2015年9月25日金曜日

フォルクスワーゲン(VW)事件(3):自動車業界史上、最大のスキャンダル、最大180億ドル(約2兆円)の罰金

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ロイター  2015年 09月 24日 13:37 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/09/24/auto-vw-germany-damage-idJPKCN0RO09Q20150924?sp=true

アングル:VW問題、ドイツ経済にギリシャ危機以上の打撃



[ベルリン 23日 ロイター] -
 独フォルクスワーゲン(VW)(VOWG_p.DE)の米排ガス規制逃れはドイツの産業界や政界を揺るがしており、アナリストの間からは欧州随一のドイツ経済にとって最大の脅威になりかねないと危惧する声も出ている。

 VWはドイツ最大の自動車メーカー。
 雇用も最大級で国内の雇用者数は27万人を超え、部品納入業者も加えればさらに膨らむ。
 しかし米当局の排ガス規制試験での不正が明らかになって23日にはウィンターコーン最高経営責任者(CEO)が辞任に追い込まれたことから、アナリストはドイツ経済への影響を推し量り始めた。

 INGのチーフエコノミストのカルステン・ブルゼスキ氏は
 「突如としてVWはドイツ経済にとってギリシャ債務危機を凌ぐ下振れリスクになった」
と指摘。
 「VWの北米での売上高が今後数カ月で落ち込めば、その影響はVWだけにとどまらずドイツ経済全体に及ぶだろう」
とした。

 VWの昨年の米国での販売台数は約60万台で、全世界の販売台数(950万台)の約6%に相当する。


●VWの世界販売台数推移



●EU地域での販売台数

 米環境保護局(EPA)はVWに最大180億ドルの罰金を科すとしている。
 これは同社の昨年の営業利益を上回る。

 VWの手持ちのキャッシュは210億ユーロ(240億ドル)に上り、罰金を支払って余りあるが、それでも今回のスキャンダルで大量人員削減の不安が高まっている。

 ドイツ政府にとって大きな懸念はダイムラーやBMW など他の国内大手への影響の波及。
 ただ今のところ両社の不正を示す材料は出ていない。

 ドイツ経済省の報道官は自動車業界について
 「ドイツにとって極めて革新的で成功を収めた産業だ」
と述べた。
 しかしアナリストは、こうした自動車産業への依存体質こそがドイツの経済見通しを脅かしかねないと指摘する。

 ドイツ経済研究所(DIW)のマルティン・ゴルニク氏は
 「自動車の販売が落ち込めば部品納入業者も打撃を受け、その影響は経済全体に及ぶだろう」
とした。

 昨年のドイツの自動車産業全体の労働者数は77万5000人で、全労働者数の2%に近い。

 さらに自動車・自動車部品セクターはドイツにとって最も優良な輸出産業だ。
 昨年の輸出は2000億ユーロ(2250億ドル)と、全輸出の約5分の1を占める

 IW経済研究所のミヒャエル・ホイサー所長は
 「今回のスキャンダルを軽視できないのはこのためだ。
 ドイツ経済の核を直撃した」
という。

■<「メード・イン・ジャーマニー」に傷>

 一方で今回の問題の経済全体への影響を過度に見積るべきではないとの見方もある。
 コメルツ銀行のチーフエコノミストのイェルク・クレメル氏は
 「ドイツの自動車産業全体が道連れになることはない。
 企業1社のせいで景気後退に陥ることはありえない」
と話す。

 ドイツ卸売り・貿易業界連合会(BGA)も
 「メード・イン・ジャーマニーの表示に全般的な疑念が生じているわけではない」(マネジングディレクターのアンドレ・シュワルツ氏)
と事態の鎮静化に躍起だ。

 しかしそのシュワルツ氏もドイツ企業の間に今回のスキャンダルが連鎖反応を起こし、メード・イン・ジャーマニーの表示が傷つくのではないかとの懸念がある程度あることは認めている。

 INGのブルゼスキ氏はユーロ債務危機や中国経済の減速など外部からの危機をものともしなかったドイツ経済が国内要因に脅かされるとは「皮肉なことだ」と述べた。



ニューズウイーク 2015年9月24日(木)18時03分 コナー・ギャフィー
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/09/post-3934.php

「大惨事!」
VWまさかの愚行に悲鳴を上げる独メディア
排ガス規制逃れの不正で、
VWだけでなく独自動車産業全体に影響が及びかねない


 自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題で、ドイツの自動車産業の信頼性は大きく揺らいでいる。
 1社の不祥事にとどまらず、ドイツの経済全体に影響が及ぶ事態に、メディアは一斉に警鐘を鳴らしている。

 VWは22日、「クリーンで燃費がよい」とディーゼルエンジン車をアメリカ市場に売り込むため、不正ソフトを使っていたことを認めた。
 検査時には浄化装置が作動して米環境保護局(EPA)の排出ガス基準をクリアでき、実際の走行中にはこの装置が無効化されて排ガスをまき散らし、その代わりエンジンはフルパワーで稼働する仕組みになっていた。

■VW問題車による大気汚染は英産業に匹敵

 このソフトが搭載されたVW車の販売台数はざっと「1100万台」達するとみられる。
 VWは信頼回復のためのサービスなどに必要な経費として、今年第3四半期に65億ユーロ(73億ドル)の引当金を計上することを併せて発表した。

 ドイツのジグマル・ガブリエル経済相は、このスキャンダルで「ドイツの自動車産業は優れているという評価」が揺らぎかねないと懸念を表明した。

 世界中に販売されたVWのディーゼルエンジン車は年間ほぼ100万トンもの大気汚染物質を放出している可能性がある。
 英紙ガーディアンの推定によると、この量はイギリスのすべての発電所、工場、農地、自動車から排出される汚染物質の総量にほぼ匹敵するという。

 VWの不祥事は「ドイツの自動車産業全体にとって破滅的な大惨事」だと、ドイツの経済紙ハンデルスブラットは嘆く。
 同紙は21日の論説で、高い品質と信頼性を誇っていたドイツの自動車メーカーが軒並み痛手を受けるおそれがあると警告を発した。

 2015年上半期の新車販売台数でトヨタを抜いて世界一になるとみられていたVW。
 成功の絶頂から奈落の底に突き落とされた転落劇は「考え得る最悪のシナリオ」だと、ARD(ドイツ公共放送連盟)は伝えた。

■自動車産業史で最も高くついた愚行

 VWの株価は21日に18.6、22日に19.8%急落し、23日にも8%下落した。
 ドイツの大衆紙ウェルトはVWが被る莫大な損失に鑑みて、不正ソフト搭載を「自動車産業の歴史で最も高くついた愚行」と断じた。

 VWのマルティン・ウィンターコルン会長兼CEOは23日午後の監査役会に先立ち、「限りなく深くお詫びする」との声明を発表。
 退陣圧力に頑なに抵抗する構えを見せていたが、監査役会は23日ウィンターコルンの引責辞任を発表した。

 任期延長で18年まで総帥の座に居座るつもりだったウィンターコルンだが、南ドイツ新聞は22日の論説でトップ自らが責任を取らなければ、信頼回復は望めないと主張。
 ドイツの有力タブロイド紙ビルトに掲載された公開書簡で、VW労使協議会のベルント・オスターロー代表は、
 「われわれは万難を排して......この問題に迅速に対処し、人事面でも必要な措置を取る。
 処分の対象は平社員に限らない」
と述べていた。



ロイター 2015年 09月 25日 19:58 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/09/25/analysis-vw-confession-idJPKCN0RP0YU20150925?sp=true

焦点:独VWの不正告白、当局と繰り広げた長期攻防の舞台裏

[ワシントン/デトロイト 24日 ロイター] -
  自動車業界史上、最大のスキャンダルの1つに身を置くことになった独フォルクスワーゲン(VW)(VOWG.DE)。
 世界最大の販売台数を誇る自動車メーカーが排ガス規制を不正に回避したと告白したのは、奇しくも米カリフォルニア州での低公害輸送に関する会議の直前だった。

 1年以上も調査官をかわした末、VWは米環境保護局(EPA)とカリフォルニア州当局の幹部2人に不正を認めた。

 それは、経緯に詳しい人物2人によれば8月21日の出来事で、VWは事件が公になるほぼ1カ月前に規制当局の圧力に屈していたことになる。
 それまでの約1年間、VWは自社のディーゼル車が一般道路での走行時に排気ガス中の有害物質の水準が急上昇するのはエラーだと主張し続けた。

 米当局は9月18日に問題を公表。試験走行時に排ガス規制に適合するようにモードを切り替えるソフトウエアが、世界中で販売された自社製ディーゼル車の約1100万台に搭載されていたことをVWは認めた。
 実際に問題が発覚してから米規制当局がそれを公にするまでに1カ月程度かかったのは、当局が対応の準備に時間を要したからだ。

 EPAはVWに対し、最大180億ドル(約2.17兆円)の罰金を科すとしている。
 同社はまた、集団訴訟などでさらに何十億ドルもの費用がかかる可能性もある上、刑事捜査にも直面。
 ウィンターコルン最高経営責任者(CEO)が引責辞任し、経営陣は混乱した状態にある。
 関係筋によると、米国法人の社長を含む複数の幹部も処分される。

 一貫して否定し続けるというVWの姿勢に直面しながら、調査官は同社の体系的な不正をどのように暴いていったのか──。
 今後同社に科されるであろう制裁や、より厳しい調査を受けることになる自動車業界にとって、現在に至るまでの経緯はさまざまな意味合いを持つかもしれない。
 非協力的な同社の態度は、米政府による罰則措置に影響を与える可能性もある。

 規制当局者たちは当初、VWが不正行為について冒頭の会議場で認めたことに驚いたという。
 EPA交通・大気汚染管理局のクリストファー・グランドラー局長は会議でスピーチをする数分前、VWの代表者から不正について聞かされた。
 事情に詳しい複数の関係筋によれば、カリフォルニア州大気資源局(CARB)の参加者らも口頭で伝えられたという。

 この経緯について、VWはロイターに対しコメントを差し控えた。

 2009年までVW米国法人で環境対策の責任者を務め、2011年に退職したノルベルト・クラウス氏は、米国法人でディーゼル車の開発に関わった人は1人もいないとし、「ソフトウエアの変更について何も知らない」とロイターの電話取材に答えた。

■<1年以上の疑惑に終止符>

 正式にVWが不正を認めたのは9月3日、同社幹部とEPA、カリフォルニア州当局者らとの電話会議でのことだった。

 それ以前に、VWとアウディが来年発売予定のディーゼル車の承認を保留するとEPAが警告していたことが、同社米国法人のエンジニアリングと環境対策の責任者であるスチュワート・ジョンソン氏と同社の弁護士に送った書簡で明らかになった。
 書簡にはEPAの行動スケジュールの一部が詳細に記述されていた。

 このようにしてVWと米当局側との15カ月間に及ぶやり取りは終止符が打たれたと、複数の関係筋は明かす。
 EPAなど米規制当局側は、VWのディーゼル車が通常走行中に基準を超える有害物質の窒素酸化物(NOX)を排出していると疑うようになっていた。

 VWは2008年、いわゆる「クリーンディーゼル」エンジン搭載の「ジェッタTDI」(2009年モデル)を大々的に宣伝した。
 2008年に開催されたロサンゼルス自動車ショーでは「グリーンカー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたそのエンジンは、ディーゼル乗用車が全体の半数を占める欧州と比べ、僅かなシェアしかない米国販売を拡大する突破口と見られた。

■<祖父のディーゼル車>

 クラウス氏は2008年当時、米規制当局へのプレゼンテーションで「これは祖父のディーゼル車とは違う」と語っていた。
 同氏らVW側はカリフォルニア州を含むすべての州の汚染基準に適合すると主張していた。

 その約10年前から、VWやマツダなど他の自動車メーカーは業界団体「ディーゼル・テクノロジー・フォーラム」を設立し、ディーゼル車に対する規制緩和を求めロビー活動を行っていた。
 2005年にはディーゼル車に対する税控除も実施された。
 2009年にVWのジェッタが発売されると、米国の販売代理店では完売が相次いだ。

 一方ほぼ同時期に、欧州の規制当局は各社が主張するディーゼル車の排ガス水準に懐疑的になっていた。
 2013年に発表された欧州委員会(EC)の調査は、欧州の自動車メーカーが試験の抜け穴を利用していると結論付けた。
 ECの別の調査結果でも、欧州メーカーが販売するディーゼル車は試験走行と一般走行で結果に相違があることが示された。

 CARBのスタンリー・ヤング氏によると、EC規制当局が米国での路上走行時のデータを求めているのを受け、カリフォルニア州は調査を開始したという。

 データ作成は2013年2月、輸送車両の環境適合性などを調査する非営利団体の国際クリーン交通委員会(ICCT)に委託され、ウエストバージニア大学(WVU)の研究者たちが行った。

 WVUの研究チームによると、2013年春に7週間にわたってVWのジェッタ(2012年モデル)と同パサート(2013年モデル)を、ディーゼルエンジン搭載のBMWのX5と一般道で比較走行した。
 その結果、BMW車の排ガス水準は試験走行時の範囲内に収まっていたが、ジェッタは法定基準の15─35倍、パサートは10─20倍も上回っていた。

 その後間もなくしてWVUがテストした同じ2台を、CARBの施設で試験走行したところ、排ガス基準内に収まる結果となった。

 それから1年間かけてWVUの研究チームはデータを分析。
 その結果をカリフォルニア州サンディエゴで昨年3月31日に開催された会議で発表した。

■<警戒強めた米当局>

 この調査結果について
 「米国とカリフォルニア州にとって明らかに問題だと、幹部たちは警戒を強めた」
とCARBのヤング氏は話す。

 ヤング氏によると、昨夏に始まったカリフォルニア州当局者らとVWとの話し合いで、VWのエンジニアは調査データとその手法に異議を唱え、結果の信ぴょう性を損なおうとしたという。
 「断固反対する態度だった」と同氏は振り返る。

 EPAによると、VWは昨年12月2日に独自の調査結果を持ち出し、基準を超えていたのは「さまざまな技術的問題と予期せぬ走行中のコンディション」のせいだと主張した。
 その後、VWはエンジン制御ソフトを修正するためのリコール(回収・無償修理)に同意した。

 CARBのエンジニアたちはテストを続け、VWによるソフト修正でも排ガスが大きく減少しないことを明らかにした。
 事態の打開につながったのは、車のコンピューターシステムに保存されていた診断データを調べたときだった。

 ヤング氏は「いくつか非常に不思議な異常を発見した」と言う。

 「例えば、通常とは逆に、車は温まった状態よりも冷えた状態での方がクリーンに作動していた。
 普通は温まったときに汚染制御システムも最善に働く。
 だが、この車は違った。
 明らかに何か違うことが起きていた。
 われわれは時間をかけて、彼らが合理的な説明ができないほどに十分な証拠と疑問を集めた」
と同氏は説明する。

 CARBは今年7月8日、その結果をVWに提示したが、同社の立場に変わりは見られなかった。
 一部の当局者は、VWが試験走行時に排ガス規制モードに切り替わる「無効化機能(defeat device)」ソフトを自社の車に搭載して意図的に法を犯しているのではないかとひそかに疑問に思っていたと、関係者の1人は明らかにした。

 同ソフトは通常走行時には排ガス低減装置を無効化し、有害物質を基準値の最大40倍排出する。

 「こんなふうにだまして逃げ切れると思うなんて、想像をはるかに超えている」
と、1999年から2004年までCARBを率いたアラン・ロイド氏は驚きを隠せない様子で語った。

(原文:Timothy Gardner、Paul Lienert、David Morgan、翻訳:伊藤典子、編集:下郡美紀)



ロイター 2015年 09月 29日 19:18 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/09/29/column-vw-us-enforcers-idJPKCN0RT0XL20150929?sp=true

[ニューヨーク 28日 ロイターBREAKINGVIEWS] -
 独フォルクスワーゲン(VW)(VOWG_p.DE)は、排ガス規制逃れで市場の選択を誤ったようだ。
 米国では、外国企業は国内企業と比べてより多額の罰金や重い罪が課せられる。

 それぞれの事情に応じて違いが生まれたのかもしれないが、米検察の不公平な判断は、VWの不正と同じくらい精密な調査を必要とするかもしれない。

 VWは言うもまでもなく、痛みを伴う報いを受けるべきだ。
 試験走行時に排ガス規制に適合するようにモードを切り替えるソフトウエアを自社製ディーゼル車の約1100万台に搭載し、不正を働いていたことは司法判断がどうであろうと重大な罪だ。

 とはいえ、VWや他の外国企業が米国に注意を払うべき理由がいくつかある。
 バージニア大学ロースクールの調査によると、
 2001─12年における刑事上の罰金額は、外国企業の方が米国企業よりも7倍以上高かった。
 同調査では、米企業の大半が起訴猶予合意(DPA)などで解決する一方、外国企業の約8割は有罪判決を受けるか、もしくは有罪を認めていた。

 企業刑事事件での罰金で米国史上最高額は、米制裁対象国との違法取引で昨年に
 仏銀大手BNPパリバ(BNPP.PA)に科せられた89億ドル(約1兆円)だ。

 外国企業の場合、当初、法を破ったとの自覚がないために、結果的に重い罰金を払う結果になる可能性もあるだろう。
 また、責任を問われることはないと考えているのかもしれない。

 海外での証拠集めはより困難かつ費用もかかり、自国での影響力が米司法当局の捜査の手を遠ざけることもあるだろう。
 英軍需大手BAEシステムズ(BAES.L)は「公益を大きく損なう」として英当局を説得し、贈賄罪で起訴されるのを何年もかわしてきた。

 実際のところ、このような障害によって大企業による最も悪質な不正のみを追求する結果へとつながっている可能性がある。
 それが米国企業と外国企業の処遇における差の主な原因と言えるだろう。

 外国企業は米国企業が持っているような内部情報やロビー活動能力に欠けていることもしばしばある。
 タイミングよく「遺憾の意」を示す術も持ち合わせていない。
 米国の検察官は欧州の検察官と比べて大きな裁量権を持つ。

 ゴールドマン・サックス(GS.N)やシティグループ(C.N)は、早い段階での協力と迅速な謝罪が、費用のかかる訴訟を防ぐ定石であると学んだ。
 ゼネラル・モーターズ(GM)(GM.N)も同様なやり方で、死亡事故につながったエンジン点火スイッチの不具合を放置していた問題で刑事訴追を免れ、比較的穏当な9億ドルの制裁金で和解に持ち込めたのだろう。
 これは、大規模リコールにつながった意図せぬ急加速で死亡事故が起きた問題でトヨタが米司法省に支払った額よりも3億ドル少ない。

 VWはこうしたことに気づいていたように思える。
 同社は明らかに、米規制当局が追及するまでは本心を隠していた。
 先週に引責辞任したウィンターコルン前最高経営責任者(CEO)は、公の場で謝罪し、事実解明のため関係当局への協力を約束していた。
 それが米国で科される制裁金が減額される、初めの一歩となり得る。
 しかし、たとえそうだとしても、同社の法的責任は恐らく同社が対処費用として引当金を計上した73億ドルを超えるだろう。

 米大気清浄法による罰金だけでも180億ドルを上回る可能性がある。
 加えて、刑事訴訟になった場合は、和解に持ち込まなければならないだろう。

 高い汚染レベルが死を招く恐れがあるという議論はあるかもしれないが、GMの場合とは異なり、VWの排ガス不正による直接的な死亡事例はない。
 しかし、大気清浄法に定められている罰金の大きさを考えれば、VWはGMよりも、さらにはトヨタよりも多額の罰金を支払わねばならなくなるだろう。

 VWはまた、民事訴訟に備える必要がある。対象車の所有者は賠償を求める訴訟を起こすだろう。
 VWの株主も同社株価の下落に黙ってはいない。

 不正が公表されたタイミングも悪かった。
 米司法省は、企業が協力姿勢を示すには違反者を特定しなければならないと明言したばかりだった。
 さらに近年、罰金額は上昇し続けている。
 つまり、記録的な罰金が科される恐れと、個人が実刑判決を受けるという異例の事態の両方が起きる可能性がある。

 その是非はさておき、もしそうなれば外国企業への不公平な扱いに対する非難の声が上がるだろう。
 法的記録を鑑みれば、米司法当局者は米国企業の事例ももう少し作っておく必要があるかもしれない。

Reynolds Holding
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



ニューズウイーク 2015年10月2日(金)17時00分 コール・スタングラー
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/10/vw.php

VWだけじゃない、排ガス不正

 フォルクスワーゲン(VW)に何年もだまされ続けてきた規制当局が反撃に出た。
 同社が09年から15年まで排ガス検査を組織的にごまかしてきたことを認めると、米環境保護局(EPA)は先週、車両検査の強化を宣言。
 今後はVWが使用していたような、検査時だけ有害物質の排出量を減らす不正ソフトウエア「ディフィート・デバイス(無効化装置)」の摘発にもっと力を入れるという。

 環境保護団体シエラクラブの政策アナリスト、ジェシー・プレンティスダンはこの動きを歓迎する一方、長期的な対策として「検査の在り方を刷新する必要がある」と指摘する。

 現在は自動車メーカーが自社で検査を行い、結果を当局に報告する形になっている。
 EPAは車両の抜き打ち検査を実施しているが、そのための人員や予算は心もとない。

■クライスラーもGMも現代も

 消費者団体の自動車安全センターのダン・ベッカーは、検査をメーカー任せにせず、実施主体を当局の監督下にある研究機関に移さない限り、排ガス基準を守らせることはできないと主張する。
 「今の体制は、キツネに鶏小屋の管理を任せているようなものだ。
 絶対にうまくいかない」

 この種の違反は1970年にEPAが創設され、大気浄化法の下で自動車の排ガス規制が導入された当初からあった。
 VWは73年、2万5000台の車両に規制逃れの機能をひそかに搭載したことを認めている。

 翌年には、クライスラー(現フィアット・クライスラー・オートモービルズ)がラジエーターに同様の機能を搭載していたことが発覚。
 80万台以上のリコールに追い込まれた。

 90年代に入ると、大きなスキャンダルが相次いだ。
 ゼネラル・モーターズ(GM)は95年、エアコン使用時に一酸化炭素の排出量を規制値の3倍近くにするコンピューターチップを50万台近くのキャデラックに搭載していたことを認め、4500万ドルの制裁金支払いで米司法省、EPAと和解した。

 98年には、建設機械大手キャタピラーなど3社が、トラックに同様の機能を搭載したとして10億ドルの支払いを受け入れた。

 最近では昨年11月、韓国の現代・起亜自動車が120万台の燃費性能を誇張していたことを認め、3億ドルを支払うことで司法省、EPAと和解した。

■改革を阻む共和党の壁

 シエラクラブのプレンティスダンは、抜き打ち検査の回数を増やすだけでも抑止効果が期待できると語る。
 実際、EPA交通・大気汚染管理局のクリス・グランドラー局長はAP通信に対し、近いうちにそうする可能性もあると語った。

 ただし、グランドラーは排ガス検査の具体的な強化策については明言を避けた。
 「彼ら(自動車メーカー)にそれを知らせる必要はない。
 車両検査の時間と走行距離を少し伸ばすことだけ理解してくれればいい」

 自動車安全センターのベッカーは、監視の強化は好ましい変化だが、規制当局は検査データをメーカーに依存する現状からの脱却をさらに進める必要があると指摘する。
 「自動車業界が信頼できないことは過去の実績が物語っている。
 メーカーが『うちの車は基準に適合しています。
 すべて問題なしです』と言っても、EPAは信じてはいけない。
 当局は検査体制を改善し、メーカー側の数値に依存しないようにすべきだ」

 規制当局が内部で検査を実施するか、それとも当局の監督下で独立した研究機関に検査を任せるべきか、改革案の詳細はベッカーにも分からない。
 いずれにせよ、メーカーを検査に関与させないことが重要だという。
 その場合、検査コストの一部は形式的に納税者の負担になるが、最終的に大半の費用をメーカーに負担させる仕組みが必要だと、ベッカーは言う。

 こうした案には産業界寄りの米共和党が反対する可能性が高い。
 これまでもEPAは、米議会の共和党から目の敵にされてきた。
 10年に比べ、予算は20%(約20億ドル)削減された。
 今月も、共和党の下院議員20人がジーナ・マッカーシー長官の弾劾を提案している。

 環境団体の天然資源保護協議会(NRDC)のルーク・トナチェルは、こうした共和党の行動がEPAの足を引っ張っていると主張する。
 「EPAの予算や人員が削減され続ければ、ごまかしを行うメーカーの摘発はますます困難になる」

[2015年10月 6日号掲載]








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