時間に及ぶ会談を行った。
その後ケリー氏は、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならばその時点で、欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示した。
>>>>>(AFP=時事 5月13日(水)7時13分配信)
■ロシアとの和解に動く米国
中ロの結束が崩れるのも時間の問題か
「制裁を解除することもあり得る」という言葉がケリーから出たことは、多くのロシア人を驚かせた。
両国は、まず「利害が一致する問題」から協力を開始する。
それが、「イラン核問題」だった。
米ロは協力して、長年の課題だった「イラン核問題」を解決した。
<<<<<
〈イラン核交渉〉最終合意 ウラン濃縮制限、経済制裁を解除
【ウィーン和田浩明、田中龍士、坂口裕彦】
イラン核問題の包括的解決を目指し、ウィーンで交渉を続けてきた6カ国(米英仏露中独)とイランは14日、「包括的共同行動計画」で最終合意した。
イランのウラン濃縮能力を大幅に制限し、厳しい監視下に置くことで核武装への道を閉ざす一方、対イラン制裁を解除する。
>>>>>(毎日新聞 7月14日(火)22時1分配信)
次に米ロ共通の課題になったのが、「イスラム国」である。
米国もロシアも、「イスラム国は大問題」であることで合意している。
しかし、オバマは、シリアのアサド政権を支持できない。
なんといっても彼は13年8月、「化学兵器を使用したこと」を理由に、「シリア(アサド政権)を攻撃する」と宣言した過去がある(後に戦争をドタキャンして、世界を驚かせた)。
一方、プーチンは、「アサド政権を支援し強化することで、イスラム国と戦わせる」戦略をとる。
プーチンは、「イスラム国と戦うために、シリア(アサド政権)、イランを含む『幅広い反テロ連合』をつくろう」と提案している。
米国は反対しているが、プーチンは、たとえ単独でも「アサドを助けてイスラム国と戦う」決意を示した。
そして、ロシアは9月30日、シリア空爆を開始した。
彼の目的は、ウクライナの親ロシア・ヤヌコビッチ政権を守りたかったのと同じである。
つまり、親ロシアのアサドを守りたいのだ。このまま放置しておけば、アサドは必ずイスラム国にやられてしまう。
問題は欧米がどう出るかだ。
筆者は、大きな反対は出ないと思う。
まず米国。米国には、3つの大きな敵がいる。
中国、ロシア、イスラム国
だ。
「AIIB事件」後、米国にとって、中国が最大の敵になった。
それでロシアと和解に動いているのだが、それでも「敵は敵」である。
そして、イスラム国も敵だ。
米国の敵であるロシアとイスラム国が戦う。
表向きはどうあれ、米国にとってこんなおいしい状況はない
(しかし、表面的にはイザコザも予想される。米国は、ロシアが「『イスラム国』ではなく『反アサド派』を空爆している」と批判している。
ロシアから見ると、「イスラム国」も「反アサド派」も、両方「反アサド」という意味で「同じ穴のムジナ」である。
そして、米国が、支援している「反アサド派」への空爆でロシアを批判するのも、また当然だ)。
では、欧州はどうだろうか?
欧州からも強い反対は出ないだろう。
なぜなら、欧州は今、シリアからの大量難民問題で苦しんでいる。
難民問題を根本的に解決するためには、イスラム国を退治し、シリアを安定化させるしかない。
しかし、それを自分でやると大金がかかる。
プーチンは、「俺がやる」と手を挙げてくれた。
だから、表向きは批判しても、「プーチンにやってもらおう」と思っていることだろう。
いずれにしても、世界は今、「米中対立」を軸に回りはじめている。
米ロが和解に向かえば、中ロの結束も自然と崩れていくだろう。
こういう構図は、「尖閣・沖縄」を「自国領」と主張する中国と対峙する日本にとっては、極めて都合がいい。
』
『
2015.10.5(月) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44920
ウラジーミル・プーチンの対テロ戦争
シリアで空爆に乗り出したロシア、まるでブッシュの同志のよう?
(2015年10月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ジョージ・W・ブッシュは、ウラジーミル・プーチンの目をのぞき込んで、「彼の魂を感じ取った」と言った。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
というのも、「対テロ戦争」という概念に関しては、米国の前大統領とロシアの現大統領は同志のように見え始めているからだ。
ブッシュ氏と同じようにプーチン氏も、対テロ戦争の一環として中東に自国軍を展開することにした。
そしてブッシュ氏と同じように、自分は文明世界のために戦っていると主張し、世界的な支持を呼びかけた。
だが、2003年の米国と同様、今のロシアに関しても、誰がテロリストなのかという定義が少々曖昧に見える。
ブッシュ氏を批判する向きは、サダム・フセインを「9.11」のテロ攻撃と結びつける証拠はないと指摘していた。
同じように、シリアでのロシアの空爆はホムスなど、ジハード主義者に支配されていない地域を標的にしているように見える。
■いったい誰が「テロリスト」なのか?
ロシア空軍は、バシャル・アル・アサド率いるシリア政府の盟友たちと同様に、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」として知られる過激派組織の部隊よりも、むしろ非ジハード主義の反政府組織を狙うのに熱心なように見える。
だが、ロシアがウクライナで戦っている相手方の勢力が皆、「ファシスト」と呼ばれているように、ロシアは間違いなく今後も、シリアで攻撃している相手は皆、「テロリスト」だと主張し続けるだろう。
プーチン氏の動きはシリアで間違いなく米国の不意を突いた。
差し当たり、ロシアが主導権を握ったように見える。
ロシア側は、すでにシリアでISISを空爆していた米国空軍に対し、ロシア機が空爆任務を遂行する間は空を飛ばないよう警告した。
また、ロシアによる空爆は、シリアでISIS空爆に参加するか否かに関する、すでに物議を醸していた英国の議論を一段と複雑にした。
ロシアの軍事行動は、先日の国連演説でプーチン氏が見せた毅然とした(厚かましいと言う人もいるかもしれない)態度と相まって、現在のジャーナリスティックな流行が、巧みな国際戦略についてプーチン氏を称賛することだということを意味している。
だが、ロシアの軍人たちがシリアで死に始めた時には、喝采はやむかもしれない。
というのは、米国人がシリアへの「地上部隊の派遣」に消極的なのには、正当な理由があるからだ。
ロシア側は、自分たちはシリア政府軍を支援する空爆に軍事行動を限定すると話している。
だが、ロシアはこの作戦の第一段階で、シリアに2000人の軍人を配備しているように見える。
そして、もちろん、ひどい事態になれば、ロシアは行動をエスカレートさせなければならないかもしれない。
なぜなら、ブッシュ氏がイラクで思い知らされたように、中東では、戦争から抜け出すよりも参加する方がはるかに簡単だからだ。
■悪化するウクライナ情勢から関心を逸らす?
ロシア人たちは、1980年代にアフガニスタンで繰り広げたジハード主義者との悲惨な戦争を振り返るかもしれない。
この戦争はソ連崩壊に大きく貢献した。
そのうえプーチン氏は、ブッシュ氏が直面していたのよりもはるかに弱い立場から、「対テロ戦争」を始めている。
ロシア経済は、国際制裁と原油安の組み合わせに打ちのめされて、縮小しつつある。
また、ロシアはすでにウクライナでまだ終わっていない戦争にかかわっている。
プーチン氏がなぜシリアで利害を大きくしているのかという理論の1つは、同氏がウクライナでの状況の悪化から注意を逸らしたいと思っている、というものだ。
筆者は、計算がそんなに単純だとは思っていない。
だが、ウッドロウ・ウィルソン・センターのウィリアム・ポメランツ氏が指摘しているように、ロシア大統領は「前の軍事的冒険を終わらせる前に、しかもロシア経済が著しく弱い時に、新たな軍事的冒険に乗り出している」。
筆者には、これは見事な行動には思えない。
By Gideon Rachman
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』
プーチンは何を考えている?
このしたたかな政治家は読めない。
習近平は単純だが、ヨーロッパの端に位置し、世界を見ながら外交するロシアは日本人の単純思考では分析しきれない。
だが複雑すぎることは危険でもある。
習近平の危険は周囲にも分かる。
プーチンは見えない。
『
WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年10月05日(Mon) 佐々木伸 (星槎大学客員教授)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5450
ロシアの影の戦争
IS参加チェチェン人を根絶
ロシア軍シリア空爆の狙い
ロシアのシリアでの空爆が続いている。
ロシアが過激派組織「イスラム国」(IS)ではなく、アサド政権に敵対する反体制派への攻撃に重点を置いていることも鮮明になっており、米欧との対立が激化している。
当のロシアはあくまでもテロとの戦いを強調しているが、チェチェン系過激派の根絶やしを狙ったプーチン大統領の“影の戦争”が浮かび上がってきた。
■チェチェン人2500人がIS合流
ロシアが9月30日に空爆を開始して以来、連日のように作戦が展開されているが、標的のほとんどはアサド政権に敵対する北部や西部ホムス県の反体制派組織だ。
空爆3日目の2日、やっとISの首都のあるラッカ周辺のキャンプなどを攻撃したが、西側専門家によると、ISなどの過激派を狙うのは20回のうち1回程度の割合だという。
一連の作戦を見る限り、ロシアの当面の目標は、アサド政権に敵対する反体制派勢力をたたき、政権の延命を図ることにあるのは明らかだ。
シリア空爆作戦を展開している有志国連合の米英仏など7カ国は
「ロシアの攻撃は内戦をエスカレートさせ、過激主義に油を注ぐもの」
と批判する声明を発表、オバマ大統領も「事態を泥沼化させるだけ」と非難した。
これまでの情報によると、民間人約40人が犠牲になっており、今後も巻き添え被害が急増するのは必至。
ロシアの攻撃を受けた米中央情報局(CIA)が支援する反体制派組織は、ロシア機を撃墜するための地対空ミサイルの供与を米国に要求している。
しかしオバマ大統領は、シリアでロシアと代理戦争する考えはない、とロシアとの軍事的な衝突は避ける考えだ。
こうした中で、プーチン大統領の軍事介入の影の意図も次第に明らかになってきている。
ロシアとの関係が深いレバノンのドルーズ派の指導者、ワリド・ジュンブラッド氏によると、プーチン大統領は国内のチェチェンやダゲスタンなど北コーカサス地方の数千万人に上るスンニ派に脅威と強迫観念を持っており、今回の軍事作戦で、ISに加わっているチェチェン系の過激派の根絶やしを狙っているのだ、という。
ISには現在、チェチェン人の過激派が約2500人も合流している。
2013年にはISの前身の組織にいたチェチェン人は約200人だったといわれ、その勢力が急速にISに流入しているのだ。
このチェチェン人軍団はその勇猛な戦いぶりにより、ISの内部で存在感と発言力を高めている。
中でもISの軍事司令官の地位に就いているオマル・シシャニ(30)はチェチェン人軍団の頭領である。
父はキリスト教徒、母がイスラム教徒で、グルジア軍の元軍曹。
2012年にシリア入りした後、2013年半ばにISの指導者、アブバクル・バグダディに忠誠を誓った。
ISの最高意思決定機関である「諮問評議会」のメンバーとされる。
■ロシア軍シリア拠点への急襲も
このチェチェン人軍団はISの特殊作戦を担う「突撃部隊」とされ、今年春にイラクの油田地帯、北部キルクークに奇襲攻撃を仕掛けたのもこのチェチェン人軍団だったという。
一部の情報によると、この軍団がロシアへの報復のため、ロシア軍が基地とする地中海沿岸ラタキアの空軍基地を急襲するため、山岳地帯を基地に向かっている、という。
ロシアではこれまで、第1次(1994~同96年)、第2次(1999~2009年)という2度に渡るチェチェン紛争が勃発、それに伴いモスクワの劇場占拠事件、旅客機同時爆破、地下鉄爆弾事件などのテロも続発した。
旧ソ連時代の国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏はこれら紛争と過激派対策に取り組んできただけに過激派にはとりわけ過敏だ。
トラウマになっているとも言える。
最近では、ISの影響力が北コーカサス地方に浸透しており、国内的な過激派対策上からも、IS内のチェチェン人軍団を徹底的に叩いておこうという思惑があったのは間違いない。
しかしプーチン氏にどんな思惑があったにせよ、
ロシアの今回の軍事介入は同氏にとって危険な賭であることに変わりはない。
米紙ニューヨーク・タイムズは
「プーチン、大釜に突っ込む」
という見出しで、同氏が火中に手を突っ込んだことを強調した。
ロシアはすでにアフガニスタン侵攻(1979年)で手痛い敗北を喫し、イスラム過激派の恐さは十分過ぎるほど身に染みている。
「ロシアも米国も同じだ。復讐する」(反体制派指導者)
という声をプーチン氏はどう聞くのか。
』
『
ニューズウイーク 2015年10月2日(金)17時45分 ジャック・ムーア
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/10/post-3955.php
ロシア参戦で錯綜するシリアの空爆地図
Who's Bombing Who in Syria?
シリアを空爆する国は今や13カ国。
いったいどの国が誰を攻撃しているのか?
●無差別攻撃も ISISが制圧しかけた国境の町コバニを有志連合が空爆(14年10月) Umit Bektas-Reuters
ロシア国防省は30日、シリア領内で空爆を開始したと発表、米当局もこれを確認した。
4年半に及ぶシリア内戦には既に多くの国々が関与しているが、ロシアの参戦により事態はますます錯綜してきた。
米欧を中心とした有志連合の空爆の標的はISIS(自称イスラム国、別名ISIL)だが、一方ではシリアのバシャル・アサド独裁政権と戦う穏健派の反体制派への軍事支援も行っている。
ロシアの標的は「テロリスト」ということになっているが、それが誰を指すのかは明らかにしていない。
ISISが標的であれば問題はないが、反体制派を攻撃して盟友アサドの延命を図り、シリア国内にもつ軍事施設など自国の権益を守るのがロシアの目的なら、有志連合とまともにぶつかり合うことになる。
先週から空爆に加わったフランスも合わせると、今年シリアを空爆した国は13カ国になった。
どの国がシリアの誰を攻撃しているのか、その思惑は何なのか、国別に整理してみよう。
ロシア
ウラジーミル・プーチン大統領は議会の承認を受けてシリア空爆に踏み切った。
ホムス、ハマ、ラタキアが攻撃されたと、シリアの情報筋がAFPに語っている。
反体制派組織「シリア市民防衛団」によると、ホムス市内では子供3人を含む民間人33人が死亡した。
ロシア国防省筋は空爆の標的はISISの拠点だとBBCに語ったが、米当局によると、ロシア軍はISISの支配地域には攻撃を行っていないという。
シリアの反体制派の拠点を集中的に攻撃したとみられる。
標的には穏健派も含まれ、欧米が支援している組織の拠点が攻撃された可能性もあるという。
ロシアがシリアの反体制派をたたき、アサド政権の延命を図るために介入したのは明らかだ。
アメリカ
米政府は昨年9月に英ウェールズで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議で多くの国々の合意をとりつけ、ISISと戦う有志連合を発足させた。
米軍はイラクの基地とペルシャ湾に展開する空母から戦闘機や無人機を発進させ、ISISのインフラや戦闘員を攻撃してきた。
アサド政権とシリアの穏健派の反政府組織は標的にしていない。
ただし今年7月には、米軍が訓練を行っている反体制派の基地を攻撃したアルカイダ系列の武装集団アルヌスラ戦線に空爆で応戦した。
米軍の空爆の多くは、トルコ国境に近いクルド人の都市コバニに対して行われてきた。
コバニは昨年10月ISISの手に落ちたが、米軍の支援を受けて、クルド人部隊が奪還に成功。
その後もISISは再侵攻を試み、クルド人部隊との間で激しい戦闘が繰り返されている。
ISIS掃討に及び腰だったトルコは7月末、ようやく米軍の基地使用を許可。
米軍は8月、トルコのインジルリク空軍基地から有人戦闘機による空爆を開始した。
イギリス
イギリスは、公式にはまだシリア領内の空爆を行っていない。
2013年8月に英議会の決議で攻撃が禁じられたからだ。
だが、英人権団体リプリーブの情報公開請求で、英軍のパイロットがISISに対する空爆に参加していたことが7月に明らかになった。
イギリスはまた、ISISの戦闘員となったイギリス人2人をドローン攻撃で殺害している。
9月8日にデービッド・キャメロン首相自らが発表した。
フランス
フランソワ・オランド仏大統領は9月27日、ISISに対して初の空爆を行ったと発表した。
フランスはこの1年、シリアのISISを空爆すればアサド政権を利することになるとして攻撃を控えていたが、
シリア難民の大量流入を止めるために参加を決めた。
フランスは今週、アサド政権の戦争犯罪についての捜査にも着手している。
トルコ
シリアの北に位置するトルコは、アサド政権の打倒を目指している。
今年はまだアサド軍に対する攻撃は行っていない。
しかし、7月20日にトルコ南部の自爆テロで30人以上が死亡し、さらに国境付近での銃撃でトルコ軍兵士が1人殺害されると、7月24日にISISに対して初の空爆を行った。
トルコ政府はまた、国境に接するシリア北部からISISを排除し、「安全地帯」を作ることをアメリカなどに提案している。
難民を収容すると同時に、シリアの反体制派の活動拠点にするためだ。
一方、ISISと同じイスラム教スンニ派に属するトルコ政府に対しては、ISISの勢力拡大を助けているという批判もある。
トルコのメディアは、同国の情報機関がISIS向けとみられる武器をシリアに送ったと報じ、米政府からはトルコ国内のISIS戦闘員を放置していると批判されている。
イスラエル
ISISへの空爆には参加していないが、非武装地帯のゴラン高原を挟んでシリアと国境を接しているためとばっちりを受ける。
シリアからロケット弾が飛んできたり、イスラエル軍によれば同国内に潜入しようするテロリストもいる。
イスラエルを危険にさらすこうした行為は容赦しないとして、軍はためらわず反撃している。
先週は、シリアからロケット弾が飛んできたことに対する報復でシリアの軍事施設2カ所を空爆。
先月は、やはりロケット弾への報復としてシリアにミサイルを撃ち込んでいる。
カナダ
4月8日にISISに対する空爆を開始。
アサドのシリア軍や反体制武装勢力は、攻撃していない。
オーストラリア
米政府の要請を受け、先月から対ISIS作戦をシリアに拡大。
9月14日にシリアでは初めての空爆を行い、装甲車両を破壊した。
ヨルダン
アメリカ率いる有志連合の一員として昨年9月からISISに対する空爆を行ってきたが、2月に攻撃の規模を拡大した。
ISISがヨルダン人パイロットを捕え、焼き殺したからだ。
バーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦
昨年9月から有志連合に参加したスンニ派イスラム教国。
アラブ首長国連邦(UAE)は、ヨルダン人パイロットがISISに捕われた後、自国のパイロットの身の安全に対する不安からいったん空爆を中止。
しかし1週間後、空爆を再開している。
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