●「爆買い」がピークアウト
『
現代ビジネス 2015年10月21日(水) 磯山 友幸
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45941
ついに「爆買い」がピークアウト!?
~中国の景気減退と、
二つの数字が示す、明るくない未来
■ピーク時の百貨店売り上げは200億円だが・・・
今ひとつ元気がない日本の消費を下支えしてきた、
★.外国人観光客による「爆買い」はいつまで続くのだろうか。
上海株式相場の大幅な下落の影響で、中国人観光客の財布のヒモが締まることはないのか。
中国の国内総生産(GDP)が7%を割った影響は出ないのか。
日本百貨店協会が10月20日に発表した今年9月の「外国人観光客の売上高・来店動向(速報)」によると、百貨店71店舗で免税手続きが行われた物品の売上総額は138億6,000万円と前年同月の2.8倍になった。
外国人観光客の増加が続いていることに加え、昨年10月から化粧品や食料品などに免税対象が拡大された効果が大きい。
従来はハンドバックや衣料品、家電製品などを1人1日1店舗当たり1万円超購入したものが免税対象だったが、これに加えて、化粧品や、食料品、菓子類、果物、酒などを1人1日1店舗当たり5000円超購入したものも免税対象となった。
百貨店では特に新たに免税対象になった化粧品の人気が高まり、中国や香港、台湾からの観光客による「爆買い」のターゲットになっている。
71店舗の9月の免税売り上げ138億6,000万円のうち従来の免税対象だった物品は107億7,000万円だった。
つまり、免税範囲の拡大によって1ヵ月だけでも30億円以上の増収要因になったわけだ。
昨年9月に免税手続きを行った人は5万6000人あまりだったが、範囲が拡大された10月には11万6000人となった。
化粧品や食料品が対象になったことで、免税で買い物をする客が急増したことが分かる。
食料品などはブランド品などに比べて低価格のため、免税手続きを行った客ひとり当たりの単価は8万4,700円から7万5,000円に低下したが、全体の免税売り上げは9月の47億8,700万円から10月の86億7,000万円に大幅に増えた。
免税範囲の拡大が、従来の免税品の購入拡大などにもつながる相乗効果があったことを伺わせる。
その後、今年に入ってから訪日外国人客自体が増加し続けた効果もあり、百貨店の免税売り上げはうなぎ上りだった。
年末商戦の12月には126億6,000万円を記録、客単価も8万9,000円に達した。
春節の2月には153億6,000万円となったが、桜のシーズンで観光客が一気に増えた4月には197億5,000万円と過去最高を記録した。
免税手続きを行った顧客の数も24万1000人と最高になった。
前の年の4月は7万7700人だったので、一気に3倍になったわけだ。
東京の銀座や新宿の百貨店の売り場に中国人などの外国人が溢れ、「爆買い」という言葉も一気に広がった。
■9月は売上げ、客単価ともに激減!
免税手続き客数が過去最高となったのは今年7月の24万4000件。
例年4月に並ぶ旅行シーズンとして外国人客が多くやって来る月だ。
売上高は185億2,000万円と4月には及ばなかったものの、やはり高水準となった。
一見、好調を維持しているように見える外国人観光客向けの売り上げだが、時系列でみると、9月の数字に若干の懸念材料が透けてみえる。
確かに138億6,000万円という売上高は、前年同月比では2.8倍という高い伸びに当たるのだが、前月の8月(171億6,000万円)に比べると19%の大幅減少に当たる。
今年3月とほぼ同じ水準なのだ。
9月は夏みシーズンが終わって旅行者も減少する時期ではあるが、さすがに落ち込み幅が大きいように見える。実際、昨年9月は昨年8月よりも売上高はわずかながら多かったのだ。
9月の免税手続き客数も19万2000人と8月(22万9000人)と16%も減っている。
ひょっとして外国人観光客の「爆買い」がピークアウトしたのではないだろうか。
もうひとつ気になる数字がある。
免税手続き客ひとり当たりの売上高、つまり客単価の下落だ。
売上高が最高を記録した今年4月のひとり8万2,000円から、毎月下落しているのだ。
6月には7万9,000円となり、8月には7万5,000円に低下。
9月は前月の7万5,000円から一気に7万2,200円にまで下落した。
昨年10月に免税範囲が拡大されて以来、最低の水準となったのだ。
秋の紅葉シーズンに向けて、訪日外客数がさらに大きく伸びれば、百貨店の免税売り上げも増加に転じる可能性はある。
年末商戦に入れば、高額品の売れ行きが伸び、客単価も再び上昇するかもしれない。
ただ、これまでの右肩上がり一辺倒の増加傾向には、どうやら変化が生じているように見える。
仮に「爆買い」がピークアウトしたとすると、それでなくても弱さが目立つ日本の消費に冷や水を浴びせかねない。
■「爆買い」を終わらせないために
日本百貨店協会が発表した全国百貨店売上高概況によると、全国82社238店の9月の売上高は前年同月比1.8%増だった。
6ヵ月連続でプラスが続いているとはいえ、7月の3.4%増、8月の2.7%増と月を追って伸びが小さくなっている。
9月は衣料品が2.8%減と6月に続いてマイナスになった。
天候不順などの影響が大きいが、昨年4月の消費増税の影響がいまだに残っているとの見方も根強い。
「美術・宝飾・貴金属」の伸びが13.6%増と8月の22.8%増から急速に減速しているが、これには外国人消費の鈍化が影響しているかもしれない。
訪日外国人の「爆買い」は百貨店だけでなく、アウトレットやドラッグストア、酒量販店などに幅広く増収効果をもたらしている。それがピークアウトした場合の影響は小さくない。
「爆買い」を一気に減少させないためにも、対策を先回りで行うべきだろう。観光庁は年末の税制改正要望で、1万円超となっている既存物品の免税対象を、5000円超に引き下げることを要望している。
免税対象が拡大すれば、昨年10月と同様に波及効果が広がる可能性は十分にある。
また、免税対象のさらなる拡大も検討すべきだろう。
政府は訪日外国人の拡大を政策の柱のひとつとして掲げている。
「爆買い」を円安による一時的な現象に終わらせないことが、日本の消費の安定的な拡大にもつながるだけに、早期に変調の兆しを捉えて対策を打つことが重要だろう。
』
『
JB Press 2015.10.27(火) 宮田 将士
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45081
変化する中国人観光客、
「観光バスご一行」は消えてゆく?
中国で最も長い連休の1つである国慶節(こっけいせつ)が終了しました。
連休が始まる前は、中国の景気を懸念して、中国人が来なくなるのではないか、爆買いは消えてしまうのではないかといった心配もありましたが、終わってみたら、やはり訪日中国人のパワーは凄まじく、国慶節の1週間で多くの中国人が日本を訪れ、大量のお金を使っていきました。
中国でもこのように報じられています。
『国庆节40万中国人在日本消费1000亿日元』
(国慶節に中国人40万人が訪日、消費額は1000億円)
その意味では、今年の国慶節も例年通りと言えますが、一方でこれまでにないさまざまな変化もみられました。
簡単に言えば、「観光バスで乗りつけて免税店で大量に買い物をして去っていく」という従来の“爆買い”中国人のイメージは変わりつつあります。
そこで今回は、2015年の国慶節を振り返りつつ、今年新たに見えてきた爆買い中国人の変化について紹介したいと思います。
■変化1:団体ツアーから個人へ
以前の『中国人の日本旅行、濃密なスケジュール教えます』でも、個人旅行(自由行)について紹介しましたが、今年の国慶節は個人旅行で日本を訪れる中国人が増加しました。
中国の日本旅行商品を扱っているいくつかの旅行代理店に話を聞いたところ、ツアーから個人旅行へのシフトが非常に早いようで、旅行代理店の担当者レベルの感覚では、2013年には<団体旅行:個人旅行は8:2>の割合だったの対して、今年の国慶節ではほぼ半々の<5:5>になっているそうです。
また、初めての日本旅行ではなく、2回目、3回目のリピーターの増加も顕著だということでした。
■変化2:渡航先の多様化
これまでの日本旅行といえば、有名な観光地を巡るゴールデンルート(東京、箱根、富士山、名古屋、京都、大阪)、北海道、沖縄等が定番でしたが、今年の国慶節はこれに加えて、岐阜、長野、宮城、福岡、奈良等、これまでの定番以外のエリアの人気も高まっています。
中国の航空会社が、日本への路線を大幅に拡大したことも、こうした渡航先の多様化に一役買っているのではないかと思います。
『南方航空2015年将新开30条中日直飞航线』
(中国南方航空、2015年新たに30の中日直行便を開通)
『杭州将继续增加直飞日本航线 今年去日本更方便更便宜』
(杭州、引き続き日本便増加、日本旅行がより便利で安く)
■旅行スタイルの変化が「爆買い」に与える影響
では、このような日本旅行のスタイルの変化は爆買いにどのような影響を与えるのでしょうか。
以下の4つの変化が考えられます。
(1) 人気商品が分散する
(2) 1人が大量に買うのではなく、多くの人が少しずつ買うようになる
(3) 買うものは「行ってから決める」、衝動買いも増える?
(4) 競争が激化する
ここからは、それぞれの項目について説明していきます。
(1):人気商品が分散する
日本を訪れる中国人の数が増えること、個人旅行者が増えること、渡航先が多様化することで人気商品が分散する可能性が高まります。
決まったコースを観光バスで周り、特定のお店で定番商品を大量購入する団体客と、自分が好きなスポットを回りながら気に入った商品を購入する個人旅行者では、当然ながら買い物のスタイルが異なります。
結果として、人気は分散することになります。
訪日中国人のリピーターが増加することで、日本旅行や日本製品への知識が豊富になっていることも、この傾向に拍車をかけています。
実際、2014年と2015年の国慶節の時期に、中国のSNS上で「日本で購入した」と書き込まれた化粧品の商品数をカウントしてみると、2014年では25商品だったの対して、2015年では103商品と約4倍に増加しています。
訪日中国人が購入する化粧品の数が増え、その分、人気が分散していることが分かります。
●2014年、2015年の国慶節に訪日中国人が購入した化粧品の数量比較。中国SNS上の化粧品カテゴリーで「日本で~を購入した」と書き込まれた
商品数をカウントして集計(筆者作成)
(2) :1人が大量に買うのではなく、多くの人が少しずつ買うようになる
これまでの団体旅行客は、観光バスで免税店を訪れて制限時間2時間の中で買い物を済ませる必要があったので、決まった定番商品を大量に購入するという特徴が顕著でした。
しかし、個人旅行者は少人数(1~5人程度)で、基本的に時間の縛りはありません。
自分の好みに合うものを吟味した上で、気に入った商品だけを購入することができます。
団体旅行客と個人旅行客というユニット単位でみると、1回に購入する量は両者で比較になりません。
つまり、訪日中国人の個人旅行化が進むということは、
爆買いが「1人が大量に買うのではなく、
多くの人が少量ずつ買うようになる」というスタイルに変化
することを意味します。
●団体旅行客と個人旅行客の買い物スタイルの違いーその1。1人が大量に買うのではなく、多くの人が少量ずつ買うよ
(3) :買うものは「行ってから決める」、衝動買いも増える?
団体旅行客は商品を決めてお店に行くのに対して、個人旅行客はお店へ行って商品を決めます。
団体旅行客は買い物にかけられる時間が限られているため、効率良く買い物することに全力を傾けます。
こうして生まれたのが「お買い物リスト」です。
リストに載っている定番の商品を、短時間で大量購入するというのがこれまでの訪日中国人のショッピングスタイルでした。
しかし、個人旅行者が増えるとこのようなスタイルにも変化が生まれます。
個人旅行者は、団体旅行者ほど綿密な買い物リストは作成しない傾向があります。
例えば「化粧水を買う」「お菓子を買う」「頭痛薬を買う」といったジャンルは考えていても、具体的な商品名は狙い定めていないのです。
旅行前にある程度の範囲は決めますが、実際に購入する商品を決定するのはお店を訪れてからになります。
店頭で実際に商品やPOPを見て、友人に相談し、店員さんに話を聞き、ネットで情報を確認しながら最終的に買う商品を決めるのです。
旅行前に商品まで決めている団体旅行客の計画購入に対して、個人旅行客の場合は店を訪れて初めて購入する商品を決める傾向が強いと言えます。
さらには、「買い物リスト」になかった予定外の商品を衝動買いする可能性も高まるでしょう。
●団体旅行客と個人旅行客の買い物スタイルの違いーその2。団体旅行客は事前に商品を決めておくのに対し、個人旅行客はお店へ行ってから決める(筆者作成)
(4) :競争が激化する
訪日中国人の日本商品に関する知識が豊富になることで、好みが多様化し、買い物のスタイルが変化すれば、当然ながら競争は激化します。
これまでは、免税店や空港に商品を置くことができれば、それなりに売れていたのですが、最近ではそうした爆買いを実感しにくくなっています。
企業やお店レベルでみると、昨年と比べて落ち着いてきたという声をよく聞くようになりましたが、これは日本における爆買いがなくなったのではなく、人気商品の分散や買い物スタイルの変化によって競争が激化し、個別の企業やお店レベルでは爆買いが見えにくくなっていることを意味しています。
2015年の国慶節で見られた訪日中国人の変化について紹介してきましたが、今回の取材や分析を通じて分かったのは、訪日中国人が訪れるお店に商品を置けば何でも売れるという時代は既に終わりを迎えつつあるということです。
今後、日本を訪れる中国人は個人旅行客が中心になります。
団体旅行客と個人旅行客では旅行のスタイルが異なるため、買い物のスタイルやお土産の好みも変わっていきます。
企業は、これまでのような「中国人観光客」を一括りにした施策だけでは訪日中国人の心を掴むことが難しくなります。
より綿密なセグメントテーション、コミュニケーションが必要となっていくことは間違いありません。
これらを踏まえて次回からは、今後、訪日中国人の主力となる個人旅行客の実態やそれに伴う爆買い商品の特徴の変化等について紹介したいと思います。
』
『
Business Journal 2015/10/30 06:04 文=鷲尾香一/ジャーナリスト
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20151030-00010004-biz_bj-nb&p=1
訪日外国人客、一番人気は大久保?
国別に意外な人気スポットの違いが発覚!
10月初旬、取材先との会合があり東京・銀座に出向いた。
夕刻の6時半頃だったが、銀座4丁目の交差点から数十メートル離れた中央通りに、観光バスが4、5台停車していた。
見ていると、中から中国人らしき団体客がゾロゾロと降りてきた。
その人数は、あっという間に歩道を埋め尽くした。
圧巻である。
昨今、インバウンド(訪日外国人客)という言葉は日常用語になった。
それ以上に中国人による“爆買い”という言葉がメディアで踊り、今年の流行語大賞に選ばれそうな勢いだ。
筆者が中国人観光客の団体を目撃した時、すでに経済面では「中国の景気減速」がいわれていた。
しかし、彼らの様子からは、まったくといってよいほど、そんな雰囲気を感じることはなかった。
JNTO(日本政府観光局)が10月21日に発表したところによると、9月の訪日外国人客数は前年同月比46.7%増の161万2000人で、9月としては過去最高だった。
★.1月から9月までの累計人数は「1448万人」となり、
1年間の過去最高だった昨年の1341万人をすでに超えた。
国・地域別の上位3カ国は、以下の通りとなっている。
・中国:49万1200人(9月)、383万8100人(1-9月累計)
・台湾:30万2900人、277万1100人
・韓国:30万1700人、285万5800人
(・米国:7万6300人、75万8400人)
これは、欧米諸国でもっとも訪日が多い米国の9月が7万6300人(1-9月累計が75万8400人)と比較すると、中国からは5倍以上の人が訪れていることになる。
国土交通省観光庁の訪日外国人消費動向調査によると、中国人1人が1回あたりの旅行に26万7419円を使い、このうち買物に14万1554円を使っている。
ちなみに、米国人は旅費総額が18万360円で買物代は2万7227円。
1人が1泊あたりに使う金額は中国人が4万3844円(うち買物代2万3208円)に対して、米国人は1万8424円(同2781円)と、いかに中国人が爆買いをしているかがわかろうというものだ。
●どこに行っているのか?
では、訪日外国人はどこに行って何をしているのか。
何かデータはないかと探してみると、東京都が9月に公表した「平成26年度国別外国人旅行者行動特性調査報告書」(1万3321サンプルの集計結果)を見つけた。
「訪都中に行った活動(複数回答)」という項目があり、1位「日本食を楽しむ」(89.0%)、2位「ショッピング」(78.6%)、3位「街歩き」(75.1%)が圧倒的。
では、どこに行っているのかというと、意外にも
1位は「新宿・大久保」で55.4%、
2位が「銀座」で50.0%、
3位が「浅草」の49.2%
という順だった。
そんなに「新宿・大久保」が人気なのかと思い国別に見てみると、はっきりとした傾向が出ていた。
★.韓国、香港、タイ、シンガポール、マレーシアからの観光客が「新宿・大久保」
がお気に入りで、
★.欧米の人々は「渋谷」「秋葉原」
がお気に入り。
そして
★.中国の人々は、「銀座」「秋葉原」
がお気に入りなのだ。
このあたりにも、中国の爆買いの片鱗が表れているのかもしれない。
ちなみに、
★.東南アジア、欧米を問わずに人気があったのは「浅草」
だった。
さて、訪日外国人観光客の増加を歓迎する声は多いが、内閣府が10月に発表した「観光立国の実現に関する世論調査」の中では、1758人中、
★.訪日外国人旅行者の増加により「治安の面から不安を覚えるようになった」との回答が29.5%、
★.「マナーや文化慣習の違いなどから、外国人旅行者とのトラブルが増えた」が25.5%
となっていることを付け加えて筆を置くことにする。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2015年11月30日 近藤康生 [ホワイト・ベアーファミリー代表取締役]
http://diamond.jp/articles/-/82204
中国経済減速でも中国人訪日客が減らない理由
ビジネスマンであれば大国・中国の景気動向に敏感になるのは当然だろう。
しかし、報道に振り回されては本質を見失う。
私は旅行業とホテル事業にかかわる者として、ときに疑問を感じることがある。
8月上旬の人民元切り下げとそれに伴う株価の乱高下に「中国ショックだ」「リーマンショックの再来か」と嘆き、国慶節(10月1~7日)には「今年の爆買いはいかに!?」と息を詰めるように量販店の店頭を覗き込み、GDP(7~9月期)が6年半ぶりに7%を下回るや「バブル崩壊!」と、いよいよ隣国の経済が低迷期に突入したかのごとく報じる日本のマスコミ。
しかしGDP報道と同じ日の紙面では「訪日客消費2.6兆円」(朝日新聞)と、この1~9月に外国人観光客が日本に落としたお金が過去最高にのぼったと告げている。
なかでも中国人が最大の「お客様」で、7~9月の旅行消費額でみると全体の46%が中国人の財布から出ているという。
新聞やテレビの、これらの報道を順に追っていくと、
「2015年の前半は景気よく金を使ってくれたけど、中国の経済は(やっと?)厳しい局面に入った。
もう旅行者も期待できない」
と言いたげである。
これまでの購入意欲もアベノミクスによる円安が追い風となったから、とか、訪日外国人消費(インバウンド)が伸びるのはせいぜいが2020年の東京オリンピックまで、など、自虐的といってもいいほど「外国人(特に中国)のお客様に期待してはならない」という論調が目立つ。
が、そんなことはない。
結論から言って、私はこれからもアジアのお客様、中でも中国人の訪日観光客は増え続けると考えている。
第一に、中国人の日本旅行ブームは「まだ始まったばかり」だからだ。
第二に約14億の人口という「巨大なスケールメリット」
が理由として挙げられる。
■訪日客激増の理由はただ一つ
ビザ発給要件緩和に絞られる
今年(2015年)の訪日外国人数は前年の約1.5倍、1900万人が見込まれている。
ここまで一気にインバウンドが増えた理由は、実は1点に絞られる。
中国はじめアジア各国に対する日本政府のビザ発給要件が大きく緩和されたことだ。
中国政府が一般国民の海外旅行を認めたのは1997年。
それまでは商用や留学など特定の目的が必要だった。
日本政府も不法就労を恐れ、年収が数百万円以上の中国国民にしかビザを発給しなかった。
しかし中国は「世界の工場」として著しい経済成長を遂げる。
国内の消費先細りに悩む日本政府は中国人の中流層を呼び込むため、2009年に発給を決めた個人観光ビザの収入要件を翌年に大幅緩和、また今年1月にも大きな要件緩和を行った。
それは一定期間内であれば何回でも入国できるというものだ。
下のグラフでは2015年は7月までの数値しか反映されていないが、そこまでで比べても訪日外国人のなかで中国人の占める割合が今年になって一段と増えていることがわかる(2014年17.9%→2015年24.9%)。
統計によれば2000年から毎年10~12%の割合で旅行市場は膨らみ、国内旅行者は毎年三十数億人、海外旅行者も2014年にのべで1億人を超えた。
この勢いが、先に述べた訪日中国人が減らないと考える第一の理由であるし、「1億人」という数字が第二の理由に挙げたスケールメリットだ。
現在、日本の人口は約1億2690万人。
うち海外に出かけた人は2014年の統計で1690万人、人口比で13.3%だ。
成長率▲0.06%(2014年)の国民でも、これだけ海外に出ている。
かたや中国の人口は約13億6800万人。
彼らが今の日本人と同じ程度、旅に出るとすれば、1億8000万人が海外旅行をすることになる。
計算が単純すぎる、と笑うだろうか?
確かに中国では政府が経済へ過度に干渉するリスクがあり、貧富の差も極端だとされる。
また近年になって来日するようになった中国人は、日本でいえば年収400~500万円にあたる、
いわばわれわれと同じ庶民である。
いったん不況の波に襲われたら海外旅行どころではないはず、と想像するのもたやすい。
しかし、いちど知った「旅」の魅力を、人はそうやすやすと忘れないのだ。
■日本人は不景気でも「旅」を続けた
中国人も決して「旅」を止めない
中国の「バブル」がよしんば崩壊したとしても、中国人観光客は減らない。
少なくともあと20年程度は高い数値を保ち続けるはずだ。
それは日本人の過去を振り返っても自明である。
下のグラフは1980年から2012年までの日本人の国内宿泊旅行人数だ。
日本人は年間でのべ約3億泊を旅先で過ごしており、この数字はここ30年大きく上下していない。
バブルが崩壊して「失われた10年」が通過しても、人々は旅をし続けたのである。
●日本人の国内宿泊旅行人
生命と生活の安全がある程度確保されると、人は外部へとその触手を伸ばす。
未知の環境においてあらためて立ち現れる自己が、心理学者・マズローのいう段階欲求の最高位「自己実現欲求」を満たすからだ。
言葉の通じない外国で相手に自分の意思が伝わったときに感じる嬉しさ、誇らしさは自分の能力や感性を再確認する喜びなのである。
これを一度知ってしまうと、人は日常生活だけでは飽き足らなくなる。
日本で外貨の持ち出し制限が緩和され、海外旅行が自由化されたのは1970年代になってから。農協ツアーなどの団体客がハワイ、ヨーロッパなどに繰り出した。
SF作家の筒井康隆が彼らのマナーの悪さを強烈に揶揄した中編「農協月へ行く」を書いたのは1973年のことだ。
筆者は学生だったが、
「友達の○○ちゃんが家族でハワイに行ったんだって」
「じゃあウチもこの夏はハワイに行くか!」
といった会話が周囲でもドラマでも頻繁に交わされていた。
現在は中国の一般家庭でこうした会話が交わされていることが、ありありと想像できる。
「まだ」1億人しか国を出ていないのだ。
先にも述べたように、日本人が旅に出る動機や回数は、高度経済成長の頃から現在までそう変化していない。
年に一度、楽しみにしている海外旅行や恒例の家族旅行が、景気や為替の動向で増減することはあまりないのである。
マスコミが懸念していた今年10月の「爆買い」も、結局は前年を上回る勢いだったという。
中国株バブル崩壊は、日本への買い物ツアーに影響を与えなかった。
■爆買いはいずれ沈静化
旅行は個人旅行にシフト
もちろん、家電や化粧品などの爆買いが永遠に続くことはありえない。
中国の経済改革がうまく進まなければ、中国人観光客が買い物に使うお金は減るかもしれない。
なにしろ現在は、訪日外国人の旅行支出が平均18万7000円なのに対し、中国人だけが28万円も使ってくれているのだ。
これは中国の家庭にモノが行き渡るにつれ、沈静化していくだろう。
しかし団体旅行で日本を訪れた中国人は、次は個人旅行で自由に各地を回りたいと考える。
自由度の高い香港ではすでに海外個人旅行(FIT.Foreign Independent Tour)が主流になっている。
団体旅行ではどうしても「自己実現」上の不満が残るからだ。
日本でも80年代の後半には若者たちですら個人旅行を楽しむようになった。
今の中国が日本の70年代初頭の旅行パターンだとしたら、あと20年近くは需要が伸び続けると予測することも可能なのである。
南北に長い日本には多くの絶景の地があり、洗練された温泉宿が全国にあり、食事は美味しく、どこもかしこも清潔だ。
いち中国人の気持ちでアジアに旅行先を求めるなら、日本は観光地として相当なバリューを有している。自信を持っていい。
真に憂慮すべきは受け入れ態勢の遅れだ。
飛行機の客席数とホテルの数が圧倒的に足りない。
今年、訪日外国人は1900万人を突破する。
2年前の倍だ。
実は日本に来る飛行機が足りない状態で、この数値なのである。
ここに空港の整備やさらなるLCCの参入などが加われば、その勢いは推して知るべし。
みずほ総研は東京オリンピックの前年には外国人の総泊数が2.2億泊にのぼると試算した。
現在3億泊で安定している国内の宿泊施設は、合計5.2億泊となり、いともたやすく飽和するだろう。
政府は民泊合法化へ舵を切ろうとしているが、それでも焼け石に水ではないか。
インバウンドは、日本では貴重な超・成長産業である。
マスコミが揶揄的な態度を取りがちなのは、彼らこそ内需だけが頼りのドメスティック産業だからではないかと邪推してしまう。
』
『
サーチナニュース 2015-11-30 09:23
http://news.searchina.net/id/1595546?page=1
日本に「あふれる」中国人観光客
宿泊施設が不足、
「民泊」ではトラブル多発
日本政府観光局(JNTO)は18日、10月の訪日外国人観光客数の推計値を発表。
同発表では前年同月比43.8%増の約183万人、1月から10月までは累計1631万人と過去最高を更新した。
観光客の受け入れにあたっては「民泊」が注目を受けた。
ここでいう「民泊」とは営業許可なく空き部屋などを貸し出すことだ。
日本では違法かどうかグレーゾーンだ。
中国メディアの人民日報は25日に
「日本への旅行で宿を決める時、民泊はグレーゾーンであることを理解しなくてはならない」
との見出しで、民泊について解説する記事を掲載した。
同解説では、「民泊」を
「違法と言えば違法。 違法じゃないと言えば違法じゃない」
と紹介しリスクがあると指摘。
中国人が注意するべき点として、「迷惑」の事例と「安全」の事例と大きく二つに分けて説明した。
「迷惑」の問題では大阪のあるマンションで中国人旅行客が出入りし迷惑をかけている事例を紹介。
深夜に大声を上げたりゴミを散らかしたりマンション内で好き勝手に記念写真を撮ったりするなどしていたとのことだ。
「安全」の問題では旅行に来ていた4歳の女の子が12階から転落死した事件を紹介。
不注意が原因とのことで、ホテルのような安全対策はされていないことを紹介した。
中国版ツイッター・微博(ウェイボー)でも同問題についてのコメントが散見された。
無許可で「民泊」を行っていた日本の旅行会社に強制捜査を行うとする日本の5日付の報道に対しては、
「関係ない。“民泊”が(営業)許可証を持ってなくとも、良質なサービスを受けられるからね。
しかも安いし。」
とのコメントが注目を受けていた。
そのほか、日本に留学している学生が「民泊」を提供していると主張するコメントも見られた。
同コメントによれば「結構儲かる」とのことだ。
一方で同報道をみて
「さっきAirbnb(エアビーアンドビー)で予約したばかりなのに、どうしよう」
といったコメントもあった。
「Airbnb」は2008年に米国で始まった空き部屋などを有料で貸し出すサービスだ。
同社ホームページによると
「世界190ヶ国3万4000以上の都市で人と人とをつなぎ、ユニークな旅行体験を叶えます」
とのこと。
こうした「民泊」サービスが一般的な宿泊施設と同様に広まりつつあることが分かる。
2020年には東京五輪が開催され、訪日外国人はさらに増加する見込みだ。
民泊は解決策としては有効な手立てだ。
しかしマンションに住んでいたとして隣の部屋が「民泊」となれば、見知らぬ外国人がいたり、いなかったりするのだ。
管理が行き届かないことや治安面を考えるとやはり不安だ。
観光客の受け入れに対して早急に対応するためにも、民泊についての積極的な議論が求められている。
』
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