2015年9月5日土曜日

抗日戦争勝利70年記念軍事パレード(3):一党支配「正統性」に危機感、気分はもう「皇帝」!?

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●China’s V-Day military parade in Beijing 2015
2015/09/03 にライブ配信


時事通信 2015/9/5 08:33
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150905-00000019-jijnb_st-nb

一党支配「正統性」に危機感
=抗日・軍事パレード一体化-中国〔深層探訪〕


●3日、北京で行われた軍事パレードを観閲する中国の習近平国家主席(左)、江沢民元主席(中央)、胡錦濤前主席(右)(EPA=時事)

 「抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利70年」を記念して中国共産党・政府が3日、北京で行った軍事パレードでは、最先端の国産兵器が続々と登場した。
 「抗日」と「軍事パレード」を一体化させることで、習近平国家主席(共産党総書記・中央軍事委員会主席)は、権力基盤の強化と国威発揚を狙った。
 しかし、空前の政治舞台は一党体制の正統性をどう維持していくか、習主席の危機感と苦悩の裏返しでもある。

◇日本倒して「大国」に
 
 「日本軍国主義を徹底的に粉砕し、世界の中で中国の大国としての地位を再び確立した」。
 習主席は軍事パレードに先立つ天安門城楼での演説で訴えた。
 日本軍国主義を打倒して「大国」の一角を占めたという歴史観が、党の正統性を誇示するために今も必要な論理だからだ。

 民主的な選挙で指導者が選ばれない共産党政権は、
 いかにして支配の正統性を維持するかに頭を悩ませた。

 改革・開放後、高度経済成長が党への求心力になったが、1989年の天安門事件で体制批判が強まると、抗日戦争の宣伝強化で「愛国・愛党」のナショナリズムを高め、これを正統性の根拠と位置付けた。
 しかし、貧富の格差は一層拡大。
 景気減速が鮮明になる中、株価急落に庶民の不満が高まり、爆発事故も各地で相次ぐ。
 共産党関係者によると、習主席が主導した「反腐敗闘争」は国民の強い支持を得てきたが、最近では「没収した巨額賄賂はどこに行ったのか。
 貧困対策に使え」と不満が高まり、効果に陰りが出ている。
 記念式典でのサプライズは、腹心が次々と逮捕され反腐敗闘争に強く反発する江沢民元国家主席ら長老が、天安門城楼で習主席と並んだことだった。
 「両者が歩み寄ったのでは」との臆測も出ており、国民に「団結」を示すことができた。
 習主席にとって「抗日」と「軍事パレード」を一体化させた舞台は、「国民を喜ばせる」(共産党筋)上で効果的な政治イベントだったことは間違いない。

◇歴史観に矛盾と疑問

 その一方、軍事パレードを通じて「強国」路線を前面に出す中で、
 「抗日戦争はそもそも国民党が主導したものだった」という矛盾
も露呈した。
 解放軍歴史研究室の研究員は記者会見で「日本打倒で中国が決定的な力を持った」と強調したが、「(当時の)主力軍はソ連、米国、英国の3カ国だった」と解説する国防大学教授の文章がインターネット上で流れ、共産党の歴史観への疑問が相次いだ。

 不満と疑問の声は、軍事パレードへの招待客にも及んだ。
 習主席が天安門で固く握手を交わした首脳の中に、戦争犯罪と人道に対する罪で国際刑事裁判所(ICC)に国際手配されているスーダンのバシル大統領の姿があった。
 ある中国人知識人は、ネット上でこう指摘した。
 「バシルを(平和を訴える)反ファシズムの式典に招待して連携を強化することは、中国も戦争犯罪に協力することになるのではないか」
(北京時事)



東洋経済オンライン 2015/9/5 06:00 美根 慶樹
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150905-00083121-toyo-nb

中国「抗日勝利70年式典」、
覆い隠せぬ矛盾

 「抗日戦争勝利70年式典」は、9月3日、北京において70発の礼砲とともに始まり、外国兵、退役兵を含む1万2千人の兵士、さらに最新式ミサイル部隊が行進し、上空では記念飛行が行われ、数万発の風船と鳩の放出・飛翔をもって終了した。
 趣向を凝らしたにぎにぎしい記念パレードであった。

 記念式典に対して各国が取った態度は、中国として満足できるものではなかっただろう。
 元首級で参加したのは約30カ国だけ。
 そこにロシアのウラディミール・プーチン大統領、韓国の朴槿恵大統領、潘基文国連事務総長は含まれていたが、日本や欧米諸国は参加をしなかった。
 これらの国は招待を受けたものの、他の用事を優先して欠席としたのである。

 世界から注目を集めたこの式典の意図は何だったのか。
 実は、習近平主席には大きな戦略があった。

■なぜ大々的に祝賀したのか

 これまで中国は抗日戦争勝利記念を大々的に祝賀していなかった。

 日本と連合国が降伏文書に署名したのは1945年9月2日、ミズーリ号の艦上であり、その時に中国を代表して出席していたのは中華民国の徐永昌将軍だ。
 共産党軍からの出席者はいなかった。
 その時点で中国を代表していたのは中華民国なのでそうなったのは当然だったが、中華人民共和国としては対日戦勝を記念すれば、どうしても中華民国の業績をたたえることになるのであまり熱心になれなかったのだろう。

 中華民国が3日を記念日としたのはその日を祝日としたからであるというのが普通の説明であるが、なぜその日を祝日としたのかよくわからない。
 西側諸国は2日をVJ day(Victory day against Japan)として、節目に記念行事を行なっている。

 中国は、中華民国にならって対日戦勝記念日を9月3日としたのだろう。
 そのせいか、9月3日を記念日とすることはなかなか定着せず、同じような決定が1951年、1999年、2014年と何回も行なわれた。
 これだけでも異常だが、2005年に中国外交部スポークスマンが、中国は以後8月15日を抗日戦勝記念日とすると公に説明したこともあった。
 今でもインターネット上では8月15日説が唱えられている。

 このような中国の不確かな対日戦争勝利記念についての考えを一変させる機会となったのは、今年5月9日に行われたロシアにおける対独戦勝記念行事であった。

 旧ソ連の崩壊後、ロシアは1990年代を通じて対独戦勝記念行事を控えめになっていた。
 ところが、プーチン大統領は2005年の60周年に際して大規模な祝賀行事を復活させ、軍事パレードも行った。
 西側からは小泉純一郎首相(当時)を含む各国首脳が出席した。
 しかし今回は、ウクライナ問題の影響を受けてモスクワでの記念行事に米欧の首脳は出席しなかった。

■他の戦勝国との連携に必死

 中国からは、2005年にも胡錦濤国家主席が出席した。
 ところが、中国は対独戦には参加していないことから、主賓としての扱いは受けなかった。
 しかし、西側の首脳が出席しない今年の記念行事は違っていた。
 中国の参加はホスト国のロシアからも重視され、夫人とともにプーチン大統領の右隣に着席した習主席は注目を集めた。
 「主賓」と呼んだ報道もあった。
 また、中国の儀仗兵が行進に参加し、パレードを盛り上げた。

 実は、習主席はモスクワへ行く以前から、対独戦勝記念行事への出席を9月3日の抗日戦勝記念と関連付けており、ロシア側からの招待に対し、プーチン大統領が北京の行事に出席することの確認を求めていた。
 これにプーチン大統領は積極的に応えた。

 習主席はこの返事を得て喜んだが、単に行事が盛り上がるから喜んだわけではない。
 モスクワでは対独戦勝、北京では対日戦勝となると比較的狭い目的となるが、そうではなく、もっと大きな目的を掲げることに繋がると考えたのだ。
 具体的には「反ファシズム」や「反帝国主義」を掲げることである。
 これが中国にとって好都合と判断したのだ。

 習主席は
 「将来、反独ファシズム・反日軍国主義戦勝記念活動を中ロ共同で開催することを希望する」
と述べたと報道されたこともあった(香港の中国系紙『文匯報』1月27日付)。

 「共同開催」は実現しなかったが、今回、その一歩手前まではたどり着いた。
 中国は、歴史的には存在しなかったドイツとの戦いにも、「反ファシズム」「反帝国主義」などの戦争目的を掲げることで、まるで大きな戦いに参加していたとの印象を作り出そうとしているのだ。

 中国は、戦争の大きな目的を掲げることが大国としてふさわしいことだと考えたのだろう。
 歴史的には、第二次世界大戦が終わった時点では共産党軍は地域的な勢力に過ぎなかったのだが、ロシアとともに「反ファシズム」を戦ったというシナリオであれば、中国は以前から、第二次世界大戦の時から大国であったかのような印象になるからだ。

 現在進めている歴史戦略については、行き過ぎも表れている。

 たとえば、毛沢東の長男で後に朝鮮戦争で戦死する毛岸英がベルリンに攻め込んだ部隊に参加していたという作り話が出回ったことがある。
 しかし、そういう事実はなかったという批判がインターネットなどで流されたことから、この話は消えた。
 また、1943年のカイロ会談に出席した蒋介石の写真が毛沢東にすり替えられたこともあった。

■戦争の位置づけが定着せず

 共産党が戦争勝利について語ることの矛盾を理解しているからこそ、無理なことをせざるをえないわけだ。
 このようなあからさまな歴史の書き換えは、語るに落ちるものである。

 ここで注目すべきは、穏健な歴史観の再構築にも腐心しているようにみえることだ。
 中国では、長らく使ってきた「抗日戦争」と呼ぶのではなく、「反ファシズム」「反帝国主義」のほうがよいとする説がある。
 日本と戦った主体は中華民国であるが、ファシズム、帝国主義と戦ったのは共産党軍である、と説明すれば、整合的になるからだ。

 ただし、この考え方はまだ完全には確立していない。
 今回の習主席の演説でも、「抗日」と併用されている。
 とはいえ、戦争目的を戦略的見地から拡大あるいは調整していることがうかがえる。

 日本では、ロシアにおける対独戦勝記念と中国における対日戦勝記念を相似形で見る傾向がある。
 北京での記念行事への出席を安倍晋三首相が求められた際、ドイツのアンゲラ・メルケル首相がモスクワでの行事を外して訪ロした例にならうのがよいという考えがあったのもその表れだ。
 が、「反ファシズム」「反軍国主義」の大傘の下で対日戦勝や対独戦勝を記念し、またそうすることによって大国としての地位を固めようとする習主席の戦略がある限り、そのような皮相的な対応は禁物だ。

 もちろん、中国としても大国化戦略だけで日本に接しているのではなく、対日関係の重要性も認識している。
 一般論としては、将来、戦勝記念を和解促進の機会として役立たせることもありうるだろう。
 和解はもちろん日本側でも努力すべきことである。
 しかし、北京での行事がそのようなものになるにはまだ一定の時間が必要だろう。
 日中関係の改善は、とくに政治面では、一筋縄ではいかないかもしれない。

 とはいえ、国と国の関係は政治がすべてではない。
 経済面で中国はすでに日本とも、米国とも、そのほかの国とも相互に依存しあう関係になっている。
 近々行われる予定の日中韓3国の首脳会談では、政治問題について真摯に話し合うこともさることながら、経済問題について積極的に話し合うことが期待される。
 経済は合理性を要求するので政治的な意図に基づく主張の制約要素となるのだ。
 今後の日中関係の改善のカギとなるのは、両国がまず経済面で冷静に話し合うことだ。
 そのことをベースとして、3国がともに安定的に発展できる方策を模索するべきである。



現代ビジネス 2015年09月07日(月) 近藤 大介
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45131

気分はもう「皇帝」!?
「抗日勝利70周年軍事パレード」に見た習近平の"哀しきアナクロニズム"

■おなじみの「皇帝スタイル」を貫いた習近平主席



 まさに習近平の習近平による習近平のための壮大なショーだった。

 9月3日北京時間の午前9時、「中国人民抗日戦争及び世界反ファシズム戦争勝利70周年大会」が挙行された。
 習近平主席が、今年最大のイベントと位置づけた、政権の威信を賭けた一大軍事パレードである。
 私は中国中央テレビのインターネット生中継で、2時間39分にも及ぶ一部始終を見届けた。

 まずは、習近平主席と彭麗媛夫人のもとへ、各国の来賓たちがひと組ずつ赤絨毯を歩いて進み出る儀式だった。
 この儀式は天安門広場でやるのかと思っていたら、習近平主席は故宮の太和殿の中庭でやった。
 これは伝統的な「皇帝スタイル」である。

 清朝までは、アジアには「冊封体制」が機能していた。
 これは中国という宗主国と、周辺職という属国による緩やかな主従関係のことだ。

 毎年の春節になると、各国の使節団が皇帝のご機嫌伺いにやってくる。
 使節団は太和殿の中庭に立ち、皇帝に献じる特産品を積み上げる。

 皇帝が姿を見せると、各国の使節団は、「三跪九叩の礼」で皇帝に敬意を示す。
 なわち、1回跪いて3回頭を地面に擦りつけるという動作を3度繰り返すもので、各国が中国の属国であることを示す儀式だった。

 今回の各国代表たちは、「三跪九叩の礼」こそしなかったが、中央にでんと立って動かない習近平夫妻のもとへ、赤絨毯の長い道を進み出て、挨拶をする。
 習近平主席は、中国の時代劇でお馴染みの「皇帝スタイル」を貫いたのである。

 通常、このような儀式では、主賓である習近平夫妻は、外国の賓客をエスコートしなければならない。
 ところが習近平主席は、皇帝然としているから、無頓着である。
 そのため、本国や日米などからの反対を押し切ってやってきた
 朴槿恵大統領などは、習近平夫妻と握手した後、どこへ向かえばよいのか分からず、間違った方向へ進んでしまった。

 習近平主席は、唯一の例外として、プーチン大統領を、中庭中央で迎えて握手した後、自ら控え室まで案内した。
 だが興味深かったのは、習近平主席が苦手な作り笑いを必死に浮かべて、プーチン大統領との「老朋友」ぶりを演出しようとしているのに、プーチン大統領は一度も笑顔を見せなかったことだ。
 かったるそうに歩いてきて、取ってつけたような握手をして、さっさと歩き出してしまった。

 その間も、中国中央テレビ(CCTV)のアナウンサーは、朗々と感動調で語り続ける。

 「われわれは70年前の偉大なる勝利に想いを馳せつつ、
 習近平総書記を指導者とする党と国家によって、
 中華民族の偉大なる復興という『中国の夢』の実現に向けて進んでいるところであります」

 「3000年の歴史を持つ北京で、今日は初めての誕生日のようなものです」

■「金三胖」はお呼びでない?

 9時34分に、31ヵ国・機関の代表と「出迎えの儀式」を終えると、一同で記念撮影を行った。
 習近平主席の右隣はプーチン大統領、彭麗媛夫人の左隣は、黄色の目映いジャケットを羽織った朴槿恵大統領だった。

 軍事同盟を結んでいるはずの北朝鮮の崔竜海書記はどこにいるのかと思って映像に目を凝らしたが、判別できない。
 少なくとも前列にいないことは確かだ。

 これは、習近平主席率いる中国が、朝鮮半島の問題は、北朝鮮とではなく韓国と話し合っていくという態度を明確に示した
ものだろう。
 習近平主席と朴槿恵大統領は前日に、20分の予定が35分の中韓首脳会談を行い、その後1時間余りの午餐を共にした。
 二人が会談したのは6回目である。
 しかし習近平主席と金正恩第一書記は、会ったことさえない。

 ちなみにこの日、中国国内で5億人以上が利用している中国版LINEの「微信」(WeChat)に出回ったのは、下記の2枚の写真だった。
 1枚目には、「中韓首脳に嫉妬する金三胖」というタイトルが、2枚目には「崔竜海に暗殺された金三胖」というタイトルがそれぞれついていた。

 「金三胖」とは、「金ファミリーの三代目のデブ」という意味で、中国における金正恩第一書記のニックネームだ。
 決してありがたい呼び方ではないが、中国で「金三胖」と言えば、たいていの人が理解する。
 いまの中朝関係が、いかに悪化しているかが、ご理解いただけるだろう。


●「中韓首脳に嫉妬する金三胖」


●「崔竜海に暗殺された金三胖」

■渦中の江沢民元主席が登壇!

 記念撮影を終えると、習近平主席は各国の来賓を、天安門の楼上に案内した。

 楼上には、習近平主席を中央に、張徳江、兪正声、劉雲山、王岐山、張高麗の中国共産党「トップ7」が勢揃いした。
 張徳江と劉雲山は、以前よりだいぶ太った。
 また、「トップ7」の6人は皆、背広にネクタイ姿なのに、習近平主席だけが人民服姿である。
 「現代の毛沢東」を気取る習近平主席らしい演出だった。
 この日の立ち居振る舞いは、本当にかつての毛沢東の所作をマネしていた。

 さあ、主役は揃ったと思ったら、そこへ「二人の元皇帝」が姿を現した。
 江沢民元主席(89歳)と胡錦濤前主席(72歳)である。

 この二人が公の場に姿を見せるのは、2014年9月30日に人民大会堂で行われた建国65周年のパーティ以来である。
 当時、習近平主席、江沢民元主席、胡錦濤前主席の3巨頭は揃って強ばった表情で、隣同士にいながら、互いに顔を合わせることすらなかった。

 その1年前に較べると、江沢民は痩せて、胡錦濤は太った。
 だが相変わらず、3巨頭が顔を合わせる映像を見ることはできなかった。
 習近平主席は、常に隣のプーチン大統領と「2ショット」で映されたからである。

 後に、この様子を現場で見守っていた人に確認したら、習近平主席が一度、余裕の表情で江沢民元主席に声をかけたという。
 おそらく自分の方がすでに上なのだということを、周囲に示したかったのだろう。

 このところ、江沢民拘束説が、何度となく出ている。
 習近平vs江沢民の仁義なき権力闘争は最終段階に来ていて、習近平主席は89歳の江沢民元主席まで監獄にブチ込むのではないかという憶測も出ているからだ。
 その意味で言えば、江沢民元主席が登壇しただけでニュースなのである。

 江沢民元主席としては、あえて顔を見せることで、健在ぶりを誇示しようとしたのだろうが、習近平主席としては、ただ存在を誇示されても困るので、わざと余裕の表情で話しかけたのだ。

 習近平主席は、イギリスのブレア元首相とドイツのシュレーダー元首相には、打って変わって笑顔で握手を交わした。

■「正義必勝! 平和必勝! 人民必勝!」

 10時ジャストに、習近平主席の右横に立っていた李克強首相が開会宣言を行った。
 李克強首相の表情が冴えない。
 まるで徹夜の受験勉強をして試験に臨む学生のようだ。
 察するに、昨今の経済危機への対処で、多忙を極めているのだろう。
 もしかしたらホンネでは、「なぜこんな経済の緊急時に軍事パレードなんかやるのだ」という心持ちなのかもしれない。

 その李克強首相が、「起立! 礼砲!」と叫ぶ。
 これを合図に、70周年に合わせて、70発の礼砲が発射された。
 続いて、李首相が「昇国旗! 唱国歌!」と叫ぶと、国旗の掲揚が行われ、国歌斉唱となった。
 壇上中央に立つ習近平主席も、口を大きく開けて歌っていた。

 その間、
 「中国国歌の義勇軍行進曲は、1935年にわれらが抗日兵士を鼓舞する目的で作られたものです」
とCCTVのアナウンサーが解説する。
 つまり、オリンピックで中国選手が金メダルを獲るたびに、「誰もが最後の吼え声を上げて敵の砲火に立ち向かえ、前進!」という抗日の歌を聞かされていることになる。

 続いて習近平主席が、大型マイクが6つも取りつけられた演台から、13分間に及ぶ演説を行った。
 その要旨は、次のようなものだった。

 「70年前の今日、中国人民は14年の艱難辛苦の闘争を経て、中国人民の抗日戦争の偉大なる勝利を獲得した。
 中国人民の抗日戦争と世界の反ファシズム戦争は、正義と邪悪の、光明と暗黒の、進歩と反動の大決戦だった。

 中国人民の抗日戦争は、開始時間が最も早く、持続時間が最長の戦争だった。
 侵略者に遭遇し、中華児女は不屈不倒の奮戦を見せ、徹底的に日本の軍国主義侵略者たちを打ち負かした。
 そうして中華民族5000年余りの発展的な文明の成果で、防ぎきったのだ。
 これは戦争史上の奇跡であり、中華民族の壮挙である。

 中国人民の抗日戦争勝利は、近代以来の中国の外敵から侵入を受けた中で、初めての完全な勝利だった。
 この偉大なる勝利によって、中国を植民地化しようとする日本軍国主義の企みを、徹底的に粉砕したのだ。
 そして近代以来の中国の外敵に侵入された民族の恥辱をそそぎ落としたのだった。
 この偉大なる勝利は、中国の大国としての地位を再び新たに確立した。
 ここに中華民族の偉大なる復興という光明の差す前景を開闢したのだ。

 先の戦争の戦火は、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、太平洋などに及び、死者は軍民合わせて1億人を超えた。
 そのうち中国の死傷者は3500万人を超え、ソ連は2700万人を超えた。

 中国は永遠に覇を唱えない。
 永遠に領土の拡張を狙わない。
 永遠にかつて自国が受けたような悲惨な経験を他国に負わせない。
 中国人民解放軍は、人民の子弟兵である。
 全軍の将士は全身全霊人民に服務することを本懐とするよう銘心する必要がある。
 私はここに宣布する、中国は30万人の軍人を削減する。

 中華民族の偉大なる復興は、一代一代の人々の努力によっている。
 われわれは歴史の偉大なる真理を肝に命じるのだ。 
 正義必勝! 平和必勝! 人民必勝!」

■平和路線を匂わせながら軍の全権掌握を狙う

 CCTVのアナウンサーは、1949年の建国以降、計14回の軍事パレードを行ってきたが、抗日戦争勝利をテーマにした軍事パレードは今回が初めてで、それだけ意義深いものだと力説する。

 軍人の削減は、歴代の指導者も欠かさずやってきた。
 人民解放軍は、毛沢東時代の1960年代に、最大で600万人もいた。
 それが毛沢東時代末期に400万まで減った。
 次の鄧小平は、100万人を削減した。
 続いて江沢民が50万人、
 胡錦濤が20万人減らした。

 習近平主席は、本来なら2年前の11月に開かれた「3中全会」(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)で、30万の軍人削減を決めようとしていた。
 だが軍の抵抗が激しく、逆に東シナ海の防空識別圏を設定するなど、軍に配慮せずにいられなかった。

 それが昨年から今年にかけて、江沢民派の軍の両巨頭だった徐才厚と郭伯雄・両前中央軍事委員会副主席を引っ捕らえ、急速に軍の掌握を強めている。
 そこで軍が主役となるこの日に、一気に宣言してしまったのだろう。
 加えて「中国は軍拡していない」と、世界にアピールしたかったに違いない。

 ただ、私が聞いている話では、習近平主席の軍改革の目的は、30万人の削減ではない。
 総政治部、総後勤部、総装備部のいわば「利権3部」を撤廃し、これらの機能を、国防部、総参謀部などに移行していくことである。
 かつ現状の7大軍区を、より北京から統制しやすい4大軍区に統合するこ
とだ。
 つまり、軍のすべての権限(利権)を、自分が掌握することにある。

■お立ち台に据えられた「4本のマイク」が意味するもの

 さて、10時19分に、再び司会者の李克強首相が「閲兵開始!」と宣言すると、習近平主席が天安門の楼上から太和殿の中庭に降りていき、そこに待機していた国産車『紅旗』に乗り込んだ。

 『紅旗』とは、習近平主席の父・習仲勲元副首相がかつて乗っていた共産党幹部専用の国産車で(ただし当時のエンジンはベンツ製)、おそらく習近平主席も子供の頃、父親と共に乗っていたのだろう。

 習近平主席は、『紅旗』に乗って天安門から12車線の長安街を東に進み、約2㎞先の第2環状道路と交わる建国門の手前で引き返した。

 その間、1万2000人の軍人を前に、
「同志们好!」(同志たちよ、元気か)
「首长好!」(首長さま、元気であります)
「同志们辛苦了!」(同志たちよ、ご苦労)
「为人民服务!」(人民のために服務します)
と、200m進む毎に1回くらい、声をかけた。

 そう言えば、『紅旗』には、お立ち台の習近平主席の前に、4本のマイクが設置されていた。
 その時、ピンときたのだが、これは自分が中国共産党を指導し、共産党が国家を指導するという意味ではなかろうか。
 中国の国旗「五星紅旗」は、共産党(大きな星)が、工員階級、農民階級、都市小資産階級、民族資産階級(4つの小さな星)を指導することを象っているからだ。

 習近平主席は、『紅旗』に乗っている20分近くの間、終始緊張した面持ちだった。
 そのせいか、何度も左手で敬礼するというミスを犯した。
 軍人なら右手で敬礼するのが常識だが、軍のトップが何度も左手で敬礼してしまったのだ。

 習近平主席が天安門に戻ってくると、空軍のヘリコプターが8機で「7」を、12機で「0」を象り、合わせて「70」の数字を演出しながら、天安門上空を飛行した。

 その後は、300名近い「老兵」たちが、2台の車に乗って行進。
 続いて、207名からなる「三軍儀仗隊」の一糸乱れぬ行進。
 さらに、中国共産党の初期10部隊である「狼牙山五壮士」「平型関大戦突撃連」「百団大戦」「夜襲陽明堡」「雁門関伏撃戦英雄連」「攻堅英雄連」「劉老庄連」「東北抗聯」「華南遊撃隊」「武警部隊」の兵士たちが、一糸乱れぬ行進をした。

 CCTVの解説によれば、兵士たちは96mの距離を、1歩75㎝の歩幅で、1.2mの距離をおきながら、128歩ちょうどで歩ききるのだという。

 10:57分、中国の軍事パレードで初めて、17ヵ国の軍隊の行進が行われた。
 国名のABC順で、アフガニスタン、ベラルーシ、カンボジア、キューバ、エジプト、フィジー、カザフスタン、キルギスタン、ラオス、メキシコ、モンゴル、パキスタン、セルビア、タジキスタン、バヌアツ、ベネズエラ、そしてラストを特別扱いのロシア軍が行進した。

 11:05分からは、メインの中国軍の兵器の行進である。
 27の部隊が、地面突撃、防空反導、海上攻撃、戦略打撃、情報支援、後装保障の6つのテーマに沿って最新兵器を繰り出した。
 CCTVの解説によれば、行進した500種類以上の兵器のうち、84%が初お目見えだという。

 続いて空軍の番で、8色の煙を吐く8機の戦闘機、そして200機近い戦闘機が、編隊を組んで飛行した。

 最後は、7万羽の鳩が天安門広場に放たれ、お開きとなった。

***

 今回の軍事パレードを見て強烈に感じたのが、習近平という指導者のアナクロニズム(時代錯誤)である。
 いまの中国人の生活を本当によくしようと思うのなら、何よりも適切な経済対策を打って、国有企業をサッサと民営化していく必要がある。
 ところが習近平主席にとっては、常に政治が経済に優先するのである。

 それだけ、中国共産党の一党支配が危うくなってきているということでもある。
 その意味で、アメリカと並ぶ軍事大国化を鼓舞したが、哀しき中国、そして哀しき習近平を垣間見た気がした。



ニューズウイーク 2015年9月7日(月)18時00分 小原凡司(東京財団研究員)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2015/09/post-3901.php

軍事パレードにおける習近平「講話」の意味


●「明るい未来」 共産党の指示に従えば間違いない、と習近平は国民に語りかけた Damir Sagolj-REUTERS

 2015年9月3日に北京で挙行された軍事パレードは、中国にとって一大イベントであった。
 軍事パレードに先立つ演説で、習近平主席は、「中国は永遠に覇を唱えず、永遠に拡張しない」と述べて平和的台頭を強調した。

 一方で、軍事パレードで披露された兵器を見れば、軍事パレードが米国を強く意識したものであったことは明らかだ。
 84%が初のお披露目である。口では「平和」を唱え、実際には米国に対抗する軍事力を誇示したことに対して、他国では矛盾を指摘する声もある。

 しかし、矛盾しているのは、ある意味、当然でもある。
 そもそも、国内向けに示さなければならない姿勢と、国際社会に向けて示したい姿勢が、矛盾しているからだ。

 現在、中国社会は非常に不安定になっている。
 習近平指導部が進める「反腐敗」や改革によって、痛みを被る者が増え、改革を進め始めたのに、経済格差も一向に解消しない。
 さらには、
 株価が暴落し、大衆が中国経済の継続的な発展を懸念
し始めた。

■もはや共産主義を信じる国民はほとんどいない

★.中国の経済発展が失速し、
 大衆が豊かな未来を信じられなくなったら、
 共産党の権威は失墜し、
 一党統治はますます難しくなる。
 危機感を抱く中国指導部は、軍事パレードに、社会を安定させ、共産党の求心力を高める効果を期待したのだ。

 経済政策は、効果が表れるまでに時間がかかる上、劇的な変化を実感しにくい。
 そのため、
 戦勝記念式典で、「これから中国が発展する番だ」という印象を国民に与えようとした
のである。

 世界が祝う戦勝イベントの中心に中国がいることを見せることによって、中国が国際社会のルールを決める正統性を示し、軍事パレードで米国に対抗できる軍事力を有していると主張することによって、国際社会をリードする能力を見せようとしたのだ。

 中国指導部の意図は、先に述べた習近平主席の「講話」に表れている。
 習近平主席の講話は、各国首脳等に対して歓迎の意を述べた後、きれいに3つの部分に分けられている。
 最初の部分で述べられたのは、中国人民が祝う抗日戦争勝利についてである。
 もはや、
★.共産主義を信じる国民がほとんどいない中、
 「抗日戦争に勝利し、中華人民共和国を成立させた」こと以外に、
 中国共産党一党統治の正統性を示すものはない。
 中国指導部にとって、抗日戦争勝利は、はずすことができないのだ。

 しかし、日本でも、「日中戦争を戦ったのは主として国民党であり、共産党ではない」といった批判がなされるように、日中戦争の中国側主役は国民党であった。
 中国指導部は、このことを理解していない訳ではない。
 「講話」の中で、習近平主席は、
 「共産党」の名も「国民党」の名も使用していない
 主語は、「中国」であり「中国人民」なのである。
 歴史を歪曲しないで共産党統治の正統性を示す、苦しい表現だとも言える。

 抗日戦争を、正義と邪悪の戦いである反ファシスト戦争の一部と位置づけ、中国人民が、いかに苦しい戦いを戦い抜いたのかを述べた後、その中国を支援し助けてくれた「外国の政府と友人たち」に感謝を述べて、第2の部分に移行する。

 第2部では、世界に対して、ともに平和発展の崇高な事業を推進しようと呼びかける部。
 しかし同時に、中国が創ろうとしている国際社会が、現在の国際社会そのままではないことも示している。

 「世界各国は、国連憲章の趣旨と原則を核心とした国際秩序と国際システムをともに維持しなければならない」
とした上で、
 「協力とWin-Winの関係を核心とした『新型国際関係』を積極的に構築しなければならない」
としたのだ。

■「実力の誇示」がパレードではすまなくなる可能性も

 中国の国際情勢認識の裏返しである。
 今年3月23日、王毅外交部長は、「新型国際関係」を主題とした講演を行っている。
 その中でも、中国は、
 「対抗に変えて協力を、独占に変えてWin-Winを」主張する
として、現在の国際社会が、中国にとって不公平であると認識していることを示唆した。

 現在の国際ルールを変更し、中国が言う公平な、すなわち、中国にとって有利なルールを創ろうというのだ。
 中国が考える現在の国際社会の勝者は米国である。
 中国指導部は、米中両大国が、新たな国際ルールを決めていくことを国民にアピールしたかった。

 しかし、軍事パレードを実施することで、国際社会が中国に対する警戒心を高めることも理解している。
 中国が「平和」を口にしたところで、他国は信用しないのだ。
 そこで、具体的に「平和の支持者」であることを示す必要もあった。
 近代化・機動化のために必要とされている人民解放軍の30万人削減を、この「講話」の中で表明したのもその一つだろう。

 最後の部分は、先ず、「中華民族は燦然と輝く明日を創出できる」と呼びかける。
 そして、先の二つの部分を踏まえて、短く、しかし明確に、国民に共産党の指導に従うように求めたのである。
 この結論こそ、中国指導部が国民に求めるものだ。

 しかし問題は、他国を挑発したくないと考えているとしても、国内の状況に危機感を有する中国指導部には、国民に「明るい将来」を信じさせるために、時として、中国の実力を誇示する必要があるということである。

 国際社会は、その実力の行使が、単なるイベントではなく、実際の他国との紛争の場面で行われることがないよう、注視していく必要があるだろう。

小原凡司
1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。東京財団研究員



レコードチャイナ 配信日時:2015年9月11日(金) 2時1分
http://www.recordchina.co.jp/a118773.html

今後は中国で軍事パレードが常態化、
背景には国内事情も―香港メディア

 2015年9月1日、香港・大公網は
 「今後7年で中国は何度の軍事パレードを行うだろうか?」
と題し、中国の軍事パレードについて分析した。

 中国は1949年の建国から2009年に建国60周年を迎えるまで、計14回の軍事パレードを行っている。
 そのすべては10月1日の国慶節を記念して行われたものだ。

 中国が従来の慣習を破り、今月3日に対日的色彩の強い軍事パレードを行ったのは異例だった。
 これについて人民日報は社説で
 「日本は領土問題や歴史問題で中国に対して度を越した態度をとっている。
 中国は軍事力をもってして中国の決意と能力を日本に見せつけてやるのだ」
と述べている。

 ただし注目すべきは中国の国内情勢だ。
 中国の経済成長率は低迷し、社会のさまざまな矛盾が噴出しているほか、反腐敗も進められている。
 ある専門家は、中国が抗日戦争勝利70周年の軍事パレードを行った理由として、
 「反腐敗運動もひと段落したため、さらに民心を集め、自尊心を高めるような出来事が必要だった」
とした。

 西欧社会では軍事パレードは時代おくれと見なされている。
 しかし中国では今後、共産党や軍隊の創設記念などさまざまなタイトルのもと、軍事パレードを行う回数が増え、珍しいことではなくなるだろう。




【輝ける時のあと】


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