2015年10月22日木曜日

英国大異変(1):中国に接近する英国、英原発に巨額投資する中国、習近平が英国に“西側最大の支持者”を求めて

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  インドネシアの高速鉄道の件といい、イギリスでの大盤振る舞いといい、中国にはさほどの余裕の或る資金が眠っているのであろうか。
 国内は経済的には低落傾向にあるのに、外国にはどんどんお金をばらまいている。
 一般経済論では判断評価できない動きである。
 そんなにお金が眠っているのかね、大陸中国には。

 古タヌキにして高貴なやりてババア(イギリス女王)の手のひらの上で笑み満々で踊っている成金オヤジ(習近平)といった雰囲気である。
 やりてババアは成金を持ち上げてくずれかけている屋台骨の修理費を引き出そうとし、成金オヤジは米英の間の楔を打ち込んだとご満悦である。
 したたかな外交を展開するのがヨーロッパ流のマナー。
 いかに新興中国からお金をむしり取るかがテーマになっている。


ロイター 2015年 10月 22日 04:29 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/10/21/china-britain-nuclear-idJPKCN0SF2RE20151021

中国が英原発に巨額投資へ、
習主席「共に黄金時代開く」

[ロンドン/パリ 21日 ロイター] -
 英国訪問中の中国の習近平国家主席は、英原発に対する数十億ドル規模の投資で合意した。

 原発投資は今回の訪英中に成立が見込まれる商談の目玉で、西側諸国の原発に中国が大型投資を行なう初のケースとなる。
 総額は明らかにされていない。

 原子力発電で中国最大手の国営企業、中国広核集団(CGN)がフランス電力公社(EDF)(EDF.PA)が手がける英南西部のヒンクリー・ポイント原発プロジェクトに60億ポンド(90億ドル)を投資する。

 CGNは180億ポンド(280億ドル)規模のプロジェクトについて権益の33.5%を取得する。
 原発の運用開始は当初予定から2年遅れの2025年となっている。
 東京電力福島第1原発事故以来、欧州で初めての原発建設となる。

 CGNはまた、原子力大手アレバ(AREVA.PA)が設計しEDFが英東部サイズウェルに建設する欧州加圧水型原子炉(EPR)2基についても、CGNが20%を出資することが決まった。
 一方、CGNがロンドン東部のブラッドウェルに建設を計画している中国設計の原発については、3分の2を出資する。

 習主席は
 「英中両国は21世紀に、グローバルで包括的な戦略的提携を確立し、共に黄金時代を開く」
とし、原発投資はその柱になると表明した。

 英国は習主席の訪問中に約400億ポンド(620億ドル:7兆円)規模の商談がまとまると見込んでいる。



NNA 2015/10/22 08:30
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151022-00000001-nna_kyodo-nb

【中国】原発の輸出会社を設立へ、海外市場開拓を強化

 中国は国産原子炉プロジェクト「華竜1号」を統括する新会社を設立し、海外市場の開拓を強化する計画だ。国営ラジオ局の中央人民広播電台(CNR)が21日伝えた。

 習近平国家主席の訪英に同行している国有原子力発電大手、中国核工業集団(北京市西城区、中核集団)の兪培根副総経理が明らかにした。
 華竜1号は、中核集団が同じく国有原発大手の中国広核集団(深セン市、中広核)と共同で開発した新しい第3世代原子炉。国内では福建省福清市で初の実証炉の建設が始まっており、今後は英国をはじめとする先進国や新興国市場への売り込みを狙っている。

 中核集団は英国で現地時間19日、原発技術の英中共同研究センター設立に関する英国国立原子力研究所(NNL)との共同声明に調印した。
 兪副総経理は
 「西側先進国に向けて中国の原子力技術をアピールし、欧州の先端技術と人材を吸収する窓口になる」
と強調した。



ダイヤモンドオンライン 2015年10月27日 真壁昭夫 [信州大学教授]
http://diamond.jp/articles/-/80598

英国“中国製原子炉導入”の衝撃と
背後にあるTPPへの焦り

■英国が中国製原子炉の導入で合意
TPPから外れた両国の思惑が合致

 10月21日、中国の習近平国家主席は英国のキャメロン首相と会談し、同国南東部で計画している原子力発電所に、中国製の原子炉を導入することで合意した。
 中国製の原子炉の導入は先進国では初めてであり、多くの専門家から驚きを持って受け止められた。

 当該原発プロジェクト企業には、中国広核集団(CGN)が66.5%を出資することになっており、原子炉の建設及びその後の運営までのほとんどを中国企業が担うことになる。

 それに対しては英国内から、「安全性に疑問がある」「国の根幹を担う事業分野を中国企業に任せてよいのか」などの批判的な声が上がっている。

 今回の合意の背景には、海外からの投資資金を使って国内経済の活性化を図りたい英国のキャメロン政権の思惑と、世界のインフラ投資を狙う中国の戦略が上手くマッチしたことがある。

 中国は国内に大きな過剰生産能力を抱えていることもあり、鉄鋼やセメントなどの基礎資材を海外に輸出して、国内経済を下支えすることが必要になっている。
 そのためには、世界のインフラ投資を着実に掴んでおきたいはずだ。

 一方、TPPの基本合意によって、環太平洋の12ヵ国が関税率の引き下げやビジネスルールの統一に動き始めた。
 TPPから取り残された中国としては、同様にTPPから外れている欧州諸国に近づいて、対TPPで相応のポジションを確保することが必要になる。

 その意味では、中国の意図は明確だ。
 見逃せないポイントは、英国やドイツなど欧州の主要国が、それを歓迎するスタンスを取っていることだ。

 今後、中国をめぐる情勢は一段と複雑化するだろう。
 わが国としても、世界情勢の変化に敏感に対応できる体制を作っておくことが必要だ。

■4兆元の景気対策が残した過剰供給能力と「“TPP vs.一帯一路”」の対立構造

 リーマンショック後、世界経済は崖から突き落とされるように落ち込んだ。
 それまでの中国経済は輸出を主なエンジンとして高成長していたこともあり、同国にとって世界経済の落ち込みは重大な痛手になった。

 それに対して当時の胡錦濤政権は、4兆元の大規模な経済対策を実行して景気を下支えした。
 その景気対策によって、中国経済はリーマンショックの痛手を持ちこたえた。

 しかし、大規模な景気対策の副作用として生産設備が急速に拡大したこともあり、現在では国内に過剰供給能力が残ってしまった。
 特に鉄鋼やセメントなどの基礎資材分野でその傾向が顕著になっている。

 中国政府は、余った基礎資材を海外のインフラ投資に売り込むことを考えた。
 それが、“一帯一路=新シルクロード経済圏構想”だ。
 そしてお金のない新興国には、資金を貸し付けるためにAIIB=アジアインフラ投資銀行を設立した。

 一方、日米を中心に環太平洋12ヵ国は、自由貿易などを標榜するTPPの基本合意にこぎつけている。
 TPPは、日米を中心とする中国包囲網のような格好になっている。

 TPPの基本合意について、中国の経済専門家の友人に「中国政府はTPPの基本合意をどう見ているのか」と尋ねてみた。
 彼は間髪を入れず、「政府は、TPPでのけ者になってしまうと焦っているはずだ」と答えてくれた。

 その焦りが、最近の欧州諸国に対する積極外交の展開に繋がっている。
 欧州諸国と蜜月を演出することで、中国自身がTPPの包囲網とは異なる方向に向かっていることをアピールしたいのだろう。

■経済的メリットを狙い中国との連携を深める欧州諸国

 習主席の英国訪問に際して、英国が示した厚遇は、中国と欧州諸国との関係強化を見せつけるにはとても好都合だった。

 今回、習主席は、多額の商取引契約という手土産を英国にもたらす準備を怠らなかった。
 また、かつて英国が、中国政府と対立関係にあるチベットの指導者=ダライ・ラマと接触したことで、一時、中国との関係が悪化した経験から、英国政府が中国に対する姿勢を和らげたことを上手く使った。

 その結果が、バッキンガム宮殿での宿泊や大規模な晩餐会、さらには原子力発電プロジェクトへの中国企業の参加となった。
 習主席としては、今回の英国訪問は、恐らく、当初の期待以上の成果をもたらしていることだろう。

 また英国は、同じアングロサクソン系の国として米国の最も重要な同盟国の一つであり、欠かすことのできないパートナーだ。
 その英国が、習主席の訪英で、原子力発電所のプロジェクトにまで中国企業の参加を容認した。

 米国にとっては、今年3月の英国のAIIB参加表明以来の驚きだったはずだ。
 米国のシンクタンクの友人は、
 「AIIBの時も英国は米国にほとんど事前に説明しなかった。
 今回も、米国政府にとっては寝耳に水だった可能性がある」
と指摘していた。

 英国以外にも、欧州圏の盟主であるドイツは以前から中国と親密な関係を築いており、11月にもメルケル首相が中国訪問を行う予定になっている。
 VWやシーメンスなど有力企業を抱えるドイツにとって、同国は最も有望な市場の一つになっている。

 成熟型の社会である欧州諸国にとって、中国市場に対する期待の高さは同様だ。
 ドイツに限らずフランスやイタリアなどにとっても、同国が大事な“お客さん”であることに変わりはない。

 しかも、欧州諸国は地理的に中国から遠く離れており、領土問題を直接抱えることもない。
 欧州諸国としては、これからも経済的なメリットをしたたかに享受する姿勢を続けることだろう。

■低下する米国のプレゼンス、わが国は中国にどう臨むべきか

 欧州諸国の政府が経済的なメリットを取るスタンスを鮮明化する一方、当該国の世論の中には、「中国国内の人権問題を無視すべきではない」との指摘が多い。
 英国でも、「習主席の手土産で英国が中国の軍門に下った」と批判する声もある。

 また、中国と領土問題を抱えるアジア諸国の中には、明確に同国と距離を置く関係を取る国も少なくない。
 特に、南シナ海で、岩礁を埋め立てて自国領土を主張する中国のスタンスは、近隣諸国の脅威となっている。

 本来であれば、強力な軍事力を持つ米国のプレゼンスによって、中国の強硬なスタンスが抑えられるべきだったかもしれない。

 しかし、中東やアフガニスタンの問題にかなりのエネルギーを投入していることもあり、南シナ海での米国のプレゼンスが低下していた。
 中国としては、そうした事情を巧みに利用したと言える。

 それに加えて、オバマ政権が一時、アジア戦略を軽視したとの見方もある。
 それは、かつてオバマ大統領がAPEC会議を欠席したことからも分かる。
 当時、アジア諸国の中から、「米国は中国の脅威の対峙者ではなくなった」との懸念が出た。

 今までの中国は、特定の国が圧力に屈したと見ると、嵩にかかってさらに大きな圧力をかけてきた。
 同国に対して仮に一歩でも譲ると、最終的に多くを容認させられることになる。
 それでは、わが国として国益を守ることはできない。

 わが国は中国に対して、是々非々のスタンスで臨むことが重要だ。
 非は非として毅然とした態度を保つことが必要である。
 闇雲に喧嘩を売ることはないが、正しいことを正しいとして明確な態度表明をすればよい。

 今、中国は経済力を背景に発言力を強めている。
 しかし、中国自身が抱える人口構成や不良債権などの問題を考えると、いずれ、どこかの段階でさらなる成長鈍化は避けられない。
 バックボーンである経済力に陰りが見え始めると、欧州諸国との蜜月を維持することは難しくなる。
 そうなると、今のような強硬な姿勢を続けられなくなるはずだ。



ダイヤモンドオンライン 2015年10月27日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/80596

習近平が英国に“西側最大の支持者”を求める3つの理由

■米国訪問から時を置かずして英国を公式訪問した習近平の思惑

 2015年10月20日~23日(英国時間)、習近平国家主席が英国を公式訪問した。
 中国国家主席の英国公式訪問は、前任者の胡錦濤の訪問(2005年11月)以来、約10年ぶりである。

  「米国への公式訪問から1ヵ月経たないというインターバルで実行された。
 しかも、ついでに他の国を回るのではなく、英国一国だけをピンポイントで訪問した。
 習主席がそれだけ英国との関係を重視している証拠である」

 習近平訪英直前、共産党中央で対西欧外交を担当する幹部が、私にこうプレビューした。

 私は広東省で動向を追っていたが、中国国内世論はまさに“中英関係”“習近平訪英”一色だった。
 中国共産党広東省委員会の傘下にある機関紙《南方日報》は、10月19日(習近平が英国訪問に向けて北京を発った日)から10月24日の全ての表紙・ヘッドラインを、この話題に割いた。
 「中央宣伝部から習主席訪英中は大々的にそれを宣伝し、再優先で扱うようにという指示が出ていた」(南方日報スタッフ)。

 ヘッドラインのタイトルを書き下してみよう(時間はいずれも北京時間)。

 「習近平はロイター社の取材を受けた際に強調した:中英関係の“黄金時代”を開拓する」(10月19日)

 「習近平が英国に到着し公式訪問を開始した。
 習近平夫人彭麗媛らが同行」(10月20日)

 「習近平がロンドンに到着し英国公式訪問を開始。
 中英協力の壮大なロードマップを共に企画することを強調:英国王室が高規格で習近平を歓迎」(10月21日)

 「習近平が英国首相キャメロンと会談を実施:中英関係の“黄金時代”を開拓」(10月22日)

 「習近平がロンドン金融街シティーで重要演説を発表:中国は国が強くなったら必然的に覇権に走るというロジックを受け入れない」(10月23日)

 「習近平がキャメロンと再び会談:共に中英友好を象徴する樹を植える。
 現地の小さな町でビールを飲み、フライドフィッシュ&ポテトを堪能」(10月24日)

 習近平自身の紹介によれば、現在EU諸国内において、
 英国は中国第二の貿易パートナー&投資目的地であり(トップはドイツ)、
 また香港以外で最大の人民元域外交易センターである。
 また、中国は英国のEU諸国以外における第二の貿易パートナー(トップは米国)&アジアにおける最大の投資目的地である。

 そんな英中両国が習近平訪英期間中に合意・締結した協定は、計59に及んだ(新華社発表参照)。
 うち、政府間協定が13、商業協定が28、その他が18であり、
 相互協定によって発生する金額は約400億ポンド(約4000億元)に達するという。

 内容的には金融とエネルギーが突出している。
 なかでも、習近平訪英に関わった複数の政府関係者や企業家が“最大の収穫”と認識しているのが、
★.フランス最大の電力会社であるElectricite De Franceが手がける英国の原子力発電所プロジェクト・Hinkley Pointに中国が参画するという決定である(担当は中国広核電力株式有限公司)。
 英国で過去30年来新たに建設する原発としては初となるプロジェクトであり、投資総額は180億ポンドに及ぶ。
★.フランス側が66.5%、中国側が33.5%の株式を所有する。
 2025年完成予定とされる。

 金融の分野では、中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行、中国交通銀行、その他保険会社などが英国側のカウンターパートとイニシアティブやメモランダムを締結している。

■英国を“一帯一路”の最終到達地に位置づける習近平の野望

 私がとりわけ注目したのが、習近平が掲げる“一帯一路”やアジアインフラ投資銀行(AIIB)を促進することを1つのミッションとする国家開発銀行の動きである。
 今回、英国貿易投資署と《英国のインフラ、エネルギーに関するプロジェクトに関する協力メモランダム》を締結した同行は、英国代表処開設の批准を得ると同時に、習近平英国滞在中の10月22日に開設式典まで挙行した。
 これから同行が英国で10億米ドル&5億ユーロの債権を発行していく旨も決定された。

 10月21日、ロンドン金融街シティーにてキャメロン首相と共に出席した英中工商サミットにて、習近平は2013年に自ら“一帯一路”を提唱した事実に言及した上で、
 「2000年以上前、まさにシルクロードが中国とはるか遠い欧州を連結させた。
 2000年以上の月日が経った今日、“一帯一路”は中国と沿線国家の共同発展に巨大なチャンスをもたらしている」
と主張した。

 このセンテンスを眺めながら、私は「中華民族の偉大なる復興」と定義される“中国夢”を掲げる習近平が、
★.中華文明という歴史の延長線上に現在と自己を位置づける“癖”を持った国家指導者
である真実を、再認識させられた。
 習近平は、欧州の最西端に位置する英国を、上記演説で「開放的、多元的で、ウィンウィンの産物」と修飾した“一帯一路”の最終到達地の1つ、と捉えているのかもしれない。

■習近平時代の中国共産党を占う3つのインプリケーション

 本稿では以下、習近平訪英をケーススタディとして、習近平時代の中国共産党政治を占う上で私が重要だと考えるインプリケーションを3つ抽出し、分析を加えてみたい。

1つ目に、前述の“黄金時代”とも重なるが、
 習近平が英国との関係を最大限に重視し、
 (言葉は悪いが)“親中国家”として英国を取り込み、
 米国が主導する“西側先進国”を切り崩そうとしている点
である。 

 その意図が如実に体現されている習近平のコメントを、2つ見てみよう。

  「今日の世界において、如何なる国家も国の門を閉じた国家運営を行うことはできない。
 英国は、中国に対して最も開放的な西側国家になりたいという意思を示した。
 これは、英国自身の長期的な利益に符合する、
 叡智ある戦略的選択である」(ロイター社取材に対する書面回答)

  「30年以上前、中国の指導者・鄧小平と英国首相・サッチャー夫人はその非凡な戦略的見地から中英両国が香港問題を創造的に解決するプロセスを促進した。
 平和的な方法で歴史が遺した問題を解決する模範を築いたのである。
 30年以上の月日が経った今日、英国は西側大国の中で率先してアジアインフラ投資銀行への加入を申請した。
 私は、英国が引き続きあらゆる対中協力分野において潮流を引率し、開放的・包容的な模範を示し、西側諸国と中国間の協力のフロントランナーになること、そして実質的な行動で“西側世界における中国への最大の支持者”としての役割を実践することを期待する」(ロンドン金融街シティーでの演説)

 赤裸々な表現だと私は感じた。
 “中国の対西側政策は英国から攻める”
と言っているのに等しい。
 他の西側諸国が、習近平自らが発したこれらの発言をどう捉えたのかが興味深い。
 日本は“西側世界”の範疇に入っているのだろうか。

 特に重要だと思われるのが、習近平の米国に対する警戒心であり不信感であろう。
 前々回コラム「米国公式訪問で引き出された習近平政治の意外な素顔」で扱った習近平米国公式訪問でもレビューしたが、習近平は米国との関係構築に悪戦苦闘しているだけでなく、超大国・米国との関係を安定させることを通じて、西側世界に入り込み、切り崩していくことに相当程度の困難性を見出しているのではないかと思われる。

 そこで、米国にとって最大の盟友の1つであり、そんな米国からの“反対”を押し切ってまでAIIBへの加入を表明した英国に眼を付け、米国公式訪問を終えて1ヵ月も経たないうちに、あたかも米国に見せつけるかのように、“英国に西側世界における最大の中国支持者になってほしい”と訴えたのである。

 ワン・オブ・ゼムではなく、ユー・アー・ザ・モーストである。

 これまでの対外関係に関する公式声明や発言を見る限り、慎重に慎重を期す中国の指導者はワン・オブ・ゼムで攻める傾向が強かった。
 たとえば、今年9月25日(米国東部時間)、ホワイトハウスでオバマ大統領と会談した習近平は、「中米関係は世界で最も重要な二ヵ国間関係の1つである」と発言している。

■AIIB加入を最初に宣言した英国に接近、米国主導の西側世界を切り崩す

 以上から、中国はこれからの対外戦略・関係において、“一帯一路”を政治的スローガンに掲げ、経済力を武器に、西側先進国で最初にAIIBへの加入を宣言した英国を筆頭に、同じくAIIBへの加入を決定している国家の中では、ヨーロッパの大国であるドイツやフランス、米国の同盟国であるオーストラリアや韓国などに接近しながら、米国主導の“西側世界”を切り崩そうとしていくに違いない。
 この意味で、今回の習近平英国公式訪問は、中国の対米攻略における“一手”と解釈すべきだと私は考える。

2つ目に、西側発の政治制度が構築される過程で歴史的役割を果たしてきた英国という地で、
 習近平が“中国がどのような道を進むのか?”
という政治の進路について、稀に見るボリューム感で語った点
である。

 ロンドン金融街シティーでの演説で、習近平は次のように主張している。

  「歴史は現実の源である。
 近代以降、中国は戦況や動乱に見舞われ、1世紀以上続く苦境に陥った。
 100年以上前、中国人は本腰を入れて世界を見始め、国を救い、民を救う道を真剣に模索した。
 中国民主革命の先行者である孫中山氏は過去に英国に学びに来ている。
 立憲君主制、議会制、大統領制などを試したが失敗に終わった後、中国は最終的に社会主義の道を選んだ。
 これは歴史の選択であり、人民の選択でもある」

 中国政治をウォッチしてきた1人の人間として、このセンテンスを読みながら、私は鳥肌が立った。
 習近平という指導者は、中国は過去において西側発の“民主主義”を試した経緯があり、それが失敗に終わったが故に社会主義という政治体制を選択したという認識を持っているということであろう。
 単純な論理的帰結で中国の現状や展望を語るのは軽率だと考えるが、このセンテンスから、
 中国共産党がこれから“過去にトライして失敗した民主主義”の道へ向かって進んでいくというシナリオは希薄であると推察できる。
 この点は、本連載の核心的テーマである中国民主化研究という意味では“クリティカル”である。

人権問題については、公式訪問終了に際してブリーフィングをした王毅外交部長が次のように語っている。

  「人権問題に関して、習近平主席は有力な回答をし、一国の人権状況についてはその国の人間だけが最大の発言権を持つことを強調した。
 中国は終始人権の普遍的原則と中国自身の国情とを結合させるやり方を堅持し、中国独自の人権発展の道を歩み、目覚ましい成功を収めてきた。
 中国は引き続き平等と相互尊重の基礎に立ち、英国側と人権分野における交流と協力を強化していきたいと考えている」

 このセンテンスから浮かび上がるのは、中国が引き続き独自のやり方で人権問題と向き合っていくこと、そして英国がそんなやり方を“尊重”することを求めていくことであろう。
 “尊重”が如実に体現されているケースがチベット問題である。
 2012年5月、ダライ・ラマ14世と会談をしたキャメロン首相と中国共産党の指導者との往来は“切断”され、同首相の訪中も実質棚上げされた。
 その後、「首相在任中二度とダライ・ラマとは会わない」という“立場の変更”を中国側に伝えた同首相は2013年12月に訪中を果たし、今回の習近平英国公式訪問に至っている。

■香港の政治情勢を安定化させるという戦略的意図も

3つ目に、英国との“黄金時代”の演出は、米国に対する牽制という意味合いだけではなく、
 香港の政治情勢を安定化させるという戦略的意図も含まれているという点
である。

 今年6月、昨年8月に中国全人代が採択した香港普通選挙改革法案が香港立法会(議会)で否決された。
 これによって、香港の首長である行政長官を巡る普通選挙は早くても2022年に持ち越されることとなった。
 法案採決後、「占中」(Occupy Central)と称される大規模な抗議デモが香港の中心地を覆ったことは記憶に新しいが、1997年に“祖国返還”されるまで香港の地を統治していた英国は、民主主義や人権保護といった観点から中国中央政府を批判・牽制することもなく、終始“香港問題は中国の内政”という立場を堅持し、香港問題が引き金となって英中関係が悪化することを意図的に回避してきた。

 今回の習近平英国公式訪問によって、その傾向はさらに深まるに違いない。
 現段階、および近未来において、香港問題が英中関係における“懸案”として、その政治アジェンダにビルトインされる可能性は低いと言える。
 そしてそれが意味することは、香港における中国共産党による支配力の一層の強化と浸透に他ならない。



現代ビジネス 2015年10月27日(火) 笠原敏彦
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46028

イギリスが乗った「危険な外交ゲーム」の幕開けに、習近平の高笑いが止まらない!
英米の仲を分断する中国の露骨な「アメとムチ」

◆ 「中国流」を国際規範に!

 中国の習近平国家主席が英国を国賓として訪問し、両国は英中関係の「黄金時代」到来を謳い上げた。

 10月23日まで4日間の滞在中、中国企業の英国での原発建設参入を含む総額400億ポンド(約7兆4000億円)の大型商談が結ばれた。
 キャメロン英保守党政権が、中国の露骨な「アメとムチ」外交を前に、人権問題や南シナ海情勢などで対中批判を封印した成果である。

 米国の最大の同盟国である英国が始めた危険な外交ゲームは、米中のパワーバランスだけでなく、流動化する国際秩序の行方にも影響を及ぼしそうだ。

 習氏の訪英は、中国の対欧米外交では前例のないほど将来への楽観的なメッセージに満ちたものだった。
 英国は「中国の西側でのベストパートナーになる」(オズボーン財務相)と言い切り、習氏は英中関係を「グローバルな包括的・戦略的パートナーシップ」と呼んでみせた。

 習氏訪英の秘められた狙いを端的に表現したのは、中国・環球時報の次の記述だろう。

 「英国の態度は中国と西側諸国の心理的境界を破るものだ。
 それは新たな政治的関係を予言するものである」

 中国は自らになびいてきた英国を突破口にし、国際社会のメインストリームでの地位、影響力を高めたいと考えているのだろう。
 それは、「中国流」を国際規範に繰り込むための重要なステップである。

 一方で見逃せないのは、今回の訪英が中国にとってある種、「歴史のトラウマ」を癒す意味を持ったことだ。

 中国にとって英国は、アヘン戦争(1840年)により「屈辱の世紀」をもたらした張本人である。
 香港は1997年に返還されるまで155年にわたって英国に統治された。

 その英国が今回、王室メンバーをフル動員して「最大級のもてなし(the reddest of red carpets)」(英フィナンシャルタイムズ、FT)で習夫妻を歓迎した。

 習主席はエリザベス女王とともに壮麗な馬車でパレードし、ウィリアム王子の妻キャサリン妃は中国の国旗にあせた真っ赤なドレスで晩餐会に出席し、習主席の隣に座った。

 中国メディアはこうした様子を大々的に報道。
 英国が対中批判を封じ、「へつらう(kowtow)」かのような姿勢を見せたことは、中国国民に「尊敬される大国になった中国」をアピールするまたとない機会となった。

 習氏は、中華民族の偉大な復興という「中国の夢」に一歩近づいたと感じたかもしれない。
 少なくも、今回の訪英は、かつて支配した側・英国と、支配された側・中国の外交における「心理的な枠組み」の転換を鮮明に印象づけるものだった。

◆アメリカとイギリスの対中政策の落差

 ここで注目すべきは、この訪英が9月の習氏訪米と鮮やかなコントラストを見せたことである。

 わずか1ヵ月の間に米英両国から国賓として招かれたこと自体が特筆されるべきことだが、オバマ大統領との会談では人権、サイバーセキュリティ、南シナ海での領有権問題などをめぐり米中間の深すぎる溝が浮き彫りになった。

 英誌エコノミストによると
 ワシントンでは「中国が変わる」ことへの期待が急速に萎んでいる
という。
 キャメロン政権の習氏歓待は、米中首脳会談の結果に幻滅した米国が、南シナ海の中国の人工島周辺の「領海」12海里内へ艦船を進入させる構えを見せるタイミングで進んだのである。

 ちなみに、米国が今守ろうとしている「航行の自由」は、大英帝国時代の英国が高々と掲げ、世界に広げた国際ルールである。

 米国は相対的なパワーの低下から、同盟国のネットワークを強化することで、リベラルな国際秩序を維持しようとしている。

 その矢先に露になった米英間の対中アプローチの歴然たる違い。
 英米関係は、ブッシュ大統領とブレア首相が始めたイラク戦争の「失敗」後、亀裂が目立ち始めている。
 そこへ「台頭する中国」が新たな分断要因として加わった。
 習氏訪英は、戦後の国際秩序を牽引してきた米英間の「特別な関係」に楔を打ち込んだと言えるだろう。

 そして、今回の習氏訪英への経緯を振り返ると、国益を最優先に対中宥和路線へ舵を切った英国の姿が浮かび上がるのである。

◆イギリスは中国にとって「利用価値」が高い

 現時点では、英中のどちらが外交巧者としてより上手なのかは分からない。

 しかし、中国が英国の「使い勝手」の良さを思い知ったのは、英国が今年3月に米国の反対を押し切って中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明したときだろう。
 これを受け、それまで米国の顔色を伺っていた仏独、オーストラリア、韓国など「米国の友人」が雪崩を打ったようにAIIBへの参加を表明したからである。

 AIIBが世銀の優位性を揺るがすことを懸念する米国は、同盟国の国際的な包囲網でAIIBに圧力をかけ、厳格な融資基準など適正な運用を迫る方針だった。
 それなのに、結果を見れば、米国と日本が取り残される形になり、米国の国際的な威信は大きく傷ついてしまった。

 米当局者はFT紙に
 「英国が中国に宥和的な傾向にあることを憂慮している。
 英国のやり方は台頭するパワーに関与する最善の方法ではない」
と英国への不信感を口にしている。

 英国のAIIB参加表明は唐突だった。
 それもそのはずで、政権ナンバー2のオズボーン財務相の個人的なイニシアチブの側面が強かったのである。
 彼は、「同盟国の日本や米国を疎遠にする」と懸念する英外務省の反対に耳を貸さず、国家安全保障会議(NSC)の場でキャメロン首相の同意を取りつけたのだという。

 キャメロン首相はオズボーン財務相に大きな”借り”がある。
 首相は2012年5月、財務相の反対を押し切り、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会談し、対中関係を悪化させた。
 この間、中国の欧州における貿易相手として、英国はドイツに大きく水をあけられたという経緯があったからである。

 オズボーン氏は、オックスフォード大学卒業後に中国をバックパックで旅行したという親中派だ。
 彼は、英国の対中貿易を現在の6位から今後10年で2位に引き上げるという目標を掲げている。

 今年9月下旬には、習氏訪英の露払いとして中国を訪問。
 イスラム系少数民族の弾圧が続く中国北西部・新疆ウィグル自治区も訪れたが、人権問題には口をつぐんだ。
 欧米の主要閣僚としては異例の新疆訪問は、中国が求めた「踏み絵」だったのかもしれない。

◆チャイナマネー争奪戦に勝つことが最優先

 現下の国際情勢の下、英国が習氏訪問を諸手を挙げて歓迎したことは、対中宥和路線という批判を覚悟した上で、チャイナマネー争奪の国際競争に勝ち抜くという固い政治的意思を示したものと言えるだろう。

 21日の英中首脳会談で合意した経済協力の内容をみると、海外で初となる人民元建て国債をロンドンで発行する
▽:中国国営の原子力企業・中国広核集団(CGN)が英南西部ヒンクリーポイントでの原発建設に33.5%を出資することなど原発案件3件
▽:英国の高速鉄道建設に中国企業が参入する、
などが主なものだ。

 こうした合意内容は、経済的側面だけを見れば確かに「ウィン・ウィン」の関係に見える。
 人民元建て国債発行は、ロンドンを人民元のオフショア取引の最大拠点としたい「金融立国」英国と、人民元の国際化を急ぎたい中国の思惑が一致する。

 また、原発や鉄道など国内インフラの整備・再生を中国の投資で推進したい英国と、英国での実績をテコに欧米企業が支配する世界の大型インフラ市場への参入を目論む中国の思惑も一致する。
 中国の新帝国主義路線とも言われるプロジェクト「一帯一路(新シルクロード)」構想への英企業の積極的な参加も合意された。

 英国は「開かれた経済」を信条とする国だ。
 インフラ部門も例外ではなく、
 中国企業もすでにヒースロー空港運営会社の株式の約10%、
 道事業会社「テムズ・ウォーター」の株式の約9%
などを保有している。

  しかし、共産主義体制の中国が国際政治や安全保障面で何を目指しているのか不透明な中、国家の最重要インフラである原発部門で中国企業に門戸を開いたことには強い批判がある。
 原発の安全性や、核兵器開発、サイバーテロなど安全保障への脅威を無視したものだという見方が強いからだ。

 英議会の情報・安全保障委員会が英国の「開かれた経済」の在り方全般について、「投資政策と安全保障政策に断絶がある」と警告していることが、その危うい実情を物語っていると言えるだろう。

◆漂流する国際秩序

 それでも、英国の対中宥和路線は長期的なトレンドとなりそうである。
 なぜなら、対中政策を主導するオズボーン財務相は、次期首相の最有力候補だからである。

 オズボーン氏は、2010年のキャメロン政権発足からわずか5年で国内総生産(GDP)比12%に上っていた財政赤字を半減させた。
 英国の2014年の経済成長率は約3%で、先進国でトップを行く好調さである。
 その政治手腕でキャメロン首相の後継候補としての地位を固めたと言われている。

 一方で、二大政党の一翼を担う労働党は新党首に急進左派のジェレミー・コービン氏を選出したため、2020年に予定される次期総選挙は保守党が有利と見られているのである。

 そのオズボーン氏は、米中両国の将来性をにらみながら、中国への賭けに打って出たようにも見える。
 しかし、英中の「黄金時代」到来というレトリックが、にわか仕立ての”金メッキ”をほどこしたものに過ぎないことは明らかだ。

 政治的価値観を異にし、「経済的利益の共有」だけで結ばれた「戦略的パートナーシップ」が果たして、斜陽とは言え唯一の超大国である米国が主導する国際政治の試練に耐えうるのかどうか。

 米英中のトライアングルが映し出す相関関係は、漂流する国際秩序はもとより、日本が当事者である東アジア情勢にもその影響が投影されることだろう。


笠原敏彦(かさはら・としひこ)
1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒業。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員(1997~2002年)として欧州情勢のほか、アフガニスタン戦争やユーゴ紛争などを長期取材。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイトハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)外遊に同行して20ヵ国を訪問。2009~2012年欧州総局長。滞英8年。現在、編集委員・紙面審査委員。著書に『ふしぎなイギリス』がある。





サーチナニュース 2015-10-27 09:25
http://news.searchina.net/id/1592397?page=1

中国に接近する英国、
「得るものは失うものを補えぬ」=英誌

 中国の習近平国家主席が英国を訪問したことについて、英誌のSabotage Timesはこのほど、
 「英国が中国と接近することで得られる利益は、
 失ったものを補えるほど大きなものではない」
と報じた。
 中国の駐ジャマイカ大使館が公式サイトで伝えた。

 記事は、Sabotage Timesの報道を引用したうえで、同誌が英国を訪問した習近平国家主席をもてなした英国は
★.商業的利益のために「国家の安全保障」だけでなく、人権問題といった重要な「世界の原則」を放棄した
と批判したことを紹介。
 さらに、英国の議員からは
 「英国はまるで中国に対して媚を売ってしっぽを振る犬のようだ」
といった激しい批判もあると紹介した。

 続けて、英国政府が外交の重点を「貿易の促進」にシフトしていることを指摘し、それによって英国にとって重要な外交利益が失われることになると主張。
 英国はこれまで民主主義や人権の尊重、法に基づく自治を先頭に立って提唱してきた国であると指摘する一方、中国と関係を強化した英国内では、「こうした原則はすでに揺らいでいることが分かった」と指摘。
 その証拠に、英国は中国による産業スパイや知的財産権の侵害といった問題すら習近平国家主席に提起しなかったと指摘した。

 さらに記事は、中国と英国の貿易額は今後も増加させる必要があり、経済面の協力を強化することは必要だとしながらも、フランスやドイツの中国との貿易額が多いのは、フランスやドイツが英国より卑屈になっているからではないと指摘した。

 また、
 中国に対して「媚びへつらう」英国の態度は
 最終的に英国が望むものとは「真逆の結果をもたらすだろう」
とし、
 中国は英国のニーズや利益など尊重しない
はずだと主張。
 さらに、英国政府の態度は米国やアジアの国々を尊重したものではないと指摘し、英国が中国と接近することで得られる利益は、失ったものを補えるほど大きなものではないと論じた。


ロイター 2015年 10月 29日 11:02 JST John Lloyd

コラム:米国は「親友」を中国に奪われたのか

[26日 ロイター] -
 中国の習近平国家主席が巨額投資を約束した英国訪問の際、中国語の「叩頭(こうとう)」という言葉をよく耳にした。

 オックスフォードの辞典による定義では、膝をついてひれ伏し「崇拝や服従」を表すこと、そしてそれは「過度に従属的な」行動だとしている。
 この両方の定義が習主席の訪英にも大きな意味を持つ。

 歴史をさかのぼると、最も深い叩頭を受けていたのは、臣下から「三跪九叩頭の礼」を受けていた中国の皇帝だ。
 しかし、18世紀末に英国最初の使節として清国に派遣された英外交官たちは、それを行うことを拒否した。
 清の乾隆帝がジョージ3世に宛てた書簡からは、乾隆帝が外国人を「野蛮人」とみなし、中国よりも必然的に劣っていると考えていることは明らかだった。

 その後、清国は2度にわたるアヘン戦争(1839─42年、1856─60年)で敗北を喫し、香港は英国に割譲された。
 それから長い間、英国は中国に対し最も強大な影響力を持つ国であり続けた。
 支配者である英国は自国の立場に恐ろしく敏感で、中国にひどい屈辱を与えた。

 しかし現在、それは逆転した。

 最初に派遣された英外交官が皇帝への叩頭を拒否してから2世紀以上が経過した今、叩頭は最初の定義で使われている。
 習氏は英国から最高の栄誉を与えられた。
 エリザベス女王は晩餐会で習氏をもてなし、滞在先としてバッキンガム宮殿の特別室を提供した(前回この部屋が使用されのは、孫のウィリアム王子が結婚したときだった)。
 習氏は英議会で演説し、女王もしくはキャメロン首相が同氏に常に同行した。

 このような配慮は、中国がさまざまなプロジェクトで最大460億ドル(5兆5000億円)の投資を行うかもしれないからだ。
 この中には(フランスと一緒に行う)最大120億ドルの原発建設も含まれている。
 中国はロンドンの金融街シティを国際金融業務や、外国為替、その他の取引の場として活用するだろうし、サービスを輸入する際には英国を支持するだろう。

 だがこの新たな友人関係の中で、英国側が人権問題に公に言及する姿は見られない。
 中国反体制派の監禁、すでに制限されている報道の自由への弾圧、さらには、対策強化にもかかわらず中国でまん延する汚職のどれ1つとして、英国は苦言を呈していない。
 広く言われていることだが、この沈黙は英国にとって恥となる。

 キャメロン首相の側近を務めたスティーブ・ヒルトン氏は、同首相の態度について、「1970年代に国際通貨基金(IMF)に頼って以来、最悪の国家的屈辱の1つ」だと批判した(IMFは1976年、破綻しかけていた英国に40億ドルを融資した)。

 中国人の権利意識は高まっていると考える現代芸術家、艾未未(アイ・ウェイウェイ)氏も、キャメロン首相が「人権を無視」したのを見て、中国人は「深く失望」するだろうと語った。

 だが、もっと大きな問題が頭をもたげつつある。

 英国は1世紀以上もの間、国際舞台で米国の親友として振る舞ってきた。
 米大統領が2013年5月に、「昔から両国民を1つに結ぶ価値と信念のおかげ」で英米関係は非常に特別だと語るのを聞くまで、われわれ英国人はその重要性を誇張し過ぎているのではないかと、筆者は考えていた。

 英米関係が時の試練に耐えられたようには見えない。
 米高官が相次いで英国の国防能力削減に遺憾の意を示し、不穏な空気が流れたという意味ではこの1年、両国関係は特別だった。
 3月には、米国に最低限の予告をしただけで、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を英国が西側諸国の中でいの一番に決めると、不穏な空気はとげとげしい雰囲気へと悪化した。

 ある米関係筋によると、英国政府の上層部が考えを改め、中国との良好な関係を築きたいという必死のシグナルを送ろうとしているのではないかと、米国政府は現在考えている。
 この関係筋の言葉を借りれば、それはかなり「非英国的」なことだという。

 英国人であるということは、米国の近しい友人であり、英語圏の大国同士のきずなを突如として無頓着に断ち切り、アジアに秋波を送ることではない。
 その意味では確かに「非英国的」である。

 依然として発展途上にある大国との関係強化は大ばくちであり、中国と距離を取り始めている世界一の強国である米国を暗に敵に回すことになりかねない。
 米国との関係見直し論者の急先鋒は、次期英首相の有力候補とみられるオズボーン財務相だが、こうした考えには、米大統領の力が世界的に弱く見られていること、米国政治の永続的な泥沼化、そして米権力層の内向化、特に右傾化などが含まれているように思われる。

 加えて、欧州連合(EU)残留の是非を問う国民投票が向こう2年以内に行われるが、その結果、離脱することになれば、中規模の国である英国には新しい大きな友人が必要となる。
 英国経済の成長率は約2.5%程度だが、最近の数字は減速の兆しを示しており、製造業も依然として弱いままだ。

 それ故、英国の外交方針が大きく転換することは大いにあり得ることかもしれない。
 もしそうなれば、その影響は英国自身よりも他国の方がずっと大きい。
 弱体化する米国の立場を浮き彫りにし、他のEU加盟国にとっては英国が離脱する可能性を示す新たな警鐘となり、人権問題では英国の影響力が弱まるだろう。
 その一方で、成長率が今なお英国の約3倍とはいえ、中国経済は減速しており、同国の人権問題も依然ひどい状況にある。

 また、批判的な意見からはあまり聞かれない別の可能性もある。
 つまりそれは、英国が欧州と米国の懸け橋になるだけでなく、中国と米国の懸け橋になるというものだ。
 サッチャー元首相は、旧ソ連のゴルバチョフ元大統領と米国のレーガン元大統領の間を取り持った。
 そのような緊密な関係が、中国を好転させる一助となる可能性がある。

 21日の記者会見で、習氏は
 「世界には常に向上する余地がある。
 中国は人権問題で、英国や他の国々と一段と協力する用意がある」
と述べた。

 これは本心だろうか。
 それとも単に、自国で直面することはないであろう英国記者からの挑戦的な質問をかわす術なのだろうか。

 一見すると本心らしく見えるが、そうではないだろう。
 だがそこには意味があり、オバマ大統領が褒めたたえた「価値と信念」を、英国が大金と引き換えに売ってはいないと願わずにはいられない。
 もしそうだとしたら、それはあまりにひどい取引だ。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。






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