2015年10月30日金曜日

南シナ海波高し(7):遅れた米艦派遣の代償は? 経済失速していく中国の足元を見て、進軍を強行した

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ロイター  2015年 10月 30日 14:35 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/10/30/analysis-south-china-sea-us-idJPKCN0SO0F920151030?sp=true

焦点:南シナ海の中国けん制、艦船派遣に至る米政権内の葛藤


●10月28日、米国は今週、中国が「領海」と主張する南シナ海の海域にミサイル駆逐艦を派遣したが、政府部内の一部は派遣に至るまでの数カ月に及ぶ「不必要な先延ばし」に不満を募らせていたという。写真は南シナ海で中国が人工島を造成している南沙(英語名スプラトリー)諸島ファイアリー・クロス礁の衛星写真。9月撮影。提供写真(2015年 ロイター/CSIS Asia Maritime Transparency Initiative/DigitalGlobe)

[ワシントン 28日 ロイター] -
 米国は今週、中国が「領海」と主張する南シナ海の海域にミサイル駆逐艦を派遣した。
 だがこの派遣をめぐって、国防総省内の一部当局者は数カ月に及ぶオバマ政権と国務省の「不必要な先延ばし」に不満を募らせていたという。

 カーター国防長官が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島で中国が人工島を急造していることへの対応策として、選択肢を検討するよう要請したのを受け、国防総省は5月半ばには軍用機や艦船の派遣を検討していた。

 結局、米ミサイル駆逐艦「ラッセン」が26日に派遣され、渚碧(同スビ)礁から12カイリ内を航行した。
 これに対し、中国は反発。世界2大経済大国の間で緊張が今後高まっていく恐れが生じた。

 ロイターの報道で露呈した、米艦派遣をめぐって米国内で続いた激しい議論は、それが単に「航行の自由」作戦の1つであるという米政府の主張とは矛盾しているように見える。

 派遣までに数カ月が経過したことで中国の姿勢は硬化し、一部の米当局者や安全保障専門家によれば、必要以上に事が大きくなった。

★.米国政府の慎重な姿勢は、
 南シナ海をめぐる中国の野心が野放しになるのではとの不安を、
 同盟国である日本とフィリピンの一部当局者にも与えた。

 国防総省と米軍当局者らはこの数カ月の間、準備が整っていたが、
★.ホワイトハウスと国務省から「何度も待ったがかかった」と、ある国防当局者は匿名で明らかにした。

 この当局者によれば、ホワイトハウスと国務省は、米軍関係者2100万人の情報が流出したハッカー攻撃のような別の出来事の報復として哨戒活動を行っているように見えることは避けたかった。
 中国はこのハッカー攻撃への関与を否定している。

 「中国がしたことへの報復と見られれば、これは国際法に関する問題であり、航行の自由を行使する権利があるとするわれわれの主張を弱めることを懸念していた」
と、同当局者は話した。

 国務省は、派遣までになぜ時間を要したのかについて公式には答えていない。
 ホワイトハウスもコメントするのを差し控えた。

 行動を求める圧力が高まっていたが、米中関係は慎重を要する時期にあった。
 当時、イラン核交渉が合意へと近づき、9月には中国の習近平国家主席の訪米も控えていた。

 訪米の際に習主席が人工島を軍事化する「意図はない」と明言したにもかかわらず、9月後半までに米政府内では駆逐艦派遣で意見が一致していた。

 ライバル国との衝突を避け、戦争への直接関与を減らしたいと考えるオバマ大統領は、
 外交や経済面で深刻な結果をもたらしかねない意図せぬ武力衝突が起きるリスクと、行動する必要性を慎重にはかりに掛けなければならなかった。

 中国の急速な海洋進出に直面する中、「アジア重視」政策の下で米海軍艦船の6割が2020年までに太平洋に配備される。

 別の米当局者によると、派遣までに長い時間を要したのは、米中両軍の海上での衝突リスクを最小化すべく、確実に万全の措置を取るためだったという。
 南シナ海における哨戒活動の可能性について、オバマ大統領と高官とのやり取りを公にすることは、中国に対する「ノーサプライズ」戦略の一環だったと、この当局者は語った。

 オバマ政権のある幹部は、大統領に提案する選択肢を考え出すため「厳格な省庁間のプロセス」を踏んだとし、「われわれの目的は、海事問題も含め、アジア太平洋地域における戦略的目標を前進させるために賢明な決断を確実に下すことだ」と述べた。

■<遅れた米艦派遣の代償>

 国防総省の当局者らは、行き過ぎた領海の主張に対抗するため、世界中で「航行の自由」作戦を定期的に行っていると語る。
 中国は南シナ海の大半の領有権を主張しているが、ほかにもベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾も同海域の一部領有を主張している。

 国連海洋法条約の下では、これまで海面下に沈んでいた岩礁の上に人工島を造成した場合、周囲に12カイリの領海を設定できないとされている。
 中国が過去2年間で埋め立てを行ってきた、スビ礁など7つの岩礁のうち4つは、建設が始まる以前は満潮時には海面下に沈んでいたと、法律の専門家は指摘する。

 また別の事情に詳しい人物によると、12カイリの領海を設定できるかどうかに焦点を絞り、哨戒活動が中国の主権に異議を唱えることが目的だという印象を避けたいオバマ政権の決意が、派遣までのプロセスを遅らせたという。
 米国は南シナ海での航行の自由を主張する一方で、領有権をめぐる各国の主張に対し、どの国にもくみしていない。

 駆逐艦派遣後、ホワイトハウスは中国の怒りをこれ以上買うことを避けているようだ。
 当初の計画通り、比較的控え目な発言にとどめ、今回の派遣は何ら「米国特有の権利」ではない所定の「航行の自由作戦」だとしている。

 しかし、世界で最も交通量が多い航路の1つであり、年間5兆ドル(約603兆円)の海上貿易が通航する海域で、派遣の遅れは定期的な哨戒活動の一環だとする当初の意図を台無しにしたと、前述の事情に詳しい人物は語る。

 「派遣が遅れたことでより大きな問題となった。
 哨戒活動は定期的な普通の活動であるはずだとする当初の戦略が水泡に帰した可能性がある」。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)の安全保障専門家ボニー・グレーザー氏は、派遣があのように遅れたことで複雑な事態になったと指摘。
 「派遣に対するあらゆる配慮のせいで『航行の自由作戦』の有効性が損なわれた」
と述べた。

■<同盟国からの圧力>

 また、米元高官の1人は、ロシアによるクリミア併合に対する西側の反応や、米国がシリアへの直接的な軍事行動を回避したことから、中国が「悪い教訓」を得たかもしれないとの懸念が、昨年に米政権内に存在したと明かした。

 国防総省が8月に公表した報告書によると、2013年12月に中国が埋め立て工事を開始して以降、その敷地面積は6月時点で1170ヘクタール以上に及ぶ。

 今年に入り中国の人工島建設を捉えた衛星画像が公開され大きく報道されると、アジアの米同盟諸国から米国に行動を求める声も高まった。

 フィリピンでは、政治指導者も軍上層部も今回の米艦派遣を歓迎。
 だが、ある軍当局者は匿名を条件に
 「米国がこれからもこの地域に関与していくことを、そろそろ示すべき時期だった」
と語った。

 日本も米艦派遣を支持すると表明。
 ただ、専門家は同国内では米国が実際に行動するのか懐疑的な見方も一部にあったと指摘する。
 元外交官の宮家邦彦氏は、シリアの時とは異なり、
★.米国がやると言ったことを実際に行動に移したことで、
 多くの人に安心を与えたのではないか
との見方を示した。

 航行の自由を主張して、中国の人工島付近を通過したアジアの米同盟国は今のところ存在しない。

 米政権は長い間、単独での哨戒活動は中国に人工島建設をとどまらせるのに十分な抑止力にはならないだろうと認識してきた。
 しかしそれでも、中国の領有権主張にはより直接的な方法で対抗することが重要だと考えていたと、事情に詳しい関係筋は米艦派遣前に述べていた。

 遅きに失したと、ホワイトハウスと国務省を非難する専門家ばかりでもない。

 カーネギー国際平和財団でアジアプログラムのディレクターを務めるダグ・パール氏は、米軍派遣をめぐり、米海軍内部でこの数年間、対立があったとみている。
 「中国、米国の両政府は今、全く無益な衝突を引き起こすことなく、毅然とした態度で、相手の思うがままにはならないと、自国民に示さなくてはならない」
と述べた。

 一方、ある海軍幹部はこうした内部対立を否定。
 そのような決定は国防長官と大統領が決めるものだと語った。

(原文:Andrea Shalal, Matt Spetalnick and David Brunnstrom 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)



現代ビジネス 2015年10月30日(金) 長谷川 幸洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46130

中国よ、南シナ海はもうあきらめなさい!
~アメリカを怒らせた習近平政権
たどり着くのはソ連と同じ運命だ

■アメリカは本気だ

 米国のイージス駆逐艦が南シナ海で中国が軍事基地化を進める人工島周辺12カイリ(約22キロ)内に進入した。
 中国は「強烈な不満と断固たる反対」を表明し「あらゆる必要な措置をとる」と対抗する構えだ。
 米中対決の行方はどうなるのか。

 米国側は進入したものの、姿勢はきわめて抑制的だ。
 それは駆逐艦が進入したときの映像をいっさい公開していない点に象徴される。
 進軍ラッパを鳴り響かせて突入したような印象を避けたい意図がにじみ出ている。

 だからといって、
★.作戦に参加しているのは報じられたように、たった1隻の駆逐艦とP8A哨戒機だけだったのかといえば、そうではないだろう。
 中国を過度に刺激したくないために公表していないだけで、
 実はもっと多くの艦船や作戦機、衛星が総動員されているとみて間違いない。

 原子力潜水艦も周辺海域をパトロールしている可能性が高い。
 中国の軍事的能力を推し量るうえで、今回の作戦は絶好の機会になる。
 そんなチャンスをみすみす逃すはずがない。

 それは日本も同じである。菅義偉官房長官は会見で「米軍の作戦の1つ1つにコメントするのは控える」としながら「(米側と)緊密な情報交換は行っている」と認めた。
 駆逐艦「ラッセン」が所属するのは米海軍第7艦隊であり、母港は神奈川県の横須賀基地だ。

 横須賀には海上自衛隊の基地もある。
 横須賀基地は日米とも緊張しているだろう。

★.これはまぎれもない軍事行動である。
 相手が対決姿勢を示している以上、
 米国も日本も自らすすんで手の内をさらけだすわけがない。
 日本の海上自衛隊も姿は見えないが「緊密な情報交換」を基に事実上、米国と一体となって動いているとみていいのではないか。

 一方、中国の側も事前の勇ましい言葉とは裏腹に、これまでのところ抑制的な姿勢を保っている。
 2隻の軍艦が駆逐艦を追尾したものの、それ以上の敵対行動はとらなかった。
 両国の海軍トップ同士は29日にテレビ会談するとも報じられた。
 これも偶発的な衝突を避けるために意思疎通を図る狙いである。

 こうしてみると、緊迫した事態であるのは間違いないが、侵入後も両国は事態をしっかりコントロールしているとみていい。
 そのうえで、さて今後はどうなるのか。

 結論を先に言えば、習近平政権はどうやっても米国には勝てないとみる。

■中国は強気だが、確実に負ける

 それには、かつての米ソ冷戦の経験が参考になる。
 冷戦は1945年の第二次大戦終結直後から始まり、89年のブッシュ・ゴルバチョフ会談で終結するまで半世紀近くにわたって世界各地を舞台に激しく戦われた。

 スプートニクの打ち上げ成功(57年)など一時はソ連の力が米国を凌ぐと思われた時期もあったが、共産主義体制の非効率性は克服できず結局、体制内改革であったはずの民主化政策が引き金になってソ連が崩壊した。
 決め手になったのは経済である。
 東側の経済が西側に大きく遅れをとってしまったのだ。

 米国の政策立案者たちは今回の人工島進入にあたって当然、かつての冷戦を強く意識したに違いない。
 カーター国防長官は上院軍事委員会の公聴会で
 「今後、数週間から数カ月にわたって作戦を継続する」
と述べた。
 しかし、これはまったく控えめだ。

 米国は数カ月どころか数年間、もしかしたらそれ以上の長期にわたって作戦を継続する覚悟を決めているはずだ。
 それは当然である。
★.いったん進入した以上、中国が退かなければ、米国側から退く選択肢はありえない。
 そんなことなら、そもそも進入しない。

 国防長官が長期にわたって作戦を継続する意思を公に表明しなかったのも、また当然である。
 そんな覚悟をあからさまにいえば、中国に向かって「米国はこれからずっと中国と対決していく」と宣言したも同然になってしまう。

 相手にそんな宣言をしてみたところで問題は何も解決しない。
 それどころか悪化させてしまう。
 百害あって一利なしである。
 だからといって、米国に長期戦の覚悟がないという話ではない。
 分かっているが、おおっぴらに言わないだけだ。

 冷戦は結局、ソ連崩壊の形で終わった。
 では中国はどうなるのか。

 もしも中国がいま米国に反撃すれば、目下の軍事力は圧倒的に米国優位なので中国は確実に負ける。
 中国もそれが分かっているから、強気な台詞を吐き続けてきたものの、いざ進入されたら追尾するくらいしかできなかった。

 だからといって中長期的な持久戦に持ち込んだところで、やはり勝てない。
 なぜかといえば、軍事力を支える肝心の経済がいまや崩壊寸前であるからだ。
 躍進した中国経済の秘密はなんだったか。
 パクリと庶民生活を犠牲にした安価な労働力だ。

 中国自身が開発した画期的な技術など、ほとんどないに等しい。
 ブランド品から半導体、冷凍ギョーザに至るまで日本や米国の商品、先進技術をパクってきて真似してきた。
 軍事力の核心部分もパクリだ。
 パクリが本家にかなわないのは当然である。

■ソ連と同じ運命をたどる

 安価な労働力はいまやミャンマーなどに追い上げられ、繊維産業はじめ中国から撤退する企業が相次いでいる。
 不動産も上海株もバブルはとっくに弾けた。
 経済成長が止まる一方、政治的には権力闘争が熾烈になる一方だ。

 そんな情勢で軍事力だけが突出して米国を中長期的にしのいでいくのは不可能である。

 目先の冒険主義に走って軍事衝突を選べば、敗北が政権基盤を揺るがす。
 といって米国とにらみ合いを続けても、長引けば長引くほど、経済力が基盤になる国力バランスは中国不利になっていく。
 加えて日本やオーストラリアも中国に対峙する体制を整えていく。

 中長期的にみれば、中国はソ連と同じような運命を辿るだろう。
 中国がそんな自滅シナリオを避けようとするなら、いまは自ら軍事基地建設を凍結する以外に選択肢はない。
 どちらにせよ、中国は米国に勝てないのだ。

 今回、米国や日本が断固たる態度を示しながらも、けっして抑制を忘れていないのは、最終的には勝つと分かっているからだ。
 ただし、この対決は短期で終わると楽観しないほうがいい。
 長く目に見えない神経戦が続く。
 もしかしたら、何年も。
 そういう覚悟が必要だ。

 それにしても、先の安全保障関連法をめぐって「やれ戦争法案だ。徴兵制復活だ」と騒いでいた野党は、この事態をどう受け止めるのだろうか。
 米国に向かって「戦争反対!」と叫ぶのか。
 南シナ海は日本の重要なシーレーンではないか。

 野党のトンチンカンぶりは安保関連法成立からわずか1カ月であらわになってしまった。 
 こんなタイミングで民主党の重鎮、松本剛明衆院議員(元外相)が離党したニュースが民主党の現在を象徴しているようだ。



夕刊フジ 10月30日(金)16時56分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151030-00000010-ykf-int

習主席、就任以来最大のピンチ 
米艦進攻に打つ手なし 
不気味な軍、上海閥

 中国の習近平国家主席が、オバマ米大統領の“一撃”で窮地に陥っている。
 中国は南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島で勝手に人工島を建設してきたが、米国がついにイージス駆逐艦を派遣し、攻勢に出たからだ。
 オバマ氏をナメてかかっていた習氏には打つ手がない。
 江沢民元国家主席率いる「上海閥」の残党や、「30万人削減」を通告された人民解放軍が不満を爆発させ、「習氏排撃」作戦に踏み切る可能性が出てきた。 

 米中が緊張状態にあるなか、米原子力空母「セオドア・ルーズベルト」と、海上自衛隊の護衛艦「ふゆづき」が、南シナ海に面したボルネオ島の北方海域で、共同訓練(=通信訓練や艦船乗り換え訓練など)を行うという衝撃情報が飛び込んできた。
 毎日新聞が29日朝刊で報じた。

 ボルネオ島から、スプラトリー諸島までは数百キロの距離。
 米イージス駆逐艦「ラッセン」が監視・哨戒活動をしている海域に近く、国際法無視の活動を続ける中国への効果的なけん制となるのは間違いない。

 防衛省関係者は29日朝、
 「インド洋で実施した海上共同訓練『マラバール』の帰りで、普段から(帰港途中の)共同訓練は行っている。
 発表するようなものではない。
 ここ1、2日に実施予定だ」
と語った。

 中国13億人の頂点に君臨し、英BBCが「毛沢東以来の『赤い権力者』」と報じた習氏が、就任以来、最大のピンチを迎えている。
 共産党の重要会議「第18期中央委員会第5回総会(5中総会)」の開催中に、「自国の領土、領海だ」と強弁していた南シナ海で米イージス艦の進攻を許してしまったからだ。

 経済運営の5カ年計画や人事問題が注目された5中総会だが、南シナ海での緊張は、国際社会が注視する大問題となった。
 習氏は29日の最終日まで、対米強硬派らによる突き上げを避けられそうにない。

 元航空自衛隊南西航空混成団司令を務めた佐藤守・元空将(軍事評論家)は
 「中国は戦争を起こす気はない。
 自分たちの海空軍力が、こけ脅しの『張り子の虎』であることはよく分かっている。
 しかも、戦争をすればため込んだ金がなくなってしまい、中国経済は即死状態となる。
 だから、『口先』で強く恫喝するしかない」
と、習政権の苦しい内情を指摘する。

 だが、オバマ政権は、習氏を助ける気はサラサラない。

★.オバマ氏は、国際政治や地域緊張の解決に、軍事力を使うことを避ける傾向がある。
 ペンタゴン(米国防総省)に以前から、「中国の南シナ海での暴挙を放置すれば、国際社会の秩序は崩壊する」と進言されても、習氏が9月に訪米する際に腹を割って話し合おうと、先延ばしにした。

 ところが、オバマ氏の首脳会談や夕食会での呼びかけを、習氏は事務的に「(南シナ海は)古来、中国の領土だ」と言い放った。
 その不遜極まる態度に、いつもは穏やかなオバマ氏の堪忍袋の緒が切れた。
 ただちに、ハリス米太平洋司令官に「フリーダム・オブ・ナビゲーション(航行の自由)作戦」の承認を伝達した。
 今後も、中国が「領海」と主張する人工島周辺12カイリ(約22キロ)に艦船を派遣し、監視・哨戒活動を継続する方針だ。

 また、国際社会を巻き込んだ世論戦を展開して、習氏の「反汚職運動」で締め付けられてきた中国共産党内部にも揺さぶりをかける。
 5中総会中のゴーサインは、事実上、
★.「習氏は、カウンターパート(交渉相手)にふさわしくない」
と引導を渡したに近い。

 一方の習氏はこれまで、東シナ海や南シナ海、インド洋、中央アジア、東欧、中東にまたがる「覇権拡大路線」で国内世論の支持を得て、軍の統制も強めてきた。

 9月3日に行った「抗日戦争勝利70周年」記念式典では、軍の掌握が進んだとみて、余剰兵員の「30万人削減」を表明する演説を行った。
 削減で浮いた人件費など600億元(約1兆2000億円)を、兵器や装備のハイテク化につぎ込む考えだ。
 ただ、ロイター通信など複数の欧米メディアは、軍の将校クラスを中心に不満が高まっていると報じている。

★.米国艦船の派遣などでメンツを潰された習氏に、
 中国共産党や人民解放軍の内部から「排撃」の狼煙が上がるのか。

 前出の佐藤氏は
 「習氏は追い込まれている。
 上海閥の残党や軍の不満分子から、いつ排除されてもおかしくない」
と分析した。
 これまでも指摘されてきた「クーデター」や「暗殺」が現実味を帯びてきたようだ。

 さらに、佐藤氏は1962年のキューバ危機の再来も指摘する。

 当時のソ連のフルシチョフ第1書記は「(西側諸国を)葬ってやる!」と恫喝していたが、核戦争の恐怖がピークに達したキューバ危機で、最後はケネディ米大統領に「譲歩」して、中距離弾道ミサイルをキューバから撤去した。

 佐藤氏は、これが失脚の一因になった例を挙げて、「習氏が同じようなケースをたどる可能性も十分ある」との見方も示している。



産経新聞 10月30日(金)19時55分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151030-00000571-san-asia

米イージス艦南シナ海派遣 
「親中派」のターンブル首相 米作戦支持しつつ、
中国との軍事演習にも参加

 【シンガポール=吉村英輝】
 南シナ海で中国が「領海」と主張する人工島周辺に米国がイージス艦を派遣したことで、米国の同盟国であるオーストラリアが対応に苦慮している。
 経済的関係が強い中国への配慮から、中国が反発する米国の示威行動への参加は否定しつつ、「航行の自由」の重要性を認識していることを示すため独自の艦船派遣を目指すが、周辺国の理解を得られるかは不明だ。

 ペイン豪国防相は29日、豪海軍のフリゲート艦2隻を中国広東省湛江の基地に派遣し、来週からの中国海軍の演習に参加させると発表した。
 ロイター通信が伝えた。

 南シナ海での米中緊張を受け、中国への艦船派遣を延期するとの観測もあがったが、ペイン氏は声明で「予定の変更や延期はない」と言明。
 海軍同士で長年関係を築いてきた国に「中国も含まれる」とした。

 ペイン氏の中国への配慮は、米艦船派遣を受けた27日の声明でも明らかだ。
★.米国の「航行の自由作戦」が「国際法に沿っている」と支持を表明
する一方、
★.「(南シナ海での)米国の現在の行動に参加することはない」と距離を置いた。

 アボット前首相から9月に政権を奪取したターンブル首相について、南洋工科大学(シンガポール)の古賀慶助教は
 「経済優先の結果、中国寄りとみられ、外交的には冒険をせず安定重視だ。
 国際状況を見極め、中国や米国との関係構築を進めている」
と指摘する。

 豪メディアも27日、
 「豪州は米海軍の挑戦を支持するが傍観を続ける」(シドニー・モーニング・ヘラルド)、
 「米国の作戦へ参加するよう圧力を受けるだろう」(ABC放送)
などの論評を報じた。

 豪州としても、同国の輸出の約6割が通過する南シナ海の安定に寄与する姿勢を国際社会に示す必要がある。

 豪海軍は、米国防総省が人工島周辺への艦船派遣の検討をはじめた今年5月から、独自か米国などと共同の南シナ海への艦船派遣計画を立ててきたとされる。

 ペイン氏は、中国の反発を避けながら地域の安全保障への主体的関与をアピールするため、米国と共同ではなく、独自に南シナ海への艦船派遣を模索するとみられる。
 ただ、隣国のインドネシアなど豪州と関係がぎくしゃくしている周辺国もあり、シンガポールの外交筋は
 「豪州艦船が南シナ海に受け入れられるのは難しい」
とも指摘する。



時事通信 10月31日(土)8時33分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151031-00000029-jij-int

米中「大国関係」に亀裂'
=衝突回避へ配慮-南シナ海の人工島沖航行

 南シナ海で中国が造成した人工島から12カイリ以内を米艦が航行したことを受け、同海の主権を「核心的利益」と見なす中国は「主権への脅威」(外務省報道官)と激しく反発した。
  習近平国家主席はオバマ大統領との間で「核心的利益」を尊重し、「衝突せず、対抗せず」を基にした「新型大国関係」構築を推進していただけに、米中関係には大きな亀裂が入った。
 一方で決定的な対立は避けたいというのが双方の本音で、軍事的衝突という事態に至らないよう細心の注意を払う見通しだ。

■中立アピール

 米国防総省は5月に、12カイリ内に軍艦を送り込む「航行の自由」作戦の実施を警告して以来、決行のタイミングを計ってきた。
 オバマ大統領は9月下旬の習主席との会談でも中国側に柔軟な姿勢が見られなかったことから、実行を承認。
 ただ、トップ会談から1カ月後の作戦実施には、中国から
 「相互信頼を損ない、新型大国関係と両軍関係構築に向けた努力に反するものだ」(国防省報道官)
との批判が上がる。
 米側には中国を刺激しないよう苦心を重ねた形跡もある。
 米政府は今回の作戦に関し、「特定の国を標的にしたものではない」と繰り返し強調。
 ロイター通信によれば、米艦はベトナムやフィリピンが実効支配する岩礁から12カイリ以内も通過し、「中立」をアピールした。

■世論を警戒

 中国では今回の作戦が2001年に起きた米中軍用機接触事件などを想起させ、インターネット上で「中国軍艦も米国の海域に入るべきだ」と強硬な対抗措置を求める世論が盛り上がっている。
  一方、共産党機関紙・人民日報系の環球時報は社説で
 「米国は中国と軍事的な摩擦を起こす考えはなく、
 ただの政治的なアピールだ」

と強調し、国民に冷静な対応を呼び掛けた。
 北京では党の重要会議・第18期中央委員会第5回総会(5中総会)が29日までの日程で開かれており、中国指導部は批判が政権に向かうことを警戒し、民族主義的な主張の高まりを抑えたい思惑とみられる。

■修復模索か

 米政府は今後も人工島の周辺海域に米艦を派遣する構えを見せている。
 ただ、南シナ海を舞台にした軍事衝突は、米中双方にとって「最悪のシナリオ」となる。
 米艦は中国の人工島の12カイリ内に入る際、追尾していた中国艦と無線で交信したとされる。
 中国軍少将は
 「追尾や警告は一定のルールに従っている。衝突することはないだろう」
と指摘する。
 米国務省のカービー報道官は「米中関係は極めて重要だ」と関係発展への意欲を表明。
 中国外務省の陸慷報道局長も「対話を通した解決」を訴えた。
 米太平洋軍のハリス司令官は作戦を控えた今月上旬の段階で「中国には軍同士の交流を続ける決意だと伝えてきた」と述べた。
 同司令官は11月初旬に訪中する見通しで、衝突回避に向けた話し合いが行われる可能性がある。

 11月にはフィリピンでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議など米中首脳らが集まる国際会議が立て続けに予定されている。
 こうした場で顔を合わせる両首脳が亀裂の修復を模索するのか、それとも応酬を展開するのかで、今後の米中関係の行方が左右される。

(北京、ワシントン時事)








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