アメリカの利上げによって、日本は円高に振れて貿易の国際競争力に陰りが出てくる。
と、そう思ったのだが。
経済学者は違う見方をするようだ。
「とめどもない円安」
になるという。
どうしてそうなるのだろう。
円高で輸出が止まってしまうので円安誘導したのがアベノミクスというものではなかったか。
もし円安なら日本にとっては朗報になるのだが。
経済学者の言うことはほとんど信用しないほうがいい、というのが通常のセオリーだが。
あまりにオクラ入りの古臭い近代経済学によっているからだろうか。
理屈だけで経済が動くなら話は簡単なのだが。
理屈に合わせようと現実を斜に見るからだろう。
エライ先生はなかなか遺制に近い経済学から抜け出しにくいのだろう。
『
ダイヤモンド・オンライン 12月24日(木)8時0分配信 野口悠紀雄[早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
http://diamond.jp/articles/-/83744
アメリカの金融正常化で先進国は「勝ち組」と「負け組」に分かれる
アメリカが金融正常化に踏み切った。
その後に開ける新しい経済均衡は、どんなものになるのだろうか?
その中で、日本はどうなるのか?
IMFの予測では、日本の低成長が続くことが予測されている。
つまり、アベノミクスによっては、日本の低成長構造は改善されないのだ。
そして、
日本は、出口のない金融緩和と、
止めどもない円安
に引きずり込まれる
おそれがある。
こうした状態から脱却するには、経済政策の根本が見直されなければならない。
●世界経済が4つのグループに分かれる その中で日本が位置するのは……
アメリカの金利引き上げに対して、世界の株式市場は激しい値動きを示した。
日経平均株価も、連日、数百円単位の価格変動を記録した。
これは、金融正常化後の世界経済がどうなるかに関して、必ずしもコンセンサスが形成されていないことの反映だ。
一見したところ、世界経済は大きな不確実性に包まれている。
しかし、大きな方向を見通すことはできる。
それは、世界経済が次の4つのグループに分かれることだ。
第1グループは、
市場経済を活用する度合いが高い先進国、すなわち、
アメリカ、イギリス、アイルランドである。
これらが、「勝ち組」になる。
第2グループは、
経済活動への国家の介入度合が強い先進国、すなわち、
大陸ヨーロッパと日本である。
これらが、「負け組」になる。
第3グループは、新興国だ。
資源に依存する新興国は、資源価格の下落によって、すでに危機的な状況に直面している。
そして、
第4が中国だ。 これも危機的状況にある。
これらのうち、中国経済は、独自のメカニズムで動く側面が強く、アメリカの金融政策による影響もあまり大きくない。
そこで、この問題については別の機会に論じることとする。
以下では、先進国が2つのグループに分かれること、第1と第2グループが経済成長率と為替の両面において対照的な動きを示すこと、そして、新興国がアメリカ金融正常化によって大きな影響を受けることを指摘したい。
●アベノミクスの効果はなかった 日本の成長率は今後も改善しない
14年以降、アメリカ、イギリス、アイルランドは2%を超える高い成長率を示している。
IMFの予測によれば、2%を超える成長率は、今後も続く。
これに対して、ドイツは1%台の成長であり、今後も成長率が高まることはない。
日本の実質成長率は1%以下である。
14年以降の経済成長率は、図表1に示す先進諸国の中では最低であった。
そして、今後も改善しない。
◆図表1:先進国の実質GDP成長率
リーマンショック直後に、アメリカ経済が没落するとの見方が広がった。
しかし、成長率がより大きく低下したのは、アメリカではなく(あるいは、第1グループの諸国ではなく)、第2グループの諸国だったのである。
つぎに新興国を見ると、図表2のとおりだ。
中国の実質GDP成長率は、リーマンショック以前には10%を超えていた。
リーマンショック後も、需要喚起策が功を奏して、成長率が大きく落ち込むことはなかった。
しかし、その後、徐々に成長率が落ちている。
IMFの見通しでは、今後の成長率は6%台だ。
ブラジル、ロシアという資源国は、リーマンショック前に5%を超える高い成長率を示していた。
リーマンショックで落ち込んだが、すぐに回復した。
しかし、その後、成長率は低下し、15、16年には両国ともマイナス成長になる。17年以降はプラスになるが、成長率は1~2%という低い値にとどまる。
◆図表2:新興国の実質GDP成長率
●アメリカが金融正常化するのは 実体経済が強いから
アメリカは、今後、金融正常化を進める。
これは、上で見たように実体経済が強いからだ。
そうした状況下で金融緩和を続ければ、投機を煽るだけの結果になる。
アメリカの金融緩和政策(とくにQE2とQE3)は、アメリカ経済を活性化したというよりは、世界的な投機をもたらした。
資源価格も、投機によって上昇していた側面が強い。
しかし、金融正常化は、投機資金の調達を難しくする。
このため、投機がやりにくくなる。
こうして、原油価格が低下した。
金融正常化が原因なのだから、それは一時的なものではない。
原油価格は、今後も低位安定を続けるだろう。
イングランド銀行の基本的な政策方向も利上げである。
ただし、その開始は、2016年の後半になると見られている。
これに対して、日本とユーロは、金融緩和から脱却できない。
これは、実体経済が悪いからである。
以上で見たように金融政策の方向付けが正反対であることは、為替レートに甚大な影響を与える。
図表3には、BIS(国際決済銀行)による主要通貨の名目実効レートを示す。
日本円の減価は12年夏から始まっており、その後、最も大きく減価した。
ユーロは14年初めまで増価し、その後、減価した。
円もユーロも15年夏頃から増価している。
これに対して、英ポンドは13年初めから一貫して増価している。
米ドルは14年秋頃から増価している。
このように、日欧は、経済が弱いために金融緩和をとらざるをえず、その結果、為替が減価する。
◆図表3:先進国通貨の名目実効レート
●通貨安では経済は改善しない 重要なのは市場機能の活用
重要なのは、通貨安と金融緩和に頼る第2グループ諸国の経済パフォーマンスが改善していないことである。
図表1に示したのが、そのことだ。
先に、第2グループを「負け組」と言ったのは、そのためだ。
ここでドイツとアイルランドの違いに注目しよう。
両国ともユーロ構成国なので、為替レートからは同じ影響を受けている。
しかし、図表1に見るように、アイルランドの成長率はドイツのそれよりずっと高い(アイルランドは、住宅バブルの崩壊によって一時は経済危機に陥ったのだが、それからは完全に回復したわけだ)。
アイルランドは、アメリカやイギリスと同様に、市場経済志向が強い国である。
つまり、図表1が示すのは、成長にとって重要なのは、通貨安ではなく市場機能の活用だということである。
ところで、日本にとって最大の関心事は、今後の為替レートがどうなるかである。
常識的な見方によれば、アメリカが利上げをして日本が金融緩和を継続するので、今後も円安が続くということになる。
ただし、今後の為替レートを考えるに当たっては、つぎの諸点に留意が必要だ。
第1に、マーケットが上で述べたような傾向をすでに価格に反映してしまっている可能性が強い。
そうであれば、日米金利差が拡大しても、円安が進むことはない。
第2に、アメリカとの金利差が開くといっても、差はそれほど大きくはない。
また、日本の金利がアメリカに引かれて上昇することもありうる。
第3に、新興国の通貨が減価する結果、実効レートで見れば円高になる可能性がある。
実際、上に述べたように、円もユーロも15年夏頃から増価している。
資源価格の低下は、新興国経済の状況を著しく悪化させる。
実際、新興国では、利上げと通貨安が発生している。
資源国通貨の名目実効レートは、図表4に示されている。
リーマンショック後、11年頃に最高値になり、そのあと下落しているのが分かる。
とくに、テイパリングが示唆された13年以降の減価が顕著だ。
15年9月にアメリカが金利引き上げを延期したのは、アメリカ経済に対する影響を考慮したというよりは、新興国経済への影響を考慮した結果であった。
◆図表4:資源国通貨の名目実効レート
●日欧で通貨安が望まれるのは 産業構造が古いから
30年前のプラザ合意の際には、自動車産業がアメリカの中心産業だった。
だから、アメリカはドル安を望んだ。
しかし、いまは違う。
アメリカのIT関連企業は世界的な業務展開をしているので、ドル高になれば海外からの収入がドル建てで減少する。
しかし、それよりは、新興国等の労働力を安く使えるようになることの利点のほうが大きい。
世界的な事業を行なっているのであれば、為替レートの変化によって事業全体の数字が大きく左右されることはない。
日本でもヨーロッパでも通貨安が望まれるのは、国内労働力によって生産し、それを輸出するという製造業が主要産業であるためだ。
ところが、現実には、円安が進み、原油が下落したにもかかわらず、日本の貿易赤字は拡大した。
世界の輸出市場の状況が非常に悪く、また日本の輸出の競争力が低下しているためである。
今後、円安が進んでも、新興国経済が混乱し、中国経済が減速するため、日本の輸出は減少し続けるだろう。
なお、円安によって海外からの旅行者が著しく増加している。
しかし、円安が定着すれば、輸入物価が上昇して国内価格が上昇するため、海外旅行者にとって、とくに日本が有利ということにはならない。
むしろ日本にとって問題なのは、円安が長期的な傾向として定着することだ。
それは、日本国内の生産要素(とくに労働力)の価値が下がることを意味するのである。
●緩和補完措置で歪みが拡大 ますます出口が見えない日銀
日本の金融政策の主たる目的は、国債を買い支えて、その価格暴落を防止することだ。
この目的は達成されている。
しかし、その結果、膨大な残高の国債が日本銀行に蓄積されている。
仮に価格が下落すれば、日銀に巨額の損失が発生する。
したがって、量的緩和政策を停止することができない状態だ。
日銀は、12月18日の金融政策決定会合で、緩和の現状維持を決め、さらに補完措置としてつぎの2つを決めた。
第1は、長期国債買い入れの平均残存期間を拡大すること。
第2に、指数連動型上場投資信託(ETF)について、現在の年間3兆円の買い入れ枠に加え、新たに年間3000億円の枠を設けること。
このようにして、日銀は、将来値下がりの危険がある資産をバランスシートに積み上げていくことになる。
ETF購入の増大は、国を買い支えるという政策から、企業を支える政策に踏み込んだことを意味する。
この点で、これまでの量的・質的緩和とは性格が異なるものだ。
さらに日銀は、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業の株式を含むETFを対象とするとした。これは、中央銀行が個別企業の経営に口出しすることを意味するものだ。本来あるべき中央銀行の政策の範囲を大きく逸脱している。
金融緩和政策からの出口は、ますます遠ざかっている。
●本当に必要なのは社会保障制度改革 刹那的な経済政策から脱却できるか
現在の日本で本当に必要なのは、高齢化時代に備えて社会保障制度を維持可能なものにすることである。
これは、年金、医療、介護のどの分野でも必要だ。しかし、どの分野でも大変難しい課題である。
最低限必要とされるのは、労働力と財政に関する見通しを作成することだ。
政府の財政収支試算がいかなる社会保障政策を前提にしているのかは、明らかでない。
しかし、「新しい3本の矢」で示された「介護離職ゼロ」などの新しい政策を反映していないことは明らかである。
したがって、それに見合って財政収支試算を改定する必要がある。
しかも、政府の財政収支試算には、2023年度までしか示されていない。
しかし、実は、その先が問題なのだ。
いま、一時的に税収が増え、財政収支が好転している。
このため、新規国債発行が減額されて、問題が見えなくなっている。
財政赤字に対する危機感がきわめて弱くなっている。
そのため、参議院選挙目当てのばらまき政策しか行なわれていない。
補正予算では、65歳以上の高齢者で住民税が非課税の人を対象に、来年春以降、1人当たり3万円が配られる。
このように、何のためかがはっきりせず、長期的見通しを持たない刹那的な政策が行なわれている。
16年は、新しい均衡に向けて世界経済が調整していく年になるだろう。
そのなかで、日本が現在の状態から脱却できることを期待したい。
』
「円高に振れる」というのが現場の感触のようだ。
『
ロイター 2015年 12月 22日 19:16 JST 内田稔三菱東京UFJ銀行 チーフアナリスト
http://jp.reuters.com/article/column-minori-uchida-idJPKBN0U50I520151222?sp=true
コラム:円安、ついに終わりの始まりか=内田稔氏
[東京 22日] -
2015年の主要通貨のパフォーマンスを振り返ると上位2通貨は、ドルとスイスフランとなり、第3位に円が続く。
むろん、ドルは正常化観測から独歩高となった通貨であるし、スイスフランは1月の突然の為替介入打ち止め宣言を受け、全面高となった経緯がある。
これに対し、日本では異次元緩和が続いたが、ドルとスイスフランを除く全ての主要通貨に対して円高が進んだ。
そのドルとスイスフランに対する円の下げ幅もわずか1%台と限定的だ。
この事実は、金融政策の格差が、為替相場を占う上で絶対的なものではないことを示している。
いよいよ米国の利上げが始まったことで、感覚的にはドル高円安が進むとの見方に傾きがちだ。
しかし、日米の金融政策、日本の国際収支構造の変化、世界的な通貨の勢力図などを勘案すると、16年はドル安円高への警戒が一段と必要になってきたと考えられる。
■<金融政策はドル高円安を必ずしも示唆せず>
12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における政策金利予想分布図(ドットチャート)の中位値は、16年の利上げペースとして年4回を示唆した。
一方、市場は、利上げ回数を2回かせいぜい3回としかみていない。
この12月、利上げ後にかえってドル安円高が進んだ通り、利上げ自体は必ずしもドル円上昇を意味しない。
このため、一段のドル高には、市場予想も年4回ペースでの利上げ予想へと収れんする必要があろう。
ただし、景気回復が始まってからすでに7年目に入っている米国経済の勢いは鈍る可能性が高く、やはり利上げはあっても2回程度にとどまろう。
金融政策面から生じるドル高は次第に勢いを失うだろう。
また、仮に市場が利上げペースの加速を織り込む場合も、2―3回の利上げしか見込んでいない米国の株式相場は軟調に推移する可能性が高い。
それが円買いを通じてドル円上昇を抑制しよう。
さらに、その利上げペースの加速を織り込む理由が、仮に米国のインフレ率の高進だとすれば、ドルの実質金利上昇が抑制され、やはりドルは上がりにくいだろう。
一方、日銀は18日に、「量的・質的金融緩和を補完するための諸措置の導入」を決定した。
今後の円滑な資産買い入れを促す追加緩和への布石との見方も成り立とう。
しかし、長期国債の買い入れの平均残存期間を伸ばしておきながら、追加緩和ではないとの説明を含め、その意図や真意のわかりにくさは否めない。
そもそもすでに毎月10兆円規模の国債買い入れを行っており、国債の3割以上のシェアを占める日銀にとって、フロー(流動性)、ストック(日銀の国債保有残高)の両面で、国債の買い増し余地は無限ではない。
仮に追加緩和を講じる場合も、国債の買い入れ増額は、14年10月の追加緩和時を大幅に下回るか、国債以外の資産買い入れがその柱となる可能性が高い。
そうなれば、市場は日銀の緩和拡大余地への疑念を強め、為替市場での円安効果も限定的となろう。
そればかりか、大した円安が進まないという値動きを投資家が目の当たりにした後、市場の失望感が増幅され、円高圧力として跳ね返る可能性にも十分な注意が必要だ。
日米の金融政策の格差は、必ずしもドル高円安を指し示しているわけではないだろう。
■<じわりと増す経常黒字の円高圧力>
金融政策に次ぐ論点として、日本で急拡大した経常黒字をどのように評価するかが挙げられる。
多くの通貨に対し、円高が進んだ通り、経常黒字の拡大による円高圧力はすでに着実に増したと言える。
ただし、旺盛な対外投資による円売りによって、ドル円でのドル安円高がかなり抑制されたのも事実だろう。
16年を展望すると世界で突出した対外純資産を持つ日本では、配当金の集積である第1次所得収支の黒字が拡大基調を維持しよう。
よほど資源価格が急騰し、貿易赤字が急拡大でもしない限り、日本の経常収支黒字は来年も今年と同程度の年間15―20兆円規模を維持すると思われる。
一方、対外投資のうち、直接投資と中長期債投資は、ある程度の規模を維持しようが、より円売りへと結びつきやすい株式・投資ファンド持分はかなり減少するだろう。公的年金は、遅かれ早かれ当初定めた目標付近へと残高を積み増し終えるとみられ、相場急変時のリバランスを除けば、様子見姿勢を強めることが考えられる。
また、多くの通貨ペアで円高が進んだことから、個人投資家が被った為替差損も小さくないとみられ、こちらも様子見姿勢を強めよう。
このため、16年は経常黒字による円高圧力が、15年よりもさらにじわりと増すとみられる。
為替市場全体としてみれば、日本の経常収支の黒字は決して大きくないが、金融政策同様、市場参加者の期待形成に働きかける部分も勘案すれば、やはり経常黒字は円高圧力となるだろう。
■<ドル円は来年115円割り込む展開も>
もう1つの重要な論点は、中国など新興国要因だ。
まず中国は、国際通貨基金(IMF)による人民元の特別引き出し権(SDR)への組み入れが決まり、16年10月頃を念頭に資本規制の緩和を進めるとみられる。
このことは、これまで封じ込められてきた
ドル高人民元安圧力が強まる可能性を示唆する。
実際、直近では11年以来となる対ドル6.50付近へとドル高人民元安が進んだ。
また、事実上の切り下げを実施したアルゼンチンが、ブラジルを含めて、周辺国の通貨安志向を刺激する可能性も高い。
中東では、原油価格の低迷とドル高が進み、一段とディスインフレ(物価上昇率の鈍化)圧力が強まると見込まれ、常に通貨切り下げの可能性を念頭に置く必要がありそうだ。
これら全てのしわ寄せは、ドル高へと向かうため、米国の低インフレが助長され、米国の利上げペースを鈍化させよう。
こうしたドル高は、一見するとドル円でのドル高材料ともみられがちだが、そうではないだろう。
今年の夏場がそうであったように、こうした新興国通貨に対するドル高は、新興国からの資本の流出観測へとつながり、リスクオフの雰囲気を強めやすい。
このため、ドル円においては、むしろ円買いが勝る傾向が強い。
16年もドルは新興国通貨などに対しては、まだ強さを維持する可能性は残る。ただし、ともに上位に位置するドルと円の強弱関係に変化が起こる可能性が高い。15年の円相場は、多くの主要通貨に対して円高が進み、すでに円安の終わりが始まったとも言えるのだが、16年はいよいよ本丸であるドル円についても、円が反発する可能性が高まっていると考えられる。16年のドル円は年末にかけて115円を割り込み、110円も視界に捉える展開を予想する。
*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年、14年と個人ランキング1位。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
』
『
東洋経済オンライン 2015年12月31日 大崎 明子 :東洋経済 記者
http://toyokeizai.net/articles/-/98853
円高ドル安が進み、2016年末は112円になる
円安?円高?円高と見るプロの論理
2015年12月16日、FRB(米国連邦準備制度理事会)はついに利上げを行った。
2016年のFRBの利上げペースがどうなるのか、ドル円相場はドルが強くなるのか、円が強くなるのかについては、見方が分かれている。
三菱東京UFJ銀行の内田稔チーフアナリストに見方を聞いた。
●内田稔(うちだ みのり)/1993年慶応義塾大学法学部卒、東京銀行入行。外国為替のトレーディングやセールスを経て2007 年から外国為替のリサーチを担当。2010 年シニアアナリスト、2012 年05 月より現職
――ようやくFRB(米国連邦準備制度理事会)による最初の利上げがありましたが、2016年のドル円相場をどう見ていますか。
一貫して、1ドル=125円ぐらいが円安の限界という見方をしている。
ポイントは2つある。
一つめは、米国経済の独り勝ちがそんなに長く続かないのではないかということ。
世界の経済が全体に弱い中で、米国だけが利上げをすれば、ドル独歩高になるので、結局はこれがアメリカ経済を下押しする。
二つめは日本円がそんなに弱い通貨ではなくなるだろうということ。
原油安などによって、日本の経常黒字が再び急拡大してきたためだ。
2016年のドル円相場は1ドル=112~126円のレンジで、現在は底堅い動きではあるが、2016年末にかけて緩やかにドル安円高が進んでいくと見ている。
◆円は経常黒字の急拡大で強くなっている
――中長期のトレンドとして円高に転換するということでしょうか。
2013年は日本銀行のQQE(量的質的緩和)が始まり、やはり円全面安となった。
2014年は円安の度合いは薄まってきて、例えば、スウェーデン・クローナが円に対して値下がりしたが、全般に円安となった。
これが2015年はほぼすべての通貨が円に対して値下がりし、円全面高に転じている。
かろうじてドルだけは円に対して上昇したが、年初が119円60銭、足元が121円なので、1%程度の上昇に過ぎない。
2015年に円が強くなった背景は経常黒字の急拡大に加え、ECB(欧州中央銀行)のマイナス金利政策でユーロのほうが弱くなったこと、さらに、世界経済全体が冴えない中で、米国の利上げが始まったことがある。
世界のGDP(国内総生産)が伸びない中で米国が利上げに転換するのは初めてのことだ。
これが、経済にいろいろなストレスをもたらし、市場がリスク回避の円買い動く局面が頻発した。
2016年もそうした場面が増えてくると思われる。
――円はもはや弱い通貨ではないということですね。
2012年の円安転換は経常黒字の減少が背景にあった。
それと、日銀の金融緩和への期待。
だが、足元ではどうかといえば、追加緩和への期待は残っているが、毎月約10兆円も国債を買っており、買い増し余力は低くなっている。
もう一段の円安株高を演出するのは難しい。
2015年12月のECB(欧州中央銀行)理事会では追加緩和が市場の予想の下限のレベルにとどまってしまったために、失望からユーロ高になってしまった。
日銀が追加緩和を行っても、同様の動きとなるおそれがある。
問題は市場がその値動きを見てしまうと、黒田バズーカ=円安という神通力が失われてしまい、黒田総裁就任以前のように、バズーカは撃てず、“緩和したらかえって円高”ということになりかねない。
2015年は日銀がこれだけ通貨を供給していながら、ほぼすべての通貨に対して円高になったように、マネタリーベースの拡大が機械的に円高をもたらすわけではない。
ECBもマネタリーベースを拡大しているが、ユーロはじわっと上がっている。
◆日銀の追加緩和はむしろ失望売りを誘う
――量的緩和の効果は失われているということですね。
量的緩和が波及する経路は、
(1):名目金利が下がる、
(2):期待インフレ率が上がる、
(3):通貨安期待が高まる、
の3つ。
名目金利については、もう下げ余地がない、期待インフレ率については、日銀も困っていると思うが、原油価格が下げ続けていることでむしろ低下している。
円安期待も以前よりは薄れてきている。
追加緩和はむしろ市場の失望を誘う可能性のほうが高まっている。
日銀の緩和=円安とはなりにくいだろう。
――FRBの利上げペースはどう見ていますか。
FOMCのドットチャートは年4回を示しています。
時間が経つにつれて、たいして利上げはできない、という見方が強まっていくだろう。
2016年3月も微妙だ。FF金利先物は2.5回を織り込んでいる。
私はあと2回できるかどうか、という見方だ。
3月か6月にできるかどうか。
時間を追う毎に難しくなるだろう。
9月は大統領選挙(11月)に時期が被るので難しい。
あとは2016年12月にできるのかどうか。
◆米国の労働市場に陰り、利上げは進まず
――アメリカの経済はそれほど強くないということですか。
現状については、ドル高の影響で製造業は厳しいが、内需向けの非製造業がよいといわれている。
内需は労働市場の改善と株高による資産効果が支えてきた。
しかし、注目すべきは労働市場に少し陰りが出てきていることだ。
FRBが作成している19の労働市場関連の指標から編み出す「労働市場情勢指数」(LMCI)は、プラスなら改善マイナスなら悪化というもので、景気がよいときはプラス4~5とされる。
しかし、2015年に入ってからは、これが一段低下して、1月のプラス3台が最高で、あとはマイナスをつけたり、足元でも1台で推移している。
2016年は労働市場の改善度合いが鈍くなり、毎月の非農業部門就業者数の増加が20万人を超えるのは難しくなってくるだろう。
2015年も10月が27万で11月分は21万人と減った。
2013年も2014年もクリスマス商戦などで盛り上がる11月は10月を上回っていた。
この辺りからも陰りが出ていることがうかがえる。
2016年は株価もあまり上昇が期待できない。
米国の株はITバブル崩壊後、だいたい予想PER(株価収益率)18倍が上値のメドとなっており、ほぼ天井に来ている。
企業業績がよくなってEPS(一株当たり利益)が上がればPERは横ばいでも株価は上がるが、企業の収益自体が2015年7~9月期は6年ぶりの前年同期比マイナスを記録した。
ドル高とエネルギー価格下落が響いている。
2004年以降、利上げを続けても株価が上がり続けた、という指摘があるが、当時の株高を牽引したのはエネルギーセクター。
エネルギー価格が上昇し、エネルギーセクターの株価が2倍3倍と上がっていったことが大きい。
加えて、金融セクターも元気よかった。
だが、今回金融規制が強化され、金融セクターも元気がない。
そもそもQE3(量的緩和第3弾、資金供給の拡大)をやめた時点ですでに株価は上がらなくなっている。
労働市場の改善ペースが鈍り、株価も上がらないとなれば、頼みの消費は勢いを失ってくるとみている。
米国経済全体の勢いも落ちるだろう。
FOMC見通しは2016年の実質GDP成長率を2%台半ばと見ているが、私は2%に届かず1%半ば~2%とみている。
利上げのペースは限られる。
たいした利上げができないとすれば、ドルはもはや弱くない円に対してどんどん強くなるということがない。
むしろ現状ではややドル高が行きすぎており、調整が始まる。
――ドル円はどの当たりに落ち着くのでしょうか。
日米間の実質金利差とドル円は相関が高い。
その関係から、逆算するとドル円の推計値は110円を下回る。
そもそも10円ぐらいドルが高いということだ。
この乖離は期待感によるものといえる。
一方、期待感を表す指標として、通貨オプションのリスクリバーサルが参考になる。
ドル高円安期待が高ければ、ドルコール円プット需要が高まり、逆なら、ドルプット円コール需要が高まる。
夏場以降、ドルプット円コールへの需要が後退しており、この指標を見ると、ドル高円安への期待値が徐々に低下していることが分かる。
◆外国株への投資が慎重になり円売り弱まる
経常黒字を重視する見方と関係ないという見方あるが、これは程度問題だ。
実際に2015年は円高が進んでおり、影響はあるといえる。
だた、需給面では、日本から海外への投資による円売りも出ていたので円高が抑えられた面はあっただろう。
これが2016年にどうなるかといえば、海外への投資による円売りは弱まるとみている。
海外への投資は、直接投資と証券投資とがあり、企業のM&Aなどの直接投資は2016年も継続するだろう。
証券投資の中身は株式と中長期債券に分けられる。
昨年はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの公的年金と個人投資家による外国株への投資が大きく伸びた。
株の投資はハイリスクハイリターンを狙って為替ヘッジを行わないため、これによる円売り効果は大きかった。
だが、GPIFはもう基本ポートフォリオの見直しによる株の比率の引き上げをほぼ終えており、2016年は様子見になるだろう。
個人投資家も2015年が円高になったので慎重になるだろう。
運用難の生命保険会社による中長期債券への投資は継続すると思われるが、これは為替ヘッジを行うため、大きな円売りとはならない。
』
『
現代ビジネス+ 2015年12月27日(日) 真壁 昭夫
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47136
2016年は「円高ドル安」の年になる?
~円安に支えられてきた日本経済を襲うリスク
12月16日、米FRBが約9年半ぶりに利上げに踏み切った。
それに伴いFOMC参加者の多くは2016年に4回の利上げを予想する一方、イエレン議長は慎重かつ緩やかに金融政策を正常化する意向を示した。
新規失業保険申請件数などを見る限り、今のところ米国の雇用環境は堅調だ。
市場参加者の中には、先行きのドル高を期待する向きは多い。
しかし、FOMC利上げ決定の後、ドルは主要通貨に対して下落した。
円も対ドルで120円台まで上昇した。
消費動向等を見ても、米国経済が堅調さを維持できるか不安が残る。
2016年は、ドル安・円高が進むリスクがあると見るべきだ。
■理論とは違った動きを見せた市場
足許、米国でFRBの再度の利上げ観測があるにも拘らず、ドルは主要通貨に対して下落している。
この動きを見ると、必ずしも金融政策が為替相場の流れを規定するメインファクターであるとは言えなくなっている。
過去1年を振り返ると、円は、ユーロ、ポンド、豪ドル、加ドルなどに対して上昇した。
ドル・円の相場を見ると、6月に125.6円台まで円安が進んだ。
その後は円が上昇し、為替レートは120円台の水準にある。
これは2014年末の水準とほぼ同じだ。
この間、市場参加者の多くは、わが国景気が弱含めば日銀が追加緩和を打ち出すと期待していた。
一方、米英では利上げへの関心が高まった。
内外の金融政策の方向性を考えると、理論的には円の減価が進むはずだ。
しかし、市場は金融政策の方向性とは異なる方向に動いた。
現状、金融市場は、FRBが2016年に2~3回の利上げを実施すると予想している。
市場の予想はFOMCの内容よりも控えめだ。
市場がFRBは想定以上にタカ派だと受け止めるならば、早期に利上げ期待の修正が起きる可能性はある。
それにも拘らず、利上げ後米国の金利は低下している。
それは、市場がFOMCの予想の実現可能性に疑問を持っているからだろう。
この状況が続く限り、金融政策が為替相場の動向を規定するとは言いづらい。
つまり、先行きもドルが上昇するとは限らない。
■2016年、日本経済の地力が試される
今後、円安傾向が一段と進むことを期待することには慎重になった方がよい。
わが国の経常収支黒字の累積も円高を誘発しやすい。
すでに経常収支は10月まで16ヵ月連続で黒字だ。
海外子会社からの配当金などで構成される第一次所得収支は増加基調をたどるだろう。
これは、国内のドル売り・円買いニーズがあることを意味する。
米国や中国の景気が堅調に推移するならば、円安期待も高まる可能性はある。
しかし、米国の不安定な製造業、中国の過剰な生産能力を踏まえると、世界経済に過度な強気展望を描くことは難しい。
特に米国の景気動向は不安定だ。
シカゴ連銀全米活動指数、ISM製造業景気指数など予想外に弱いものが増えている。
米国の家計は消費よりも貯蓄を優先し、貯蓄が増えている。
一方、家計の支出は低調だ。
これでは物価が上昇しづらいのも無理はない。
米国の景気回復のペースは徐々に低下しやすくなっている。
そのため、利上げがドル高の支えになるというのは、早計とみる。
日銀の“補完措置”の後、為替相場は円高に振れた。
徐々にドル高の流れがピークアウトし、円などの通貨が買われやすくなっていることは慎重に考えるべきだ。
円高はわが国の景気に大きな影響を与える。
これまでの景気回復の大部分は円安に支えられてきた。
2016年は、その回復がどの程度盤石なものなのか、円高への抵抗力という点でわが国の実力が試される局面が到来するかもしれない。
』
『
ロイター 2015年 12月 25日 13:15 JST 竹中正治:龍谷大学経済学部教授
http://jp.reuters.com/article/column-masaharutakenaka-idJPKBN0U718S20151225?sp=true
コラム:新興国通貨の対ドル下落はまだ序の口=竹中正治氏
[東京 25日] -
2014年下期以降、主要な新興国の通貨は米ドルに対して大幅に下落してきた。
しかし、これはまだ下落の序曲かもしれない。
その可能性は十分にある。
その場合、ドル超低金利時代にドル負債を膨張させ、自国通貨などに転換して投資していた新興国の企業や諸機関は一層の為替損失増加に追い込まれる。
それが通貨・金融危機として激発的な形で実現するか、あるいはボディーブローのように新興国経済の足を引っ張るか、どちらのシナリオになるかはわからないが、大きなリスク要因として注目しておこう。
とりわけ、日本ではブラジルレアルやトルコリラの高金利につられて、こうした通貨の対ドル買い持高(ロングポジション)を組み込んだ投信などが、過去大量に個人向けに販売されてきた。
こうした投信は基準価格の下落ですでに大幅な含み損を抱えているが、損失はまだ膨らむ公算が高いと思う。
■<実質ドル相場指数が示唆するドル一段高の余地>
まず主要新興国通貨の対ドル相場の現状を確認すると、2014年6月末から現在(12月18日引値)まで、各通貨の下落率は大きい順に次の通りだ。
ロシアルーブル 109%、
ブラジルレアル 80%、
トルコリラ 37%、
インドネシアルピア 17%、
インドルピー 10%、
中国人民元 4.5%。
これほど対ドルで下落しているのにまだ下落する公算が高いと思うのはなぜか。
それはこれら途上国通貨の相場は2010―14年前半の時期に割高過ぎたからだ。
これまでの急落はこれら通貨の割高修正を意味するだけの可能性がある。
通貨の割高・割安は2国間のインフレ率を調整した実質で見ないとわからない。
主要通貨に対して米国の貿易シェアで加重平均されたドル相場指数を、米連邦準備理事会(FRB)は名目ベースとインフレ率調整後の実質ベースの双方で公開している。
さらに名目と実質の双方について、主要通貨ベース(Major)と広域通貨ベース(Broad)の2種類が公開されている。
前者は、海外の外為市場で自由に売買できる国際通貨から構成されており、円、ユーロ、英ポンド、カナダドル、スイスフラン、オーストラリアドルなど主要先進国通貨に対するドル相場指数だ。
一方、後者は、米国の貿易シェアで主要な部分を占める先進国から途上国までの通貨(現在26通貨)で構成される広範囲のドル相場指数である。
実質相場指数とは、相対的購買力平価からの市場相場の乖(かい)離度を指数化したものだ。
市場相場(名目相場)が相対的購買力平価からかい離と回帰を長期的に繰り返す限り、実質相場指数は長期の平均値を中心にかい離と回帰を繰り返すことになる。
途上国通貨だけを対象にしたドル相場指数はないのだが、新興国通貨を含んだ実質ベースのドル相場指数Broad(新興国通貨のウエイトは最近時点で46%)を見ると、2010年から14年前半までの時期は長期の平均値を大きく下回ったドル安・他通貨高だったことがわかる(下の掲載図、赤線が実質ベース)。
とりわけ09年後半から11年にかけて急騰している。
図中に示した黄色い水平の点線は1973年以来の実質ドル相場指数Broadの平均値だ。
上下の平行の黄色い線は、平均値から1標準偏差かい離した水準であり、ドル指数は3分の2の確率で上下の平行線の中に収まっていることを示している(平均値からプラス・マイナス1標準偏差の間に全体のデータの約68%が含まれる)。
2015年11月の水準は長期の平均値からわずか3%ドル高・他通貨安なだけである。
ちなみに、同実質指数で見た2000年代のドル高のピークは02年2月であり、長期平均値からのドル高方向へのかい離率は17.8%、また1973年以降のドル高のピークは85年5月で、かい離率31.5%である。
今後ドル金利が穏やかながらも上昇を続ける一方、BRICSブームの終焉による新興国経済の相対的不振が続くならば、ドル相場の上昇余地(新興国通貨の下落余地)はまだ大きいと判断した方が良いだろう。
また、個別通貨ごとに対ドルの実質相場指数(消費者物価指数ベース)と、その1995年以降の長期平均値を計算すると、12月21日時点でトルコリラは長期平均値より3%のリラ安(過去最大のかい離幅は81%のドル高リラ安)、同じくロシアルーブルは17%のルーブル安(過去最大80%)、ブラジルレアルは30%のレアル安(過去最大60%)である。
ブラジルレアルはある程度レアル安・ドル高に振れていると言えそうだが、トルコリラとロシアルーブルの通貨安方向への振れはまだ「微温」な程度にとどまっている。
ちなみに、先進国通貨だけからなるドル相場のMajor指数は、これまでの円やユーロなどに対する大幅なドル高の結果、実質ベースでは長期平均値からすでに14%ドル高・他通貨安になっており(11月現在)、Broad指数よりドル高への振れが大きい。Major指数もまだドル相場が上昇する可能性はあるが、その上昇余地は新興国通貨を含むBroad指数に比べると限られていると見るのが自然だろう。
とりわけドル円相場について言うと、
120円台前半の相場は実質ベースで1980年代前半の超ドル高時代の水準をすでに上回る変動相場制移行以来で最大の円安オーバーシュートの水準にある。
市場参加者をリスク回避に走らせるような何かしらのショック(米国景気の不振、大型新興国の金融危機など)が起これば、
円ショートポジションの巻き戻しで短期的にも円高に揺れ戻す可能性が高い。
■<ドル高に脆弱な国はどこか>
では、ドル相場の上昇に対して最も脆弱なのはどの国か。
それはこれまでのドルの超低金利に誘われて債券発行やローンの形でドル負債を増加させ、自国通貨などに転換してバランスシートをドルショートに傾けている企業や機関の多い国である。
市況解説などでは「ドル金利の上昇が途上国のドル債務者の資金コストを増加させる」と金利コストに注目したコメントが目立つが、
問題は1%やそこらの金利上昇ではなく、ドル高に伴う莫大な為替損の発生である。
2015年10月の国際通貨基金(IMF)の調査レポート(Global Financial Stability Report)によると、14年末時点で
国内総生産(GDP)に対する信用総残高が過去のすう勢的な水準から大きく上昇している(信用膨張過多懸念の)新興国は、その程度の大きい順に、
中国、
タイ、
トルコ、
ブラジル、
インドネシア、
マレーシア
である。
また、企業部門の負債に占める外貨建て負債比率の高さで見ると、
★.外貨負債比率50%超がハンガリー、インドネシア、メキシコ、
★. 30%から50%未満がチリ、トルコ、ロシア、ポーランド、
★. 10%から30%がフィリピン、ブラジル、南アフリカ、マレーシア、タイ、インド、中国
である。
このようにして見ると、双方の上位にランクされる
トルコ、
ブラジル、
インドネシア
などがドル高の際に金融的に最も脆弱であると言えるだろう。
中国は信用膨張過多懸念ではトップだが、企業部門の債務に占める外貨建て比率は10%で、相対的に低い。
ただし、負債の規模自体が大きいので、外貨負債残高では上位にランクする。
また、資産サイドに注目すると、資産に占める天然資源事業関連の比率が大きい産業・企業を有する国(ロシア、ブラジルなど)は、世界的な天然資源価格の下落で大きな損失に直面し、すでにGDPはマイナス成長だ。
■<激発性の新興国危機は回避されるか>
最後に新興国通貨相場の下落が1997―98年のアジア通貨危機型の危機を引き起こす可能性について考えてみよう。
当時、タイ、マレーシア、インドネシアなど東南アジア諸国連合(ASEAN)主要国で、自国通貨建てローンに比較して金利がはるかに低かった短期のドル建てローンで資金調達し、そのドル資金を自国内の投資に充当する取引が急増した。
これは財務上のドル建て負債(ドルショート持高)の膨張を意味した。
その点を見透かしたヘッジファンドなどが当該諸国の通貨売りを仕掛け、各国通貨相場が下落し始めたのが危機の始まりだった。
自国通貨安・ドル高の動きが、大きくドルショートに傾いていた企業や機関を慌てさせ、彼らは為替損失を回避するためのドル買いに殺到した。
その結果、雪崩が起こるようにこれら各国の対ドル相場は暴落した。
各国政府は当初ドル売り・自国通貨買いの介入で相場の維持を図ったが、介入可能な規模をはるかに上回るドル買い・自国通貨売りに抗しきれず、介入を断念した。
その結果、ドルショート持高を積み上げていた企業に莫大な為替損が生じ、ドル建てローンは返済不能となった。
必然的にそれを融資していた銀行は不良債権の急増に直面し、金融危機に陥った。
果たして同様のことがまた起こるのだろうか。
2015年10月1日付の国際金融協会(IIF)の調査レポート(Capital Flows to Emerging Markets)は、新興国(対象39カ国)への15年の海外からの資金流入は、14年の1兆0740億ドルから5480億ドルに半減し、資金流出と差し引きしたネットベースでは1988年以来初めて5400億ドル(年間)の流出超過になると見込んでいる。
また、2016年も金額はやや減るものの15年に近い規模の流出超過が続くと予想している。
しかし、このような大規模な資金流出が新興国通貨の大幅な下落を伴ってすでに起こっているにもかかわらず、今のところアジア通貨危機のような激発性の危機にはなっていない。
その1つの理由は、これら諸国の外貨準備の厚さが緩衝剤になっているからだろう。
アジア通貨危機当時と比較してこれら新興国の外貨準備は大きく積み上がり、各国政府がそれを取り崩すことで外貨不足に対応していると思われる。
実際、世界各国の外貨準備総額は途上国を中心に2000年以降13年まで平均14.4%のテンポで積み上がってきた。
それが14年から一転して取り崩しとなっている。
BRICS諸国にメキシコ、インドネシア、マレーシア、タイ、トルコを加えた10カ国を見ると、インドを除く9カ国で程度の違いこそあれ外貨準備が減少している。
10カ国合計では、前年末残比で2014年はマイナス1.3%、15年はマイナス7.7%、累積でマイナス9.0%、金額では5197億ドル減少している。
この外貨準備の減少額は、前掲のIIFのレポートが見込んでいる年間の資金流出超過額と見合う規模であることに注目しておこう。
もっとも、各国政府はアジア通貨危機時のようにドル売り介入で外貨準備を大きく減らしてまで固定的な相場を維持しようとはしていないようだ。
その結果、すでに見たようにかなりの幅の自国通貨下落を許容する柔軟な方針を採っている。
ただし、この点で中国はやや特殊で、同国の外貨準備残高は2014年の3.9兆ドルから3.4兆ドルまで急速に減少したが、今までのところ人民元の元安方向への振れは抑制されている。
中国の外貨準備残高は依然巨額である。
しかし、ドル売り介入に使用可能な外貨準備は公式残高ほどないとの観測もあり、予想外の人民元安の可能性も排除できない。
仮に大幅な人民元安が起これば、新興国通貨全体を巻き込んだ大暴落相場になるリスクがあろう。
いずれにせよ、外貨準備はあくまでもマネーフロー流出への緩衝剤であり、本格的な資本逃避が起これば、危機的な雪崩現象になろう。
また、それを回避することができても、ドル高・自国通貨安により外貨負債の大きい企業の財務上のコスト(為替損)は増加し、マクロ経済にボディーブローのような負の効果をもたらすだろう。
ただし、救いもないわけではない。
新興国通貨相場の下落はいずれ当該国の輸出拡大を通じたプラス効果をもたらし、経済全体では通貨安による為替損を相殺し得る。
もちろん、それまでにはまだ時間がかかる。
2016年の新興国経済は「春の訪れ」というよりは「冬の時代」が続き、「冬の冷え込み」が一段と厳しくなる局面に備えておくべきだろう。
*竹中正治氏は龍谷大学経済学部教授。1979年東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、為替資金部次長、調査部次長、ワシントンDC駐在員事務所長、国際通貨研究所チーフエコノミストを経て、2009年4月より現職、経済学博士(京都大学)。最新著作「稼ぐ経済学 黄金の波に乗る知の技法」(光文社、2013年5月)
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
』
ロイター 2015年 12月 25日 13:12 JST 武者陵司武者リサーチ代表
http://jp.reuters.com/article/view-ryoji-musha-idJPKBN0U719620151225?sp=true
視点:米景気悲観は無用、株高継続の根拠
[東京 25日] -
米国が金融政策の正常化に向かい、中国が景気減速感を強める中、2016年の成長エンジン不在が懸念されるが、武者リサーチの武者陵司代表は、米国主導の世界経済回復シナリオは健在だと指摘する。
ドル円は130円手前、日経平均株価は年前半に2万2000円から2万5000円に届くと見る。
同氏の見解は以下の通り。
■<米景気拡大継続を示唆する5つの好材料>
2016年の世界経済は、ナンバーワンのポジティブ(米国経済)と、ナンバーツーのネガティブ(中国経済)のバランスによってどうなるかが決まる。
私の予想では、ポジティブがネガティブに勝り、世界経済全体としては着実な成長を実現し、世界的な株高も継続、リスクテイクが引き続き報われる年になる。
巷(ちまた)では米連邦準備理事会(FRB)の利上げに伴う米国景気の失速が懸念されているが、そのような心配は無用だ。
米景気拡大に期待を持てる理由は5つある。
1].まず原油価格下落だ。
米国の化石燃料の年間輸入額は対国内総生産(GDP)比で約2%。
シェールガス・オイルなど自前のエネルギー生産が多いとはいえ、経済にはプラスに働く。
ちなみに、原油価格動向が実体経済に影響を与えるまでには、ざっと18カ月のタイムラグがあるといわれる。
マイナスの影響はすでに見えたが、プラスの影響はまだ見えてない。
16年はプラス面が顕現化してくるだろう。
2].第2は、消費の堅調さだ。
失業率も5%まで低下し、賃金上昇にもようやく弾みがつき始めている。
家計消費は年率3%のペースで増加している。
また、消費の中身はモノよりサービスであり、労働市場でもサービス主体の雇用創造が起きている。これは、米景気回復のドル高耐性が強いことを意味する。
2016年の株式市場について武者リサーチ代表の武者陵司氏は、米国経済が中国のネガティブな要素をカバーして、世界的な株高の流れが継続していくだろうとの見方を示した。
3].第3に、米国の住宅市場にかなり大きな期待を持てることだ。
これまで住宅建設が著しく抑制されていた影響で、住宅需給が好転している。
持ち家比率が大きく下がった反動で、今後はいよいよ借金をして住宅を取得するという動きが本格化してくるだろう。
4].第4に、これまで景気の重石となっていた財政部門が景気を押し上げる役回りに代わることだ。
リーマンショック後、GDP比で10%超まで高まった財政赤字(基礎的財政収支赤字)が今では2%前後まで低下している。もはや財政削減は不要であり、むしろ財政支出による需要拡大、例えばインフラ整備が政策課題として浮上してくるだろう。
実際、地方での財政支出は増加し始めている。減り続けていた公的部門の雇用も増加傾向にある。
財政の景気に対する寄与が大幅なマイナスからプラスへ大きく転換するのは明らかだ。
次期米大統領選の民主党有力候補であるヒラリー・クリントン氏も、老朽化したインフラの整備を選挙アジェンダとして取り上げている。
5].第5に、信用循環だ。
米景気は、ひとえに信用の拡大・収縮の循環である。
過去50年を振り返れば、おおむね10年サイクルだ。
そして1970年代以降、信用のボトムは必ず「1」の年に訪れている。
71年、81年、91年、2001年、11年だ。
つまり、信用循環から見ても、今回の景気はまだ若い。
家計、企業部門はむしろこれから債務を増やしてリスクをとる場面に入る。
これまでは借金を返したり、バランスシートを整理したり、信用による需要創造の面では後ろ向きの時代だったが、今後は前向きになって勢いを増す局面だ。
こうなると、懸念されるのがFRBの利上げペースだが、インフレもまだ緩やかなので、16年半ば頃までは様子見になるのではないか。
利上げは16年末にかけて、あるとしても、あと2回だろう。
よって、実質金利が上昇し、景気を冷え込ませるような事態にはまだ至らないと思う。
■<ドル円は130円、日本株は2万5000円まで上昇余地>
では、こうした前提に立つと、16年の為替、株価はどうなるのか。
私はまずドル円については、130円台手前までのドル高・円安はあると思う。
最大の理由は米国経済の強さだが、加えて日銀のさらなる緩和も期待できるからだ。
日銀は12月18日、年間80兆円の国債購入を柱とする従来の金融緩和の継続を決める一方で、新たな指数連動型上場投資信託(ETF)買い入れ枠の設定や買い入れる長期国債の平均残存期間の長期化などの緩和補完策を打ち出した。
ただ、私は、日銀は早晩、この補完策を超える追加緩和に乗り出すとみている。
追加緩和のインセンティブは主に3つある。
第1に、円安を通して輸入物価を上げること。
第2に、資産価格を押し上げること。
第3に、ユニット・レーバー・コスト(単位労働コスト)を押し上げて実質賃金を引き上げることだ。
最初の2つは金融政策で動かしやすく、最後の1点は金融政策だけでは難しい。
このうち日銀にとって追加緩和の最大の誘因は、これまでの円安の一巡で輸入物価の上昇率がこれから低下してくることだ。
むろん原油安の影響もはく落するが、円安効果の一巡が勝り、おそらく16年後半は物価への下押し圧力が強まるだろう。
また、そもそも企業が賃上げにいまだ積極的にならない局面でインフレ率を高めるには、さらなる円安と資産価格の押し上げが不可欠だ。
2%という目標が遠のくところで、もう1段の追加緩和を日銀は迫られると思う。
市場の期待がかなり低下している局面で実施すれば、大きなサプライズとなるだろう。
こうした状況を受けて、株価については、日経平均で言えば年前半に2万2000円から2万5000円への上昇は十分にあり得ると考える。
ただ、年後半は中国のネガティブ要素の悪循環が起これば、一本調子とはならない可能性もある。
もう一度繰り返すが、ベストシナリオは米国が着実に成長し、中国が短期的な経済の悪循環を回避できることだ。
この場合、株式市場は年後半も上昇気流に乗るだろう。
ただ、悪いシナリオは、米国経済の成長が若干スローで、中国経済の悪化を十分にカバーしきれないことだ。
可能性としては低いと私は考えるが、特に年後半については警戒を怠らないほうが良いだろう。
■<アベノミクス成功の重要な鍵は株高>
最後にアベノミクスに1つ注文したい。
端的に言って、日本経済の最大の問題点は、企業収益が過去のピークを更新しているにもかかわらず、持続的な景気拡大、需要創造に結びついていないことにある。
政府は経済界に対して3%の賃上げを求めているが、鶴の一声だけで貯蓄過剰が解消されるとは思えない。
では、どうすれば企業所得を広範な需要につなげられるのか。
端的に言って、その最大の鍵は株高だと思う。
企業の留保利益の増加は当然、株式資産価値を引き上げる。
日経平均が3万円になれば、株式時価総額は300兆円増える。
4万円では600兆円増える。
こう話すと絵空事と思われるかもしれないが、私の試算では日本株のフェアバリューは4万円だ。
また、インカムゲインの比較で見ても配当利回りは2万円時点で2%弱。
4万になっても1%弱見込める。0.3%程度の長期国債利回りや、ほぼゼロの銀行預金よりはるかに魅力的だ。
株式がフェアバリューに向かえば、家計だけでなく企業のアニマルスピリットが大きく刺激され、需要創造の好循環も回り出すだろう。
振り返れば、バブル崩壊後の株価や不動産価格の異常な低迷で、日本経済は不必要な重荷を背負ってきた。
言い換えれば、オウンゴールによって経済困難やデフレに陥った。
日本以外、どの国もバブル崩壊後に株価が半減したままなんてことはなかった。
株価の水準をなるべく高く、経済心理を壊さないのが普通の金融政策だ。
日本はそれを徹底的に壊した。
明らかに政策のミスマネージメントだった。
株価重視の発想に対しては、投機をする人たちや富裕層だけを潤し、格差拡大を招くとの批判があるが、結局のところ、人々が注目する経済の体温は株価だ。
株式本位制が必要とまでは言わないが、株高は紛れもなくアベノミクス成功の重要な経路である。
武者リサーチ代表の武者陵司氏は、人々が最も信頼する経済の体温は株価であると指摘し、株価を回復させるための政策を実行することが日本経済回復のカギを握っていると述べた。
*本稿は、武者陵司氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。
*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2016年の視点」に掲載されたものです。
』
『
レコードチャイナ 配信日時:2015年12月25日(金) 5時20分
http://www.recordchina.co.jp/a124853.html
<2016年世界経済を読む>
実質GDP伸び率、中国は6%台半ばに
=米は利上げ後も順調2%台維持、
日・欧・新興国は低迷か―国際金融筋
国際関係筋によると、2016年の世界経済は、
★.中国経済の6%台半ばへの減速継続と日本経済の低迷が顕著になる。
★.これに対し米国の実質GDP成長率は2.5%を維持すると見られる。
★.ユーロ圏は回復軌道に乗りつつあるものの、難民問題やテロなど地政学的な難題に直面している、
との認識を示した。
■<中国>
16年のGDP成長率は6.5〜6.7%程度となる。
中国人民銀行と財務省は今年以上に積極的な金融・財政政策スタンスを取ろうが、金融緩和の継続、準備率の引き下げなどが主軸となる。
国有企業改革で大きな前進は期待できず、業務の改善、効率化が主軸となる。
民営化や行き詰った国有企業の破たん処理などの抜本策には踏み込まないだろう。
大型国営企業同士の合併を推進しているが、「破たんさせるには大き過ぎる」企業を創りだすだけで、過剰設備、過剰在庫の問題は解決しないのではないか。
目下の中心テーマは「都市化」であり、
政府は2000万人の違法な移住労働者に対して、現在雇用されている場所での居住許可を与えると発表。
これらの労働者に対して、教育、医療、などの社会サービスを供与するという新たな政策の裏付けが求められる。
中国では、国内の景気減速が鮮明となる中、
割安な人件費やインフラ投資に頼った従来の経済構造のままでは限界に直面するのは必至。
大気や水の汚染も深刻になっており、このままでは国民の不満が高まり、体制を脅かしかねない。
政府は2016年から始まる「第13次5カ年計画」で産業の高度化と環境対策に全力を投入する構えだ。
■<米国>
2016年はおおむね堅調を持続。
雇用は順調に増加し、失業率は5%まで低下、賃金も上昇傾向となっている。
家計部門も基本的に順調で、2.5%の実質経済成長率を維持すると見込まれる。
FRB(連邦準備制度理事会)は12月の0.25%利上げに続いて16年に数回にわたる利上げを検討している。
■<ユーロ圏>
2015年にギリシャ危機を乗り切り、銀行部門の健全化にも道を開いた。
徐々に回復の軌道に乗りつつあるようだが、低空飛行は続く。シリアなど中東諸国などからの難民流入やテロ事件という地政学的な難題を抱えており、加盟国内の軋轢(あつれき)を生じたり、域内での極右勢力の台頭を招いたりしている点は要注意。
ただ難民受け入れに伴う歳出増加(景気拡大要因)や労働力不足の解消などプラス面もある。
ECB(欧州中央銀行)は16年も量的緩和を続けるだろうが、ドイツや北欧諸国からの反対論も根強く、慎重にならざるを得ない。
■<日本>
労働人口をはじめ人口減少傾向が顕著になり、潜在成長率は2013年をピークに下降局面にある。
政府は企業に設備投資や賃上げを促しているが、企業が積極的に呼応するか不確定だ。
政府は16年度(16年4月〜17年3月)の実質経済成長目標を1.7%増と内需主導で回復する姿を描いたが、16年(暦年)の経済成長率が0.5%を超えるのは難しいだろう。
■<新興国>
国際通貨基金(IMF)によると、08年に新興国GDPの50%弱だった企業の債務の規模が、14年には75%近くにまで拡大。
ブラジル、トルコ、南アフリカなど多くの新興国は、米国の利上げをにらんだ高金利を強いられ、これが国内の資金の流動性を制約する影響も大きい。
景気の減速や景気後退、資源価格の下落などで、新興国企業の収益が悪化しているところに、金利の上昇とドル高が重なり、債務履行のコストが重くなるのは必至。新興国の景気の足を引っ張る懸念が大きい。
(八牧浩行)
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