『
JB Press 2015.12.8(火) 柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45454
真の「国際通貨」への道はほど遠い人民元
悲願のSDR入りを果たすも金融改革は不可欠
中国人民銀行の周小川・行長(総裁)は2009年にG20金融サミットを前に発表した論文「国際通貨体制改革に関する考察」で、IMFが準備資産の特別引出権(SDR)を改革すべきだと要求するとともに、人民元のSDR入りを目指す意向を表明した。
現在の国際金融における基軸通貨はドルである。
ドルは決済通貨としても貯蓄通貨としても絶対的な存在だ。
ユーロの誕生でドルの地位が揺らぐのではないかと思われたが、ユーロはドルを補完する存在にしかなっていない。
円も基軸通貨を目指したが失敗に終わった。
ユーロと円はいずれも自由兌換のできるハードカレンシーだが、基軸通貨ではない。
ユーロと円が基軸通貨になれない最大の原因は、ユーロ圏経済と日本経済の強さが不十分だからである。
基軸通貨になる条件は市場で十分な信頼を得ることであり、それを支えるのはその国や地域の経済である。
人民元は2016年10月からSDR構成通貨に採用されることが決まった。
だが人民元が基軸通貨になれるかは、中国経済が十分に強くなれるかどうか、金融改革を断行できるかどうかにかかっている。
■基軸通貨になる実力はまだない
中国はなぜ人民元のSDR入りにこだわるのだろうか。
近年、毎年2億人の中国人が世界を旅行してショッピングを楽しんでいる。
それに伴い中国人観光客の外貨需要が高まり、人民元兌換性の強化が求められている。
だが、人民元は今でも国際通貨ではない。
また、中国の国際貿易の大半はドル建てであるため、国際貿易は常に為替変動リスクにさらされている。
人民元が国際通貨としての地位を獲得するためにはどうすればいいのか。
その近道となるのがSDR入りである。
SDRはドル、円、ポンドとユーロという主要通貨から形成されるバスケットだ。
SDR構成通貨に採用されることで人民元は信用を高め、主要国通貨と肩を並べることができる。
これが、中国が人民元のSDR入りを目指す大きな理由である。
ただし、現段階においては人民元はまだ基軸通貨になる実力を備えていない。
人民元の最初の目標は、完全に自由兌換のできるハードカレンシーとなり、国際貿易において人民元建ての決済ウェイトを高めることだ。
次の目標は貯蓄通貨としての地位を固めることである。
だが、それを実現するには、中国経済の発展だけでなく、金融改革と透明な金融市場の構築が不可欠である。
市場においてもっとも嫌われるのは、政府による恣意的な市場介入である。
中国の場合、金融市場に大きなウェイトを占めているのは国有銀行である。
この現実を改革しなければ、人民元に対する信用は高まらない。
■IMFの最大の狙いはチャイナマネー?
SDRの構成通貨となるための最低必要条件は、一定規模の貿易量と市場型の金融システム(自由な利用可能性)の確立である。
★.人民元は、国際貿易量はIMFの条件をクリアしているが、
市場型の金融システムは確立していない。
それなのに、なぜIMFは人民元のSDR入りを認めたのだろうか。
アメリカは人民元のSDR入りに一貫して反対している。
それに対して、IMFには人民元のSDR入りを認める動きがあった。
実はIMFはほかの国際機関と同じように、メンバー国の出資とIMFの出費がバランスを取りにくくなっていた。
現状で、追加出資をしてくれそうな国といえば中国しかない。
IMFの論理は
「中国の金融改革は確かに不十分だが、人民元のSDR入りを認めて中国をグローバルコミュニティに取り入れ、その改革を促していく」
ということである。
これは一理ある考えだが、
IMFの最大の狙いはやはりチャイナマネー
のようだ。
■人民元の国際化までの長い道のり
前述したように、人民元のSDR入りは中国に大きなメリットをもたらすが、同時に、責任も発生する。
人民元がSDRに入ったからといって、自動的に国際通貨として認められるわけではない。
これからは国際金融市場における人民元の責任が問われるようになる。
今まで人民銀行は恣意的に為替介入ができたが、これからはやりにくくなる。
人民元のSDR入りの効果として、国際社会でもっとも期待されているのは、中国政府が金融改革を進めるよう圧力がかかることである。
人民元はさしあたって、自由兌換のできるハードカレンシーになることを目指している。
それを実現するには、資本取引を完全に自由化しなければならない。
しかし、資本取引を自由化するためには、まず国有銀行を民営化し、金利の自由化を実現する必要がある。
また、現在の人民元の為替政策の方針は、
「人民銀行が前日の通貨バスケットの為替レートを参考にして当日の中間値(基準値)を決定する」
となっている。
この記述のなかで重要なのは、人民銀行が為替レートの基準値を決定できる点だ。
為替レートの形成は市場に任せなければならないが、その前に、国有銀行を民営化しないといけない。
これは明らかに長い道のりになる。
中国が人民元の国際化を実現するまでには、いくつもの高いハードルを乗り越えなければならない。
おまけに中国政府が思い切って金融制度を改革し、金利の自由化も実現したとしても、人民元が国際化するかどうかは今なお未知数である。
通貨が国際化するということは、決済通貨や貯蓄通貨として国際的に使われるということ
である。
よって、人民元が国際化するには、人民元が海外へ出ていかなければならない。
つまり中国の資本輸出能力が試されることになる。
ドルが基軸通貨になれた重要な要素の1つは、
ドルがアメリカ以外の国で大量に流通したことである。
円の国際化が最終的に実現しなかったのは、円の使い勝手が悪かったり円に対する信用がなかったりしたわけではない。
大きな要因は、
円が海外へ出ていかなかった
ことである。
したがって、中国政府が金融改革を行ったとしても、人民元が国際化するかどうかは分からない。
最終的には中国の資本輸出能力にかかっている。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2015年12月8日 真壁昭夫 [信州大学教授]
http://diamond.jp/articles/-/82846
人民元のSDR採用でも中国リスクは変わらない
■円、ポンドをしのぐ国際通貨となった人民元
11月30日、IMF(国際通貨基金)は理事会で、予想通り中国人民元をSDR(特別引き出し権)に採用することを正式に決定した。
今回の決定によって、人民元はドル、ユーロ、円、ポンドと並ぶ国際通貨の地位を勝ち取ったことになる。
実際の採用は来年10月以降で、人民元はSDRの構成比の中で、ドル(41.73%)、ユーロ(30.93%)に次ぐ第3位=10.92%を占め、円(8.33%)とポンド(8.09%)をしのぐ国際通貨となる。
IMFは今回の決定と同時に、中国政府に対して人民元の国際化へ向けた改革を推進することを求めた。
現在でも、人民元の取引には中国政府の厳しい制限が課されている。
また、中国国内の人民元とドルへの交換は、中国人民銀行の設定するレートが使われることになっており、自由な取引が保障されているとは言い難い。
そうした状況にもかかわらず、IMFが人民元のSDR採用を決断した背景には、中国経済の規模が拡大し、世界の貿易に占める割合が飛躍的に増えたことがある。
IMFとしては、人民元を国際金融のルールの中に入れる方がコントロールしやすいとの読みもある。
問題は、IMFの決定を受けて、中国政府が人民元改革を本気で推し進める意図があるか否かだ。
金融専門家の中には、「今回の決定で、政府がすんなり改革を進めるとは考えにくい」との悲観的な見方がある。
中国政府としては、国際通貨のお墨付きを取得したことで一種の達成感を持つ可能性が高い。
やみくもに人民元の自由化を進めて、海外からの投資資金が逃避するような事態は避けたいはずだ。
人民元改革の速度は鈍化する可能性が高い
と見る。
■人民元は未だ国際通貨とは言えない
中国政府の改革も簡単には進まない
人民元は、依然として、中国政府の厳しい管理下に置かれている通貨であることに変わりはない。
そのため、国内で取引される人民元=オンショア元と、主に香港で取引されるオフショア元とは交換レートが異なっている。
つまり、国内と国外の市場で人民元の価値は異なっている。
本当の意味の国際通貨であれば、そうした事態は起こらないはずだ。
また国際通貨というからには、誰でも、いつでも自由に市場価格で交換できなければならない。
現在の人民元は、厳密な意味での国際通貨の条件を満たしているとは言えない。
だからこそ、IMFは今回の決定に際して、中国政府に人民元国際化の改革を求めた。
しかし、中国政府がその要請をすんなりと受け入れるとは考えにくい。
同国の金融市場は未成熟で、拙速に改革を断行しようとすれば短期的にかなり混乱が生じる可能性が高いからだ。
中国国内の預金金利と貸出金利は、今でも政策当局が設定する一定の枠内で運用されており、金利水準はかなり厳格に管理されている。
今後、規制金利は徐々に自由化の方向に向かうはずだ。
しかし、未だに多くの企業や金融機関が国や地方政府に運営されており、市場メカニズムが短期間にスムーズに浸透するとは考えにくい。
国内金融と人民元の自由化を同時に、促進することは中国経済にとってかなりの負担になる。
人民元の自由化を進めて海外からの投資資金が逃げ出すようなことになると、経済成長率の鈍化が鮮明化している中国経済を窒息させることも考えられる。
中国政府が、短期的にそのリスクを取ることはないだろう。
■台頭する“世界の異端児”を国際ルールで縛るためのSDR採用
★.それでもIMFが人民元の採用を認めたのは、
中国経済を国際ルールの枠組に入れておく方が得策だと考えたからだ。
人民元の国際通貨としての認知という“勲章”を中国政府に与える一方で、国際ルールに従う責任を自覚させることを選択した。
中国は、政治・経済の体制が他の主要国と大きく異なっている。
政策運営も共産党の一党独裁で、領土問題等の対外政策も独自性が極めて高い。
つまり、同国は世界の異端児なのである。
その異端児の存在感が小さければ無視できる。
ところが、予想外の展開で世界第二位の大国にのし上がってしまった。
経済力をバックに、強力な軍事力を持つに至っている。
その異端児=中国は国際ルールで抑えるしか、有効なコントロールの方法はない。
中国の存在感が増している理由の一つに、13億人の人口を抱える巨大消費市場だという点がある。
現在の世界経済を鳥瞰すると、リーマンショック以前の世界的な不動産バブルの後遺症もあり、
全体として供給能力が需要を上回っている。
そのため、多くの主要先進国は物価水準が上昇しにくい低インフレ状態が続いており、
景気の回復は期待されたほど進んでいない。
そうした経済状態を打開するためには、思い切った金融緩和策を取り、自国通貨を安く維持して輸出を振興することが手っ取り早い。
そこで注目されるのは巨大市場である中国だ。
つい最近まで同国は高い経済成長率を維持してきたため、国民の所得水準は全般的に上昇している。
所得水準が上がると、その分だけ購買力も上がる。
先進国で生産する相対的に高額な商品にも手が届くようになる。
それは、多くの先進国にとって無視できない魅力だ。
特に、少子高齢化問題等を抱える欧州諸国やわが国にとっては、大きな需要を見込める中国の重要性は高い。
■中国が抱える大きなリスク
振り回されないよう冷静な対応を
一方、中国にとっても、国際社会で発言力を高めるためには欧州諸国のサポートは重要だ。
そのため、利害の一致する英国やドイツは、足元で明確に中国に近づいている。
特に輸出依存度の高いドイツ企業の多くは中国へ積極展開をしている。
ドイツでは元々高い技術力を持つ企業が多く、国際的なマーケットシェアの向上を狙って早くから同国に進出していた。
中国とドイツは、互いの補完関係を上手く使うことができたと言える。
メルケル首相は頻繁に中国を訪問しており、習近平主席との会談もかなりの回数に上っている。
経済専門家の中には、ドイツの中国傾斜は進みいずれさらに強い結びつきになる可能性があるとの見方もある。
また、今後、人民元の改革が進んで国際市場で取引が多くなると、欧州圏で人民元の取引が集中することには大きなメリットがある。
人民元の取引集中を狙って、金融都市ロンドンを持つ英国と、ドイツ等の間で水面下のつばぜり合いが展開しているようだ。
一方、中国には無視できないリスクが存在する。
民主化の遅れている中国には、多くの民族が共存している。
その中には、共産党政権に不満を持つ人々は多いだろう。
特に、経済的な富の分け前を受けにくい農村の人々や、地方の生活者には不満が蓄積しているはずだ。
また、同国には主要先進国のような整備された社会保障制度が整っていない。
今後、経済の中に過大な生産能力や債務を抱えて、庶民の不満を抑えながら共産党政権が一党独裁体制を維持するのは容易なことではない。
わが国は、大きなリスクを抱える中国に対して冷静で、中長期的視点に立った対応が必要だ。
今後、中国はわが国と同じように人口問題に直面することになる。
中国経済は、高成長期を経て安定成長期に差し掛かる。
それが現実のものになると、民主化の遅れや未成熟な金融構造など様々な問題が顕在化する。
それが緩やかに進めばよいのだが、短期間に起きると、中国という国自体が大きく混乱する可能性がある。
そうした行方を冷静に見極めながら、しっかり是は是、非は非と主張すべきだ。
感情論で動いたり、短期的な視点での行動を続けたりしていては、中国に振り回されるだけかもしれない。
それは避けなければならない。
』
JB Press 2015.12.8(火) 柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45454
真の「国際通貨」への道はほど遠い人民元
悲願のSDR入りを果たすも金融改革は不可欠
中国人民銀行の周小川・行長(総裁)は2009年にG20金融サミットを前に発表した論文「国際通貨体制改革に関する考察」で、IMFが準備資産の特別引出権(SDR)を改革すべきだと要求するとともに、人民元のSDR入りを目指す意向を表明した。
現在の国際金融における基軸通貨はドルである。
ドルは決済通貨としても貯蓄通貨としても絶対的な存在だ。
ユーロの誕生でドルの地位が揺らぐのではないかと思われたが、ユーロはドルを補完する存在にしかなっていない。
円も基軸通貨を目指したが失敗に終わった。
ユーロと円はいずれも自由兌換のできるハードカレンシーだが、基軸通貨ではない。
ユーロと円が基軸通貨になれない最大の原因は、ユーロ圏経済と日本経済の強さが不十分だからである。
基軸通貨になる条件は市場で十分な信頼を得ることであり、それを支えるのはその国や地域の経済である。
人民元は2016年10月からSDR構成通貨に採用されることが決まった。
だが人民元が基軸通貨になれるかは、中国経済が十分に強くなれるかどうか、金融改革を断行できるかどうかにかかっている。
■基軸通貨になる実力はまだない
中国はなぜ人民元のSDR入りにこだわるのだろうか。
近年、毎年2億人の中国人が世界を旅行してショッピングを楽しんでいる。
それに伴い中国人観光客の外貨需要が高まり、人民元兌換性の強化が求められている。
だが、人民元は今でも国際通貨ではない。
また、中国の国際貿易の大半はドル建てであるため、国際貿易は常に為替変動リスクにさらされている。
人民元が国際通貨としての地位を獲得するためにはどうすればいいのか。
その近道となるのがSDR入りである。
SDRはドル、円、ポンドとユーロという主要通貨から形成されるバスケットだ。
SDR構成通貨に採用されることで人民元は信用を高め、主要国通貨と肩を並べることができる。
これが、中国が人民元のSDR入りを目指す大きな理由である。
ただし、現段階においては人民元はまだ基軸通貨になる実力を備えていない。
人民元の最初の目標は、完全に自由兌換のできるハードカレンシーとなり、国際貿易において人民元建ての決済ウェイトを高めることだ。
次の目標は貯蓄通貨としての地位を固めることである。
だが、それを実現するには、中国経済の発展だけでなく、金融改革と透明な金融市場の構築が不可欠である。
市場においてもっとも嫌われるのは、政府による恣意的な市場介入である。
中国の場合、金融市場に大きなウェイトを占めているのは国有銀行である。
この現実を改革しなければ、人民元に対する信用は高まらない。
■IMFの最大の狙いはチャイナマネー?
SDRの構成通貨となるための最低必要条件は、一定規模の貿易量と市場型の金融システム(自由な利用可能性)の確立である。
★.人民元は、国際貿易量はIMFの条件をクリアしているが、
市場型の金融システムは確立していない。
それなのに、なぜIMFは人民元のSDR入りを認めたのだろうか。
アメリカは人民元のSDR入りに一貫して反対している。
それに対して、IMFには人民元のSDR入りを認める動きがあった。
実はIMFはほかの国際機関と同じように、メンバー国の出資とIMFの出費がバランスを取りにくくなっていた。
現状で、追加出資をしてくれそうな国といえば中国しかない。
IMFの論理は
「中国の金融改革は確かに不十分だが、人民元のSDR入りを認めて中国をグローバルコミュニティに取り入れ、その改革を促していく」
ということである。
これは一理ある考えだが、
IMFの最大の狙いはやはりチャイナマネー
のようだ。
■人民元の国際化までの長い道のり
前述したように、人民元のSDR入りは中国に大きなメリットをもたらすが、同時に、責任も発生する。
人民元がSDRに入ったからといって、自動的に国際通貨として認められるわけではない。
これからは国際金融市場における人民元の責任が問われるようになる。
今まで人民銀行は恣意的に為替介入ができたが、これからはやりにくくなる。
人民元のSDR入りの効果として、国際社会でもっとも期待されているのは、中国政府が金融改革を進めるよう圧力がかかることである。
人民元はさしあたって、自由兌換のできるハードカレンシーになることを目指している。
それを実現するには、資本取引を完全に自由化しなければならない。
しかし、資本取引を自由化するためには、まず国有銀行を民営化し、金利の自由化を実現する必要がある。
また、現在の人民元の為替政策の方針は、
「人民銀行が前日の通貨バスケットの為替レートを参考にして当日の中間値(基準値)を決定する」
となっている。
この記述のなかで重要なのは、人民銀行が為替レートの基準値を決定できる点だ。
為替レートの形成は市場に任せなければならないが、その前に、国有銀行を民営化しないといけない。
これは明らかに長い道のりになる。
中国が人民元の国際化を実現するまでには、いくつもの高いハードルを乗り越えなければならない。
おまけに中国政府が思い切って金融制度を改革し、金利の自由化も実現したとしても、人民元が国際化するかどうかは今なお未知数である。
通貨が国際化するということは、決済通貨や貯蓄通貨として国際的に使われるということ
である。
よって、人民元が国際化するには、人民元が海外へ出ていかなければならない。
つまり中国の資本輸出能力が試されることになる。
ドルが基軸通貨になれた重要な要素の1つは、
ドルがアメリカ以外の国で大量に流通したことである。
円の国際化が最終的に実現しなかったのは、円の使い勝手が悪かったり円に対する信用がなかったりしたわけではない。
大きな要因は、
円が海外へ出ていかなかった
ことである。
したがって、中国政府が金融改革を行ったとしても、人民元が国際化するかどうかは分からない。
最終的には中国の資本輸出能力にかかっている。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2015年12月8日 真壁昭夫 [信州大学教授]
http://diamond.jp/articles/-/82846
人民元のSDR採用でも中国リスクは変わらない
■円、ポンドをしのぐ国際通貨となった人民元
11月30日、IMF(国際通貨基金)は理事会で、予想通り中国人民元をSDR(特別引き出し権)に採用することを正式に決定した。
今回の決定によって、人民元はドル、ユーロ、円、ポンドと並ぶ国際通貨の地位を勝ち取ったことになる。
実際の採用は来年10月以降で、人民元はSDRの構成比の中で、ドル(41.73%)、ユーロ(30.93%)に次ぐ第3位=10.92%を占め、円(8.33%)とポンド(8.09%)をしのぐ国際通貨となる。
IMFは今回の決定と同時に、中国政府に対して人民元の国際化へ向けた改革を推進することを求めた。
現在でも、人民元の取引には中国政府の厳しい制限が課されている。
また、中国国内の人民元とドルへの交換は、中国人民銀行の設定するレートが使われることになっており、自由な取引が保障されているとは言い難い。
そうした状況にもかかわらず、IMFが人民元のSDR採用を決断した背景には、中国経済の規模が拡大し、世界の貿易に占める割合が飛躍的に増えたことがある。
IMFとしては、人民元を国際金融のルールの中に入れる方がコントロールしやすいとの読みもある。
問題は、IMFの決定を受けて、中国政府が人民元改革を本気で推し進める意図があるか否かだ。
金融専門家の中には、「今回の決定で、政府がすんなり改革を進めるとは考えにくい」との悲観的な見方がある。
中国政府としては、国際通貨のお墨付きを取得したことで一種の達成感を持つ可能性が高い。
やみくもに人民元の自由化を進めて、海外からの投資資金が逃避するような事態は避けたいはずだ。
人民元改革の速度は鈍化する可能性が高い
と見る。
■人民元は未だ国際通貨とは言えない
中国政府の改革も簡単には進まない
人民元は、依然として、中国政府の厳しい管理下に置かれている通貨であることに変わりはない。
そのため、国内で取引される人民元=オンショア元と、主に香港で取引されるオフショア元とは交換レートが異なっている。
つまり、国内と国外の市場で人民元の価値は異なっている。
本当の意味の国際通貨であれば、そうした事態は起こらないはずだ。
また国際通貨というからには、誰でも、いつでも自由に市場価格で交換できなければならない。
現在の人民元は、厳密な意味での国際通貨の条件を満たしているとは言えない。
だからこそ、IMFは今回の決定に際して、中国政府に人民元国際化の改革を求めた。
しかし、中国政府がその要請をすんなりと受け入れるとは考えにくい。
同国の金融市場は未成熟で、拙速に改革を断行しようとすれば短期的にかなり混乱が生じる可能性が高いからだ。
中国国内の預金金利と貸出金利は、今でも政策当局が設定する一定の枠内で運用されており、金利水準はかなり厳格に管理されている。
今後、規制金利は徐々に自由化の方向に向かうはずだ。
しかし、未だに多くの企業や金融機関が国や地方政府に運営されており、市場メカニズムが短期間にスムーズに浸透するとは考えにくい。
国内金融と人民元の自由化を同時に、促進することは中国経済にとってかなりの負担になる。
人民元の自由化を進めて海外からの投資資金が逃げ出すようなことになると、経済成長率の鈍化が鮮明化している中国経済を窒息させることも考えられる。
中国政府が、短期的にそのリスクを取ることはないだろう。
■台頭する“世界の異端児”を国際ルールで縛るためのSDR採用
★.それでもIMFが人民元の採用を認めたのは、
中国経済を国際ルールの枠組に入れておく方が得策だと考えたからだ。
人民元の国際通貨としての認知という“勲章”を中国政府に与える一方で、国際ルールに従う責任を自覚させることを選択した。
中国は、政治・経済の体制が他の主要国と大きく異なっている。
政策運営も共産党の一党独裁で、領土問題等の対外政策も独自性が極めて高い。
つまり、同国は世界の異端児なのである。
その異端児の存在感が小さければ無視できる。
ところが、予想外の展開で世界第二位の大国にのし上がってしまった。
経済力をバックに、強力な軍事力を持つに至っている。
その異端児=中国は国際ルールで抑えるしか、有効なコントロールの方法はない。
中国の存在感が増している理由の一つに、13億人の人口を抱える巨大消費市場だという点がある。
現在の世界経済を鳥瞰すると、リーマンショック以前の世界的な不動産バブルの後遺症もあり、
全体として供給能力が需要を上回っている。
そのため、多くの主要先進国は物価水準が上昇しにくい低インフレ状態が続いており、
景気の回復は期待されたほど進んでいない。
そうした経済状態を打開するためには、思い切った金融緩和策を取り、自国通貨を安く維持して輸出を振興することが手っ取り早い。
そこで注目されるのは巨大市場である中国だ。
つい最近まで同国は高い経済成長率を維持してきたため、国民の所得水準は全般的に上昇している。
所得水準が上がると、その分だけ購買力も上がる。
先進国で生産する相対的に高額な商品にも手が届くようになる。
それは、多くの先進国にとって無視できない魅力だ。
特に、少子高齢化問題等を抱える欧州諸国やわが国にとっては、大きな需要を見込める中国の重要性は高い。
■中国が抱える大きなリスク
振り回されないよう冷静な対応を
一方、中国にとっても、国際社会で発言力を高めるためには欧州諸国のサポートは重要だ。
そのため、利害の一致する英国やドイツは、足元で明確に中国に近づいている。
特に輸出依存度の高いドイツ企業の多くは中国へ積極展開をしている。
ドイツでは元々高い技術力を持つ企業が多く、国際的なマーケットシェアの向上を狙って早くから同国に進出していた。
中国とドイツは、互いの補完関係を上手く使うことができたと言える。
メルケル首相は頻繁に中国を訪問しており、習近平主席との会談もかなりの回数に上っている。
経済専門家の中には、ドイツの中国傾斜は進みいずれさらに強い結びつきになる可能性があるとの見方もある。
また、今後、人民元の改革が進んで国際市場で取引が多くなると、欧州圏で人民元の取引が集中することには大きなメリットがある。
人民元の取引集中を狙って、金融都市ロンドンを持つ英国と、ドイツ等の間で水面下のつばぜり合いが展開しているようだ。
一方、中国には無視できないリスクが存在する。
民主化の遅れている中国には、多くの民族が共存している。
その中には、共産党政権に不満を持つ人々は多いだろう。
特に、経済的な富の分け前を受けにくい農村の人々や、地方の生活者には不満が蓄積しているはずだ。
また、同国には主要先進国のような整備された社会保障制度が整っていない。
今後、経済の中に過大な生産能力や債務を抱えて、庶民の不満を抑えながら共産党政権が一党独裁体制を維持するのは容易なことではない。
わが国は、大きなリスクを抱える中国に対して冷静で、中長期的視点に立った対応が必要だ。
今後、中国はわが国と同じように人口問題に直面することになる。
中国経済は、高成長期を経て安定成長期に差し掛かる。
それが現実のものになると、民主化の遅れや未成熟な金融構造など様々な問題が顕在化する。
それが緩やかに進めばよいのだが、短期間に起きると、中国という国自体が大きく混乱する可能性がある。
そうした行方を冷静に見極めながら、しっかり是は是、非は非と主張すべきだ。
感情論で動いたり、短期的な視点での行動を続けたりしていては、中国に振り回されるだけかもしれない。
それは避けなければならない。
』
『
2015年12月14日(月) 真壁 昭夫
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46863
SDR採用で進む人民元安。
中国政府のリスキーな「実験経済」は成功するのか?
■さらなる切り下げもありうる
12月11日、中国人民銀行(中央銀行)は、人民元(CNY)とドルとの
交換に使う基準レートを「1ドル=6.4358元」に設定した。
これは8月11日の人民元切り下げ後、最も低い基準値だ。
海外のオフショア市場でも2011年8月上旬以来の人民元安が進んでいる。
今回の人民元安は、通貨の国際化を進めるための第一歩と考えられる。
IMFは、人民元をSDR(特別引き出し権)の構成通貨に採用し更なる改革を求めた。
中国政府は、そうした指摘を簡単には無視できない。
いまのところ、市場が人民元をどう評価するのかを探ろうとしているのだろう。
ここで重要になるのが、世界経済にショックを与えることなく、中国政府が通貨制度の改革を進められるか否かだ。
これまでの経緯を振り返ると、改革に伴うショックが起きる可能性は排除しきれない。
今年8月11日、中国政府は、突然、人民元を切り下げた。
その行動は市場を混乱させた。
一方、11月30日、IMFは人民元をSDR構成通貨として認め、引き続き通貨制度の改革を求めている。
経済の実力に合った為替レートの決定のために、自由な取引制度が求められている。
おそらく、さらなる人民元切り下げの可能性もある。
こうした動きを背景に市場が神経質になるなか、中国の政府・中央銀行は市場が人民元をどう評価するのかを探ろうとしている。
そのために基準値を切り下げ、市場の反応を見定めようとしているのだろう。
それは「リスクのある実験」というべき取り組みだ。
基準値の切り下げを受けてオフショア人民元(CNH)の下方リスクは高まりやすいだろう。
それが中国への懸念を追加的に掻き立て、新興国通貨の下落など市場の混乱、リスクオフにつながるシナリオは十分に考慮した方がよさそうだ。
■改革は容易ではない。にもかかわらず・・・
では、人民元の改革はどの程度のスピードで進むのだろうか。
地方債の発行など中国が進めてきた金融自由化を前提にすると、当局は相応のスピード感を持って為替レートの一本化と自由な取引制度を整備しようとするはずだ。
基本的には、中国の改革は世界経済の不安定さを増幅させやすいと考えた方がよい。
この理由を、中国の政策手腕、景気動向の2点から確認しておこう。
1].中国の市場安定化策の手腕は未熟だ。
それは市場原理を活用しながら混乱を避けようとするものではない。
人為的に市場の売り圧力を封じ込めようとしている。
これでは、一時的に市場が落ち着いたとしても、潜在的な売り圧力は残ってしまうだろう。
国有企業の再編に対しても、政府の指導が決定権を持つ。
市場原理すら政府の考えに従うべきというのが中国流の改革の在り方だと考えた方が良いだろう。
2].景気は減速している。
11月末の中国の外貨準備残高は「3.44兆ドル」に減少した。
理由は、人民元の過度な下落を制御するために為替介入を行ったからだろう。
先行きの景気は弱含みやすく、人民元に対する売り圧力も高まりやすい。
結果的に、相場安定のための為替介入は正当化され、管理通貨制度の改革は進みづらいのかもしれない。
以上、改革は容易ではない。にもかかわらず、IMFは人民元をSDRに採用し、さらなる取り組みを求めた。
そこには、中国を国際金融の檜舞台に引っ張り出した方が、市場原理の導入など、改革を進めやすいという考えがあったのだろう。
しかし、主要国の意向通りに動かないのが中国だ。
APECでも海洋進出を不問にするなど、自国の考えを周りに強要しつつ、国際社会での主導権を握ろうとしている。
そのため、今後もチャイナリスクが市場を混乱させることになるはずだ。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2015年12月25日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/83823
莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見
“国際通貨”人民元による日本への挑戦が行きつく先
11月30日、IMF(国際通貨基金)が人民元をSDR(特別引出権)の構成通貨として採用すると正式に決定した。
中国のメディアはそれを「歴史的な一歩」と評価し、民間でも人民元が国際通貨へと大きな一歩を踏み出したと見て歓迎している。
SDRは国際的な主要通貨で構成される架空のバスケット通貨だ。
外貨不足に備えた各国の準備資産を補完する手段のひとつとして活用されている。
現状ではドル(構成比率41.73%)、ユーロ(同30.93%)、円(8.33%)、ポンド(8.09%)の4通貨のみで構成されている。
この4通貨のいずれも国際通貨の中でも世界的に評価が高いハードカレンシーだ。
その意味では、SDRは国際通貨のエリートクラブと言われるほどの存在だ。
IMFのこの決定により、人民元は来年10月にようやくこのクラブに入ることができると言えよう。
しかも、人民元がドル、ユーロに次ぎ、新たに10.92%の比率で入ることになる。
先輩会員の円、ポンドをいきなり抜いての堂々3位だ。
だから、一部のメディアは、
「経済の減速、株価のバブルとその崩壊など、必ずしも明るい知らせばかりではない中国にとっては国威発揚にもつながる」
と報じている。
実際、日本国内にも、長い間、人民元のSDR入りが不可能と見る世論が一部ながら、存在していた。
実際
、「いずれにせよ、IMFのSDRに人民元が認証されるなんて、あり得ない未来だと言えるでしょう」
と公言するところもあった。
しかし、人民元が国際通貨になる道のりはまだまだ険しいものがある。
国際通貨の仲間入りといっても、人民元の国際通貨としての現時点での実力は必ずしも高いとは言えない、と指摘する声がある。
その意味では、人民元が国際通貨としての実力を発揮するには、中国経済の健全化と安定化が不可欠だと言えよう。
直近の課題としては、経済低迷からの脱出が必要だ。
■ジンバブエによる人民元の法定通貨採用が意味すること
一方、農村から都会を包囲する中国革命が成功を収めた秘訣のように、人民元の国際通貨への道のりもその傾向を見せている。
数日前に、筆者の目を惹いたニュースがある。
中国がジンバブエとの関係をさらに強化するため、年内に期限を迎える債務4000万米ドル(約48億5000万円)の返済を免除した。
一方、ジンバブエは自国の新たな法定通貨として人民元の採用を決め、2016年から現在流通している米ドルなどと併用させると予告した。
中国に対する負債も今後、人民元で返済することになった。
ジンバブエは2012年時点の統計で、総人口が約1372万人。
タバコや綿花などが主な農産物だ。
鉱産物としてプラチナ、クローム、ニッケル、金、ダイヤモンドなどを採掘しているが、近年、経済が非常に厳しい状態にある。
元法定通貨のジンバブエドルは15年に廃止することになった。
その代わり、米ドルや南アフリカ・ランド、英ポンドが通貨として流通している。
こういう状態で人民元を法定通貨に指定したことは、中国の債務放棄へのお返しであると同時に、ドルによる経済のコントロールからの一種の対抗策または逃避策でもある、と言えよう。
■国際通貨を目指した人民元の長かった闘い
中国メディアの報道によれば、アフリカでは一部の国々が中国との金銭決算においては、すでに人民元を使用している。
たとえば、南アフリカは中国との貿易においては、30%以上の金額を人民元で決済している。
しかし、ここまでやってきた人民元の国際通貨化の道のりは波乱万丈そのものだった。
1997年、アジア金融危機が発生した際、ジョージ・ソロスなどが率いるヘッジファンドが一斉に資金逃避したため、タイをはじめとするアジア諸国は貨幣の為替レートが軒並み暴落し、経済が壊滅状態に陥ってしまった。
そのとき、人民元は頑として切り下げせずにアジア金融危機の嵐の襲来に耐え抜いた。
当時、中国のこの措置を「アジア金融の防波堤」と評価する声もあった。
自由に両替できず、1978年の改革・開放以来、暴落し続けて中国国民のなかでも人気がなかった人民元ははじめて注目の存在となり、その動きがアジア、そして世界の関心の的となった。
一方、アジアの代表通貨の座を目指して、これまでの地位を強固にしようと動く円と日増しにその存在感を強めつつある人民元もその辺から激しい攻防戦を始めた。
やはりその頃から、中国では「亜元」という言葉がやけに目につくようになった。
米ドルのことを中国では“美元”と呼ぶ。
ユーロは“欧元”。
だから、この“亜元”とは、アジアン・ドルのことを言う。
■国境を越えた人民元は日本への挑戦を加速する
当時、経済の持続的な高度成長によって自信を高めた中国国内は、次第にアジアの統一通貨「亜元」を語り始めた。
2003年5月29日に発売された「ファーイーストエコノミックレビュー」も、「The New Asian Dollar」というタイトルで中国の通貨人民元の台頭に関する特集を組んだ。
中国経済の成長の勢いをそのまま保っていけば、GDPが2010年にドイツを、20年には日本を超えてしまうだろう、現在中国領土外に流通している人民元はすでに300億元を超えており、いずれはドル、円、ユーロと並ぶ第4のハードカレンシーとなるに違いない、というのがこの特集の主な論調だ。
当時、私も自分がもつコラムのなかでこうした動きを取り上げた。
北京の学者からも、
「私たちはまず東アジア自由貿易地域(EAFTA)を築くことから、東アジア貨幣(EAC)を作ればいい」
といった大胆な提案が出された。
しかし、日中間の政治的確執が続く中で、「亜元」を作りだす環境が形成できなかった。
そこで人民元は「ファーイーストエコノミックレビュー」が描いた予想図の通り、ドル、円、ユーロと並ぶハードカレンシーの方向へ舵を切った。
12年前に、「亜元」を取り上げたコラムの中で、私は、「日本はこれから製造業だけでなく、金融の面でも中国からの挑戦を受けることになるだろう」と予言したが、人民元が国境を越えたいまは、まさに、日本は日増しに、中国から金融面の挑戦を受けている。
さて、これからはどうなっていくのか。
興味津々だ。
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サーチナニュース 2015-12-30 14:00
http://biz.searchina.net/id/1598539?page=1
人民元は国際通貨たり得るか
2015年11月30日、国際通貨基金(IMF)は、国際金融と外国為替相場の安定を目的に人民元を来年10月に5番目の国際通貨(ドル・ユーロ・円・ポンド)に加えることを発表した。
今や中国は世界で一番の輸出大国なのだから、当然のことと思われる。
ただ、私の周囲の中国人の意見を聞くと、今回のIMFの決定を必ずしも歓迎しているとは思えない。
今回は、筆者が過去に感じた中国の貨幣、人民元の社会的な信用性についてまとめてみた。
1].信用できない中国銀行
「時々ニセ札がでてくるから気をつけてください」。
私が2年前に北京の民族大学に語学留学した際、中国の友人が私にくれたアドバイスだ。
ニセ札がどこからでてくるかというと、大学構内にあった中国銀行のATMからである。
中国銀行は日本の都市銀行と同様、国の貨幣経済を管理しているはずである。
その中国銀行からニセ札がでてくるのであるから、たまったものではない。
ただ、今でも100元紙幣は必ずどの商店でも透かしの確認をしているのがいい例であろう。
元来、性悪説をとる中国人だが、銀行も信用しないのが原点にある。
2].在日中国人ですら信用していない中国という国家
私には月に2回通っている鍼灸院がある。
先生は中国人で奥さんは日本人、日本にはもう20年住んでおられ、私が中国のことに興味を持っていることもご存じで、この話題になった。
彼にこの話をすると、「信用できない」と断言された。
中国国民は自国を信頼していないというのだ。
中国が人民元の相場を世界市場に委ねるというのは、もともと無謀な話なのかもしれない。
中国政府はこれまでどちらかというと、一貫して穏やかな改革を進めてきた。
人民元がSDR通貨(特別引き出し権)に採用され、世界の仲間入りという満足感がある一方で、為替介入を最小限に留める義務がでてくる。
彼は、中国政府にそんなことは期待できないと言う。
先進国のように金融の自由化ができておらず、まったく信用できないと。
3].試される政府の規制緩和
12月10日、中国人民元は4年4カ月ぶりに安値をつけた。
経済減速の余波が波及したに違いない。
加えて為替介入を最小限に留めた結果かもしれない。
今年の成長率は7%前後で推移したが、通貨供給量は10月末までに目標を少し上回った。
融資を増やし、景気を下支えるするように政府が促した結果とみられる。
しかし、これもどれだけの透明性や効率化が図られたのかは未知数だ。
人民元がドルのような信頼される国際通貨になる日が訪れることはあるのだろうか。
人民元の本当の実力が試されるのはこれからだ。
(執筆者:大森啓司・日本経営管理教育協会会員 編集担当:水野陽子)
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