『
新潮社 フォーサイト 9月10日(木)20時33分配信 ジャーナリスト・名越健郎
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150910-00010000-fsight-int
中国に冷遇され破たんする「プーチン戦略」
:「反日外交」も裏目?
ロシアのプーチン大統領は9月3日、中国の対日戦勝70周年式典に参列、習近平国家主席の右隣に立ち、中露の盟友ぶりを誇示した。
同大統領の訪中は、2000年の就任以来これが24回目。
この間の訪日は4回で、最近の北方領土問題での反日志向と併せ、すっかり中国一辺倒に舵を切った形だ。
3日夜の首脳会談では、30近い経済協力文書が両首脳の見守る中で調印された。
だが、いずれの案件も中国の消極姿勢が目立ち、ロシアの経済苦境を救う案件はなかった。
欧米の制裁で中国が頼りのロシア経済にとって、中国の冷淡な対応は誤算だ。
■口先だけのエネルギー協力
最近の中露経済交渉では、ロシアのエネルギー大手トップが中国側と個別交渉し、企業間で中国との近さを競い合っている印象だ。
今回、最も目立ったのは国営石油会社ロスネフチで、セチン社長は
「ルースキー油田など2つの大型油田開発などに中国が投資し、総投資額は300億ドルに達する」
と豪語した。
しかし、これは「潜在的な可能性のある数字」(同社長)とされ、一種の努力目標にすぎない。
ロシア紙ガゼータ(9月4日)は専門家の話として、
「合意の条件はこれから詰める必要がある。
原油価格の下落を考えれば、中国側の対応は厳しくなろう」
と伝えた。
大統領に近い実業家、ティムチェンコ氏が率いるガス業界2位のノバテクは今回、中国のシルクロード基金との間で、北極海のヤマル液化天然ガス(LNG)計画に中国側が10%出資することを検討する「枠組み協定」に調印した。
欧米の金融制裁を受けるノバテクは中国の融資を期待し、同氏は「中国が将来200億ドル出資する」としていた。
しかし、今回の協定を含めて検討段階であり、中国側はまだ出資を一切決めていない。
ガス生産量が今年、過去10年で最低となるなど低迷する最大手のガスプロムは今回、中国側とエネルギー協力に関する覚書に調印した。
しかし、懸案のガスパイプライン西ルートについて合意に至らず、ミレル社長は「来年春の調印を希望する」と述べるにとどまった。
昨年着工した東ルートも、中国側が価格引き下げを要求し、工事が停滞している模様だ。
エネルギー以外の合意文書でも、目玉となる案件はなかった。
今回、首脳会談後の共同記者会見が行われなかったのは、進展がなかったためだろう。
■中国が主導権
既存油田・ガス田の枯渇化が進むロシアにとって、新規油田・ガス田の開発が急務だ。独立新聞(9月4日)によれば、メドベージェフ首相は3日にモスクワで開かれた石油業界の会議で、
「新規油田を開発して増産し、ロシアが石油産業のリーダーとしての地位を保持することが極めて重要だ」
と強調し、新規開発を指示した。
しかし、この会議では原油価格が今後、1バレル=25-30ドルに下落する可能性のあることが報告され、暗いムードが漂ったという。
欧米諸国の対露制裁で、西側企業によるエネルギー産業への技術支援や融資が困難になる中、ロシアにとっては中国の融資が頼りだったが、首脳会談では中国側の冷淡な対応が目立った。
ロイター通信(9月3日)は、
「原油価格の下落、ルーブルの暴落、中国自身の経済混乱や汚職一掃運動が、ロシアとの一連のプロジェクトを無期延期にする可能性がある」
とする業界筋や専門家の話を伝えた。
中国政府高官も8月、インタファクス通信に対し、
「原油価格下落がガス・プロジェクト交渉を複雑にしている。
ルーブルの下落も中露経済協力に大きなリスクをもたらした」
と発言した。
英紙フィナンシャル・タイムズ(8月18日)は、
「中露のエネルギー協議では中国が主導権を握っている。
中国経済の悪化でガス需要は予想以上に落ち込み、中国にとって一連のプロジェクトを急ぐ必要は全くない。
ロシアとの交渉で中国は非常に強い立場にある」
と書いた。
■「脱露入米」へ向かう中国
プーチン大統領は以前、
★.2025年までに石油輸出全体の35%、ガス輸出の25%を中国向けにする
と語ったことがある。
現在、中国向け石油輸出は全体の14.8%だが、ガス輸出はまだほとんどゼロで、
★.サハリン産LNGを高値で大量購入する日本の方がお得意様
だ。
★.中国は東南アジアやアフリカ、中南米など既に大量投資したガス田からの輸入を拡大しており、需要が低迷すれば、リスクを伴うロシアからの新規ガス輸入を急ぐ必要はない。
ロシアの評論家、ウラジスラフ・イノゼムツェフ氏はモスクワ・タイムズ紙(9月2日)で、
「中露のエネルギー協力の夢は消え去った。
ガスパイプライン計画『シベリアの力』がいつ完成するかは誰にも分からない」
と書いた。
中露両国は昨年883億ドルだった2国間貿易を、今年1000億ドルに乗せる目標を掲げたが、ロシアの経済危機や中国経済の混乱で、
★.今年上半期の往復貿易は前年同期比28.7%のマイナス
だった。
★.中国の対露投資はまだ少なく、昨年は16億ドル
にすぎなかった。
イノゼムツォフ氏は
★.「中国はその10倍以上をカザフスタンに投資している」
「昨年のロシアからの資本逃避総額1515億ドルは到底挽回できない」
とし、両国の経済事情から、
★.「中露の経済的、政治的関係を強化することは、かつてなく難しくなりつつある」
と指摘した。
プーチン大統領は「日本軍国主義批判」に同調するなど、中国に政治・外交面で協調して恩を売れば、中国から経済的配当が得られると目論んだようだが、中国は現実的かつしたたかであり、経済が破綻しかけたロシアに魅力を感じていない。
中露間では、70周年式典相互参加や公式首脳会談、合同軍事演習など今年の主要な交流はすべて終わり、しばらく関係強化のモメンタムはない。
中国外務省関係者は最近、中国外交が今後
「脱露入米」に向かう可能性を示唆した。
日米を敵に回して中国にすり寄ったプーチン戦略は裏目に出るかもしれない。
Foresight(フォーサイト)|国際情報サイト
http://www.fsight.jp/
』
『
サーチナニュース 2015/09/21(月) 10:14
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2015&d=0921&f=business_0921_004.shtml
中国と共にロシアも経済崩壊?
ルーブル急落!=為替王
中国の異常な軍事パレードを賞賛したり、北方領土侵略を強化したり、日本への圧力を強めているロシア。
そんなロシアも中国と共に、経済悪化の危機にさらされています。
■ロシアルーブル、また急落中
ウクライナへの侵攻と、欧米諸国からによる経済制裁などを受けて、昨年以降、「ロシアの通貨ルーブルが急落した」とのニュースを覚えている方も多いでしょう。
今年前半は、ウクライナ問題をうやむやにして乗り切り、ルーブルもV字回復するかに思われましたが、そうはいきません。
中国バブル崩壊と歩調を合わせるように、ルーブルは再度、下落へ。
過去3カ月間(6~8月)で、ルーブルは対ドルで最大3割以上も下落、対円で2割以上も下落しました。
(※米ドル円にたとえるならば、為替レート120円だったのが、3カ月で100円割れへ急落するほどの急降下。)
■ロシア経済悪化、ルーブル急落の理由
欧米を中心とした(日本も加わっていますが)、ロシアに対する経済制裁が効いています。
さらに昨今の、原油などエネルギー価格の低下も、資源国であるロシアに逆風となっていますし、その上、手を組もうと互いにすり寄っていた中国のバブルが崩壊、世界経済も鈍化。
先月発表されたロシアGDPは、前年比マイナス4.6%と、リーマンショック後の2009年以来の大幅悪化。
■ロシア経済見通し。世界危機は起きるか?
これほど悪材料が並ぶと、あのロシア通貨危機が世界に波及した1998年頃を連想してしまう方もおられるでしょう。
ただ当時と比べますと、危機を回避するための外貨準備にまだ相当な余力がありますので(これまでの資源高などでたっぷり積み上げることができていたため)、この先すぐに、ロシア発の危機へと発展するリスクは低いです。が、ロシア経済がじわじわ疲弊していることは確実で、どこまでロシアが西側諸国に強硬な姿勢を続けられるのか注目されます。
(執筆者:為替王)
』
ロシアとアメリカの関係、ロシアと中国の関係という2つをみてゆくと、
ロシアとしては日本と何らかの関係を作っておきたいという思惑がある。
それは、アメリカに対しての、中国の対しての切り札にはならないとしてもポーズにはなる。
ロシアはアメリカと中国に対して従の立場にある。
しかし、日本となら同等か上位に立てる。
ロシアにとって「反日」は何の意味も利益ももたらさない。
それより日本をうまく使った方がはるかに外交利益を稼げる。
反日は日本をアメリカ側に追いやるだけのことでしかない。
「損失」だけのものでしかない。
だが、アメリカにとってはイヤなことだろう。
『
レコードチャイナ 配信日時:2015年9月24日(木) 13時12分
http://www.recordchina.co.jp/a119643.html
米国務省が日本に警告
「現在はロシアと通常の関係に戻る時ではない」―中国紙
2015年9月24日、中国・環球時報は、日本がプーチン露大統領の年内訪日を目指すなど日露の接近に米国が警告を発したと報じた。
米国務省のトナー副報道官は22日、
「現在はロシアと通常の関係に戻る時ではない」
と述べ、
日本が個別に対露政策を取ることに反対する姿勢を示した。
日本メディアによると、トナー副報道官は
「ロシアがウクライナ東部で停戦合意を守っていないことを考えれば、ロシアと通常の関係に戻る時ではないと確信している」
と指摘し、ロシアとの関係について慎重に対応する必要があるとの考えを示した。
別の日本メディアも、
「ウクライナ危機を発端とする米露の対立が続く中、米国は同盟国に一致した対露対応を求めている」
とし、
「こうした状況下で、日本がプーチン大統領の年内訪日を目指すなど関係改善を模索していることに、米国は公に反対を表明している」
と報じた。
』
『
現代ビジネス 2015年09月26日(土) 歳川 隆雄
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45528
日露首脳会談を実現させた
チーム安倍のしたたかな外交力
北方領土問題に進展の兆し!?
■旧KGB、プーチンの側近を口説き落とした
日露関係が進展する可能性が強まった。
9月25日付各紙(朝刊)は、ウラジーミル・プーチン大統領と安倍晋三首相が国連総会に合わせて28日にニューヨークで会談すると報じた。
まさに岸田文雄外相の訪露(20~22日)直後、プーチン大統領の最側近であるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記が東京滞在中の最中の発表であった。
パトルシェフ書記が、首相官邸で谷内正太郎国家安全保障局長とプーチン大統領の年内訪日をめぐって会談したその日である。
まずは谷内、パトルシェフ両氏の関係がうまく働いた。
2人は7月6日、クレムリン(大統領府)で5時間に及ぶ会談を行い、改めて日露戦略対話の維持・発展で合意、両国の経済協力とプーチン年内来日の実現で一致した。
パトルシェフ書記は、プーチン大統領、そしてもう一人の側近であるセルゲイ・イワノフ大統領府長官と同じく旧KGB(現連邦保安庁=FSB)出身だ。
今回の訪日は、先の谷内氏訪露答礼の意味もあるが、イーゴリ・モルグロフ外務次官を同道していることが重要である。
ちなみに、パトルシェフ書記は訪日直前、モスクワで行われたバレーボール米露試合を、何とケネディ駐日米大使と並んで観戦していた。
岸田外相は21日午後にモスクワで1年4ヵ月ぶりにラブロフ外相と会談し、10月8日に同地で、日露平和条約締結を議題にした外務次官級協議を再開することで合意した。
ラブロフ外相は会談後の記者会見で、「北方領土問題は協議しなかった」と言明したが、実のところは、夕食を含めた4時間の外相会談では半分以上が平和条約交渉=北方領土返還問題についての協議だったのだ。
ポイントは、対露交渉実務責任者である杉山晋輔外務審議官(政務担当)のカウンターパートが件のモルグロフ外務次官というところだ。
杉山外務審議官は、9月26日からの安倍首相の国連総会出席・ジャマイカ訪問に同行し、10月2日に帰国後、今度は6日にモスクワに向けて発つ。
協議する相手が、実は大統領最側近に同行して来日しているのに10日経たずして再び協議するのだ。
安倍首相が強くこだわる年内のプーチン大統領の日本公式訪問は、実現に向かって着実に前に進んでいる。
では、なぜニューヨークで安倍・プーチン会談が行われるのか。
そこにはロシア側の強かな計算が働いている。
■岸田外相のオフレコ発言にヒントがある!
官邸サイドは当初、安倍首相が出席する主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議(トルコで11月15~16日)開催中のトップ会談を企図していた。
だが、ロシア側が国連総会中の会談を強く要請し、日本側が了承した経緯がある。
その理由は、4月下旬の日米首脳会談で
オバマ大統領が安倍首相に対し「プーチン年内訪日」に不快感を示したにもかかわらず、
安倍首相が「私はプーチンとの対話を継続する」と一蹴した
ことを前提に、世界最大の金融センターのニューヨークで安倍首相がプーチン大統領に改めて訪日要請をさせる「絵」が必要なのだ。
一言でいえば、
米国の同盟国である日本が自分の日本訪問を求めてきたのだ、
と国際社会にアピールするということである。
未公表だが、ロシア側のさらなる対日攻勢が続く。
10月22~24日セルゲイ・ソビャーニン・モスクワ市長が来日する。
姉妹都市である東京都と共催で企業向けセミナーを開くためだ。
同市長は、実はウシャコフ副首相、チュルキン駐国連大使同様、プーチン大統領の対米政策アドバイザーでもある。
こうしたことから、プーチン大統領の年内訪日が実現した場合、日本の東シベリア・極東開発支援と平和条約締結=北方2島先行返還の基本合意まで進展する可能性はゼロではない。
もっとも、狡猾なプーチン大統領がそう簡単に「領土問題カード」を切るはずがないというのが支配的な見方である。
だが、岸田外相がモスクワを発つ直前に行った同行記者とのオフレコ懇談で
「お願い外交と思われているが、そうではない。
ロシア経済は今、ガタガタだ。
プーチンは(日本に)来たくてしょうがない。
だけど手ぶらではダメだ。
この点はきちんと押さえている」
と語っているのが示唆的である。
』
『
WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年09月26日(Sat) 東嶋和子 (科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5422?page=1
エネルギー超大国ロシアの内実を探る
『石油国家ロシア』
●『石油国家ロシア』マーシャル・ゴールドマン(日本経済新聞出版社)
「逆オイルショック」と呼ばれるほどの急激な原油安が、いま世界を激震させている。
原油安がもたらした連鎖反応から大きな痛手を受けたのが、ほかでもない、エネルギー超大国ロシアである。
その直前までのロシアは、豊富な石油、天然ガスと、ヨーロッパ諸国へ延びるパイプラインによって経済力と政治力を手中に収め、軍事超大国からエネルギー超大国へと変身を遂げていた。
ところが、米国発のシェール革命が急速に世界の勢力地図を塗り変えた。
化石燃料の資源枯渇論を後退させ、急激な原油安をもたらしたのである。
■ロシア病の再来
こうした動きは、米ソ冷戦時代を彷彿させるシーソーゲームのようにも見える。
しかし、本書によると、現在の事態は
「ロシア経済がこれまで矯正できないまま手をやいてきた周期的な病態の再来」
にすぎないのだという。
著者は、これを「ロシア病」と呼ぶ。
本書を読めば、
「ロシアのエネルギー・セクターの浮き沈みがロシアの国全体で何が起きているかをみるうえで、いかにユニークな洞察を与えてくれるかを理解してもらえると思う」。
そう著者がいうように、本書は、エネルギーを切り口として、帝政時代からソ連時代、そして現在にいたるロシアの歴史を分析し、知られざる資源強国の内実をあぶりだす。
著者のマーシャル・I・ゴールドマンは1930年生まれ。現在もハーバード大学ロシア・ユーラシア研究デイビス・センター終身特別研究教授として研究と教育に携わっているという。
世界的なロシア経済、歴史、政治研究者であり、ゴルバチョフ、プーチン両氏らとも面識がある。
両ブッシュ大統領のロシア政策アドバイザーを務めるなど、米ロ両国の内情にも通じている。
とくにプーチン氏とは、ロシア内外の研究者やジャーナリストが毎年秋に意見交換する「ヴァルダイ会議」の場で厳しいやりとりを交わしており、本書にも生々しい場面が描かれている。
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本文にも披露されているとおり、そこでのマーシャルさんは、すくなからぬプーチン体制の首脳たちが公職と国営大企業の要職を兼ねている実状をどう認識しているのか、といった辛口の問いをためらうことなくプーチン氏に投げかけており、そこには、親交のあったゴルバチョフ氏もふくめ
ソ連とロシアの歴代の指導者たちを、真に国民大衆の利益を優先して行動してきたかどうか、
という問題意識に立ってきびしく見据えてきたマーシャルさんの面目が躍動している。
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そう訳者あとがきにあるように、著者の立ち位置はイデオロギーや国家ではなく、「国民大衆の利益」というところにあるようだ。
読んでいて、主張がすとんと腑に落ちるのは、そうした、ぶれない立ち位置のおかげだろう。
加えて、脅しを受けたりといった個人的な体験や、世界的な人脈から得た情報も含む豊富なエピソード、データに基づく論理的な分析が、解説に重みをもたせている。
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石油には、議論を引き起こさずにはおかない、そして陰謀めいたところがある。
ロシアには、謎にみちた、そして人を魅了してやまない何かがある。
この二つが「ロシア石油の研究」という形でひとつになると表れてくるのは、苛立たせる一方で没頭させずにはおかないミステリ小説に近い代物である。
>>>>>>
著者はそう語り、
「発見と陰謀と腐敗と富、
まちがった判断と貪欲と利権供与と身内びいきと権力の物語」
をつむいでいく。
新聞で読んで、あるいはテレビで見て、記憶の隅にあった過去の事件や断片的な情報がどこかでつながり、やがて一枚のタペストリーのように織り上げられていくのは、実にスリリングだ。
とりわけ、ソ連崩壊後の混乱で「オリガルヒ」(新興財閥)による富の独占を生んだロシアが、「ガス皇帝」プーチンの戦略のもと、資源ビジネスを再国有化していく過程は、映画を見ているかのよう。
■国益優先企業「ガスプロム」
資源開発を進めるために外資を受け入れつつ、開発に成功するやいなや、政府が介入して強引に事業を”召し上げる”やり口には、今更ながら驚くばかりだ。
日本の関わったサハリンプロジェクトも、例外ではない。
膨大な天然ガス資源とパイプライン網を独占するガスプロムという「国益優先企業」の力を背景に、エネルギー供給停止という脅しをちらつかせるロシア。
「冷戦時代よりも強力な立場にある」ロシアに、ヨーロッパは有力な抑止力を持ちえるのか。世界を巻きこむパイプライン戦争の話は生々しい。
そもそも、
世界最大の石油産出国になるほど資源に恵まれながら、ソ連はなぜ1991年に崩壊したのか?
CIA(米中央情報局)はソ連崩壊に際し、何らかの役割を演じたのか?
当時はエネルギー超大国でなかったロシアが、どうして現在そうなりえたのか?
そのどこまでが資源によるもので、どこまでが周到に練りあげた政策によるものなのか?
ロシアが新たに見出した富と権力の受益者はどんな人々なのか?
チェスにたとえると、プーチンは終盤でどんな詰め手を指そうと考えているのか?
これらが、本書で扱われる問いの一部、いわば、ジグソーパズルの断片である。
<<<<<
もっとも大事な点は、ながきにわたり軍事超大国たらんとして失敗したロシアが、かりに意図しない結果だったにしろ、別の種類の超大国、経済とエネルギーを力のよりどころにする超大国として登場したことである。
ロシアはいまそうした影響力をどんな風に使っているのだろう?
そのことが世界にとって今後どのような意味合いをもつようになるのだろう?
>>>>>>
本書のオリジナルは、オックスフォード・ユニバーシティ・プレスから2008年に刊行された。2010年刊行の日本語版には、ロシア経済がその後の世界不況から受けた打撃やプーチン=メドヴェージェフ双頭体制などを論じた「石油国家かプーチン国家か――日本の読者のために」が加筆されている。
昨今の逆オイルショックの衝撃まではたどれていないものの、「歴史は繰り返す」だけに、本書は、石油国家ロシアとそれを取り巻く世界の未来を見通す一助となるに違いない。
「抑制なしのエネルギー大国」にどう向き合うべきか、日本人にとっても大いに示唆に富む一冊である。
』
『
●【国際関係】日豪関係の虚と実[桜H27/9/21]
2015/09/21 に公開
中国に近いと言われるターンブル首相に移行したオーストラリアとの今後について論評していきます。
』
『
TBS系(JNN) 9月29日(火)7時24分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20150929-00000028-jnn-int
“北方領土”“訪日”は?
NYで日ロ首脳会談
国連総会に出席している安倍総理は、ロシアのプーチン大統領と会談したほか、PKO関係の首脳会議で安全保障関連法の成立を説明しました。
安倍総理とロシアのプーチン大統領の首脳会談は、国連本部で2時間ほど前から始まり、およそ40分間行われました。
「私は自由民主党の総裁として、再選を果たすことができました。これによって更に腰を据えて、ウラジーミル(プーチン大統領)との間で、平和条約交渉に取り組むことができる素地が整ったと思う」(安倍首相)
まずは、日本側の関心が高い北方領土問題を含む平和条約締結交渉についてですが、ここのところ、ロシアの閣僚による北方領土訪問が相次いでいることを念頭に、安倍総理が「建設的で静かに進めていく必要がある」と指摘したところ、プーチン大統領は「静かな雰囲気でという認識では一致している」と応じました。
1週間前に行われた日ロ外相会談でもあらわになっていますが、ロシア側は
「平和条約締結交渉はするが、北方領土は第ニ次世界大戦の結果であり交渉しない」
という姿勢を崩していません。
逆にロシア側の積極姿勢が目立ったのは経済交流や投資についてで、会談の冒頭で、プーチン大統領が触れたのは経済協力につながる話ばかりでした。
一方で、プーチン大統領の訪日は遅々として進んでいません。
政府は今年中の実現に向け調整していると繰り返していますが、あと2か月しか時間がないにもかかわらず、「ベストなタイミングで実現したい」と述べるにとどまっています。
「第一に平和安全法制の整備です。
今後、新たな法制のもと、国連PKOへの貢献をさらに拡充していきます」(安倍首相)
また、安倍総理はオバマ大統領ら各国首脳が出席する「PKOサミット」にも出席し、先日、成立した安全保障関連法に言及しました。
安倍総理は「国連平和活動が情勢の変化に対応して結果を出すために、変革は不可欠な視点」だとして、「国際社会の平和と安定」を名目に、PKOに積極的に参加していく姿勢を強調しました。
』
『
レコードチャイナ 配信日時:2015年9月30日(水) 11時53分
http://www.recordchina.co.jp/a120062.html
遅れて会場入りした安倍首相、プーチン露大統領のもとへ小走りで駆け寄る姿がかわいいと話題
=中国ネット「日本人らしい礼儀正しさ」
「まるで秋田犬」
●29日、中国メディア・新浪は、国連総会出席のため米ニューヨークを訪問中の安倍晋三首相が、プーチン露大統領との会談で、遅れて会場入りしたため小走りで駆け寄って握手したと報じた。その様子を伝えた日本メディアの映像が、中国のネット上で話題だ。
2015年9月29日、中国メディア・新浪は、国連総会出席のため米ニューヨークを訪問中の安倍晋三首相が、プーチン露大統領との会談で、遅れて会場入りしたため小走りで駆け寄って握手したと報じた。
笑顔で小走りする安倍首相の様子を伝えた日本メディアの映像が、中国のネット上でも転載され、話題となっている。
「日本人らしい礼儀正しさ」
「安倍氏のうれしそうな表情がかわいい。萌(も)えた」
「安倍氏のことが好きになった」
「こういう姿勢は中国の指導者も学ぶべき」
「プーチン氏の笑顔もいいね」
「熊にまたがるほどのプーチン氏も、顔がほころんでいたな」
「これじゃまるで飼いならされた秋田犬だ」
「遅刻魔のプーチン氏を待たせるとは、安倍氏もいい度胸をしている」
「日本メディアはこういう映像をよく放送できるよ。中国なら…」
』
『
現代ビジネス 2015年10月02日(金) 長谷川 幸洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45631
安心していい。
対中露外交は、日本が主導権を握っている!
「格上感」を演出するプーチンと習近平。
だが、その焦りは隠せない
■プーチンが一枚上手だった
ニューヨークで開かれた国連総会を機に、米国と中国、日本とロシアなど重要な2国間の首脳会談が相次いで開かれた。
残念ながら、世界の平和と安定に大きく貢献するような成果はなかった。
だからといって悲観する必要もない。
いまは我慢比べの局面である。
米中首脳会談の不首尾は、オバマ大統領と習近平国家主席が共同記者会見で見せた仏頂面が如実に示している。
2人は互いに目を合わそうともしなかった。
サイバー攻撃問題で閣僚級の協議続行に合意した程度で、南シナ海問題では完全な物別れに終わった。
日ロ首脳会談も新たな進展はなかった。
安倍晋三首相が予定時間に遅れて駆けつけたにもかかわらず、プーチン大統領は穏やかな表情を崩さなかったのが、せめてもの救いである。
「けんかにならず良かった」程度なのだ。
両首脳は2013年4月の会談で
「(北方領土問題は)双方が受け入れ可能な解決策を目指す」
ことで一致し、昨年11月の会談では「適切な時期」にプーチン大統領が訪日することで合意している。
今回、具体的な訪日時期を決められなかったのは、あきらかに足踏みである。
米ロ首脳会談も、シリアのアサド大統領を支援するプーチン大統領と、アサド体制の継続を認めないオバマ大統領の対立が際立った。
オバマ大統領の手詰まり感が強まる一方、プーチン大統領は総会でシリアを支援する国際連合構想を提唱し、存在感を発揮した。
こうしてみると、攻勢に出ているのは中国とロシアで、米国も日本も押されっぱなしのように見える。
言うまでもなく、南シナ海で国際法を無視した岩礁埋め立て・軍事基地化作戦を続けているのは中国であり、クリミアに侵攻したのはロシアだ。
本来、乱暴狼藉を働く国家に懲罰を与えるのが国連の役割である。
にもかかわらず懲罰どころか、逆に習主席とプーチン大統領に言いたいことを言わせる場を提供してしまった。
国連総会が無法行為の既成事実化に一役買った形になったのは、実に皮肉である。
■残念ながら、これが世界の現実
国連が中ロに懲罰を与えることができないのは、もちろん両国が安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国であるからだ。
国連の無力化は何年も前からじわじわと進んできていたが、ロシアがクリミアに侵攻した2014年3月以降、一段と加速した。
中国の南シナ海での大胆な行動も、国連がロシアの無法を見逃した無為無策の延長線上にある。
責任者である潘基文国連事務総長はといえば、ほとんど存在感を示していない。
それどころか、訪米した朴槿恵韓国大統領とは4日間で7回も同席している。
すでにココロは国連になく、次の韓国大統領の座にあるとみて間違いない。
以上のような国連を取り巻く現状を一言で総括すれば、
「いまや世界はてんでばらばらになった」
というに尽きる。
国連を軸に世界の平和と安定を構想した創設当初の理想とはかけ離れてしまった。
残念ながら、これが世界の現実である。
日本にとって唯一の救いは、総会直前に厳しい前提条件付きながらも安全保障関連法案を可決成立させ、日米同盟を一段と強化した点だ。
中国と北朝鮮の脅威が増す中、もしも日本が現状維持にとどまっていれば、国連の機能喪失と米国の影響力減退の分だけ、平和を脅かすリスクは確実に増していた。
マイナス分を日米同盟強化のプラス分で補ったといえる。
中国とロシアは一連の国連外交で押しまくったように見えるが、はたして本当に優位に立っているのだろうか。
私の結論を先に言えば、そうは言えない。
外交を支えるのも経済である。
国力を支えるのは経済であるからだ。
それで言えば、中ロ両国とも崖っぷちに立っている。
経済がふらついているからこそ、表面的には強気を装わざるをえなかった。
私にはそう見える。
中国の異変は6月15日から始まった。
上海株暴落だ。
暴落は単なる株価調整ではなく「江沢民派による意図的な空売りがきっかけだ」という見方が定説になっている。
公安省が調査に乗り出したことがなによりの傍証である。
政権自身が「暴落には政権を揺さぶる意図がある」とみているのだ。
■慌てなくともよい
中国人民銀行は、8月11日から3日連続で人民元を切り下げた。
ところが、いざ切り下げを始めてみると予想以上に元が売られてしまい、逆に人民銀は元買いドル売り介入を余儀なくされた。
その結果、ドルの外貨準備が急減した。
元売りとは、すなわちドル買いだ。
つまり、中国ではいま、安全な「ドルへの逃避」=資本逃避(キャピタルフライト)が起きている。
資本逃避が起きるのは、通常であれば「国の先行きが心配」であるからだ。
私はソ連が崩壊するとき、市民がこぞってドルをベッドの下に溜め込んだエピソードを思い出す。
市民はルーブルを信用せず、ようやく手に入れた虎の子のドルを使うわけにもいかず結局、物々交換に走った。
キャベツとジャガイモを持ち運ぶのは不便なので、最終的には米国産タバコのマールボロ1本を通貨の代わりにした。
いまや、中国政府が公式発表する7%成長を信じるような経済のプロはいない。
せいぜい2〜3%程度というのが多数派の見方だ。
10%以上のマイナスに落ち込んでいる鉄道貨物輸送量や輸入、電力消費量でみればマイナス成長に陥っているとしても不思議ではない。
ロシアも4〜6月期の国内総生産(GDP)が前年同期比4.6%減と2期続けてマイナス成長に落ち込んだ。
クリミア侵攻に対する日米欧の制裁が効果を発揮している。
ロシアは対抗してチーズなど欧州産食品の禁輸に踏み切ったが、国民から見れば、泣きっ面にハチのような形である。
中国とロシアは米欧に対抗するため互いに軍事パレードに出席するなど連携をアピールしているが、経済実態で見れば「弱者の連合」にほかならない。
内面の脆弱さを強面の外面で補っているのだ。
日本はどうすべきか。
慌てる必要はさらさらない。
習主席は米国に相変わらず「新型大国関係」を訴えたが、オバマ大統領は取り合わなかった。
新型大国関係の核心は互いの「縄張り尊重」にすぎない。
日米同盟の強化は中国にとって外交敗北になった。
ロシアは領土問題で妥協するそぶりを見せないが、それは日本からできるだけ実のある経済協力を取り付けるために「領土」の値段を釣り上げているだけだ。
日本は北方領土がすぐ返ってこないからといって、国が破綻するわけではない。
困っているのはロシアの側だ。
対中外交も対ロ外交も、ここは落ち着いてじっと相手の出方を見極める局面である。
』
現代ビジネス 2015年09月26日(土) 歳川 隆雄
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45528
日露首脳会談を実現させた
チーム安倍のしたたかな外交力
北方領土問題に進展の兆し!?
■旧KGB、プーチンの側近を口説き落とした
日露関係が進展する可能性が強まった。
9月25日付各紙(朝刊)は、ウラジーミル・プーチン大統領と安倍晋三首相が国連総会に合わせて28日にニューヨークで会談すると報じた。
まさに岸田文雄外相の訪露(20~22日)直後、プーチン大統領の最側近であるニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記が東京滞在中の最中の発表であった。
パトルシェフ書記が、首相官邸で谷内正太郎国家安全保障局長とプーチン大統領の年内訪日をめぐって会談したその日である。
まずは谷内、パトルシェフ両氏の関係がうまく働いた。
2人は7月6日、クレムリン(大統領府)で5時間に及ぶ会談を行い、改めて日露戦略対話の維持・発展で合意、両国の経済協力とプーチン年内来日の実現で一致した。
パトルシェフ書記は、プーチン大統領、そしてもう一人の側近であるセルゲイ・イワノフ大統領府長官と同じく旧KGB(現連邦保安庁=FSB)出身だ。
今回の訪日は、先の谷内氏訪露答礼の意味もあるが、イーゴリ・モルグロフ外務次官を同道していることが重要である。
ちなみに、パトルシェフ書記は訪日直前、モスクワで行われたバレーボール米露試合を、何とケネディ駐日米大使と並んで観戦していた。
岸田外相は21日午後にモスクワで1年4ヵ月ぶりにラブロフ外相と会談し、10月8日に同地で、日露平和条約締結を議題にした外務次官級協議を再開することで合意した。
ラブロフ外相は会談後の記者会見で、「北方領土問題は協議しなかった」と言明したが、実のところは、夕食を含めた4時間の外相会談では半分以上が平和条約交渉=北方領土返還問題についての協議だったのだ。
ポイントは、対露交渉実務責任者である杉山晋輔外務審議官(政務担当)のカウンターパートが件のモルグロフ外務次官というところだ。
杉山外務審議官は、9月26日からの安倍首相の国連総会出席・ジャマイカ訪問に同行し、10月2日に帰国後、今度は6日にモスクワに向けて発つ。
協議する相手が、実は大統領最側近に同行して来日しているのに10日経たずして再び協議するのだ。
安倍首相が強くこだわる年内のプーチン大統領の日本公式訪問は、実現に向かって着実に前に進んでいる。
では、なぜニューヨークで安倍・プーチン会談が行われるのか。
そこにはロシア側の強かな計算が働いている。
■岸田外相のオフレコ発言にヒントがある!
官邸サイドは当初、安倍首相が出席する主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議(トルコで11月15~16日)開催中のトップ会談を企図していた。
だが、ロシア側が国連総会中の会談を強く要請し、日本側が了承した経緯がある。
その理由は、4月下旬の日米首脳会談で
オバマ大統領が安倍首相に対し「プーチン年内訪日」に不快感を示したにもかかわらず、
安倍首相が「私はプーチンとの対話を継続する」と一蹴した
ことを前提に、世界最大の金融センターのニューヨークで安倍首相がプーチン大統領に改めて訪日要請をさせる「絵」が必要なのだ。
一言でいえば、
米国の同盟国である日本が自分の日本訪問を求めてきたのだ、
と国際社会にアピールするということである。
未公表だが、ロシア側のさらなる対日攻勢が続く。
10月22~24日セルゲイ・ソビャーニン・モスクワ市長が来日する。
姉妹都市である東京都と共催で企業向けセミナーを開くためだ。
同市長は、実はウシャコフ副首相、チュルキン駐国連大使同様、プーチン大統領の対米政策アドバイザーでもある。
こうしたことから、プーチン大統領の年内訪日が実現した場合、日本の東シベリア・極東開発支援と平和条約締結=北方2島先行返還の基本合意まで進展する可能性はゼロではない。
もっとも、狡猾なプーチン大統領がそう簡単に「領土問題カード」を切るはずがないというのが支配的な見方である。
だが、岸田外相がモスクワを発つ直前に行った同行記者とのオフレコ懇談で
「お願い外交と思われているが、そうではない。
ロシア経済は今、ガタガタだ。
プーチンは(日本に)来たくてしょうがない。
だけど手ぶらではダメだ。
この点はきちんと押さえている」
と語っているのが示唆的である。
』
『
WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年09月26日(Sat) 東嶋和子 (科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5422?page=1
エネルギー超大国ロシアの内実を探る
『石油国家ロシア』
●『石油国家ロシア』マーシャル・ゴールドマン(日本経済新聞出版社)
「逆オイルショック」と呼ばれるほどの急激な原油安が、いま世界を激震させている。
原油安がもたらした連鎖反応から大きな痛手を受けたのが、ほかでもない、エネルギー超大国ロシアである。
その直前までのロシアは、豊富な石油、天然ガスと、ヨーロッパ諸国へ延びるパイプラインによって経済力と政治力を手中に収め、軍事超大国からエネルギー超大国へと変身を遂げていた。
ところが、米国発のシェール革命が急速に世界の勢力地図を塗り変えた。
化石燃料の資源枯渇論を後退させ、急激な原油安をもたらしたのである。
■ロシア病の再来
こうした動きは、米ソ冷戦時代を彷彿させるシーソーゲームのようにも見える。
しかし、本書によると、現在の事態は
「ロシア経済がこれまで矯正できないまま手をやいてきた周期的な病態の再来」
にすぎないのだという。
著者は、これを「ロシア病」と呼ぶ。
本書を読めば、
「ロシアのエネルギー・セクターの浮き沈みがロシアの国全体で何が起きているかをみるうえで、いかにユニークな洞察を与えてくれるかを理解してもらえると思う」。
そう著者がいうように、本書は、エネルギーを切り口として、帝政時代からソ連時代、そして現在にいたるロシアの歴史を分析し、知られざる資源強国の内実をあぶりだす。
著者のマーシャル・I・ゴールドマンは1930年生まれ。現在もハーバード大学ロシア・ユーラシア研究デイビス・センター終身特別研究教授として研究と教育に携わっているという。
世界的なロシア経済、歴史、政治研究者であり、ゴルバチョフ、プーチン両氏らとも面識がある。
両ブッシュ大統領のロシア政策アドバイザーを務めるなど、米ロ両国の内情にも通じている。
とくにプーチン氏とは、ロシア内外の研究者やジャーナリストが毎年秋に意見交換する「ヴァルダイ会議」の場で厳しいやりとりを交わしており、本書にも生々しい場面が描かれている。
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本文にも披露されているとおり、そこでのマーシャルさんは、すくなからぬプーチン体制の首脳たちが公職と国営大企業の要職を兼ねている実状をどう認識しているのか、といった辛口の問いをためらうことなくプーチン氏に投げかけており、そこには、親交のあったゴルバチョフ氏もふくめ
ソ連とロシアの歴代の指導者たちを、真に国民大衆の利益を優先して行動してきたかどうか、
という問題意識に立ってきびしく見据えてきたマーシャルさんの面目が躍動している。
>>>>>>
そう訳者あとがきにあるように、著者の立ち位置はイデオロギーや国家ではなく、「国民大衆の利益」というところにあるようだ。
読んでいて、主張がすとんと腑に落ちるのは、そうした、ぶれない立ち位置のおかげだろう。
加えて、脅しを受けたりといった個人的な体験や、世界的な人脈から得た情報も含む豊富なエピソード、データに基づく論理的な分析が、解説に重みをもたせている。
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石油には、議論を引き起こさずにはおかない、そして陰謀めいたところがある。
ロシアには、謎にみちた、そして人を魅了してやまない何かがある。
この二つが「ロシア石油の研究」という形でひとつになると表れてくるのは、苛立たせる一方で没頭させずにはおかないミステリ小説に近い代物である。
>>>>>>
著者はそう語り、
「発見と陰謀と腐敗と富、
まちがった判断と貪欲と利権供与と身内びいきと権力の物語」
をつむいでいく。
新聞で読んで、あるいはテレビで見て、記憶の隅にあった過去の事件や断片的な情報がどこかでつながり、やがて一枚のタペストリーのように織り上げられていくのは、実にスリリングだ。
とりわけ、ソ連崩壊後の混乱で「オリガルヒ」(新興財閥)による富の独占を生んだロシアが、「ガス皇帝」プーチンの戦略のもと、資源ビジネスを再国有化していく過程は、映画を見ているかのよう。
■国益優先企業「ガスプロム」
資源開発を進めるために外資を受け入れつつ、開発に成功するやいなや、政府が介入して強引に事業を”召し上げる”やり口には、今更ながら驚くばかりだ。
日本の関わったサハリンプロジェクトも、例外ではない。
膨大な天然ガス資源とパイプライン網を独占するガスプロムという「国益優先企業」の力を背景に、エネルギー供給停止という脅しをちらつかせるロシア。
「冷戦時代よりも強力な立場にある」ロシアに、ヨーロッパは有力な抑止力を持ちえるのか。世界を巻きこむパイプライン戦争の話は生々しい。
そもそも、
世界最大の石油産出国になるほど資源に恵まれながら、ソ連はなぜ1991年に崩壊したのか?
CIA(米中央情報局)はソ連崩壊に際し、何らかの役割を演じたのか?
当時はエネルギー超大国でなかったロシアが、どうして現在そうなりえたのか?
そのどこまでが資源によるもので、どこまでが周到に練りあげた政策によるものなのか?
ロシアが新たに見出した富と権力の受益者はどんな人々なのか?
チェスにたとえると、プーチンは終盤でどんな詰め手を指そうと考えているのか?
これらが、本書で扱われる問いの一部、いわば、ジグソーパズルの断片である。
<<<<<
もっとも大事な点は、ながきにわたり軍事超大国たらんとして失敗したロシアが、かりに意図しない結果だったにしろ、別の種類の超大国、経済とエネルギーを力のよりどころにする超大国として登場したことである。
ロシアはいまそうした影響力をどんな風に使っているのだろう?
そのことが世界にとって今後どのような意味合いをもつようになるのだろう?
>>>>>>
本書のオリジナルは、オックスフォード・ユニバーシティ・プレスから2008年に刊行された。2010年刊行の日本語版には、ロシア経済がその後の世界不況から受けた打撃やプーチン=メドヴェージェフ双頭体制などを論じた「石油国家かプーチン国家か――日本の読者のために」が加筆されている。
昨今の逆オイルショックの衝撃まではたどれていないものの、「歴史は繰り返す」だけに、本書は、石油国家ロシアとそれを取り巻く世界の未来を見通す一助となるに違いない。
「抑制なしのエネルギー大国」にどう向き合うべきか、日本人にとっても大いに示唆に富む一冊である。
』
『
●【国際関係】日豪関係の虚と実[桜H27/9/21]
2015/09/21 に公開
中国に近いと言われるターンブル首相に移行したオーストラリアとの今後について論評していきます。
』
『
TBS系(JNN) 9月29日(火)7時24分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20150929-00000028-jnn-int
“北方領土”“訪日”は?
NYで日ロ首脳会談
国連総会に出席している安倍総理は、ロシアのプーチン大統領と会談したほか、PKO関係の首脳会議で安全保障関連法の成立を説明しました。
安倍総理とロシアのプーチン大統領の首脳会談は、国連本部で2時間ほど前から始まり、およそ40分間行われました。
「私は自由民主党の総裁として、再選を果たすことができました。これによって更に腰を据えて、ウラジーミル(プーチン大統領)との間で、平和条約交渉に取り組むことができる素地が整ったと思う」(安倍首相)
まずは、日本側の関心が高い北方領土問題を含む平和条約締結交渉についてですが、ここのところ、ロシアの閣僚による北方領土訪問が相次いでいることを念頭に、安倍総理が「建設的で静かに進めていく必要がある」と指摘したところ、プーチン大統領は「静かな雰囲気でという認識では一致している」と応じました。
1週間前に行われた日ロ外相会談でもあらわになっていますが、ロシア側は
「平和条約締結交渉はするが、北方領土は第ニ次世界大戦の結果であり交渉しない」
という姿勢を崩していません。
逆にロシア側の積極姿勢が目立ったのは経済交流や投資についてで、会談の冒頭で、プーチン大統領が触れたのは経済協力につながる話ばかりでした。
一方で、プーチン大統領の訪日は遅々として進んでいません。
政府は今年中の実現に向け調整していると繰り返していますが、あと2か月しか時間がないにもかかわらず、「ベストなタイミングで実現したい」と述べるにとどまっています。
「第一に平和安全法制の整備です。
今後、新たな法制のもと、国連PKOへの貢献をさらに拡充していきます」(安倍首相)
また、安倍総理はオバマ大統領ら各国首脳が出席する「PKOサミット」にも出席し、先日、成立した安全保障関連法に言及しました。
安倍総理は「国連平和活動が情勢の変化に対応して結果を出すために、変革は不可欠な視点」だとして、「国際社会の平和と安定」を名目に、PKOに積極的に参加していく姿勢を強調しました。
』
『
レコードチャイナ 配信日時:2015年9月30日(水) 11時53分
http://www.recordchina.co.jp/a120062.html
遅れて会場入りした安倍首相、プーチン露大統領のもとへ小走りで駆け寄る姿がかわいいと話題
=中国ネット「日本人らしい礼儀正しさ」
「まるで秋田犬」
●29日、中国メディア・新浪は、国連総会出席のため米ニューヨークを訪問中の安倍晋三首相が、プーチン露大統領との会談で、遅れて会場入りしたため小走りで駆け寄って握手したと報じた。その様子を伝えた日本メディアの映像が、中国のネット上で話題だ。
2015年9月29日、中国メディア・新浪は、国連総会出席のため米ニューヨークを訪問中の安倍晋三首相が、プーチン露大統領との会談で、遅れて会場入りしたため小走りで駆け寄って握手したと報じた。
笑顔で小走りする安倍首相の様子を伝えた日本メディアの映像が、中国のネット上でも転載され、話題となっている。
「日本人らしい礼儀正しさ」
「安倍氏のうれしそうな表情がかわいい。萌(も)えた」
「安倍氏のことが好きになった」
「こういう姿勢は中国の指導者も学ぶべき」
「プーチン氏の笑顔もいいね」
「熊にまたがるほどのプーチン氏も、顔がほころんでいたな」
「これじゃまるで飼いならされた秋田犬だ」
「遅刻魔のプーチン氏を待たせるとは、安倍氏もいい度胸をしている」
「日本メディアはこういう映像をよく放送できるよ。中国なら…」
』
『
現代ビジネス 2015年10月02日(金) 長谷川 幸洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45631
安心していい。
対中露外交は、日本が主導権を握っている!
「格上感」を演出するプーチンと習近平。
だが、その焦りは隠せない
■プーチンが一枚上手だった
ニューヨークで開かれた国連総会を機に、米国と中国、日本とロシアなど重要な2国間の首脳会談が相次いで開かれた。
残念ながら、世界の平和と安定に大きく貢献するような成果はなかった。
だからといって悲観する必要もない。
いまは我慢比べの局面である。
米中首脳会談の不首尾は、オバマ大統領と習近平国家主席が共同記者会見で見せた仏頂面が如実に示している。
2人は互いに目を合わそうともしなかった。
サイバー攻撃問題で閣僚級の協議続行に合意した程度で、南シナ海問題では完全な物別れに終わった。
日ロ首脳会談も新たな進展はなかった。
安倍晋三首相が予定時間に遅れて駆けつけたにもかかわらず、プーチン大統領は穏やかな表情を崩さなかったのが、せめてもの救いである。
「けんかにならず良かった」程度なのだ。
両首脳は2013年4月の会談で
「(北方領土問題は)双方が受け入れ可能な解決策を目指す」
ことで一致し、昨年11月の会談では「適切な時期」にプーチン大統領が訪日することで合意している。
今回、具体的な訪日時期を決められなかったのは、あきらかに足踏みである。
米ロ首脳会談も、シリアのアサド大統領を支援するプーチン大統領と、アサド体制の継続を認めないオバマ大統領の対立が際立った。
オバマ大統領の手詰まり感が強まる一方、プーチン大統領は総会でシリアを支援する国際連合構想を提唱し、存在感を発揮した。
こうしてみると、攻勢に出ているのは中国とロシアで、米国も日本も押されっぱなしのように見える。
言うまでもなく、南シナ海で国際法を無視した岩礁埋め立て・軍事基地化作戦を続けているのは中国であり、クリミアに侵攻したのはロシアだ。
本来、乱暴狼藉を働く国家に懲罰を与えるのが国連の役割である。
にもかかわらず懲罰どころか、逆に習主席とプーチン大統領に言いたいことを言わせる場を提供してしまった。
国連総会が無法行為の既成事実化に一役買った形になったのは、実に皮肉である。
■残念ながら、これが世界の現実
国連が中ロに懲罰を与えることができないのは、もちろん両国が安全保障理事会で拒否権を持つ常任理事国であるからだ。
国連の無力化は何年も前からじわじわと進んできていたが、ロシアがクリミアに侵攻した2014年3月以降、一段と加速した。
中国の南シナ海での大胆な行動も、国連がロシアの無法を見逃した無為無策の延長線上にある。
責任者である潘基文国連事務総長はといえば、ほとんど存在感を示していない。
それどころか、訪米した朴槿恵韓国大統領とは4日間で7回も同席している。
すでにココロは国連になく、次の韓国大統領の座にあるとみて間違いない。
以上のような国連を取り巻く現状を一言で総括すれば、
「いまや世界はてんでばらばらになった」
というに尽きる。
国連を軸に世界の平和と安定を構想した創設当初の理想とはかけ離れてしまった。
残念ながら、これが世界の現実である。
日本にとって唯一の救いは、総会直前に厳しい前提条件付きながらも安全保障関連法案を可決成立させ、日米同盟を一段と強化した点だ。
中国と北朝鮮の脅威が増す中、もしも日本が現状維持にとどまっていれば、国連の機能喪失と米国の影響力減退の分だけ、平和を脅かすリスクは確実に増していた。
マイナス分を日米同盟強化のプラス分で補ったといえる。
中国とロシアは一連の国連外交で押しまくったように見えるが、はたして本当に優位に立っているのだろうか。
私の結論を先に言えば、そうは言えない。
外交を支えるのも経済である。
国力を支えるのは経済であるからだ。
それで言えば、中ロ両国とも崖っぷちに立っている。
経済がふらついているからこそ、表面的には強気を装わざるをえなかった。
私にはそう見える。
中国の異変は6月15日から始まった。
上海株暴落だ。
暴落は単なる株価調整ではなく「江沢民派による意図的な空売りがきっかけだ」という見方が定説になっている。
公安省が調査に乗り出したことがなによりの傍証である。
政権自身が「暴落には政権を揺さぶる意図がある」とみているのだ。
■慌てなくともよい
中国人民銀行は、8月11日から3日連続で人民元を切り下げた。
ところが、いざ切り下げを始めてみると予想以上に元が売られてしまい、逆に人民銀は元買いドル売り介入を余儀なくされた。
その結果、ドルの外貨準備が急減した。
元売りとは、すなわちドル買いだ。
つまり、中国ではいま、安全な「ドルへの逃避」=資本逃避(キャピタルフライト)が起きている。
資本逃避が起きるのは、通常であれば「国の先行きが心配」であるからだ。
私はソ連が崩壊するとき、市民がこぞってドルをベッドの下に溜め込んだエピソードを思い出す。
市民はルーブルを信用せず、ようやく手に入れた虎の子のドルを使うわけにもいかず結局、物々交換に走った。
キャベツとジャガイモを持ち運ぶのは不便なので、最終的には米国産タバコのマールボロ1本を通貨の代わりにした。
いまや、中国政府が公式発表する7%成長を信じるような経済のプロはいない。
せいぜい2〜3%程度というのが多数派の見方だ。
10%以上のマイナスに落ち込んでいる鉄道貨物輸送量や輸入、電力消費量でみればマイナス成長に陥っているとしても不思議ではない。
ロシアも4〜6月期の国内総生産(GDP)が前年同期比4.6%減と2期続けてマイナス成長に落ち込んだ。
クリミア侵攻に対する日米欧の制裁が効果を発揮している。
ロシアは対抗してチーズなど欧州産食品の禁輸に踏み切ったが、国民から見れば、泣きっ面にハチのような形である。
中国とロシアは米欧に対抗するため互いに軍事パレードに出席するなど連携をアピールしているが、経済実態で見れば「弱者の連合」にほかならない。
内面の脆弱さを強面の外面で補っているのだ。
日本はどうすべきか。
慌てる必要はさらさらない。
習主席は米国に相変わらず「新型大国関係」を訴えたが、オバマ大統領は取り合わなかった。
新型大国関係の核心は互いの「縄張り尊重」にすぎない。
日米同盟の強化は中国にとって外交敗北になった。
ロシアは領土問題で妥協するそぶりを見せないが、それは日本からできるだけ実のある経済協力を取り付けるために「領土」の値段を釣り上げているだけだ。
日本は北方領土がすぐ返ってこないからといって、国が破綻するわけではない。
困っているのはロシアの側だ。
対中外交も対ロ外交も、ここは落ち着いてじっと相手の出方を見極める局面である。
』
『
JB Press 2015.10.8(木) 大坪 祐介
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44943
ロシアを正しく理解するメドベージェフ首相の前途多難
北方領土に3度足を踏み入れた"悪代官"に次はあるか
9月28日、筆者はドミトリー・メドベージェフ首相とのビデオ会議に参加した。
これは、これまで何度かこのコーナーでも取り上げたロシア版シリコンバレー「スコルコヴォ(Skolkovo)」の設立5周年記念イベントであり、スコルコヴォの発案者であるメドベージェフ首相(当時は大統領)と海外の関係者がオープンイノベーションについて議論するという企画である。
全体で1時間20分程度の討論会はグーグルが無料で提供するビデオ会議プラットフォーム(Hangout)を利用してモスクワ郊外のスコルヴォと世界7か所の参加者を同時に結んで行われた。
今さらながらインターネットの便利さには感心させられる。
筆者は会社の会議室から参加、日常使用しているノートパソコンに社内のLANケーブルつなげるだけで映像も音声もクリアそのもの、しかもこの討論会の様子はユーチューブで同時中継までされていたのである。
■アジアから唯一の出席者
今回のビデオ会議では筆者はアジアから唯一の出席者ということもあり、ロシア極東地域におけるロシアのイノベーション政策、アジア諸国とのオープンイノベーションの可能性などについて質問した。
これに対しメドベージェフ首相はロシアは日本はもちろん中国、韓国、ベトナムあらゆるアジア諸国との経済、技術協力に前向きに応じること、またロシア政府は極東地域においては極東連邦大学をテクノロジーハブとする発展計画を推進していることを簡潔明瞭に説明した。
それは他の参加者からの質問に関しても同様で、多岐にわたる質問内容を如才なく捌いていく様子を見て、筆者はなぜウラジーミル・プーチン大統領が彼を大統領に指名し(一時的ではあったが)、自身が大統領に返り咲いた後も、彼を首相として手許に置いておくのか、その理由の一端を垣間見たような気がした。
ところでビデオ会議に先立つ9月23日、メドベージェフ首相はロシアの経済誌「経済の諸問題」に「The new reality: Russia and global challenge」 という論文を発表している。
現在のロシアを取り巻く世界経済の状況を前提に、今後ロシア経済はどのような道を進むべきか彼の考えを述べた、どちらかと言えば国内向けの論文である。
筆者は首相府が公表した英文テキストに目を通したが、一読し「リベラル派の論文」との印象を受けた。
経済分野に関して筆者の印象に残った部分をいくつか抜粋してみよう。
(1):ロシア経済の構造改革の必要性
●ロシアは先進国の1つだが、その経済は非効率であり他の先進諸国と比較した労働生産性は桁外れに低い。
●我々は従来の西側先進国に「追い付き、追い越せ」という発展モデルを見直すべき。
今日のニューノーマルに適合したより効果的かつ効率的な発展モデルが必要。
●経済危機は脅威であると同時に改革のチャンスでもある。
メドベージェフ首相はロシア経済が現在直面している危機は、ロシアの主要輸出品目である原油価格の下落、あるいはウクライナ問題から生じた欧米諸国の対ロシア経済制裁が主たる原因ではなく、
★.ロシア経済が内包する構造問題、特に著しく低い労働生産性である
と指摘している。
この点に関しては、ロシア経済を少し勉強した人であれば異論はなかろう。
筆者も全くの同感である。
彼はロシア経済が目先数年で崩壊することはないと国民を安心させつつも、この危機をバネにして今改革に取り組まないと、ロシアに将来はないと訴える。
彼は現在50歳(プーチン大統領は今月7日で63歳)であり、2018年の次回大統領選挙時は53歳、次々回2024年でも59歳である。 ポストプーチンを狙っていることは間違いない。
2):構造改革を進める条件
●構造改革を進めるためには、経済の自由化と規制の緩和が不可欠である。
●中長期的な財政均衡と政府債務の低位安定は政府にとって最重要課題、歳入の裏づけのない財政出動、中央銀行による量的緩和は行わない。
●マクロ経済情勢御安定、特にインフレ率を4%以下に抑えること。
●市場経済における競争の促進と政府による介入の排除。
●国内中小企業の育成。
●長期資金供給手段としての年金制度整備。
メドベージェフ首相はマクロ経済運営に関しては、財政均衡、インフレ抑制を重視する、極めてオーソドックスな考え方の持ち主のようである。
これまでのロシア経済を振り返り、そのボラティリティに鑑みれば、こうした保守的な政策を重視することは無理もない。
半面、構造改革に関しては一貫してリベラル、すなわち規制緩和と自由競争を主張している。
また、イノベーション、中小企業分野においては政府が積極的にサポートすることを否定していないほか、地方政府のイニシアチブによる投資の誘致、民間による長期資金供給を可能にするために年金基金制度を整備することも提唱している。
こうした方向性に関して、筆者も含めて西側の論者は概ね異論はないものと思われる。
(3):政府組織の改革
●私的所有権の確固たる保証。
●効率的な司法制度。
●効率的な行政組織。
特に政府による経済への介入を排除するために、メドベージェフ首相は司法・行政改革を主張している。
実際、司法改革については裁判官への大幅な待遇改善を図ったため、一昔前のような法律を無視した判決が下されるようなケースは大きく減少したと言われている。
ちなみに世銀の「Doing Business 2015」ランキングでは、ロシアは総合順位は62位だが、所有権登記は12位、契約履行では14位と上位にランキングされている。
法律家のバックグラウンドを持つメドベージェフ首相としては面目躍如であろう。
しかし、我が国の例を見るまでもなく、身内である公務員の権益を削減するには多くの困難が伴うことが予想される。
以上、メドベージェフ首相の論文から筆者が気になった点を書き留めた。
既にコメントした通り、彼の主張はロシア経済の正確な分析とその原因に対する的確な対応であり、筆者は概ね賛同すべき点が多い。
しかし、首相の仕事は立派な論文を発表することではなく、その政策ビジョンを実際の法律に落とし込み、実行に移すことである。
となると、メドベージェフ首相の前途は極めて多難に思えてくる。
彼の支持率はこのところ回復傾向にあるとは言えプーチン大統領にははるかに及ばない。
彼が主張する「真っ当」な意見は、ロシアの進路に最終的な責任を持つプーチン大統領のそれと一致するものなのか、さらにプーチン大統領を支える保守派の人々の意見、権益と相容れるものなのだろうか。
そして何よりもロシア国民の多数がメドベージェフ首相の描く未来像を望んでいるのであろうか?
モスクワやサンクトペテルブルグといった大都市に住むロシア人はそれに共感するかもしれない。
しかし地方の産業都市や農村地帯、あるいは官僚組織の末端で働く多数のロシア人にとっては、それは絵空事であり彼らが望むものではない可能性がある。
ロシア国内ではリベラル派の顔、他方日本では北方領土に3回も上陸した悪代官のイメージが強いメドベージェフ首相の今後の舵取りに注目したい。
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