2015年9月3日木曜日

天津大爆発:経済損失は1兆4000億円以上

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レコードチャイナ 配信日時:2015年9月2日(水) 20時40分
http://www.recordchina.co.jp/a118014.html

<天津爆発>経済損失は1兆4000億円以上、
保険金支払額は約2000億円に
=中国ネット「何を根拠に?」

 2015年8月31日、中国・天津市で12日夜に発生した爆発事故で、ドイツの経済専門サイトはその経済的損失が1兆4000億円以上になると予想した。
 中国誌・中国経済週刊が伝えた。

 16日付のジャーマン・ファイナンス・オンラインは天津爆発事故の経済的損失を数十億ユーロから100億ユーロほどになると予想。
  24日の外国為替レートでは1ユーロは約7.32元であったことから、損失額は史上最高の730億元(約1兆4600億円)に上る計算になる。
 また、保険会社から企業や個人に支払われる保険金の総額は50億元(約1000億円)から100億元(約2000億円)ほどの史上最高額になるとみており、保険業界にも深刻な影響を及ぼすと指摘している。

 この報道に対し、中国のネットユーザーからは
 「じゃあ、残りの600億元(約1兆2000億円)は誰が賠償するんだ?」
 「国民1人当たり50元(約1000円)の負担か」
 「730億元?中国の国内総生産(GDP)の20分の1じゃないか。
 それでも『経済には影響が出ない』なんてよく言えるな」
などのコメントが寄せられた。



WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年09月07日(Mon)  富坂 聰 (ジャーナリスト)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5334

天津爆破事件
大衆が望む「正しいお裁き」
幕引き急ぐ当局

   8月末から9月にかけて北京を訪れた。
 中国の友人たちと日中それぞれの国での最近のトピックを話題とするなかで、意外にも中国人に大うけしたのが天津港の爆発事故に関連する日本での報道についてだった。
 
■「江沢民派が仕掛けた攻撃?」 
日本の報道を笑う中国の人々

 「あれは日本では江沢民派が仕掛けた攻撃だといわれているよ」

 こう告げると中国の友人たちは、みな腹を抱えて笑うのだ。
 日本に留学した経験があり、日本びいきの元官僚は、
 「東京オリンピックのエンブレムのパクリ問題といい日本社会が劣化してるんじゃないか」
 と心配顔になった。日本と関係の薄い中国人は、
 「それなら中国にも負けないくらい馬鹿げた話があるよ」
 といってこんな話をするのだった。

 「天津での事故が報じられた直後、湖南省の一人の失業中の青年が、
 『天津の爆発は、私の犯した間違いだった。
 でも、私は後悔していない』
とネット上に書き込んで身柄を押さえられるっていう騒動があったんだ。
 湖南省公安庁の下に設けられたネット安全保衛技術偵察総隊がウィチャット上で発信した捜査情報で明らかにしたことだ。

 ご丁寧に『工場の社長が自分を薄給で酷使したことだ』と動機まで綴っていたんだけど、犯行については、『燃料の入ったドラム缶の近くにあった固形の揮発性物質に自らライターで火をつけて逃げた』というん
 当局も青年の犯行声明をまともに受けてはおらず、当初からネット警察が動いて、彼を〈虚偽情報を故意に流布し社会秩序をかく乱した〉として『5日間の行政拘留』したことでも明らかだけどね」

 中国天津市の港・濱海新区で起きた爆発事故、いわゆる〝8・12〟の爆発の原因はいまだにはっきりしない。
 陰謀説と親和性を持ってしまうのは、こうした当局の対応にも関係しているのだろう。

 それにしても死者159人を超える(9月3日時点)悲惨な事故を政治的陰謀として仕掛けるリスクとはどんなものなのだろうか。
 しかも習近平政権にはほとんどダメージのない陰謀を。

■数え上げればきりがない工場爆発事故

 そもそも企業がしでかす事故や問題は、濱海新区に限らず頻発している。
 そうした事故と違い天津港の事故だけが政治的背景を持つ意味はどこにあるのか。
 それともどの事故も同じように裏に政治が動いているのだろうか。

 かつて上海で食品加工会社が期限切れ肉を使用していた問題では、日本では「共産党の外資潰しだ」という説が流れたのと近似している。
 私は当時、このページでマスコミが潜入取材で問題を明らかにするケースは毎週起きていることで、この問題だけを取り上げて傾向を分析することは間違いだと事例を挙げて書いたことがある。
 同じように工場の爆発事故も挙げればきりがない。


  そしてたいていのケースが、上級機関が下級機関を叱り飛ばすショーによって幕が引かれることは、毎日中国のテレビを観ていれば理解できるはずだ。
 いわんや党中央が出てくるのであれば大衆が望むのは「正しいお裁き」であり、地方の腐って威張っている官僚に鉄槌を下してくれる姿を見ることだ。
 天津事故で習政権が傷つくことはありえないし、実際に現状を見てもそれは明らかだろう。

 上海の期限切れ肉の問題が「外資潰し」でなかったとしても、日本のメディア界では誰も責任も問われない。
 無責任極まりない言論空間が横たわっているのだ。
 後に検証されることもないため、派手なことを言えば言うほどメディアにもてはやされるという悪循環が絶たれることもない。

 事実、9月3日の「抗日戦争勝利70周年」の式典には、江沢民も胡錦濤も登場し、丁重に迎えられていたが、江沢民黒幕説が日本で検証されることはないのだろう。
 これも日本人がいかに真剣に国際情報に向き合っていないかの証左なのだろう。

 さて、では真相は何なのだろうか。

 もちろん当局から正式な原因が示されていないのだから想像するしかないのだが、私はこの問題の核心は、爆発から4日後に現場に入った李克強首相と、その李首相の眼前にスマホのカメラを突き付けながら質問を発した香港の記者とのやり取りではないかと考えている。

■消防隊員の犠牲精神は英雄に価する
一方で、杜撰な薬品管理

 当日の現場では、
 「編外消防隊員の問題をどう考えているのか?」
と唐突に訊ねる記者に対して李首相はこう答えている。

 「消火活動に参加した消防隊員は現役、非現役にかかわらず訓練を受けていた。
 火災現場の危険性はよく知っていたが、危険な場所に自ら身を置いた。
 その彼らの犠牲の精神に心が痛む。
 彼らは英雄であり、英雄に“編外”もなにもない」

 中国語の編外は日本語では「編成外」と訳すべきだが、この場合は非正規の消防隊員を指している。
 背景にあるのは消防隊員遺族の抗議活動であり、非正規消防隊員の家族たちは補償面で公務員と大きな差が出ることに憤っていたのであった。
 このことは犠牲者の多くが非正規消防隊員であることも意味していた。

 事故後に公表された情報では、火災現場に投入された消防隊は、天津市公安局の下に置かれた消防隊員約1200人を中心に、河北省滄州、廊坊、唐山の消防隊から駆け付けた増援部隊が加わったとされている。
 消防隊員たちに化学薬品を消火する十分な知識が備わっていたのかを会見で問われた天津市は、「あった」と答えている。
 しかし、これは間違いではないが誤魔化しであった。

 実は、最も早く現場に到着したのは天津港公安局が独自に組織した消防隊で、隊員はみな組織上、公安組織の所属ではなかったからである。
 天津市が「あった」と語ったのは正規の消防隊員のことなのだ。
 正確には天津港公安局消防支隊第4大隊であるが、天津港公安は天津港という公の組織ではない。
 天津港集団という企業に近い存在だ。
 これはかつて企業の中に警察組織や刑務所が備わっていたことの名残だが、要するに警備員の下の消防隊なのだ。

 そして現場で二次災害的に起きた大爆発と最大の被害者と目されるのが、初期段階で消火活動を行った消防隊員だという2つの事実を突き合わせたとき、加害者と被害者が同じであるという政府としては受け入れがたい可能性が浮上してくることが避けられない。

 後には意図的にテレビには映さなくなったのだが、当初、遺族が掲げた消防隊員の写真がみな高校生のように若くて違和感を覚えたが、それだけに余計いたたまれない事故だといえるのだろう。
 いずれにせよ政府は、不満が出ない程度に情報を更新しながら時間を稼ぎ、本当の利害関係者だけと向き合うことのできる環境を待って問題を解決しようとするのだろう。

 天津爆発の約2カ月前に起きた長江の遊覧船転覆事故への関心がもはやすっかり失われているように、この事故に人々が興味を失うのも時間の問題だと思われたからだ。

 それにしても驚かされたのは、火災発生現場の倉庫に何が置かれていたのか、誰も正確に把握されていなかったという中国の杜撰さである。
 爆発の翌日から事故調査担当当局は現場にあった薬品の特定を始めたのだが、それは
 「税関書類と現場採集した物質の分析結果との突合せ」(天津市の会見)という方法で行われるというのだ。
 つまり、企業が提出した書類だけではどうにもならないのだ。

 当局の迷走は、日々更新される倉庫に置かれた薬品の種類が、たった2日間で20種類も増えたことでも明らかだろう。



レコードチャイナ 配信日時:2015年9月8日(火) 17時34分
http://www.recordchina.co.jp/a118541.html

<天津爆発>事故の背景に政治闘争?
習近平が疑ったターゲットは数十人―米メディア

  2015年9月7日、米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)は中国・天津市で前月に発生した大規模な爆発事故の原因について、
 「政治闘争に絡んだもの」との見方
を示した。

 先月12日、中国有数の港湾都市・天津市で危険物を管理する倉庫から複数回の爆発が起きた。
 死者は160人以上、いまだ行方不明者もおり、事故原因などの詳細発表もまだされておらず、事態は完全には収束していない。
 また、事故現場の倉庫にはシアン化ナトリウムなどが保管されていたとも報じられ、事故にともなって神経ガスが生じたとの懸念も払拭(ふっしょく)されてはいない。
 事故後、現場となった倉庫を管理していた企業「瑞海国際物流公司」の会長など職員12人の身柄が検察当局に拘束されたほか、天津市幹部11人も職権乱用などの疑いで拘束されている。

 国外の一部メディアは事故原因が遅々として発表されない理由について、「中国政府内の政治闘争が関係している」と指摘している。
 このことについて、中国政治を専門とする香港人ジャーナリスト・林和立(ウィリー・ラム)氏は今月3日、中央政府上層部とつながる3つの情報源からの伝聞として
 「国家最高指導者は事故後直ちに自身の腹心らと緊急会議を行い、
 事故の背景に政治的な動機がないかどうかを探った。
 現政権の転覆や、9月3日に行われた軍事パレードの中止を狙ったのではないかとの疑念を抱いていた」
との論説を発表した。

林氏の推論によると、習近平(シー・ジンピン)国家主席は具体的に、人民解放軍上層部の数十人を疑っていた。
 しかし、最終的には決定的な証拠を得るに至らなかった。
 疑惑をかけられた人物らは、現政権に失脚させられた徐才厚(シュー・ツァイホウ)および郭伯雄(グオ・ボーシオン)の2人の前中央軍事委副主席の元側近や元部下たちだ。
 現政権に不満を持ち、とくに習主席が展開する反汚職キャンペーンや、権力の一極集中に不満を抱いている分子だという。



ニューズウイーク 2015年9月10日(木)16時42分 高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/09/post-3907.php

天津爆発事故後も相次ぐ「爆発」は江沢民派の反撃か
批判を封じ込めた政府の「完璧」な対応と、
各地で頻発する爆発事故が意味するもの

 2015年8月12日の天津爆発事故から約1カ月が過ぎた。
 国民の批判を封じ込めた中国政府の対応、そして天津以外で連続した、一連の「爆発」事件について考えてみたい。

 事故について簡単に振り返っておこう。
 天津港にある危険物物流センターで2度にわたり巨大な爆発が起きた。
 1回目の爆発はマグニチュード2.3、2回目が2.9という凄まじい威力だった。
 事故原因についてはいまだに最終的な調査結果が発表されていないが、まず火災が起き、消防隊がむやみに放水したため化学物質が反応して爆発したとの説が有力視されている。
 当局発表によると、9月1日時点で確認された死者数は159人、なお14人が行方不明となっている。

 もっとも、公式統計の犠牲者は約3分の2が警察官と消防隊員で占められている。
 大きな被害を受けた近隣のマンションや、ほぼ吹き飛ばされた工事現場従業員宿舎の被害が正しくカウントされているのか、疑問視する声もある。
 また飛散した化学物質による健康被害、環境汚染を懸念する声もある。
 いまだに事故原因が特定されていないことも含め、当局の事後対応には問題が多いが、世論対策だけはパーフェクトだ。

 強力なメディア検閲によって批判的な報道を封じこめた。
 人民解放軍による、危険をかえりみない「英雄的」現場処理が大々的に喧伝された。
 毒ガスが発生しているのではという懸念には、事故現場に動物を入れた檻を置き健康被害はないことをアピールした。
 また、事故によって損害を受けた近隣マンション住民には返金や代替住宅の提供といった補償プランをはやばやと打ち出した。
 サインをしぶる住民には圧力をかけ、すでに9割近い住民が合意したと伝えられる。

■天津の事故現場には早くも公園の建設計画が

 事故現場にエコパーク(生態公園)を建設する計画も発表された。
 なにやら大層な名前だが、実際には緑豊かな公園に過ぎない。
 公開されたコンセプト図によると、中央に大きな池がある。爆発でできた大穴を再利用するという大胆なプランだ。
 事故の記念碑が作られるほか、「ハイレベル」な学校と幼稚園も併設される計画だ。
 エコという耳あたりの良い言葉でマイナスイメージを払拭し、学校を作ることでこの区域の住宅価値を底上げしようという狙いがある。

 中国では有力な学校に入学するために、その学区内のマンションを買う人までいるほど。
 ハイレベルな学校を作るハードルは高いが、もし実現すれば近隣の不動産価格を底上げするだけに、住民にとっては大きな恩恵をもたらすものとなる。
 公園本体は今年11月には着工し、来年7月には完成する予定だ。
 小学校、幼稚園は2016年完成予定。

 この計画をみると、事故をさっさと過去のものにしようとしていることは明らかだ。
 拙著『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』で詳述したが、習近平体制はネット世論の批判を封じ込める能力を飛躍的に高めた。
 今回の爆発事故でもその能力は遺憾なく発揮されている。

■習近平体制をゆさぶるためという陰謀説

 さて、事故原因については「江沢民派の反撃」という陰謀論も出回っていた。
 習近平の統治責任を問おうというゆさぶりではないかという見方だ。
 その傍証となったのは、8月12日以後にも爆発事故が相次いだこと。
 天津爆発事故後に日本メディアが取り上げた事故を列挙してみよう。

・8月18日、広西チワン族自治区柳州市で工場の爆発事故。
・8月22日、山東省淄博市で化学工場の爆発事故。1人死亡。
・8月23日、江蘇省蘇州市で化学工場の爆発事故。
・8月24日、河南省鄭州市で化学工場の爆発事故。
・8月31日、山東省東営市で化学工場の爆発事故。13人死亡。
・9月1日、甘粛省隴南市で花火工場の爆発事故。
・9月3日、河南省開封市で化学肥料工場の爆発事故。

 これだけの事故が重なればもはや偶然ではない、テロなどの人為的要因があるのではないか......と考えてしまうのが人情だが、実は違う。
 人口が日本の10倍で、しかも安全意識の低い中国では、工場の爆発事故は日常茶飯事だ。
 日本人ツイッターユーザーの中国住み氏は蔓延する陰謀論への反論として次のようなリストを提示している。

 このリストですらすべての事故を網羅しているわけではない。
 実際には毎月数件の爆発が起きているのが実情だ。
 ちなみに爆発事故は例年秋から冬にかけて増加する。
 旧正月用の花火・爆竹の生産・備蓄が始まるためだ。
 9月1日に早くも花火工場の爆発事故が起きているが、今後も同様の事件が続くことが予想される。

 「爆発事故の頻発」という傍証だけで陰謀論を唱えるには無理があることが、おわかりいただけるのではないだろうか。

■「チャイナボカン」とメディア・バイアス

 また「爆発」という言葉にも罠が潜んでいる。
 例えば「工場爆発」と報じられたニュースでも、実際には「建物に火事。中から爆発音が。黒煙が立ちのぼった」ぐらいの話であり、タイトルから想像されるような話ではないことが多い。
 上述の天津爆発事故後の事件リストで言えば、爆発という言葉から連想される大事故は13人が死亡した東営市の事故ぐらいだろう。

 これは典型的なメディア・バイアスである。
 天津爆発事故があったため、通常ならば無視していた小さな「爆発」事故も日本メディアが取り上げるようになったため、あたかも中国で突然爆発事故が急増しているかのように見えてしまうのだ。

 また、中国メディアにも別のバイアスがかかっている。
 注目されてナンボの世界だけに、ともかく「爆発」という目を引く単語を使いやすい傾向があるのだ。
 その象徴が2011年に話題になった江蘇省のスイカ爆発事件だ。
 「膨大剤」なる成長促進剤を使ったスイカが次々と爆発した......とのニュースで、「チャイナボカン」(中国ではありとあらゆるものが爆発すると揶揄するネットスラング)の代表例として、日本のネットでも話題となった。

 ところが実際に調べてみると、スイカは爆発したというよりも破裂したというのが正しい表現だ。
 「膨大剤」も日本で普通に市販されているフルメット溶剤に過ぎない。
 フルメット溶剤の量を間違えたか、天候の影響でスイカが破裂してしまったというだけの話が、「爆発」という強いタイトルによって、海外にまで知られる大ニュースとなってしまったわけだ。

 中国の製造現場における安全管理に問題があるのは事実だが、一方でメディア・バイアスによって虚構のリスクがイメージされているのも事実だ。
 こうした問題を解消するためにはどうするべきか。
 メディアが節度を持った態度で報道をすることがもっとも重要だが、加えて読者の側も、無理に煽らない地味な報道を評価することが求められているだろう。

[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。