2015年12月24日木曜日

過剰人口の日本(7):なぜ雇用は増えたのに賃金は下がるのか、 超高齢化で大きく変化する労働市場

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 基本にあるのは圧倒的な過剰人口という器。
 その中を右にいったり左にいったりしている。
 右にいけばメデイアが取り上げ、左にいけばエコノミストが饒舌をふるうことになる。
 でも、ああ言っても、こう言っても、基本は変わらない。
 なにしろ人口が多すぎる。
 小手先で動いているだけでニュースにはなる。
 でも根本的解決には程遠い。
 向こう一世代は暗い時代が続く。
 まずは、2030年末に団塊の世代が消えるまでは、もっとガマンの強いられる時代が続く。
 次は2050年、人口が1億を切るとき。
 ここでポッと明かりが灯る。
 ここまでは苦難の時代になる。
 2070年ころには9000万人くらいになるだろう。
 やっと、足元が見えるようになる。


JB Press 2015.12.24(木) 池田 信夫
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45631

なぜ雇用は増えたのに賃金は下がるのか
超高齢化で大きく変化する労働市場

 2012年末の総選挙で安倍首相が「輪転機をぐるぐる回せばデフレは脱却できる!」と発言して、奇妙な政策「アベノミクス」を始めて3年たった。
 しかし今年の後半に入って消費者物価指数(生鮮食品を除く)はマイナスが続き、デフレに戻ってしまった。
 では成長率はどうだろうか。
 あの民主党政権でも3年間で5.7%成長したのに、安倍政権の3年間で2.4%だ(内閣府調べ)。
 そんな中で失業率だけは3.1%と過去最低を記録し、安倍政権はこれを唯一の成果として誇っているが、本当に喜んでいいのだろうか?

■人手不足なのに実質賃金は下がり続ける

 失業率が改善する長期的な原因は、日本の生産年齢人口(15~64歳)が毎年1%以上減っているため、人手不足になることだ。
 短期的には、リーマン・ショックのあと完全失業率は2009年末に5.5%まで上がったあと、図1のようにずっと下がって来た。


●図1 完全失業率(%)と実質賃金の推移(出所:厚生労働省)

 特に2011年の東日本大震災のあと、復興需要で建設労働者が人手不足になり、失業率も大きく下がった。
 安倍政権のスタートした2013年初めには、すでに4%近くまで下がっていたのだ。
 普通は失業率が下がるときは労働供給に対して需要が増えているので、賃金(労働サービスの価格)も上がるはずだが、図1のように実質賃金(ボーナスを除く)も下がり続けている。

 これは賃金が下がっているので失業率が下がったとも考えられるが、すでに人手不足が生じ、自然失業率(労働需給の均衡する率)を下回っていると思われるので、いまだに下がっているのはおかしい。
 この原因は、労働市場に変化が起こっているためと思われる。

■「正社員」中心の時代は終わった

 実際に労働する就業者数はどうだろうか。
 これも図2のようにリーマン・ショックで大きく減ったあと、増えている。
 これが安倍政権が「雇用の改善」を誇る理由だが、増え始めたのは民主党政権の2010年からで、アベノミクスが原因ではない。


●図2 就業者数と非正社員数の推移(単位は万人、出所:厚生労働省)

 その原因は図2に描いたように、非正社員が増えていることだ。
 特に団塊の世代が60歳の定年を迎える2009年から300万人も増えており、これは同じ期間の就業者数の増加(150万人)を上回る。

 就業者というのは、厚生労働省の統計では1カ月に1時間でも仕事をした人のことだから、パートもアルバイトも含まれる。
 したがって正社員が定年になってパートタイマーとして再雇用されると、就業者数は同じでも労働時間は減る。

 現実には、正社員数も総労働時間も減っている。
 つまり高齢化で退職した人がパートとして再雇用され、現役のときより安い賃金で働くようになったため、就業者数は増えたが労働時間は減り、実質賃金も下がったのだ。

 要するに、最近の労働市場で起こっているのは、政府が宣伝しているように「アベノミクスで景気がよくなって雇用が改善した」という現象ではなく、高齢化によって正社員がパートに代替されるという構造的な変化なのだ。

 これ自体は必ずしも悪いことではなく、退職後の経験を積んだ労働者が働き続けることは、年金をもらってブラブラしているよりずっといい。
 こうした非正社員は、今年40%になり、これからも増え続け、遠からず半数を超えるだろう。

■自由な働き方をサポートする労働行政への転換を

 それに合わせて、労働政策も根本的に変える必要がある。
 今まで厚労省は正社員だけを労働者と考え、契約社員や派遣社員を規制して正社員にさせる政策をとってきたが、これは逆である。

 今後は1つの会社に縛られない自由な労働者が多数派になるのだから、彼らをサポートする必要がある。
 彼らにとって最も望ましいセーフティネットは、失業保険をもらうことではなく、新しい職がすぐ見つかる柔軟な労働市場である。

 もう政府が労働者を「保護」する時代は終わったのだ。
 民主党の「夢は正社員になること」などというスローガンも時代錯誤だ。
 生産年齢人口が減る日本で成長を維持するには、労働生産性を上げるしかない。
 それには多様な仕事がいつでも見つけられる柔軟な労働市場を整備する必要がある。

 それは「無縁社会」などと嘆くような新しい状況でもない。
 戦前の日本の労働市場は世界でもっとも流動的で、1つの職場の勤続年数が平均3年以下だった。
 今でも「終身雇用」と呼ばれる労働者は、大企業の大卒男性社員に限られ、労働人口の1割に満たない。

 新しい自由な働き方を支えるのは、労働者がリアルタイムで仕事を見つけることのできるシェアリングエコノミーだ。
 政府はこうした労働形態を厳しく規制しているが、これは逆である。
 むしろネットで労働条件をモニターし、サービスの質を維持できるようになったのだ。

 高齢化する日本は、こうした新しい労働形態の先進国である。
 高齢者の最大の生きがいは、働くことだ。
 医療費や介護のコストを減らすためにも、正社員や労働組合を守るのではなく、多様な働き方を可能にすることが厚労省の仕事である。








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