『
現代ビジネス 2015年12月28日(月) 高橋 洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47156
「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした
~それどころか
…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう!
この国のバランスシートを徹底分析
■鳥越俊太郎氏もダマされていた
先週26日(土曜日)、大阪朝日放送の番組「正義のミカタ」に出た。
大阪のニュース情報番組だが、東京とは違って、自由な面白さがある。
そこで、「日本経済の諸悪の根源はZ」というコーナーをやった。
Zとは財務省である。
その中で筆者が強調したのは「借金1000兆円のウソ」である。
借金が1000兆円もあるので、増税しないと財政破綻になるという、ほとんどのマスコミが信じている財務省の言い分が正しくないと指摘したのだ。
借金1000兆円、国民一人当たりに直すと800万円になる。
みなさん、こんな借金を自分の子や孫に背負わせていいのか。
借金を返すためには増税が必要だ。
……こんなセリフは誰でも聞いたことがあるだろう。
財務省が1980年代の頃から、繰り返してきたものだ。
テレビ番組は時間も少ないので、簡単に話した。
「借金1000兆円というが、政府内にある資産を考慮すれば500兆円。
政府の関係会社も考慮して連結してみると200兆円になる。
これは先進国と比較してもたいした数字ではない」
これに対して、番組内で、ゲストの鳥越俊太郎さんから、
「資産といっても処分できないものばかりでしょう」
と反論があった。
それに対して、多くの資産は金融資産なので換金できる、といった。
筆者がこう言うのを財務省も知っているので、財務省は多くのテレビ関係者に対して、
「資産は売れないものばかり」というレクをしている。
鳥越さんも直接レクされたかがどうかは定かでないが、財務省の反論を言ってきたのには笑ってしまった。
番組が昼にかかり15分くらいの休憩があった。そ
のとき、鳥越さんから、「金融資産とは何ですか」と筆者に聞いてきた。
「政策投資銀行(旧日本開発銀行)や
UR都市機構(旧住都公団)などの特殊法人、独立行政法人に対する貸付金、出資金です」
と答えた。
それに対して「それらを回収したらどうなるの」とさらに聞かれたので、
「民営化か廃止すれば回収ということになるが、それらへの天下りができなくなる」
と答えた。
このやりとりを聞いていた他の出演者は、CM中のほうがためになる話が多いといっていた。
実際に、番組中で言うつもりだったが、時間の都合でカットせざるを得なくなった部分だ。
借金1000兆円。
これは二つの観点から間違っている。
■バランスシートの左側を見てみれば…
第一に、バランスシートの右側の負債しか言っていない。
今から20年近く前に、財政投融資のALM(資産負債管理)を行うために、国のバランスシートを作る必要があった。
当時、主計局から余計なことをするなと言われながらも、私は財政投融資が抱えていた巨額の金利リスクを解消するために、国のバランスシートを初めて作った。
財政が危ういという、当時の大蔵省の主張はウソだったことはすぐにわかった。
ただし、現役の大蔵官僚であったので、対外的に言うことはなかった。
筆者の作った国のバランスシートは、大蔵省だからか「お蔵入り」になったが、世界の趨勢から、その5年くらい後から試案として、10年くらい後から正式版として、財務省も公表せざるを得なくなった。
今年3月に、2013年度版国の財務書類が公表されている(http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2013/national/hy2013_gassan.pdf)。
その2013年度末の国のバランスシートを見ると、
★.資産は総計653兆円。
そのうち、
現預金19兆円、
有価証券129兆円、
貸付金138兆円、
出資66兆円、
計「352兆円」が比較的換金可能な金融資産
である。
そのほかに、
有形固定資産178兆円、
運用寄託金105兆円、
その他18兆円。
★.負債は1143兆円。
その内訳は、
公債856兆円、
政府短期証券102兆円、
借入金28兆円、
これらがいわゆる国の借金で「計976兆円」。
運用寄託金の見合い負債である
公的年金預り金112兆円、
その他45兆円。
ネット国債(負債の総額から資産を引いた額。
つまり、
1143兆円-653兆円)は「490兆円」
を占める。
先進国と比較して、日本政府のバランスシートの特徴を言えば、政府資産が巨額なことだ。
政府資産額としては世界一である。
政府資産の中身についても、
比較的換金可能な金融資産の割合がきわめて大きい
のが特徴的だ。
なお、貸付金や出資金の明細は、国の財務書類に詳しく記されているが、そこが各省の天下り先になっている。
実は、財務省所管の貸付先は他省庁に比べて突出して多い。
このため、財務省は各省庁の所管法人にも天下れるので、天下りの範囲は他省庁より広い。
要するに、「カネを付けるから天下りもよろしく」ということだ。
■財政再建は、実は完了している?
第二の問題点は、政府内の子会社を連結していないことだ。
筆者がバランスシートを作成した当時から、単体ベースと連結ベースのものを作っていた。
現在も、2013年度版連結財務書類として公表されている(http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2013/national/hy2013_renketsu.pdf)。
それを見ると、ネット国債は451兆円となっている。
単体ベースの490兆円よりは少なくなっている。
ただし、この連結ベースには大きな欠陥がある。
日銀が含まれていないのだ。
日銀への出資比率は5割を超え、様々な監督権限もあるので、まぎれもなく、
日銀は政府の子会社
である。
経済学でも、日銀と政府は「広い意味の政府」とまとめて一体のものとして分析している。
これを統合政府というが、会計的な観点から言えば、日銀を連結対象としない理由はない。
筆者は、日銀を連結対象から除いた理由は知らないが、連結対象として含めた場合のバランスシート作ることはできる。
2013年度末の日銀のバランスシートを見ると、
★.資産は総計241兆円、
そのうち国債が198兆円である。
★.負債も241兆円で、
そのうち
発行銀行券87兆円、
当座預金129兆円である。
そこで、日銀も含めた連結ベースでは、
ネット国債は253兆円
である(2014.3.31末)。
直近ではどうなるだろうか。
直近の日銀の営業毎旬報告(https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2015/ac151220.htm/)
を見ると、
資産として国債328兆円、
負債として日銀券96兆円、当座預金248兆円
となっている。
直近の政府のバランスシートがわからないので、正確にはいえないが、あえて概数でいえば、
日銀も含めた連結ベースのネット国債は150~200兆円程度
であろう。
そのまま行くと、近い将来には、ネット国債はゼロに近くなるだろう。
それに加えて、市中の国債は少なく、資産の裏付けのあるものばかりになるので、ある意味で財政再建が完了したともいえるのだ。
ここで、「日銀券や当座預金も債務だ」という反論が出てくる。
これはもちろん債務であるが、国債と違って無利子である。
しかも償還期限もない。
この点は国債と違って、広い意味の政府の負担を考える際に重要である。
■滑稽すぎる 「日本の財政は破綻する」論
このようにバランスシートで見ると、日銀の量的緩和の意味がはっきりする。
政府と日銀の連結バランスシートを見ると、
★.資産側は変化なし、
★.負債側は国債減、日銀券(政府当座預金を含む)増
となる。
つまり、
量的緩和とは、政府と日銀を統合政府で見たとき、負債構成の変化であり、
有利子の国債から無利子の日銀券への転換ということだ。
このため、毎年転換分の利子相当の差益が発生する
(これをシニョレッジ〔通貨発行益〕という。
毎年の差益を現在価値で合算すると量的緩和額になる)。
また、政府からの日銀への利払いはただちに納付金となるので、政府にとって日銀保有分の国債は債務でないのも同然になる。
これで、連結ベースの国債額は減少するわけだ。
量的緩和が、政府と日銀の連結バランスシートにおける負債構成の変化で、シニョレッジを稼げるメリットがある。
と同時にデメリットもある。
それはシニョレッジを大きくすればするほど、インフレになるということだ。
だから、デフレの時にはシニョレッジを増やせるが、インフレの時には限界がある。
その限界を決めるのがインフレ目標である。
インフレ目標の範囲内であればデメリットはないが、超えるとデメリットになる。
幸いなことに、今のところ、デメリットはなく、実質的な国債が減少している状態だ。
こう考えてみると、財務省が借金1000兆円と言い、「だから消費増税が必要」と国民に迫るのは、前提が間違っているので暴力的な脅しでしかない。
実質的に借金は150~200兆円程度、
GDP比で30~40%程度だろう。
ちなみに、アメリカ、イギリスで、中央銀行と連結したネット国債をGDP比でみよう。
アメリカで80%、65%、
イギリスは80%、60%程度
である。
これを見ると、日本の財政問題が大変ですぐにでも破綻するという意見の滑稽さがわかるだろう。
以上は、バランスシートというストックから見た財政状況であるが、フローから見ても、日本の財政状況はそれほど心配することはないというデータもある。
本コラムの読者であれば、筆者が名目経済成長でプライマリー収支を改善でき、名目経済成長を高めるのはそれほど難しくない、財政再建には増税ではなく経済成長が必要と書いてきたことを覚えているだろう。
その実践として、小泉・第一安倍政権で、増税はしなかったが、プライマリー収支がほぼゼロとなって財政再建できた。
これは、増税を主張する財務省にとって触れられたくない事実である。
実際、マスコミは財務省の言いなりなので、この事実を指摘する人はまずいない。
さらに、来2016年度の国債発行計画を見ると、新規に市中に出回る国債はほぼなくなることがわかる。
これは、財政再建ができた状況とほぼ同じ状況だ。
こうした状態で、少しでも国債が市中に出たらどうなるのか。
金融機関も一定量の国債投資が必要なので、出回った国債は瞬間蒸発する。
つまり、とても国債暴落という状況にならないということだ。
何しろ市中に出回る国債がほとんどないので、
「日本の財政が大変なので財政破綻、国債暴落」
と言い続けてきた、デタラメな元ディーラー評論家(元というのは使い物にならなかった人たちということ)には厳しい年になるだろう。
■今の国債市場は「品不足」状態
2016年度の国債発行計画を見ると、 (http://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/fy2016/gaiyou151224.pdf)
総発行額162.2兆円、
その内訳は
市中消化分152.2兆円、
個人向け販売分2兆円、
日銀乗換8兆円
である。
余談だが、最後の日銀乗換は、多くの識者が禁じ手としている「日銀引受」である。
筆者が役人時代、この国債発行計画を担当していたときにもあったし、今でもある。
これは、日銀の保有国債の償還分40兆円程度まで引受可能であるが、市中枠が減少するため、民間金融機関が国債を欲しいとして、日銀乗換分を少なめにしているはずだ。
要するに、今の国債市場は、国債の品不足なのだ。
カレンダーベース市中発行額は147兆円であるが、短国25兆円を除くと、「122兆円」しかない。
ここで、日銀の買いオペは新規80兆円、償還分40兆円なので、合計で120兆円。
となると、
市中消化分は、最終的にはほぼ日銀が買い尽くすことになる。
民間金融機関は、国債投資から貸付に向かわざるを得ない。
これは日本経済にとっては望ましいことだ。
と同時に、市中には実質的に国債が出回らないので、これは財政再建ができたのと同じ効果になる。
日銀が国債を保有した場合、その利払いは直ちに政府の納付金となって財政負担なしになる。
償還も乗換をすればいいので、償還負担もない。
それが、政府と日銀を連結してみれば、国債はないに等しいというわけだ。
こういう状態で国債金利はどうなるだろうか。
市中に出回れば瞬間蒸発状態で、国債暴落なんてあり得ない。
なにしろ必ず日銀が買うのだから。
こうした見方から見れば、2016年度予算(http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2016/seifuan28/01.pdf)
の国債費23.6兆円の計上には笑えてしまう。
23.6兆円は、
債務償還費13.7兆円、
利払費9.9兆円
に分けられる。
諸外国では減債基金は存在しない。
借金するのに、その償還のために基金を設けてさらに借金するのは不合理だからだ。
なので、先進国では債務償還費は計上しない。
この分は、国債発行額を膨らせるだけで無意味となり、償還分は借換債を発行すればいいからだ。
利払費9.9兆円で、その積算金利は1.6%という。
市中分がほぼなく国債は品不足なのに、そんなに高い金利になるはずない。
実は、この高い積算金利は、予算の空積(架空計上)であり、年度の後半になると、そんなに金利が高くならないので、不用が出る。
それを補正予算の財源にするのだ。
■マスコミはいつまで財務省のポチでいるのか
このような空積は過去から行われていたが、その分、国債発行額を膨らませるので、財政危機を煽りたい財務省にとって好都合なのだ。
債務償還費と利払費の空積で、国債発行額は15兆円程度過大になっている。
こうしたからくりは、予算資料をもらって、それを記事にするので手一杯のマスコミには決してわからないだろうから、今コラムで書いておく。
いずれにしても、政府と日銀を連結したバランスシートというストック面、来年度の国債発行計画から見たフロー面で、ともに日本の財政は、財務省やそのポチになっているマスコミ・学者が言うほどには悪くないことがわかるだろう。
にもかかわらず、日本の財政は大変だ、財政再建が急務、それには増税というワンパターンの報道ばかりである。
軽減税率のアメをもらったからといって、財務省のポチになるのはもうやめにしてほしい。
』
【 参考 再録】
『
2015.11.10(火) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45215
債務の貨幣化:日本の解決策
経済的リスクの詰まったパンドラの箱、
それでも意外と悪くない?
(英エコノミスト誌 2015年11月7日号)
安倍晋三首相は最善を尽くしているが、
この先の日本経済は、未知の領域に突入することになるだろう。
「世界には4種類の国がある」と、ノーベル賞を受賞した経済学者のサイモン・クズネッツは言ったとされている。
その4種類とは、
1. 先進国、
2. 発展途上国、
3. アルゼンチン、そして
4. 日本
だ。
だがいまや、
先進国の多くは極めて日本的な様相を呈し、慢性的に低い金利とインフレ率、
そして涙が出るほど大量の公的債務を抱えている。
それゆえ、多くの国の政府は、日本の安倍晋三首相を注視している。
経済再生を掲げて2012年に就任した安倍首相は、日本の経済的な混乱に立ち向かっているところだ。
その任務は、多くの者が理解しているよりも難しい。
求められているのは、単なる成長ではなく、
膨大な公的債務に対処する力を日本に与えられるだけの急速な成長だ。
■安倍首相が放った3本の矢
安倍首相は、経済成長を推進する「3本の矢」――財政、金融、構造――により、歴代政権の中途半端な政策よりもずっと強力に景気を刺激すると公約した。
今年9月には、さらに明確に最終目標を示し、過去20年の間、500兆円前後で推移している日本の名目国内総生産(GDP)を、20%増の600兆円に引き上げると表明した。
安倍首相が放った矢は、経済を正しい方向に動かしてきた。
インフレ調整前の成長率を示す名目GDPは、2012年末から約6%増加した。
その増加のおよそ半分は、物価の上昇によるものだ。
失業率も4.3%から3.4%に低下した。
だが、この進歩は、まだ全く不十分だ。
経済回復は停滞しており、第2四半期にはマイナス成長となった。
物価は再び下落に転じている。
そして、日銀が今夏ひねり出した新たな消費者物価指数、「新コア」CPIでさえ、目標とする2%の物価上昇率に届かないままだ。
通常の金融政策への回帰は、相変わらず遠いように見える。
日銀は10月30日、資産買い入れのペースを上げずに市場を失望させたが、それでも毎年80兆円の国債を購入している。
インフレ率の低迷が続けば、その額はさらに増える可能性もある。
』
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