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ロイター 2015年 12月 17日 12:11 JST
http://jp.reuters.com/article/china-currency-devaluation-idJPKBN0U00AH20151217?sp=true
アングル:来年は想定以上の中国人民元急落リスクに要注意
[ロンドン 16日 ロイター] -
来年の外国為替市場における大きなリスクを探り当てたいのなら、中国人民元が想定以上に急落する事態に最も注意を払わければならない。
過去1カ月で大手銀行が発表した来年の見通しでは、人民元は向こう1年で5─7%下落するとの予想が大勢だ。
しかし中国が低迷する輸出のテコ入れ、つまり競争力回復を図る必要性に関心を向けていることや、中国人の根強い外貨建て資産への投資意欲を踏まえると、人民元の下落率は10%ないしそれ以上になるとの声もある。
ソシエテ・ジェネラルのグローバル金利通貨戦略責任者、ビンセント・シェノー氏は
「人民元安の整然とした動きが薄れていくことがリスクだ。
来年全体で1ドル=6.80元に下落するなら秩序ある動きといえるだろうが、それが3カ月で起きれば秩序性は薄まる」
と述べた。
足元のドル/人民元は6.47元前後で推移している。
人民元が急落すればどうなるかは今年8月11日、中国人民銀行(中央銀行)が3%の切り下げに踏み切った際の状況が参考になる。
金融市場は世界的に動揺をきたし、2週間足らずのうちに米国株が4年ぶりの大幅下落を記録した。
国際銀行間通信協会(SWIFT)のデータによると、人民元は今や国際決済通貨第4位の地位にあり、トムソン・ロイターとEBSという銀行間取引の2大プラットフォームでも取引高第5位となるなど、影響力は大きい。
■<資金流出加速か>
12月初めにロイターが実施した為替予測調査では、オンショア人民元の対ドル相場は1年後に6.55元まで下落するとの見通しが示された。
外為市場における上位6行の予想を見ると、バークレイズは6.90元、HSBCとドイツ銀行、JPモルガンはいずれも6.70元、シティは6.69元、UBSは6.80元だった。
JPモルガンのストラテジスト、ニコラウス・パニギルツォグロウ氏は
「中国は既に通貨を切り下げており、12月の資金流出額は恐らく大きい。
当局が人民元を特に実効レートベースでさらに押し下げようとすると仮定すれば、資金流出が一段と増えると考えるのが無難だ」
と話す。
同氏は、今後1年で中国から毎月300億─400億ドルが流出すると試算したが、今年8月や9月ほど劇的にはならないかもしれないとの見方を示した。
もっとも中国当局は人民元の動きを引き続きコントロールし、ドル建ての借り入れ額が大きい
中国企業の破綻を懸念して通貨安誘導はじわじわとしたペースでしか行わない、というのが銀行関係者の支配的な声だ。
中国は欧米投資家に対する国内証券市場の開放を着実に進めながらも、国内の貯蓄資金の海外投資は抑制する態勢にあることが分かっている。
投機筋からすれば、こうした国内資金をせき止める当局の「ダム」がどれぐらいで決壊し、人民銀行が制御不能と判断するのがいつになるのかが大きな問題といえる。
人民元は実効レートでなお15%程度過大評価されており、潜在的な人民元の下落とそれに伴う資金流出の余地があるとみるのはヘッジファンド、SLマクロ・パートナーズのディレクターのスティーブン・ジェン氏で、
中国の外貨準備3兆4400億ドルに対して中国人の外貨建て資産への需要規模も3兆ドルあると推計する。
ジェン氏は
「この種の投資として今年夏以降で既に5000億ドルが流出した可能性がある。
外貨準備は今後2─3年で2兆ドルまで減少を続けてもおかしくない」
と述べた。
このほか人民元安が進めば、欧米諸国にとって輸出業者が打撃を受けたり経済全般がデフレショックに見舞われる恐れがある、と別のロンドンを拠点とする複数のヘッジファンドマネジャーが懸念を表明した。
また輸出において中国の競争相手であるアジア各国は、人民元安に対応して自国通貨切り下げに動くかもしれない。
ただ、実際にどの国や地域が切り下げるかで見方は分かれている。
UBSはマレーシアリンギやインドネシアルピア、JPモルガンは台湾、シンガポールを候補に挙げた。
(Patrick Graham、Jamie McGeever記者)
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時事通信 (2015/12/19-09:27)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int&k=2015121900113
中国、IMF出資3位に=米議会が5年越し改革承認
【ワシントン時事】
米議会上下両院は18日、国際通貨基金(IMF)が2010年に決めた資本増強改革を承認した。
改革は新興国の発言権拡大が狙いで、中国の出資比率は現在の6位から米国、日本に次ぐ3位に浮上する。
IMFは16年1月に改革を実行に移す。
IMFは資金力を現在の2倍の約6600億ドル(約80兆円)に増やすほか、出資比率の6%強を先進国から新興国に移す。
1945年のIMF発足以来最大の組織改革となる。
ラガルドIMF専務理事は18日、「加盟国の金融危機に効果的に対応できるようになる」と述べ、米議会の承認を歓迎。
新興国の経済力を十分に反映することで体制を強化できると説明した。
IMFは10年、中国、インド、ロシアなどの要請を受けて改革を決定。
しかし、中国の台頭を警戒する米野党共和党が強く反対し、米議会が承認を拒否したため、5年にわたりたなざらしにされた。
新興国が米国の手続きの遅れに不満を募らせたことが、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立につながったとされる。
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ロイター 2015年 12月 10日 16:18 JST
http://jp.reuters.com/article/crudeoil-idJPKBN0TT0KX20151210?sp=true
焦点:2016年の最大のリスクは引き続き原油価格
[ロンドン 9日 ロイター] -
今年1年間、金融市場の主役がずっと原油価格だったように、2016年も同じ状況が続きそうだ。
しかし、あまりにも原油安の状況に慣れ親しんでしまうと、ここから改めてどこまで価格が落ち込むのか「新たな」リスクとして見当をつけるのが難しい。
金融市場は2014年中盤からエネルギー価格下落に伴うデフレの影響にお付き合いしている格好で、その副産物は多方面に広がっている。
全世界で石油関連株の時価総額は1兆ドル以上失われた。
2010年以降に発行されたエネルギーや鉱山企業の社債は約2兆ドル。
多くは小規模のシェールガス会社が発行した高利回りのいわゆる「ジャンク」債で、社債の格下げが相次いでいるほかデフォルト件数も増加している。
一方、原油安を発端とするデフレの恐怖が引き金となり、欧州中央銀行(ECB)は今年から債券買い入れプログラムの実施を余儀なくされた。
その結果、2兆ユーロに上る欧州の国債利回りはマイナス圏に沈んでいる。
新たな原油価格の持続的な下落が予想物価上昇率に与える影響は、米連邦準備理事会(FRB)のような引き締めに向かう中銀にとっても、また緩和継続中のECBにとっても同様に気がかりだ。
ロシアやブラジル、東南アジアのコモディティ輸出国に与えた打撃の規模はさらに大きい。
これらの国々の為替は急落し、2015年は1998年以来、初めて新興国市場から差し引きで資金が流出する見通しだ。
原油価格下落の規模を考えると、これだけ市場の多くのシナリオが狂った原因を見つけるのは難しくない。
2014年の6月以降、北海ブレント原油先物は1バレル115ドルから65%値下がりして40ドルまで下落した。
価格崩壊の多くは昨年後半の半年間に起きたが、
1].積み上がった供給過剰と
2].中国、新興国の急速な需要減速
が重なり、今年は相場が反発するとの期待は雲散霧消した。
原油価格が現状近辺にとどまり、せいぜい60ドル付近までしか反発しないとの見通しが続けば、関連する多くの国や企業には大きな問題となる。
来週米国の利上げが控えているのであればなおさらだ。
しかし、中東紛争から地政学、中央銀行の政策の「過ち」、市場流動性ショック、はたまたEU離脱を問う英国の国民投票まで、銀行が説明する市場リスクは数えきれないが、原油価格がここからさらに半値に落ち込むというリスクを挙げる人はごくわずかだ。
ブレント先物価格は今週40ドルを割り込み、米原油先物も37ドルを割り込んだ。
移動平均でみても55ドルを下回っており、1年半で半値まで下落した後も値下がりが続いている。
■<原油の新秩序>
原油相場に対して長期の弱気派であるゴールドマン・サックスは、2016年に相場が反発するか安定するとの見方は全く的外れであり、米原油先物価格は現状から約5割安の20ドルまで値下がりする可能性があるとみている。
同社は今週、「温暖な冬、新興国の成長鈍化、イランの国際制裁解除(の可能性)が原因でさらなる在庫積み増しのリスクがある。
れらの要素は近い将来、予想が下向き修正されるリスクがあることを示唆している」と顧客に呼びかけた。
原油価格が物流および貯蔵能力を超える水準まで下がれば、相場は崩壊して生産コストの1バレル=20ドルに突入する可能性があるというのだ。
もし、この想定が正しいと証明されれば、今年起きた市場の混乱は新たな局面を迎える。
しかも、世界の市場から外貨準備やエネルギー輸出国の稼いだオイルマネーが流出するするなど、市場のストレスは多くの面で増幅されるだろう。
こうした貯蓄の減少とFRBの利上げが重なると、コモディティの「スーパーサイクル」と債券市場の活況がともに反転し、時間とともに長期金利の上昇圧力は強まる。
サウジアラビア通貨庁の海外資産だけをみても、総額は前年比で1200億ドル以上減少した。
長引く原油価格の低迷と金利上昇が重なると、企業の信用度や新興国市場にとって有害な影響を及ぼすかもしれない。
格付け会社ムーディーズは、石油・鉱山企業の社債のデフォルト率は来年上昇し、これらの企業に「はかりしれない悪影響」が及ぶと予想。
ヘッジプログラムや固定価格契約、既存のキャッシュバランスの減少などが一時的な緩衝剤の役割を果たし、2015年にこうした事態の到来を遅らせたにすぎないと指摘した。
しかし、原油価格が回復せずにさらに下落した場合、事態は一変する可能性がある。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスのマネージング・ディレクター、ダニエル・ゲイツ氏は先週、
「流動性の縮小と資本市場へのアクセス制限によって、さらに多くの企業がデフォルトに近づいている」
と指摘した。
疲弊した新興国の株式や債券に回帰したいとウズウズしている投資家にとってのメッセージは明らかだ。
モルガン・スタンレーは今週、顧客に対して「2016年は引き続きガードを堅く」と警告している。
(Mike Dolan記者)
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JB Press 2015.12.21(月) 加谷 珪一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45567
原油安で本当は誰が泣き、誰が笑っているのか
サウジの究極的体力勝負で減産見送り、あの組織も大打撃
OPEC(石油輸出国機構)が減産見送りを決定したことで、原油価格は当分の間、低迷することがほぼ確実となった。
原油安は石油を大量に消費する先進国にとってはメリットが大きいが、物価上昇を抑制させるリスクがあるほか、新興国の経済にとっては直接的な打撃となる。
原油価格の動向は経済的な側面で報道されることが多いが、原油安の継続は、実は政治的なインパクトの方が大きい。
原油安の継続によって、ロシアやベネズエラなど資源価格に依存してきた反米的な国々の財政が危険な状態に追い込まれている。
また活動資金の多くを原油の密売に依存しているIS(イスラム国)にとってもそれは同じである。
結果論かもしれないが、想定外の原油安の継続は、米国にとってメリットが大きい。
■原油安はロシア経済を直撃
原油安でもっとも打撃を受けているのはやはりロシアだろう。
ロシアは世界的に見ても有力な産油国の1つである。
ロシアの原油産出量は1日当たり約1000万バレルとなっており、世界最大の産油国である米国やサウジアラビアに匹敵する産出量を誇っている。
だがロシアには目立った産業がなく、原油をはじめとしたエネルギー輸出以外に外貨を稼ぐ手段がない。
ロシアは2013年に年間約5000億ドルの輸出を行っているが、その7割は石油などエネルギー関連であり、原油だけでも約2500億ドルに達する。
2013年には原油価格が1バレル100ドル前後だったが、現在は40ドルを切る水準まで下落している。
単純計算すると、ロシアの輸出額は3割以上減少したことになる。
金額ベースでは毎年18兆円以上の損失だ。
これに加えてロシアはクリミア侵攻にともなう経済制裁を各国から受けており、通貨ルーブルは暴落している。
クリミア侵攻以前と比較してルーブルの対ドル・レートは半分に下落しており、ロシアからは資金流出が続いている。
ロシアには米国や欧州のようなグローバルな金融市場がなく、外貨の調達は海外市場か石油の輸出に限定されてしまう。
ロシアは軍事的オペレーションを継続するため、ドルなどの外貨を必要としているが、軍事的オペレーションによって外貨の獲得がさらに困難になるという皮肉な状況となっている。
ちなみにロシアは、近年、建艦技術の遅れが目立っており、自前で高性能な艦船を準備することができない状況にある。
このため、フランスから最新鋭の強襲揚陸艦2隻を購入し、うち1隻を北方領土対策として日本海に配備する予定だった。
だが西側による経済制裁の結果、購入計画は撤回され、揚陸艦を準備できない状況となっている。
ロシアでは10%を超えるインフレが続いており、ロシア中央銀行は一時、政策金利を10%台後半まで引き上げるという状況まで追い込まれた(現在は11%)。
国内では外貨建ての住宅ローンの返済ができずに破たんする人や、生活必需品の調達に苦慮する人も出てきている。
■ベネズエラの独裁政権は瓦解寸前に
ロシアと共に、原油価格下落の影響を大きく受けたのが、反米を掲げ、社会主義的な政策を強引に推し進めてきた南米のベネズエラである。
12月6日に行われた総選挙では、中道右派の野党連合民主統一会議が3分の2の議席を獲得し、大勝利を収めた。
同国では1998年、経済悪化などによる政治不信を背景に、軍人出身のチャベス氏が大統領に当選。
企業の国有化など社会主義的な政策を推し進めてきた。
外交的には「反米」を掲げ、キューバやロシア、中国に接近、チャベス氏は自らの政策を、南米諸国における独立運動の指導者であるシモン・ボリバルにちなんでボリバル革命と呼んだ。
一方、チャベス政権は民主主義者など野党勢力に対しては徹底的な弾圧を加えており、野党指導者であるロペス氏は身柄を拘束された。
チェベス氏は2013年にがんで死去したが、バス運転手出身の副大統領マドゥロ氏が大統領に就任、チャベス路線を継承している。
非民主的なチャベス路線が維持できた背景にあるのは、2000年代後半に進んだ原油高である。
ベネズエラは輸出の95%以上を石油が占めるという完全な石油依存型経済である。
原油価格の高騰で同国の財政は潤い、低所得者向けにバラマキ政策を継続したことで、チャベス路線に対する高い支持が続いた。
この風向きが変わるきっかけとなったのは、2014年から始まった原油価格の下落である。
原油価格の下落は、国家収入のほとんど原油に頼るベネズエラ経済を直撃した。
もともとベネズエラには目立った産業がなく、20%台の高いインフレ率が続いていたが、原油価格の下落によってインフレが加速、2014年のインフレ率は40%に達し、今年はすでに200%以上の高インフレ状態となっているとも言われる。
米国は以前から公然と反米を掲げるベネズエラへの対応に苦慮していたが、原油価格の下落によって、独裁政権は自壊し始めている状況である。
米国にとっては非常に好都合だ。
■ISは何とシリアに石油を売って資金を確保している
原油価格の下落は、目下最大の国際問題となっているIS(イスラム国)の活動にも影響を与えるかもしれない。
その理由は、ISの活動資金の多くが石油の密売によって得られているからである。
ISは国際的な密売業者を介して石油を輸出しており、これによって活動資金の多くを獲得している。
ISは国際的に孤立しているので、表向きはISから石油を買う国は存在しないはずである。
しかし、現実にISは石油の密売を行っており、相応の外貨収入を得ることに成功している。
そして、ISが主に石油を売っている先は何と敵対するシリアである。
シリアのアサド政権はISと内戦状態にあるが、シリア国内では油田の多くをISに制圧されており、石油を確保することができない。
このため、密売ルートを通じて、敵対するISから石油を買うという矛盾した状況に陥っている。
ISが外貨を欲しがるのは、当然のことながら外国製の武器を購入したいからである。
つまりシリアはISから石油を買うことで、ISが武器を購入するための貴重な外貨を提供していることになる。
最近ではこれに加えてトルコがISから石油を購入しているのではないかとの疑惑が持ち上がっている。
シリアとトルコの国境付近において11月24日、トルコ軍機がロシアの戦闘爆撃機を領空侵犯で撃墜するという事件が発生した。
ロシアはトルコの行動に対して激しく反発しており、プーチン大統領は、トルコのエルドアン大統領一家がISの石油密売に関与していると名指しで批判する事態となっている。
この話が本当なのかは不明だが、もし本当であれば、トルコも表面的には敵対しながら、背後ではISから石油を購入していることになる。
■減産見送りでISの財政は苦境に
ちなみに、ISは1日あたり4万バレル程度の石油生産能力があるといわれている。
現在、原油価格は1バレル40ドル前後で推移しているので、
ISは年間で6億ドル(720億円)ほどの収入を得ている計算だ。
密売価格のレートはもっと安いと考えられるので、現実的な金額はさらに少なくなる可能性が高いが、それでも500億円程度の収入はあるだろう。
さらにいえば、原油価格は今年の前半は約60ドル、昨年は100ドル前後の水準だったので、ISには今の2倍以上の豊富な資金が流れ込んでいたことになる。
これだけの金額があれば、近代的な兵器をある程度の水準まで装備することは難しいことではない。
逆に言えば、石油によるISの資金源を絶たないと、ISの活動を本当の意味で抑制することは難しいということになる。
その点で考えれば、今回のOPECによる減産見送りは、ISの活動能力を低下させる効果があるだろう。
原油価格が安ければ、わざわざ密売ルートの石油を欲しがるユーザーは減ってくるからだ。
また安い価格からさらに大幅にディスカウントすれば、純収益はさらに小さくなってしまう。
今回のOPECの決定は、
最大の産油国であるサウジアラビアが、究極的な体力勝負に出た
ことを意味している。
ロシアやベネズエラといった他の産油国はサウジアラビアと比較すると採掘コストが極めて高い。
こうした高コストな産油国の事業者が撤退するまで、減産は行われないだろう。
当分の間、ロシアとベネズエラそしてISは苦しい立場に置かれることになる。
■サウジが減産に応じない理由
一連のサウジアラビアの行動は、表面的には米国のシェールガス事業者を撤退させることが狙いといわれている。
だが、減産を見送るサウジと、減産を求める他の産油国との亀裂は大きく、OPECの内部はガタガタであるともいわれる。
産油国の盟主であるサウジアラビアが、OPECという組織を犠牲にしてまで、米国のシェールガス事業者と張り合う合理性は少ない。
欧米メディアでは、サウジが減産に応じないのは、米国との何らかの合意があるとの報道も一部にはある。
減産せず体力勝負に持ち込み、シェア争いで勝利するという戦略は、サウジ側のメリットを総合的に判断した結果だろう。
だが、明示的な合意はなくても、サウジ側がある程度、米国に恩を売る目的で、米国側の意向を汲んだことは想像に難くない。
米国は世界最大の石油産出国だが、一方で最大の石油消費国でもある。
原油価格の下落は、米国にとって最終的にはニュートラルか、消費拡大のメリットが上回る。
実際、原油価格下落後は、燃費の悪い大型車が飛ぶように売れており、新車販売は絶好調である。
これに加えて、ロシアとベネズエラが経済的苦境に陥り、ISの資金源にも制約が出るということであれば、米国にとってはメリットの方が大きい。
政策金利の引き上げで微妙な時期ではあるが、米国にとって原油安を積極的に転換させるインセンティブは少ないだろう。
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ニューズウイーク 2015年12月22日(火)15時30分 ブリアナ・リー
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/12/post-4278.php
南米の石油大国ベネズエラから国民が大脱走
石油頼みのチャベス主義が破綻、
インフレと物資の不足、
凶悪犯罪の増加が深刻で待望の議会選挙を前に国民の流出が止まらない
エクアドルの首都キト。
サラアイ・トティ(47)が鉄板の豚肉を裏返すと、おいしそうな香りが漂う。
彼女が作っているのは祖国ベネズエラの郷土料理。
小さな店で、客も少ないが、それでも彼女は幸せだ。
祖国ベネズエラでの彼女は人材関連の会社で働き、結構な給与をもらっていた。
しかし1年前に家も車も家財道具も売り払い、子供2人も連れてエクアドルに移り住んだ。
何カ月も前から何千、何万というベネズエラ人が国を逃げ出している。
ニコラス・マドゥロ大統領の率いる社会主義政権の下で、同国が深刻な経済危機に陥っているからだ。
原油の埋蔵量は世界一とされるベネズエラだが、今は世界で最も景気の悪い国の1つだ。
インフレ率は3桁台で、生活必需品も手に入らず、おまけに暴力犯罪がはびこっている。
国民が逃げたくなるのは当然だ。
それでも今月6日には注目の議会選挙が行われる。
国民が待ち望んでいた選挙で、99年に故ウゴ・チャベスが大統領に就任して以来初めて、野党が議席の過半数を制する可能性が高いとされている。
野党連合はベネズエラを持続可能な成長路線に戻すことを公約に掲げた。
野党の勝利となれば、それは過去16年にわたって同国を支配してきた「チャベス主義」(石油で稼いだ外貨と強硬な反米姿勢で国民の人気を取る政策)の終わりの始まりになるとの期待もある。
だが投票日の直前になっても、現在の状況に絶望した国民の流出は続いていた。
中には着の身着のまま、具体的な仕事の当てもないのに国を出て近隣諸国に逃げ込む人もいる。
この1年、ベネズエラ経済の見通しは悪くなる一方だった。
同国は外貨収入の95%を石油に依存しているが、原油価格の下落で外貨は底を突き、通貨ボリバルの為替レートは史上最低の水準にある。
米ドルの欠乏で輸入業者は代金を払えず、国内ではミルクやトイレットペーパーのような必需品の不足も深刻を極めている。
だから庶民は毎日の買い物でも、スーパーで何時間もの行列を覚悟しなければならない。
■30%が国外移住を検討
IMF(国際通貨基金)によれば、同国のインフレ率は今年、平均で約159%。
中南米地域の成長率は低迷している(今年の予想成長率は0.5%)が、ベネズエラのGDPは10%ものマイナス成長となる見込みだ。
マドゥロ政権は11月に、最低給与を月9649ボリバルへと30%引き上げた。
公定為替レートの1ドル=199ボリバルで計算すると、約48ドルになる。
だがボリバルの購買力の最も的確な指標とされる闇ドル市場の為替レートは現状で1ドル=890ボリバルくらい。
これで計算すると、改定後の最低給与でも約11ドルにすぎない。
これでは生活が成り立たない。
だからトティのように教養のある中産階級の人たちでも、財産のほとんどを売り払って現金に換え、別な国に移って一からやり直したくなる。
ちなみにトティの店はまだ客足が伸びないが、それでも家族が暮らしていくだけの収入はあるという。
ベネズエラの首都カラカスにある世論調査会社ダタナリシスによれば、国外への移住を具体的に考えている国民の割合は、10年前は4%だったが、現在は約30%と推定される。
そして最近、渡航費用をできるだけ抑えたい人の間で人気の高まっている国の1つがエクアドルだ。
エクアドルはたいていの国からの入国者に事前のビザ取得を求めていない。
だから渡航費用さえ工面できれば、いったん入国してからビザを申請すればいい。
今年の移住者数はまだ発表されていないが、同国に入国したベネズエラ人は昨年実績で8万8000人超。
13年の6万4000人よりだいぶ増えた。
もちろん、誰もが国外移住に賭けるわけではない。
移住など「見果てぬ夢」だという人もたくさんいる。
エクアドルに移った親戚の元を訪ね、バスでカラカスに帰る途中だという男性ホアン(58)は、今のベネズエラは「ひどい状況だ」と語った(身の安全のため姓は伏せてくれとの要望があった)。
食料品店の長い行列や官僚たちの腐敗、そして日常化した暴力犯罪の恐怖。
これじゃ国は悪くなるばかりだ、とホアンは嘆く。
ホアンはブリーフケースを開けて、ベネズエラでの暮らしに必要な大量の札束を見せてくれた。
50ボリバル札の分厚い札束は、バスターミナルから自宅までのタクシー代(米ドルで5ドルに満たない)だという。
移住を考えたこともあるが、国を離れるリスクは大き過ぎるとホアンは言う。
カラカスにいれば家があるし、経営するイベント会社も安定している。
全財産を売り払っても今の為替レートではろくな金にならず、移住先で路頭に迷いかねない。
■議会無視の政権運営も
だが国内に「守るべきもの」がある高齢世代と違って、若い世代はさっさと国を出ていく。
レイナ・チャン(25)は今年エクアドルに移住した。
知人や友人の大部分も、既にオーストラリアやコスタリカ、香港などに移ったという。
そんなチャンも、6日の議会選挙には一時帰国して参加し、野党に票を投じるつもりだと語っていた。
何しろ国の未来が懸かる歴史的な選挙だ。
投票前の全国世論調査では野党が63%の支持を集めており、議席の過半数を占めるのは確実。
マドゥロ罷免を求める国民投票が行われる公算が強い。
しかし、それがチャベス主義からの完全な脱却につながるのか、さらなる混乱を招くだけなのかは不明だ。
シンクタンク「ラテンアメリカに関するワシントン・オフィス」のデービッド・スミルド上級研究員によれば、野党が首尾よく議会を制しても、マドゥロ政権は大統領令の連発などで議会無視の政治を続ける可能性がある。
ビザなしでエクアドルに入ったばかりという33歳の男性は、今後のさらなる混乱に対する恐れが国を捨てたそもそもの理由だと語り、「事態が良くなるとは思えない」と吐き捨てた。
彼の友人や家族も、ベネズエラから逃げ出す方法を探しているらしい。
彼の姉は公務員で給与もよかったが、職場では定期的に、マドゥロ政権支持のデモ行進への参加を求められたという。
今は彼女も国を離れることを考えている。
「みんな、なんとかしてベネズエラを出たいんだ」
と、この男性は言う。
「そのためなら犠牲をいとわない覚悟だ」
[2015年12月15日号掲載]
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