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ダイヤモンドオンライン 2015年9月1日 真壁昭夫 [信州大学教授]
http://diamond.jp/articles/-/77643
次の金融恐慌は2017年か!?“10年周期説”の信憑性
■金融市場は安定を取り戻すが、
いずれ中国の問題表面化は避けられない
中国政府が矢継ぎ早に対応策を打ち出したが、世界の金融市場では依然として不安定な動きが続いている。
ただ今後、リスク回避のために株式や原油などの先物を売っていた投資家の買い戻しが入ると見られ、早晩、金融市場は安定した展開を取り戻すだろう。
しかし、長い目で見ると、中国経済が抱える問題が片付いたわけではない。
今後、数年というスパンでは、同国の経済や政治体制などの問題点が表面化する可能性は高い。
というよりも、それは避けることのできない必然と見る。
今回の金融市場の混乱の中で、最も顕著になったのは中国政府の慌てぶりだった。
なりふり構わぬ強引な株価押し上げ策や、突然の為替レートの実質的な切り下げなどは、明らかに政策当局のコントロールの限界を露呈していた。
市場関係者から、
★.「経済や金融市場の動向に関して、中国政府が制御できる範囲はかなり限定的だったことが分かった」
との指摘は多い。
今まで、何ごとも力づくで抑え込むことが可能と考えられてきた、
★.一党独裁の政治体制にも限界が見えた
とも言える。
今後、何かのきっかけで中国の問題が顕在化した場合、
今回の世界同時株安を上回る混乱が発生することも想定される。
世界第2位の経済大国が抱えるリスクを過小評価することは適切ではない。
中国の経済問題と欧米経済の減速などが運悪くタイミングが重なると、主要国の経済政策ののりしろが限られていることもあり、世界経済はかつての世界恐慌のような厳しい状況に追い込まれることも考えられる。
そのリスクシナリオは、頭の中に入れておくべきだ。
■中国経済が抱える本源的な問題点
このままでは世界にも影響不可避
元々、中国経済では個人消費の割合が低く、輸出と設備投資が経済を牽引するエンジン役を担ってきた。
ところがリーマンショック後、世界経済が大きく落ち込んだこともあり、輸出の伸び率が鈍化した。
それに対して当時の胡錦濤政権は、4兆元(現在の邦貨換算約80兆円)に上る大規模な景気対策を打ち景気を浮揚させた。
しかし、その景気対策は、結果的に国内の供給能力を一段と拡大することになり、足元の中国経済は大きな過剰供給能力を持つことになった。
そうした中国経済の体質を変えるためには、個人消費を拡大させて、輸出・設備投資依存型の構造をモデルチェンジすることが必要だ。
それには中間層を育成することが重要になる。
高級品を志向しやすい一部の富裕層と、
低価格商品への需要の大きい低所得層だけでは、
国全体の有効需要を大きく拡大することは難しい。
しっかりした購買力を持った中間層を拡大することは、中国経済の体質を変え、経済全体を安定させるためには必要不可欠だ。
それは習政権も十分に理解しているはずだ。
しかし、現在の中国で、中間層を育成することは容易ではない。
共産党一党独裁体制の下で、一部の政府関連機関や国有企業などが経済活動の中心を担っている状況を見ると、経済活動全般の効率化が遅れており、生み出した経済的な富を公平に分配する仕組みがワークしていない。
今後、中国政府は国営企業や金融市場の改革を断行すると同時に、社会保障制度などの改革を進め、国内の中間層を育成し経済構造のモデルチェンジを図ることが必要だ。
それができないと、今回と同じように“チャイナリスク”の顕在化によって、世界の経済・金融に大きなマイナスの影響を及ぼすことは避けられない。
■“10年周期説”を無視できない理由
世界経済で続くデフレ傾向
以前にもこのコラムで書いたが、金融市場には“10年周期説”という見方がある。
1987年、1997年、2007年と末尾に7が付く10年毎の年に、世界の株式市場が大きく下落するイベントが発生した。
87年にはブラックマンデーがあり、
97年にはアジア通貨危機、
2007年にはサブプライム問題
が発生した。
この周期を適用すると、今から2年後の2017年に世界の株式市場が変調を来すとの見方だ。
この周期説を鵜呑みにするつもりはないが、足元の経済状況や米国の金融の金融政策変更の可能性などを考えると、2017年に世界的に株式市場が急落する事態が発生することも、あながち荒唐無稽と片づけられない部分がある。
そう考える理由の一つは、足元で世界経済のデフレ傾向が続いている
ことだ。
★.大規模な過剰供給能力を抱える中国の卸売物価指数は41ヵ月連続マイナスで、
明らかにモノを売りたい人が買いたい人を上回っている。
わが国では、日銀が異次元の金融緩和策を取ってデフレ脱却を目指しているが、原油価格の下落もあり、なかなかデフレ状況から明確に足を抜くことができない。
また、相対的に期待インフレが高い欧米諸国でも物価水準は落ち着いたままだ。
そうした状況が続いている間は、世界経済全体が力強く回復に向かうことは難しい。
ということは、企業業績の伸び率に限界があり、株価が大きく上昇することは難しいと見るべきだ。
逆に、そうした状況下で、“バブル”のように株価が急速に上昇するようだと、必ず大幅に下落する局面を迎えることは避けられない。
特に、昨年夏場以降、景気減速が鮮明化しているにも拘わらず、株価が1年間余りで2倍以上に上昇した中国株がピークを打って、下落局面に入ることは時間の問題だったと言える。
■中国と米欧の変調が重なり、政策対応もできないという最悪のリスク
もう一つの理由は米国の金融政策だ。
同国の金融政策が緩和から引き締めに転換されたことは、“10年周期説”における株価急落のきっかけの一つになった。
基軸通貨であるドルを司る米FRBの金融政策が、お金を潤沢に供給する緩和基調から、金利を引き上げ、市中に出回っているお金の一部を吸収する引き締めに転換することは、米国のみならず、世界の金融市場に大きな変化をもたらす。
米国の金利が上昇することによって、同国の株式市場から投資資金が流出し、市場が不安定化することが懸念される。
また、新興国の金融市場に回っていた資金は、米国に回帰する=リパトリエーションの可能性が高まる。
それが実現されると、新興国の株式市場が不安定な展開になりやすくなる。
今回の世界同時株安の前まで、FRBは9月に金利の引き上げを実施するとの見方が有力だった。
仮に今年中にFRBが金利引き上げを実施すると、かつて10年毎に発生した株価急落の引き金になることも懸念される。
重要なポイントは、今後数年の間に、“チャイナリスク”が顕在化し、それに米国やユーロ圏経済の落ち込みが重なると、そのインパクトはかなり大きくなる可能性が高いことだ。
市場関係者の一部には、「中国・欧米の経済が一度に下落すると、世界恐慌のような最悪のシナリオの可能性も否定できない」との悲観的な見方もある。
2008年のリーマンショックの時には、世界的な不動産バブルの後だったこともあり、多くの主要国経済はそれなりにパワーが残っていた。
金融・財政政策にも一定の発動余地があった。
ところが足元の状況を見ると、わが国や欧米諸国に関しては、金融・財政政策にほとんどのりしろが残っていない。
言ってみれば、主要国の政策当局は、政策発動の余地が限られた、ほとんど丸腰の状態で景気の落ち込みに対峙しなければならない。
それは容易なことではない。
残念だが、その最悪のリスクシナリオが実現する可能性を完全に払拭することはできない。
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ロイター 2015/9/1 10:04 ロイター
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150901-00000022-biz_reut-nb
アングル:中国などが「量的引き締め」、経済防衛へ外貨売却
[ロンドン 28日 ロイター] -
世界の主要中央銀行は2007─08年の金融危機とその後の景気後退がもたらした悪影響を和らげるため、量的緩和(QE)が持つ力を信じて金融システムに潤沢な資金を流し込んできた。
先鞭をつけたのは米連邦準備理事会(FRB)で、バトンを引き継ぐ形で欧州中央銀行(ECB)が今年になって1兆ユーロ規模の債券買い入れプログラムを始動させ、日銀もまた大規模緩和を続けている。
ただここにきて「量的引き締め(QT)」とでも呼ぶべき逆の力が勢いを持ちつつある。
中国が急激な資金流出から自国経済と市場を守ろうと外貨を売却し、他の新興国も追随しているためだ。
シティグループのアナリストチームの推計では、過去1年程度で見ると世界の外貨準備額は毎月平均590億ドルのペースで減少し、この数カ月間では減少ペースが1000億ドルに迫っている。
別の大手グローバル行筋は、新興国は8月だけで計2000億ドルの外貨を売却し、そのうち1000億─1500億ドルは中国だった可能性が大きいとの見方を示した。
ドイツ銀行の通貨アナリスト、ジョージ・サラベロス氏は
「中国からさらに資金が流出する可能性は相当に大きい」
とした上で、QTがもっと進むと懸念される点が重要だと述べた。
★.中国の外貨準備は世界で群を抜く規模で、
大半は米短期国債や米国債などのドル建て資産。
6月末時点では総額は3兆6900億ドルだった。
ただ1年前に過去最大の約4兆ドルを記録した外貨準備はじりじりと減少傾向にあり、一部はドル高を受けた為替介入に回されているものの、最近は完全な資産売却が主因となりつつある。
こうした中国やその他新興国による米国債売却は大きな影響をもたらす可能性を秘めている。
シティがさまざまな調査研究をもとに試算したところでは、米国の国内総生産(GDP)の1%相当の外貨準備が減少すると、米10年国債利回りは15─35ベーシスポイント(bp)押し上げられるとみられる。
ノムラの中国チーフエコノミスト、Yang Zhao氏は、
★.中国人民銀行(中央銀行)が7月と8月に1000億ドルに迫る外貨準備の売却に動いた
と見積もっている。
同氏は
「われわれの計算によると中国から7月に900億ドルの資金が流出したが、為替レートは変化しなかった。
これはつまり人民銀行が1000億ドル近くの外準を売ったと推察される。
人民銀行は人民元を3%安く誘導した後は、下支えのために積極的な介入を始めた。
だから8月も、売却額は1000億ドル目前になっただろう」
と説明した。
コモディティ価格の急落と中国などの成長懸念を背景に、新興国から資金が逃げ出している。
調査と資産運用を手掛けるクロスボーダー・キャピタルによると、
★.過去1年間に新興国から出て行った資金は約1兆ドルで、そのうち中国からが7500億ドル強を占める。
これに伴って多くの新興国の中銀は、通貨安を食い止めるために外準を使わざるを得なくなった。
一方で人民元切り下げをきっかけにした世界的な「通貨戦争」が激化するとの懸念が広がり、新興国通貨が値下がりする流れが再び強まって、ベトナムドンやカザフテンゲなどが切り下げに追い込まれる事態も生じている。
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サーチナニュース 2015/09/01(火) 13:48
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2015&d=0901&f=business_0901_026.shtml
中国経済には「ヘリコプターマネー」が必要か=中国メディア
中国メディアの中金網は8月31日、シティバンクの首席エコノミストであるWillem Buiter氏がこのほど
「中国は経済成長の鈍化を食い止められていない」
と指摘、
★.中国経済は景気後退局面に突入しつつあり、世界経済のリスクとなる可能性がある
と警告したことを伝えた。
記事は、Buiter氏が
「中国は経済低迷の深刻化を防ぐために、“ヘリコプターマネー”による大規模な財政出動が必要」
との見解を伝えた。
ヘリコプターマネーとは、中央銀行が民間金融機関から国債を買い取らずに現金を供給する政策や、政府や中央銀行が家計にお金を直接供給する政策などを指す。
続けて、Buiter氏が
★.中国の経済成長率は「4.5%程度、ひいてはそれ以下」まで減速する恐れがある
と述べたことを伝え、
★.「中国政府は対策を打ち出してはいるが
、政府の対策が遅れれば中国経済はリセッション(景気後退)に突入する可能性がある」
と警告したことを紹介。
また、
★.中国経済が景気後退となれば、世界経済までもがリセッションに突入する恐れがある
と分析していると伝えた。
また、Buiter氏が
★.「中国経済がリセッションを回避する唯一の方法」として、
消費を刺激するための財政出動を行うことを挙げる一方で、
「中国経済はヘリコプターマネーによる大規模な財政出動が早急に必要」
と指摘しつつも、
中国政府はまだその準備が整っていない
と指摘したと伝えた。
続けて記事は、Buiter氏が提案した策は1930年代に日本の高橋是清蔵相が行った政策と似ていると伝え、
「高橋蔵相の政策は一定の成功を収め、日本はデフレの泥沼から抜け出すことに成功している」
と報じた。
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ヘリコプターマネーの出動はこれまでウワサされていた。
だんだんそれが現実味を帯びてきたということは、中国経済の行方は暗澹たるものということになってしまう。
ロイター 2015年 09月 2日 12:17 JST 武田洋子三菱総合研究所 チーフエコノミスト
http://jp.reuters.com/article/2015/09/02/column-yokotakeda-idJPKCN0R206F20150902?sp=true
コラム:世界経済下振れ回避の条件
[東京 2日] -
米国主導で世界経済の緩やかな回復が続くとのメインシナリオに対し、注意すべき下振れリスクとして、かねてより3点を指摘してきた。
1].中国経済の失速、
2].金融市場の不安定化、
そして
3].主要先進国の消費回復が期待外れ
となるリスクだ。
メインシナリオの変更は現時点では必要ないと考えているが、世界経済の先行き不透明感は高まっている。
★.リスクシナリオの確率は年初想定の15%から現在は35%程度まで上がってしまった印象
を受ける。
特に懸念されるのは、他でもない中国経済の行方だ。
上海株価の動向よりも、基本的には実体経済がどの程度減速するのか、その減速ペースの見極めが最重要ポイントだ。
周知の通り、中国政府は2015年の年間成長率目標を7%程度に設定している。
上期の実質国内総生産(GDP)成長率は7.0%と目標に沿って進んでいるが、景気の実態を敏感に反映する電力消費や鉄道貨物輸送量を見る限り、足元の実勢は7%よりも弱いだろう。
もともと過剰投資を解消していく過程で中国経済は減速していくと予想していたが、さらに6月中旬以降の株価急落で個人消費や企業マインドへの悪影響が懸念される事態となっている。
中国国家統計局が発表した8月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)は3年ぶりの低水準、非製造業PMIも前月から低下した。
現時点では、2015年の中国経済は6%台後半の成長率へ減速すると予想している。
問題は、株安が景気をどの程度下押しするかだ。
この2カ月余りで失われた株式時価総額(上海と深センの両市場合計)は30兆元に達する。
これは2014年の中国の年間個人消費の1.2倍、GDPの約半分に相当する額だ。
確かに中国の家計金融資産投資に占める株式も含めた証券投資の割合(2012年時点)は5%弱と小さいが、失われた時価総額の大きさを考えれば、一定の逆資産効果や消費者マインドの悪化は避けられないだろう。
また、企業経営者のマインド悪化や海外への資本流出の加速も現実問題として危惧される。
★.中国経済がハードランディングを回避できるかどうかは、
当面、政策運営の巧拙に大きく依存することになる。
中央政府の財政余力は他の主要国に比べ残されているとはいえ、地方政府の財政状況は悪化しており、大規模な景気対策は難しい状況だ。
だが、景気減速懸念が一段と高まれば、これまで以上のペースで
1..インフラ投資の執行を速めたり、
2..中国人民銀行による金融緩和の強化措置がとられたり
するだろう。
実際、人民銀行は8月25日、昨年11月以降5度目となる利下げを実施した。
しかも、今回は預金準備率も引き下げた。
政策金利と預金準備率の引き下げを同時に決めたのは、リーマンショック後の2008年末以来だ。
こうした金融緩和策は、インフレ率低下による実質金利の高止まりにより、実体経済への直接的なプラス効果はさほど見込めないかもしれない。
それでも、投資家心理へのアナウンスメント効果は無視できない。
★.「政策総動員」によりハードランディングと呼ぶほどの失速は避けられる
のではないか。
■<中国株急落前から資金フローに変調>
そもそも今回、金融市場が中国リスクに過剰反応し、世界同時株安にまで発展した背景には、米国の利上げを控えて投資家が過敏になっていたことがある。
では、国際金融市場は今後さらに不安定化するのだろうか。
まず、新興国市場の状況は懸念される。
米国の年内利上げが意識されるなか、新興国市場全体への資金流入ペースは減速傾向にある。
特に資源輸出国や経常赤字国、政治面で不安材料を抱える国では証券投資フローが流出超に転じ、通貨安も加速している。
インドネシアやブラジル、マレーシアがその代表例だ。
また、新興国向けの与信残高も、国際決済銀行(BIS)のデータによれば、2015年3月末は2014年末対比で中南米向け与信の縮小が加速したほか、アジア向け与信も減少に転じている。
つまり、中国の株価が急落する前から、新興国市場への資金の流れに変調が見られていた。
1997年のアジア通貨危機前と比較すれば、新興国の外貨準備はおおむね潤沢と言ってよいが、11年ぶりとなる米国の利上げをきっかけに新興国からの資金流出が加速し、世界の金融市場がさらに不安定化する可能性には注意が必要だ。
新興国経済は、中国向け輸出の減少や資源安を通じて、すでに中国減速の影響を受けている。
資金流出の加速は新興国経済全体の減速ペースを強めかねない。
冒頭述べたように、年初よりもそうしたダウンサイドリスクは高まっている。
他方、現時点でのメインシナリオは「世界経済は緩慢ながらも回復を続ける」であり、その最大の理由は米国経済の堅調さにある。
2015年4―6月期の実質GDP改定値は年率換算で前期比3.7%増と、速報値のプラス2.3%増から大幅に上方修正された。
寒波や港湾ストライキの影響を受けた前期(同プラス0.6%)から大幅に伸びを高めている。
輸出が増加に転じたほか、個人消費が全体を押し上げている。
消費堅調の主因は、良好な雇用・所得環境だ。
非農業部門の雇用者数は月平均20万人前後のペースで増加。
失業率も5.3%と米連邦公開市場委員会(FOMC)が想定する長期均衡失業率(5.0―5.2%)付近まで改善している。
今後も雇用・所得環境の改善が消費をけん引すると予想される。
ただ、現時点での蓋然性は低いものの、こうした強みが一気に反転するリスクシナリオにも要注意だ。
利上げの過程で、新興国のみならず米国自体の株価が大きく下落すれば、逆資産効果や消費者マインドの悪化を通じて消費の伸びが鈍化しかねない。
米国経済こそ、そのエンジンが個人消費であることから、株式市場発のショックに脆弱であるとも言える。
過去のデータから試算すると、株価が10%下落すると、消費は約0.3%押し下げられる。
その意味で、金融市場の動揺が再燃しないことが、米景気拡大シナリオの前提条件だ。
この点、米連邦準備理事会(FRB)の市場との対話の重要性はますます増している。
■<日本経済回復シナリオに狂いはないか>
最後に日本経済について言い添えれば、4―6月期のマイナス成長の起点は輸出の落ち込みにあり、内需を取り巻く環境はGDP統計の数字からうかがわれるほど悪くはなかった。
有効求人倍率は一段と上昇し、企業の経常利益は高水準を維持。
2015年度の設備投資計画を見ても日銀短観や日本政策投資銀行による調査で高い伸びが予想されており、企業は2007年の円安局面と比べて「新製品への投資」や「研究開発」に前向きな姿勢を示している。
市場の動揺が収まり消費者の心理が好転し、企業が設備投資の計画を着実に実行に移せば、徐々に緩やかな回復路線に復するだろう。
だが、この回復シナリオが実現するには、今後、
1):中国経済の落ち込みが想定を超えないこと、
2):金融市場が安定的に推移すること、
そうしたもとで、
3):米国や日本の消費者心理が悪化しないこと、
という3条件が必要となってくる。
3条件のいずれかが崩れれば、日本経済も大きな悪影響を受ける。
すでに中国を中心とする新興国経済の減速が日本企業の生産活動に影を落とし始めている。
上記3点が、日本を含む世界経済が失速を免れる条件である。
*武田洋子氏は、三菱総合研究所のチーフエコノミスト。1994年日本銀行入行。海外経済調査、外国為替平衡操作、内外金融市場分析などを担当。2009年三菱総合研究所入社。米ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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【輝ける時のあと】
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