2015年12月19日土曜日

世界乱気流:「地政学的カオス」に陥った世界は「アメリカ後」の秩序形成に向けて一段と加速中

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 アメリカが衰退するか否かは分からない。
 しかし、政治的には衰退したときの選択肢をも考慮に入れて動くのが常道。
 日本もそれで動いている。
 日本は中国とタイマンで勝負できる形を着々と備えをしている。
 表面的にはあたかもアメリカに依存しているようなフリをして、いかにアメリカから利を引き出すかに腐心している。
 中国が軍事大国であることは承知だが、どの程度の軍事力を持っているのかはほとんど不明にちかい。
 カタログ戦闘機は実に華麗だが、J-20はまだまだテスト段階だし、中国製エンジンはドッグファイトでは全く信用ならず、ロシア製にたよっている。
 ミサイルの15%は外国部品でたよっており、実際にはミサイルと核兵器は恫喝兵器であって、ほとんど実用に供されることはない。
 とはいうものの、それらを念頭において日本が対策を立てていることは明白だろう。
 アメリカなきアジアにおいて、
 中国とタイマンで張り合えることが日本の基本政策
なる。
 実際、その方向で動いていることは十分に感じられることでもある。
 だからこそ、武器の販売がOKとなり、安全保障の法案がさしたる反対運動もなく、国会を通過しているのである。
 日本を遠くからみれば、一歩一歩確実にアメリカなきアジアの態勢を考慮しながら動いていることは確かである。


現代ビジネス 2015年12月19日(土) 笠原敏彦
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46961

世界はなぜ「地政学的カオス」に陥ったのか? 
中露の実力行使、テロ、そしてパクス・アメリカーナの終焉
2015年の国際情勢を振り返る

■地政学的カオス

 今年の国際情勢を振り返ると、
 世界が「アメリカ後」の秩序形成に向けて一段と加速
した感がある。
 それは、一種の安定感を漂わせる多極化時代や米中によるG2時代などとは全く次元の異なる世界だ。

 シリア内戦を始めとした中東の混乱、
 欧州に押し寄せる難民、
 中国の南シナ海における人工島造成の既成事実化、
 ロシアの傍若無人な言動……。
 世界を見渡せば、「地政学的カオス」というのが実情だ。

 覇権国家の役割がバランス・オブ・パワー(勢力均衡)の調停であるなら、
 その役割をアメリカに求めるのはもう無理
なのかもしれない。

* * *

 昨年(2014)出版されたヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の『World Order』は、現状の国際関係を読み解くのに参考になる。
 キッシンジャー氏はその中で「(大西洋と太平洋により孤立した)地理的条件と膨大な資源に恵まれたアメリカでは、外交とは選択的行動(optional activity)であるという認識が育まれた」と書いている。
 「アメリカは世界の警察官ではない」と明言したオバマ大統領の外交に、まさに当てはまる記述ではないだろうか。

 その象徴が、ブッシュ政権時代の遠大な「中東民主化」構想から一転して、中東への軍事的コミットメントを最小限に抑えようとするオバマ政権の中東政策であり、その矛盾が一気に噴きだしたのがシリア情勢と言えるだろう。
 このアメリカの「変わり身」は、単なる気まぐれではなく、中東の戦略的価値の低下を反映したものだ。
 国内でのシェール・オイルの急速な増産により、2020年にはサウジアラビアを抜いて世界最大の産油国になると予測されるアメリカにとって、
 外交・安保政策において「石油」を重視する必要が薄れている結果
なのである。

 その例証が、今年7月のイラン核問題の解決に向けた進展だ。
 アメリカは、スンニ派のサウジなど親米中東産油国の反発を押し切る形で、イランと最終合意に達した。
  年明けにも対イラン経済制裁の解除が予想されるが、石油増産などでシーア派のイランが経済力を強化すれば、その影響力は強まり、中東秩序が一層不安定化することは間違いない。
 ここに、親米路線一本道の日本が読み取るべき教訓が潜んでいる。

■日本はアメリカ頼みを続けて大丈夫か?

 近年の米国の外交政策を見ると、10年単位で大きく基軸が変化している
ことを見逃してはならない。
 冷戦崩壊後の1990年代は、ソ連崩壊の後始末と中東欧の安定などのため、米外交の基軸は欧州に置かれていた。
 その後、2001年の米同時多発テロを受け、米国は対テロ戦争に乗り出し、基軸は中東へ移った。
 そして、2010年代になると、中国の台頭とアジア太平洋地域の経済的ポテンシャルに関心は移り、「PIVOT(回帰・旋回)」と称し、アジアへ基軸を移すのである。

 相対的に国力が低下したとは言え、アメリカが唯一の超大国であることに変わりはない。
 しかし、世界経済におけるシェアが2割強まで低下した現在のアメリカに、国際秩序のバランサーの役割を求めること自体、すでに無理な要求なのである。
 アメリカは優先地域と課題を決めてその影響力を行使する「選択的超大国」にならざるを得ないのである。

 アメリカがどこまで日本、アジアに強くコミットし続けるのか。
 10年単位で基軸が変遷している冷戦後の外交パターンを見る限り、「米国のアジア回帰」が長続きすると楽観視できる根拠は薄いように思える。

■ロシア、中国の「無法行為」

 冷戦終結から四半世紀が過ぎ、最近は「地政学」の復活が言われるが、これも、シリア内戦がその現実を浮き彫りにしている。
 アメリカの中東へのコミットメントの低下が招いた「力の空白(バキューム)」につけ込むかのように、ロシアやイラン、過激派組織「イスラム国(IS)」などが入り乱れ、事態を混沌とさせているのがシリア内戦の実情だからだ。
 その現状は、キッシンジャー氏が先の著書で世界の現状を「イデオロギー的、軍事的対立の新たな時代(new age of ideological and military confrontation)」と規定している通りである。

 今年は、ロシア、イラン、中国などの「リビジョニスト(現状変革)国家」がアメリカの支配力を試すかのように、シリアだけでなく、ウクライナなど旧ソ連圏や南シナ海の人工島造成などで領土・影響圏の拡大を進める実力行使の傾向を強めた。
 その分水嶺となったのが、ロシアが2014年3月にウクライナ領のクリミヤ半島を併合したことである。
 ここに至って、「力による国境の現状変更は行わない」「法の支配の尊重」という国際秩序を維持するための大原則が崩れてしまった。中国が今年、南シナ海の人工島造成を加速させたのは、この出来事の展開と無関係ではないだろう。

 東西冷戦が終結した際、唯一の超大国となったアメリカは世界に安定をもたらすことを期待されたが、
 わずか「25年」にしてその機会は失われてしまった。

 そして、アメリカに挑戦するリビジョニスト国家・勢力の動機を考えるとき、
 アヘン戦争(1840年)以後の「屈辱の世紀」を忘れない中国、
 超大国・ソ連の復活を夢見るロシア、
 英仏が秘密協定で決めたオスマン帝国後の中東の分割支配に対するイスラム国の敵意
など、「歴史の記憶」「過去の亡霊」がこれらの国家・勢力を突き動かしているのではないかと思えてくるのだが、どうだろうか。

■パクス・アメリカーナはどこで狂ったか

 それでは、「史上最強の帝国」とまで評されたアメリカによる平和(パクス・アメリカーナ)の軌道はどこで狂ってしまったのだろうか。

 筆者には、2001年9月11日に起きた国際テロ組織「アルカイダ」による米同時多発テロだと思える。
 当時のジョージ・ブッシュ大統領は同時テロ前は「謙虚なアメリカ」を掲げていた。
 それが、約3000人もの犠牲者を生んだ未曾有のテロの発生により、アルカイダとの関係を理由にアフガニスタンとイラクで戦争を始め、アメリカは今も両国での戦争から抜け出せないでいる。
 米軍は2016年末でアフガニスタンから撤退する予定だったが、オバマ大統領は今年10月、現地治安情勢の悪化から、米軍駐留延長の決定に追い込まれている。
 アフガスタンは、歴史的に「帝国の墓場」といわれるが、アメリカもそのリストに追加されるのだろうか。

 筆者は自著『ふしぎなイギリス』(講談社現代新書)で、21世紀初頭の世界情勢について以下のように書いた。

 〈 国際テロ組織『アルカイダ』がアメリカに向けて放った一本の巨大な矢が、史上最強の帝国と言われたアメリカを狂わせた。
 最新鋭の兵器と自爆テロが戦うという、非対象性の対テロ戦争で、米英軍は各地の戦闘には勝利できても、戦争自体には勝てなくなった。
 そして、アメリカは『世界の警察官』を務めるだけの気力を失う。
 盟友イギリスは国力を疲弊させ、2つのアングロ・サクソン国家の結束は緩んでいく。
 その結果、世界はリーダーを失い、進むべき方向性を見失い、乱気流の時代に突入していった 〉(第5章 アングロ・サクソン流の終焉)
笠原敏彦『ふしぎなイギリス』講談社現代新書

 今年の世界の出来事をフォローし、筆者はこの認識を一層強めている。
 アメリカの対テロ戦争は、アルカイダの弱体化には成功したが、より悪質で手強いイスラム国というゾンビを誕生させてしまった。
 主権国家間の国際秩序が不安定化する一方で、その枠外にある非国家ファクターのテロ組織が存在感を強め、テロの脅威が世界に拡散する。
 この1年を安全保障面で振り返るなら、そんな年だったのではないだろうか。

 「平和と秩序は人間にとって永遠の課題である」。
 キッシンジャー氏は先の著書でそう書いているが、この言葉を、実感を持って反芻せざるを得ない2015年であったように思う。

笠原敏彦(かさはら・としひこ)
1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒業。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員 (1997~2002年)として欧州情勢のほか、アフガニスタン戦争やユーゴ紛争などを長期取材。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイ トハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)外遊に同行して20ヵ国を訪問。2009~2012年欧州総局長。滞英8年。現在、編集委員・紙面審査 委員。著書に『ふしぎなイギリス』がある。






JB Press 2015.12.22(火) 柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45575

中国はなぜテロと戦わないのか
どうしても有志連合と協調したくないこれだけの理由

 ある軍事専門家は、
 世界が新たな世界大戦に突入する可能性はほとんどないと断言する。
 その代わりに世界はテロの攻撃にさらされている。
 先進主要国は有志連合を組んでテロとの戦いに挑んでいる。
 だが武力はテロの脅威を短期的に抑制することができても、テロを根絶することはできない。

 テロの脅威にさらされているのは、中国も同様だ。
 中国は多民族国家であり、中央アジアの国々と陸続きである。
 テロリストの侵入をいかに防ぐかは喫緊の課題である。

 しかし、不思議なことに中国は主要国有志連合のテロ掃討活動に参加していない。
 中国外交部スポークスマンが「中国は責任のある大国である」といつも協調しているにもかかわらず、だ。
 なぜなのだろうか。

■軍事力の詳細を明らかにしたくない中国

 まず軍事専門家によると、中国はテロ勢力と戦う能力が不十分だという。
 たとえばISの掃討作戦に参加する場合、弾薬や食糧などの補給を行う必要があるが、
 中国には遠隔地への補給体制が十分に整えられていない。
 中国にはミサイルなどの戦略兵器があるが、テロとの戦いにおいて戦闘力が十分に強化されていないとみられている。

 また、中国が国際有志連合に参加しないもう1つの原因は、
 もしも参加した場合、他の国とどのように連携を組み協力すればいいのか分からないことにある。

中国の軍事力はいまだに謎が多い。
 仮に有志連合に参加した場合、その軍事力が明らかになる可能性が高い。
 さらに、実際のテロ掃討作戦において先進国の軍隊と協力しなければならないが、場合によっては指揮される可能性があり、それに素直に従うとは考えられない。

中国人にとってもっとも苦手なのは誰かに従うことである。
 かつて毛沢東の時代、スターリンに服従せざるを得なかった。
 これは毛沢東にとってこの上ない苦痛だったといわれている。

■欧米諸国が築いたグローバル秩序には従わない

 今、中国とアメリカはきわめて微妙な関係にある。
 経済面では米中の相互依存が強化されている。
 アメリカの財界には親中派の経営者が少なくない。
 だが、彼らは筋金入りの親中派というよりも、自分のビジネスが中国で儲かっているので中国と良好な関係を保つ必要があるのだ。

 それに対してアメリカの政界では、中国を脅威とみる政治家が増え、嫌中感情が高まっている。
 南シナ海や東シナ海での中国の行動によってアメリカの安全保障が中国に脅かされているというのが大きな理由である。

 また、アメリカにとって中国の脅威といえば、目に見えないサイバー攻撃である。
 アメリカ政府は中国ハッカーのサイバー攻撃をある程度特定できているが、それを防ぐすべはない。

 だが、いかにアメリカといえども中国の成長を抑え込むことはできない。
 結局のところ、アメリカは中国を警戒しながら中国と向き合わざるをえない。

中国にとっても、アメリカとどう向き合えればよいかは明白になっていない。
 2015年9月に訪米した習近平国家主席は、オバマ大統領との首脳会談で、米中による「新型大国関係」の構築を改めて確認したという。
 同時に習近平国家主席は「広い太平洋は米中の利益を許容できないはずがない」と強調した。

 その一方で、中国はアメリカを警戒する姿勢を一度も弱めたことはない。
 中国がアメリカの何を警戒しているかというと、アメリカの価値観、すなわち人権や民主主義の浸透である。
 米中の対立軸は一目瞭然だ。

 現在のグローバル秩序は欧米先進国が作り上げたものだ。
 中国がそれに服従しないので、おのずと欧米先進国と対立することになる。
 欧米先進国のテロ掃討作戦に中国が協力しないのも、その一環といえるかもしれない。

■少数民族問題を国際問題化したくない中国

 中国がテロと正面衝突するのを避けている大きな理由は他にもある。
 もしも中国国内のテロの脅威がグローバルのテロ掃討作戦の一環として位置づけられてしまうと、中国の少数民族問題が国際問題化されてしまう可能性があるからだ。

 今後、中国は関係国と対話しながらテ対策を模索しようとするだろうが、中国の立ち位置は大きく変わらない。
 すなわち、中国政府にとってのテロ掃討は国内の少数民族問題への対処を優先する。

 そして、少数民族の問題と国内テロの問題はいずれも国内問題であり、国際社会の介入を認めない。
 こうして中国は自らのテリトリーをしっかり守ることだろう。

 とはいえ、従来のやり方を踏襲するだけでは、国際社会における信用は高まらない。
 だが、もし中国が方針を転換し、積極的にテロ掃討作戦に関わろうとするようになれば少数民族問題がさらに表面化し、アメリカとの対立がいっそう激しくなる可能性が高い。
 習近平国家主席にとって悩みは絶えない。








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