2015年9月29日火曜日

習近平訪米の有り様(4):恐怖政治の情勢下において、官僚たちは積極的な政策立案ができないでいる

_

●FNNニュース 9月29日(火)9時26分配信


ダイヤモンドオンライン 2015年9月29日 加藤嘉一
http://diamond.jp/articles/-/79091

米国公式訪問で引き出された
習近平政治の意外な素顔

■習首席の米国訪問から見えた「巨人」を巡る光と影

 米国というプレイヤーは、私たちの中国理解にとって、時に“引き出し役”を担ってくれる。
 ワシントンDCで習近平訪米を眺めながら感じた「中国政治の課題」とは?……

 9月22日~25日、習近平中国国家主席が自身初となる米国への公式訪問を実行した。
 本連載では2014年11月、バラク・オバマ米大統領が中国を公式訪問した際の模様を扱ったことがあったが(習近平とオバマは中南海で何を語っていたのか 3つのシーンから検証する中国民主化の行方)、今回もフォーカス・オンしてみたい。

 グローバル政治経済システムにおいて、米国はその経済力を含め唯一中国よりも巨大で、影響力と発言権を誇る主権国家だと言える。
 そんな米国は、ホームで対中外交を展開する過程において、通常ではうかがい知ることのできない習近平の素顔や、中国という得体の知れない巨人を巡る光と影の部分を引き出してくれるに違いない。

 そう、米国というプレイヤーは私たちの中国理解にとって、時に“引き出し役”を担ってくれる。
 ワシントンDCで習近平訪米を眺めながら、そう感じている。

 本稿は、私が米国という引き出しを通じて習近平訪米を覗きこむ過程で、
 比較的強い印象を抱いた5つの場面をレビューしてみたい。
 米中関係そのものに関する分析ではなく、米国とのやり取りを通じて、習近平政権の現在地や改革・変化の方向性を掘り起こすという意味である。

❏1].1つ目はインターネットを巡る問題だ。
 2006年、前任者の胡錦濤が米国を公式訪問したときと同様、習近平は西海岸のシアトルから訪問をスタートさせた。

  「西海岸、特にシアトルは中国の対米外交から見ればビジネスの拠点であり、政治的敏感性が少なく、中国としてはコントロールしやすい。
 米国のなかで最も“親中的”な地域の1つと言える。
 中国の指導者はシアトル訪問を好む傾向にある」(中国党機関紙駐ワシントンDC記者)

 シアトル滞在期間中、習近平は中国の航空業も大きく依存しているボーイング社の製造工場や、マイクロソフト社を訪問し、現地の企業家と交流をしたが、なかでも注目されたのがマイクロソフト社と中国インターネット協会が共催した米中インターネットフォーラムである。
 中国からはアリババの馬雲やテンセントの馬化騰らが、米国からもフェイスブック、アップル、グーグル、IBMといった大企業のCEOらが出席した。

 米国側の出席者は、中国がIT市場をより一層開放し、企業への審査や干渉を軽減することを習近平本人に求めるべく発言していたが、そんな発言を横目に、習近平はスピーチの中で次のように主張した。

  「中国は平和、安全、開放、協力に基づいたインターネット空間の建設を提唱し、各国が自らの国情に符合するインターネット公共政策を制定することを主張する」

“国情”――。

 この2文字を目にしながら、私は2010年のグーグル撤退事件を思い出していた。
 2010年3月、グーグルが中国本土市場から“撤退”した理由の1つが、
 中国政府が嫌がる敏感なキーワード(天安門事件など)をユーザーに検索させない措置を含め、中国政府からの検閲を受け入れられないことにあった。
 グーグル社が保持するビジネススタイルや価値観とは相容れなかったのだろう。
 中国政府も
 「具体的な案を出しつつ、グーグル社の撤退を回避すべく歩み寄りの交渉を続けた」(中国工業情報化部幹部)
ようであるが、最終的には“中国の地でビジネスをしたければ言うことを聞け”という政治的原則を貫いた形となった。

 習近平の“国情論”は、「インターネットの世界にも主権は存在する」ということを主張・貫徹してきた中国共産党の立場を改めて露わにするものであった。
 と同時に、
 「中国でビジネスをしたければ中国のルールに従え」
という政策が引き続き実施されることを、明確に暗示した形となった。

■自国でブロックアウトしているフェイスブックを米国訪問のPRに使う矛盾

 私が今後注目しているのが、フェイスブックを巡る動向である。
 上記フォーラムにて、同社創設者のマーク・ザッカーバーグは米国側参加者の中で唯一習近平と“個人的”に、しかも中国語で話す機会を得ていた(最初からそのように手配されていたのか、会場の流れでそうなったのかに関しては筆者には定かではない)。
 ザッカーバーグは9月23日、自らのフェイスブックにて
 「今回初めて海外のリーダーとの交流を全て外国語で行った。
 私にとっては意味のあるマイルストーンになったと思っている。
 習主席、そして他のリーダーたちと面会できて光栄だった」
と綴っている。

 そんなフェイスブックだが、中国国内では依然としてブロックアウトされたままである。
 一節によれば、ザッカーバーグはそんな難局を打開すべく、中国の指導者たちに少しでも努力や誠意を示すために必死に中国語を勉強しているとされる。
 それ以上に興味深いのは、今回の習近平訪米に際して、中国当局が独自のフェイスブックページを開設し、そこを通じて習近平の動向を英語の読者向けに宣伝している事実である。

 自国内で封鎖している企業のプラットフォームを、その企業が本部を置く米国を公式訪問する際のプロパガンダのために使っているということだ。
 ワシントンDC駐在のある著名な中国問題ジャーナリストは、この事実を前にして私に“Perfect Contradiction”と修飾し、首を傾げていた。

  “国情論”という観点から中国国内ではグローバルスタンダードが通用しない現実を見せつけつつ、海外進出・対外宣伝の際にはグローバルスタンダードの潜在力や浸透力を戦略的に借用する。
 この“完璧なまでの矛盾”、言い換えればダブルスタンダードの存在と蔓延は、インターネット以外の分野でも(経済、外交、教育など)続くであろうし、そのプロセスは私たちの中国理解を当惑させるであろう。

2].2つ目が、反腐敗闘争を巡る状況である。
 本連載での執筆過程で幾度となく「中国民主化研究とは中国共産党研究である」と提起してきたが、このコンセプトから見た場合に、身体中に衝撃が走るような言葉を習近平の口から聞くことができた。

■「腐敗摘発に権力闘争など関係ない」習近平が発した信じられない言葉

 シアトルに到着した日の夜、米中関係全国委員会と米中貿易全国委員会などが主催した晩餐会の席で講演した習近平は、反腐敗闘争に話が及ぶと、次のように指摘した。

  「この期間、我々は腐敗案件を大々的に調査・処理してきた。
 トラもハエも一緒に叩くのを堅持してきたのは、人民の要求に応えるためである。
 そこには権力闘争などなければ、ハウス・オブ・カードもない」

  《ハウス・オブ・カード》とは、ケヴィン・スペイシー主演の米国政治をテーマとしたドラマで、その日本語サブタイトル“野望の階段”にも象徴されるように、一国会議員だったフランシス・アンダーウッド(ケヴィン・スペイシー)が、同じく野心家の妻クレア・アンダーウッド(ロビン・ライト)と時に助け合い、時に利用し合いながら、副大統領、そして大統領へと駆け上がる、まさに米国政治のダークサイドを浮き彫りにしたと言っていいようなエピソードである。

 習近平は、おそらく在席するほとんどの米国人、そしてもしかするとほとんどの中国人(中国で同ドラマは異常なまでの人気と普及を誇ってきたと私は認識している)も観たであろう《ハウス・オブ・カード》を意図的に引用することで、自分はフランクではなく、妻の彭麗媛(国民的人気軍人歌手)はクレアではない、と言いたかったのだろうか。
 習近平が同ドラマの名前を口にした直後、会場は笑いに包まれ、それを確認した習近平の表情からも白い歯がこぼれ落ちた。

  《ハウス・オブ・カード》の引用は“ある意味”想定内だったとしても、「反腐敗に権力闘争などはない」と言い切ったのには心底驚いた。
 中国、特に共産党政治に何らかの関わりを持つ人々の間において、“反腐敗の本質は権力闘争”ということは半ば公然の事実となっているが、これを公言することは実質的にタブーとされてきた。

  「反腐敗に権力闘争などない」と同様に、習近平が初めて公に語った言葉が、訪米直前に受けた米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)書面インタビューにおける「反腐敗は経済発展に影響しない」であった。
 本連載でも、反腐敗によって“削減”された政府消費というよりは、反腐敗闘争という恐怖政治によって怯える経済官僚たちの事なかれ主義から生じる経済政策・改革の遅延という観点から、反腐敗の経済発展へのネガティブの影響を検証してきた(参照記事:“二重の恐怖”に怯える中国官僚から“改革派”は生まれるか?)。

 私から見て、反腐敗との関連性で言えば、権力闘争と経済発展は最もセンシティブな要素であり、かつ国内外の政府や市場関係者が最も用心している分野でもある。
 今回の習近平のこの発言に関して、私はいささか余分で、お世辞にもスマートとは言えないやり方だったかなと思っている。
 習近平がこの2点を公言することによって生じる事態は、外界がそれらに対する疑念を拭うことなどでは決してなく、中国共産党指導部も(外界同様に)この2点をそれだけ懸念していることを、世界中に宣言したようなものだからである。

3].3つ目が経済情勢・改革についてである。
 中国経済の減速や株式市場を巡る乱高下といった昨今の問題は、グローバル経済をどのようにマネージしていくかを語り合う運命にある米中首脳外交の舞台でも注目された。
 また、最高指導者による発言を控えることで政策転換の余地を残すためか、6月中旬以降、習近平の経済に関する発言は意図的に、極力控えられてきたと私は考えていたこともあり、対米首脳外交の舞台で引き出される習近平の経済発言には、特に注目していた。

 習近平は前出のWSJ書面インタビューにて、次のような見解を示している。

  「株式市場の上下動にはそれ自身の運行規律があり、一般的に政府は干渉しない。
 政府の職責は公開・公平・公正な市場の秩序、および投資家、特に中小投資家の合法的権益を守ることにあり、株式市場の長期的で安定的な発展を促し、大規模な恐慌の発生を防ぐことにある」

  「少し前、中国の株式市場は異常な乱高下に見舞われたが、これは主にそれまでの上昇が高すぎた、速すぎたことや、国際市場の動乱などによって生じたものである。
 中国政府はいくつかの措置を取り、株式市場が恐慌心理とシステミックリスクに襲われるのを防いだ」

  「海外の成熟した市場も、過去に同じような措置を取ったことがある。
 総合的にいくつかの措置を取った後、株式市場はすでに自己修復・自己調整の段階に入っている。
 資本市場を発展させることは中国の改革における方向性であり、今回の動乱によって変更されるものではない」

■「株式上昇はバブル」「経済発展には干渉が必要」
習近平のインタビューから読み取れるシグナル

 私がこれらの文言から読み取ったシグナルが3点ある。

 (1):3~6月の株式市場の上昇はバブルだったと認めているこ
 (2):市場経済を安定的に発展させていくためには、
 政府による“干渉”が不可欠なのだと考えていること
 (3):経済情勢・政策に問題があるのは中国だけではなく、中国は孤立的ではないと訴えたいこと

 9月25日正午、ホワイトハウスでオバマと共同で臨んだ記者会見にて、
 「中国の改革は停滞しないし、開放政策も歩みを止めない」
と言及した習近平は、隣に立っているオバマに対して国際通貨基金(IMF)改革の一層の促進を“要求”した。
 米中首脳会談の成果一覧表には「双方はIMFの特別引出し権(SDR)審査における手続きを尊重しつつ、人民元がSDRに加入する事項において意思疎通を強化する」という一節がある。
 オバマの会見における受け答えを眺める限り、米国はこの問題で中国に一定の権限と面子を与えつつ、そのための交換条件として、中国国内の市場開放、特に今回の会談で最終的合意に至らなかった相互投資協定(BIT)のネガティブリストにおいて、一層の妥協と努力を引き出したいものと思われる。

4].4つ目に、習近平主席の初米国公式訪問がローマ教皇フランシスコの初訪米と重なった事情に関してである。
 両者の日程は、ローマ教皇9月22日~27日(ワシントンDC、ニューヨーク、フィラデルフィア)、習近平主席9月22日~26日(シアトル、ワシントンDC、ニューヨーク)であり、ほぼ重なり合っていた。

 カトリックの総本山でもあるバチカン市国との“外交的関係”は、国内で共産党のイデオロギーを脅かすような一切の宗教・信仰・価値観の普及を認めない中国にとっては、極めてセンシティブな問題である(両国の間に国交はない)。
 そんな中、フランシスコ教皇と同時期に習近平を訪米させるのは、中国政府からすれば避けたいことであり、私が外交部や商務部など、複数の中国政府関係者から確認したところによれば、中国政府はこれまで幾度となく、あらゆるチャネルから米国側に両者の訪米時期をずらすことが可能かどうか打診している。

 実際に、両者が同じ時空に居合わせることはなかった。
 9月24日、フランシス教皇は16時前後にワシントンDC郊外、メリーランド州に位置するアンドルーズ空軍基地から飛び立ち、習近平主席は18時前後に同基地に降り立っている。

 ■バチカンと関係は悪くないというものの
あらゆる手段で教皇との接触を回避

 一方、私は同日16時半頃ホワイトハウス周辺にいたが、17番通り沿いでは、中国政府による協力と指導を得た中国人留学生たちが紅い制服を着用し、国旗や“歓迎習主席”などの横断幕を掲げて陣取るなか、“米国国旗・ワシントン州旗・バチカン市国旗”と“米国国旗・ワシントン州旗・中華人民共和国旗”が共存していた。

 中国党機関紙のワシントンDC駐在記者によれば、習近平訪米前夜に訪中した米国政府の元高官が中国政府高官に対して、
 「せっかく習近平主席とフランシスコ教皇が同じ時期にワシントンDCにいるのだから会談したらどうだろうか?」
という提案をしたそうだが、
 「拒絶というよりは、聞かなかったことにされたようだ」(同記者)。

「中国とバチカン市国の関係は、そこまで悪くない」

 国営新華社通信の北京駐在記者はこう述べる。実際、習近平が国家主席に就任した際に、バチカン側は祝電を送っており、中国側もそれに対する返信をしている。
 また、2014年8月、フランシスコ教皇が韓国を5日間訪問した際初めて中国の領空を通過したが、空上で中国人民と国家主席に対する祝福の言葉を述べている。
 それに対して、中国外交部の華春瑩報道官は
 「中国はバチカン市国との関係を改善するための誠意を終始抱いており、そのために積極的な努力をしている」
と呼応した。

 にもかかわらず……という視点から最後の
5].5つ目に入っていきたい。
 キーワードは“自信の欠如”である。
 今回の習近平訪米を通じて、
 中国側には終始積極性や攻めの姿勢を欠いた場面が見られた
 例を3つ挙げたい。

★.1つ目が、ワシントンDCでフランシスコ教皇と“遭遇”する場面があったにもかかわらず、そして、米国側もいくつかのチャネルを通じて習近平主席に同教皇との接触が促されたにもかかわらず、中国側はそれをスルーしたことである。
 政府として関係の改善と建設的対話の展開を公言し、しかもより困難な相手国訪問ではなく、第三国における非公式対話が実現可能な時間的・空間的条件が整っていたにもかかわらず、中国政府はそれを実現するのではなく、あらゆる手を使って避けた。

 そもそも、人口の20%がカトリック、成人の45%がカトリックと何らかの関係を持っていて(USA TODAY Special Edition: Francis to America参照)、かつ約5000万人がヒスパニック系(2010年調査)という米国において、フランシスコ教皇の訪問は圧倒的なまでの注目度を集めた。
 私もそんな空気を街中が“Pope Francis”に染まったワシントンDCの地で感じていた。
 「前にはPope、後には下院議長を電撃辞任したジョン・ベイナー。
 ニュースのヘッドラインをどうしても飾れない習近平は、哀れにすら見える」(米某シンクタンク研究員)。

 そんなフランシスコ教皇の影で訪米のインパクトが大きく薄まるのを中国政府は相当懸念していたが、だとすれば、同教皇と非公式にでも接触をして、戦略的に習近平訪米を盛り上げるという発想は生まれなかったのか。

★.2つ目に、フランシスコ教皇の在米スケジュールとも関係するが、
 「中国外交部は、習近平のワシントンDC滞在時間は短ければ短いほどいいと考えていた」(中国政府関係者)
ことである。
 ここには、ワシントンDCに来れば向き合わざるを得ないサイバーセキュリティや南シナ海問題を極力かわしたいという思いもあっただろう。
 “親中的な”シアトルにいれば、ビジネスや協力のラインで公式訪問を進行することができる。
 習近平がワシントンDCに滞在した時間は実質1日強であった。

★.3つ目に、習近平が米国の大学での講演を回避したことである。
 前任者の胡錦濤はエール大学で、江沢民はハーバード大学で講演している。
 中国の指導者の米国大学での講演は、訪米日程の中でも比較的センシティブな分野に入ると見られるが、習近平はそれを避けた。
 「ワシントンDCの某大学での講演を交渉していたが、結局キャンセルになった」(中国政府関係者)。

 代わりに習近平が訪れたのは、シアトルから50キロほど離れた、タコマ市にあるリンカーン高校だった。
 1993年、当時福建省福州市書記だった習近平は同校を訪れている。
 また1994年、福州市とタコマ市は姉妹都市協定を結んでいる。
 その地を再訪することは、習近平にとってみれば“安全運転”以外の何物でもなかった、ということであろう。

■中国側に見られた非戦略的な消極性
その原因をつくったのは習主席自身?

 この、ともすれば中国らしくないとも映る非戦略的な消極性は、どこから来たのであろうか。
 本連載でも随所でほのめかしてきたが、私は習近平を取り巻く部下たちが、習近平が気を悪くしたり、怒ったりすることを恐れるあまりに遣いすぎている“気”の問題だと見ている。
 恐怖政治が蔓延する昨今の情勢下において、
 官僚たちは積極的な政策立案ができないでいる。
 今回の米国公式訪問で、そんな習近平政治の現在地が改めて明らかになったのではなかろうか。

 「でも、そんな空気をつくり出したのは習近平本人だ」

 9月24日夜、ワシントンDCに到着した習近平一行がオバマ一行とビジネスディナーをしている最中、ワシントン在住の中国共産党員がホワイトハウスからそう離れていない一角で、私にそうつぶやいた。



サーチナニュース 2015-09-29 15:09
http://news.searchina.net/id/1590249?page=1

中国・習主席、国連演説に見え隠れする「壮大な野望」
・・・ゼニが無いなら俺んとこ来い!

 中国メディアは29日、習近平国家主席が現地時間28日に国連総会で行った演説を相次いで取り上げた。
  習主席は前日の27日に国連サミットでの演説に続き、
 「国連平和維持活動(PKO)のために8000人の部隊を構築」
と改めて宣言。
 また10億ドル(約1195億円)を拠出して「中国・国連平和発展基金」を樹立すると述べた。

 中国メディアの新京報によると、習主席は
 「平和、発展、公平、正義、民主、自由は人類共同の価値であり国連の崇高な目標」
と述べた上で
 「目標はまだ達成されてはいない」
などと述べ、
 「(われわれは)新たなタイプの国際関係を構築せねばならない」
と主張した。

 さらに、「中国は発展途上国」と従来からの主張を繰り返し、同じ発展途上国として、「とりわけアフリカの国家を支持」と強調した。

 さらに、
★.10年間にわたり総額10億ドル拠出して「中国・国連平和発展基金」を設立することと、
★.PKOに対応するための8000人規模の待機部隊を設立すること、
★.今後5年間にわたるアフリカ連合に対する1億ドル(約119億5000万円)の無償軍事援助
を宣言した。

**********

◆解説◆
 中国首脳陣には以前から、現行の国際ルールや慣習について「かつての植民地主義、列強が作ったルール。必ずしも公正とは言えない」の考え方があった。
 しかし、以前は「自国が発展するためは、できるかぎり従わざるをえない」との考え方が主流だったのに対し、最近では「新たなルールづくり」を具体的に目指すようになってきたと言える。
 「国際観や国際ルール観の変更」は、習近平政権発足以来、特に顕著になった。

 習主席は上記演説で「新たなタイプの国際関係」を目指すと明言した。
 国連安保理常任理事国との立場を生かして、国連に対する影響力を強めようとの思惑があると考えてよい。

 なお、国連はPKOに軍や警察を派遣した国に対して「償還金」の名義で、費用を支払っている。

 このところ、PKOへの派遣人員の多い国はインド、バングラディシュ、パキスタン、エチオピア、ルワンダなどだが、経済面で遅れている国が「費用獲得」を主たる目的にPKOに参加する場合があるとされる。
 中国がPKOに対する発言力を強め、「友好的は発展途上国」に便宜を図る可能性もある。

 国連の公用語は英語、フランス語、ロシア語、中国語、スペイン語、アラビア語であり、公式ウェブサイトも前記6言語のものを解説している。
 日本時間29日午後1時現在、中国語サイトはトップページで習近平主席の国連演説の概略を紹介している。
 他の言語は同時点で未掲載。


 WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2015年10月13日(Tue)  岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5446

習近平への国賓待遇は
大統領権限の乱用だ

 アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のブルーメンソール研究員(アジア研究部長)が、9月9日付でForeign Policy誌ウェブサイトに掲載された論説において、習近平の国賓訪米を批判し、米国はもっと現実主義に基づいた対中政策を取るべきだ、と共和党保守派の主張を展開しています。

 すなわち、米国民は一貫して中国に厳しい見方をしている。
 国民は中国を押し戻すことを期待しているのに、政府は反対に米国を侮蔑する習近平を最高の栄誉で迎えようとしている。

 2013年のサニーランズでの米中首脳会談から2年、中国は米国の人事管理局にまでハッカー攻撃をかけているし、南シナ海では驚くべき人工島建設を行っている。
 これはクリミア併合にも劣らない領土の現状変更だ。
 米国にとってはクリミアよりももっと大きな脅威になるかもしれない。

 前回の首脳会談がこれほど失敗しているのに、米国は、安倍総理に与えたと同じ栄誉と尊厳を以て習近平を迎えようとしている。
 大統領権限の乱用だ。
 習近平は穏健化するどころか、国賓訪米の直前に、毛沢東流の抗日戦争勝利式典を挙行し、文字通りグアムを狙うための「グアム・キラー」ミサイルなどを披露している。
 ハワイへの奇襲攻撃を再現できると言わんばかりである。

 軍事パレードと時を同じくして、中国海軍艦艇がアラスカ沿岸に来た。
 習近平の訪米前のこのタイミングでやったのは、米国に対する侮蔑の以外の何物でもない。
 一部政府関係者は中国艦艇の行動は、中国も同様のことを受け入れなければならなくなったという意味で好都合だと述べているが、敗北的な考えだ。

 中国が裕福になれば穏健化する、との希望的観測が今の対中政策の根底にある。
 それは、中国共産党も徐々に世界のルールを受け入れてゆくだろうとの考えだが、中国共産党はリベラルな政党ではない。
 中国は独自の世界観を持っており、国内での権力堅持と海外での自国権益拡大が戦略だ。
 ハイレベル会談を何回行っても、米国のネットワークは攻撃されるし、安全保障は損なわれ、価値は軽蔑され、経済の安寧は脅威を受けている。

 共和党に新しい指導者たちが登場している。
 彼らは中国を競争者、時として脅威になる国と捉える。
 冷戦勝利のためのパートナー、あるいは米国が作った国際システムを受け入れる新しい国としては捉えない。

 新しい共和党のアジア政策は、「差異のある関与(Unequal engagement)」だ。米中関係は重要だが、外交関与の大半はアジアの同盟国・友邦国にむけるべきだ。
★.第1の優先順位は、同盟国・友邦国との関与の強化である。
 国防予算を回復し、活発な同盟外交をする。
★.第2は、真のTPPを支持することである。
 アジアに高度の自由貿易市場ができるのであれば台湾や韓国、その他の東南アジアの国にも拡大していく。
 TPPは米の対アジア政策の主柱になる。
★.第3は、中国の人権問題重視である。
 国内の人権抑圧と海外での攻勢はリンクしている。
 人権抑圧が減れば攻勢も弱まる。

 米の対中関与政策は、より現実主義的な、より大々的でないものにすべきだ。
 意味のないスローガンなどシンボリズムやレトリックはやめるべきだ。
 時には具体的な協力ができ、世界経済問題については一定の協力があるだろうが、
 中国が責任ある大国になるように、
 また、新たな大国間協調体制に中国が加わるように説得するという考え方は、
 当面無駄なこととして捨てるべきだ。
  安定の維持と紛争の回避が関与政策の中心目的である。
 両国の指導者は両国の利益が必要とする時に会えばよい。
 来る国賓訪米は、時期が間違っているし、場所も間違っている、と厳しく批判しています。

出典:Daniel Blumenthal,‘Rolling Out the Red Carpet Won’t Make China Play Nice’(Foreign Policy, September 9, 2015)
http://foreignpolicy.com/2015/09/09/rollingouttheredcarpetwontmakechinaplaynice/

* * *

 オバマの対中関与政策に対する共和党保守派からの激しい批判です。
 不安を覚えるような、やや激しい表現も散見されますが、
 後半の三つの優先政策
 (中国よりも同盟国・友邦国との関与を重視する、真のTPPを支持する、中国の人権問題を重視する)
と最後のやや落ち着いた対中政策の在り方に関する諸点
 (対中関係は重要だがより現実主義的な、より大々的でないものにすべき、首脳会談は必要な時にすればよいなど)
は、今の米国の保守派のムードを知る上で興味深いと言えるでしょう。

 無意味なシンボリズムはやめるべきだとの点は理解できます。
 習近平への国賓待遇付与は、おそらく中国がそれを要求しているからであり、米国としては安いコストだと思っているのかもしれないが、内容のない中国流のシンボリズムは意味がないように思います。

 対中警戒感は、今、米で高まっています。
 オバマ政権下の8年、中国と関与しても一向に変化がなく、反対にどんどん中国が影響力を増すことに対する強い反発と懸念が基になっているものと思われます。
 案外広く共有されている感情かもしれません。

 いずれにせよ次期政権は、どちらの党が勝利しても、対中政策はよりリアリズムを強調したものになる可能性が高いと思われます。
 共和党が勝てば尚更ですし、民主党のクリントンになっても、オバマの時代と比べれば対中外交はよりタフな外交になるでしょう。
 政権交代による微調整は必ずしも悪くありません。



WEDGE Infinity 日本をもっと、考える 2015年10月09日(Fri)  中村繁夫 (アドバンスト マテリアル ジャパン社長)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5465

習近平の航空機”爆買い”
チタン業界に漂う軍事産業の影
日本が米国軍用機の「最良のお得意さん」? 

 2015年の「国際チタン会議」が米国フロリダ州のオーランドで10月5日から7日まで3日間にわたって開催された。
 毎年10月の上旬に行われる会議だが、今回は世界各国から約750人前後が参加した。
 今年の話題は航空機産業分野のチタン需要への期待で盛り上がった。

■習近平国家主席が
ボーイング旅客機を「爆買い」した背景とは?

 先月9月の習近平氏の訪中時にボーイング社に対して習近平氏が300機の旅客機を発注したニュースや中東における空爆の増加から航空機と防衛産業の景気高揚への期待も会場のあちこちで話題になっていた。

 さて、世界のチタン市場はリーマンショック以降、一時期落ち着きを取り戻したが、昨年の2014年までの需要は3年間連続で停滞していた。
 しかし、今後は新型航空機の納入が本格的に始まるのでチタン需要は拡大基調に転換することは確実である。

★.今後20年間で生産される航空機は3万9780機と推計されており、
★.航空機需要だけでも10年間で新たに40万トン以上のチタンを消費する
と見込まれるから期待が集まるのも当然である。
★.年間のチタン製品の年間の世界需要量は大体10万~12万トンくらいであるから
 新規の航空機需要が4万トンになるというのは3割から4割の拡大が期待できる
と云う話なのだ。

 まずは会場の活気の原因である習近平国家主席の派手なパーフォーマンスから話題を分析してみたい。
 習近平氏は去る9月23日、米西部ワシントン州の米航空機大手ボーイングの工場を訪問し、なんと旅客機300機の発注で合意するなど中国の得意の「爆買い」をアピールした。

 ただでさえ中国の景気が減速する中で旅客機を300機も発注するなどの大盤振る舞いは常識では考えられないが、チタン業界では航空機分野の本格的回復が期待されているから盲目的に歓迎されているのだ。
 景気が悪化すれば旅行客は減少するから普通は旅客機の注文は減って当たり前である。

 今回の発注は380億ドル(約4.5兆円)規模と云われているがチタンの使用量は一機当たり60トンに及ぶから300機になると何と1万8000トンとなり、2014年の米国のチタン材の需要が2万7000トンだから今回の発注量がいかに多いかが分かるだろう。

 ところが、こうした発表にもかかわらずボーイング社の株価は急落しており、市場の反応はみられなかったのは
 中国得意の白髪三千丈のブラッフだと反応した
のかも知れない。

■日本が米国軍用機の「最良のお得意さん」

 さて、今回の国際チタン会議でもう一つ気になる発表があった。
 アメリカの軍需産業について”Driving Market Growth Through Innovation”なるタイトルでクリーブランドのAlcoa Defense社のRoegner社長がプレゼンをした内容である。
 米国防衛産業における「イノベーションを通じたチタン市場の成長」という内容である。

 この発表の中では我が国日本が防衛産業(特に軍用機)の重要な市場としての位置付けにされているのに驚いた。
 プレゼン資料に示された防衛産業の重点市場が
★.エジプト、アフガニスタン、カタール、クエート、インド、に加えて日本が軍用機の発展市場
と認識されているという発表であった。

 発表の内容を聞くにつけて平和産業であるチタン市場分野が一般航空機産業よりも、より軍用機の発展に注力している内容に危惧を感じたのは私だけではなかったと思う。

 今回の安保関連法案の成立直後に、チタン会議に参加したためにアメリカが日本の防衛産業をどのように見ているのかが気になっていた矢先のことである。
 日本の集団自衛権の閣議決定が何らかの形で米国の軍需産業に資することは当然だが、日本が軍需産業のお得意さんとしてアメリカのチタン業界では認識されており、このような形でチタン産業の関与を示されると長年にわたりチタン産業に関わってきた私としては複雑な気持ちである。

 アメリカの景気はシェールガス・シェールオイル景気に支えられているが、来年の大統領選に向けていろんなプロパガンダが繰り広げられている。
 オバマ政権の在職中にはこれといった成果が無いだけに置かれた立場は複雑である。
 特に最近になって来年度の大統領選の候補者らがオバマ外交を「弱腰」と批判されるのを避けるために、南シナ海の中国との対立姿勢は強気を演出している。

 つい最近も米軍機と中国の戦闘機が中国領海で異常接近するなど一触即発の危険性もあったが、今後の米中関係は決定的な対立を避けるべく双方の着地点を見いだせるかが問題となる。
 ウクライナ紛争から始まったロシアへの経済制裁や、イスラム国家やベネズエラを含む産油国への原油価格の下方誘導やシリアへの空爆も何か不自然な動きに感じてならない。

■中露が軍事行動を推進せざるを得ないワケ

 一方の中国当局は景気下支えのために昨年秋以降、相次ぐ利下げなどで金融を緩和し、インフラ投資を加速させているが、全くその効果は表れていない。
 失速懸念を払拭するのに躍起の習政権だが、下がりすぎた人民元相場を買い支える原資として保有する米国債を「爆売り」しているなども「やる事なす事」が矛盾しているために、市場の反応は正直であり習近平政権と中国経済が市場の信頼を取り戻すのは難しそうだ。

 中国側の足もとの景況感は不振を極めているが、習氏の訪米直後に英調査会社が公表した中国の景況感を示す9月の製造業購買担当者指数(PMI)速報値は下落している。
 好不況の判断となる指標を7カ月連続で割り込み、6年半ぶりの最低水準に落ち込んでいるのだ。
 国内の不平不満を逸らすために反日運動や南シナ海への軍事行動も大変に不自然な感じがしてならない。
 中国の経済の立て直しには武器輸出が手っ取り早いと考えている節がある。

 さらに今回のチタン会議で会ったロシア人の友人との会話の中では、今やロシアの軍用機の生産量はアメリカを追い抜いたと聞いてこれまた驚いた。

 経済制裁に苦しむロシアであるが原油価格の不振を補うためにも武器輸出や軍用機輸出も必要になってきているとの話題が出ているし、民間航空機でもボーイングやエアバスを遥かに凌ぐ超大型旅客機の製造が始まるとの情報もありこと話題には事欠かない国際会議であった。

 日本でも、武器輸出三原則を転換し、積極的に武器輸出を行うことに方針変換している。
 今や日本のエレクトロニクス産業は軍需技術の塊であるからデバイスだけの輸出より、付加価値の高い武器輸出に転換する流れも避ける事はできないのかもしれない。
 また、日本の防衛産業からすれば、武器関連輸出に注力しないと、中国をはじめとする他国が輸出するだけ、ということだろう。
 軍事的な緊張が起これば起こるほど、日本もこの流れに押し流されていくのかもしれない。

 これまでの全ての侵略戦争は防衛の名のもとに始まっている事を人類の歴史は証明している。
 これまでの国際チタン会議は平和利用のチタンの用途(石油化学、電解設備、建築土木、自動車、民間航空機、医療・民生用途など)の話題が中心であったが、今回の会議は軍需関連用途の話題が聞こえてきたことに危惧を感じている。