2015年12月4日金曜日

パリ同時多発テロ(4):イスラムの中国侵入、拠点を奪われたテロリストが向かう先

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現代ビジネス 2015年12月04日(金) 佐藤 優
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46584

イスラム国、まもなく中国に侵入か
拠点を奪われたテロリストが向かう先

 イスラム国によるテロで、世界情勢はいよいよ混迷を深めている。
 もはや「戦争の時代」に逆戻りしたと言っても過言ではない。
 そして、日本や中国にとってもこの「戦争」は遠い国の話ではなくなってきている。
 なぜか? 
 その根拠を佐藤優さんが明かす。

※本記事は佐藤優さんが出演する文化放送「くにまる・じゃぱん」の放送内容(2015年11月20日)を一部抜粋して掲載しています。
 なお、野村邦丸氏は番組のナビゲーターです。

◆化学兵器、生物兵器も持っている

邦丸: 1月のシャルリー・エブド襲撃事件は、要するに一匹狼的な犯罪で、イスラム国からの指示を明確に受けて、さあ、やろうという組織立った犯罪ではないと佐藤さんにうかがった気がするのですが、今回はかなり組織的な指導があったということですか?

佐藤: 前者も組織立った犯罪ではあるわけです。
 司令塔があって、このタイミングでスタートしろという指令は機関決定ですから。
 今回のテロは、そういう意味においては1月に起きたシャルリー・エブド襲撃事件と構造は一緒なんです。
 これをいち早く予言していたのは、イギリスですよね。

邦丸: MI6?

佐藤: MI5です。
 シャルリー・エブド襲撃事件の後、アンドリュー・パーカー長官が
 「これは西側全体に対して向けられている。
 シリアのアルカイダ系組織によって、象徴的な施設が狙われているんだ」
と言いました。

 つまり、彼は、
 「これは単にフランスだけの問題ではないし、シャルリー・エブドがムハンマドの風刺画を描いたことだけが問題なのでもない。
 要するにイスラム世界革命戦争が始まったんだ」
という警告を出したんですけれど、まさにそのとおりなんです。

 怖いのは、フランスの首相が「化学兵器、生物兵器を使ったテロがあるかもしれない」と言ったこと。
 日本ではあまり大きく扱われていませんが、イスラム国が化学兵器、生物兵器を入手できる状況にあるという情報をつかんでいるから、そう言っているわけですよ。

邦丸: フランスのバルス首相ですね。

佐藤: これは恐ろしい話なんですよ。
 要するに、オウム真理教がかつて行った、あのタイプのテロがフランスで起きる可能性があるということです。

邦丸: うーむ。
 ただ今回、IS(イスラム国)が一気に革命を起こそうとしているなかで、ロシアは相当ISの拠点を叩いている。
 ロシアの空爆は、ISにかなりの打撃を与えていますよね。

佐藤: そのとおりです。
 今回、日本の新聞を読んでいると、どうもISが攻勢に出てきたように見えるんですが、これは逆です。

 本当はシリアとイラクに拠点をつくりたいんですよ。
 ところが前にもこの番組でお話したとおり、ロシアが新兵器のパンツィーリS-1、地対空ミサイルのSA-22をはじめとして、空爆も行うし、皆殺し作戦にしているわけですね。
 だから、ISはかなり参っているんです。

 ですから、戦線を拡げて、ロシアは諦めないだろうが、フランスは諦める可能性があるから、波状攻撃でフランスでテロを行わせて、ヨーロッパ全域に厭戦思想をもたらして、
 「もう関与しないほうがいい。あそこはスジが悪いから」
という雰囲気にして、自分たちの拠点を維持していくという計算ですね。

邦丸: ロシアの空爆は当然強化されて、フランスも当然空爆をする。
 アメリカ軍とは立場は違うし、共同歩調はとらないんだけれど、方向性は一緒になってくるという。

佐藤: もう一つ、恐らく地上に実際の殺し部隊を送っている国があります。

邦丸: どこですか。

佐藤: イランです。

邦丸: イラン!

佐藤: これはかなり大量に送っています。
 イスラム国の拠点を奪還したというイラクの政府軍は、あれは全部、実質的にはイランのイスラム革命防衛隊ですから。

 ですから、そういうようなところがみんな出てきて、イスラム国潰しをやっているんですけれども、これが失敗すれば今の状況が続いて、しょっちゅうテロが起きる。
 イスラム国の連中が皆殺しにされれば、問題は解決する。

 ただし、皆殺しにされる前に逃げる可能性があるんです。
 逃げる先は恐らく、キルギスとタジキスタンだと思います。
 あの二つの国は破綻国家になっているうえに高い山ですから。

 山に逃げると、アフガニスタンの例でも明らかなように掃討は不可能なんです。
 そこに第二イスラム国をつくって、それが新疆ウイグルに延びてくる。

邦丸: 中華人民共和国エリアに入ってくる。

佐藤: そうです。
 こういうふうになった場合は、日本に非常に近いところで、中国の中で本格的なイスラム国家をつくろうという動きが出てきて、それが巨大なテロに発展していく。
 こういう状況になりますね。
 日本系企業も日本人観光客も巻き込まれる可能性が格段と高くなります。

 こういうことが2~3年のスパン、下手をすると半年~1年で起きるかもしれない。
 今、これぐらい緊張感を持っている状況になっています。

邦丸: 中国政府も新疆ウイグル自治区に対しては、ずいぶん報道もされているなかで、弾圧に近いこともやっていますし、これに対して中国というのは今、そうとうデリケートになっているということですか。

佐藤: いや、ちょっと違います。
 どこが違うかというと、新疆ウイグルのウイグル人は複合アイデンティティを持っているんです。
 どういうことかというと、ウイグル人だというアイデンティティもあります。
 それが民族独立運動につながるんですね。
 同時にもう一つ、イスラム教徒、特にイスラム国と同じスンニー派のイスラム教徒だという意識もあるんですよ。

 中国は民族独立運動の弾圧はすごくやっているんですが、イスラム主義についてはどう働きかけたらいいかわからないんです。

邦丸: 今?

佐藤: なぜかというと、「回族」って聞いたことありますか?

邦丸: はい。回族。

佐藤: 回族は漢人と同様、中国人なんです。
 ところが、宗教だけがイスラム教なんです。
 だから中華レストランで、ブタ肉を使わないでヒツジの肉だけを使う店があるんですよ。
 それは回族の店なんです。
 回族はブタを食べないから。

 イスラム国がこの回族に波及すると、ものすごく深刻なことになるんですよ。
 中国はイスラムには触らないという感じでやっていますから、イスラム主義に対する防御が十分にできていないんですね。

 だから、ウイグルの回族の人たちが「トルコに行く」ということだと、東トルキスタン独立運動があるからそれは認めないで、ものすごく警戒する。
 ところが、「巡礼に行きたい」と言えば国外に出られますから、そこでアルカイダ系と接触したり、イスラム国と接触したりすることは平気でできますからね。

 イスラム主義に対しては、実は中国は緩いんです。
 というか、よくわかっていないんです。
 アメリカと中国は、複雑な問題はあまり理解できないんですね。
 大国過ぎるんです。

邦丸: 大き過ぎちゃうの?

佐藤: 大き過ぎる。

邦丸: はあ~~。
 ということは、シリア、イラクからISが追われて中央アジアの方に行って、新疆ウイグル自治区も含むそのエリアに新しい国をつくろうとするのを阻止する手はないんですか?

佐藤: 阻止する手……。
 理想論を言えば、あの辺の破綻国家を治すということなんですけれど、
 うーん、踏み込んで言うと、
 イスラム国に対しては生かさず殺さずで、
 逃げない程度、
 まだ可能性があるという形で、
 シリアとイラクの間のところで封じ込め、
 潰していく
ということでしょうね。

 いきなり皆殺しにして、一般住民でも疑わしくは殺してしまうというやり方をすると、その地域にフランス、ロシアに対する恨みが残るわけですよ。
 それで、逃げ延びた人が離れたところで拠点をつくって、また戻ってきます。

 ですから、イスラム国の潰し方については、中長期戦略を立てなければいけない。
 ウイルスが拡散しないようにして潰さないといけないんですね。

邦丸: 一定のところで拡散を防ぐということですね。

佐藤: 今の時点ではそれが非常に必要だと思います。(全文はメルマガでお読みになれます)

佐藤優「インテリジェンスの教室」Vol.073(2015年11月25日配信)より








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