2015年9月19日土曜日

なぜ今、テクノロジー分野はアメリカ「独走」なのか?:Appleやgoogleがヨーロッパで生まれない理由

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現代ビジネス 2015年09月19日(土) JAMES B. STEWART
The New York Times
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45071

なぜ今、テクノロジー分野はアメリカ「独走」なのか? 
〜Appleやgoogleがヨーロッパで生まれない理由
日本も他人事ではない!

「破産」はアメリカの起業家にとって単なる通過儀礼にすぎない

■語るに値しないヨーロッパの市場力

 欧州連合が、電子書籍の販売における反競争的行為の疑惑でアマゾンを調査中である、と今年5月に発表したことで、ヨーロッパの反トラスト熱はピークに達したようだ。
 すでにアップル、グーグル、フェイスブックがその調査対象になっており、今回はアマゾンが少なくとも3つの個別調査の対象となっている。

 ヨーロッパの独禁法規制当局の最高責任者であるマルグレーテ・ヴェスタは、これほどまでにアメリカの企業が調査対象になる理由は、単なる偶然だと私たちに思ってほしいようだ。
 6月のブルームバーグで彼は、
 「これは、ただ、海外のデジタル市場に影響を与えている強い企業の多くが、アメリカにあるということに過ぎません」
と述べた。

 たとえこの発言が本当だとしても、なぜそうなったのだろうか? 
★.なぜヨーロッパでは、成功するテクノロジー会社を輩出するようなイノベーションが育たないのか?

 逆に、アメリカの規制当局が、市場独占でヨーロッパのテクノロジー会社を調査し、訴訟を起こしたことはあっただろうか?
 (答え:一度もない)

 ニューヨーク大学ロースクールの独禁法および知的財産権専門の客員教授、スコット・ヘンフィルは次のように述べる。 
 「ヨーロッパのテクノロジー会社の市場力は、アメリカではほぼ語るに値しません。
 なので、アメリカの独禁法関連の規制当局が、そこに注目していなくても、別に驚きはしません」

 その市場力の違いは明らかだ。
 アメリカ国内では時価総額上位10社のうち、アップル、マイクロソフト、グーグルという過去半世紀に設立された3社がランクインしている。
 一方で、ヨーロッパでは上位10社にランクインするテクノロジー会社がひとつもない。

 しかし、テクノロジーの分野でアメリカの競合となり得る地域と言えば、世界を見渡してもやはりヨーロッパだろう。
 なぜなら、欧州連合には良質な大学や教育程度の高い労働力、テクノロジー・スキルのある豊かな消費者、そして投資資本となる大きな財源がある。
 さらに、印刷機、顕微鏡や望遠鏡に使われる光学レンズ、蒸気エンジンなど、世界を一変させる発明を生んだ長い歴史もあるのだ。

 しかし、それが近年にはあまりみられない。
 一世を風靡したビデオゲーム、キャンディ・クラッシュを創ったキング・デジタル・イノベーションは、現在はロンドンにあるが、10年前にスウェーデンで設立され、ビデオゲーム・イノベーションの温床として登場した会社だ。

 ドイツのカールハインツ・ブランデンブルグは、MP3フォーマットの発明者と言える。
 スカイプも、2人のスカンジナビア人と3人のエストニア人によるグループが生み出したものだ。
 しかしiPod MP3プレーヤーを発明したのはアップルだし、スカイプは2005年にイーベイが買収している(現在はマイクロソフトが所有)。

■失敗も解雇も許されない

 当然、ヨーロッパもこの問題に気が付いている。
 欧州連合は今年5月に、「デジタル単一市場」戦略を発表した。
 これはヨーロッパの起業家を育成し、イノベーションへの障害の緩和を目的とするものだ。

 また、テクノロジー・センターを設立し、シリコンバレーの再現に必要な最低条件を整えようとしている。
 イギリスの「オックスフォード・サイエンス・パーク」、ベルリンの「シリコン・アリー」、ミュンヘンの「イザール・バレー」、ダブリンの「シリコン・ドックス」などがそうだ。

 デンマークの経済学者で、ピーターソン国際経済研究所のシニア・フェローであるヤコブ・キルケゴールは、次のように語った。
 「誰もがシリコンバレーを望んでいます。
 しかし、アメリカにあるような規模と、革新的技術を求める彼らの集中力に匹敵するものはありません。
 ヨーロッパやその他の国々はアメリカを追いかけているだけで、政策立案者たちも非常に苛立っています」

 スタンフォード大学と同校のヨーロッパ・センターの経済学准教授でドイツ生まれのぺトラ・モーザー氏も、「ヨーロッパ人は気をもんでいる」と話す。
 「ミュンヘンのような場所にシリコンバレーを再現しようとしていますが、あまりうまくいっていません。
 制度的、文化的違いが、まだあまりにも大き過ぎるのです」
と彼女は指摘した。

 ベンチャーキャピタルの規模が小さいことや、成長を妨げる厳しい雇用法など、ヨーロッパにはイノベーションの障害となる制度的、構造的バリアがある。
 両氏は、ヨーロッパ人やアメリカ人の一般的特性を一掃するような、例外的な個別ケースは常にあるとしながらも、
 最大の障害となってきたのは文化的なものだ
と言う。

 アメリカのスタートアップ企業の成功の陰で見落とされがちなのは、その背後にはそれ以上の数の失敗があるということだ。
 「素早く、何度も失敗しろ」というのがシリコンバレーの合言葉だ。
 イノベーションの自由は、失敗の自由と表裏一体だ。

 ヨーロッパでは、失敗はアメリカよりも、はるかに大きな汚点となる。
 また破産法は、アメリカとは比べものにならないほど過酷だ。
 アメリカの多くの起業家にとって、破産は単なる通過儀礼に過ぎない。

 モーザー氏は、ドイツの自分の故郷にいたビジネスマンが、破産宣言をしなければならなくなり、自殺したことを記憶しているという。
 「ヨーロッパでは、失敗は個人的な悲劇とされます。
 しかしアメリカでは、失敗が一種の名誉のしるしです。
 ヨーロッパの環境では、リスクをとったり起業するのは、あまり奨励されません」

 匿名のソーシャル・ネットワーキング・アプリ「シークレット」の共同創立者であるデービッド・バイトウは、今春、サンフランシスコにあるスタートアップ企業の閉鎖を発表したが、がっかりした様子は全くなかった。
 彼のブログには
 「進み続けるため、そして、違う形の新しい間違いをするために素早く失敗することに価値があるのです」
と書いている。

 シリコンバレーでは、解雇されることも、全く不名誉なこととはされない。
 スティーブ・ジョブズ自身、アップルを追い出されている。
 「アメリカの企業では、従業員が離職し他分野でチャレンジできます。う
 まくいけば、元の会社がそのスタートアップ会社を買収するし、だめなら、その人たちを再雇用してくれます。
 素晴らしいシステムです。
 それによって、物事を実験しチャレンジができるのです。
 ドイツでは、そんなことはできません。
 こういう行為は反感を持たれ、忠誠心に欠けているとみなされます。
 全く異なる倫理観と言えます」
とモーザー教授は指摘する。

 ヤコブ・キルケゴールは、グーグルやフェイスブックのような、真に破壊的なイノベーションに対するヨーロッパ人の受容度は、アメリカよりもはるかに低いと言う。
 彼は、タクシーサービスのウーバーを例に挙げる。
 ウーバーはドイツ風の名前だが、実は完全なアメリカのスタートアップ企業である。
 ヨーロッパではウーバーに対し、まるでウイルスが侵入したかのような対応を示している。
 そして、既存タクシー業者の力について多く語られるのを耳にする。

 さらにキルケゴールは、以下のように言っている。
 「それには、もっと深い面があります。ニ
 ューヨーカーたちは、イエローキャブに対して、さほどの郷愁を抱きません。
 ところがロンドンのブラックキャブは、ロンドンをしてロンドンたらしめるものとされています。
 そういう形で愛着をもっているのです。
 アメリカ人は、普段使う商品やサービスに対し、もっと合理的に行動し、あまり感情移入しません。
 それらが、自分の国や地域のアイデンティティと繋がっているわけではないからです」

■足切りの早い教育システム
 ヨーローッパの最も偉大なイノベーションのひとつは、近代大学の先駆となる機関、すなわち1088年に創立されたボローニャ大学だ。
 しかしヨーロッパの大学は、はるか昔に、研究やイノベーションのリーダーシップをアメリカの大学に譲り渡してしまった。

 ヨーロッパの教育システムは、早い時期にテストによって選別することに重点を置くため、非常に柔軟性に欠けている。

 「18歳で首尾よくできなければ、それで終わり。
 伸びる可能性のある多くの若者は切り捨てられ、もうチャンスはありません。
 17歳の時に、誰よりも暗記が得意であっても、23歳で革新的になれないかもしれないのです」
とモーザー氏は指摘し、さらに、ヨーロッパで最も進取の気性に富む学生の多くは、アメリカに留学し、そのまま帰って来ないと付け加えた。

 現在、創造性に関する研究を行っているモーザー氏は、
 「アメリカの教育システムの方が、はるかに寛容度が高いと思います。
 最初ダメでも学生は追いつき、さらに卓越していくことができます」
と述べた。

 同氏は、評価が高いヨーロッパの育児法でさえ、あまりにも規範的だとする。そ
 して、それを裏付ける科学的な根拠がないとしながらも、次のように話した。
 「ヨーロッパの子どもはアメリカの子どもよりも、行儀はいいかもしれませんが、アメリカの子どもは、もっと自由に新しいことを模索するような大人になるのではないでしょうか」

 たとえヨーロッパの人が、変化を望んでるとしても、変えるのは難しい。
 「ヨーロッパでは安定性が尊ばれます。
 そして不平等に対する許容度は、アメリカよりもはるかに低いのです。
 そこには共有の文化があり、それほど激しく競争しません。
 お金は唯一の大事なものとはされません。
 実際、こうしたことは、良いことなのかもしれません」
とモーザー氏は述べている。

 しかしヨーロッパ人は、両方のやり方を同時に取り入れることはできない。
 同教授は、成功しているイノベーターたちは、こうした文化規範を打ち破ることが、簡単ではないとすぐ気づくのだと言う。

 キルケゴール氏もそれに同意し、
 「ヨーロッパ人は、かなり保守的です。
 現状維持が好きな人達なのです」
と話した。






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