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現代ビジネス+ 2015年09月04日(金) 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44966
日本の技術者が警告!
中国の「原発」は必ず大事故を起こす
設備も作業員も超いい加減だった
●天津・大爆発事故の現場。毒ガスは何日も撒き散らされた〔PHOTO〕gettyimages
「これは人災だ!」
—大爆発事故に1500万天津市民が怒りの声を上げた。
だが中国はより危険な原発を、日本寄りの沿海部に続々と建設中。
これらが近い将来、大惨事を招く恐れが出てきた。
■都合の悪いことはモミ消す
「中国の夢」——習近平政権のキャッチフレーズとは裏腹に、「中国の悪夢」が炸裂した。
人口1500万人の中央直轄市・天津で8月12日深夜に起こった未曾有の大爆発。阿鼻叫喚の修羅場は収まりつつあるものの、連日の雨が地上や地下の有毒ガスと化合し、市内のあちこちで不気味な煙が立ち上っている。
現場付近はいまだに防毒マスクを着用しないと近寄れず、世界第4位の取扱量を誇る天津港は復興のメドすら立っていない有り様だ。
事故から1週間経った19日現在、中国当局は死者114人、行方不明者65人と発表したが、そんな「大本営発表」を信じる市民などいない。
天津テレビの関係者が証言する。
「われわれの取材クルーが事故現場に真っ先に入り、
少なくとも1000人分くらいの遺体は撮影
しています。
何せ3000tもの危険化合物が爆発しており、無残な屍が四方八方に転がっていたのです。
それを中国共産党中央宣伝部と国家新聞出版広電総局(マスコミを管理する中央官庁)からすぐにお達しが来て、『取材ビデオはすべて中国中央テレビ(CCTV)に差し出せ』と命じられました。
没収された数は、約150本に上ります。
ところが、中央テレビの番組を見て唖然としました。
われわれの取材した『迫真現場』はすべてお蔵入りにされ、『愛と感動の救出物語』にすり替えられていたからです」
■トップも逃げ出す
中央テレビにも、さすがに良心の呵責に耐えかねたディレクターがいたと見えて、8月18日夜7時半過ぎに始まる人気報道番組『焦点訪談』で、「真実の一部」を放映した。
北京公安消防総隊から救援に駆けつけた核生物化学処理部隊26人を率いる李興華副参謀長が、次のように証言したのだ。
「今週に入って現場で採取した空気のサンプルから、シアン化ナトリウムと神経ガスの2種類の猛毒ガスが検出された。
しかも最高の危険レベルに達していた」
神経ガスは、国際条約で製造と保有が禁止されている。
日本でもいまから20年前、オウム真理教が神経ガスのサリンを製造し、無差別テロを起こして日本中を震撼させたことは、いまなお記憶に残っている。
この証言が事実なら、中国は密かに毒ガスを製造し、保有していたことになる。
テレビ映像を見る限り、李副参謀長はしたたる汗を拭いながら、正義感に満ちあふれた表情で証言していて、とてもウソをついているようには思われない。
だが放映が終わるや、またもや党中央宣伝部と国家新聞出版広電総局がこの証言をインターネット版からカットさせてしまった。
それどころか中国全土のメディアに、直ちにこの証言を否定する報道をするよう命じたのである。前出の天津テレビ関係者が憤る。
「シアン化ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム
……現場近くからは次々に危険な化合物が検出されています。
人民解放軍の特殊部隊が入って作業しているのが、何より怪しい証拠ではありませんか。
そもそも北京から130kmしか離れていないのに、習近平主席は自分がテロに遭うのを恐れて慰問に来ない。
李克強首相は毒ガスを吸うのを恐れたようで、事故から4日後の8月16日になって、ようやく現場入りしました。
それを見てわれわれ天津市民はようやく、『首相が来たのだから、最悪の事態は去った』と悟ったのです」
■とりあえず稼働してみる
この前代未聞の爆発事故は、現地の日系企業をも直撃した。
爆心地近くのイオンモールは直接被災し、営業再開のメドが立たない。
5000人以上の労働者を抱えるトヨタの工場も、操業停止に追い込まれたままだ。
だが、天津の日本商会幹部に聞くと、意外な感想を述べた。
「各社とも被害は受けましたが、これが
大連でなくてよかったというのが、われわれの正直な感想
です。
大連は危険な原発が稼働しているので、もし大連で爆発事故が起こっていたら原発に引火して、福島原発どころでない大惨事になっていたかもしれないからです」
大連の原発とは、'13年2月に1号機が稼働を始めた遼寧紅沿河原発のことだ。
その後、2号機と3号機が稼働を始め、この7月には6号機の工事が始まった。
合わせて日産9600万kW時の発電量を目指している。
だが、この中国北部で初の原発の評判は、極めてよろしくないのだ。
北京在住ジャーナリストの李大音氏が語る。
「1号機が稼働した時のキャッチフレーズは、『700万大連市民にクリーンな電力を』でした。
しかしオープン時に取材に行った知人の記者は、驚いたそうです。
それは、すでに原発が稼働しているにもかかわらず、大量の人員不足に陥っていたからです。
安全管理エンジニア、消防保安衛生エンジニア、放射能の専門医、経理担当責任者など、計46もの業種で大々的に募集をかけていたというのです」
「まず走り出してから考える」というのが中国式だが、こと原発に限っては、あまりにリスキーというものだろう。
消火のための放水が大爆発を招いた天津の事故の二の舞が、中国の原発で起こらないという保証はない。
それでも中国は世界3位の原発大国で、習近平政権は2020年までに51基もの原発を稼働させようとしている。
日本の原発や放射線の専門家たちも、やはり今回の天津の爆発事故のニュースを見て、原発事故を想起したという。
'86年に大事故を起こしたウクライナのチェルノブイリ原発に、何度も足を運んで調査した経験を持つ獨協医科大学の木村真三准教授が指摘する。
「私も天津に原発がなくて、ホッとしています。
いまの中国の原発管理は、旧ソ連以下
と思われるからです。
1980年代にチェルノブイリ原発を運転していたのは、モスクワ大学物理学科やモスクワ工科大学原子力工学科などを卒業したエリート中のエリートでした。
ただ、軍事用のプルトニウム製造のための原子炉を民生用に転換した特殊な原子炉だったため、運転員にはその構造的欠陥が周知されていなかった。
その結果、チェルノブイリの悲劇が起こってしまったわけです。
翻って中国は現在、原発を量産していますが、技術者たちの養成が間に合っているのでしょうか。
熟練度の低い技術者たちが現場に立っているのであれば、シビアな事故に対応できる経験や技術を持っているとは考えにくく、非常に恐いことです」
木村准教授は、「あくまでも仮定の話」と前置きした上で続ける。
「もしも天津の爆発が、原発のすぐ近くで起きていたとしたら、格納容器が無事だったとしても、使用済み核燃料プールまで守れたか疑問です。
巨大な爆発に原子炉が巻き込まれれば、その影響たるや水素爆発の比ではありません。
それこそ放射能被害は、日本を含めた全世界に広がったはずです」
■耐震性は気にしない
中国の原発に実際に足を踏み入れたこともあるという元東芝原子力プラント設計技術者の後藤政志氏も、ため息交じりに語る。
「私は正直言って、中国が原発を稼働させるなど、とんでもないことだと思っています。
私が行ったプラントはフランス基準でしたが、
私のような日本の技術者を呼んだりして、スタンダードというものがなくチグハグでした。('11年7月に)中国高速鉄道が大事故を起こしたのも、安全のスタンダードがないことが原因でした。
同様の事故が原発で起こったら、取り返しのつかないことになります」
後藤氏は、他にも中国の原発を危険視する理由が二つあるという。
「一つは、中国が原発を短期間で倍増させようとしていることです。
このような無謀なことをやれば、安全管理が間に合わず、トラブルが発生する確率は格段に増えます。
もう一つは、中国の原発の耐震性の問題です。
中国はあれだけの地震大国なのに、原発が十分な耐震構造になっているとは思えないのです」
実際、日本の25倍もの国土を持つ中国は、毎年のように巨大地震に見舞われている。
'14年8月にも、南部の雲南省昭通市で、M6・5の大地震が発生し、死者・行方不明者は計729人に上った。
これまで数多くの日本の原発を取材してきたジャーナリストの団藤保晴氏も指摘する。
「関西電力が行っているオペレーター訓練の様子を取材したことがありますが、非常に熟練したものがありました。
それに較べて、例えば中国の三門原発は、わずか1年半しかスタッフを訓練しないで稼働させようとしていると聞きました。
原発でアクシデントが起きた時は、運転員は原子炉の中の状況を目視できません。温度や圧力、放射能漏れのデータなどを総合して、臨機応変かつ的確に対応していかねばならない。
そうした対応が、中国の原発で果たしてできるのかという不安があるのです」
だが中国は、上の地図のように、日本に近い沿岸地域に原発を量産しようとしている。
前出の木村准教授が憂えて言う。
「被害は大気だけに限りません。
例えば日本海側には、汚染水がどんどん流れてきます。
そうすると、セシウム濃度が通常の100倍を超える大形魚も出て、日本海側の漁業は大打撃を受けます。
さらに漁業ばかりか、日本の農業にも影響が出るでしょう」
重ねて言うが、われわれは今回の天津の大爆発で、中国の沿岸部がいかに危険と隣り合わせでいるかを改めて思い知った。
その危険地帯に原発を量産していく中国と、東シナ海を挟んで繋がっているということを忘れてはならない。
「週刊現代」2015年9月5日号より
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