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WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年09月21日(Mon) 富坂 聰 (ジャーナリスト)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5378
習近平が経済より
反腐敗運動を重視する理由
習近平政権の代名詞ともなった「反腐敗キャンペーン」。
習近平が指導者となって以降、一日500人以上が処分され続ける闘争の影響は政治分野にとどまらない。
経済的なダメージが懸念され、目下、指導部の悩みは既得権益を奪われた官僚らの静かな抵抗だ。
「官僚の“不作為”というものですよ」
と語るのは党中央機関紙記者だ。
「役人らは面従腹背で、裏で仕事をサボタージュしています。
賄賂も宴会もダメなら仕事もしないとね。
彼らは9時~5時できっちり帰りますが、執務時間中も政治学習と称して推薦図書を読むふりをして小説を読んでいます。
これがいま公共事業の許認可の遅れや手続きの停滞となって跳ね返り、行政の効率を大きく落としているのです」
2012年から経済の構造転換を進める中国は公共事業の依存度を下げてきたが、それでも景気刺激策としての公共事業のウエイトはまだ15%前後はある。
景気調整の刺激策は号令一下タイミングよく機能してこそ効果を発揮するのだが、不作為によって妨げられれば、投資金額に見合った効果は得られない。
中国経済にとってはボディブローのような負の効果となる。
■有効手段なき官僚の“不作為”対策
指導部も“不作為”に対しては神経質にならざるを得ない。
14年の初め、国務院は不作為を専門に監視する「督査隊(組)」を組織し、6月初旬、全国16省・市及び27機関に派遣し実態調査を行った。
その結果、
「一部の地域・機関で、やはり不作為が非常に深刻化している」
ことが分かったのである。
7月16日の常務会で報告を聞いた李克強首相は、「不作為も新たな腐敗」と批判。
「凡庸な政治、怠惰な行政も同じく腐敗の一種で、国民に対する究極の無責任だ」
と厳しい言葉で怒りを露わにしたとされる。
指導部の苛立ちは、「党の喉と舌」である官製メディアを通じて伝えられ、『中国青年報』などは、
「経済を人質にしても反腐敗キャンペーンを止めることなどできない」
と警告を発したほどであった。
だが、少なくとも表向きは恭順な姿勢をとる不作為に対して、指導部側は目下、有効な手段をとることができず、手をこまねいているしかないのだ。
7月29日の中国中央テレビ(CCTV)は、規律検査部門の発表を受けて
「中国が18回大会以降、反腐敗キャンペーンで風紀を正した結果、387億元(約7740億円)の経済損失を回復した」
と大々的に報じた。
数字の根拠となっているのは、不正に受け取った賄賂や蓄財の没収、事業の見直しなどの積算だが、元国務院で現在は北京市でコンサルタント会社を経営する湯慶世(仮名)は、苦々しげにこう語る。
「反腐敗キャンペーンが社会の安定のために必要なのはわかります。
しかし、経済を犠牲にしていることはいまや誰もが知っていることです。
こんな茶番を見せられると、かえって経済的なダメージが大き過ぎることに党が慌てていて、それを誤魔化すために報じたのかと勘繰りたくなります」
事実、習近平指導部がぜい沢禁止令を打ち出すと同時に、中央規律検査委員会の下部組織である中央巡視隊が厳格に党規違反を取り締まり始めると、瞬く間に中国全土で高額商品の売り上げの落ち込みが顕著となった。
なかでも最初に官官接待がターゲットとなったことで高級レストランやレジャー施設が各地で閉店に追い込まれた。
北京郊外で高級サウナをオープンさせたばかりのオーナーは、「慌てて、老人ホームに変更するための手続きを始めた」と語るほどだった。
高級レストランの相次ぐ閉店につられるように高級酒の売り上げも大きく落ち込んだ。
ダメージが顕著となったのが、習近平指導部がスタートして最初に迎えた春節期だ。
中国の春節は1年を通して最も消費が活発になる期間である。
この一大商戦期(1月~2月)の飲食業界は対前年比で8・4%の伸びにとどまり、過去10年で最も低い数字となったのだが、なかでも年商200万元以上の高級レストランが改革開放政策を導入して以降初めてのマイナス成長に落ち込んで大きな話題を呼んだ。
高級ブランド品の買い控えはそれ以上であったとされる。
上海のテレビ局(上海RTS)のニュース番組が伝えたところによれば、高級ブランド品の春節期での売り上げは対前年比でなんとマイナス53%まで落ち込んだという。
これを受けて、夏になると同じ上海のテレビ局が、地元の上海の一大観光スポットであるバンド(外灘)から、アルマーニやパテック・フィリップなど高級ブランドの路面店が「一斉に撤退を始めた」(上海RTS『東方新聞』13年7月16日)と空き店舗となった外観を映しながら報じた。
酒造メーカーのダメージは株価に表れた。
13年1月22日、習近平が中央規律検査委員会の第2回全体会議に出席し「予防の重視」と「総合的な取り組み」を厳しい口調で訴えると即座に株価が反応。
酒造メーカー関連株の落ち込みは、同じ22日、上海と深圳の両市場の株価全体をそれぞれ0・56%、0・28%も押し下げたという。
とくに高級酒として知られる茅台酒を中心にアルコール度数の高い白酒の落ち込みが深刻で、銘柄により最大で4%も下げたことも報じられた。
メディアはこの後も高級白酒の五糧液や茅台酒の酒蔵が空になっている映像や仕事のない元従業員の声を拾っていたが、14年10月になると関心は海外─主に日本だが─での中国人観光客の“爆買い”へと移っていった。
報道の焦点は、春節の次に重視される観光のハイシーズンである国慶節で、中国人観光客が国内で消費せず、海外ばかりで消費することに向けられていた。
国内のメディアが一斉に報じた数字によれば、中国人の高額消費のおよそ74%が海外で消費されていたというのだった。
こうした目に見える落ち込みに対して、経済のマクロコントロールを司る国家発展改革委員会(発改委)が対応策を検討するまでになった。
「発改委はかつて王填という代表が提案したことのある消費券を景気刺激策として出してきて、『4兆元の消費券を配るべき』との7頁にも及ぶ報告書を全人代に提出したほどでした。
彼らにしてみれば、経済の構造転換を進め始め、その最も太い柱として消費を育てようとしている矢先のことですから、影響の深刻さをかんがえたのでしょう。
まあ、結局『消費券』なんてアイデアは一顧だにされなかったようですが……」(党中央機関紙記者)
それにしても、経済にこれだけ影響を与える腐敗官僚追及の運動をどうして習近平は容赦なく続けるのか。
「それは一方で、格差の問題が深刻だからです」
と語るのは前出の党機関紙記者だ。
「これは究極の選択です。
反腐敗キャンペーンをしなければ経済の問題よりも先に、不満を持った人々による社会不安が現実のものとなるでしょう。
習主席は経済を犠牲にすることを百も承知で、まずは社会の安定ということを徹底的にしようとしているはずです」
まさに薄氷を踏む政権運営ということだが、
国内に貧困と格差の問題がある限り、反腐敗キャンペーンが後退することはない。
』
『
JB Press 2015年10月15日(木)18時24分 高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/10/post-3992.php
汚職の次は「さぼり」を取り締まり始めた中国
習近平の反汚職運動が生み出した「不作為」官僚たちが、
経済成長鈍化の原因に?
13日、日本に導入されたばかりのマイナンバー制度をめぐる汚職事件が発覚した。
厚生労働省情報政策担当参事官室の室長補佐、中安一幸容疑者が経営コンサルタント企業から現金100万円を受け取った容疑で逮捕された。
日本の汚職事件はいつも中国人に新鮮な驚きを与える。
「たったこれっぽっちの収賄で官僚が逮捕されるの?」
という驚きだ。
ちょっとしたポジションにつけば数億円、数十億円の蓄財が当たり前の中国とは次元が違う。
汚職は官僚の専売特許ではない。
先日、知り合いの中国人から「ブランド物の財布が欲しいので、日本で買ってきて欲しい」と連絡があった。
月給3000元(約6万円)程度のコックさんなのによくお金があるなと思って話を聞いてみると、仕入担当となったため業者からキックバックをもらえる身分となり、一気にお金持ちになったのだとか。
悪徳業者の横領によって社員食堂や学食の食事が劣化、暴動騒ぎになるというのはよくあること。
突然ブランド物で身を固めた彼が吊し上げられないか、心配である。
ことほどさように、中国では権力、権限と金が深く結びついている。
うまい汁を吸えない一般市民がもっとも恨みを抱く問題であり、権力の正統性を失わせる要因だ。
この状況を変えようとしたのが習近平体制の反汚職運動だ。
「トラ(大物)もハエ(小物)も叩く」との言葉通り、大物官僚のみならず膨大な数の官僚が摘発された。
実際には摘発数の割当を満たすため、拷問してまで無理やり汚職を自白させているケースもあるが、反汚職運動が習近平の庶民人気を支える柱となっていることは間違いない。
■「汚職は避けられないから仕事をしない」という説
ところがこの反汚職運動が今、中国経済の足をひっぱっていると問題になっている。
賄賂に使われる高級贈答品が売れないという話もあるが、それ以上に注目されているのが「不作為」だ。
「不作為」とは、やるべきことをしないこと、つまりサボタージュだ。
積極的な経済成長策を実施しない、開発に取り組まない、企業誘致を行わないといった問題である。
これらが経済成長の鈍化につながっているのではないかと懸念されている。
2014年には、李克強首相が「不作為の"さぼり政治"もまた腐敗だ」と強く批判し、取り締まりを指示した。
摘発を担当する督査(査察)チームが全国に派遣されたほか、各地域で不作為規制条例を制定する動きも広がっている。
もっとも、不作為の動機については諸説が飛び交っている。
第一に、賄賂がなくなり仕事をするモチベーションがわかないという解釈。
第二に、反汚職運動に対する消極的な抗議という説だ。
サボタージュが広がれば反汚職運動をストップせざるを得ないとみて政権に圧力をかけていると考えられる。
一番面白いのが第三の説で、
官僚が仕事をすれば確実に汚職が発生するので保身のためには働いたら負けだという説である。
自分だけ清廉潔白を貫こうとしても部下が収賄していれば監督責任を問われる。
冒頭でも述べたように、権力、権限があれば必ず汚職があるのが中国の常。
汚職撲滅が無理なら仕事をやめるしかないというあきらめの境地だ。
■予算未執行、プロジェクト遅延、空き地未開発を処罰
この不作為の問題だが、なにしろ統計にあらわれないだけにどれだけ広がっているのか、どれほどの経済的損失をもたらしているのか、数字では把握しがたい。
「李克強激怒」といった表面的なニュースばかりが一人歩きしてきた。
そうした中、不作為の中身についてうかがえる情報が明らかとなった。
9月末に、李克強肝いりの督査グループの調査結果が公表されたのだ。
24省・市・区の官僚249人が処罰された。
主要な摘発対象は、予算を執行せずにプールしていたという予算未執行、土地収用や工事着工が決められた期日通りに進まなかったというプロジェクト遅延、そして空き地未開発の3分野だ。
空き地未開発とは住宅地や農地を政府が徴用した後、企業売却が進まなかったり、あるいは売却後の建設が進まなかったりという状況を意味する。
だが、空き地未開発は反汚職運動と不作為よりもずっと前からある問題である。
中国の土地収用というと、「二束三文で貧乏人の土地を召し上げて高値で転売する」というステレオタイプのイメージがある。
以前は確かにそういう状況が大多数だったが、現在では土地の補償価格見直しもあり、状況は大きく異なる。
大都市近郊の農村では「土地収用の補償金で一夜にして大金持ちになった農民が酒とギャンブルにおぼれて社会問題に」というケースまであるほど。
それほど多額の補償金を支払っているならば、政府や払い下げを受けた企業はどうやって儲けているのだろうか。
答えは時間である。
何年間か土地を寝かせてから売却すれば、値上がり分が利益となる。
右肩上がりの地価上昇が続いているからこそできる芸当だった。
土地価格の急騰が止まった今でも、地価下落を防ぐために空き地の転売面積は慎重に制限されてきた。
中央政府はこれを「囤地」(土地買い占め)と呼んで批判してきた。
不作為の典型として槍玉に挙げられたが、古くからの問題である。
予算未執行やプロジェクト遅延も、必ずしも不作為と直結する話ではない。
そもそも上述のとおり、もともと不作為の問題は積極的な経済成長プランに取り組まないことだと指摘されていた。懸
念されていた不作為と実際に摘発された案件には大きな隔たりがある。
贈収賄といった通常の汚職事件とは異なり、サボりを摘発するのは難しいということだろう。
汚職がいいわけではないが、官僚がばりばり仕事をするためのインセンティブであり、いびつな成果主義として機能していた側面もある。
反汚職運動を進めるならば、インセンティブを与える別のシステムも作る必要があるのだろう。
』
現代ビジネス 2015年10月13日(火) 週刊現代
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45750
まるで北朝鮮!
習近平の「外国人狩り」が始まった
~日本人を「スパイ容疑」で逮捕、中国なら死刑もあり得る
■まるで北朝鮮
〈中国遼寧省と浙江省で5月、「スパイ行為」にかかわった疑いで日本人男性2人が相次いで中国当局に拘束されたことがわかった。
スパイ行為の疑いで日本人が中国で拘束されたことが明らかになるのは極めて異例……〉
朝日新聞が9月30日に報じたスクープ記事に日本中が騒然となった。
菅義偉官房長官は同日夕刻の記者会見で、事実を認めた。
中国外交部の洪磊報道官も同日午後の会見で、
「スパイ行為の嫌疑で日本人2人を逮捕し、日本側にも通知している」
と述べた。
今回拘束されたと報じられたうち一人は、中朝国境の町である遼寧省丹東で、もう一人は東シナ海に面した浙江省温州だった。
日本政府関係者が憤って語る。
「実はもう一人、70歳の日本人男性が、6月に北京で捕まっている。
これら3人のうち日本政府が送り込んだスパイなど、一人もいない。
すべては中国側のでっち上げなのに、日本政府が交渉しても釈放しない」
中国は昨年11月、習近平主席の「鶴の一声」で、「反スパイ法」を制定した。
今回はこの反スパイ法を適用したものと思われる。
反スパイ法は、全39条からなり、以下のような恐ろしい条文が満載だ。
第3条 すべての社会団体や企業などは、スパイ行為を防止・制止する義務を負う。
第6条 外国機関、組織、個人が中国でスパイ行為を行えば、必ず法律の追及を受ける。
第8条 国家安全機関は反スパイ活動を捜査中に、偵察、拘留、逮捕その他の権限を持つ。
第22条 国家安全機関がスパイ行為の調査中は、どんな組織・個人も必要なものを提供し、拒絶してはならない。
このように、習近平政権はまるで北朝鮮のような法律を定めたのである。
実際、中国のネット上では、こうした現状を「西朝鮮」(朝鮮の西にある中国の意)と自虐的に呼んでいる。
■捕まったのは日本人だけじゃない
「昨年は遼寧省でキリスト教の布教活動をしていたカナダ人夫妻が捕まりました。
今年3月にはアメリカ人女性観光客が拘束されています。
今回の日本人たちも、とてもスパイとは言えない理由で拘束されていると思われます。
習近平政権としては、とにかく投資目的以外の外国勢力が中国国内に入ってくることを阻止したい。
それで『われらの民族が外国勢力に狙われている』と煽って、外国人にスパイのレッテルを貼っていくのです」
今回、日本人がターゲットにされたのも理由があるという。
「習近平政権の発足直後は、日本人と深く付き合っている中国人を引っ捕らえていました。
'13年7月に『上海で失踪』と話題になった朱建栄東洋学園大学教授は、その典型例です。
ところがこれからは、中国に入ってくる日本人をターゲットにしていくというわけです。
なぜなら、9月の抗日勝利70周年軍事パレードを終えたいま、反日のネタが尽きてしまったからです。
習近平主席は、日本人を叩けば叩くほど国民から支持されると考えている。
中国社会は、いまや毛沢東時代とソックリになってきました」(矢板特派員)
こうした「習近平の外国人狩り」に対して、日系企業の駐在員たちは、警戒感を強めている。
北京在住の大手企業駐在員が明かす。
「つい先日、中国事業の縮小について、本社の幹部と携帯電話で話しました。
するとその直後から、携帯電話の通話に雑音が入り、すぐ途切れるようになった。
そればかりか、会社で使用しているパソコンの電子メールが約1ヵ月分、ごっそり消えてしまったのです。
以来、恐ろしくて、夜のカラオケも自粛しているほどです」
天津在住の日本人駐在員も続ける。
「先日、取引先の中国企業と新契約がまとまったことで、先方の社長の自宅に招待されて祝宴を挙げました。
その時、白酒で乾杯を繰り返したら眠くなって、ついウトウトしてしまった。
するとしばらくして、深刻な顔をした社長に揺り起こされ、『済まないが帰ってください』と言う。
『外国人を泊めたら、近隣の居民委員会に咎められ、反スパイ法で逮捕されるから』というのです。
それを聞いて、一気に酔いも覚めました」
■恐怖の拘束体験を告白
また、別の駐在員は、数年前にスパイ容疑で捕まった時の「恐怖体験」を明かした。
「私の場合は、今回日本人が捕まった温州の北側に位置する、同じ浙江省の寧波でした。
ある業界の国際展示会があって寧波に出張したのですが、最後の日が空いたため、タクシーをチャーターして郊外の観光に行ったのです。
ある小道を走っていたら突然、中国当局の車に遮断され、『軍事施設に入ったので拘束する』と言われた。
その小道が軍事施設だという標示すらありませんでした。
私は近くの『招待所』と呼ばれる施設に連れて行かれ、3時間くらい取り調べを受けました。
向こうに日本語ができる人がいなかったので、互いに片言の英語でのやりとりです。
携帯品はすべて取り上げられ、携帯電話に残していた写真も、念入りにチェックしていました。
おそらくタクシー運転手も、私がただの観光客だと証言してくれたのだと思います。
夕刻になって『二度と付近に近寄ってはいけない』と念を押して釈放されました。
いまにして思えば、胡錦濤政権の時代でよかったです。
いまの習近平政権なら、何ヵ月も拘束され、最悪死刑になっていたかもしれない。
そう思うとゾッとします」
このような「習近平の恐怖時代」を、中国日本商会の関係者が嘆いて言う。
「いま日系企業は、中国からの撤退や規模縮小が相次いでいます。
昨年の日本の対中投資額は前年比38%も減少し、今年も上半期はさらに16%も減少しています。
これに加えて今後は、日本人駐在員がある日突然、捕まってしまうリスクも考慮しないといけない。
こんな暗黒の時代は、日中国交正常化後、43年で初めてです」
実際、中国は年間2500人も死刑にしていると見られ、世界最大の死刑大国である。
ここに日本人を含む外国人も加わるとなれば、日系企業はおののいて、今後ますます中国から身を引くに違いない。
ほんの少しの疑いで死刑—中国は「第二の北朝鮮」になりつつある。
「週刊現代」2015年10月17日号より
』
『
ニューズウイーク 2015年11月30日(月)16時30分 遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/11/post-4176.php
中国民主活動家締めつけに見る習近平の思惑
民主活動家・郭飛雄氏に6年の懲役刑が言い渡された。
起訴時にない罪名が加わっている。
筆者の親友で81歳になる鉄流氏の逮捕および懲役刑とともに、習近平は何を恐れ、中国で何が起きているのかを解きほぐそう。
■民主活動家・郭飛雄氏の懲役刑――新公民運動が真の理由
リベラルな論調で知られる広東省の新聞「南方周末」は2013年の新年特集として「中国の夢、憲政の夢」というタイトルの記事を出そうとしていた。
「憲法に基づいて自由と民主を実現しよう」という内容だった。
胡錦濤元総書記が2012年11月8日の第18回党大会で繰り返し主張した「政治体制改革」を習近平政権が実現するか否か、その決意のほどが試される記事であったといっていい。
ところがこの記事は中国共産党広東省委員会宣伝部によって掲載を禁止され、「こんにちの中国は民族復興の偉大な夢に最も近づいた」という中国共産党礼賛記事に置き換えられるという「事件」があった。(この事件に関しては2013年1月9日付けの日経ビジネスオンライン 中国に言論の自由はいつ来るのか?で詳述。)
このとき街頭で抗議活動に加わった者の中に、郭飛雄(本名:楊茂東)という民主活動家がいる。
彼は1966年生まれの弁護士で(華東師範大学卒)、新公民運動に参加している民主活動家でもある。
「新公民運動」とは、「自由、正義、愛」による公民の権利を守っていこうとする新しい民主化運動で、孫文が書いた「公民」という文字をロゴにしている。
2010年ころに、法学者の許志永氏(エール大学客員教授)や王功権氏(ベンチャーキャピタリスト)など、エリート層が始めた運動だ。
2014年1月27日付の<「新公民運動」に怯える習近平政権――提唱者に懲役刑>に書いたように、習近平政権になってから、提唱者はつぎつぎに捕えられ懲役刑を受けている。
郭飛雄氏が初めて目を付けられるようになったのは、2005年4月末に「日本の右翼の反動的な言論に抗議する」ということを口実にして、「五四抗議デモを行なうこと」を北京市公安当局に申請したからだ。
申請は不許可になっただけでなく、「民衆を扇動して公共の秩序を乱した罪」により15日間、拘留された。
「五四運動」というのは1919年5月4日に、北京大学の学生を中心に行われた反日デモに端を発し,全国的な規模に拡大した反日(反日本帝国主義)および民主運動である。
1921年の中国共産党誕生のきっかけを作ったのだが、現在の中国は「五四運動」の日である「5月4日」を、1989年に天安門事件が発生した「6月4日」と同じくらいに警戒している。
なぜなら中国共産党政権には「真の民主」がないからである。
この郭飛雄氏、その後、広東省に活動の拠点を移して民主的活動をやめなかったため、2007年に5年間の懲役刑を受けて、2011年9月12日に出獄したばかりだった。
しかし2013年元旦の「南方週末」事件だけでなく、同年4月にも武漢、長沙、広州など中国の8つの都市で「役人の財産を公開しろ」という運動を同時に起こしたため、その組織的な責任者として、同年8月8日に拘束されたわけである。
このときの罪名は「民衆を扇動して公共の秩序を乱した罪」だった。
この罪名による最高刑は懲役5年。
ところが今年11月27日、広州天河区法院(地方裁判所)は、検察が起訴していなかった罪名である「騒動を起こした罪」を加えて懲役6年の実刑判決を言い渡したのである。
なぜなら彼は新公民運動の有力な推進者だからだ。
「南方週末」事件は口実で、真の理由は「新公民運動」なのである。
同時に新公民運動の仲間である劉遠東氏には3年、孫徳勝氏には6カ月の懲役刑が言い渡された。
また女性コラムニストの高瑜氏も国家機密を海外に漏えいした罪により5年の懲役刑が26日に決定した。
■81歳の「五七老人」鉄流氏(作家)が懲役刑という異常
「五七老人」とは、1957年に毛沢東が発した「反右派闘争」で不当に逮捕された者のうち、今もまだ生き残っている老人たちのことを指す。
「反右派運動」というのは、毛沢東が1956年に「言いたいことは何でも自由に言いなさい」と知識人たちに呼びかけておきながら、彼らが寄せた意見が中国共産党や毛沢東の独裁を批判したものであったために、意見表明をした全ての者を「右派」として逮捕投獄した運動である。
その中の一人に鉄流氏(本名:黄沢栄)(1933年生まれ)がいる。
筆者の友人だ。
知識人で新聞記者でもあった鉄流氏は1957年に投獄され、毛沢東が死去し文化大革命が終わった後しばらくしてから1980年に釈放された。
壮年時代の23年間を獄中で過ごしたことになる。
1957年に投獄された知識人は年長者が多い。
獄死しているか、釈放されても高齢だったため既にこの世にいない。
わずかな生存者も年々減っていくため、有志たちが自らを「五七老人」と称して集まり、2008年7月10日から『往事微痕』(過去の傷跡)という文集(小冊子)を作るようになった(この小冊子の表紙画像は『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』のp.301にある)。
自分たちの牢獄における生活や投獄前後あるいは釈放された後の扱いなど、ありのままの事実を綴ったものだ。
費用は互いの持ち寄りで、出版するたびに筆者も一部もらっていた。
鉄流氏の望みは、
「いつかこれを日本語に翻訳して、世界の人に、中国で何が起きていたのか、何が起きているのかを知らせてくれ」
というものだった。
その宿題を抱えつつ、目前の執筆に没頭している内に、2014年8月15日を最後に、頻繁に来ていたメールがピタリと止まってしまった。
9月18日になると、その仲間からメールがあり、9月14日に鉄流氏が投獄されたという。
そして鉄流氏の家にあったパソコンなど、すべての資料が北京の公安局に押収されたとのこと。
メールは多くの民主活動家にCCする形で送られてきていたので、筆者のメールアドレスもメール内容も、すべて当局に押さえられてしまっているだろう。
このルートのCCメールは、以来、一斉に遮断されてしまった。
2015年2月25日になると、他のルートから鉄流氏に2年6カ月の懲役刑が出されたという知らせがあった。
81歳の老人に、である!
形式上の罪は、彼が無許可で『往事微痕』を販売していたという「違法経営」というから噴飯ものだ。
細々と出していた小冊子は事実を歴史に刻んでおきたいという遺言状のようなもので、有志が金を持ちあって無料で配布していたのに過ぎない。
巻頭言を書いた謝韜(シェ・タオ)氏(1922年生まれ)は、筆者がいた中国社会科学院の社会科学文献出版社の編集長をしていたこともある中共の老幹部で、筆者の親友だった。2010年に88歳で他界されたが、こういった老幹部の仲間たちは、今もなお生きながらえながら、現在の中国共産党政権のあり方を批判して続けている。
それは中国を愛するがゆえに批判しているのだ。
■習近平は何を恐れるのか――?
ひとことで言えば、習近平は一党支配体制が崩壊するのを恐れている。
自分がその崩壊を招いた
最後の「紅い皇帝」
になることを恐れている。
(反腐敗運動を権力闘争だとする日本の中国研究者は、中国の現実を分かっていない。
胡錦濤政権のチャイナ・ナイン時代と習近平政権のチャイナ・セブン時代が根本的に違うことを理解していないのだ。
その視点では習近平が何を怖がっているか、これら知識人の逮捕で何が見えるのかを分析することはできないだろう。)
一連の逮捕に関して特徴的なことが見えてくる。それを列挙する。
1:.
先ずはエリート層が6.7億人に達する網民(ネット市民、ネットユーザー)のオピニオンリーダーになることを恐れている。
特に新公民運動はエリート層がけん引している新しい形の民主化運動だ。
これが広がらないうちに何とか芽を摘み取りたいと思っている。
幼児や高齢者を除けば、まもなく7億人に達する網民の数は、意見を表明できる人民の数の圧倒的多数だ。
次の民主化はネット空間から起きることを習近平も知っているのである。
だからオピニオンリーダーとなり得るエリート層を逮捕する。
2:.
鉄流ら、高齢の発信者は、残り時間が少ないことを覚悟し、恐れを知らない。
命を賭けて真実を残そうとしている。
鉄流はネット空間で情報を発信する作家なので、逮捕される寸前にもチャイナ・セブンの一人でイデオロギーを統率する劉雲山を激しく批判する論評を発表している。
政府を批判する知識人は逮捕するという習近平の方針だ。
毛沢東帰りの特徴の一つである。
3:.最後の理由は、
11月24日付の本コラム<中共老幹部が認めた「毛沢東の真相」――日本軍との共謀>でも書いたように、
中共の老幹部たちが「中国共産党がかつて何をやったかを明らかにする運動」を始めたからである。
鉄流氏も「日中戦争時代に中共は何をやっていたのか」に関する事実を指摘している。
これに関しては次回に回そう。
(なお、「チャイナ・ナイン」は胡錦濤世間時代の中共中央政治局常務委員9人のことで、「チャイナ・セブン」は習近平時代の中共中央政治局常務委員7人のことを指す。いずれも筆者が命名した)
』
『
2015.12.10(木) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45494
中国の検閲:表現の不自由という新常態
この記事はパニックと混乱を広げる罪を犯している
(英エコノミスト誌 2015年12月5日号)
表現に対する取り締まりの兆候が広がっている。
8月半ば、中国東部・江蘇省の元共産党幹部、越少麟氏が、反腐敗運動を主導する共産党中央規律検査委員会に連行された。
そこに変わったことは何もない。
大勢の地方党幹部が全国的な反腐敗運動に巻き込まれている。
意外だったのは、越氏が告発された罪だ。
こうした告発は通常、被疑者が非道な不正行為によって蓄えたとされる巨額の富を強調する。
党の新聞「新京報」によると、越氏の罪は、政府の政策を批判したことによる党の規律違反だったという。
共産党中央党校の謝春涛氏は
「自分たちの方が党より賢いと思っている人がいるが、それは許されないことだ」
と吐き捨てた。
身柄を拘束されたのは、越氏だけではない。
中央規律検査委員会は10月中旬、北京に近い河北省と南部の広西チワン族自治区の現役党幹部2人を逮捕した。
彼らの罪のリストにも、党批判が含まれていた。
◆古い習慣への回帰
中央政治局は10月12日、党規約の改訂版を承認した。
国営新華社通信は、新規約は共産党の歴史上、「最も完全で厳格な行動規範」だと述べた。
新規約は、党員が政策について「否定的なコメント」や「無責任な意見」を述べることを禁じている。
党員は問題を議論することはできる――だが、それは良いことを言う場合に限られる。
イデオロギー的な適合を強調するこの姿勢は、古い習慣への回帰を示している。
習近平国家出席は2013年9月、批判や自己批判を「強力な武器」と呼び、
「これを使えば使うほど、問題を発見し、解決する指導者の能力が向上する」
と言っていた。
ところが、この数カ月、それも中華人民共和国の歴史上初めてのことではないが、比較的オープンな議論が表現に対するより厳しい制限に取って代わられている。
そもそも表現は完全に自由だったことは一度もない。
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