2015年9月11日金曜日

チャイナショック(5):中国経済の世界経済への影響、中国はソフトランデイグできるのか、「中国神話」崩壊のもたらすもの

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●日経みんなの経済教室 中国経済~世界経済への影響~ 20150905
2015/09/06 に公開




ロイター 2015年 09月 11日 16:40 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/09/11/focus-china-yuan-idJPKCN0RB0LO20150911?sp=true

焦点:人民元でジレンマに直面する中国

[東京 11日 ロイター] -
 人民元相場をめぐり、中国がジレンマに遭遇している。
★.人民元を買い支えれば国内の流動性を吸い上げ、デフレ経済を一段と悪化させるリスクを高める
★.一方で、人民元安を容認すれば、借金まみれの民間部門の返済負担を重くする。

■<中国経済の診断書と処方せん>

 中国の楼継偉財政相は今月7日、
 「中国は過去に9―10%の成長を達成した。
 しかし、これは持続不可能で、潜在成長率も上回っていたため、過剰生産能力と在庫の大量増加を招いた」
とし、過剰生産能力と在庫の調整には「今後数年を要する」との認識を示した。

 中国が選んだ処方せんは、
★.過剰設備の削減という政治的に困難な「供給圧縮」政策ではなく、
★.財政拡大による国内需要のテコ入れと、
 人民元安による輸出拡大という「需要喚起」政策だ。

 中国は8月11日から3日間で、人民元売買の基準となる対ドル為替レート「基準値」を4.6%余り引き下げた。
 しかし、市場実勢を尊重する政策は、予想以上の人民元安を招き、中国人民銀行(中央銀行)は価格維持のため、連日人民元買い/ドル売り介入を余儀なくされている。

■<人民元買いのコスト>

 8月末の中国の外貨準備高は3兆5573億ドル(約428兆6500億円)で、7月末と比べて939億ドル(約11兆3000億円)減少した。
 月間減少幅は過去最大。

人民銀行は8日、外貨準備高が大幅に減少した要因を「外国為替市場で操作を行ったため」と説明し、元買い/ドル売りの市場介入を認める異例の報道官談話を発表した。
 また、家計や企業の外貨選好が強まったことも、外貨準備の減少につながったと説明した。

 中国国内では、巨額の元買い/ドル売り介入に伴って、人民元の流動性が低下し、金融引き締めと同様の効果が発生している。
 「人民銀行は為替介入を7月の約500億ドルから、8月には1220億ドルに拡大したと考えられる」
とバークレイズ証券・シニア外債ストラテジストの飯田美奈子氏は言う。

 飯田氏は、介入に伴う流動性の引き締まりを打ち消すために実施された公開市場操作(資金供給オペ)5300億元に、預金準備率引き下げによる流動性注入を3カ月間で平準化した規模である2500億元を加え、介入の全体像として見積もった。
 そのうえで、人民元買い/ドル売りが国内流動性に及ぼす影響を相殺するために、人民銀は預金準備率をさらに月間約0.4%ポイント引き下げる必要がある、と飯田氏は言う。

■<元安容認で企業の債務返済負担増>

 供給過剰に苦しむ中国経済の問題を考えれば、金融緩和と人民元のなだらかな下落で輸出の拡大を図るシナリオが最も適した選択肢だ、とグローバル・エコノミストの斎藤満氏は指摘する。
 ただ、
 「人民元の切り下げは、
 近隣窮乏化を招き、デフレを輸出するほか、企業部門が抱える香港ドルや米ドル建ての膨大な債務の返済負担を増やし、企業部門の収益を圧迫する」(同)
と指摘する。

 JPモルガンによると、2007年第4四半期、中国が巨額の財政出動する前の段階で、中国の民間債務は合計4兆3000億ドルだった。
 その後、中国の民間非金融部門の債務は19兆9000億ドルまで急増した。
 中国の債務対GDP比は、111%から188%に急激に上昇した。
 「人民元は対ドルのみならず、対香港ドル等でも下落しているが、
 それらの通貨で資金調達している中国企業にとって、
 人民元の過度の下落は、デット・オーバーハング(借り入れ過剰で収益の大半が金融機関への返済に回る状況)の悪化を招く
と斎藤氏はみている。

 こうした状況を懸念してか、中国の李克強首相は9日、遼寧省大連での世界経済フォーラムで各国の経済人と会い、人民元相場の安定維持を図る決意を示し、
 「元安を通じた輸出刺激は望んでいない」
と断言した。

■<オンショアとオフショア人民元相場のかい離>

 人民元のスポットレートは、8月11日に対ドル基準値の算定方法を変更して以降、基準値に近い水準で推移している。
 9月11日の上海外為市場では、人民元の対ドル基準値が1ドル=6.3719元に設定された。
 前営業日と比べ、0.0053元のドル安/元高。
 人民元の直物相場CNY=CFXSは6.3745元付近。
 中国本土外(主に香港)で流通するオフショア人民元レートはCNH=EBSは6.4020元付近。

 両相場のかい離は、中国が元安見通しを抑制するために、介入のみならず、元売り/外貨買いの為替予約に対する準備金の引き当て義務などを設け、厳しく管理していることにより発生している。
 厳格な為替相場管理について市場では、持続可能ではないとの見方が多く「資本流出に歯止めをかけるためには、オンショア人民元相場の一段の低下が必要」(バークレイズ証券の飯田氏)との声も出ている。

(森佳子 編集:田巻一彦)



サーチナニュース 2015/09/11(金) 17:46
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2015&d=0911&f=business_0911_044.shtml

人民元切り下げの事実こそ、中国経済の現状=香港メディア

 香港メディアの鳳凰網は8日、中国の不安定な株式市場に世界の注目が集まり、中国経済の先行きについても懸念が高まっていると伝え、
 「中国経済がこれまでどのような状況であったかにかかわらず、
 中国が自ら人民元を切り下げたという事実が中国経済の状況を表している
と指摘した。

 さらに、中国人民銀行がこれまでたびたび利下げを行いながらも、景気の刺激につながっていなかったと伝え、
 「それは人民元の米ドルとの交換レートが事実上固定され、
 事実上のドルペッグだったことにより、人民元高によって輸出に大きな圧力となっていたため」
と論じた。

 続けて、中国が人民元を切り下げたことを含め、
 「現在の問題は中国経済の鈍化が世界各国にどれだけの影響をおよぼすのかという点」
と指摘し、英大手銀行のロイヤルバンク・オブ・スコットランドの分析として、
 「中国経済の鈍化は世界に深刻な影響を及ぼし、
 その範囲は先進国、新興国を問わない」
と指摘。

 また、ブラジルやチリ、オーストラリア、ペルー、タイ、マレーシアなどは中国の資源需要の低下に伴い、苦境に直面していると指摘。
 また、ドイツの自動車メーカーやイタリアの高級ファッションブランドも中国市場に大きく依存しているため、中国経済の減速による影響を受けることになると論じた。

 さらに、人民元の切り下げによって新興国の通貨が下落すれば、新興国の企業が発行する外貨建て社債のデフォルト(債務不履行)が増える恐れがあると指摘し、特に人民元が切り下げられた中国の不動産デベロッパーはこうしたリスクを抱えていると論じた。


現代ビジネス 2015年09月13日(日) 真壁 昭夫
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45286

中国経済「神話」の崩壊
〜中間層が育たない限り「チャイナリスク」は終わらない

■神話崩壊

 つい最近まで凄まじい勢いで成長してきた、というよりも、高成長していると見られてきた中国経済はここへ来て馬脚を現し始めている。

 そのきっかけは、7月以降の中国市場の株価急落だ。
 中国の株価急落と景気減速の鮮明化によって、一時的に、世界の主要株式市場が一斉に下落したことによって、
 「中国経済は高成長する」との神話が少しずつ崩れはじめた。
 「中国経済がすぐに破綻に追い込まれる」という極端な悲観論は行き過ぎだろうが、
 中国経済が根源的な問題を抱えていることも疑問の余地はない。
 その意味では、今回の世界同時株安をきっかけとして、中国経済が抱える問題を的確に把握すると同時に、中国の正しい姿を理解することは重要だ。

 もともと、中国経済には構造的に二つの大きな特徴がある。
一つは、個人消費の割合が低いことであり、
もう一つは、輸出と設備投資が経済を牽引するエンジン役を担ってきたことだ。
 2008年のリーマンショック後、世界経済が大きく落ち込んだこともあり、中国の輸出の伸び率が鈍化した。
 それに対して当時の胡錦濤政権は、4兆元(現在の邦貨換算約80兆円)に上る大規模な景気対策を打ち景気を浮揚させた。
 しかし、その景気対策は、結果的に国内の過剰供給能力を一段と拡大することになり、中国経済は大きな過剰供給能力を持つことになった。

 そうした中国経済の体質を変えるためには、個人消費を拡大させて、輸出・設備投資依存型の構造をモデルチェンジすることが必要だ。
 そのためには、金持ちと低所得層の間=中間層を育成することが重要になる。
★.国全体の有効需要を大きく拡大するためには、
 しっかりした購買力を持った中間層を拡大することが重要
なのだ。

■貧富の差はむしろ拡大している?

 現在の中国で、中間層を育成することは容易なことではない。
 共産党一党独裁体制の下で、一部の政府関連機関や国有企業などが経済活動の中心を担っている状況を見ると、経済活動全般の効率化を遅れていることは明らかだ。

 そうした経済システムが生み出す果実を、社会全体に公平に分配する仕組みがワークしていないようだ。
 多くの果実が、共産党幹部や国営や民間の大手企業の経営者の間で分配されており、それが社会の隅々まで行き渡っていない。
 そのため、中国社会の貧富の差はむしろ拡大しているとの指摘もある。
 今後、中国政府は国営企業や金融市場の改革を断行すると同時に、社会保障制度などの改革を進め、国内の中間層を育成し経済構造のモデルチェンジを図ることが必要だ。

 しかし、それは口で言うほど容易なことではない。
 既得権益層からの反対は大きく、それを実現することは容易なことではないだろう。
 だが、それができないと、今回と同じように“チャイナリスク”の顕在化によって、世界の経済・金融に大きなマイナスの影響を及ぼすことは避けられない。
 世界はそうした中国リスクをかなり理解し始めている。

 それは、G20の場で多くの国から、中国の社会保障制度の改革を求める声が上がったことからも明らかだ。



サーチナニュース 2015/09/13(日) 06:02
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2015&d=0913&f=business_0913_002.shtml

中国は日本のように経済発展を継続できるか=中国メディア

 中国メディアの華爾街見聞は7日、中国経済の成長鈍化および株価急落に対し、「多くの投資家は1990年代の日本と比較しようとする」と主張する一方、現在の
 中国経済の異変は「1960年代の日本と同様に短期的に終息する」
と主張した。

 記事は、かつての日本がバブル崩壊に見舞われ、その後の「ハードランディング」によって失われた20年を迎えることになったと指摘し、
 「日本経済は今なおバブル崩壊から立ち直ることができていない」
と論じた。

 さらに、多くの投資家は
 「現在の中国もバブル崩壊に至った日本と同じ道を歩むと考えている」
と伝える一方で、格付け大手のスタンダード&プアーズのポール・シェアード氏の見解として
 「中国経済の現状はむしろ1960年代の日本に似ている」
と主張した。

 続けて、
 「中国経済が1960年代の日本に似ているならば、中国経済および中国株は今後、好転し、さらに発展を遂げることを意味する」
と期待を示す一方で、それには中国政府の継続的な努力が求められると論じた。

 また記事は、1960年代の日本といえば、
 「1964年の東京五輪のために新幹線が建設され、成長を謳歌した時代」
とする一方、日本も1963年に株価が急落し、当局が株式市場に介入し、株価下支えのための日本共同証券を立ち上げたと紹介。
 さらに全米経済研究所の報告を引用し、
 「日本の株価下支えは最終的に成功し、株価は上昇に転じ、日本経済も発展を続けた」
と論じた。

 続けて、中国当局が行っているなりふり構わぬ株価下支え策に対し、「日本もかつては似たような策を行った」と指摘し、むしろ中国は日本の策に倣った可能性もあることを指摘。
 一方で、現在の中国経済が1960年代の日本と異なる点として、
 「中国経済が当時の日本より開放されている点および、労働力がすでに減少に転じている点」
をあげた。



ロイター 2015年 09月 14日 18:16 JST 斉藤洋二ネクスト経済研究所 代表
http://jp.reuters.com/article/2015/09/14/column-yojisaito-idJPKCN0RE04020150914?sp=true

コラム:金融危機「7年周期説」の現実味=斉藤洋二氏

[東京 14日] -
 9月も半ばに至り、先月後半に始まった「通貨の秋」も佳境に入ってきた。
 そもそも、この言葉の語源は、固定相場制度の時代に多角的な通貨調整(リアラインメント)が再三秋に行われたこと、そしてこの時期に照準を合わせたように為替市場で小鬼たちが投機的な動きを活発化してきたことに由来するとされる。
 変動相場制への移行後も、1985年9月22日の「プラザ合意」、そして1992年9月16日のポンド売りに伴う欧州為替相場メカニズム(ERM)からの英国離脱(暗黒の水曜日)など金融市場の混乱は秋に集中してきた。

 このような経験則に加えて今年は夏の終わりから市場が乱高下し、秋には何か一大事が起きるのではないかとの不安心理が高まっている。
 この憂いを除くためにも経験則を学び不安心理の根底にあるものを見つめ直すことは重要な作業ではないだろうか。

■<なぜ秋に異変は集中するのか>

 秋に混沌が発生する背景としてこれまで様々な理由が語られてきたが、中でも説得力があるのは、
 「昼の時間が短くなり人間が心理的に鬱(うつ)傾向を強め、その結果が市場を変動させる」
との説明だろうか。
 続いてカリブ海で発生するハリケーンと秋の混沌の関係だ。
 この時期は夏枯れていた市場に活気が戻り、それまで市場が無視していた数々の出来事が見直される結果、カリブ海で発生するハリケーンに呼応して暴力的な反動が出るとの説もある。

 このように秋に金融危機が集中発生すると言ったアノマリー、つまり市場には論理を超えた現象が存在することは枚挙にいとまがない。
 また、多くの学者が指摘するように、ヒトは合理的経済人(ホモ・エコノミクス)とは程遠く、ともすれば付和雷同することから、ヒトの心を映した市場は複雑で不思議な存在であるのも当然と言えよう。

 最近30年を振り返っても7年周期で金融危機が秋に起きている点は見逃せない。
 1987年10月のブラックマンデーでは1日でニューヨーク株式市場(ダウ工業株30種平均)は約22%(500ドル超)と史上最大の値下がり率となった。
 さらに1994年に米利上げ局面で発生したメキシコ通貨危機(テキーラショック)は中南米諸国に伝播し、その流れの中で、100円超で推移していたドル円相場は95年4月に79円台へと下落した。
 また、2001年9月の米同時多発攻撃発生時にはターゲットとされたニューヨークの金融市場への不安が増幅してドル安が発生し、そして2008年9月のリーマンショックと続く。
 この7年周期説に従えば2015年秋はやはり要注意と言わねばならないだろう。

 7年周期で金融危機が発生することは偶然か必然か判然としないが、経済・金融・投資を取り巻く環境も7年を経過すれば大きく変化する。
 7年は新局面への大転換、つまりパラダイムシフトが準備され顕現化するのに必要かつ十分な期間と考えてもよいのかもしれない。

■<中国以外もパラダイムシフトへ>

 リーマンショックからすでに7年。この間、未曽有の世界不況から脱するために、中国は4兆元投資を行い、30年にわたる高度成長の最後のアクセルを踏み込んだ。
 その結果、中国経済は息切れ感を強めており、すでに投資・輸出を主体とした高度成長の旗を降ろし、消費主体の持続的な中成長を目指す「新常態」へと舵を切っている。
 このように中国ではすでにパラダイムシフトが始まっており、同時に環境汚染や格差拡大など様々な矛盾が露呈しつつある。
 その矛盾の象徴が株価のバブル崩壊であり経済の失速懸念と見るのが妥当ではないだろうか。

 一方、リーマンショック後の先進国に目を転じれば、米連邦準備理事会(FRB)が3度の量的緩和策(QE)を実施し、そしてイングランド銀行、日銀、欧州中央銀行がこれに追随した。
 各国中銀は大量に国債を購入してはバランスシートを拡大させ財務内容を悪化させている。
 このQEからの転換、つまり出口戦略への局面転換はまさに世界経済の大きなパラダイムシフトとなるだろう。

 これまで緩和マネー急増のおかげで、米国株価が史上最高値水準になるなど世界の株価は急上昇した。
 一方、債券市場でも世界各国の長期金利(10年物国債利回り)は日本0.3―0.4%、ドイツ0.6―0.7%、そして米国もスペインやポルトガルとともに2%水準となっている。

 さらにドイツにおいて(日本でも一時)中期債がマイナス金利になるなど現在の低金利は過去の金融史でも観察されたことのない極限状態に至っている。
 したがって、このような異常な金利体系を有するパラダイムが持続すると考えることは困難である。

■<安倍トレードの大転換が起こるか>

 それにしても夏の終わりに市場を襲った不安心理の高まりは、この秋の波乱の予兆ではないか。
 ニューヨークの株式市場では恐怖指数が一時50台に達していたが、現状では20―30前後へと下がり、市場センチメントも落ち着きを取り戻しつつある。
 とはいえ、中国バブル崩壊への市場の疑心暗鬼は収まったわけではない。

 ドル円相場の動きは総じてスローであり、120円の高みから115円水準を見れば平時にあってははるかに遠い。
 しかし、ドル高期待で積み上がった円売りポジションに何らかのショックが加わり不安心理が限界値を超えた状況となれば、わずか1日で到達する距離だということは先日の乱高下が教えてくれるところとなった。

 30年にわたった中国高度成長の転換が進み、そして先進国中央銀行の出口戦略によるパラダイムシフトも視野に入った。
 事ここに至っては、9月16―17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)における利上げの結果を問わず、今こそ「安倍トレード」で50%以上も円安へと動いた相場の大調整が今年秋に起きる可能性には十分に注意せねばならないだろう。

 最後に米利上げ問題について言い添えれば、そのタイミングについて市場の憶測は様々だが、FRBのデュアルマンデートである「雇用の最大化」と「物価の安定」の評価が注目される。
 特に雇用環境については8月統計において失業率5.1%、非農業部門雇用者数の前月比も年初より平均すれば20万人増を超えるなど量的指標は改善している。
 一方で、時間当たり賃金は伸び悩み、失業期間は上昇、長期失業者数の割合も増加し、パートタイム比率も横ばいとなるなど質的改善は十分とは言い難い。

 また、目下目標2%とされるインフレ率について、個人消費支出(PCE)価格指数で見れば、直近7月は前年比プラス0.3%、食品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数でもプラス1.2%と目標からかい離しており、原油・ガソリン価格安とドル高の影響は依然、米利上げの足かせとなっている点は否めない。

 さらに8月後半に世界連鎖株安に肝を冷やしたばかりでもあることを勘案すれば、9月の利上げをひとまず見送り、市場との対話を延長することになる可能性が高いのではないだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。



サーチナニュース 2015-09-16 11:21
http://news.searchina.net/id/1588922?page=1

「中国崩壊論」に根拠なし
・・・根も葉もなき悪意ある主張=中国メディア

 中国共産党機関紙の人民日報は12日、中国は世界第2位の経済大国となり、その一挙手一投足が世界の注目を集めるようになったと伝える一方、中国が抱える問題を「悪意をもって」誇張する人びとも存在すると主張した。

 記事は、中国経済は改革開放以降、世界に与える影響が拡大し続けているとし、一部では世界に与える影響力の大きさでは米国すら凌ぐほどになったとの意見もあると主張した。
 続けて、中国経済は世界から認められるほどの成長を遂げたとしつつも、
★.これまで蓄積してきた問題が顕在化していることは事実とし、
★.今後5年は「痛みを伴う構造改革が行われ、経済成長も鈍化する」見通しである
ことを伝えた。

 一方で、中国が人民元を切り下げたことなどについて、「中国経済の鈍化によって世界経済も衰退する」などと中国の問題を誇張し、悪意をもって中国経済を貶める主張も多く見られると批判。
 さらに、中国崩壊論などの存在についても批判したうえで、
★.中国の輸出や投資、工業生産などが減速していることは
 「あくまでも周期的なもの」であり、中国経済は今なお安定した成長を続けている
と反論した。

 さらに記事は、中国商務部国際貿易経済合作研究院の梅新育研究員の話として、中国経済の潜在的な成長力は米国をはじめとする国々より大きいとし、中長期的に見ても
 「中国のビジネス環境や競争力はほかの新興国より優れている」
と主張した。

 また、中国の経済構造の転換は段階的に進められているとし、これまで経済をけん引してきた製造業や投資の影響力は徐々に減退する一方、第三次産業や消費が存在感を示し始めていると指摘。
 また、李克強首相の発言を引用し、「中国は世界経済のリスクの根源ではなく、むしろ成長の原動力である」と主張、一部の中国崩壊論は根も葉もない噂であり、根拠のない主張であると反論した



Bloomberg 2015/9/16 12:38
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20150916-00000061-bloom_st-nb

中国指導部、危険な道を手探りで進む
-人民元と資本勘定の自由化

    (ブルームバーグ):中国の習近平国家主席は今月3日の「抗日戦争勝利70年」の軍事パレードで最新の戦闘機やミサイルなどを披露し、軍事力を顕示した。
 中国は同様に、経済の分野でも人民元が強大な力を誇示する日の来ることを望んでいる。

 10月に開催される共産党第18期中央委員会第5回総会(5中総会)以降に発表される習主席の次期5カ年計画は、中国の一段の発展に向けた道筋を示す見通し。
 この中心となるのが、人民元を貿易や投資に用いる通貨としてドルとユーロ、ポンド、円に並ぶ存在にすることと、資本勘定の緩やかな自由化だ。

 中国の中信証券(CITIC証券)傘下で香港に拠点を置くCLSAの中国戦略責任者、フランシス・チョン氏は
 「中国は成熟した市場を有する富裕国を目指して突き進んでいる」
と述べ、
 「資本勘定が閉じられた状態ではそれは無理だ」
と指摘した。

 中国指導部が直面している課題は、同国を出入りする資金フローの規制を緩める中で優先順位を間違えないことだ。
 拙速に動けば資金が大量に流出し、国内の金融システムと経済が不安定化し得る。
 かといって慎重になり過ぎれば、中国は債務や投資、輸出主導型の成長から、より持続的で消費主導型経済へのリバランスを目指す中で、世界的な資本フローの恩恵を十分得られない可能性がある。

 李克強首相は9日、大連での夏季ダボス会議で内外の当局者らと会談し、中国政府は人民元の「完全な交換性を徐々に実現するだろう」と発言。
 ただ、そのプロセスは「中国の経済発展の現実に適合する必要があり、時間を要する」と説明した。

 HSBCホールディングスのアジア経済調査共同責任者、フレデリック・ニューマン氏(香港在勤)は人民元相場が自由に変動するようになるのは恐らく3-5年先だと指摘。
 「非常に緩やかなペースで、手探りで進むことになろう。
 中国にとっては油断できない状況だが、同国はより市場本位の金融システムを実現する覚悟がある」
と述べた。

 中国の景気減速も改革路線を複雑にしている。
 資本勘定が自由化されない中でも資金は国外へ漏れ出ており、JPモルガン・チェースの中国担当チーフエコノミスト、朱海斌氏によれば、
 過去4四半期の純資金流出は外貨準備評価額の変化調整後ベースで4500億ドル(約54兆円)に達する。



現代ビジネス  2015年09月17日(木) 安達 誠司
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/45336

中国経済がこれまでの成長路線に戻ることはない
「中国ショック」の鎮静化には何が必要か?

■中国当局の政策に大きな問題がある

  「中国ショック」が内外株式市場の波乱要因となって久しいが、鎮静化の兆しは一向に見えない。
 株式市場では、中国経済の減速を示す経済指標が発表されれば、株価が大きく調整し、中国当局による政策発動期待が高まると、大きく反転する、という状況を繰り返しており、株価の乱高下はおさまる気配がない。

 特に、いわゆる中国関連銘柄や商社、鉱業といった資源関連銘柄のボラティリティ(価格変動率)の高さが目立つ。
 このボラティリティの高さを考えると、「中国経済の減速は株価に織り込まれつつある」という見方は現時点では適切ではないと考える。

 中国経済は、賃金上昇によって従来の「薄利多売」型の成長モデルが維持不可能となっており、産業構造の転換を含む「構造調整」の局面に入っていると考えられる(いわゆる「ルイスの転換点」)。
 これ自体は、1970年代半ばから80年代代前半にかけて、日本経済が歩んできた道でもあり、中長期的にみれば、必ずしも悲観すべき事態ではない。

 だが、現在の中国当局の政策には大きな問題点があり、この問題の解決にはもうしばらく時間がかかるのではなかろうか。
 8月25日に中国人民銀行(中国の中央銀行にあたる)は、政策金利である銀行の貸出、及び預金の基準金利を0.25%引き下げると同時に、預金準備率を0.5%引き下げた。
 利下げは約2ヵ月振りだが、昨年11月以降で5回目となる。
 預金準備率引き下げは4月以来、約4ヵ月振りである。

■市場の短期金利が上昇している理由

 中国経済は、株式市場の大幅な調整に加え、実体経済でも減速が続いている。
 そのため、金融緩和は、オーソドックスな景気対策としての意味合いが強いと思われる。
 しかも、前述のように、利下げは昨年11月以降、5回目だから、中国はすでに本格的な利下げサイクルに入っていると考えられる。

 だが、この利下げが効果を上げ、景気回復につながるかといえば、それは甚だ疑問である。
 例えば、上海の国際金融市場におけるインターバンク金利(Shibor、シャイボー)の翌日物金利は、9月14日時点で約1.90%で推移している。

 Shiborとは、日本でいえば、円Libor、もしくは、Tiborの翌日物金利に相当するが、これは、日本でいえば、政策金利である無担保コール翌日物金利とほぼ同水準(すなわちゼロ近傍)で推移するはずのものであるが、中国では両者の間に大きな隔たりがある
 (ただし、中国の政策金利である基準貸出金利は1年物で、その水準は1.75%である。
 一方、Shiborの1年物金利は3.41%であり、1年物金利でも両者の間には大きな隔たりがある)。
 さらに、このShibor翌日物金利の動きをみると、今年の6月1日に1.03%の最低値をつけた後、その後、本格的に上昇基調に転じ、直近では1.9%近くまで上昇している。
 すなわち、これは、中国の短期金融市場では、6月以降の約3ヵ月間で1%弱の利上げに相当する資金の逼迫が発生しているということを意味する。

 この資金逼迫の主な原因は、人民元レートの買い支えにあると考えられる。

 確かに中国当局は、8月に入ってから断続的に人民元レートを切り下げている。
 7月までの人民元の対ドルレートは1ドル=約6.20元で推移していたが、断続的な人民元切り下げで1ドル=6.41元近辺まで低下した。
 だが、その後、人民元は増価し、1ドル=6.37元近傍で推移している。
 このような人民元の下落傾向が続く中、政策当局は、逆に人民元買い・ドル売り介入を実施している模様だ。

 人民元買い・ドル売りの為替介入の場合、中国の政策当局は、ドルで運用している外貨準備を取り崩し(これは米国債の売りを意味する)、市場から人民元を購入することになる。
 そのため、中国の外貨準備は減少が続いている。

 すなわち、これは、中国当局が、人民元買い介入のための資金調達のため、短期金融市場から事実上、資金を吸収していることを意味する。
 その結果、中国の短期金融市場は資金逼迫を起こし、市場の短期金利が上昇していると推測される。

■場合によっては完全変動相場制への移行が必要

 人民元の切り下げが実施された当初、市場では、中国当局が、人民元レートを減価させ、輸出増を通じて、国内の過剰在庫を一掃させようとしているのではないかと考えていたようだが、それが事実であれば、人民元の買い介入をするはずはない。

 また、中国人民銀行が金融緩和を実施したところで、人民元レートの減価を許容しないような政策スタンスを採り続け、為替市場で人民元の買い介入を実施し続けるのであれば、金融緩和の効果は大きく損なわれる。
 最近の中国の通貨政策は不可解極まる。

 このように、為替市場での人民元の買い支えが、中国の金融緩和を阻害し、ひいては、中国の株式市場が不安定性を払拭できない大きな理由であると考えられる。

 それでは、何故、中国の通貨当局は、人民元の買い介入を行っているのだろうか。
 その理由は定かではないが、2つの理由が考えられる。

1].第一の理由は、人民元の下落が、富裕層にとって、将来にわたる人民元の趨勢的な下落を予想させたとすれば、それが、
 資金の対外逃避を加速させかねないという点
である。
 さらに、富裕層の多くが、中国株の大幅下落によって資産を大きく減少させたとすれば、資産防衛のため、中国国内の資産を海外資産へ振り返えようと考えてもおかしくはない。

 この流れに少しでも歯止めをかけようとすれば、人民元の減価はそれほど続かないと投資家層に思わせる必要があろう(これは、中国投資を増やしてきた海外投資家も同様であろう)。

2].第二の理由は米国への配慮である。
 中国が、通貨安を利用して、国内過剰在庫をダンピング輸出させた場合、米国からの経済制裁を含む厳しい措置が打ち出される可能性がある。
 中国は、米国財務省の「為替報告書」で、為替レートの人為的な操作を度々指摘され、批判されてきた。
 そこで米国政策当局を刺激したくないとの考えが働いた可能性がある。

 以上より、中国経済が不安定な状況から抜け出すためには、さらなる金融緩和が必要であり、金融緩和が有効に機能するためには、さらなる人民元の切り下げ、場合によっては完全変動相場制への移行が必要であると考える。
 そして、その時に有効な金融緩和が実施されているか否かは、Shibor(上海インターバンク金利)翌日物金利の低下度合いによって判断できると考えられる。

 例えば、Shibor翌日物金利が1%を大きく割り込むような状況になれば、金融緩和がようやく実現し始めたと考えてよいのかもしれない。
 よって、今後もShibor翌日物金利の動きに注意しておく必要がある。

■中国経済がこれまでの成長路線に戻ることはない

 最後に、財政出動についてだが、筆者は、現在の中国経済では有効に機能しないどころか、無駄に終わる可能性が高いと考える。
 これには理由が2つ存在する。

1].第一の理由だが、現在の通貨政策・金融政策を維持したまま、財政出動を行った場合、金融機関のさらなる資金逼迫により、短期金利がさらに上昇、財政出動の効果を削減してしまう可能性が高い(いわゆる「クラウディングアウト」)。

 現在の中国の経済政策の問題点は、需要不足による景気悪化というよりも、人民元レートを一定レベルに維持するために、金融逼迫を許容している点にあると考えているためだ。

2].第二の理由は、現在の中国経済の「構造問題」を財政出動が解決するとは思えないことである。

 中国では、いわゆる沿岸の「経済特区」以外には未開発の地域(特に内陸部)が多く存在するため、それを対象に、大規模公共投資を実施すれば、さらなる成長の余地があると考えられがちであるが、
★.内陸部への投資は、将来の経済の生産性上昇につながらない
と考える。

 これは、70年代半ばに日本で、「日本列島改造論」なる発想で、地方開発が公共投資主導で行われたが、結局、低成長への移行は回避できなかったことと同じである。

 よって、今後、中国の政策当局が財政出動を行うということを、内外株式市場が好感して株価を押し上げたとしても、それは一時的な話である。
 中国経済がこれまでの成長路線に戻ることはありえない。

 結局、中国経済の動向は、政策当局が、人民元をさらに切り下げることができるか否かにかかっているといえよう。





●中国経済はソフトランディングできるのか
2015/08/28 に公開
出演者:
内田和人(三菱東京UFJ銀行執行役員)
早川英男(元日本銀行理事、富士通総研エグゼクティブ・フェロー)