日本のすさまじい経済発展に対抗するために仲の悪いドイツとフランスが手を組んで出来たのが、ヨーロッパ経済共同体EEC。
それが発展してヨーロッパ共同体EUに。
しかし、日本は世界ナンバー2の位置から数年前に降りてしまった。
EUは新たにナンバー2になった中国へのゴマスリに終始している。
チャイナマネーにシッポを振っている。
EECは日本に対峙していたのとはエライ違いである。
そして'持ち上がったのがイスラム国。
どっと流れ出る難民。
当初の存在意味を失ったEUが果たして、これからどうなるのか。
激甚化する世界にあって、ヨーロッパも混沌カオスの中に叩き込まれそうである。
『
現代ビジネス+ 2015年12月25日(金) 川口マーン惠美
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47089
EUはこのまま崩壊に向かうのか?
独善的なドイツの姿勢に不満噴出
深まる亀裂、激動の2015年を振り返る
■EUの亀裂が浮き彫りに
12月17日と18日、ブリュッセルで、今年最後の欧州理事会が開かれた。
欧州理事会というのはEUの最高意思決定機関である。
通常、欧州サミットと呼ばれ、ここで、EUの進む方向や案件の優先順位といった大枠が決められる。
今回の議題は、主に以下のような事柄だった。
・EUの国境防衛
・イギリスが出してきているEU改革案
・テロとの戦い
・対ロシア制裁の延長
・エネルギー政策
しかし結局、どれも紛糾し、EUの亀裂を浮き彫りにしたままお開きとなった。
欧州議会のシュルツ議長は、彼の40年にわたる政治生活の中で、今年ほど困難な年はなかったと言い、各紙の報道にもおしなべて、「ヨーロッパ存続についての憂慮」や「EU耐久テスト」など、悲観的なタイトルが躍った。
2015年のEUを振り返ると、確かに波乱万丈であった。
前半はウクライナ東部での戦闘が激化、ドイツやフランスの取持ちで結ばれた停戦協定はすぐに破られ、バルト3国やポーランドは緊張し、戦闘がEUを巻き込んでいくのではないかという不安が漂った。
そうするうちに、今度はギリシャの金融危機がいよいよ焦げ付き、6月のニュースはギリシャ一色。
一時は、ギリシャのユーロ圏離脱がかなり現実味を帯び、EUの首脳はそれこそギリシャ救済に掛かりっきりになったのだった。
ギリシャの金融危機は、EU内に数え切れないほどのひび割れを作った。
ドイツが推し進めた危機マネージメントのやり方がギリシャ人の憎しみを買い、そのしこりは未だに消えていない。
2015年は、いい意味でも悪い意味でも、ドイツがその力を世界中に見せつけた年とも言えるだろう。
8月からは、EUをさらに大きな問題が襲った。難民だ。
難民問題は以来4ヵ月、ひたすら混乱の度を深めている。
「EUの連帯」という言葉はうるさいほど飛び交っているが、実体としての連帯はすでにない。
各国はいがみ合い、解決策は見つからない。
金融危機で発生したひび割れはさらに大きくなり、EUは粉々に割れてしまうかもしれないと、皆が危惧し始めた。
■EU国境の徹底防衛作戦
この間のEUにおける難民の爆発的な増加は、ここで改めて書く必要はないだろう。
ドイツに入った難民は今年だけで100万人を超え、今も大勢がドイツに向かって移動中だ。
メルケル首相は、シリア、イラク、アフガニスタンなど、真に庇護を必要としている政治難民はすべて受け入れるという原則を貫いており、それが他の多くのEU国にさまざまな影響を及ぼしている。
ドイツはEU内で、次第に孤立の様相を深めている。
一方、国内でも難民の収容が破綻をきたしており、メルケル首相に対する批判が膨れ始めた。
難民問題は、いまやメルケル首相の足元を揺さぶる事態に発展しつつある。
EUの難民政策を規定するダブリン協定も、圏内の自由な往来を保障していたシェンゲン協定も、ドイツの単独行動のせいで、ほぼ消滅してしまった。
こうなるとメルケル首相は、「政治難民は無制限に受け入れる」という主張は崩さず、しかも受け入れ数を減らすという"民主的な"解決法を編み出さなければならない。
そこで登場したのが、トルコとの協調、およびEU国境の徹底防衛である。
10月、メルケル首相はトルコへ飛んだ。
早くも11月にはEU緊急サミットが開かれ、EUがトルコに30億ユーロを差し出すことが決められた。
その代わりにトルコは以後、
①:シリア、およびイラク国境を固めて難民が入ってこないようにし、
②:すでに入ってしまっている難民はヨーロッパ方面に出ないよう監視しなければならない。
何のことはない、中東からの難民を追い払う役割をトルコに押し付けただけだ。
しかし、当然のことながら、多くのEU国がこの30億ユーロの拠出を拒んでいる。
彼らにしてみれば、難民問題をここまで大きくしてしまったのはドイツなのに、なぜ、それを皆で負担し、よりによってトルコを儲けさせなければならないのかというところだ。
結局、この30億ユーロをどこからひねり出すかは、今も決まっていない。
今回のサミットでも、国境防衛は引き続き最重要テーマだった。
EUでの難民申請は、EU内でしかできないことになっているから、国境を防衛すれば難民は確実に減る。
このやり方は、「政治難民は無制限で受け入れる」というメルケル首相の言葉と大いに矛盾するが、しかし、今やそれを指摘する国はない。
主要メディアも、国境防衛が重要であるという見解を前面に押し出している。
EU国境の防衛は、本来フロンテックス(欧州対外国境管理協力機関・EU20ヵ国が装備と人員を拠出して組織)の役目だ。
そこで今、フロンテックスを1500人増員し、海と陸の監視を強めることが検討されている。
また、ちゃんと国境を守れないEU国に関しては、フロンテックスが介入する。
ところが、ここでまた事態は紛糾。
多くのEU国は、国境防衛は主権に基づくものであると考えており、フロンテックスの強権発動は認めない。
したがって、この懸案も詳細は詰められないままだ。
■ドイツのEU内での信望は急降下
揉めたテーマは他にもある。
ギリシャとイタリアの負担を軽減するため、そこに溜まっている難民をEU各国に分配しようという話が一向に進まない。
特に東欧の国々が消極的で、それどころかチェコは、強制的な難民の分配はEU基本法に違反するとし、欧州裁判所に訴えている。
一方で、そういう非協力的なEU国に対して何らかの経済制裁を加えようというタカ派と、制裁は良くないというハト派の意見がぶつかる。
また対ロシア制裁は6ヵ月延長が決まったが、ここでもまたドイツが波風を立てている。
その原因はエネルギー政策。
具体的には、ロシアからドイツへ直通で天然ガスを運ぶ海底パイプラインの建設計画だ。
「ノルト・ストリーム2」と呼ばれているこのパイプラインが完成すれば、ロシアからEUに来る天然ガスの80%がノルト・ストリーム1(すでに完成)と2に集中し、ドイツに届くことになる。
そうすると、これまで自国を通るパイプラインの使用料で稼いでいたポーランドやスロバキアは儲けがなくなるばかりか、おしなべてドイツのエネルギー支配下に組み込まれてしまう。
それどころか、EUの天然ガス供給は、将来、ドイツが一手に握ることになるに違いない。
当然のことながら、このプロジェクトでは、EU28ヵ国のうち26ヵ国が反対に回った。
賛成してくれているのはオランダ一国だけ。
反対派の先頭に立っているのはイタリアのレンツィ首相だ。
実は、イタリアとロシアの間にも、黒海経由の海底パイプラインの計画(サウス・ストリーム)があるのだが、それにはEUからストップが掛かっている。
またイタリアは、すでに何年も前から、地中海を渡ってくる難民に困り果ててSOSを発信していたが、それを冷たく突き放してきたのがドイツだったので、そういう意味でも恨み骨髄だ。
さらにいえば、ロシアと緊密な関係にあったイタリアは、対ロシア制裁で多大な損害を受けている。
それなのに、此の期に及んでドイツがロシアと手を結び、自分にだけ有利なパイプラインを、制裁を無視して(!)建設しようとしている。
レンツィ首相が反対派のボスとなってメルケル首相に戦いを挑むのも当然だろう。
ドイツのEU内での信望は急降下しつつある。
■EUはどこへ向かっているのか?
12月20日、スペインで総選挙があり、これまで30年間続いてきた中道右派と中道左派の二党政治が終焉を告げた。
新党が2党も割り込んできたのだ。
どの党も過半数には至らず、これからの連立交渉は混乱が予想されるが、興味深かったのは、急激に伸びた左派政党「ポデモス」の若き党首(37歳!)が選挙後初の演説で言ったことだ。
「スペインは二度とドイツの言いなりにはならない!」
スペインはギリシャと同じく、ドイツが主導した緊縮財政に今も苦しんでいる。
人々のドイツ人に対する感情は、ギリシャのそれと非常に似ているようだ。
12月9日に米タイム誌が発表した「今年の人」は、メルケル首相だった。
ただ、表紙に載った肖像画は好意的なものには見えなかった。
賞賛とも違う。それどころか、この政治家のこれからの不吉な運命を予言するような意地悪さが滲み出ていた。
選考の理由として、「障壁のないヨーロッパを維持・促進した指導力」が挙げられているが、アメリカは、メルケル首相がこの指導力によってEUを弱体化させたことを知っている。
メルケル首相の意向はどうあれ、今では、ドイツが人権や連帯と言えば言うほど、他のEU国の人心は離れていくようだ。
そしてEUは、どんどん閉鎖的に、利己的になっていく。
いずれにしても、今年はEUの限界が見え始めた年だった。
EUはいったいどこへ向かっているのか?
来年はきっと、その方向性がさらにはっきりと見えてくる"エキサイティング"な年になるだろう。
今年も一年、ありがとうございました。
皆様、どうぞお健やかな新年をお迎えください。
』
_