2015年9月17日木曜日

中国経済は「崩壊はしない」(1):“伸びしろ”大きく、市場が動揺するほど悪くない中国経済

_


JB Press 2015.9.18(金) 瀬口 清之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44799

市場が動揺するほど悪くない中国経済
8月は回復傾向、経済データもようやく世界標準に

■1.中国経済の不透明感が世界の金融・為替市場を揺るがした

 この1カ月間、中国経済の先行きに対する不安感あるいは不透明感が懸念材料となり、世界の金融・為替市場が乱高下した。
 足許の中国経済は緩やかな減速傾向が続いており、当面失速のリスクは極めて小さい。

 しかし、6月以降の上海株の暴落は世界の金融市場参加者に中国経済の失速リスクを想起させ、実態以上に不安感を煽った。
 これが市場乱高下の主な背景である。

 加えて8月11日に実施された、為替レート決定の透明性を高めるための基準値算定方式の変更は2%程度と小幅の人民元安をもたらしたが、そのわずかな変動が市場参加者の不安感をさらに高めた。

 その前後に公表された7月の主要経済指標が予想対比ダウンサイドに振れたことが決定打となり、株安、人民元レート切り下げを招き、それが世界の株式市場と為替市場を乱高下させた。

 普通の先進国の経済指標が同じような変化を示しても世界の金融市場がこれほど大きく反応することはない。
 世界で最も注目されている中国経済だからこそこれほど大きなインパクトを持つのである。

 それだけに中国政府は自国の政策運営に際しても他国の政府以上に世界経済、国際金融・為替市場に対する影響への配慮が必要である。

 今後中国政府が金融自由化を進めていく過程で、今回のように世界の金融・為替市場に大きな変動をもたらす出来事が繰り返される可能性が高い。
 中国政府もこの点を重視し、市場との対話能力の向上、そのために必要な制度設計、政策運営手法、経済統計などの充実化、透明性の向上に取り組もうとしている。

 そうした取り組みの一環として、国家統計局は9月9日、経済統計データの公表方式の変更について発表した。
 以下では、その内容と意義について考えてみたい。

■2.足許の中国経済の安定を示すデータが公表された

 本題に入る前に、上記の混乱を招いた中国経済の足許の状況について簡単にコメントしておきたい。

 9月13日に8月の主要経済指標が公表された。市場の反応はいまひとつで、十分に不安感が払しょくされていないようだ。
 しかし、素直にこれを見れば、
 当面中国経済が減速はしても失速するリスクは極めて小さい
ことが分かる。

13日に公表された主な経済指標は、固定資産投資、工業生産(工業増加額)および消費(消費財小売総額)である。
 このうち、固定資産投資の前年比伸び率は1~7月累計+11.2%から1~8月同+10.9%へと緩やかな低下傾向が続いている(図表1参照)。

 これは中国政府が「新常態=ニューノーマル」の政策方針を堅持し、鉄鋼、造船、石油化学などの主要製造業で過剰設備の廃棄を進めている結果であり、予想通りの展開である。


●図表1(資料CEIC)

 一方、工業生産と消費は回復傾向を示した。

 工業生産の前年比伸び率は1~7月累計+6.0%から1~8月累計+6.1%へとわずかながら改善した。
 1~3月が同+5.6%、1~4月が同+5.9%だったことと比較すれば、4月以降、緩やかな回復トレンドをたどっていることが分かる(図表2参照)。


●図表2(資料CEIC)

 消費も消費財小売総額の前年比伸び率が1~7月累計+10.5%、1~8月+10.8%と着実に回復している(図表3参照)。


●図表3(資料CEIC)

 8月の人民元安の主因とされた輸出の前年比伸び率も1~8月累計は-5.5%と1~7月の同-8.3%に比べてマイナス幅が縮小。
 天津の爆発事故の影響で輸出が停滞したことを考慮すれば、本来であればもう少し明確な回復傾向が見られていたと推測される。

 一般のメディア報道では依然として中国経済のマイナス面ばかりが強調されているが、マクロ経済指標を素直に見れば、8月の経済情勢が7月に比べて改善しているのは明らかである。

 その回復の背景には地方財政プロジェクトの回復が作用していると考えられる。
 昨年9月に発表された地方政府の債務管理強化に関する国務院の政策の影響で地方政府の財源が枯渇していた が、8月以降ようやく少しずつ財源回復の好影響が出始めている。

 9月以降はこの動きがより明確化するほか、不動産投資の回復も見込まれている。
 加えて、その先は来年からスタートする第13次5か年計画の主要施策である3大国家プロジェクト(新シルクロード構想、長江経済ベルト、北京・天津・河北省経済圏)関連の公共投資の拡大等による景気押し上げ効果が期待されている。

 足許の7~9月のデータに関しては、7月の経済指標が悪かったことから、引き続き前期比横ばい圏内、あるいは若干の下振れもあり得るが、10~12月以降、来年前半にかけては、景気は緩やかな回復方向に向かうと予想されている。

■3.経済統計データ改革

 以上の記述の中でも中国の経済指標の変化を紹介したが、やや分かりにくいと感じた読者が多いことと思う。
 それは、月次ベースの変化を見る際に、各月の前年比を比較することができず、年初来累計のデータの変化から推察するしかないことに一因がある。
 これが現在の中国経済指標の主な問題点の一つである。

 このデータ方式では大きな流れはつかむことができても、短期的な経済指標の微妙な動きを把握するには不便な点が多い。
 その経済統計の利便性の低さが中国の経済統計に対する不信感の要因の一つであり、そのことが中国経済に対する不安感、不透明感を招く原因にもなっていた。

 国家統計局が9月9日に公表した、経済統計データ公表方式の改革は、こうした統計分析上の不便さを改善することを目指すものであり、中国経済指標およびその分析結果の透明性を高めることが期待される。

 従来の中国の経済統計データの基本公表形式は年初来累計ベースである。
 具体的には、GDP(国内総生産)、固定資産投資、消費など主要指標の多くがこの形式で発表されている。

 中国は1980年代まで、国家が決定する生産・分配・消費計画に従って経済活動を行う計画経済制度を採用していた。
 各組織の計画達成上、最も大切なのは年間目標と途中の各時点までの達成状況との対比である。

 これを見るには年初来累計データが便利だったため、現在の統計データの多くにその時代の名残が影響している。

 年初来累計のデータしか公表されていない場合、経済分析上極めて不便である。
 そのため多くのエコノミストは各自の手元で当月の年初来累計データから前月の年初来累計データを差し引いて、便宜的に各月のデータを計算することが多い。

 しかし、そこから算出される単月データは明らかに実態に合わない大きな振れを示す。
 その理由は、年初来累計データには不定期に誤差脱漏部分が含まれているためである。

 誤差脱漏の値は公表されていないため、これを差し引くことができず、手元で計算する単月データには不規則に変動する誤差脱漏部分が含まれてしまうのである。

 また、非常に単純なことであるが、毎年12月には1~12月の累計データが公表され、その翌月は、新年度の1月のデータのみが公表される。
  このため累計データをそのまま使って月次推移を示すグラフを書くと、毎年年の変わり目のところでデータが急落し、グラフがつながらないという問題が生じる。

 このように中国の経済指標はエコノミスト泣かせの問題を多く含んでいる。
 来月以降、月次および四半期データが公表されるようになれば、利便性の一歩改善が期待できる。

■4.今後に残された課題

 しかし、今回の改革によって統計公表方式に関する問題がすべて解決するわけではない。
 相変わらず以下のような問題点が残るはずである。

 第1に、GDPの算定方式の特殊性である。

 中国政府は現在、GDPの推計に際して、生産法を用いている。
 これは第1次・第2次・第3次産業別の生産額を推計し、中間生産物を控除してGDPを推計する方式である。

 これに対して日米欧諸国では支出法を採用しており、産業分野別ではなく、需要コンポーネント(消費・投資・政府消費・政府投資・輸出・輸入・在庫)別に推計して合算している。

 このため、四半期ベースでは中国と他の先進国との比較が難しい(中国でも年データでは支出法に基づく推計を行っている)。

 第2に、1~2月のデータの公表方式の特殊性である。

 中国は毎年1月下旬から2月中旬頃に春節(旧正月)を祝う連休があるが、この連休の時期が1月中の年と2月中の年があるため、前年比、前月比の季節調整が難しく、データが大きく振れる。

 このため、中国政府は、1~2月のデータについては2か月分を合算して公表し、1月分のデータを発表しない場合が多い。

 第3に、地方政府が公表するデータの信頼性の低さである。

 各地方政府は省・市単位の経済データを公表しているが、その信頼性が低い。
 特に各省の大多数のGDP成長率が全国データを上回っており、しばしば信憑性の低さが指摘されている。

 第4に、月次で公表される工業生産、消費、不動産価格等の指標のカバレッジが低い。

 生産には小規模企業が含まれず、消費にはネット通販の一部が含まれていない。
 不動産価格は日本の公示地価のように全国各地の特定地点の価格が毎年公表される仕組みになっていないなど、それぞれ問題点がある。

 第5に、賃金・雇用指標の中には月次データがないものが多く、しかも統計公表時期が数か月遅れるため、タイムリーな分析ができない。

 筆者がざっと思いつく主なものだけでもこれだけの問題が残っており、このほかにも改善すべき点は多い。今回の統計データ公表方式の改革を弾みにして、今後のさらなる改善努力による経済統計の透明性・利便性向上に期待したい。



サーチナニュース 2015/09/17(木) 14:32
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2015&d=0917&f=business_0917_029.shtml

対中投資の「高度成長期」は終了、
中国資本の対外投資額と逆転する=中国政府関係者

 中国政府・商務部の張向晨国際貿易談判副代表は17日に行った記者会見で、外資による対中投資の「高度、超高度成長期」はすでに終わったとした。
  2016年か17年には中国からの対外投資の額の方が多くなるとの見方を示した。

 張副代表は、外資による対中投資と中国資本の対外投資は「平衡点」に近づいていると説明。
 ただし、平衡点まではまだ一定の距離があり、
 「平衡点到達はデータで見る限り、来年(2016年)か再来年」
と説明した。
 その後は、中国資本による対外投資額の方が大きくなるとの考えだ。

 外資による対中投資の「高度、超高度成長期」はすでに過去のものとの見方をした上で
 「(高どまりの)台に乗った時期」
と説明した。

 張副代表は、中国資本による対外投資が2桁台の成長を続けていると説明。
 国際的な経済環境は複雑なので、鉱業分野は影響を受けて(減速して)いるが、インフラ建設、製造業、サービス業などについては、今後も対外投資が旺盛な状態が続くと説明した。




レコードチャイナ 配信日時:2015年9月18日(金) 7時36分
http://www.recordchina.co.jp/a119301.html

<どうなる中国経済>
“伸びしろ”大きく「崩壊しない」
=習主席が権力掌握、改革進めやすい―丹羽前駐中国大使

 2015年9月15日、丹羽宇一郎日中友好協会会長(前駐中国大使・伊藤忠商事前会長)は、中国経済がやがて崩壊するのではないかとの見方について、
★.主要16都市だけで中国のGDP全体の50%以上を占め
★.平均成長率は8.5%
にもなる、と指摘。
★.「世界最大の製造業大国」を目指しており、「崩壊しない」
と強調した。
 発言要旨は次の通り。

 習近平国家主席は権力を掌握し、経済改革を進めやすい。
 情報入手が得意な米国が、習氏体制が長く続くと見たからこそ、今月下旬に国賓で彼を迎え入れ、長時間会談する。
 9月3日の軍事パレードはアナクロニズムだが、習主席の権力掌握を内外に誇示すものとなった。
 中国と米国の関係は強く幅広いものになっている。
 オバマ大統領との米中首脳会談は数時間にわたり開催され、様々な懸案が話し合われる。

 現在世界全体のGDP(国内総生産)のうち、
★.米国が16兆ドル、中国は10兆ドル、日本は4.7兆ドル
で、中国の台頭と日本の凋落が目立っている。
 中国は1990年代の20倍となった。
★.貿易総額では中国が4.2兆ドルで、米国の3.9兆ドル、日本の1.5兆ドル
を上回っている。

 中国経済に関して「崩壊論」が飛び交っている。
 データや情報不足もあるだろうが、崩壊はしない。
 GDP成長率は内陸部の重慶が11%に達しているのに対し、遼寧省は2.6%と地域によって差がある。
 長江デルタ地帯、重慶、武漢など主要16都市だけで中国のGDP全体の50%以上を占め、平均成長率は8.5%にもなる。
 低成長地域は開発の余地が大きい。

 中国では過大な需給ギャップの縮小が急務だ。
 中国は世界で初めての巨大な資本主義社会であり、(他の国とは)ケタが違う。
 全体のパイが拡大しているので、GDP伸び率が減速しても「伸びしろ」は従来より大きい。
 中国は30年後の共産党創立100年周年までに「世界最大の製造業大国」を目標に
掲げている。

 上海株式が急落したが、売買の大半は個人投資家によるもので、生活を賭けている人は少ない。
 株下落が経済の足を引っ張ることにはならない。
 給与水準は毎年上昇しているが、労働生産性も急速に高まっているため、国際競争力が下がって輸出が困難になるというのは間違いだ。
(八牧浩行)



2015.9.18(金) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44811

中国経済、見極めが難しい本物と偽物
本当に7%成長なのか? 
GDP統計に疑いの目
(2015年9月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 我々はとっくに、中国の偽物には慣れっこになっている。
 腕時計の偽物。
 DVDの偽物。
 最近ではゴールドマン・サックスの偽物まで登場している。
 しかし、もっと根本的なものまでが偽物だったら、一体どうなるのだろう。
 中国の国内総生産(GDP)の数字が言われているほどすごいものではなかったとしたら、一体どうなるのだろうか。
 これは多くのエコノミストが以前から抱いていた疑念だ。

 第1に、中国が発表するGDP成長率のデータは、本当だろうかと疑ってしまうほどスムーズだ。
 ほとんどの国が好不況の波にさらされている一方で、中国だけはそんな波には関係なく成長しているように見える。

 第2に、省のデータの合計と国全体のデータが一致しないことがある。
 中国の貿易統計と貿易相手国のそれとがマッチしないことも少なくない。
 こうした不一致は、国土があまりに広く経済活動の計測が非常に難しいためでもある。
 だが、政府幹部の報酬が経済成長の粗雑な指標に基づいて決められるという、歪んだインセンティブのせいでもある。

■ソフトランディングか否かの大きな違い

 中国経済が恐ろしく速いペースで成長している間は、そうしたことはあまり問題にならなかったのかもしれない。
 8%だろうと10%だろうと、経済が成長していることは間違いなかった。
 次々に姿を現す建物、
 好況に沸く都市への人口流入、
 国民の生活水準の明らかな改善など、
証拠はそこら中に転がっていた。

 だが、経済成長が――ことによると劇的に――減速している今、GDP統計の正確さを判定することは以前よりも重要になっている。

★.もし現在の成長率が中央政府の言う通り7%であるなら、官僚たちは昨今の市場の変動にもかかわらず、投資主導の経済成長からの脱皮を進める一方で
 中国経済のソフトランディング(軟着陸)を成し遂げつつあることになる。

 だが、その一方で、もし現在の経済成長率が
★.5%かそれより低い水準に低下しているのであれば、
 ソフトランディングという望みはかなえられないかもしれない。
 低成長は社会不安を引き起こす恐れがある。
 あるいは、当局が景気刺激策の追加に踏み切る可能性もあるだろう。
 その場合、成長率は短期的には上昇するだろうが、長期的には返済できない債務という形で問題が積み上がっていくことになる。

 現在の経済成長をうんぬんする前に過去の成長を調べることが有用だ。
 最も状態が良い時でさえ、GDPは経済活動を計測するにはかなり粗雑な指標だ。
 人々の幸福度を測るとなればなおさらだ。

 中国の経済成長のかなりの部分は、
1].若い(無給の)母親を工場労働者に、
2].地中の石炭をエネルギーと汚染に、
3].そして共有地を私有地にそれぞれ転換する

ことでもたらされてきた。
 中央計画経済の過去を持つこの国は、第3次産業の活動よりも、鉱工業生産という粗っぽい指標を計測する方を得意としている。

■足元の成長率は4%台との見方も

 独立調査機関コンファレンス・ボードのエコノミスト、ハリー・ウー(伍暁鷹)氏の研究によれば、中国の1978年から2012年にかけての経済成長率は年率7.2%だ。
 実に目覚ましい高成長ではあるが、中国政府の推計値9.8%を2.6ポイントも下回っている。

 またウー氏によれば、中国は生産性の伸び率を過大に表示する一方でGDPデフレーターという指標で測るインフレを過小に表示している。
 もしデフレーターが過小に表示されれば、インフレ調整後の「実質」成長率は過大に表示されることになる。
 ウー氏はさらに、中国当局は不況期に成長率を過大に表示したり、外的ショックの影響を実際よりも小さく見せたりしていると述べている。

 同氏が故アンガス・マディソン氏とともに開発を手伝った手法で行った推計によれば、中国の
★.2008年の成長率は4.7%(政府当局の推計値は9.6%)で、
★.2012年の成長率はわずか4.1%(政府推計は9.7%)になるという。

 では、現在の値はどうなるのだろうか。
 キャピタル・エコノミクスをはじめとするいくつかの調査機関は、現首相の李克強氏が2007年に口にした言葉にヒントを得た。
 GDPを信頼するよりも電力や鉄道貨物、そして銀行貸し出しに着目すべきだという、あの発言だ。

 キャピタル・エコノミクスは貨物輸送、海上輸送、電力使用量、不動産販売、旅客数などから「経済活動代理指数」なるものを算出して使用している。
 これらのデータは量で測られるため、正確さの疑われる推計価格に左右されないのが特徴だ。
 この代理指数によれば、第2四半期の経済成長率は4.3%で、政府当局の推計値・7%を大幅に下回る。

 ただ、この指数には欠点が1つある。

 キャピタル・エコノミクスのチーフエコノミスト、ジュリアン・エバンズ・プリチャード氏も認めているように、最近は中国の成長のかなりの部分がサービス部門で見受けられるものの、
この代理指数はサービス部門の活動を十分に補足できていないのだ。

 そのため、真の成長率は恐らくこの代理指数と当局の推計値の間のどこかにあるのだろう、と同氏は見ている。

■サービス業のダイナミズム

 ピーターソン国際経済研究所のニコラス・ラーディ氏は、この議論をさらに推し進める。同氏によると、エコノミストたちは概ね、現在GDPの半分近くを占める中国のサービス部門のダイナミズムを評価できなかった。
 サービス業の活力の大半は統計に反映されていない。

 ラーディ氏は、中国が公式数値の7%を下回る水準まで減速したと考える理由はほとんどないと言う。
 悲観論が広がるこの時期にあって、大胆な主張だ。

 この意見は中国の経済的な重心が一般的に国有の製造業から一般的に民間所有のサービス業に移ったとの見解を決定的な根拠としている。
 そのような変化はまさに中国が必要としているものだ。
 もしラーディ氏が多少なりとも正しければ、次第に厳しさを増す数字にも希望の兆しがあるのかもしれない。

By David Pilling
© The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. Please do not cut and
paste FT articles and redistribute by email or post to the web.



JB Press 2015.09.14(月) 藤 和彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44768

中国経済の「長征」で市場に原油が溢れかえる
このまま中国は長期の難局に、原油価格の反転は当面ない

 8月の中国の原油輸入量が大幅に減少した。
 中国税関総署によれば、8月の原油輸入量は日量629万バレル相当の2659万トンで、過去最高を記録した7月から13.4%の減少だった。

 6月、7月の原油の輸入量は、低油価を理由に政府が戦略石油備蓄を積み増したおかげで2カ月連続で大幅増であった。
 それが、なぜ8月は原油価格がさらに下落したにもかかわらず原油輸入量は大幅に減少したのだろうか。

 以前のレポートで筆者は「戦略石油備蓄基地がある天津港の大規模爆発事故により戦略石油備蓄積み増しにブレーキがかかる」と指摘したが、その予測が当たってしまったようだ。

 中国の原油需要が原油価格の動向に影響を与え始めているが、世界の原油の指標価格は米WTIと欧州ブレントが基になっているため、中国の動向が直接原油価格に反映することは少ない。
 しかし来月からはその構図が変わりそうだ。
 中国が国内の原油先物取引市場を外国人投資家に開放するからだ。

 9月4日付の英テレグラフ紙電子版は
 「中国のこの新しい原油先物取引が既存の世界指標の立場を脅かすのではないか」
と指摘する。
 世界第2位の原油消費国の中国の原油先物市場が外国人投資家に開放されれば、世界の原油市場への中国の影響力が拡大することは間違いないだろう。

■「中国の難局は10年続く」

 このように原油価格の今後の動向は、直近10年間の世界の原油需要を引っ張ってきた中国経済そのものの見通しにかかっている。
 しかし、その見通しは決して明るくない。

 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の中国政府の発表によれば、楼継偉財務相は
 「5年間は中国経済にとって構造調整の痛みの時期だ、苦難の過程になるだろう」
と述べた。
 この発言には続きがあり、
 「もしかしたら10年間かもしれない」
と説明していたと関係者の間で言われている。
 人民銀行総裁も「バブルが弾けるような動きがあった」
と述べ、上海株暴落後初めてバブル崩壊を公の場で認めざるを得なかった。

 日本でも話題になっていた
 「一帯一路」という中国政府が提唱した新経済圏構想も前途多難
のようである。

 一帯一路とは中国政府が2年前にアフリカ・欧州までを陸海路でつなぎ、かつてのシルクロード沿いに新しい経済圏を生み出すというものだ。
 最近では中国国内で生産しすぎた鉄鋼や石炭、セメントなどを売るための新たなマーケットにするという重要な使命も帯びてきている。
 しかし専門家の間では、
 「中国がリーマン・ショック後に行った景気刺激策の20分の1に過ぎない。
 過剰設備という構造問題を解決できると考えるのは幻想である」
とする声が上がっており(9月7日付ロイター)「竜頭蛇尾」の感が否めない。

 かつて国民党軍に敗れた中国共産党は、本拠地であった江西省瑞金を放棄し、1934年から1936年にかけて1万2500キロメートルを歩き続ける「苦難の行軍」を強いられた。
 この大移動は「長征」と言われている。
 前述の楊財務相の発言から、
 中国経済は今後「長征」の過程に入ってしまうのではないか
と思われる。

■人民元ショックの裏にある巨額なキャリートレードの存在

 今度の「長征」は前回と違い、世界全体を巻き込むことになるのは必至である。
 米シテイは9月8日、
 「世界経済が中国発のリセッションに陥る可能性は55%である」
との見通しを明らかにした。

 8月中旬に人民銀行が実施した人民元切り下げの後遺症は思いのほか深刻であることが分かってきた。
 9月7日、人民銀行は人民元切り下げ後の2週間で米国債を939億ドル(約10兆円)売却したと発表したが、8月の外貨準備の減少幅は過去最大だった。
 しかし中国の米国債売却は今後も続く可能性が高い。

 「中国ショックはまだ始まったばかりである」
と指摘するのは富国生命保険の市岡繁男氏(2015年9月15日号のエコノミスト)だ。
 市岡氏は人民元ショックの裏に巨額なキャリートレードの存在があると指摘する。

 中国の投資家の間で最近まで、低金利の香港ドルなどを調達し、人民元高を当て込んで中国の不動産等に投資するという「キャリートレード」がブームになっていた。
 キャリートレードの推定残高は約1兆ドル(約100兆円)と巨額に膨らんだが、
 中国経済の不振で人民元の香港ドルに対する優位性が揺らぎ始めたため、
 キャリートレードに資金を注ぎ込んだ中国の投資家は為替差損で破綻してしまう事態に追い込まれた。

 この事態にあわてた金融当局は外貨準備を取り崩して人民元を買い支えたが、巨額のキャリートレードが残っており、人民銀行が今後も人民元の下支えを続ければ、巨額の米国債売却という事態が発生し、世界の金融市場の流動性に大きなダメージとなる。
 米シカゴ連銀が9月2日に発表した8月28日までの1週間の全米金融状況指数は2012年11月以来の高水準となっており、金融状況の引き締まりが既に確認されている。

■軍事負担の増大でますます減産が困難になるサウジ

 マクロの金融情勢が悪化する中、原油市場では投資家が様子見姿勢を強め、資金の流出が続いている。
 特に短期投資家にとって、石油取引会社が保有するタンカーが中東やシンガポール沖合で待機している隻数が増加している(8月27日付ブルームバーグ)状況は今後の格好の「売り」材料になるだろう。

 市場関係者の間で「市場で原油があふれてしまうのではないか」との懸念が生じてきているが、産油国の動向は相変わらず「囚人のジレンマ」状態である。

 まずOPECだが、8月の原油生産量は7月に比べて日量17万バレル減少した(9月3日付ロイター)。
 サウジアラビアも同10万バレル程度減産したようだが、生産目標を同170万バレル以上超過している。

 サウジアラビアにとってイエメンへの軍事介入はますます重荷になっている。
 9月4日、イエメン北部の軍事基地内の武器庫が爆発し、同地で任務中だったアラブ首長国連邦(UAE)軍兵士45人、サウジアラビア軍兵士10人、バハレーン軍兵士5人が死亡した。
 3月のイエメン紛争開始以来、連合軍側で最大の犠牲者の発生であった。
 爆発の原因についてUAE政府は事故によるものと発表したが、イエメンの武装勢力側は自らのミサイル攻撃によるものと主張している。
 これに対して9月6日、サウジアラビア主導の連合軍は報復として反政府勢力が掌握するイエメンの首都サヌアなどで最大規模の空爆を実施した。

 だが、連合軍の足並みは決して揃っているとは言い難い。
 UAEにとって今回の死亡事故は大きな衝撃だった。
 建国以来最大の被害者が発生したことを受け、政府は9月5日から3日間喪に服することを決定した。
 イランメデイアによれば、国内でイエメンでの軍事活動に抗議するデモも発生したという。
 これまで戦争の経験がなく国内の治安も安定しているUAE国民にとって、イエメンでの紛争に介入する理由は乏しい。
 今後、厭戦気分が急速に高まる可能性がある。

 UAEやバハレーンといった湾岸の小国が連合軍から離脱すれば、サウジアラビアの軍事負担は増大することになり、思い切った減産という選択肢はますます狭まっていく。

■価格低下で打撃を受けるOPEC「弱小国」

 次にイランだが、9月10日に米上院は、野党の共和党が目指した「イラン核合意の不承認」決議案の審議を認める動議を否決した。
 これによりオバマ大統領は米議会による合意阻止を回避し、イラン制裁解除の合意の履行を確実なものにした。
 制裁解除の最大の障害が除去されたこともあり、「来年3月までにイランに対する金融制裁が解除される」との見方が強まっている(9月8日付ロイター)。
 これを受けてイランのOPEC内での発言権は今後高まることだろう。

 ナイジェリアも、パイプラインの原油漏れに伴う操業停止の終了で生産施設から再び原油が国際市場に供給されつつあり、10月からの原油生産は2012年8月以来の高水準になると予想されている(9月8日付ブルームバーグ)。

 OPEC内で価格低下に最も打撃を受けている諸国(アルジェリア・ベネズエラ・エクアドル・ナイジェリア等)がOPECの緊急総会を開催すべきとの要求は、相変わらず実現の見通しが立っていない。

 原油の輸出価格が1バレル=30ドル以下になるとの懸念を示すベネズエラのマドウーロ大統領は、中国の抗日戦争70周年記念軍事パレード参加を利用してプーチン大統領との会談に漕ぎ着けた。
 だが、原油価格の下支えに向けた措置についての合意には至らなかった。

■ロシアも「減産に動く意向はない」

 非OPEC諸国の雄であるロシアはどうか。
 ロシアの現在の生産量は日量約1070万バレルと既にソ連崩壊後で最高の水準にあるが、なおも生産の手を緩めようとはしない。

 ロシア最大の石油会社「ロスネフチ」のセチン社長は、9月4日、
 「ロシアは今後20年間でさらに原油生産量を33%増やして日量1400万バレル強とすることが可能である」
との見通しを示した。
 ルーブル安による生産コストの低下によって国内最大級の油田の生産コストが1バレル=5~7ドルから3ドルまで下がり、中東湾岸諸国産との競合が可能になっているからだ(9月4日付ロイター)。

 このような事情から、セチン社長は
 「ロシアもOPECと同じく原油価格押し上げのため減産に動く意向はない。
 OPECの黄金期は、原油安に歯止めをかけるための減産を見送った昨年11月に過ぎ去った」
と豪語する(ただし、その一方で「世界の原油市場を再均衡させるためには平均で1バレル=70ドルの原油価格が必要だ」との本音も覗かせる)。

 非OPEC諸国では、英国やノルウェーなどによる北海油田の原油生産も増加するようだ(9月8日付ブルームバーグ)。
 原油価格が1バレル=100ドル超だった時期に承認されたプロジェクトが操業を開始するため10月からの原油生産量は2012年5月以来の高水準に達する見込みだ。

■原油価格は当面反転しない

 供給過剰の解消につながる唯一の明るい材料は、米国内の石油掘削リグ稼働数が7週間ぶりに減少したことだろう。
 だが、これが「生産コストが高く多額の債務に苦しむシェール企業の大量倒産が起こる(米シテイ)」前兆だとすれば、金融市場への悪影響から原油価格の猛烈な下押し圧力になる。

 最近の原油安で開発事業などが次々に延期され、将来の供給不足を招くとの懸念が出ている。
 しかし、世界の人々が供給不足に気づくのは今後10年以上にわたり低油価が続いた後ではないだろうか。

 長期投資で有名な米資産家のバフェット氏が、原油相場の先行きに弱気になったことを理由に、保有する米石油会社エクソンモービルの株式を昨年全て売却した(9月9日付ブルームバーグ)ことは示唆的と言ってよい。
 筆者は以前から、21世紀初頭に広まった「ピークオイル論」のようなものが再び出てくるまで原油価格は反転しないのではないかと考えている。
 その確信がますます強まるばかりである。

注].キャリートレードとは、金利の低い国の通貨を借りて他の金融資産を購入し、その後、購入した金融資産を一定期間保持した後に売却し、その購入時の相場価格と売却時の相場価格の差額から利益を出すことを目的としたトレードです。




【輝ける時のあと】


_