お金は利益を求めている。
利益がないときは、減らないような安定を求める。
お金にとっての大敵は「損」である。
世界にお金が溢れている。
そのお金が利益をもとめて徘徊している。
アメリカの金利ゼロによってアメリカでは利益を生まなくなった。
結果、お金は2つの処へ流れた。
石油と中国である。
それにより、イスラム国と中国の驚異的発展が生まれた。
ところが今、この2つが利益を生まなくなってきている。
お金を産まなくなった国は民族主義化する。
軍事的先鋭化に走る。
世界の震源は現在この2つに絞られている。
その原因はアメリカのゼロ金利政策による、お金の放浪である
世界にはお金と同時にモノが溢れている。
単純に言えばインフレはモノが少なく、お金が多い状態。
デフレとはモノが多くて、お金が少ない状態。
では、お金もモノも多い状態、つまり2つとも多い場合はなんとすればいいのか。
近代経済学では
「経済成長」を推進しろ
の一点張り。
それしか論理がない。
経済成長ってなんだ?
端折って言えば
「弱インフレを創出して、モノを買わせる」
こと。
方法は2つ。
一つはモノを少なく市場に流すこと、
あるいは新規なモノ、現市場にはないモノを供給して消費意欲をそそるようにすること。
もう一つはお金を大量に供給してモノを買いやすくすること。
これには基本条件がある。
消費者はモノを欲しがっているはずだ!
という前提である。
モノがない社会は近代経済学が威力を発揮する。
モノをほしがる消費者がうじゃうじゃいるからだ。
だが、モノが溢れている社会では近代経済学は無力だ。
状況を把握することすらできない。
近代経済学というゆがんだ論理で現実をみようとするから、ヒズミはどんどんおおきくなって最後は訳が分からなくなっている。
それが、「今の姿」である。
例えば、日本では車は売れない。
せいぜい軽自動車。
車は足代わりで、移動の手段にしか過ぎない。
それ以上の欲はない。
欲がない限り、モノは売れない。
しかし、中国では売れる。
モノのない時代から、モノを持てる時代に入ってきている。
モノを持つというこれまで満たされなかった欲望が沸騰している。
モノを持つというのはステータス、すなわちメンツになる。
より豪華なものを好むようになる。
そこでモノが売れる。
十分にモノを持ってしまった連中はいかにモノを持たないかということに腐心し始める。
これでは近代経済学は成り立たない。
「モノを持つ」
という大前提が崩れるからである。
では、なぜモノを持ってしまった連中はモノをもちたがらないのか。
腹空き状態なら料理を出されると何でも食える。
満腹状態だと食えない。
日本は満腹状態にある。
いくらうまい料理をつってみたところで、食いたいとは思わない。
近代経済学は、現在、いかにうまいモノを作って消費を喚起させるかに努力を傾注している。
しかし、いくらうまくっても食えないものは食えない。
大前提が違うのである。
日本人に食わせるには、無理に口を開けさせ流し込むしかなくなっている。
でも、そんなことできるはずがない。
よって、近代経済学は日本ではあまり有効ではない。
近代経済学というのは空腹経済学であって、満腹経済学ではないからだ。
「モノとカネが溢れている世界」ではどうなるのだ?
アメリカの利上げによって、お金はアメリカに向かう。
僅かな金利では利益は見込めない。
いま、お金が求めているのは利益ではなく「損をしない」ということだ。
アメリカの利上げはこの
「利益は生まないが、損をしないという安心」
を提供してくれる。
●アメリカ、9年ぶりの利上げの狙いは?
『
BBC News 2015.12.17 視聴時間 02:37
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45583
米FRB、9年ぶり利上げを決定 街には住宅建築の音
アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)が前回利上げを実施した時、iPhoneは存在せず、「twitter」とは鳥のさえずりを意味する言葉に過ぎなかった。
2015年の暮れも押し迫った16日に、FRBが実に9年ぶりに利上げを決定した背景には、深刻な金融危機と長い不況から回復してきた経済への自信と期待がうかがえる。
』
2015.12.19(土) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45587
FRBの利上げ後に市場で注視すべきリスク
米国の金融システムの再均衡に向けた最初の一歩
(2015年12月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ジャネット・イエレン氏は米国経済を低利資金中毒から引き離し始めた。
だが、最近の経済統計の内容がまちまちなことから、エコノミストの間では、金利を0.25%引き上げた米連邦準備理事会(FRB)議長の決断の是非について意見が割れている。
FRBが直面する課題について異なる視点を求めるのであれば、ワシントンの別の一角に目を向ける価値があるだろう。
金融調査局(OFR)である。
FRBの利上げ発表の直前にOFRは米国の金融の健全性に関する初の金融安定性報告書を公表したが、概ね見過ごされてしまった。
それは残念なことだ。
米財務省から派生したOFRは、2008年の危機後に金融リスクを評価するために創設された。
そして今回の報告書は、数年に及ぶ超低金利が金融システムを目立って歪めたことを明らかにしている。
新たな危機を引き起こすことなく、こうした歪みに対処するためには、イエレン氏には並外れたスキル――および幸運――が必要になる。利上げに対する市場の反応は見事なまでに落ち着いているように見えるかもしれないが、金融システム全体にとって本当の試練は始まったばかりだ。
金融においては、投資家が注視する必要のある分野が少なくとも3つある。
■見過ごされている信用バブル
★.1つ目は、超緩和型の政策がこれから収縮しかねない信用バブルを生み出したという事実だ。
こうした信用バブルは住宅ローンと銀行という2000年代のバブルの中心にいたセクターで生じたわけではないため、当時ほど関心を集めなかった。
だが、国際決済銀行(BIS)が今月書いたように、新興国市場では、2008年以降、債務が大幅に増加している。
また、OFRは先日の報告書で次のように述べている。
「我々の評価では、米国の非金融企業部門の信用リスクは高水準で、増大して」
おり、その水準は
「基準金利の上昇が借り換えリスクを生み出し・・・潜在的に広範なデフォルト(債務不履行)サイクルを引き起こす可能性がある」
ところまで達している。
幸い、銀行は損失をしっかり吸収できる立場にあるように見える。
だが、デフォルトの大量発生は、伝染と市場のボラティリティー(変動)を引き起こす恐れがある。
とりわけ、危機後の規制は、銀行が非企業セクターでマーケットメーカー(値付け業者)になる――つまり、投資家が売買を望んだときに売る、または買う用意があるということ――意欲を失い、問題の金融商品を売買するのが難しくなったことを意味するからだ。
■投資家のポートフォリオの状態
★.注視すべき2つ目の分野は、投資家のポートフォリオの状態だ。
近年、資産運用会社は信用リスクが比較的高い長期資産を買うことで利回りを追求しようとした。
これが債券ポートフォリオの「デュレーション」――金利上昇に対する脆弱性のこと――を歴史的な高水準まで高めた。
実際、OFRは米国の長期金利がたった1%上昇しただけで、米国を拠点とする債券ミューチュアルファンド(投資信託)と上場投資信託(ETF)でヘッジされていない2140億ドルの損失が生じる恐れがあると試算している。
ここでもやはり、システム全体としては、恐らくこれを吸収できるだろう。
しかし、特に銀行もデュレーションを増大させたことから、やはり伝染を引き起こす恐れがある。
■マネー・マーケットに潜むリスク
★.懸念される3つ目の分野は、近年、マネー・マーケット(短期金融市場)の不透明な世界で密かな変化が起きていることだ。
危機以前は、多くの資産運用会社、企業、銀行がマネー・マーケット商品に余剰資金を投じていた。
だが最近、この資金は銀行とFRB自体のバランスシートに押し寄せた。
このためFRBが通常の政策手段でマネーの価格をコントロールするのが難しくなっている。
マネー・マーケットにおける資金の流れがもたらす別の効果のために、FRBの利上げが大混乱を引き起こすかもしれない。
クレディ・スイスのアナリスト、ゾルタン・ポーザー氏は、数千億ドルの資金が間もなく銀行からMMF(マネー・マーケット・ファンド)に戻る可能性があり、FRB(など)が必死に理解しようとしている潜在的に不安定な悪影響をもたらすかもしれないと見ている。
これら3つのポイントだけが市場における課題ではない。
また、FRBが今利上げすることが間違っていることを意味するわけでもない。
それどころか、マネーがあまりにも長い間、人為的に安く抑えられていたからこそ、歪みが生じたのだ。
利上げはとうの昔に起きているべきだった――少なくとも金融界にとっては、そうだ。
とはいえ、イエレン氏と同僚たちが今、滑りやすい危うい道を歩いているという事実を無視することはできない。
向こう数カ月でFRBの高官らは投資家と借り手に、資金コストがついに安定した速度で上昇していること、それに従ってポートフォリオを調整すべきだということを納得させなければならない
(多分にこれは、まだ完全には実現していない。市場は来年、2度の利上げだけを織り込んでいるが、FRB高官らは4度の利上げを予期しているように見える)。
■イエレン議長に必要な政策
FRBは1994年の再現を避ける必要もある。
当時はFRBが2%以上も金利を引き上げ、その結果、10年債利回りが1年で3%以上跳ね上がった。
もしこれが再び起きたら、OFRが警鐘を鳴らしているデフォルトと債券ファンドの損失を引き起こすことになるだろう。
金融システムのためにイエレン氏が必要としているのは、市場とFRBの金利が徐々に、あるいは「ちょうどいい」スピードで上昇する「ゴールディロックス(適温)」政策である。
同氏がこれを実現できることを祈った方がいい。
それまでは、喝采は時期尚早だ。
By Gillian Tett
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』
JB Press 2015.12.20(日) 武者 陵司
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45595
9年ぶりの米利上げに見る2つの風景
米国の「明」と中国の「暗」
■(1)明──米国で見られる新時代の萌芽
★.労働と資本の余剰、顕著に減少
2006年以来9年ぶりの米国の利上げは、米国経済がリーマン・ショックの後遺症を完全に払しょくした自信の表れと言える。
リーマン・ショック後の大不況の困難は、2000年以降のIT革命の進行による生産性の上昇により生まれた余剰労働力、余剰資本が2007年まで建設部門(=バブル産業)に吸収されていたものが、バブルの崩壊により一気に顕在化し、戦後最大の失業・賃金停滞とカネ余り・低金利を引き起したことにある。
(カネ余り・低金利の原因は各国中央銀行による量的金融緩和であるとする見解が多くみられるが、それは見当違いであろう。
量的金融緩和がもし打ち出されなかったら、各国の経済不況は一段と深刻化し、資本はリスク回避を強めて安全資産である現金・国債に集中し、さらなる金利低下をもたらしたであろう。
低金利は量的金融緩和があろうとなかろうと起こっていた事であり、それはより深い歴史的現実~IT革命による資本余剰~に起因していると言える。)
この労働力と資本の余剰が、辛抱強い量的金融緩和によりほぼ解消しつつある。
図表1は失業率推移であるが2009年のピーク10.0%から直近では5.0%まで低下した。また図表2により米国企業のフリーキャッシュフローを見ると、2000年以降の大幅な余剰がほぼなくなっている。設備投資額の増加が好調なキャッシュフローに追いついてきたためである。
2000年以降急低下していた労働分配率が底入れから上昇に転じ始めた(図表5)。
この労働分配率の低下こそ、企業収益を歴史的水準に押し上げた(図表6)主因であり、企業の過剰貯蓄の根本原因でもあった。
★.IT革命下のライフスタイルの向上、個人サービス需要の急拡大
さて、労働分配率の低下を引き起したものこそIT革命であったと考えられるが、そのIT革命が依然進行する中に労働分配率の低下が止まったとすれば、その理由は何なのか。
それは労働需給が改善し、賃金上昇に弾みがつき始めたからに外なるまい。
米国の雇用がどこで増加したのかを図表8で見ると、教育医療、専門サービス、娯楽観光など、ひとえに個人向けサービス分野であることが鮮明である。
IT革命の下でのイノベーションと個人のライフスタイルの向上が進行し、個人向けサービス需要が急増しているのである。
情報化時代の新ビジネスモデルと新ライフスタイルが垣間見える。
在宅勤務、ビジネスマンの兼業の一般化、アウトソーシングの一般化、新ネットワークビジネスの誕生、ネットによる物流が主チャンネルになりつつあることなどにより、個人生活の一層のフレキシブル化が進行している。
実際、米国の個人消費をけん引しているのがサービス分野であることは、図表9のISM非製造業指数の上昇を見ても明らかである。
企業収益段階にとどまっていたIT革命の成果がようやく個人のライフスタイルを変え、生活水準の一段の向上に結び付きつつあり、それは米国において歴史を画する情報ネット新時代の萌芽が見られ始めていると評価できる。
米国流の新ライフスタイルの向上と個人生活水準向上は、今後ユーロ圏や日本などに伝播していくものと見られる。
★.いち早くデフレ危機から脱出へ
米国においてはデフレに陥る危機は去ったと考えられる。
米国の長期金利が日欧のそれを1%以上、上回って推移しているのはそれを如実に示している。
それは米国株式の高バリュエーションにも表れている。
12月16日の米国利上げを可能にしたものは、そうした労働余剰と資本余剰の顕著な減少であった。
★.人民元不安を強めるか
他方、米利上げが悪影響をもたらす最大の懸念は、人民元の不安定化であろう。
景気失速が止まらない中国にとって、元安は自然で、かつ望ましい。
第一に、大きく落ち込んでいる輸出を立て直すためには輸出競争力の回復が必要である。
図表12に見るように、今や中国の人件費はアジア新興国の中で最も高くなり、中国からASEANなど他国への工場移転が急速に進行している。
元安はその流れを食い止めるためには必須である。
第二に、至上命題である不動産バブル崩壊を回避するための度重なる金融緩和を実効性のあるものにするためにも、元安が望ましい。
元高を維持するための元買いドル売り介入は、国内の金融緩和を相殺してしまう。
とはいえ、8月のIMFの勧告に基づく為替変動幅拡大を理由とする元安誘導は市場の大パニックを引き起こし失敗した。
そうした中での米利上げは元安を希求する中国当局にとって、格好の口実となりえる。
中国当局がその誘惑にかられないとも限らない。
★.元安は両刃の剣
しかし、元安は中国にとって両刃の剣である。
それによって巨額の資本流出に歯止めがかからなくなる恐れがあるからである。
中国の巨額の外貨準備の過半は対外債務に基づくものであり、
ひとたび中国で経済失速不安、
バブル崩壊不安、
元下落不安が起きれば、
巨額の対中国投資資金が堰を切ったように流出する恐れがある。
また中国人自身も資本の海外逃避を加速させるだろう。
そうなると人民元相場はアンコントローラブルの急落となる可能性がある。
元の急落は設備過剰に悩む中国企業を輸出ドライブに駆り立て、
市況下落を引き起すばかりか
輸出先国のシェアを奪うことで世界中にデフレ圧力を高める。
また中国国内では外国資本の引き上げが金融をタイトにし、バブル崩壊を促進するという経路も考えられる。
巨額の海外資本に依存してきた中国にとって、人民元の扱いはアキレス腱なのである。
つまり、今回の利上げが引き起こす最も危険な連鎖は、可能性は低いものの中国人民元急落にあると言える。
(*)本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」より「第152号(2015年12月18日)」を転載したものです。
(*)本記事の情報に基づく損害について株式会社日本ビジネスプレスは一切の責任を負いません。投資対象および銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、必ずご自身の判断でなさるようにお願いします。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2015年12月21日
http://diamond.jp/articles/-/83565
米利上げで世界経済を覆う三つの不安
ついに米国が利上げに踏み切った。
利上げは、自動車や住宅などの消費を冷え込ませ、景気腰折れのリスクをもたらすとともに、ブラジルなどの新興国市場のマネーを流出させ、新興国経済の混乱を招きかねない。
実に9年半ぶりとなる利上げは、金融緩和に浸り切った世界経済にどのようなインパクトを与えるのだろうか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)
米連邦準備制度理事会(FRB)は12月16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、ついに利上げに踏み切った。
政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0~0.25%から0.25~0.50%に引き上げた。
2008年秋のリーマンショックを受けて導入したゼロ金利が、いよいよ解除される。
利上げそのものは、図のように、06年6月以来、実に9年半ぶりだ。
なぜ利上げに踏み切ったのか。
小野亮・みずほ総合研究所主席エコノミストは、
「FRBは、今なら米国経済が利上げに耐えられると判断した」
とみる。
米国経済は09年6月を底に景気拡大局面が続いている。
リーマンショックの非常事態から脱した以上、金利水準も元に戻すのが当然の流れだった。
それでも、イエレンFRB議長が利上げに慎重な姿勢を取ってきたのは、利上げによる影響が大きいためだ。
金利が上がれば、自動車や住宅などの消費を冷え込ませ、景気を腰折れさせてしまう恐れもある。
それだけに、消費を支える要素の一つとして、イエレン議長は雇用を重視してきた。
15年11月の失業率は5%、ほぼ完全雇用といわれる。
パートタイマーなどを含めた失業率も下落傾向を見せており、賃金も上昇している。
これが利上げ後も景気拡大が持続するという自信になったのだろう。
FOMCでは10人のメンバー全員が利上げに賛成した。
もっとも、マーケットはすでに今回の利上げは織り込み済みで、焦点は利上げのペースに移っている。
イエレン議長は明言しなかったものの、
「16年内に2~4回というのがマーケットのコンセンサス」(村田雅志・ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)とみられている。
実際、FOMC参加者によるFF金利の見通し(中央値)は16年末が「1.375%」となっており、0.25ポイントずつ4回の利上げを見込んでいるとみられる。
ネガティブなサプライズがなかったことで、マーケットには安心感が広がり、12月16日のNYダウの終値は1万7749ドルと、前日より224.1ドル上がった。
米国の景気が利上げできるほど底堅いことが好感されたもようだ。
日本時間17日朝の東京市場でも、日経平均株価は大きく上げて始まった。
足元では、米国の利上げという不透明な要素が払拭されたことで、マーケットは落ち着いている。
しかし、9年半ぶりの利上げは、世界経済の先行きに、新たな三つの不透明要素をもたらしている。
■中国経済減速に米利上げが追い打ち
苦境の新興国経済
第一は、新興国経済の減速懸念だ。
利上げは、短期金利の上昇につながり、短期資金が好む資源などのコモディティや新興国への投資意欲を減退させ、コモディティ価格や通貨の下落につながる。
米国の利上げを織り込んで、新興国通貨の下落が始まっている。
通貨安で輸出競争力が高まるのならいいが、インドネシアなどのように輸入依存度が高い国は、輸入品価格の上昇からインフレ圧力が高まる。
その結果、景気が悪くても利上げせざるを得ず、さらなる景気減速を招くことになる。
こうした事態を警戒して、通貨安が進んでいる南アフリカ共和国などは利上げに踏み切っている。
前回の利上げサイクルが始まった04年は、中国経済の拡大とそれに伴う資源価格の上昇による経済成長で、新興国経済が受けるダメージは相殺され、大きな問題にはならなかった。
だが今回は、減速する中国経済が新興国経済にダメージを与えており、利上げが追い打ちを掛けることになる。
第二は、金利上昇による過度なドル高進行の懸念だ。
FRBは債券の償還で得た資金を、債券に再投資してバランスシートの規模を維持しており、利上げしたものの金融緩和は続けている。
このような政策対応によって、今のところ米国の長期金利は落ち着いている。
しかし、マーケットを完全にコントロールすることは不可能であり、急激な金利上昇からドル高が進行する懸念は拭えない。
欧州中央銀行と日本銀行が引き続き大規模な金融緩和を続けていることもドル高を助長する。
行き過ぎれば、輸出を冷え込ませ、米国経済の減速につながる可能性も排除できない。
第三は、利上げによる米国景気の腰折れ懸念だ。
イエレン議長は12月16日の会見で、繰り返し家計部門の強さを強調し米経済に対する自信を表明したが、労働生産性の鈍化で、完全雇用の割に実質賃金の伸びは鈍く、消費の先行きは楽観できない。
今回の利上げは、金融政策正常化への第一歩にすぎない。
FRBは不透明な要素を抱えながら、引き続き金融緩和の出口を模索していくことになる。
』
『
ダイヤモンドオンライン 2015年12月22日 真壁昭夫 [信州大学教授]
http://diamond.jp/articles/-/83646
米国利上げで浮上する世界経済の失速リスク
■米国は利上げで“パンドラの箱”を開けた
12月16日、米国FRBは9年半ぶりに政策金利を引上げ、
7年に及ぶゼロ金利政策を解除した。
今回のFRBの決定は大きなイベントであったが、それによって世界経済が抱える問題が解決されたわけではない。
むしろ、多くの問題が詰まった箱=“パンドラの箱”のふたを開けてしまったと考えた方がよい。
金融緩和策によって、今まで箱の中に押し込めていた問題が逃げ出し、徐々に問題点が顕在化する可能性が高いからだ。
今、世界経済が抱える問題を数え上げると、それこそ枚挙に暇がない。
まず、懸念されるのは米国経済だ。
ドル高や原油価格の下落などの問題を考えると、米国経済の行方は必ずしも順調というわけではない。
2009年7月以降、回復してきた米国経済には、そろそろ陰りの兆候が見え始めている。
今後、住宅や自動車のローン金利が上がると、堅調な消費活動が落ち込む可能性もある。
また、わが国やEUが金融緩和を継続する中で、米国が金利を引き上げて金融政策の正常化に動き出した。
主要国間の金利格差などを通して、世界の投資マネーが米国に引き寄せられることも想定される。
さらに、新興国、特に多額の債務を抱えた諸国の経済は心配だ。
既に金融市場では、トルコなど一部の新興国に信用不安の懸念が生じている。
そうした問題がさらに拡大すると、世界経済の足を引っ張ることは避けられない。
重要なポイントは、金融政策が変更される中で、米国経済が世界を牽引するパワーを維持できるか否かだ。
それができないと、世界経済は再び下降トレンドに落ち込む可能性が高くなる。
■ドル高、原油下落、ジャンク債──
最大のリスクは米国経済の先行き
今後の世界経済が抱える、最も大きなリスク要因は米国経済の落ち込みだ。
世界を牽引しているのは間違いなく米国経済であり、その減速が鮮明化すると世界全体にマイナスの影響が及ぶことは避けられない。
FRBの政策変更によって、今後、ローン金利が上昇すると、足元で堅調な住宅や自動車の販売にマイナスの影響が出る。
それが現実のものになると、米国の消費活動全般に頭打ち傾向が出て景気の先行きに不透明感が強まる。
また、米国経済は三つのリスク要因を抱えている。
一つ目はドル高だ。
自国通貨が強含むことは輸出企業にとって大きなマイナス要因となる。
足元の米国の輸出実績を見ても、悪影響が徐々に顕在化している。
しかも、今回のFRB利上げによって、わが国や欧米、さらには新興国との金利差が拡大する可能性が高い。
金利策の拡大がさらに進むと、一段のドル高傾向が考えられる。
それは、米国の輸出企業には大きな痛手になる。
二つ目は、原油価格の下落だ。
現在、シェールオイルの開発で、米国は世界最大の産油国になっている。
原油価格の落ち込みは、米国の企業業績全般にもマイナスの影響を与える。
また、中小のエネルギー関連企業が、低格付けの社債=いわゆる“ジャンク債”で資金調達をしていることを考えると、ジャンク債市場の落ち込みは金融市場全般にも無視できないマイナスインパクトがある。
そして三つ目は、循環的要因だ。
2009年の年央から本格的回復に入った米国経済は、既に6年を超える上昇過程を歩んでいる。米国経済とて永久に上昇することはできない。そろそろピークを迎えることも想定される。
■利払い費増、投資資金流出
ドル高に脆弱な新興国経済
今回のFRBの金利引き上げが、最も大きなマイナスの影響を与えるのは新興国だ。
ドル金利が上昇すると、多額の債務を抱える新興国には金利支払い負担が一段と重くなる。
少し長い目で見ると、新興国の中には負担増に耐えられない国が出てくるだろう。
既に金融市場では、トルコなど一部の国の信用状態に対する懸念が出ている。
米国金利の上昇によって、投資資金が一部の新興国から米国に回帰する=リパトリエーションが本格化する可能性もある。
投資資金の流出で、経済活動に悪影響が及ぶことが懸念される。
また、新興国通貨が下落する場合には、当該国の輸入物価が上昇してインフレ率が高まることも予想される。
そうした弊害を食い止めるため、メキシコやチリなどはFRBの金利引き上げに伴って自国の金利を引き上げた。
これらの国の景気は必ずしも良好なわけではない。
むしろ、仕方なく政策金利を引き上げざるを得なかった。
ただ、金利を引き上げると、当該国の経済にはブレーキがかかり景気をさらに冷え込ませることも考えられる。
今回のFRBの利上げで、ドルと自国通貨を連動させているサウジアラビアや香港など、ドルペッグ制度の諸国も金利の引き上げを行なわざるを得なくなっている。
特に、中東諸国は原油安の影響で一段と財政状況の悪化が懸念される。 今後、ブラジルやコロンビアなど、中南米諸国もFRB利上げに追随する可能性がある。
こうした動きがさらに拡大すると、新興国の経済は一段と下落傾向を辿ることになる。
新興国経済の落ち込みは、原油など資源価格の下落などを通じて世界経済をさらに下押しすることになるはずだ。
■ECB追加緩和も日銀緩和補完も効かず
金融緩和策はそろそろ限界に
米国と並んで、景気の先行きに大きなリスクを抱える国を忘れてはならない。
それは中国だ。
中国経済の減速懸念はやや低下しているものの、来年以降も景気の緩やかな減速は避けられないだろう。
最近の共産党政権の方針は、成長率の鈍化よりも経済構造の変革を優先する姿勢が見える。
李克強首相は、機能が低下したゾンビ企業を淘汰して、経済全体が抱える過剰設備を整理することを明言している。
その方針には合理性はあるものの、短期的には景気の下押し材料になる。
中国政府が本気で経済構造の改革を断行すると、成長率はさらに鈍化して輸入にさらにブレーキがかかる。
中国向けの輸出比率の高いブラジルやオーストラリアなどの資源国、IT関連部品の輸出が多い台湾や韓国などには痛手になるはずだ。
世界経済が抱えるリスク要因を考えると、それらを顕在化させずに順調な景気回復の過程を辿ることは難しくなるだろう。
今までわが国やEUをはじめ多くの諸国が、経済活動を支えるために思い切った金融緩和策を取ってきた。
しかし、わが国やECB(欧州中央銀行)の緩和策にもそろそろ限界が見え始めている。
その証拠に、12月3日のECBドラギ総裁の追加緩和策、同18日の日銀黒田総裁の補完策の効果はかなり限定的になっている。
それらの政策対応に対して、金融市場はむしろ“期待外れ”として失望感を表明している。
今回のFRBの金利引き上げについても、これから米国経済がピークを打って、下落局面に入った時の政策余地を作ることが目的との指摘もある。
いずれにしても、今後の世界経済は米国次第で、米国景気の回復が続く間は、それなりの堅調さを維持することは可能だろう。
逆に、その命綱が切れた時には、世界経済はかなり厳しい状況に追い込まれる可能性がある。
その時は、わが国経済も例外ではありえない。
』
『
サーチナニュース 2015-12-30 16:56
http://biz.searchina.net/id/1598576?page=1
中国のゾンビ企業が中小企業の発展を阻害、
断を迫られる中国政府
生産能力の過剰や過剰在庫は中国政府が2016年も取り組まなくてはならない問題だ。
中国メディアの参考消息網は24日、豪州メディアの報道を引用し、生産能力の過剰問題の解決のために痛みが生じることは避けられないと伝えた。
生産能力の過剰は中国の鉄鋼業や造船業さらにセメント製造業などで大きな問題となっている。
そして生産能力の過剰は多くの「ゾンビ企業」を生んでいる。
ゾンビ企業とは、経営を続けることが難しく、本来は破産・倒産しているはずの企業が銀行の融資や政府資金によってかろうじて生き長らえている企業を指す。
報道によればゾンビ企業の多くが中国国有企業だ。
これら経営難に陥っている国有企業が銀行から大量の融資を受けている一方で、民間の中小企業は銀行の融資という「希少資源」を利用することができないでいる。
そのため中小企業はやむをえず金利が2桁という高利貸しを利用するという状況がよく見られる。
ゾンビ企業が中小企業の発展を阻害している状況だ。
記事は、中国政府は「つかの間の痛み」か「長期的な痛み」かのどちらかを選択しなくてはならないと指摘。
もし今、ゾンビ企業を整理するならば「つかの間の痛み」で済む。
しかし今後もゾンビ企業を支援し続けるなら経済全体とりわけ銀行部門に相当な悪影響が及ぶと警告している。
癌細胞は早期発見、早期手術が鉄則だ。先延ばしにすればそれだけ苦しみは大きくなってしまう。
特効薬がないのであれば、つかの間の痛みを選ぶのが唯一の方策だ。
鉄鋼業などの国有企業で生産能力の過剰を解消するためには従業員の削減も必須だが、規模が大きすぎるため労働者や社会への影響を考慮するとなかなか踏み切れないというのが現状だろう。
中国政府の決断がいま求められている
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